「ドルイド」

「ゆり様」

二人は暗い寝室のベッドの上で、裸で抱き合っていた。ゆりの左目は蛇の目に変わっている。

今夜はドルイドの屋敷に遊びに来ていたのだった。

「あれ？ドルイドの蛇、こういう形だったかなあ・・」

ゆりはドルイドの胸を見て言った。

「実は動いたんですよ」

「え？なんで？」

「さあ・・・知らない間に動いたんです」

「へー・・・」

ゆりはドルイドの胸をなでた。

ドルイドはゆりの髪をなでなでしている。

二人は裸だったが、激しくいちゃついてもいなかった。ただそっと寄り添っていただけだ。

ミルキダスの時はかなり強引にしたゆりだったが、ドルイドに関しては自分でその気になったらそれで

いいし、ならなかったらそれでもいいくらいの考えだった。最初は触れられるのも嫌がっていたのだから

ここまでの仲になれただけでも進歩だろう。

「ねえ、ドルイドもガーベラに口付けされたんでしょう？どんな感じだった？」

ゆりが聞いてみると、ドルイドは多少頬を赤らめた。

「幸せな気分でしたよ。どうしてしてくれたんでしょうか」

皆が皆口付けされたわけでもないようだったので、ドルイドは不思議だった。

「どうも女神様は私たちが好意を持ってる男に口付けしてくれたみたいよ。」

「・・・」

「ハインリヒは何もされなかったからしょげてた」

「・・・私に好意もってくれてます？」

「うん。私ドルイドのこと好きだよ」

「本当に？」

「本当だよ」

ドルイドはゆりを抱きしめて口付けた。


ああ、ドルイドがこういう気になってくれてうれしいなあ・・・


ゆりはうっとりして口付けされていた。


「なんだかすごく幸せな気分です」

「私も」


ああ、その気になったドルイドってかわいい♪


そう思いつつ、ゆりはおなかになんか違和感を感じた。

「ドルイド、ちょ、ちょっと離れてくれる？」

「え、はい」

ドルイドが体を離してぎょっと目を見開いた。ゆりのおなかにべたっと紺色の蛇がくっついている。

「やっぱり・・・」

「あ。あれ？」

ドルイドは自分の胸とゆりのおなかををうろうろ見た。

「きっと私の蛇に会いたくってきたんだよ。私の蛇に合わせてあげたいな」

ドルイドは目を瞬いた。

「会いたくて行くなんてことがあるんでしょうか？」

「あるよ。肌の蛇だって恋するよ」

「・・・そうですね・・・そうかもしれませんね・・・」

ドルイドはゆりを抱きしめて、優しく愛撫した。やがてゆりの元と腕に蛇が浮かぶと、紺色の蛇は

胸元に移動して金色の蛇の上にべったりのっていた。


「好きです、ゆり様・・・」

「ドルイド・・・」

なんかまた蛇同士なんかしてるけど・・・まあいいか・・

ドルイドすごい興奮してるし・・・こっちからも何かしてあげちゃおうかな。


「ね、ドルイド、私は交われないから、代わりに何かしてあげるよ。何して欲しい？」

「え・・・別に・・何も・・・」

「遠慮しなくていいよ。口でして欲しい？」

「え・・・・」

「嫌じゃなかったらしてあげるよ？」

「・・・・嫌じゃないです・・・」

ゆりはドルイドに口付けて、体をずらした。


普段は進んでそんな気にならないのだが、今日はそういう気になってしまった。


短い間だからこそ燃え上がる思いもあるのかな・・・

ドルイドが私のことずっと覚えていてくれたらうれしいな・・・


二人の夜は優しくふけて行った。


第17話


「朝ですよ」

「うーん・・・」

「いつまで寝てるんです？」

「眠いー・・・」

ゆりはごろんと寝返りをうった。

「起きないと襲いますよ？」

「は・・・」

目を開けるとハインリヒの顔のアップがあり、ゆりはぎょっとなった。

「なんであんたって勝手に寝室に入ってくるのよ」

「あなたがお寝坊してるからですよ」

「うーん」

ゆりは目をこすりながら体を起こした。

「着替えるから出て行って」

「はいはい」

ゆりが服を着替えて部屋のほうに行くと、ハインリヒは椅子に座っていた。侍女が食事を用意してくれている。

「シスは？」

「とっくに行きましたよ。」

「もう少しだからがんばらなきゃって張り切ってますよ」

「そうなんだ・・」

ゆりは椅子に座ってむしゃむしゃご飯を食べた。

「ところでなんでいるの？」

「陛下が、儀式のつめた話をなさりたいそうですよ」

「そう・・・」

そういえば男が決まったとしか言ってないもんなあ・・・


「私すっかり忘れてたんですけど・・・まだあなたから蛇もらってないです」

ゆりは一瞬食べ物がのどにつまりそうになった。

「私もほしいなー蛇」

「儀式に参加するんだからもういいじゃん」

「・・・」

ハインリヒはすねた顔をしていた。

「マーの意地悪・・・」

「・・・」


こいつ、最初と絶対性格変わってるよ。


「わかったわかった。そんなに欲しいならあげるよ。ちょっと待ってて」

ゆりは部屋の外に出て行き、廊下にいた小さめの蛇をひっ捕まえて部屋につれて行った。

「はい、蛇あげる」

ゆりはハインリヒに蛇を渡した。ハインリヒは蛇を受け取ったものの、ゆりをじーと見ている。

「何その不服そうな顔は」

「・・・」

「蛇あげたでしょ」

あの顔は、また夜這いに来ようとか思ってるんじゃないだろうね・・・


「あんなに激しく愛し合った仲なのに・・・あなたって寝て起きると全部忘れる冷たい女ですね」

ぐは！


「あなたに言われたくないよ。」

「向こうの恋人には言われないですか？冷たいって」

「言われないよ」

言われたことあったような気がするが、ゆりは言い切った。

「そっちこそ、儀式に参加したいがために好きだの何だの言って迫ったんじゃないの？」

どうもハインリヒだけはよくわからない。全て言葉通りとも思えない。


「好きですよ。あなたの胸」


胸！？

「儀式でも他の男に触らせたくないなあ・・・胸・・・」


こいつは・・・・


「まあ、とにかく、綺麗に化粧して化けてから王の間に来てくださいね」

そう言ってハインリヒは出て行った。


「ねえ、あの人ちょっとおかしいと思わない？」

ゆりは部屋の中でやりとりを聞いていた侍女に聞いた。

「はあ・・・あの方が女性にああいう事を言うのを聞いたのは初めてです」

「失礼にもほどがあるよね」

「ですが、楽しそうに感じられました」

「私をからかって楽しんでるだけだよ」

「ですが、他の方も皆様、楽しいと感じられているようですよ。巫女様は誰とでも対等に話をされるので、

それで相手の方がつい素顔を出してしまわれるのですね。それが巫女様の魅力ですね」

「はあ・・・」

「ではお支度いたしましょう」

「はーい」

ゆりは綺麗に身支度して王の間に行き、女王に会った。

「すいません、おまたせして」

「いいや、よいのじゃ、そろそろ儀式の話をしたいと思うのじゃが」

「はい」

女王は席を立ち、ゆりに近づいた。

「では別室で座って話をしようぞ」

女王はゆりに軽く触れて移動させた。


部屋の中を見て、ゆりはぎょっとして体をのけぞらせた。

長いテーブルの周りに、ずらりと男達が座っていたからだ。全部で６人、儀式に参加する男達だった。

レイアスは小さく手を振っていた。

「皆も気にしていると思うので呼んだのじゃ」

女王はにこやかだったが、ゆりの顔は引きつっている。

「どうしたのじゃ？ゆり殿？」

「え・・・いえ・・・」

ゆりは仕方なく席に座った。

男達をちらりと見ると、ルークだけなんだか居心地が悪そうにしていた。


「儀式をする場所なのじゃが、やはり祭壇は使わぬのか？」

「はい、私はいっつもベッドでしてるので・・・できれば違う部屋用意してほしいんですけど・・

部屋にでかいベッドおいて可愛く飾りつけでもしていただければ・・・」


ああ、なんでわたしゃ男達の前でこんな恥ずかしいことを言ってるんだ・・・


ゆりは穴があったら入りたいくらい赤面していた。

「それで、儀式があったらわたしはどこにいたらよいのであろうか」

「王の間にいらしていただければいいんじゃないでしょうか。なにせ他人に蛇を入れるのは初めてなので

よくわからないですけど・・・まあ、なんとかなるのではないかと」

「そうであるか。わかった。では早速部屋のほうは準備させておこう。ゆり殿は何か騎士らに儀式の話は

ないのか？」

「え・・・いえ、別に・・・あの、ちなみに女王様はおなかの中にいるとき何匹ほど蛇が入ったんですか？」

「私の時か、10匹ほどではないだろうか。確か５回ほど儀式をしたが成功したのは２回だけだったと聞いておる」

「そうなんですか・・・」

まあ女蛇ってのはきまぐれだし、こっちがしたくても向こうがその気なくて降りてこないってのもあるのかなあ。

私みたいに勝手に降りてくるのは珍しいのかな。


「儀式が起こるのを楽しみにしておるぞ」

「はい」

本当に成功するのか不安だけどなあ。


女王は去って行き、ゆりと男たちだけ残された。残されてもゆりとしてはかなりきまずいのだが。

「楽しみですねえ。いつごろおきますかね」

レイアスが言った。

「さあ、向こうは気まぐれだからね。私部屋にもどろうっと。ちょっとドルイド一緒に来てくれる？」

「はい」

ドルイドがゆりを連れて瞬間移動した。


「ハインリヒも結局は素直になったんだね」

ゆりが消えた後、フークスが笑って言った。

「儀式は楽しみだけど、儀式が終わったら帰っちゃうのを思うと、しばらく起きないで欲しいとも思って

しまうなあ・・・」

フークスは両手を頭の後ろで組んで言った。

「そうですねえ、複雑ですね。僕の蛇が寂しがるだろうなあ・・・」

レイアスもため息をつきつつ言った。

「せっかく恋人ができたのに」

「蛇に恋人？」

ハインリヒが聞いた。

「レイアス、余計な事いうんじゃない」

ディランが言う。

「なんなんだ。教えろよ」

とハインリヒ。

「蛇が移動した事を言ってるんだろ？ゆり様の肌に」

フークスが聞くと、

「それだけじゃないですよ。ゆり様の蛇と仲良くしてた。」

「え・・・」

「ルークも仲良くした？」

レイアスが聞くと、ルークの顔は真っ赤になっていた。

「私お先に失礼します」

そう言ってルークは消えた。

「えーいいなあ、私は仲良くまではしなかったよ」

フークスが口を尖らせた。

ハインリヒは無言だった。



その頃、ゆりはドルイドに引っ付いてとりあえず気をもらっていた。

ドルイドはどこかうれしそうだったので、ゆりとしては、ドルイドが好意を持ってくれていてよかったと

思っている。

「この前、儀式の事強引に決めちゃったけど、本当に大丈夫？」

「大丈夫ですよ。」

「また今度光る虫がみたいな」

「まだ飛んでるかな？ちょっとわからないですけど・・・」

二人は軽く口付けをかわした。


ああ、なんだかドルイドとすごくひっつきたくなったなあ・・・


ゆりはドルイドの首に両手を回して口付けた。熱烈な口付けをしていたら、すごく体がむずむずしてきた。


もしかして・・・来るかも！？


そんな予感がした。ゆりはドルイドの頬をなでて言った。

「儀式になるかもしれない」

「え？もうですか？」

「うん。でも昼だから、ご飯食べてゆっくりしてからでいいかな。皆にもご飯食べてお風呂入って

ここきてって言ってくれる？」

「はい・・・陛下にも言ってもいいですか？」

「うん。部屋は間に合わなかったねえ」

「それでは私は」

「うん」

まさか今日すぐそうなっちゃうなんてなあ・・・まあいいや、早い方が。


いざこうなったら、すっかりゆりの気持ちは落ち着いてしまった。


ゆりは侍女に食事とお風呂の準備を頼んだ。

「いよいよ儀式になるんですね？」

侍女も緊張した面持ちだった。

「うん。成功するように祈っててね」

「はい」


そういえばさっきご飯食べたばかりだけど・・・まあいいか。


しばらくして食事が運ばれてきた。食事をしていると、ハインリヒが部屋に入ってきた。

「ご飯食べたの？」

「食欲がないです」

「何か食べないと、体もたないよ？」

ゆりがにやっとして言った。

「・・・儀式の前に、あなたの蛇欲しかったな」

「うーん・・・まああげてもいいけど・・・」

「今から？」

「後で、お風呂一緒に入る？」

「どうしたんですか？朝とは別人ですね」

「せっかくだからね。あなたにももっと私にメロメロになってもらわないと」

ハインリヒはきょとんとした顔をしていた。

「メロメロ？」

「メロメロ」

「メロメロねえ・・・」

ちょっとばかにしたような顔つきだ。

今に見てろ。絶対メロメロにさせてやる。この前みたいにされるがままなんてやだもんね。


なぜかゆりは燃えていた。



すすむ