今年も３の月に入り、例年通り交わりの月が過ぎ去った。ゆりは昼間は子供たちに指導するラクシュミにくっついて、
夜は熱々な日々を送った。ラギは10日の間ずっと城の外に行き、研究所かどこかに行ったようだ。
ゆりは妊娠して一年が経ったわけだが、儀式も順調に起こり、時々気が大量に欲しくなる以外は普通の日々だった。
「王妃、この前の儀式ではぎゃふんとなりましたよ」
儀式から初めて顔を見せたヴィラが言った。
「面白かった？」
「いえ、あんまり」
「・・・・」
ゆりは一応男皆の意見を聞いてみた。あれはやはりミカエルだけの意見かもしれないと思ったからだが、やっぱりみんな
前の儀式はあんまりよくなかったようだ。ミルキダスは文句は言わなかったが、正直に言うと、あんまりといった感じだった。
「でも、王妃のすごい蛇紋が見れましたし、まああれはあれでいいですけど、毎回あれだとやですね」
「ミカエルと同じこと言うね。せっかく巫女マスターの技を会得したと思ったのに」
「なんですか巫女マスターって」
ヴィラがおかしそうに聞いた。
「だから巫女の最高ランク。最終的には男と見つめあうだけで蛇呼べたりして」
「そんなのいやです」
ヴィラが即座に言った。
「見つめあうだけなら別に男いらないじゃないですか」
「まあそうだけど・・・」
「今日は気はいらないんですか？」
「もらう」
二人は長椅子の方に座って引っ付いた。
ーごにょごにょ
ーごにょごにょ
「ん？」
ゆりが首をかしげた。
「どうしたんですか？」
ヴィラが聞いた。
「なんだか赤い月あたりから、赤ちゃんが何か言ってるの。よくわからないけど」
「しゃべるようになったんですか？ぺたぺたしろって言ってないです？」
「言ってないよ」
「つまんないですね」
「べーだ」
ゆりは舌を出した。
第28話
ゆりが部屋で竪琴の練習をしていたら、アナスターシャとシスが部屋にやってきた。
「夕食の時間まで絵本読んであげる」
「あら、ありがと」
ゆりは長椅子の方に座り、右にアナスターシャが座り、左にシスが座った。アナスターシャはゆりに絵本を見せながら
文字を読んでいた。ゆりの目を通して赤ちゃん達が見ていると思っているようだ。
シスはゆりのおなかにひっついていた。
やがて絵本は最後のページになり、終わった。
「面白かった？赤ちゃん」
アナスターシャが聞いた。
「なんだか笑ってるみたいだから面白かったみたいだよ」
シスが言った。
「本当？」
アナスターシャもゆりのおなかに耳を寄せてみた。
「本当だ、笑ってる」
「え？本当なの？」
ゆりが驚いた。
「うん。かわいいね。赤ちゃんたち」
アナスターシャはゆりのおなかをなでた。
「しゃべらないけど、最近は何か反応を返してくるね」
シスが言った。
「赤ちゃんも大きくなってるのねえ」
「僕とラギで男の子の名前決めたんだよ」
シスが言った。
「へえ、何？」
ゆりが聞くと、シスはまだ内緒と言った。
「姉様が女の子の名前決めるの待ってるんだよ」
「だってえ・・・中々決まんなくてさ」
アナスターシャが口を尖らせた。
「王様には言ったの？」
「まだだよ。両方決めてから言うんだよ」
「そうなの。楽しみねー」
ゆりはおなかをなでた。
「うーん。エイミ、エイミア、オリビア、コレット、コレー、レベッカ、ローザ・・・」
アナスターシャは一人ぶつぶつ言っていた。
「考えれば考えるほど深みにはまりそうね」
ゆりは苦笑した。
アナスターシャは夕食の時間も紙を見ながらぶつぶつ言っていた。
「まだ考え込んでるの？ねーは」
ラギがあきれたように言った。
「うるさいわねー。一生の問題なんだからちゃんと考えてあげなきゃだめでしょ？」
「僕らは早く父様に言いたいのにねえ」
シスが言う。
「まあまあ、ゆっくりでいいからさ」
ゆりが笑って言った。
しかしその夜中ー
「起きて、シス起きて！」
「うーん」
シスはアナスターシャに強引におこされた。
「何ー？何かあったの？」
シスは細目を開けて言った。
「待ってて、ラギ連れてくるから」
アナスターシャは消えた。
「なんなんだーまだ真っ暗じゃんか」
アナスターシャはすぐにラギを連れてやってきた。ラギも眠そうに目をこすっている。
「一体何？」
「女の子の名前決めたのよ。聞いて、聞いて」
アナスターシャ一人元気だった。
「ふーん」
二人はベッドに座ってアナスターシャを見た。
「ナナミにした。」
「ナナミ？」
「ふーん。いんじゃない。かわいいよ」
そういうとシスはそのままゴロンと横になった。
「ちょっとお！理由とかちゃんと聞きなさいよ」
アナスターシャがシスの腕を引っ張っておこした。
「えー！僕眠いし」
「ほら、古代語でさあ、幸せってナミって言うでしょ？」
「ナミじゃなくてナミィだよ」
ラギが訂正した。
「細かいことはいいわよ。それからもじったの」
「ふーん。いいんじゃない？」
とラギ。
「そう？いい名前？」
「うん。じゃおやすみ」
「僕ももうここで寝ようっと」
シスもラギもそのままごろんと寝転び、布団をかけて寝た。
わーい。決まった。決まった。
アナスターシャは名前がようやく決まった喜びで興奮して眠れず、ラクシュミが寝ていた布団にもぐりこんだ。
今日はゆりは自分の部屋で寝ていていない。
「ねえ、父様、赤ちゃんの名前決まったよ」
アナスターシャはラクシュミの腕を動かしておこした。
「ん？なんだって？」
「赤ちゃんの名前決まったの。聞きたい？聞きたい？」
「名前？なんだ？」
「明日教えてあげるねー」
「・・・」
「ふふふー」
アナスターシャはそのままラクシュミに引っ付いて寝たのだが、朝にはラクシュミのおなかの上にアナスターシャの
両足が乗っていた。
その朝、アナスターシャが一緒に食事をしてというのでラクシュミも食堂に行った。そこで、子供たちから
赤ちゃんの名前の発表があった。
「まずは、女の子の名前は、ナナミちゃんです」
アナスターシャが笑顔で言った。
「ナナミ？あっちっぽい名前ね。かわいいじゃない」
ゆりがすぐ反応した。
「かわいい？父様も可愛いと思う？」
「ああ、いんじゃないか？」
アナスターシャは名前がわりと好評だったので気をよくしてうなずいていた。
「男の子の名前は、ロイだよ」
次にシスが言った。
「ロイ？」
ラクシュミが聞き、ゆりが「いんじゃない？」と言った。
「ロイにナナミか、良かったねー。名前決まったねー」
ゆりは自分のおなかをなでなでした。
ロイ・・・
ラクシュミは、未来からやってきた黒髪の息子を思い出していた。
そうか。次に産まれてくるんだな・・・
「どうしたの？父様気に入らないの？」
ラクシュミがぼんやりしていたのでシスが聞いた。
「いや、いい名前だぞ」
ラクシュミは微笑んだ。
その場では、未来の息子の事は口には出さなかったものの、ラクシュミは誰かに言いたくて仕方なかった。
王の間に行ってからも、よっぽど一族の者の誰かに言おうかと思ったほどだ。
だめだ・・・黙ってられない。
夕方まで我慢していたラクシュミだったが、とうとう我慢できなくなり、休憩に入ってゆりを休憩室に呼び出した。
そして笑顔でやってきたゆりに、「実はおなかの中にいるのは前に来た黒髪の息子なんだぞ」と言った。
ゆりが大きく目を見開いた。
「えー？どうしてわかるの？」
「実は名前を知ってたんだ。」
「そうなの？だから子供たちに決めさせたの？」
「ああ、それもある。何番目かはわからなかったからな」
「そうなんだ・・・」
「皆には内緒だぞ」
「うん」
あの時の素敵な息子が産まれてくるんだ・・・
ゆりは部屋に戻ったものの、口がうずうずして仕方なかった。
だめだ。黙っておけない！
ゆりはつい、ミラにその事を話してしまった。
「きゃい〜ん。本当ですか？ロイ様っていうお名前だったんですねー」
ミラも大興奮して猫耳がぴくぴく動いていた。。
「皆には内緒よ」
「はい」
そういわれたミラだったが、やっぱり黙っておけなかった。他の侍女に話してしまったのだ。内緒よ、といいつつも話は
広がり、数日後ゆりの部屋にきたフリットが、にこにこしてゆりに言った。
「おなかにいるのはこの前やってきた若君らしいですね」
「え・・・」
「楽しみですね。」
「その話どこから聞いたの？」
「かなり広まってますよ。ミカエルから聞きましたよ」
「そうなの？」
その時、ミラがお茶とお菓子を運んできた。ゆりはミラを見て、「もしかしてあれ話した？」というと、ミラはどきっと
した顔をした。
「だめじゃないー。皆には内緒なのにー」
「すいません。だって、黙っておけなかったんです」
「まあいいけど、私も皆に言いたくて仕方なかったし」
「じゃあ女の子も黒髪ですかね。やっぱり」
フリットが言った。
「そうなのかな。」
「王妃に似た可愛い女の子が産まれてきますね」
「王様に似たほうがかわいいけどねえ。でも、自分と同じ髪の色の子供ができるってうれしいなあ」
「王子様があれだけ素敵だったんですもの、王女様も素敵ですよ」
ミラが言った。
「楽しみですね。大きくなってからしごくのが。」
フリットが笑顔で言った。
「しごく？フリットって何かロイに恨みでも？」
「いいえ。前にしごかれたからお返しをしないと。」
「・・まあいいけど」
「楽しみが一杯あるっていいですね」
「そうだね。フリットの子供も産まれるしね」
「はい」
楽しみが多いっていいね。この二人が産まれたら、私はとうとう５人の子持ちかあ・・・
なんだか想像できないな。
５人も産んでる割には全然子育てで苦労してないけど・・・何せお金の心配いらないし、子育ても侍女らがいるし、
王妃様でよかった。庶民だったら大変だったよ。
今更ながらにしみじみ思うゆりだった。
数日後、ハザークのところで竪琴を披露していたゆりだったが、今日は蛇の目の方のゆりが現れてハザークに抱かれていた。
こちらのゆりはハザークとそういう仲になって以来、たまにやってきてはハザークと引っ付いている。
黒目のゆりはハザークが誘うと、一応は抵抗を見せるのだが、こちらのゆりは自分で望んでそうなっているために、
積極的だった。自分から口付けだってするし上にも乗ってくる。
以前自分を好きだといって肉をやった女とこちらのゆりが似ていると思っていたために、あまり抱きたいと思えなかったのだ
が、違うとわかってからは、抱くのもいやではなくなっていた。
今までは自分の力と引き換えに女とそういう関係を結んできたハザークだったが、こちらのゆりは快楽が欲しいと
言い切ったし、もう一人のゆりも、別にハザークに何かを望んでるわけでもなかった。たまに気が欲しいくらいのものだ。
「お前はお前で変な女だな」
ハザークは腕の中にいるゆりに言った。
「どうして？」
「別に男には不自由してないだろ？なんで我に抱かれるんだ？」
「私、金色の瞳の人以外には抱かれてないよ」
「・・・お前もそうなのか？」
「そうよ」
「どうしてだ？お前は別に嫌じゃないだろ？」
こちらのゆりは素直な性格だとハザークは思っていた。男たちとそうなっても別におかしくはない。
「皆他の女が抱けなくなったらかわいそうだから」
ゆりが真面目に言うと、ハザークがちょっと冷たく笑った。
「自意識過剰だな」
「そうかなあ。ハザーク様だって、すごくいいと思ってるくせに」
「本当はお前の方が巫女に向いてると思うけどな」
「私は皆のこと好きだけど、６人の男に抱かれまくるのはやーよ。かといって向こうがやるようなのもあんまり
したくないし、二人っきりでじっくりいちゃいちゃするのがすき」
「さっき、金色の瞳の男にしかと言ったな。お前もザクートに抱かれたのか？」
「え？」
ゆりは目をそらせた。
「あいつめ両方としたのか」
「何のことやら」
「どうせならお前だけ抱かれればよかったのに」
ハザークが顔をしかめてぶつぶつ言った。
「・・・またこないかな。ザクート様」
「もう来んでいい」
ハザークは明らかにむっとしている。
「嫉妬してるハザーク様ってかわいい」
「別にお前に嫉妬してない」
「またまた私のことも好きなくせに。好きだから抱いても気持ちいいんじゃない」
「・・・・お前よりも向こうの方が気持ちいい」
「ハザーク様って子供みたいね」
ゆりはおかしそうに言った。冷静な表情が時折崩れる所が面白い。
「なんだか向こうが抱きたくなってきた。変われ」
「いいけど、今変わったらびっくりするよ」
「大丈夫だ」
「そう、じゃあまたね」
といってゆりは目を閉じた。
やがて目を開けたゆりは、目の前にハザークがいる上に自分が裸だったのでびっくりした。
「あれ？今度はなんで？」
「竪琴を弾いた後こっちに来ただろ？」
「え・・・・」
ハザークの金色の瞳がにわかに輝いた。
「・・・そうだっけ」
ゆりは暗示にかかったかのようにそう思ってしまった。
「お前の竪琴が随分うまくなったんで、褒美をやってたんじゃないか」
「ほ・・・褒美？」
「そしたらあんまり気持ちよすぎて、気絶したようだぞ」
「・・・・」
ゆりの顔は引きつっていた。
「嘘。嘘ー！」
ゆりはからだを動かして横に逃げようとした。するとハザークがすかさず腰に腕を回して抱き寄せた。
「もっとやる。褒美」
「もういいです！もう十分！」
「そう遠慮せずに」
「遠慮じゃありません！」
「そうか。お前ちょっと強引にされるのが好きなんだな？」
「違います！」
といいつつも、口付けをされて肌に触れられているうちに、その気にさせられてしまった。
「もーハザーク様なんて大嫌い」
「そうなのか？好きだから抱かれて気持ちいいんだろ？」
「え？・・・・」
「そうだろ？違うのか？」
ハザークはもう一人のゆりから聞いた言葉をそっくりそのまま使っていた。
「・・・・そりゃ、まあ・・・」
「だからお前は我の事が好きってことだ」
「好きは好きですけどね」
「ならたまにはお前から抱かれたいって言ってくれ」
「やです」
「なんでだ」
「なんでも」
「やっぱりお前はちょっと強引にされるのが好きなんだな」
ハザークは納得したように言っていた。
「違うって言ってるのにもー」
何でこの人はいっつも変な誤解しかしないんだ・・・
結局はちょっと強引にされて、ゆりの気はきれいにピンク色に変わってしまったのだった。
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