いつの間にやら過去の世界にきて二月が経とうとしていた。男はそろう事はそろったが、まだドルイドは口約束

だけだったし、ルークもその程度の仲なのでもう少し仲良くなっておいた方がいいだろうとゆりは思っている。

向こうでも儀式をするまでには男たちとはそれなりの期間があったのに、こっちでは短期決戦だからゆりの気持ち的に

はかなりしんどいものがある。もっとゆっくり知り合って仲良くなりたいものだが、なんとしても後一月以内に儀式を

終わらせて元の時代に帰らなければならない。かといって毎日毎日男といちゃいちゃという気分にもなれやしなかった。


フークスとディランとレイアスはもう儀式しちゃったからいいものの、ドルイドは繊細そうだからいきなり儀式って

のはちょっと無理っぽい。ルークは大丈夫かもしれないけれど・・・

一度失敗するとしばらくは蛇が降りないかもしれない。なんとしても一度で決めたい所だ。


ゆりはお茶を飲みながらあれこれ考えつつ、目の前に座っている男を見た。

「なんでそこいるの？」

すると目の前の男が瞬いた。

「あなたに会いに来たんですよ」

青い短髪の男がなぜかゆりの向かい側に座っている。ゆりは部屋に入っていいとも言ってやしなかったのだが勝手に

入ってきていた。

「これからルークが来るんだよね。だから困るな」

「いちゃ困ることでもするんですか？」

「そういうわけでもないけど・・・」

ルークとは蛇の見せ合いっこをしようと言ってそのままだ。ルークはそういうつもりでくるかもしれないし、

他の男がいてはまずいだろう。


案の定、扉がノックされた。

「ほら、帰ってハインリヒ」

ゆりは目の前の男に言った。

「いやです」

「もー」

ゆりは扉を開けた。するとやっぱりルークだ。

「ルーク、今日は外に・・」

行こうよ、とゆりが言いかけたとき、

「悪いがお前明日にしてくれ」

とハインリヒが言った。その声にぎょっとしたルークは、

「わかりました」

といってさっさと去ってしまった。

「え、ルーク！」

ルークは瞬間移動で消えたのでもういなかった。

「ちょっとお、追い返さないでよ！」

ゆりはハインリヒにむっとした顔を向けた。

「いいじゃないですか、ルークとはもう仲良くなってるんだから」

ハインリヒもむっとして言っていた。

「全くもう、なんなのよう。あなたって人は・・・」

ゆりは両手を腰にあてた。

「ねえ、ディランには何度抱かれたんです？」

「は？」

「何度？」

なんか頭痛くなってきた。


その時もう一度扉がノックされた。ルークが戻ってきたかも、と思いあけると、そこにディランが立っていた。

「こんにちは」

「こんにちは、ディラン、あの馬鹿な人外出してくれない？」

ゆりはハインリヒを指さして言った。

「は？」

ディランは部屋の中でむっとした顔で座っているハインリヒを見た。

「何してるんだ？」

「別に」

「ハインリヒったら私に女神が降りたとたんに方針転換して私に迫ってくるんだよ」

ディランがぷっと笑った。

「そうなんですか。一番たちが悪いですね」

「そうでしょ？」

ハインリヒはますますむっとしている。

「なんなら私の屋敷に来ませんか？」

ディランが微笑んで言った。

「行こうかな」

「行きましょう」

ゆりはハインリヒにべーと舌を出してディランに連れられて行った。


「くそ・・・・・」

ハインリヒはふてくされてしばらく座っていたのだった。


第14話

黒目のゆりはディランの屋敷に来るのは二度目だった。

「今日はレイアスは？」

「お仕事ですよ」

「そうなんだ。最近蛇くれって言われないなーと思ってたんだけど・・・」

「そうですか」

レイアスとディランは蛇をもうもらっていたが、こちらのゆりは知らないことだった。

「レイアスはしばらく女神様の口付けの余韻に浸ってますからねえ、それどころじゃないんでしょう」

「そうかな」

ゆりはディランと並んで長椅子に座った。

「ドルイドも儀式に参加すると言ったそうですね」

「うん、でもどういうのかまだ知らないからねえ、もっと話しないと・・・」

ディランはゆりの頭をなでた。

「あなたがこの時代に生まれた女の子ならよかったのに・・・」

「ディラン・・」

「あなたと仲良くなればなるほど別れが辛いですよ」

ディランは悲しげに言っていた。

「ごめんね」

「今だけは、私だけの女の子でいてくれますか？」

「うん」

ディランはゆりを抱きしめた。


短い間でよかったのかもしれない・・・もっと長い時を一緒にいると、独占欲が芽生えてしまいそうだ。

向こうのあなたの恋人達は、一体どんな気持ちでいるんでしょうね。


ディランはゆりを抱きしめたまま寝室に移動して、そのまま裸にして肌を寄せたのだった。


しばらくすると、ディランはゆりを抱き寄せて、手を握り締めた。

「ねえ、さっき、蛇がこっちきたよね？」

ゆりが腕の中で聞いた。肌が寄せられていたので良くは見えなかったが、確かにそういう感触がしたのだ。

「そうですね。行ってましたね」

「ディラン全然驚いてなかったね」

「驚きましたよ？」

「嘘・・・」

「本当ですよ。」

「ディランの蛇、最初見たときと違ってたような気がしたんだけどなあ」

「寝てるうちに動いて上下が逆になってたんですよ」

「え？そんなことあるの？」

「ごくたまにあるみたいです」

「ふーん・・」

ディランの逆になっていた蛇は、また逆になり、最初とほぼ同じ位置におさまっていた。


ディランはしばらくゆりをなでてから言った。

「ハインリヒのことですがね、本当は、女神が降りて気が変わったんじゃないんですよ」

「え？」

「途中からあなたの事気になっていたけれど、言い出せなかったんですよ。女神はきっかけに過ぎないですよ」

「・・・」

「素直になったハインリヒはかわいいでしょう？」

「かわいいっていうか、全然私の言うこと聞かないし・・・」

「ハインリヒは黒髪の女の子好きなんですよ。前に好意を持った子も、綺麗な黒髪の女の子でしたからね。とても

純粋な子で、ハインリヒは嫌なことがあると彼女に会いに行ってました」

「今その彼女は？」

「もういません。病気で亡くなってしまいました。前の巫女が亡くなってまもなく。前の巫女はハインリヒにかなり

執着していましてね、他の女と仲良くするのも嫌がっていたので、ハインリヒはこっそり彼女に会いに行っていたん

ですが、巫女が亡くなってようやく自由になったという矢先のことでしたよ。あの時は本当にかわいそうでした」

「前の巫女は、そんなにハインリヒのこと愛していたの？」

「いえ、ただ、一番は自分のものにしておきたかったんでしょう。巫女を慕う騎士はたくさんいたんですが、巫女は

上位の者に執着していたので・・・私は逃げていたので、今ではハインリヒにはかなり悪い事をしたと思ってるんです

が・・」

「複雑だったんだね。前の巫女との関係。」

「あなたのように明るい巫女なら、皆楽しくやれたかもしれないですがね」

「ディランもハインリヒを儀式に入れてあげれば良いと思ってるの？」

「そういうわけではないですが、一人蚊帳の外はちょっとかわいそうですね」

「うーん」

別にハインリヒが嫌いってわけじゃなくなったけど・・・


「好きになった女が巫女というのも、ちょっと悲しいものですね・・・」

ディランはぽつりと言った。



ゆりが部屋に戻ると、当然ハインリヒはもういなかった。

この前やったキスだけの儀式なら、それこそハインリヒでも参加させてあげるんだけどねえ。

この前の女蛇降りてこないかなあ・・・名前聞いておきゃよかった。

今は脱皮中で聞けないし・・・全くもうハザーク様ってば・・・



さて、７８００年もの未来では、夜、ラクシュミがハザークのところにやってきていた。テーブルに酒は出ていたが、

あまり減ってはいなかった。

「ちょっと思い出したことがある」

ハザークが言った。

「女王が身ごもってる間、我は脱皮中の時があったと思い出した」

「脱皮？」

「我は一度脱皮に入ると、一年は人前には出て行かないからな。その時にちょうど王妃が来たのかもな」

「そうなのか・・・」

まさかハザークが何年に脱皮した、と日記をつけていたわけもなく、それだけを思い出すのに２月もかかって

しまったのだった。

「脱皮があけてそういう話は女王から聞いたかもしれないが思い出せない。多分王妃にあってはいないだろうから、

まあ、一年以内には帰ってくるんじゃないか？」

「一年以内・・・」

ラクシュミの頬が引きつった。

「まあ、せっかくだし、その間他の女と過ごせばいいじゃないか」

ハザークがラクシュミを見て言った。

「そんな気になるか。お前、私がそうしたら、帰ったゆりに言う気だろ」

ラクシュミが横目で見て言った。

「そんなことするわけないだろう。我はお前の事を愛しく思っているのに、ただ、傷ついた王妃を慰めたいとは

思うが・・・・」

侍女を使ってばらす気だな。こいつ・・・

「お前こそ、ゆりに執着しないで他に女でも作ってよろしくやったらどうだ？」

「それも面倒くさいな・・・」

ハザークはぶつぶつ言っていた。

側いにるとそうでもないのに、ゆりがいなくなるとゆりの体が恋しくて仕方がない。


「行ったのが女王の時代でまだよかった。王の時代なら、ちょっとやばかったな」

「そうだな。絶対抱かれてるな」

ハザークははっきり言った。

「王妃は金色の瞳の男に弱いからな」

「・・・」

ゆりを抱いた男は、今のところ、ラクシュミの他はハザークとザクートだけだった。

３人共瞳は輝いている。

「金色の瞳を持った王族とか他にいないだろうな」

「さあ・・・女王に兄弟がいたかもな・・」

「やばいじゃないか・・・」

「まあ息子も一緒だし、まさか居残るとは言わないだろう。」

「ゆりは情にほだされやすいから心配だ・・・」

ラクシュミははあとため息をついた。



ラクシュミの心配もゆりは知る由もなく、その頃ゆりはぐーぐー眠っていたのだった。



すすむ