第10話
「ゆり様〜どうして会ってくださらないんです〜？」
部屋の外でどんどん扉をたたいていたのはレイアスだった。
「あれから全然あってくださらないじゃないですか〜」
「気のせいよ。そんなことないよ」
と扉の内側でゆりは言った。
「気のせいじゃないですよ」
外でレイアスはぶーぶー言っている。
「いつになったら会ってくださるんですか？」
「うーん、まあそのうちに・・・」
「じゃあ今日でもいいじゃないですか」
「イヤー今日はちょっと・・・」
朝方儀式の夢見ちゃったし・・・恥ずかしいったらありゃしない。
「もう、ゆり様ったら、あの時はあんなに大胆になってたくせにい」
「レイアス、それ以上言ったら首絞めるよ」
ゆりがドスのきいた声で言った時、レイアスが「ドルイド様」というのが聞こえた。
ドルイド？
ゆりはそっと扉を開けてみた。すると、レイアスの横にレイアスよりも顔半分背が高いドルイドがたっていた。
「あの・・・何をなさってるんですか？」
ドルイドはゆりを見て聞いた。
「あ、遊んでたの。レイアスと。」
「遊び？」
「ね、レイアス、遊んでたんだよね」
「はあ・・・まあ・・・」
「あ、ドルイドどうぞ入って」
ゆりはドルイドだけ招きいれた。
「えー？僕は？」
「レイアスはあさってきてよ。」
「もーわかりました。それじゃあ」
レイアスは去って行った。
「いいんですか？」
「うん。いいよ。あ、お茶お願い」
ゆりは部屋の中にいた侍女に言った。
「はい」
レイアスとゆりのやりとりを侍女は不思議そうに聞いていたが、余計な事は聞かずにさっさと出て行った。
ドルイドは棚においてある竪琴に目を留めた。
「弾かれるんですか？」
「弾くけど、下手なの。ディランとかがたまに教えてくれるんだよ」
「そうですか」
「ドルイドは何の楽器が弾けるの？」
騎士はたいてい何か一つは楽器ができるものらしいので、聞いてみた。
「私は笛です。横笛」
「へー」
ゆりは聞かせて欲しいなーという目で見つめてみたが、ドルイドは瞬いただけだった。通じなかったようだ。
二人は向かい合わせで座った。
「そういえばルークも笛吹くって言ってたなあ」
「ルーク・・・」
前にゆりが名前をあげた４人の中にルークが入っていたのをドルイドは思い出した。
「20何番かの騎士さん」
「知ってますよ。23番です」
「騎士の番号って何番まであるの？」
「５０番までです。それから下はありません」
「そうなんだ。その中で上の方なんだからディランやドルイドは相当すごいんだろうね」
「一番すごいのはハインリヒですよ。一番ですからね」
「ハインリヒは性格悪いのも一番じゃない？あはは」
ゆりが笑って言うと、ドルイドはちょっとびっくりした表情をしていた。
「だって、ハインリヒ、会うたびに嫌味言うんだよ。」
「そうなんですか？どうもすいません、ハインリヒは女性には優しいんですが・・・」
ドルイドは首をかしげながら言った。
「優しいのは美人にだけじゃないの？」
「え・・・」
「こっちも美人が多いよねー。女騎士さんも華やかな格好してるし、この一族の女の人って昔っから美人が多いんだね」
男も派手系ならば、女性もかなりゴージャスだ。この前の演奏会のときも、皆からだにフィットしたドレスを着ていたし、
スタイルがいいのでそれがまたよく似合っていた。それで力が強い女が強いのだから、まとめて向こうに連れて行けば、
向こうの男達はさぞかし喜ぶに違いない。
皆ほんと足長いもんねー私の足が短く見えるのもしょうがないよ、全く・・・
基本的に蛇の国の女性は欧米体型、胴は短く足はすらりと長い、向こうの世界ではゆりの足は短くはないのだが、こちらは
基本的に皆足が長いので、短く見えてることだろう。
問題は足だけでもないけど・・・・
基本的に一族の女性は皆目鼻立ちがはっきりしていて、鼻も高い。ゆりの日本人顔がのぺっと見えてしまうのも
しょうがない。
着物でも着れば対抗できたかもしれないが、そんなものはこの世界にはない。ドレスを着るとかなり不利だ。
「向こうでも王妃になりたてのころは、すっごく肩身が狭かったんだー。周り皆美人だったから。もう開き直っちゃった
けどね」
「・・・私は・・・あなたの外見好きですよ」
ゆりがあんまりしんみりしてきたのでドルイドが言った。
「どうもありがとう」
ゆりが微笑んだ。
その後お茶が運ばれてきて、二人はそれからはしばし明るい歓談をして別れた。
部屋から出たドルイドは、少しあたりを伺うようにして移動した。
そこは城の中にある騎士らの休憩室だった。
椅子に座って机にひじをついていたハインリヒは、突然目の前に現れたドルイドに睨まれて、いぶかしげな顔をした。
他に部屋にはだれもいない。
「なんだ？」
「お前はひどい」
「え？」
「ゆり様が、美人じゃないからハインリヒが冷たいと言ってた」
「え・・・」
ハインリヒは突然ドルイドにそんなことを言われて、わけがわからなかった。
第一ドルイドは一番ゆりと接点がなさそうな男だっただけに、ちんぷんかんぷんだ。
「別にそんなことは・・・」
ないと言おうとしたハインリヒだったが、考えてみれば散々容姿をけなすような事も言ったかもしれない。
「どっちかというと美人じゃないだろ」
「・・・」
「ディランが怒るなら分かるがなんでお前が怒るんだ」
「お前はリサには優しかったのに・・・・」
「リサ？なんでこれとリサが関係あるんだ？」
リサというのは亡くなったドルイドの妹だった。
「どこも接点ないだろ？」
「ある・・・」
「？？？」
リサはあまり健康な妹ではなかった。病気がちで、ドルイドの妹だけに、健康だったのなら、かなりの力もあっただろうに、
力の訓練も受けることができず、かなりの時を屋敷の中で過ごしていた。そのリサが、たまの外出で出会ったハインリヒに
憧れの気持ちを抱いてしまい、それを知ったハインリヒは何度もリサをたずねに屋敷に来てくれたのだった。
だからドルイドは、ハインリヒが女性に対して優しい男だと思っていた。
リサは病気がちなのを負い目に感じていたし、自分の外見を気にしていた風なゆりにドルイドはちょっと切なくなったの
だった。ドルイドは自分に自信がないような女性にはちょっと気にかかってしまうようだ。
「わけの分からない奴だな・・・」
ハインリヒはさっぱり意味がわかってない。
「おや？何二人で深刻な話してるの？」
ドルイドの横にぱっと来たのはフークスだった。相変わらずにこにこしている。
「何か知らないがドルイドが怒ってるんだ」
「ん？」
ドルイドは「別に・・・」と言った。
「それよりもフークス、この前儀式になりかけたって本当なのか？」
ハインリヒはフークスを見て聞いた。
「本当だよー。ちょっと待ってて、何か飲み物もらってくる」
フークスは消えた。
「儀式？」
ドルイドはその話は知らなかった。
「ちょっと前にしたらしいぞ。蛇霊神は降りてこなかったけど、フークスとレイアスとディランでやったらしいぞ」
「・・・そうなのか？」
ドルイドはちょっと上を向いて考えて、椅子に座った。
「何だお前も聞きたいのか？」
「聞くだけは聞いてみたい」
「お前は参加するのはやめておけ。ただでさえ普段その気にならないんだから」
ハインリヒは真面目な顔で言った。
「話を聞くだけだ」
フークスが戻ってきた。両手に３本小ぶりの酒瓶をもっている。
「はい、どーぞ」
フークスは二本置いて一本をあけて、そのまま瓶を口に運んだ。彼らにとっては酒は水のようなもの、これくらい飲んで
いてもだれも何も言わない。
「儀式すごく楽しかったよ。いろいろ想像と違っててびっくりしたけど」
フークスは酒を一口飲んで言った。
「祭壇に行ったのか？なんでそんなことになったんだ？」
ハインリヒが聞いた。
「成り行きみたいだよ。話聞いたら、ゆり様の場合はいっつも勝手に女蛇が降りてくるんだって。それで儀式になる
らしいよ。場所もお風呂で遊んでから寝室行ったし」
お風呂？
ハインリヒとドルイドが一緒に反応した。
「何でお風呂？」
ドルイドが聞いた。
「降りてきたのが水蛇だったから水の中が好きなんだって。女蛇が降りたゆり様すっごいかわいかったよ」
「・・・フークスのかわいいはよくわからないな。お前誰にでもかわいいって言うじゃないか。ディランは微妙な顔
してたぞ。話聞いても教えてくれないし」
「恥ずかしいからだろ？ディランもかなり楽しんでたよ。」
「ふーん。・・・さすがすごい巫女なんだな。男の相手がうまい」
ハインリヒの嫌味のような言葉にフークスは「ふふっ」と笑った。
「外見は全然そういう風じゃないのにやるもんだな」
「ハインリヒ・・・」
ドルイドがとがめるように言った。
「なんでそういう風に言うんだ。元々こっちが頼んだ事なのに・・」
「ふふ、ドルイド、ハインリヒはさ、前の巫女の恨みをただゆり様にぶつけてるだけなんだよね」
フークスの言葉にハインリヒはむっとした。
「そんなことはないし、前の巫女に恨みなんてない」
「ならそんな嫌味言うことないじゃないか。巫女っていっても彼女は向こうでは王妃様なんだから。巫女として育った
女性とはまた違うよ」
「・・・・」
「儀式は、なんというか雰囲気がすごくて、愛を感じたなあ。だから楽しかったな」
ハインリヒもドルイドも、よくわからない顔をしていた。
「なぜ蛇霊神はこなかったんだ？」
ドルイドが聞いた。
「男が少なかったから呼んでくれなかったっていってたよ。ドルイドも参加したいの？」
「え・・・それは・・・」
「ゆり様と仲良くなったら？すごくかわいらしい人だよ。儀式に参加しなくても仲良くなったらいいと思うよ」
「・・・」
「フークスはよっぽど巫女様が気に入ったんだな。」
「いやー僕は彼女の蛇紋にほれちゃって」
「蛇紋？」
「すっごいかわいい蛇なんだよ。これが」
ハインリヒも反応したが、ドルイドも反応していた。そこは一族の男だ。
「何色だ？」
「秘密だよ」
「お前それだけ言っておいて・・」
「見たかったら仲良くしたらいいだろ」
フークスは内心舌を出していた。
こういわれて興味が湧かない一族の男はいない。
さあ、これからどうなるかなあ・・・
二人の微妙な顔の男を横目にフークスは微笑んだ。
その頃、明日のゆりとのデートを控えていたルークは、砦の中で美しい女性騎士らに囲まれていた。
「ねえ、ルーク儀式の男に決まったって本当なの？」
「何で選ばれたの？」
「なんで？」
女達は興味深々だった。ちなみに４人の女達は皆、ルークと同レベルなので、ルークと呼び捨てにしている。
「・・・誰にそんなこと聞いたんだ・・・」
ルークは女達に詰め寄られて青くなっていた。
「だれって、女王様が言ってらしたわよ。ルークが有力だって、」
「仲良くしてるんでしょ？」
「部屋であったんでしょ？」
「それで巫女様がさらに気に入ったんでしょ？」
「・・・」
どうりで、他の騎士が変な目で見ると思った・・・もう広まっていたとは・・・・
「別にまだ決まってないよ。２回あったばかりだし・・・」
「でも明日会うんでしょ？」
それもばれていた。
すでにディランとレイアスとフークスは決定して、ルークもそれに入りそう、という話は、女王も知っているし、
女王の口から他の女騎士らも聞いて知っていた。謎なのは、なぜそこにルークが入っているかだ。
レイアスはディランの弟だから仲良くなったというのはわかるのだが、ルークはまるっきり接点はない。
つまり、ゆりが気に入って選んだという事になるのだ。
儀式は男達にとっても様々な意味合いを持つが、女たちにとってもそれは同様だった。
儀式に選ばれるのは、強さだけではなく、男としての魅力にあふれている者がたいてい選ばれるだろうし、
すごい巫女が選んだルークは、かなりの魅力があるに違いない、と女達は思っていた。
「みんな・・・目つき怖いんですけど・・・」
４人が４人ともルークをまるで狩人のような目で見つめている。
「私、前からルーク良いと思ってた」
一人がにこやかに言い出した。
「あ、ずるい。私も良いと思ってた。来年の赤い月は２日くらい一緒に過ごそうよ。」
「私もー、」
「え・・・ちょっと・・・そういう話は来年にしてくれよ」
「ばかね、儀式が終わってからじゃ遅いじゃん。」
「そうそう、今の内じゃないとさー、」
「ねールーク」
ルークはぱっと消えた。
「あ！逃げた！」
ああ・・・なんだか自信がなくなってきた・・・
儀式・・・誘われたらやっぱり辞退しようかな・・・
うれしい反面、怖い気持ちもあり、自分が参加してもいいのかという気になってきたルークだった
ハインリヒ様も入ってないのになぜ自分が・・・
それよりも、終わってから誘うんじゃなかった、とか言われたらどうしよう。
それも嫌だな。それくらいなら最初から辞退したほうが・・・
この前はちょっとその気になったルークだったが、日が経つにつれて不安が増していた。
「はあ・・・」
ルークが移動したのは城の周りの庭園の一角だった。バリカの庭にあるベンチに腰を下ろし、ぼんやりしていると、
「あールーク」
と女性の声が聞こえて、ルークはぎょっと顔をあげた。手を振りながら近づいてきたのはゆりだった。
「あ・・・ゆり様・・・？」
ゆりの左目が違っていたのでルークはちょっと首をかしげた。
「奇遇だねー」
ゆりはルークのすぐ側に座った。
「あの・・・左目が・・・」
「今ね、人格変わってるの。私二人いるんだ。よろしく」
「はあ・・・」
ルークの頬はちょっと赤くなっていた。
ゆりが体をぴったりくっつけていたからだ。
「ルークの髪って珍しいね」
「そうですね。黒と赤混じってますからね」
「お父さんが黒でお母さんが赤とか？」
「いえ、父親もこういう髪だったんです」
「ねえ、ルークの蛇って、もしかして赤い？」
ゆりは突然ドキッとするような事を聞いた。
「え・・・そうですけど・・・」
ルークはどぎまぎして言った。
「そうなんだ・・・・うれしいな」
ゆりはにこにこしている。
ミルキダスに似てると思ったのは、あながち間違いでもないようだ。とこちらのゆりは感じた。
「赤い蛇好きなんですか？」
「うん。好き。明日見せてほしいな」
ゆりの言葉にルークの顔が真っ赤になった。
「あ・・・明日？」
「うん。あっちの私は奥手だけど、私は蛇の見せあいっこで仲良くなりたい性分なの」
「はあ・・・」
「じゃあ明日ねー」
ゆりは立ち上がり、手を振って去って行った。
ルークも反射的に手を振ってしまい、その手をはっと見た。
「・・・」
儀式辞退しようかと思ったけど・・・でも・・・蛇が見たい・・・
外見がこちらの女性とは違うために、どんな蛇が体にいるのか、想像できなかった。
でも二人いるなんて、面白い人だなあ・・・性格違うみたいだし。
ルークはゆりの外見がどうとはあまり思っていなかった。ゆりが別にひどい顔をしていたわけでもないし、
基本的に黒髪で黒い瞳の女性というのは好みのタイプだったからだ。自分の髪が黒と赤だからもあるが、
同じ色の髪を持つ女性には、安心感を持つものだ。その上蛇の見せ合いっこをしたいと言われたら、胸の高まりが
押さえられない。しかも相手は位が高い女性で、前巫女には声がかからなかったルークとしては、そういう誘いは
ちょっとうれしかった。
ルークは今度は明日の事を考えてぼんやりしてしまっていた。
そして次の日の午後、ゆりが部屋で待っていると、ルークがやってきた。
「こんにちは」
「こんにちは、ルーク」
ルークもどきどきだったが、儀式の話をしなければならないゆりもどきどきだった。
ゆりはルークの胸の辺りが奇妙に盛り上がっているのを見た。
「何入れてるの？」
ルークはちょっと微笑んで上着を開いた。すると中から二匹の小さい蛇が飛び出してきてゆりはびっくりした。
「わー羽がある蛇だね」
「はい」
蛇はタツノオトシゴのような形で尾が後ろにくるっと丸まっていて、小さな茶色い羽根がついていた。二匹ともまだ
小さく、茶色っぽい色の蛇だった。部屋の中をパタパタ飛んでいる。
「かわいい」
ルークは一匹捕まえてゆりに渡した。
「かわいー、そういえばこっちで羽あるの見るの初めて」
「そうですか。」
ゆりは蛇の頭をなでて離した。
ゆりが無邪気に喜んでくれたのでルークはほっとした。
ある程度パタパタ飛ぶと、二匹の蛇は長椅子の上にぺたっと降りてきた。
「この二匹兄弟？」
「そうですよ」
ゆりは蛇の横に座ってじーと眺めた。
「眠そうにしてる」
ルークは蛇と反対側に座った。
「ねえ、ルーク、気もらってもいい？」
「気？」
「うん。私実は自分で気を作れない体質なの。それでいつも他の誰かからもらってるの」
「そうなんですか、いいですよ。私どうすればいいんですか？」
「じっとしててくれたらいいから」
ゆりは横からルークにべたっと抱きついた。
「こうやってると自然にもらえるの」
「はあ・・・恥ずかしいですね・・・」
二人ともちょっと頬を染めて、体を寄せ合っていた。
ルークは少しずつゆりの気に自分と同じ色の気が混じっていくのをみて、驚いた。
「面白いですねえ・・・」
「面白い？」
「これは楽しいです」
「そう？」
自分と同じ気の色に染まっていくのを見るのは、なんとも奇妙で、楽しいものだった。
しかも、良いにおいがするなあ・・・女王陛下と同じ匂いだ・・・
楽しいな・・・・
ゆりが顔をあげてルークを見た。ゆりの左目は蛇の目に変わっていた。
「あ・・」
「ねえ、ルークって、変化したら性格変わる？」
「え・・・さあ・・自分ではよくわからないですが・・」
「そう。口付けしてもいい？」
「え・・・はい・・」
ゆりはルークの首に腕を回して顔を寄せた。そして軽く口付けた。ルークはうれしそうな様子だったのでゆりはにこっと
微笑んだ。
「蛇の見せ合いっこしよう」
「いいんですか？本当に」
「うん。きてきて」
ゆりは立ち上がってルークを寝室に招き、二人で蛇の見せ合いっこをしたのだった。
ルークの右の脇腹には鮮やかな赤い蛇がいた。
ゆりは変化させるのはやめておこうと思っていたのだが、どうしても好奇心が押さえきれずにルークを変化させて
しまった。すると、ルークの右足にもう一匹赤い蛇が浮かんでいた。ルークは変化してもそう強引になることもなく、
紳士的だったのでゆりはほっとした。ルークが一番向こうの男に近いのかもしれない。
ルークはもちろん、ゆりの肌に浮かんだ二匹の蛇を見て喜んでキスしてくれた。
「あなたは優しい人ですね」
変化が解けた後、ルークが言った。
「どうして？」
「私にすごく優しくしてくれてうれしかったです。」
「私もあなたに優しくしてもらってうれしかった」
「本当ですか？」
「うん。」
ゆりはルークに抱きついた。
「すごく柔らかい肌ですね。」
「私の魅力は肌なの。儀式は向こうの私がするんだけど、ルークはもう決定ね。逃げないでね」
「本当に私が入ってもいいんですか？上の方を差し置いて」
「いいのよ。」
「後でやっぱりいいって言わないです？」
「言わないよ。私ルークのこと気に入っちゃったし、あっちもきっとそうだもん」
ゆりは微笑んで言った。
しばらくして黒目のゆりははっと目を開けた。気をもらったまま寝てしまったようだとゆりは思った。
「あれ？寝てた？ごめんね、気もらってたら気持ちよくなって・・」
「いいんですよ」
ルークは真っ赤な顔で微笑んでいた。
「退屈だったでしょ？」
「いえ、楽しかったです」
ルークが恥ずかしそうに言ったので、ゆりは首をかしげた。横を見ると二匹の羽がある蛇も眠っている。
「ねえ、ルーク、また呼んでもいい？」
「はい」
「その・・・儀式の候補にしてもいい？」
「はい。あの・・・今度蛇の見せ合いっこしてくれますか？」
「え・・・へへ、蛇の見せ合いっこ？」
ゆりの顔がますます赤くなり、耳まで真っ赤になった。
ルークは二人のゆりの差を面白そうに眺めていた。
「う・・うん、いいよ」
ルークは顔を寄せてゆりの額にちゅっとキスした。
わ・・・
「それじゃ今日は行きます。また」
「うん、またね」
ルークは眠っている二匹の蛇を抱いて部屋を出て行った。
ゆりは額をなでた。
・・・なんだかすごく恥ずかしかったー
ルークって、やっぱりいい人だな。優しそうだし・・・裏表なさそうな性格だし、前の時思い切って声かけてよかったな。
しかし、子供が３人もいて額にチューされるとは・・・
ゆりはしばらく恥ずかしげに頬を染めていたのだった。
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