子供ってのは恐ろしい生き物だ。無邪気な顔をして、まるでモンスターのようだ・・・
夕食の時間、ゆりはしみじみそう思っていた。アナスターシャもシスもラギも、にこやかにご飯を食べている。
アナスターシャは今日の授業の事をいろいろ話していた。シスは時々笑いながらそれを聞いていたし、
ラギはゆりを見てニコニコ笑っていた。ゆりの気がちょっと金ぴかになっているのを見て喜んでいるのだ。
くそー・・・金ぴかって・・・どっかの大仏じゃあるまいに・・・・
いっそのこと金メッキを肌に塗りたくってしまいたい・・・
「どうしたの？母様渋い顔して」
シスがゆりを見て聞いた。
「ん。別に」
「母様。もう少ししたら私結界の外に連れて行ってもらえるって。ようやく出れるのよ！」
アナスターシャがうれしそうに言った。
「そうよかったね」
ゆりはにこやかに言った。
あーあ、まさかあんな事になっちゃうなんてなあ・・・
ゆりはため息をつきつつ、大きなパンを口に入れた。
第12話
ハザークが寝室に消えてしまった後、しばらくぼんやり突っ立っていたゆりだったが、この際話し合いでなんとか解決
しよう、そう思い寝室の扉を開けた。
ハザーク様って、本当に私が好きなのかどうかいまいちよくわからないしな・・・・
別にそれほど抱きたいわけじゃないと思うけど・・・
蛇の一族というのは基本的に、普段は性欲がそんなにはない。相手の女が欲しくてしょうがないという状況にはあまり
ならないだろうし、ゆり自身裸でミカエルらとくっついていても強引にやられたってことはない。
それはゆりの魅力が実はそんなにないからなのか何なのかは不明だが。
ハザーク様ってどうなんだろう・・・あの侍女らとの関係からして謎だけど・・・
他に女の人が来てるような雰囲気じゃないしな・・・
寝室の小窓は開かれていたので中は明るかった。
あら・・・
ベッドの上にはハザークはいたことはいたのだが、布団から出ていた顔は、蛇だった。蛇に変わってるようだ。
蛇は目を閉じていた。
チャンス・・・蛇のままひっついて気をもらおう！
ゆりはそう思ってベッドに近づいて布団をめくった。顔がでかいだけあって、胴体もかなり長い。大きなベッドだが
かなりの場所を胴体が占めていた。ぐるりと三重くらいに巻かれている。
さすがでかい蛇だなあ・・・上に乗られたら、死ぬね。
ゆりはそっと蛇に抱きついてみた。感触はつるつるしていた。他の蛇と一緒だ。金色の蛇というのは他にもいるが、
これだけでかい金色の蛇は見たことはない。
・・・・蛇から気ってもらえるのかな？わかんないなあ・・・・
そう思っていると、突然感触が変わった。目の前に金色の髪の長い男が現れてゆりは
「ぎゃあ！」
と悲鳴をあげた。
「お前はどうしてそううるさい声を出すんだ」
ハザークが顔をしかめて言った。
「だって、突然ハザーク様が人に変わるから」
ゆりはからだを離して言った。
「お前らがあんまりうるさかったんで疲れて寝てしまった」
「はあ・・・あの・・・蛇のままの方がいいんですけど」
ゆりは口の両端をあげて言ってみた。
「蛇のままだと気はやれないぞ」
「えー」
「なんだ？蛇のままの我と交わりたいのか？」
「え・・・いえ・・・私そういう趣味は・・・・」
ゆりの顔が引きつった。
蛇と交わるって・・・一体どうするんだろう・・・いやそれよりも、やっぱりそっちにいくのかな。話が。
「・・・・お前は、夫以外の男と交わったら死ぬのか？そういう種族なのか？」
「え、いえ、そういうことは・・・」
「なら別に我と交わってもいいじゃないか」
「・・・・」
しまった・・・・私はなんて馬鹿なんだ。そうですって言えば免れたのに・・・
ゆりは自分で自分の馬鹿さ加減にあきれ果てた。
ハザークは片手で頭を支えて、困った様子のゆりを見ていた。
「あの・・・どうしてそう私を抱きたいんですか？」
ゆりはおずおずと聞いた。
「・・・お前に情を持ってもいいと思ったからだ。」
「情・・・」
「我ははっきり言って、お前の気がどうなろうが、どうでもいい。」
「はあ・・」
「前にお前に気をやったのは、お前があまりにひどい顔をしてたからだ。たとえば、今お前がやつれ果ててふらふらして
いたのなら、哀れに思って気くらいはやってもいいという気にはなるが、お前は元気一杯だ。別にあえてそうする
必要もないだろう？」
「それはそうです・・・」
「それでも欲しいというのなら、我にもそれなりの情が必要だ。」
「・・・」
ハザークは真面目な顔で言っていた。
確かにハザークが言うことも一理あるかもしれない、とゆりは思った。
ハザークの立場は、ラクシュミといわば同じ位置だ。他の男たちはゆりの下だし、喜んでゆりに気もくれるが、
ハザークはそういう立場にはいない。ゆりの気が金ぴかになるように協力する義理もない。気というものは生命力にも
関係している。人は気力の全てを失ったら死んでしまうのだ。それなりの情がある相手でないとやりたくないという
気持ちも、わからないではない。
「じゃあ・・今は、私のことどう思ってるんですか？」
ゆりは聞いてみた。
「普通に好意はあるぞ。でなければ情を持つ気にはなれない」
「はあ・・・」
「どうするんだ？今日は前のように強引にする気はないぞ」
「・・・・」
どうしよう・・・私はハザーク様のこと・・別に嫌いじゃないけど・・・・でも・・・・
ゆりがうーんとうなっていると、待ちくたびれたハザークはごろんと上を向いて目を閉じた。寝てしまったようだ。
「・・・・」
ゆりはそろそろと近づいて上からハザークの顔をのぞいた。
ラクシュミとは違うが、それでも目鼻立ちの整ったきれいな顔立ちをしている。
文句を言いながらも竪琴を聞いてくれるハザークに、ゆりはそれなりの好意を感じていた。
ハザーク様のことは好きだけど・・・王様を裏切ることになっちゃうしなあ・・・もしそんなことがばれたら・・・
案外何も言われないかもしれないけど・・・
でもあの時の王様なら・・・・
『黙ってればばれないって』
悪魔の声がささやいた。
そうか・・・・黙ってれば・・・でもそういうのってすぐばれそうだし・・・・どうしよう・・・
愛する人を裏切るってのも・・・・でもなんだか・・・まんざら嫌でもなくなってきた・・・かも・・
・・・どうしてこういう時に限って強引にしてくれないの。強引にされたら「強引にされちゃって」とか
言い訳ができるのに全然言い訳できないじゃん。
ゆりの意は解さずハザークは眠っている。
そうだ。このままひっついても起きないかも・・・気もらっちゃえ
ゆりはそう思い、ハザークにひっついて寝転んだ。
どきどきしていたら、ハザークが目を開けた。そして目が合った。
ゆりは気まずそうにハザークを見つめた。
「・・・・」
しばらく沈黙があった後、ハザークの手が優しくゆりの頬をなでた。
「・・・・あのう・・・」
「なんだ？」
「儀式の男たちのような関係じゃ・・・だめ？」
「だめだな」
「・・・やっぱり？」
「他の男達と同じは面白くない」
「・・・」
ハザークはからだの向きを変えてゆりの上に覆いかぶさり、口付けた。
しばらく口付けられていると、ゆりの思考も麻痺してきた。
目の前の男にもっと優しくされたいような気になってしまった。
・・・ハザーク様・・・いつの間にか服脱いでる・・・
金色の模様がなんかきれい・・・
ハザークの肌にはあちこちに、金色の線で描かれたうろこの模様なようなものがあった。
ゆりは思わず手を伸ばして胸の辺りをなでた。
「王妃、服脱いでほしいんだが・・・」
ハザークがぼそりと言った。
「・・・自分で脱ぐの？」
「脱がされるのが好きなのか？」
「・・・好きってことはないけど・・・」
ハザークは体をどけた。
「とりあえず、今日は自分で脱げ。」
「はあ」
ゆりは体を起こして、もぞもぞ服を脱いだ。このまま逃げるということはすっかり頭からない。
「ハザーク様の服も変身なの？」
「そうだ」
「飾りも？」
「ああ」
「そうなんだ・・・便利だね・・・」
全部服を脱ぐと、「うつぶせに寝転べ」とハザークが言った。
「はあ・・・」
ゆりは言われる通りにした。
ハザークがその上に乗ってきた。
そして後ろから手を回してゆりの胸に触れた。肩をなめられて思わずぞくっとした。
「あの・・・」
「なんだ？」
「普通に上向いたままの方がいいんですけど・・・」
「次は言うことを聞いてやるから、今日は我の言うことを聞け」
「はあ・・・」
え・・・次？次もあり？
ゆりがぎょっとする間にも、ハザークはゆりの左足をまげて足を広げさせて、付け根の部分に触れていた。
優しく触れられていると、体がびくりと反応した。ハザークはゆりの背中に舌を這わせて、体の中に指を入れてきた。
げ・・・わ・・・う・・
「もう大丈夫そうだな。お前はやっぱり巫女に向いてる」
「あ・・・あのう・・・やっぱり・・・」
いよいよとなると、ゆりも怖くなってきた。逃げようとしたが後ろに乗られていたし、すでに下半身に
男の体の感触を感じた。
「あ・・・ああ・・・だめだめ！」
「何がだめなんだ？」
「ぎゃあ」
ハザークはがっしりゆりの腰を捕らえて、体を挿入した。
「・・・・うう・・・」
「動くな」
ひいいい！体が入ってくる！
体の圧迫感は相当あった。
「く・・・くるしい・・・」
「苦しい？ちゃんとお前のからだは受け入れてるぞ」
なんか・・・あの時の王様思い出す・・・やだもう！
「お前のからだの中は本当に熱いな・・・」
「じゃあもう離して・・・」
ゆりがうめくように言った。
「だが感触はいいぞ。なかなか・・・柔らかいし・・・」
「・・・」
ハザークはゆりの胸を優しくなでながら、体を突き上げていた。
うう・・・なんか気持ちいいのが腹立つ・・・
ゆりは絶対声は出すものかと耐えていた。だが息は荒くなり、体はかなり反応してしまっている。
手はシーツを握り締めていた。
「・・・・王妃・・・気持ちいいか？」
ハザークが後ろから聞いてきた。
「う・・・・さあ・・・」
「さあってなんだ。」
ハザークがゆりの胸の先をぎゅっとつまんだ。
「普通です」
気持ちがいいとは口が裂けても言いたくなかったゆりはそういった。
「お前・・・体はこれだけ・・・濡れて・・・」
「わー気持ちいいです。だからもう離して！」
「しょうがないな」
ハザークはゆりの胸をぎゅっと握り、激しく体を突き上げた。
「あ・・・ああ・・・・王様！」
ゆりは絶頂をむかえた瞬間、ついラクシュミのことを思い出して言ってしまった。
体が離されて、ゆりはそのまましばらくシーツに付していた。額にはべっとり汗をかいている。
しばらくすると、思考回路が正常に戻ってきた。
・・・・なんか王様にされた気になってしまった・・・
怒ったかな・・・それよりも・・・中に出された気がする・・・・
ゆりはちらりとハザークを見上げた。ハザークはベッドの上に座っている。怒ったような表情でもなく、普通のいつもと
変わらない冷静な表情だった。
「あの・・・もしかして・・中に出しました？」
「ん？」
「子供できたらどうするんです」
「人の女にできた事はないが、できたらできたで目出度いんじゃないか？」
「目出度いって・・・」
どこが目出度いんだ。私の立場がないじゃん！
ゆりはしかめっ面でシーツに顔をうずめた。
「こい、気をやるから」
「しくしくしくしく」
「泣くほど気持ちよかったのか？」
「違うよ！」
「そうなのか？随分体は喜んでー」
「それを言わないでってば！」
「気はいらないのか？」
「いる！」
ゆりはしかめっ面のまま、ハザークに抱きついた。ハザークはゆりごと寝転んだ。
ハザークの視線は、微妙に優しくなっているような気がしないでもない。
「お前はかなり興奮するといいにおいがするな」
ハザークがゆりを抱きしめたまま言った。
・・・なんか・・・抱きしめられるのやじゃないし・・・
私もハザーク様のこと、結構好きになっちゃったかも・・・・
結局は好きだからそうなっちゃったのかな・・・別にミカエルよりハザーク様のことが好きってわけでもないんだけど・・・
「・・・王様って言って怒ってないんですか？」
「我は蛇たちからは王と呼ばれる身だ。別に気にはならないが・・・次からはそういったらもう一度抱くぞ」
「・・・・次・・・」
次って・・・次っていつ？
それは怖くて聞けないまま、ゆりはハザークの濃厚で金ぴかな気をもらい、塔を後にした。
しばらくして冷静になると、猛烈な自己嫌悪に襲われた。
夫がいるのに・・・どうしてこう私って良い男に弱いんだ。
ああ・・・・それにしても・・・やっぱり王様とハザーク様って似てる。
たいして愛撫しない所なんてそっくりだし・・・
それでも興奮してしまった私って一体・・・
夜中、ラクシュミが寝室に行くと、ゆりはベッドの上で座っていた。
こういう場合はたいてい何かあった時だとラクシュミもわかっている。
「どうした？」
ラクシュミがゆりに近づいて聞いた。
「・・・・あの・・・私・・・ハザーク様と・・・最後までしちゃった・・・」
ゆりはうなだれたまま言った。
「・・・」
「だから王様も、他の女の人とそうなってもいいよ」
「ゆり・・・」
ゆりは沈黙した。
よっぽど黙っていようかと思ったが、ずっと黙っておけるような性格でもなかった。後でばれるよりは素直に
言ってしまおうと思ったのだ。
「そうか、ハザークがとうとうその気になったのか」
ラクシュミは別段、怒るでもなく言った。
予想した反応だったが、なんだかゆりは寂しかった。自分で浮気しておいて嫉妬してくれ、なんて我がままな感情だが、
なんとも思われないというのは、寂しい。
「なんだ？怒って欲しいのか？」
ラクシュミがゆりの感情を察したように聞いてきた。
「・・・・私もう、ハザーク様には会わない・・・」
ゆりはぼそりと言った。
「それじゃハザークが悲しむだろう。私はお前のへたくそな竪琴なんて聞きたくない、ハザークに聞かせてやれ」
「・・・」
ゆりの頬にぽろりと涙がこぼれた。
「王様は・・・王様は・・・」
その続きはいえなかった。ゆりはぐすぐす泣いていた。
「何で泣くんだ？別に無理にされたわけじゃないんだろ？お前もその気になったんじゃないのか？」
「だって・・・王様がやっぱりあっさりしてるから・・・」
「私とハザークは似てる。私がかわいいと思う女を、ハザークもいずれそう思うと思ってた。」
「・・・」
「たまに遊ぶくらいはいいんじゃないのか？ただあんまりのめりこむんじゃないぞ。私が面白くないからな」
「・・・あの時の王様なら、嫉妬してくれる？」
ゆりはラクシュミを見上げて聞いた。
「相手がハザークでは何も言わないかもな。ハザークと私は一心同体のようなものだ。どちらかが欠けても、
この国は成り立たなかった」
「・・・ハザーク様、あそこで何かしてるの？」
「してるんだぞ。いろいろと。口では何も言わないが」
「そうなの・・」
「あまりのめりこむんじゃないぞ？いいな」
ラクシュミは念を押すように言った。
「うん」
ラクシュミは優しくゆりの髪をなでた。
全くなんとも思ってないわけでもないのか、ラクシュミはそのままゆりを抱きしめて抱いたのだった。
王様は気にしなくても・・・もうそうならないように気をつけなくちゃ。なるべく・・・
ラクシュミがいくら許しても、欲望のままハザークに抱かれまくるわけにもいかない。
ハザーク様って・・・私の恋人になっちゃったのかな・・・それともこれがいわゆる愛人ってやつかな。
愛人といえば、全員愛人といえないこともないけど・・・・他の男と同じは嫌だとか言ってたし・・・
他は恋人でハザーク様だけ別で愛人って方がしっくりくるなあ。
それにしても愛人ってやらしい響きだな・・・・とにかくしばらくそうならないようにしなきゃ。
この世界に来て１７年目にして、夫一人、恋人が６人もいるうえに、さらに愛人らしきものまでできてしまい、
向こうにいた時には想像もできなかった事態に一瞬気が遠くなったゆりだった。
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