交わりの月が終わり、妊娠の兆候が現れて10日ほどたった夜、ゆりが自分の部屋のベッドの上で一人ごろごろしていると

ベッドの横にラクシュミが現れた。

「どうだ？具合は」

ラクシュミはゆりを見下ろして聞いた。

「順調よ」

「そうか。もうこっちに来てもいいぞ。」

「もう？」

ゆりは驚いた。赤い月の後はたいてい２ヶ月は別々に寝ていたのに、今年は随分早い。

「ああ、こい」

ラクシュミはゆりの体に触れて自分の寝室の方に移動させた。その後は別段ゆりに何をするでもなく、ただ「おやすみ」と

言って寝ただけだった。


機嫌が良いというわけでもないが、この時期にしては良いほうなのかもしれない。

今まで10日で呼ばれたことなんてなかったのにな・・・

子供ができたのが本当は相当うれしかったのかな？


ゆりはラクシュミとちょっと離れた場所で寝たが、それでもなんだかうれしい気分だった。


第18話

その次の日の午後、ゆりが部屋でまったりとお茶を飲んでいたらユリウスとジュメが部屋にやってきた。

「王妃〜おめでとうございます！」

二人は笑顔でゆりにお祝いを言ってくれた。そして綺麗な花束をゆりに渡してくれた。ピンク色のお花で統一された

可愛い花束だ。

「わーありがとう」

あれからいろんな人がお花をくれるので、部屋の棚にもテーブルにも花瓶だらけだった。それを見て二人は笑った。

ゆりは花を侍女に渡して二人と共に椅子に座った。

「街では号外がでましたよ。これです」

ジュメがゆりに折りたたんだ紙を見せてくれた。

「へーまた出たんだ」

紙の上にはでかく、王妃再び御懐妊か！？の文字がある。

「楽しみですねえ。今度は王女か王子かどちらでしょうね」

ユリウスが言った。

「もしかしたら一人じゃないかもしれないんだよ」

ゆりが言うと二人はぎょっとした。その情報はまだ流れていなかったようだ。

「本当ですか？」

二人が同時に聞いた。

「まだわからないけどね。意表ついて一人かもしれないけど」

「私気あげますよ。もらってください」

「ありがとう」

ユリウスはゆりの横に椅子を寄せて、仲良く引っ付いた。二人がべったり引っ付いていると、はたから見れば

ちょっと怪しい。

侍女が二人の分のお茶とお菓子をもってきてくれた。

「王妃を見ていると、なんだか子供っていいなあって気になってきたんですがねー」

ユリウスはぼそりと言った。

「そうなの？」

「でも男と引っ付くのがいやなんですよね」

「ははは、まあ、そのうちそういう気にもなるかもよ」

ユリウスは相変わらず、赤い月は他の子供たちと過ごしたりしているようだ。

「まあ、男とひっついても私も子供できてませんしね。」

ジュメが言った。

「ふふ、王妃、ジュメは今年・・・王妃の恋人の一人と過ごしたんですよ」

ユリウスがこっそり言い、ゆりがぎょっとした。ジュメはすごく真っ赤な顔をしている。

「ええーだれ？だれ？」

「ひどい！ユリウス様、それは言わない約束だったのに！」

「だれ？ねえだれ？」

ゆりはユリウスの腕をゆすって聞いた。ジュメは恥ずかしげに横を向いてしまった。

「イシュタール様ですよ。」

「イシュタール！？」

ゆりの目が真ん丸くなった。

「一日だけですよ。一日だけ」

ジュメが指を一本立てて言った。

「そうなんだ・・・よかったね・・・ジュメ」

ゆりは嫉妬するどころか微笑みさえ浮かべていた。母親のような心境になっている。

「はあ・・・」

ジュメは女性の中では力は強い方なのだが、純粋な蛇の一族ではなく、母親は他族の女だったらしい。

父親は下級戦士ほどの力しかなかったようなのだが、ジュメは珍しく父親以上の力を持った女性で、ラクシュミも

ジュメにはかなりの関心を寄せていた。だが、力が強い男というものは純血の一族の女と赤い月を過ごしたがるもので、

ジュメは力はあっても、強い男達からお呼びがかかることはなかったようだ。

「それってどっちが声かけたの？イシュタール？」

「いえいえ、私からですよ。だめもとで声をかけたんですよ。」

ジュメが頭をかきながら言った。

「そしたら一日ならいいよってあっさり言ってくださって、驚きました」

「別に驚くことないじゃない。ジュメは力強いし、イシュタールと過ごしたって別におかしくないよ」

「はあ・・・」

「ジュメは今年はその一日だけだったんですよ。男性と過ごしたの」

ユリウスがまたこっそり言った。

「えー、それって、かなりイシュタールにほれちゃったとか？」

ゆりは一人で興奮している。

「いえ。イシュタール様に失礼かなって思って、それだけです」

「ふーん」

ゆりはにやにやしていた。

二人が並んでいる所を想像すると、かなりお似合いのような気もしてくる。

「私、ジュメにならイシュタールあげてもいいな」

「え・・・」

ジュメがぎょっとした。

「何おっしゃってるんです。イシュタール様は私以外とも当然過ごされてますし、そういうんじゃないんですから」

「でも、そうやって毎年声をかけていけばいいよ。ね、ユリウス」

「そうですよ。今までは他の女性方に遠慮していて、今年はようやく、皆に背中を押されて声をかけたんですからね」

「そうなんだ。来年もその調子でがんばるんだよ」

「はあ・・・」

ジュメは背中を丸めて小さくなっていた。大柄なだけになんだかかわいらしい。

「ジュメってかわいい〜」

「王妃・・・」

ジュメは真っ赤な顔のまま部屋を出て行った。ゆりは一人になってからもしばらくにやにやして、ミラを呼んで

ミラにも教えてあげた。ミラもすごいと喜んでいた。だが、５の月の末になり、もっとすごい朗報が飛び込んできた。

なんと、ジュメの妊娠が発覚したのだ。

ゆりはそれを聞いてあわてて王の間に向かった。

ラクシュミの前には、本当に真っ赤で恥ずかしそうな顔のジュメがいた。

「ジュメー！おめでと〜」

「あ、王妃！走らないでください！」

王の間を走ってくるゆりにジュメがあわてて言った。

「本当なの？本当に妊娠したの？」

ゆりは興奮して聞いた。

「はい、検査してそうだといわれました」

「そうなんだ・・・」

「他にはミカエルとフリットにもできたんだぞ」

ラクシュミが言った。ラクシュミはもちろんご機嫌だ。

「二人目ができたんだ！すごい！」

「その上驚く事にヴィクターにもできた。」

「え、将軍にも？」

ゆりは驚いた。

「ああ、ガーベラになでられたおかげか今年はかなりその気だったって言ってたぞ。」

「そうなんだ・・・すごい・・・」

なんとシャナーンは50くらい年下の兄弟ができることになる。


「ジュメ、もう少ししたら、係りの者がくるからな、開いてる家にどこでもいいから住むといい」

「え？」

ラクシュミの言葉にジュメは目を見開いた。

「私は別にあそこでいいんですが・・・広いと落ち着かないので」

ジュメは女子の戦士寮に住んでいる。当然そんなに広くはない。

「外回りの仕事はやめろよ。これは私の命令だからな」

「え・・・仕事やめなきゃならないんですか？」

ジュメがさらに目を見開いた。

「当たり前だ。お前が敵と戦うよりも、イシュタールの子供を産むほうが大事だ」

ラクシュミはそう言いきった。上級クラスの男の子供なんてめったにできない。おなかを怪我でもしたらそれこそ

取り返しはつかない。

「そうよ。何かあったら困るじゃない」

とゆり。

「ですが・・・・仕事は私の生きがいなんですが・・・」

「そんなに仕事がしたいなら戦わない仕事をしろ。書類整理とか、そうだ、学校で教師でもすればいい。そうしろ、

子供が生まれたらまた働いてもいいからな」

「はあ・・・」

その時、ミカエルとフリット、イシュタールがそろって王の間に扉を開けて入ってきて、それを見たジュメは、あわてて

ラクシュミの椅子の後ろに身を隠した。

「ジュメ・・・なんで隠れるの？」

ゆりがおかしそうに後ろをのぞいて聞いた。

ジュメは口元に指をあてて「しー」っと言っている。

「王妃、ようやく二人目ができそうですよ。お祝いに抱擁してください」

ミカエルがうれしそうにゆりに近づいてきた。

「おめでとー」

ゆりはその手を握って握手した。フリットやイシュタールとも握手する。イシュタールはラクシュミの

椅子の後ろをのぞいた。

「何やってるんだ？ジュメ」

「・・・・・いえ・・・何も・・・」

「ミカエル、ジュメは内勤にさせろよ。いいな」

ラクシュミがミカエルに言った。

「はい。まさかそういう組み合わせができているとは知らなかったので、びっくりしましたよ」

ミカエルがいった。

「本当に。なんだか強い子供ができそうですね」

フリットも微笑んでいた。

「ジュメ、何か欲しい物でもあれば、ちゃんと言ってくれ」

イシュタールが椅子の後ろをのぞいって言った。

「いえ、別段何も・・・・」

ジュメは恥ずかしいのか中々でてこようとしない。

「それはイシュタールが時々元気かって様子を見に来てくれるのが一番だよね。ジュメ」

ゆりが大きな声で言い、椅子の後ろのジュメから「ひー」という声が聞こえてきた。

「ふふふ、ジュメってかわいいよねー。他の３人に子供できなかったのは残念だけど、今年はよかったね。王様」

「ああ、全くだ。まさかヴィクターに子供ができるとはな・・・」

「相手の女の子は大人になってわずか1年ですよ」

ミカエルの言葉にゆりはぎょっとした。

「将軍やるね・・・」

「全くですよ」

「負けました」

ミカエルとフリットは苦笑ぎみに言った。


夕方、ラクシュミはミカエル、フリット、イシュタールと休憩室で酒を飲んだ。イシュタールは初めての子供なので、

なんだか恥ずかしそうだった。


子供が一杯できるというものはいいものだ。


今夜は三日月ながらも、かなりラクシュミはご機嫌だった。


そのころ、２００を越えてなんと二人目を孕ませたヴィクターは、南の砦を訪れていた。ヴィクターの話はすっかり

広まっていて、顔を見るなり皆が「おめでとうございます」とお祝いの言葉をあびせていた。

ヴィクターはナザニエルの顔を見るなり、「おめでとう」と言った。実はナザニエルにも目出度いことがあった。

フリットの二人目を孕んだ女性はナザニエルの娘だったからだ。

「よかったな。これでお前もおじいちゃんだな。おめでとう。おじいちゃん。

本当によかったなあ。おじいちゃん」

ヴィクターは笑顔で言っている。

「お前、それを言うためにわざわざ来たんだろ」

ナザニエルの顔は引きつっていた。

「当然だ。」

「・・・まあ今回ばかりはお前の元気に脱帽した。その年で二人目を作るとはな。すごいぞ」

ナザニエルは素直に感心していた。

「自分でも驚いた。シャナーンとあまり変わらない年の女を孕ませてしまったからな。そこらはなんだか恥ずかしいな」

「元気なのは良いことだ。お前には負けた」

「そうか。ならお前のおごりで酒を飲もう」

「あーあーおごってやるとも、」

「じゃあな」

ヴィクターは消えた。


あーあ、とうとうおじいちゃんと言われるようになってしまうのか。早くそうなりたいとは思っていたが、実際にヴィクター

に言われると・・・微妙な気持ちになるな・・・


ナザニエルは部屋にある鏡で自分の顔を見て、苦笑したのだった。