６の月の20日、ラギの５回目の誕生日の日、食堂のテーブルの上には夕食時にご馳走が並べられて、豪華なケーキも
並んでいた。
「おめでとう」
「おめでとうラギ」
アナスターシャとシスが言うと、ラギは照れたように笑った。この日はラクシュミも食堂に来て座っていた。
「ラギってまだ５歳なんだね・・・」
ゆりはしみじみと言った。なんだかもう２０年は一緒にいる気分だ。
「そうだよー僕まだ５歳だよ」
ラギはにこにこだった。今年でアナスターシャは１１歳シスは７歳、ラギは５歳だ。
それにしてはまだ５歳だなんてね・・・なんでこんな子供になっちゃったんだ・・・
ラギはゆりが時々ぎょっとするような事を言い出して困りものだ。ラギはどうしてもゆりに王妃様らしいすごい気になって
ほしいらしい。一体どれだけ気をもらえば王妃様らしくなるのか、ゆりには見当もつかない。
もう二度とハザーク様のところには行かせないようにしなきゃ。
「母さん。ケーキ切って」
「はいはい」
ラギに言われてゆりはケーキをカットした。ケーキはゆりが手伝って作ったものだった。
この国では、あまり誕生日お祝いに贈り物をする習慣はない。子供たちは必要なものはいつでも買ってもらえるから
あえて欲しい物もないのだが、せめてもの贈り物だった。
ケーキをみんなにわけてあげると、子供たちはおいしいおいしいと言って食べだした。異界風料理は不評だが、
ゆりが作るお菓子などはわりかし好評だ。
「王様もいる？」
「いやいい」
ラクシュミはあまり甘い物が好きではない。一応聞いたがやはりいらなかったようなので、ゆりは自分の分をとって
食べた。
「私はそろそろ行く。ではな」
そう言ってラクシュミは消えた。
「王様少しでも来てくれてよかったね」
ゆりが言うと、ラギはうんとうなずいた。
「ミルキダス様がいらしてますが」
侍女の言葉に、ラギの目が輝いた。
「入ってもらってー」
「はい」
侍女は食堂にミルキダスを招きいれた。
「すいません。こんな時間に、王子にお祝いが言いたくて」
ミルキダスが照れたように言った。ラギはミルキダスに走り寄って抱きついた。
「王子、おめでとうございます」
「ありがとう」
ゆりも、他の子供たちも微笑ましく見つめていた。儀式の他の男たちは昨日から現れてそれぞれラギにお祝いを言って
くれた。ミルキダスだけこなかったので、ラギはちょっと気にしていたのだった。ラギは男たちの中では、バラクを教えて
くれたミルキダスを一番気に入っている。
「ミルキダス、一緒にケーキ食べない？」
ゆりが言った。
「え・・それは・・・」
「一緒に食べようよ」
ラギはミルキダスの手を引っ張った。
「それで後でバラクしようよ。ね。ね」
「今日はお祝いだからラギに逆らっちゃだめだよー」
シスが笑って言った。
「はあ」
「いいでしょ。ゆっくりしていって」
ゆりが言い、
「ではお言葉に甘えて」
とミルキダスも椅子に座った。
「私はバラクよりもトランプのほうがいいなー」
アナスターシャが言った。一応教えてもらったが難しかったようだ。
ラギはミルキダスの横に座って一緒にケーキを食べて、その後バラクで遊んでもらった。
ラギにとっては、何よりの誕生日祝いになったようだ。
ゆりと他の二人の子供はそれをじっと眺めていたが、わけがわからなかったので横でトランプの７並べをして
遊んだのだった。
第１３話
真夜中、人々が寝静まった時刻だったが、ラクシュミはハザークの部屋で酒を飲んでいた。テーブルの上には
ランプの灯りがひとつだけ灯されている。
「ラギが今日５歳になった」
ラクシュミはランプの灯りを見ながらぼそりと言った。
「そうか」
「この間産まれたばかりだと思ったのに、随分早いものだ」
「・・・それは我が言いたい言葉だ。お前がいつの間にやら100を超えているんだからな・・・」
「・・・そうだな」
ラクシュミは今年102歳になる。大人になると誕生日祝いというものは毎年やらない。10年ごとの節目や、100や150の
時に祝うくらいだ。ラクシュミが100歳になった２年前には、国を挙げてのお祝いがあった。
「そうだな・・・いつの間にやらだな・・・」
ラクシュミは杯を飲み干して、新たに酒を注いだ。
「王妃をこの前抱いたぞ」
ハザークがラクシュミを見つめて言った。
「ゆりに聞いた」
「・・・お前がだめだといえば、もう何もしない」
「・・・」
ラクシュミは瞬いた。
「交わりの月以外なら別に何も言わないぞ。昼間ならな・・・」
「・・・」
ハザークは杯に視線を落とした。
「お前は王妃の事が結構好きなんだろ？」
「まあ、結構好きだぞ」
「ならだめだといえばいいのに、なぜ言わないんだ？」
「・・・それは、私がお前の事も好きだからだ」
「・・・・」
「まあ、次に子供ができて、お前が気をやってくれると助かるしな」
「・・・・あの王妃も変わってるが、お前も変わってるぞ」
「そうか？」
「ああ。我を敬ってると言った王はいたが、好きだと言った王はお前だけだ」
「それは長生きした甲斐があったな」
ラクシュミは少し笑って言った。
「・・・私が王になった夜、もし滅びてもお前のせいではないと言ったの覚えてるか？」
「忘れたな」
ハザークはあっさり言った。こっちはかなり気にしていたのに気楽なものだとラクシュミは少々呆れた。
「本当に滅びると思っていたか？」
「・・・思ってたな。別に滅びてもいいとも思っていたが、お前はかわいそうだったな。まだ大人にもなっていなかった
からな」
「あのころは毎晩気分が悪かった。お前がここにいてくれたのが心の支えだった」
「そうなのか？なんでだ？」
「・・・・さあな・・・」
「まあ、よくもちこたえたもんだな・・」
ハザークはしみじみと言って酒を飲んだ。
血族が誰もいない孤独。産まれた時から王になるべく定められ、その道を違えることは
できなかった自分にとっては、ハザークの存在がどれほどありがたいものだったか。
この気持ちは、自分にしか分からないだろう。
７の月に入り、アナスターシャとシスは初めて一族の子供たちが通う学校に連れて行ってもらった。
二人は初めて一杯子供を見て驚いたようで、子供たちも初めて王女様と王子様を見て大興奮したようだった。
シスを見て、王女様が二人いる、と思った子供もいたようだ。
「ヴィンセントが王女はすごくかわいかったって言ってましたよ」
その数日後、ヴィラがゆりに言った。
二人は庭園の東屋にいた。
「でも王女よりも王子の方がかわいかったって言ってました」
ヴィラが笑って言った。
「ふふふ。シスってどっからみても女の子だもんねー。あの子らも面白かったみたいだよ。しょっちゅう連れて行って
もらったら友達もできるのにね」
「そうですね・・王族というのは、孤独なものですから・・・でも兄弟がいらっしゃいますからね。そんなに寂しくは
ないですね」
「そうね」
王様は兄弟もいなくてひとりぽっちだった。それを考えると、子供らはかなり恵まれてはいるかもしれない。
「王女は最近では授業でもやけを起こさなくなりましたよ。あまり」
「ヴィラが怖いからじゃないの？」
ゆりが笑って言った。
「そんなことないですよ。みんなが王女に甘すぎるんです」
ゆりはふと草の上に金色の蛇がいたのでどきんとした。
ヴィラが「おや」と言った。
「王妃の蛇紋みたいな蛇だ」
「びっくりした。ハザーク様かと思った」
ゆりはどきどきして言った。
「小さすぎますよ。それに、あれは女の子ですよ」
「そうなの」
「金色の蛇はほんと貴重なんですよ。ところでハザーク様と何かあったんですか？」
「え？何かって？」
ゆりがぎょっとして言った。
「ふふ、まあいいですけどねー」
ヴィラがにやついている。
ゆりは口を尖らせた。
「別に何もないよ」
「少しは竪琴上達したんですか？たまには聴かせてくださいよ」
「えー」
「えーって、しょっちゅうハザーク様には聴いてもらってるんでしょう？」
「まあそうだけど、」
ゆりは瞬間移動で部屋に連れて行かれて、しぶしぶ竪琴を披露した。黙って聴いていたヴィラだったが
「それをハザーク様がよく聴かれますね」といやみのように言われてゆりはむっとした。
「何よ。フリットは上手になったってほめてくれたのに」
「そりゃ前よりは上手にはなってますけどね。前よりは」
「ふんだ」
「でも王妃が一生懸命弾いてると、こっちがどきどきしますよ。いつ間違えるかと思って。そういうところが
ハザーク様も面白いんですかね」
なんなんだ。そりゃ。
ヴィラは出て行き、ゆりは一人竪琴を爪弾いていた。自分的には優雅に弾いてるつもりなのだが、周りにはそう見えてない
ようだ。
まあいいや。継続は力なりだし。
竪琴の練習をしていたらミラが入ってきた。手には小さな小包のような箱をもっていた。
「アヤコ様からですよ」
「アヤコさんから？」
ゆりは小包を受け取って、中を開けた。
「あら？これ」
透明な袋の中に、紫色の小リンゴのようなものが８個ほど入っていた。
「あ、変身する実ですね」
ミラが手をたたいて言った。
一緒に入っていた手紙を見ると、久しぶりにこの実を見つけたから送ってあげるね、と書かれていた。
「わー、変身しましょう！」
「えーでもなあ・・・・」
さほどゆりは乗り気でもなかった。
「王は喜ばれますよ」
「そうかなあ・・・それはそうかも」
一族の女になれば、蛇紋も出るかもしれない。ちなみにアヤコの場合は、この実を食べると、外見は耳が大きくなる
くらいなのだが、大興奮すると肌に虎縞が浮かぶらしい。それぞれ身にまとっている気の一族になるのだ。この世界の
人間が食べても何もないようだ。
「じゃあ変身しちゃおうかな♪」
「はい、他の侍女らも呼んできますね」
ゆりは４人の侍女らが見守る中、変身の身を二つ食べた。
侍女らからわーと歓声があがった。耳がみるみる大きくなっている。目も少し釣りあがっていた。ゆりはスカートを
少しあげて足や腕を見た。
「あれ？今回蛇がいないなあ・・・」
「おなかか背中かもしれませんよ」
ゆりは服の間からのぞいてみたり、侍女に背中をのぞいてもらったが、今回は肌のどこにも蛇がいなかった。
「なーんだ。つまんない」
「まあいいではないですか。今回も髪の色変えますか？」
「うーん。緑っぽくしちゃおうかな。」
「じゃあ準備しますねー」
ゆりは髪と眉毛を染料で緑色に染めた。そして目元に化粧をしてもらい、髪は前と同じようにポニーテールにした。
するともう、ゆりとはまるで別人の女になっていた。
「イシュタールとおそろいね」
ゆりは鏡を見て言った。
「王様に見せてこようっと」
「行ってらっしゃいませ〜」
ゆりはルンルン気分で王の間に行った。
たまに変身するというのも気分が変わっていいものだ。
「見て見て番兵さん。変身したのー」
ゆりは扉の前にいた番兵たちに笑顔で言った。二人ともぎょっとしていたが、やがて歓声をあげた。
「王妃、すごい、かわいいですよ！」
「耳大きくなってる。すごい」
「へへーすごいでしょ。今王の間入れる？」
「いいですよ。ミカエル様しかいませんから」
「げ・・・・」
ゆりは躊躇した。ミカエルに見られたら、別室に連れ込まれるに決まってる。
「早く出て行かないかな。ミカエル。」
「ミカエル様はだめなんですか？」
「だってさあ・・・」
その時、イシュタールとシスが通りかかり、シスは首をかしげてゆりの顔を見た。ゆりがにっこり笑うと
シスは瞬いた。
「この人母様に似てるねえ」
シスがイシュタールに言った。イシュタールもじっとゆりを見ている。
「似てるんじゃなくて母さんよ」
ゆりが言うと、シスはびっくり仰天して目を見開いていた。
「ええーどうやったの？どうやって耳大きくしたの！？」
「変身する実食べたの。すごいでしょ？」
「すごいや！すごーい！」
「どう？イシュタール」
「素敵ですよ。とても」
イシュタールが微笑んでいってくれた。
するとその場にアナスターシャも来た。シスが呼んだようだ。
「えーどうしたのー！」
アナスターシャも同じようにゆりを見て目を白黒させていた。
「へへー」
ゆりはポーズをとってぐるっと回っていた。扉の前は騒がしくなっていたが、もちろん中には聞こえてはいない。
だが、中にいた番兵たちは、外の番兵に思念で聞いて、ゆりを見たくてしょうがなかった。その時アナスターシャから
ラクシュミに、「母様の耳がでかくなった」と思念がきた。
「ゆりの耳がでかくなった？」
「どうしたんですか？」
ミカエルが聞いた。
「アナスターシャがゆりの耳がでかくなったって言ってる」
「あのう・・・王・・・王妃は門の外にいらっしゃるんですが」
番兵がさっと近づいておずおずと言った。
「そうなのか？入れろ」
番兵が扉を開けると、外には人だかりができていた。みんなゆりを見てすごいすごいと言っている。
「王妃、中にどうぞ」
番兵に言われてゆりは中に入った。そしてミカエルを見るなり「まだいたの？」と言った。
「王妃、また変わったんですね。可愛いですよ。今回も」
ミカエルはめげずに笑みを浮かべて言った。
「でもね、今回は残念ながら蛇いないから、ミカエル好みじゃないよ。」
ゆりはそっけなく言ってラクシュミの側に行った。
「お前の耳がでかいと不思議だな」
ラクシュミはゆりの耳に触れて言った。触れるともう片方の耳もぴくぴく動いている。
「王、王妃の蛇紋、前と同じですか？」
ミカエルに聞かれて、ラクシュミは反射的にゆりの蛇紋を見てしまった。ラクシュミは人の肌に興奮した時に浮かぶ
蛇紋を見ようと思えば見ることができるのだ。
「・・・・ちょっと回ってみろ」
ラクシュミがいい、ゆりは回転した。
「・・・これはすごい・・・」
ラクシュミは目を細めて言った。
「え？どうすごいんです？」
とミカエル。
「え？蛇紋って、王様見えるの？」
ゆりが驚いて聞いた。
「びっくりした。今夜は早めに行くぞ」
「え・・・ほんと？」
「王妃、明日部屋に行きます」
ミカエルがすかさず言った。
「エーいいよ。こなくても」
「じゃあ今からでもいいですけど」
「いいってば」
「お前・・・これは恋人達みんなに見せてやった方がいいぞ」
ラクシュミがぎょっとするようなことを言い出した。
「何言ってるの王様！」
「そんなにすごいんですか？」
ミカエルは興味津々だった。
「すごい」
「王様ってば！」
「王妃、今から愛を確かめ合いましょう」
「やだよ！なんで王様より先にミカエルと！」
「いいじゃないですか。王とは今夜愛し合えるんですから、ねえ」
「やだ！」
「それじゃ王失礼します」
ミカエルはラクシュミにそう言って、さっとゆりを連れて行った。
「ちょっとー！」
というゆりの声だけ王の間に残された。
「相変わらず仲がいいな」
ラクシュミは微笑んで言った。
「もー信じられない！王様の前で何すんのよ！」
別室に連れて行かれたゆりはぶーぶー言っていた。
「だってーしょうがないじゃないですか。愛する女の蛇紋が見たいのは、一族の男の性（サガ）ですよ」
「何がサガよ。」
「その髪の色もかわいいですよ」
ミカエルはゆりの首をなでた。
「もー触らないで！今はあんまり触られたくない」
ゆりはからだを離して言った。
「そんなつれないこと言わないでくださいよ。」
「私瞬間移動で遊びたい！！」
「後で遊んであげますから、さっと蛇紋見せてくれたらいいんですよ。さっと」
「ぶー」
ミカエルはゆりを抱きしめた。
「あーぞぞぞとする・・・鳥肌が立つ」
一族の女は普段はあまり肌に触れられるのを好まない。今のゆりもそうだった。
「時間かければ大丈夫ですよ」
全く・・・なんでしょっぱなからミカエルとこんなことに・・・
結局ベッドの上でミカエルに念入りに愛撫されてるうちに、ゆりも気持ちよくなってきてしまった。
肌から手が離されてゆりが目を開けると、横にいたミカエルの頬を涙が流れていた。
え・・・ミカエルが泣いてる・・・・
「どうしたの？」
「これはすごい。ちょっと背中見せてください」
ミカエルはゆりの体を横にして背中を見た。
「すごい・・・」
ゆりは自分の肌を見てぎょっとした。
「え？これどうなってるの？」
肌一面にうろこの模様が見える。しかもいろんな色のうろこだった。
「蛇がぐるぐる体の回りを回ってるんですよ。ほら、胸の下に頭がある。」
ミカエルはゆりの左胸の下に触れた。
「ア、本当だ」
「蛇は体の回りを３回転してシッポはおしりにあります。」
「長い蛇だね」
蛇は消えかかっていた。興奮が薄れたら消えるのだ。
「これは、皆にも見せてあげないと」
ミカエルは真剣な表情で言っていた。
「ええーミカエルまで何言ってるの！？」
「気づかなかったんですか？蛇の色。あれは我々全員の気の色じゃないですか。あの蛇は、いわば、我々の
愛の結晶です」
「愛の結晶？」
「ちゃんと紫の部分もありましたよ。私の気。蛇紋を見てこんなに感動したのは初めてですよ」
「はあ・・・そりゃよかったね・・・」
といってる間に、部屋の中にフリットが見えてゆりはぎょっと布団をかぶった。
「すごい事ってなんだ？」
フリットがミカエルに聞いた。
「皆が来たら言う。みんなこれたらいいですね。王妃」
「よかないわよ！こんな真昼間っから皆に蛇見せるのいやよ！」
ゆりは布団の中で叫んでいた。
「王妃、皆来ましたよ」
「え・・・」
ゆりは布団から少し顔を出して外を見た。すると、６人ともいた。
「皆仕事は？」
「王妃、皆蛇見たら行きますから」
「やだー！！！」
ゆりは布団の中で丸まった。
「困ったなあ」
とミカエル。
「そんなにすごい蛇なんですか？」
ジュノーが聞いた。
「うーん・・・」
ミカエルがどうしようかと思っていたら、ゆりが布団から顔を出した。
左目は黄色と黒に変わっていた。
「アー王妃！耳大きくなってる」
ジュノーがゆりに近づいた。
「また変わったんですねえ」
「うん。かわいいでしょ」
「かわいいですよ」
ジュノーは布団ごとゆりを抱きしめた。
「王妃、蛇紋見せてください」
ヴィラが言った。
「いいよ。じゃあジュノーかわいがって。他の人はあっち向いてて。蛇出るまで」
「はーい」
ジュノーに可愛がられている内に、ゆりの肌に再び蛇が浮かんできた。
「わ、これはすごい！」
ジュノーが声をあげた。それで思わず皆振り向いた。
ジュノーはあわててゆりの下半身を布団で隠した。
「すごい・・・」
「我々の気の色だ・・・・」
所どころ金色で、赤や緑、青、紫などの色があちこちにちりばめられている。美しい配色で、まるで芸術作品の
ようだった。蛇は目を閉じていた。
「なんか・・・みんなにまじまじと見られると恥ずかしい・・・」
ゆりは思わず言った。
「まるで宝石のような蛇ですね。本当にきれいですよ」
フリットがしみじみと言った。
「・・・美しい・・・」
ヴィラが目を細めた。ミルキダスやイシュタールも同様だった。
「うつぶせになってください。王妃」
ジュノーに言われて、ゆりはうつぶせになった。
男たちはゆりの裸体を見てむらむらとくることもなく、肌にある蛇にただ感動していた。自分の気がそのまま
肌の蛇に現れているのだから、男たちにすれば、まさに愛の結晶の蛇だった。
愛しさがこみ上げてくるのもしょうがない。
やがて蛇は薄くなって消えた。男達は夢から覚めたような表情をした。
「とてもよいものがみれました。ありがとうございます。王妃」
フリットが言った。
「うん」
「それでは」
男たちは姿を消した。ジュノーも、ゆりの額にキスをして消えた。
布団の中で丸まっていたゆりは、もぞもぞと顔を出した。ゆりの目は黒目に戻っていた。
「もう皆行きましたよ。王妃」
ベッドに座っていたミカエルが言った。
「なんか悪かったかな・・・」
こちらのゆりには男たちに蛇を見せた記憶はない。
「まあ、みんなわかってくれました」
「はあ」
「それよりも、瞬間移動で遊ばないんですか？」
「遊ぶ！」
ゆりはその後ミカエルに瞬間移動で遊んでもらった。
夕方ゆりを見たラギはびっくり仰天だった。何度もゆりの回りをぐるぐる回っている。
「すごーい。すごーい。」
「すごいでしょ」
「ねえ、実の何の成分でそうなったの？」
「さあ」
そんな事ゆりに説明できるわけもなかった。
その夜、ラクシュミは実際にゆりの肌に浮かんだ蛇をなでて、すごいすごいと何度も言っていた。
「本当にすごいな。このまま肌を切り取って額に飾りたいくらいだ」
「え・・・・怖い事言わないで」
「それほどきれいだぞ。お前の蛇紋はいつも面白いな」
ラクシュミはゆりに口付けた。蛇紋を見ると、ラクシュミの興奮度も高い。
いつもよりもゆりの肌に触れている。
「ハザークにも見せてやれ」
「ええええ！」
「こっちの金色は私だが、こっちの金色はハザークのだぞ」
ラクシュミがゆりの肌に触れて言った。
「これを見たら、ハザークはお前をもっと好きになるぞ。」
「いいよ。ならなくて。」
「なんでだ。恋人なんだろ？」
「そ、そーだけど・・・」
「お前が見せないと話ができないではないか」
「・・・王様、何話の種にしようとしてるの」
ゆりが引きつって言った。
「これほど感動するものはないぞ。ハザークも絶対こんな蛇紋は見たことないぞ。それを確かめたい」
「あのね・・・」
「本当に感動した。この感動をハザークと分かち合いたい」
「分かち合わなくていいですから」
ゆりは涙目で言った。
全く・・・何考えてるのこの王様は・・・
次の日、ゆりは紫の実を食べようか食べまいか迷ったが、結局食べる事にした。瞬間移動で遊ぶのは面白くて
しょうがない。朝食の時間、だれか遊んでよ、というと、シスが午前中遊んでくれる事になった。
ゆりは庭園の広い場所で、シスと瞬間移動で遊んだ。
「母様下手くそー」
ゆりがなかなか言う場所に来ないので、シスにもとうとう言われてしまったが。
「いいの下手でも。」
「母様捕まえてみてー」
シスが小刻みに瞬間移動している。
「待てー」
ゆりはそれを追いかけた。だが、中々つかまらない。速さも正確さもシスの方が上だ。
「あら、王妃様？」
優しげな声を聞いてゆりは顔を向けた。見ると、ハザークの侍女が二人いた。
「あ・・・侍女さん・・・こんにちは」
ゆりはちょっと引きつった顔で言った。まさかこんな所で会うとは。
「その姿どうなされたのです？」
侍女たちは近づいてきてしげしげとゆりを見た。
「母様変身する実を食べたんですよー」
シスが笑顔で言った。
「そういえば、前にも変身されてましたねえ」
侍女の一人が思い出したように言った。
「素敵。ハザーク様にも是非お会いになってくださいませ」
「やっぱりそうきますか・・・」
「じゃあ僕そろそろ行くねー」
といって、シスは消えてしまった。
「では早速今から」
「ああー」
ゆりは二人の侍女に強制瞬間移動で連れて行かれてしまった。
ハザークはゆりを見て目を真ん丸くした。
「こんにちは。ハザーク様」
ゆりはちょっと目をそらせて言った。ハザークとひっついてから、今日初めて顔をあわせたのだった。
あれから１５日ほど経っている。ゆりとしてはまだ恥ずかしい。
「どうやって変わったんだ？」
ハザークが体を起こして聞いた。
「魔法の実を食べたんですよ。前にも変わったでしょ」
「・・・そうだっけか。忘れた。こっちにこい」
「・・・・」
「それではごゆっくり」といって、侍女らはささっといなくなった。
「何考えてるんだ。侍女さんたちは・・・」
「ついでに足も長くなればいいのにな」
ハザークがぼそりといい、ゆりがにらんだ。
「そういう事言うならもう行きます」
「そういわずに来い」
「・・・」
ゆりはしぶしぶハザークの横に座った。ハザークは不思議そうにゆりの耳をつまんだ。
「髪の色も変わったのか？」
「これは染めたんですよ」
「そうなのか。別の女みたいだな。」
ハザークはゆりの髪を手にとって見ていた。
「・・・」
うーん。この前のこと思い出して恥ずかしいな・・・
「王妃・・・今のお前を抱いてみたいな」
「だめです」
ゆりは真っ赤な顔で言った。
「なんでだ？」
「なんででも。今日はただ会いにきただけです」
「せっかくだから今のお前も味わいたいな。蛇紋も出るのか？」
「・・・でません」
「なんだ。つまらないな」
ハザークはゆりの髪から手を離した。
「・・・ハザーク様って、王様みたいに蛇紋見れないんですか？」
「我は肌に浮いている蛇なら見れるが、今出てない物は見れない」
「そうなんですか」
「・・・本当に蛇紋出ないのか？」
「・・・もし、何色かあてたら見せてもいいですよ」
ゆりはちょっといたずら心が出てきてしまい、そういった。
どうせあたるはずはない。そう思ったのだ。
「・・・・」
ハザークはゆりの顔をじっと見た。
「金・・・赤、青、紫、緑・・・これってどういう蛇なんだ？」
ハザークは最後には疑問系だった。ゆりの顔が引きつった。
「もしかして王様に聞いたでしょ」
「聞いた」
「ひどい！反則！」
ゆりは立ち上がった。
「王に聞くなとは言わなかったろ」
「だめです！さよなら」
ゆりはすたすた歩いて行った。ハザークがその手を捕らえて、ゆりを後ろから抱きしめた。
「王妃、どうしても見たい。一体どういう蛇なんだ？」
「知りません」
「なんでやなんだ？この前は嫌がってなかったのに」
「今日はやなの」
「・・・」
「もーハザーク様離して」
ハザークがゆりの体から手を離した。
「お前は冷たい。我から気をもらうだけが目当てで抱かれたのか？」
「え・・・別にそういうわけじゃ・・・」
「ならいいじゃないか。蛇見せるくらい」
「・・・抱かないのなら見せてもいいです」
「抱かないなら？」
「まあ、触るだけなら・・」
「・・・いいぞ。それでも」
ハザークはゆりの腕を取って移動した。
まったく・・・なんで一族の男って蛇紋に目がないんだ・・・・
「体温も前と変わってるな。今ならからだの中も熱くないのに」
ハザークがゆりの頬に触れて言った。
「今日抱いたらもうここにはこないですからね」
「わかったわかった。こい」
「・・・・」
ゆりはベッドの上でハザークに寄り添った。
「今日は脱がせた方がいいのか？」
「うん・・・」
ハザークはゆりの服を脱がして、肌に触れた。
ううーぞぞぞとする・・・・
口付けられて、ゆりは近くでハザークの瞳を見た。
金色の瞳が、少し揺らめいていた。
・・・・あれ・・・ちょっとこの前と違うかな。
前の時はいつでも冷静な瞳だった。自分に本当に好意があるのかと疑うほど。
だが、今の瞳には、なんらかの感情が見える。
あれからハザークのほうには少なからず心境の変化があったようだ。それがわかったので、ゆりはちょっと安心した。
何度も口付けられて肌に触れられているうちに、ゆりの肌にぐるぐると蛇が浮かんできた。
「！！！」
ハザークはその蛇を見てぎょっとした。
「・・・・これは・・・」
ハザークはゆりの体をうつぶせにした。そしてもう一度上に向かせた。
「何でこんな蛇になってるんだ？」
「さあ・・・皆からもらった気の色だって」
「・・・」
ハザークはその蛇をなでた。
「美しい・・・こんな蛇が実際にいたら、交わってみたいくらいだ・・・」
「はあ・・・」
「感動した。すごく。お前は見かけはそうでもないのになんで蛇紋はこんなに美しいんだ？」
ゆりは真顔で聞かれてちょっと傷ついた。
その数日後、ラクシュミはハザークと酒を飲みながら、本当にゆりの蛇紋について話をしていた。
「びっくりした。あんなすごいのは初めてみた」
ハザークが言った。
「そうだろ？そうだと思った。感動しただろ？」
とラクシュミ。
「感動した。肌を切り取って飾りたかったくらいだ」
「そうだろ？ゆりの蛇紋はいつもきれいなんだぞ。子供ができたら金色の蛇が出るんだぞ。それもかわいいんだぞ」
「そうなのか？それは楽しみだな・・・」
もちろん、ゆりは二人がそんな話をしているとは全く知らなかった。
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