年が明けて２の月になり、またまたゆりは気がかなり欲しい状態に陥っていた。

「これってちょっと変じゃない？」

ゆりが苦情を言うように言った。なぜならジュノーとヴィラに挟まれて両方から抱きつかれていたからだった。

「どうせ一人じゃ足りないと思って」

と右にいたジュノーが言った。

「そりゃま、そうだけど・・・二人に抱きつかれると、さすがに恥ずかしいんですけど」

「私は王妃の赤い顔が見れてうれしいですよ」

とヴィラ。

「最近じゃ抱きついても赤くなってくれないし」

「そりゃさすがに慣れちゃったから・・・」

「男だと意識されないのはやです」

「そう言われてもねー・・・」

ゆりの指はすーっと左にいたヴィラの膝をなでていた。

ヴィラはん？と目を見開いた。ジュノーもゆりの手をじーとみている。

ゆりも下を向き、あれ？と手を膝からどけた。

「・・・」

しばしの沈黙があり、ヴィラが言った。

「あれ？どなたかいらっしゃいました？」

「え・・・わかんないけど・・・」

前回のように誰かが降りたという感覚はまだなかった。

ヴィラは顔を近づけて、ゆりにキスした。ゆりは顔を後ろにそらせたものの、ヴィラは追うようにして口付けた。

すると、びっくりしていたゆりの表情が変わってきた。目元がすっと引き締まってきたのだ。

「やっぱり儀式ですね」

ヴィラが顔を離して言った。

「儀式？」

ゆりの両方の瞳が一瞬きらりと光ったのをヴィラとジュノーは見た。

「儀式って何の儀式？」

ゆりはヴィラとジュノーを見て聞いた。

「蛇霊神を入れる儀式ですよ」

ジュノーが言った。

「ふーん。儀式したいの？いいよ」

ゆりの手がジュノーの頬をなでた。

ー・・・なんだか初めての女蛇みたいだな・・・

ヴィラが思念で言った。

ーそうだな。


「始めましょ。儀式」

ゆりは大人びた笑いを浮かべて言った。


第２７話

ミカエルらが寝室にやってきた時には、３人共ベッドにいたものの、まだ服を着ていた。

ジュノーはぐでんとベッドで横になっていて、ゆりはヴィラと抱きあって口付けていた。ゆりがヴィラから顔を離して

男たちを見た。

「これで全員？」

「そうですよ」

とミカエルが言った。

「そう、じゃあ皆服脱いで、じゃないと、汚れちゃうわよ。ふふふ」

ゆりは妖しく笑った。

イシュタールはベッドの周りを回って、ジュノーとヴィラを眺めた。ジュノーはぼんやりしていたし、ヴィラも座ったまま

ぼーっとした表情をしていた。

「大丈夫か？二人とも」

イシュタールがヴィラの目の前で手を振ると、ヴィラはようやく顔を上に向けた。

「大丈夫ですよ」

「ならいいが・・・」

ヴィラはゆりを見た。どうもいつもの女蛇とは様子が違うようだ。


口付けだけで、えらく感じてしまった・・・・

「そこの坊やも服脱いで」

ゆりがイシュタールを見て言った。

ぼ・・・ぼうや？


イシュタールがぎょっとした。

ゆりは自分で服を脱いで裸になった。

「じゃあきて、僕ちゃん」

ゆりはミカエルの腕をひっぱった。


いつもと感じが違う女蛇だなあ。

それぞれ同じことを感じていた。


ミカエルがゆりを抱きしめてベッドに倒そうとすると、逆にミカエルのほうが押し倒されてゆりが上に乗った。

ゆりは微笑んでミカエルに口付けた。ミカエルの手はゆりの胸をまさぐっていたのだが、やがてその手がぱたりと

下に落ちた。ゆりはミカエルの上からどいた。

「じゃあ次は髪の長い僕ちゃんきて」

ゆりはフリットを呼んだ。

「・・・・」

ミカエルと他の男たちの顔は引きつっていた。


口付けだけでいってしまった・・・・


ミカエルは肌をなでられて口付けされただけで、いってしまったのだった。

ヴィラがミカエルにタオルを渡した。

ーなんなんだ。あの女蛇は

ミカエルは思念でヴィラに聞いた。

ー私も口付けだけでいってしまいました。

ヴィラが口をへの字にして思念を返した。


ー・・・逃げてもいいか？


イシュタールが思念を二人に送った。

ーだめだ。

ーだめですよ。

二人が同時に返した。


ーお前もされろ。

ー・・・・・

３人がそういうやりとりをしている間にも、ゆりはフリットから離れてミルキダスを呼んでいた。


すごすぎる・・・・



やがてゆりはイシュタールを見た。ミルキダスは横たわってぐったりしている。

「あら、まだ服脱いでないの？それとも着たままのほうがいいの？」

「え・・・いえ・・・」

ゆりは立ち上がって歩いていき、イシュタールをベッドに座らせてその上にまたがった。そしてイシュタールの首に

手を回して口付けた。

「・・・・」

やがて、ゆりは体をどけて言った。

「だから脱いだ方がいいっていったのに」

「・・・・」

「それじゃ、皆終わったからこれからは適当に」

ゆりはジュノーとヴィラの腕をひっぱった。


ゆりは男達に肌を触れさせながらも、ほとんど自分は唇に口付けしたり、男の胸の辺りや腕に触れることしかしなかった。

なんだか・・・触られるだけで感じるんだが・・・

ゆりはヴィラと口付けながらジュノーの胸の辺りに触れていたが、それでもジュノーはやたら興奮してしまっていた。

もう一度全ての男達と口づけるとゆりの肌からふわっといい匂いがし始めた。


そして、ゆりの肌に金色の蛇の姿が浮かび、男たちはぎょっと目を見開いた。

その二匹の蛇は、今まで見たことがないほど大きなものだった。しっぽの先は足の上にあった。両足をぐるぐると巻いて

腰を周り、胸も回り、蛇の頭は、ゆりの頬にあった。二匹の蛇がきれいにクロスして、ゆりの両方の頬に蛇の頭があった

のだ。

「・・・すごい・・・」

「・・・・」

男達は絶句して、しばしぼんやりとその蛇を見ていた。

「どうしたの？何もされないと消えてしまうわよ？」

ゆりがいい、男たちは正気に戻ったようにゆりに触れた。

やがてゆりの口から意味不明な言葉が飛び出して、部屋の中にぬっと蛇霊神が姿を現した。

蛇は薄い黄色い色をしていた。その蛇も一匹や二匹ではなく、次々と部屋に入ってきて部屋の中をぐるぐる回っている。

男たちはその蛇を見上げていた。

ゆりが再び何かを言うと、蛇は次々とゆりの体の中に入って行った。


全ての蛇が吸い込まれて、ゆりはぱちぱちと瞬いた。

「黄色い蛇霊神は初めて見ましたよ」

フリットが言った。全部で6匹いた。

「そう？よかったわね。ねえ、タオル貸して」

ゆりはタオルで自分の肌をふいて、服を着始めた。

「王妃？」

いつもは儀式が終わると気絶してしまうのだが、まだその様子がない。

「私ちょっと行く所があるの。それじゃあね。ぼうやたち」

ゆりは服を着てそういうと、皆に手を振って消えてしまった。


「・・・いいんでしょうか。ほっておいて」

ジュノーがぼんやりした声で言った。

「まさか変な所にはいかないだろう」

とミカエル。

「・・・ハザーク様の塔だな。」

フリットが言った。ゆりが移動した場所は、ハザークの塔だとフリットには感じられた。

「それならいいですね」

ヴィラはいい、服を着た。

「もう帰って寝ます」

そう言って消えた。

「私も・・・なんだか・・・疲れましたね」

ジュノーも服を着て消えた。

「お前、王に報告しておいてくれ、私も帰って寝る」

とミカエルがフリットに言った。

「結局、よくわからない儀式だったな」

イシュタールがぼそっと言った。


一方、ゆりはハザークの部屋に直接移動して、驚いて体を起こしたハザークのひざに乗った。

ハザークはせわしなく瞬いている。

「元気だった？かわいい坊や」

ゆりはそういうと、ハザークの頭をなでた。

「・・・・」

ハザークの目には、ゆりの中にいた女蛇の姿が見えていた。部屋にいた二人の侍女も驚いたようにゆりを見ていた。

「ああまさか！」

「ディラネイラ様では！？」

侍女達が驚いて声をあげた。

「・・・・」

ハザークは大きく目を見開いて膝の上にいるゆりを見つめていた。

金色の長い髪。金の瞳の美しい女がそこにいた。

それは・・・

「ディラネイラ・・・」

ハザークがつぶやいた。ゆりは微笑んで、ハザークの頭をなで続けた。

「もうおねしょ治ったの？」

ゆりの言葉にハザークの頬がちょっと引きつった。

「それは赤ん坊の時の話だろう。我はもう、９千年以上も生きてるんだぞ」

「そうなの？随分長生きしてるのね。」

「なぜ・・・降りてきたんだ？」

「遊びにきたの。会いたかったでしょ？」

「ああ、会いたかった」

「いい子ね。」

ゆりはハザークの背中に腕を回して、ハザークもそのままゆりの背中に腕を回した。

侍女たちはぼろぼろ涙を流して姿を消した。



しばらくして、ラクシュミからハザークの元に思念が飛んできた。

ーゆりはなんでお前の元に行ったんだ？

ー・・・

ーハザーク？

ー・・・降りてきた女蛇は、我の母親だ

ーえ？

ー・・・

ーそうか。そうだったのか。よかったなあ・・・

ーああ



ラクシュミは、邪魔をしちゃ悪いと思ったのか、そのまま思念を閉ざした。


母親か・・・


ラクシュミは王の間で、しばらくぼんやりしてしまった。

ラクシュミの母親は、ラクシュミを産んですぐに亡くなってしまったために、ラクシュミ自身、母親というものに

縁がなかった。


うれしかったんだろうな・・・

なんだかうらやましいな・・・私も会えるものならば、会ってみたいものだ・・・


しかし、降りてきたのがハザークの母親だと知ったら、男たちはどんな顔をするだろうな。

秘密にした方がいいだろうな・・・

ラクシュミは苦笑して、次の客を王の間に招きいれた。

目を覚ましたゆりは、体が抱きしめられていたので、ラクシュミだと思ってぺたっと引っ付いた。

「王様・・・」

うつろに目を開けたゆりの前には、ハザークの顔があった。

あれ？

「あれ？私なんでここにいたんでしたっけ」

ゆりが首をかしげて聞いた。

「お前が自分でここに来たんだ。儀式の後」

「儀式？」

ゆりは記憶をさかのぼってみた。しかし、儀式の時の記憶はすっぽり抜けていた。


何も覚えてない。なんでだろ。


ハザークはゆりの長い髪をなでていた。

「髪が伸びるのを見てた。面白かった」

「私自分でここきたんですか？」

「そうだぞ」

「歩いて？」

「実は、お前の中に降りてきた女蛇は、我の知り合いだったんだ、だから来たんだ」

「へーそうなんですか」

「ああ」

「どうして儀式の間の事覚えてないんだろう・・・」

「蛇はちゃんと降りてきたぞ。」

「そうなの？まあいいですけど・・・」

ゆりはしばらく首をかしげていた。



数日後、儀式の内容をミカエルから聞いて、ゆりは驚いた。

「それって本当なの？」

「本当ですよ。王妃はキス以外してくれなかったです」

「・・・・」

なんと、儀式では男たちとキスしかしなかったというのだ。

「やったあ、究極の技を手に入れた！」

ゆりは思わず喜んで立ち上がった。同時に机をばんとたたいたのでカップに入っていた紅茶がこぼれそうになった。

「何言ってるんです。あんなのは邪道ですよ。あの女蛇いやです」

ミカエルは横目で睨んでいる。

「何よ。いいじゃないよ。キスだけで蛇降りるなんてすごいじゃん。究極の技じゃんか」

「やです。なんかむなしいです。もっと時間をかけていろいろ愛し合うんじゃないといやです」

「なーにをわがまま言ってるの。子供じゃあるまいに」

「大人だから言ってるんです！」

ミカエルが最もなことを言った。

「そんなに嫌だったの？」

ゆりは再び座って聞いた。

「嫌ってことはないですけど、毎回あれだといやです。」

「キスはしたんでしょ？」

「本当に何もされなかったら我々はばかみたいじゃないですか」

「・・・まあいいじゃない」

ゆりはにんまり笑っている。

「そう思ってるのはミカエルだけなんでしょ？」

「我々全員の意見です」

「え・・・そうなの？」

はっきり言われてゆりはたじろいだ。

「でもさ、あの儀式は、そもそも蛇下ろす儀式なんだから、蛇がくればいいわけだし・・・」

「ひどい。あれだけ愛させたくせに、今更そんなこと言うなんて・・・」

「ぐ・・・」

ミカエルにうらめしげに見られて、ゆりは言葉に詰まった。

「まあまあ、私は自分じゃ女蛇選べないし、次はどういう人が来るやらわからないから」

「王妃が覚えてないってことは、あの時は完全に女蛇の意識だったんですかね」

「そうみたいね」

「完全に意識を奪われるのは危険じゃないんですか？気をつけないと」

「うーん」

すごい女蛇らしかったというのはゆりにもわかったのだが、男たちにはどうやら不評のようだった。

「というわけで、あっちでいちゃいちゃしましょう」

「え・・・・」

「なんだかもんもんとするんです。王妃にいろいろ愛されないとすっきりしません」

「いや、そう言われても・・・」

「恋人の些細な望みくらい聞いてくださいね」

ミカエルは微笑んで言った。

「どこが些細よ」

とゆりが言う間にも、ミカエルはぱっとゆりの腕に触れて移動した。

そのころハザークの部屋では、侍女がにこにこしてお茶を入れていた。

「またディラネイラ様が降りられたらいいですねえ」

「さあ、どうだろうな。なにせ巫女に降りた母を見るの初めてだからな。ディラネイラはザクートとそういう契約は

してなかったはずだし」

「そうなのですか」

ディラネイラはハザークを産んで３年ほどで亡くなってしまっていた。出産がかなり体の負担になったようだった。

ハザークにしても、本当に久しぶりの親子の対面だった。


「それにさすがに自分の母親が儀式で降りてきて男たちとひっつくのも・・・複雑だな」

「そうですね」

「今回はうれしかったが・・・」

久しぶりに感じた母親の温もりに、忘れ去っていた幼い頃のことを思い出し、かなり懐かしくなったハザークだった。



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