「王妃、あれからたまーに女神様の夢を見るんですよー」

年が明けて１の月の終わり、別室でゆりを抱きしめていたヴィラは夢を見るような瞳で言った。

「あ、そうよかったね」

ゆりはそっけなく言った。別室の方のベッドの上に座ってはいたが、どちらも服はちゃんと着たままだ。

ヴィラは珍しく甘い表情をしていたが、ゆりは冷静な顔で、唇をちょっと尖らせている。

「本当に綺麗で、外見は王妃とは似ても似つかないんですけどねーなんだか王妃も愛しくって・・・」

ヴィラはゆりの頭をなでなでした。

「・・・・」

ゆりはこぶしを握り締めていた。一発殴ってやろうかと思ったが、ぐっとこらえた。

「本当に王妃は面白い人ですね。女神様まで降ろしちゃうなんて。また降ろしてください」

「やだ！」

ゆりはヴィラの耳元ででかい声で言った。

「もう女神様はこりごりだよ」

「なんでです。王もかなり王妃にご執心でうれしかったでしょ？」

「王様極端なんだもん。それに皆なんだかわがままだし。その中にはもちろんヴィラも入ってるけど」

ゆりはヴィラを睨んで言った。

「私がいつわがままなんて言いました？」

「強引にこっち連れてきたじゃん。もう私しばらく男とくっつきたくないんだから」

「まあいいじゃないですか。裸にもしてないんだし」

「交わりの月まではゆっくり休みたい」

「休んでください。ゆっくりと」

といいつつもヴィラはゆりを抱きしめていた。


なんだか毎日みんなに抱きつかれていたせいか、かなり王妃様らしい気になったかも・・・・

ラギは最近満足げだし。

「今年は子供ができる気がする」

ゆりが言うとヴィラが微笑んだ。

「がんばってくださいね。私も早く儀式したいですよ」

「ちっそれがあったか・・・」

ゆりは唇を尖らせた。

「王妃様がちっなんて言ったらだめですよ。それでなくても姫君が変な言葉覚えてるんですから」

「あーあ。儀式しないで蛇一杯入れる方法ないかなあ・・・」

ゆりはため息交じりに言った。

「いいじゃないですか。たまの儀式くらい。そんなにやでもないくせに」

ヴィラに言われてゆりが横目でにらんだ。ヴィラは不敵な顔で微笑んでいる。

確かに、死ぬほどいやってことはない。

性的な興奮だけではなく、お互いに、愛情を感じあってる感じもあって、そこらはいいのだが・・・・

子供が３人もいるのにいつまでもあんなことしてていいのかな。という気にはなっている。

子供らは恋人が一杯いる母さんになんら疑問も抱いてはいないけれど、

向こうの世界でなら「不潔！」とか言われて即効で軽蔑されるに違いない。


まあ向こうではこんな儀式なんてないけれどね・・・


あーあ、巫女レベルが最高にまであがったら、儀式なしでも蛇が呼べるようになったりしないかな。

今がどの程度のレベルなのか不明だけど。


ゆりは軽くため息をついたのだった。

第17話

今年は赤い月は３の月の５日からだった。初日の夜はさすがにゆりもどきどきしてラクシュミに会ったのだが、その夜は

ラクシュミは変化してゆりを抱いたものの、そんなには抱かれなかったので、ちょっと拍子抜けした。


うーん。昨年がんばりすぎたからかな？だからそんなに性欲ないのかも。

まあいいや。いつもと同じようにすっごく可愛がってくれたし・・・


普段と赤い月とでは、抱き方はかなり違う。普段はラクシュミは、ゆりの肌に触れるだけであまり肌に口付けたりはしないが

この時はいっぱい肌のあちこちに口付けもするし、一杯なでてくれる。


「今年は、昼間もお前とここにいるからな」

ラクシュミが言った。

「え？子供たちは？」

「今年はもう子供らは子供らでまかせた。」

「ええ？大丈夫なの？」

「まあ、いいだろう。たまには・・・今年は、お前と子作りに励むことにした。朝も昼も晩も」

「朝も昼も晩も？」

「久しぶりだからうれしいだろ？」

「う・・・うん。うれしい（かも）・・・もしかして、そのために今日はおさえたとか？」

「そうだぞ。だから早く寝ろ。明日は早いぞ」

「うん・・・」

うれしい・・・けど・・・もしかして10日ここにこもりきり？

大丈夫かな。私・・・



朝起きるとさっそく抱かれて、昨晩の言葉通り、ラクシュミは子供らの元に行こうとはしなかった。

「ねえ、王様いなかったら、さぼるかもよ。子供ら」

ゆりは部屋に運んでもらった朝食を食べながら言った。

「大丈夫だ。監視をちゃんと頼んだから」

「監視？」

そのころ子供らは３人とも王の間の横にある広間にいた。部屋の真ん中にはじゅうたんがひかれて、３人は靴を脱いで

その上に座っている。アナスターシャの焦げた前髪は、すっかり元に戻っていた。

「ねーせっかく父様いないんだから遊ぼうよう」

言い出したのはアナスターシャだった。

「だめだよー。怒られるよ」

とシス。

「もー結界つくり続けるだけでつまんないし・・・」

この広間全体に結界が作られていた。アナスターシャとシスの共同結界である。

「そんなに暇なら僕が古代語教えてあげるよ」

二人の前にいたラギが言った。アナスターシャがあからさまに嫌な顔をした。古代語のレベルははっきり言って

ラギのほうが上だ。いつの間にやらとっくに抜かれてしまっている。

「ラギは今回外行かないの？」

アナスターシャが不思議そうに聞いた。

「うん、僕王様に頼まれた。ねーがちゃんと結界つくり続けられるように見てろって言われた」

「え・・・・・なんで私だけ・・・」

シスは真面目な性格なのであまりさぼったりしないとラクシュミもよくわかっている。

「ちゃんと真面目にしたら真面目だったよって言ってあげるからね」

ラギがにこにこして言った。王様に頼まれたというのがうれしかったようだ。

「・・・・つまんなーい」

「そうだ、しりとりしようよ。古代語で」

シスが言い出した。

「そうしようそうしよう。」

「あーつまんなない」

アナスターシャはぶつぶつ言いながらしりとりに加わった。

ラクシュミとのラブラブな日々は楽しかったゆりだったが、３日ほど経つと、もう夜だけでいいかもという気分になって

きた。

「王様、そろそろ昼間は子供らとも過ごそうよ。」

「ん？どうしてだ？」

「せっかくだから家族団らんしようよ。なんだか・・・私もう年なのか、一日ラブラブは大変です」

「お前この前大人になったばっかりじゃないか。何情けないこと言ってるんだ」

「そう言われても・・・王様も普段あまり子供らといれないんだから、昼間は子供らといた方がいいよ。」

「・・・」

ラクシュミはじいっとゆりを見つめていた。

「お前・・・私に対する愛情が薄れてるんじゃないのか？」

「え？そんなことないよ。日々増してるくらいよ」

ゆりはあわてて言った。

「昔はそんなんじゃなかったぞ。」

「そこはあれよ。３人子供を産んで私も大人になったってことよ。」

「・・・」

「本当よー。王様のことは変わらず愛してる」

「ならいいけどな・・・」

「夜はちゃんと一緒よ。それだけは・・・」

「ああ」

こうして４日目からは昼間は子供らとも過ごすことになった。じゅうたんの上に寝そべっていたアナスターシャは

ラクシュミを見るなり正座した。

「ちゃんと真面目にやってたか？」

ラクシュミがラギに聞いた。

「昨日逃げようとした所をシスにーが捕まえました」

ラギがラクシュミに言い、アナスターシャがげっという表情をした。

「あっひどーい！」

「でもほとんど真面目でした」

ラギはフォローするように言った。

「そうか。今日からは昼間はここにいるからな」

「父様、結界飽きちゃった・・・」

アナスターシャがちょっと恨めしげに言った。

「それにこの二人ったら、何かっつうと古代語ではなそうとするのよ。私に対する嫌がらせよ」

「違うよー僕らは姉様の事思ってやってるんだよ。しょっちゅう使ってたら覚えるの早いよ。きっと」

とシス。

「そうだよー。ねーのためだよー」

「がんばれーアナスターシャ」

ゆりは声援を送った。

「母様も一緒に覚えようよー」

「無理。私こっちの字読むのもしんどいくらいだから」

「ずるいー」

「つぺこべ言わずにやれ、結界が変になってるぞ」

「ありゃー」

ラクシュミに指摘されて、アナスターシャは結界の修正をした。

「じゃあ今日も古代語のかるたやろー」

ラギが厚紙のようなものを一杯ばらまいた。紙にはわけのわからん文字が書かれている。

「せっかくだから父様読んでください」

シスがラクシュミに違う札を渡した。ゆりが横からのぞくと、そこにはゆりでもわかる文字が書かれている。

「王様私にやらせて」

「ああ」

ゆりは札を受け取って、コホンと咳払いをした。

「えーっと・・・世界。世界はひとつの世界」

「えーとえーと・・・」

アナスターシャは上を向いて考えていた。ラギとシスの二人はそんなアナスターシャをじっと見ている。

「ラギ、取らないの？」

ゆりが聞いた。

「ねーにもハンデあげないと。ねー最初の文字はザだよ」

「ザ？ザルゥ。ザグハ。ザメルバ。ザ・・・」

「ザデュ・・・・」

シスが横でこっそり言った。どうやらラギもシスもすっかりわかってるようだ。

「わかった。ザデュルグル！」

とアナスターシャが言ったところで、ラギがカードを取った。

「あーせっかくわかったのにー！」

「母さん次ー」

「はいはい、次は・・・簡単だよ。蛇！」

「はーい！とっちゃだめ！絶対私とるんだから！」

アナスターシャが二人にいいつつ、自分で札を取った。

こうして赤い月の間は、穏やかな時が過ぎていき、終わった次の朝、ゆりは久しぶりに自分の部屋に戻ってきた。

部屋に入ると蛇のルーが近寄ってきて、ゆりはルーを抱き上げた。

「お久しぶりです」

二人の侍女がゆりに微笑んだ。一人はミラだ。

「二人とも楽しんだ？」

ゆりが聞くと、二人はちょっとはずかしそうだった。

「まあそれなりに、それよりも王妃様はいかがでしたか？」

「楽しかったよ。しばらくゆっくり休もうっと♪」

ゆりは大あくびをした。最後の夜はそれなりに盛り上がり、やっぱり泣いてしまった。昨晩は寝てない。

「はい、ゆっくり休まれてください」

「うん。それじゃあねー」

ゆりはルーを連れて寝室に行き、ぐっすり眠った。昼食の時間にも起きることはなく、起きたころには夕方だった。

部屋の中が暗くなってきている。

アーよく寝た。


ゆりはからだを起こそうとしたが、なんだか体がすごく重くておこしきれなかった。

ん？どうしたのかな？頭もなんだか重いな・・・


「・・・・だれかあ・・・」

ゆりは声を出して呼んでみた。部屋と寝室はカーテンのような布で区切られているだけなので、だれかいれば声は

聞こえるはずだ。

「誰かいない？」

すると侍女がやってきた。

「どうされました？」

「・・・なんだか気が欲しいかも。誰か男呼んできて、何人か」

「はい！」

侍女は出て行った。

「できたかな。もしかして・・・」

この感じは、シスができた時に似てるような気がする。

「そうだといいな」

一人にんまりしているとミカエルがやってきた。

「王妃！できたんですか？！」

「わかんないけどそうかも」

ミカエルはゆりを抱きしめた。

「よかったですねー」

最初笑顔だったミカエルは、やがて青い顔になりゆりを離した。

「え？もう無理？」

「無理です。」

ミカエルはベッドの下に腰を下ろした。フリットやジュノー、ミルキダスらもやってきて、ゆりは次々と気をもらった。

「うーん。まだまだ欲しいなあ・・・」

イシュタールやヴィラもやってきて気をもらったのだが、ゆりはだるいままだった。

「どうしたんでしょうかねえ、前の時は、これで足りたのに・・・」

フリットがだるそうに言った。

男たちはみなベッドの下に座り込んでいた。

「しょうがない。王様に言ってハザーク様呼んでもらって」

「わかりました」

フリットが思念を飛ばして、やがてハザークと医師のフレイもやってきた。

「ハザーク様、気ください」

「ああ」

ハザークはゆりの額に触れて、気を注いだ。すると、ゆりはだいぶ体が楽になってきた。

「ありがとう。だいぶ楽になりました・・・」

「そうか。ではな」

ハザークはゆりの額をなでて姿を消した。

ゆりはようやく体を起こした。

「あーびっくりした・・・」

ゆりはなにやら男達の視線を感じた。

「ん？何みんな？」

「王妃、いつの間にやら、ハザーク様といい仲になりましたね？」

ジュノーがゆりを見つめて言った。

「え・・・」

ゆりはぎくりとした。どうやらハザークの様子に何かを察したようだ。

「やっぱり・・・」

とヴィラ。

ミルキダスだけはゆりを見ていなかった。ちょっと気まずそうにしている。あの時からだとぴんときたらしい。

正確にはあの時からではなかったが、まあ今となれば似たようなものだ。

「ハザーク様がその気になったとは・・・さすが我らの王妃ですよ。」

ジュノーは感心するように言った。

「いつからなんですか？ひどいな内緒にするなんて」

とミカエル。

「え・・そんなこと言われても・・・」

ゆりが真っ赤な顔をしていると、

「あの・・・今はそれどころではないんですが・・・・」

一人立っていたフレイが言った。

「気の欲しがりようがちょっと異常のような気がします。もしかしたら、おなかの御子様はお一人ではないかもしれ

ませんよ」

「え・・・それって・・・双子とか３つ子とか４つ子とか５つ子ってこと？」

ゆりがびっくりして聞いた。

「え・・・５つ子はびっくりですが・・・まだわからないですが、その可能性がありますよ。」

「おおー」

と男たちから歓声があがった。

「すごーい。王妃、がんばってください！」

皆拍手している。

「え・・・うん・・・」

ゆりは照れて言った。

「それでは、お前たちは・・・」

フレイがここから去れというようなジェスチャーをして、男たちは瞬間移動をする元気すらなかったので、

這うように部屋を出て行った。

「みんなありがとう！」

ゆりは皆に感謝の言葉をかけた。

「食事はここに運ばせますからね」

フレイがゆりに言った。

「うん。本当に子供ができたのかな？」

「おそらくは」

ゆりはにんまりし、フレイもにんまりした。

「またにぎやかになりますな」

「うん！」

フレイが王の間でラクシュミにゆりのことを告げると、ラクシュミもさすがにぎょっとしていた。

「一人ではないかも？」

「はい」

「そうなのか・・・それはすごいな。」

この一族では双子というのもかなりまれで、３つ子以上というのは聞いたことはない。

「それは喜ばしいことですが、もし、気の欲求も前の二倍以上になるとすれば、かなり大変ですよ。」

「そうだな・・・今回はアナスターシャやシスにも参加させるか、たまにならいいだろう」

「はい。まあ、まだ妊娠かどうかははっきりしませんが・・・今宵はザメハ殿と酒を飲むことにします」

「まあ好きにしろ」

４人目の子供。まだ何人いるかわからないが、次に出てくるのは誰なのだろう。

ラクシュミは、それが楽しみだった。



その夜、ゆりは夢を見た。なんと自分が５つ子を産んでしまい、しかも全員男の子だったのだ。

その子たちはすくすくと成長して、しかも５人とも大人になるとラクシュミそっくりだった。

ゆりは５人のラクシュミそっくりの子供に囲まれて、うれしいやら恥ずかしいやらで、なんとも奇妙な気持ちに

陥ったのだった。しかし皆大人になれば、当然女の子ができて、自分から去って行ってしまう。

やだー行かないでー！まだ恋人なんて早いよー！まだ母さんといてよー！


泣きながら叫んだ時ゆりは目を覚まして、自分のバカさ加減にあきれ果てたのだった。


その朝にはゆりは元気になり、食堂で子供らと一緒に食事を食べた。子供らはまだゆりの妊娠の事は聞かされては

いなかったのだが、３人とも、なにやら不思議そうにゆりを見ていた。

「どうしたの？」

「ねえ、母様赤ちゃんできた？」

アナスターシャが聞いた。

「え？わかるの？」

「なんか、そういう気がする」

「僕も、なんだかそういう気がする」

シスが続けて言った。

「母さんの気がちょっと違ってる。へー赤ちゃんができたからなんだ。すごいなあ・・・」

ラギが驚いたように言った。

「うふふ、楽しみ。母様、今度は絶対妹ね」

アナスターシャがうれしそうに言った。

「僕はどっちでもいいな。ね、ラギ」

「うん。どっちでもいいな」

二人もうれしそうだった。

「さあ、どっちかな。私はどっちでもいいけど、アナスターシャに妹あげたい気がするな」

食事が終わった後、３人はそれぞれゆりのおなかをなでなでして去って行った。

ゆりも食堂を出ようとした時、目の前にぱっとラクシュミが現れた。

「王様・・・・」

「体調はどうだ？」

「今日はいいみたいよ。」

「そうか。」

ラクシュミはゆりの頭をなでた。赤い月の直後のわりにはラクシュミは穏やかな表情をしていた。

「ねえ、王様、双子が不吉とか、そういうことないよね」

ゆりはふと不安になって聞いた。むこうでは物語などで、よくそういう話を聞いたからだ。

「不吉ということはないが、もしかしたら、力は半分づつという可能性はあるかもな。二人以上の子供が生まれるのは

大変珍しい。私も見たことがないくらいだからな。」

「そうなの？そういえば、聞いたことはないね」

「子供が増えるのは喜ばしいことだ。」

「うん」

ラクシュミがうれしそうだったので、ゆりもうれしかった。

「またメメントの日々かな。あれさえなきゃいいのに・・・」

「早速誰か捕りに行ってたぞ」

「ひえー・・・」

「まあ、しばらくがんばれ」

「はい」

ラクシュミは去って行った。


今日からまた長い妊娠生活が始まる。

今回はどんなことがあるかわからないけれど、私もがんばろう。


「でもシスみたいにぺたぺた要求はしないでね」


ゆりはおなかをなでながら、ひそかにつぶやいたのだった。