梅雨に入り始めた１２の月の最初ころ、ゆりはハザークの塔を訪問していた。「こんにちは。ハザーク様♪」
左目を押さえて入ってきたゆりは、ばっと左目から手を離した。左目は黄色と黒の目だ。
「またお前か。何の用だ」
ハザークが寝そべったまま言った。
「実は、私ハザーク様と仲良くなろうと思って」
ゆりはにこやかに言ってハザークの長椅子にちょっとだけおしりを置いて腰を下ろした。
ハザークは煙たげな顔を向けている。
「この前は急だったからあれだけど、これからじょじょに盛り上がっていけば、次の子供の時にはばっちり燃え上がるでしょ？」
「・・・・」
「ね」
ゆりはウインクした。
ハザークはずーっと無言だった。
「だからまずは世間話から。はいどうぞ」
はいどうぞといわれてハザークが世間話をするわけもない。
「あのな・・・王妃・・・」
「じゃあ私から話すね。えーと、ハザーク様の大好物って何？やっぱり生肉とか？」
「あのな王妃」
ハザークは先ほどよりもちょっと大きな声で言った。
「何」「我は・・・どうせ抱くなら向こうの王妃の方がいいな」
「そんなわがまま言わないで」
ゆりは睨んで言った。
「なんでわがままなんだ」
「あっちもこっちも体一緒だから」
「体は一緒でも中身が違う」
「いいじゃないどっちでも」
「よくない」
「そんなこと言っても、向こうとそういう関係になりそうにないじゃない」
「・・・」
それは、蛇の目のゆりが指摘したとおりだった。
黒目のゆりはよくここに来るとはいっても、ほとんど侍女と話をするくらいだし、別にハザークと仲良く座ってる
わけでもない。どちらともなく盛り上がる雰囲気には、あと１０年たってもなりそうにない。100年経っても無理かもしれない。
「向こうと私、中身もたいしてかわらないよ？」「全然違うだろ」
ハザークは力を込めて言った。
「どこがよー」
「向こうはお前ほど打算的じゃない」
「私はどうせそうなるなら、ハザーク様ともっと仲良くなりたいだけだよ。子供のためだけにそうなるのもやだし」
「・・・・」
「そりゃ、むこうがハザーク様とそうなるならそうでいいけど・・・ハザーク様、あのこと向こうに言うのやでしょ？」
ハザークは黙っていた。
「王様も、向こうにはあのこと言う気ないよ」
ハザークにはお腹の子供の力を上げる力がある。だがそれは、ハザークが情を持った女にだけすることで、
情を持つには身体を重ねるのが一番のようだ。ラクシュミはその事を黒目のゆりに言う気はないようだった。
「だから私と仲良くなろうよ」
「・・・とりあえず、今日は帰ってくれ」「じゃあまたくるね」
ゆりは出て行った。
「・・・ヴァリーン、お前、あの王妃どう思う？」ハザークは椅子に座っている侍女に聞いた。侍女は二人のやりとりをずっと聞いていた。
「素直な方だと思いますよ」
「・・・素直・・・」
「悪気はないようですし・・・」
「我は・・・向こうの方がいい。どうせ抱くなら」
もし再びゆりが妊娠し、先ほどの蛇目のゆりがハザークに力を上げてくれと訴えたとしたら、ハザークとしても
あげてやる気になるだろう。別に抱かなくてもあげてやるかもしれないが、もし抱くとしたら、なじみのある
いつものゆりの方がいい、そう思っていた。
「なら、くどかれたらいかがですか？」
侍女が微笑んで言った。
「くどく？」
「はい、あれとは関係なしにそういう関係になってしまえば、言う必要もないですし・・・幸いあちらの王妃様は、ハザーク様には
かなりの好意を寄せておられますし」
「くどく・・・のか？我が？」
ハザークは微妙に眉をひそめていた。
「そうすると、我がえらく王妃を好きみたいじゃないか」
「違うのですか？」
「・・・・」
「よいではないですか。王妃様がいらした時のハザーク様は、うれしそうですよ」「そうなのか？」
「はい・・・」
侍女の指摘は、自分では思ってもいない事だった。
「くどく・・・」
ハザークは眉をひそめて考え込んでいた。
第５話
梅雨に入って数日、今日は雨は降っていなかった。ゆりは、子供らが誰もかまってくれなかったので、ハザークの塔に行くことにした。
アナスターシャもシスも結界の修行、ラギはフレイがさっさと研究所とやらに連れて行ってしまった。フレイはかなりラギを可愛がり、よく研究所に連れて行ってるようだ。ラギは何が面白いのかえらく楽しみにしていた。
ラギが首に赤と青の毒蛇をぶら下げて帰ってきた時はさすがに蛇に慣れているゆりもぎょっとしたものだ。一族の者は蛇の毒には耐性があり、
もし万が一咬まれても大丈夫らしい。ということは、一族の人間ではないゆりは万が一咬まれたら死ぬってことだ。
今までこの世界に来て蛇にかまれたことはないが、そう考えるとちょっと怖いゆりだった。
ラギは一人部屋をもらい、ゆりから離れて行ってしまった。シスの部屋の横で、３人共部屋は並んでいる。ゆりの侍女たちは、ラギを産まれた時からずっと見てきて、可愛いと思っていたので、ゆりの侍女らが交代でラギの世話をすることになった。
力があろうとなかろうと、子供らには関係なく仲良くしているようだ。夜はラギはシスと一緒に寝たりしてるらしい。
子供らも手を離れてしまい、ゆりは手持ちぶさたになったので、また竪琴を習うことにしたのだった。
城の一階で出会った戦士にハザークの塔まで移動させてもらって、ゆりは階段をのぼってハザークの部屋の扉をノックした。
「いらっしゃいませ。王妃様」ハザークの侍女が変わらずゆりを出迎えてくれた。
「こんにちはー」
中に入ると、ハザークは座ってお茶を飲んでいた。
「こんにちは。ハザーク様」
「ああ」
ハザークはちらりとゆりを見て言った。
「あのねー、そろそろ竪琴をまた教えてもらおうと思って」
ゆりは部屋の右の方にあるテーブルがある方のいすに座り、侍女に言った。
「いいですよ。何日に伺いますか？」
「１日と１０日にしようかな」
「わかりました」
侍女は微笑んだ。
「ハザーク様、また披露してあげますね」
ゆりはハザークを見て言った。
「またお前の下手な竪琴が聞けるのか。それはありがたいな」
ハザークは嫌味のように言ったが、ゆりは笑っていた。
ハザークはゆりの竪琴を聞くのが嫌ではないらしいとゆりは気づいている。本当に嫌なら、聞くはずはないからだ。
ラクシュミはゆりの竪琴なんて一度も聞いたことはない。
「王妃ちょっとお前に話があるのだが・・・」「なんですか？」
侍女がハザークの元に行き、食器を受け取った。
「横に来い」
「はい」
ゆりはハザークの横に移動した。
「実は・・・お前を抱きたいんだが・・・」
ハザークの口から発せられた言葉に、ゆりはしばらくあっけにとられていた。
ゆりがあっけにとられてるころ、末っ子のラギは、白衣を着た若い男たちと林の中にいた。男たちは医学研究所の職員で、医学の研究をしている者たちだった。この林の近くには医学研究所の建物があり、
医者養成所のような役割も果たしている。３人の男たちは林の中にはえている草や花を見て、いろいろラギに説明していた。
ラギの髪は青みがかっていた。染料で染められていたのだ。ラギは瞳が茶色だし気質も王族の気ではなかったので、
簡単に一般人に変装することができた。それでも男たちの手にはそれぞれ蛇の毒を塗った針が握られている。
空にはどんよりした灰色の雲が浮かんでいた。もう少ししたら雨が降りそうだ。梅雨の時期は虫が発生しやすい。
周りにも小さい虫が飛び交っていた。ラギも他の連中も、虫除けの液体を肌に塗り、虫を防いでいた。
「ラギ様、この花は面白いんですよ。朝は青くて夜は白くなるんですが、白い時に採って煮詰めて目に貼っとくと、目の疲れが取れるんですよ」
「面白いですね」
ラギはニコニコして聞いている。
「ラギ様、この草痛みを取るのにいいですよ」
他の男がギザギザの草を指さした。
「じゃあそれとろうっと」
ラギはもっていた白い袋に草を抜いていれた。
「それからこれが・・・・」ラギは熱心に男たちの説明を聞いて、袋の中にいろんな草をいれていた。
「ラギ様は頭がよろしいから、将来植物の研究者になったらよいですよ」男の一人が言った。
「ラギ様はお医者さんになるんですよね」
「母さんが、医者は高給だからって」
３人の男たちが固まった。王族なのに給料の心配をしなくても・・・と思ったのだ。
「でも、植物って面白いですね。いろんな形があって。お花もいろんなのがあって。僕いろいろ研究してみたいな」
「面白いですよ。薬草になる草も一杯ありますからね」
「じゃあ僕は、お医者さんで古代語と植物の研究者になりますね」
とラギは無邪気に言った。
まだ４歳ながらに、結構将来の夢は膨らんでいるようだ。
一方ハザークの塔ではー
「王妃・・・ちゃんと聞こえたか？」ゆりがあまりに動かないのでハザークは伺うように聞いた。
オマエヲダキタイ・・・御前を打気たい・・おまえを・・・・
ゆりはいろいろ意味を考えていたのだが、ひとつしか思い当たる節がない。「あのー今なんて言いました？」
幻聴かと思い聞き返した。
「お前を抱きたいっていった」
「・・・・」
ゆりはちらりと視線を他に向けた。侍女を見ようとしたが、侍女はいつの間にかいなかった。
「あの・・・どうしたんです？突然。熱でもあるんじゃないんですか？」
今までそういう雰囲気にすらなった事がないのに、なぜ突然こんな事を言い出すのか、
ゆりは不思議でたまらなかった。
「熱は別にない」
「それってどういうことなんですか？」
「お前を抱きたいってことだ」
「ですから・・・私を愛してるって事なんですか？」
ゆりはそう聞いた。
「・・・そこまでは言ってないが・・・」
ハザークはちょっと困ったように言った。
「愛してないのにそんなこと言われても・・・」
「なら愛してるといえばいいのか？愛してる」
ハザークはかなりそっけなく言った。
「これでいいか？」
全く心がこもってない。
何なんだ。この人は・・・・いや、この蛇は・・・
ゆりの頭の中はかなりの混乱状態にあった。まさかハザークからこんなことを言われるとは夢にも思ってない。
まさか夢じゃ・・・・
そこまで思い始めていた。
私、白昼夢でも見てるのかも・・・・
それともやっぱり熱でも。ゆりはそっとハザークの額に左手を当てた。ひんやりしている。
もしかして、私が熱？
ゆりは右手を自分の額にあてた。普通だ。
「何をしてるんだ？王妃」「ハザーク様が変なこと言うからですよ！」
ゆりは額から手をはずしていった。
「どこが変だ」
「なんでいきなりそうなるんです」
「いきなりでもないだろう。我はお前とであってから、結構たってる」
「そりゃそうですけど・・・・私には王様がいますからそういうわけには・・・」
「お前他の男達とはそういう関係じゃないか」
ゆりはぎくりとした。
「それは・・・その・・・儀式だから・・・」
「儀式だからではないだろう。お前が男と交わるのが好きだからじゃないのか」
「え・・・・」
ゆりの顔が引きつった。
かなり身も蓋もない言い方だ。
ハザークはゆりが男たちとそうなってると思っているようだ。ゆりとしては、説明するのも面倒なのであえて否定もしてなかった。「そんな言い方されたら、私がすごくエロいみたいじゃないですか！ひどい！」
「エロイ？」
「私は王様以外には抱かれてません！」
ゆりははっきりとかつぜつよく言い切った。
「じゃあ儀式では何してるんだ？」「男達と、何もせずに仲良く抱きあってます。ずっと」
「・・・・」
ゆりは大真面目な顔で言ったが、ハザークは疑いのまなざしを向けていた。
「本当ですよ」
「なら今度儀式見てもいいか？」
「嫌ですよ！何言ってるんです！」
ゆりはあわてていった。
「・・・・なら・・・仲良く抱き合うのならいいのか？」「え・・・・」
「それともお前は、我のことが嫌いなのか？」
「嫌いじゃないですよ」
「ならいいだろ？」
「ならいいって・・・」
なんか・・・金色の瞳でずっと見つめられてたら、王様に見られてるようなきになってきた・・・。やばいなあ・・・
「別にすぐ抱かれなくってもいいぞ。まあ数年後までじょじょにそういう気になれば」「え？」
「今日抱かれなくてもいい」
「そーなんですか？」
ゆりは引きつった顔で聞いた。だが、今日そうならなくていいといわれ、少しほっとしている。
「まあ今日はこのくらいで」
ハザークはゆりの腕をつかんでひっぱった。
「ぎゃ！」
ハザークに抱きしめられて、ゆりの顔が一気に赤くなった。
「お前は本当に体温が高いな・・・」
ハザークはちょっといやそうに言った。
「なんなんですか。ハザーク様本当に私のこと好きなんですか！？」
ゆりが真っ赤な顔で聞くと、
「お前の短い足にもすっかり慣れた」
ハザークはあっさりそういった。
なんだそりゃ！ 全然ほめてないじゃん！
「まあ、巫女としてのお前には興味があるな。見かけは全然巫女らしくないのに、何度も儀式をしてるのは不思議だ」ハザークはゆりの腰に腕を回して、ゆりの腕をなでていた。時々親指で軽く肌をおしている。
なんか・・・・変な気になってきた・・・・
じわじわと体の奥が熱くなってきた。
「もしかして・・・変なつぼ押してないですよね？」ゆりはもしやと思って聞いた。
「つぼってなんだ」
「つぼっていうのは・・・・えーっと・・・あの・・・そんなまじかで見られると・・王様に見つめられてる気になるんですけど」
ハザークの顔がえらく近くにあり、ゆりはどぎまぎした。顔立ちはラクシュミとは違うが、ハザークもかなり整った顔立ちを
している。威厳があるような神秘的な所はラクシュミに共通しているといえよう。
「そうか。なら王だと思ってもいいぞ。別に」
「へ」
ハザークの顔がもっと近くなり、ゆりはぎょっとしながら唇を覆われた。
「うー・・・・」
手足をばたばたばたつかせていたが、しっかり体を押さえられていた。意外にすごい力だった。
ハザークの舌が口の中にはいってきた。「んー・・・・・」
しばらく舌を絡めた後、ハザークが唇を離した。
「また来い。王妃」ハザークは冷静な顔で言った。
「もう二度ときません！」
ゆりは真っ赤な顔でいって、逃げるように部屋を出て行った。
なんなんだあの人は！
ううーううー・・・なんか・・・やばい・・・
ゆりは塔の階段の所の壁に、べたっと横にもたれた。
ハザーク様って・・・体型は王様と一緒だし・・・瞳も同じように輝いてるし・・・
口調も似たようなもんだし・・・・
迫られたらやばいかも
ゆりはハザークにミカエル以上の危機感を感じていた。
・・・そういえば・・・・最初に王様も、私を抱いてみたいってかなりストレートに言ってたなあ・・・もしかして・・・二人って似たもの同士？
ゆりはその事実に愕然とした。
よろよろと石の階段を下りて、塔の一階から外を見ると、いつの間にやら結構雨が降っていた。ここからお城の出入り口までは屋根になるようなところはない。
「あーあ・・・」ゆりはため息をついてぼんやりしていた。
全く何考えてるんだろう。ハザーク様って・・・
ぼんやり空を眺めていたゆりは、きらりと光ったようなものが見えた気がした。
ジュノーは城の一階を歩いていて、ずぶぬれのゆりが先の廊下を曲がってきたのでぎょっとした。水が廊下に滴っている。「王妃！風邪引きますよ！」
ジュノーはゆりの前まで瞬間移動していった。
「あ。ジュノー♪」
ゆりはべたっとジュノーに抱きついた。
あれ？何かおかしいな
ジュノーはそう思った。ゆりはずぶぬれながらも笑っている。ノリとしてはもう一人のゆりのようだったが、さすがにむこうも廊下で抱きついたりはしないのだ。
「・・・もしかして・・・誰か降りました？」「えへ、遊びにきちゃった♪」
ゆりは無邪気な顔でいった。
ジュノーはとにかくゆりと別室の方に移動した。タンスを開けてタオルを引っ張り出してゆりの頭にかぶせて髪をふいた。
「服もすぐぬがないと」
「うん」
「蛇の儀式じゃないですよね？お子様いないから」
「・・・」
その時、ゆりがはっと正気に戻った。
「あれ？なんか私おかしかった？」
「誰か降りてましたよ？」
ジュノーはゆりの顔をタオルで拭きながらいった。
「なんか・・・変な気がする・・・」
「儀式でもないのになんで降りたんですかね？」
「うーん・・・・なんか・・・フリットにすごく会いたい」
「この前の水蛇さんじゃないんですか？きたの」
「ううう。そーみたい」
ゆりはべたっとジュノーに抱きついた。
「フリット殿だけでいいですか？呼ぶの」
「うん」
しばらくしてやってきたフリットは、ベッドの上でゆりとジュノーが裸で抱き合っているのを見てぎょとした。ベッドの下にはぺっとり濡れた服が脱ぎ捨てられている。
「ジュノー・・・？」
ジュノーから思念をもらっておかしいなとは思ったフリットだったが来てみたらやっぱりおかしい。
「フリット殿がきましたよ」
ジュノーがゆりに言った。
「あ、フリット」
ゆりはこんな場面を見られても、ニコニコ笑っている。
「どうも水蛇さんが降りてきたみたいですよ。雨降ってるからかしらないですけど」
ジュノーはゆりの上からどいた。
「そうなのか？でも、儀式じゃないんだろう？」
「ちょっと遊びたくなったの。いいでしょ。たまには」
「いいですよ」
とジュノー。
フリットがベッドに座ると、ゆりは後ろからべったりフリットにだきついた。
「王妃・・・」
フリットはゆりの体を抱き寄せた。久しぶりの感触だった。
「なんだかミカエルに恨まれそうですが・・・」
「いいんですよ」
ジュノーはあっさりいった。
「フリット、まだ私のこと愛してる？」
「愛してますよ。王妃」
フリットはゆりに口づけた。
しばらくして正気に戻ったゆりは、「ぎょえー」と心の内で叫んでいた。といっても記憶がないわけではない。かなり興奮したのもちゃんと覚えている。
いろいろしてしまったのも。
なんで儀式でもないのにこんなことに！
降りてきた女蛇は、もういなかった。
「大丈夫ですか？王妃」目の前にジュノーの顔があった。青い優しげな瞳がじーっと自分を見ている。
「・・・・」
反対側を見ると、フリットが自分を見ていた。いつものお兄さんの目とは違っている。
「・・・・かなり盛り上がった？」
ゆりはちょっと聞いてみた。
「久しぶりにあなたのいいにおいがかげましたよ。」
ジュノーがいった。
「うれしかったですよ。王妃」
フリットが微笑して、ゆりの頬に口づけた。
「３人の秘密にしときましょう。ね、王妃」ジュノーがゆりの髪をなでながら言った。
「うん。お願いだからミカエルに言わないでね」
「言いませんよ。その代わり、口付けしてください王妃」
フリットが顔をもっとよせた。
「え、さっきしたじゃない。いっぱい」
「誰も降りてないあなたにされたいんですよ」
「じゃあ私も」
ジュノーまでいい、ゆりは二人と熱い口付けをした。
それは儀式ではなかったので、男二人に愛撫されたあとがしっかり肌に残っていた。あちこち赤くなってるは太ももには歯型があるわで、散々だった。
くそー、これも、ハザーク様が変な気分にさせたせいだー
それとも私がやりたがっただけ、かも？それはそれで問題だ・・・
だけど６人も男いなくてよかった・・・・いや、そういう問題でもないかも。
３人も子供がいるのにこんなんでいいのだろうか・・・・
最後にはそこに行き着くのだった。
すごく興奮しちゃったけど・・・さすがに今夜は王様に会えないや・・・
ゆりはその日はおとなしく自分の部屋で寝たが、寝るに寝れなかった。
次の日の夕方、客が途切れたころ、王の間にフレイと、フレイに隠れてラギが入ってきた。「王、これラギ様からの贈り物ですよ」
フレイは言いながら、ラクシュミに紙に包まれた物を渡した。
「？」
それは平べったいもので、開けるとものすごい薬草っぽい匂いが漂ってきた。
「これは？」
「湿布です」
「湿布？」
「はい、王がずっと椅子に座っていらっしゃるので、さぞかし腰が痛かろうと、ラギ様がおつくりになったんです」
「・・・・」
私は別に腰痛では・・・・
ラクシュミが硬直していると、フレイから思念が来た。
ー喜ばれてください。王。一生懸命作られたんですから
「ラギ、お前が作ったのか？」ラクシュミがフレイの後ろのラギを伺うように聞くと、ラギが少し横から顔を出して「はい」と言った。
「そうなのか。すごいな。ちょうど、腰が痛かったんだ。非常に」ラクシュミが笑みを浮かべてそういうと、ラギはちょっとうれしそうな顔をした。
「王が喜んでくださってよかったですね。王子」フレイがそういうと、ラギはうなずいた。
「ラギ、お前も朝食後他の子らと一緒に毎朝ここに顔を見せにこい」ラクシュミがそういうと、ラギは「はい、王様」と言って、二人は出て行った。
湿布・・・
ラクシュミはしばらく息子からの贈り物を見つめていた。四角い布が重なっていて、その間に薬草か何かが塗られているようだ。
湿布を作るなんて４歳児の発想じゃないだろう。ラギの頭の中はどうなってるんだ？
ずっと薬草の匂いをかいでると、ちょっとやな気分になってきたラクシュミだったが、せっかくの贈り物を捨てるわけにもいかなかった。
初めて息子が示した自分に対する好意。そう思うとまんざらでもない。
私のことを嫌ってるわけではないのだな・・・・
次の日の朝から、アナスターシャとシスと一緒に、ラギも王の間に挨拶にくるようになった。ラギは相変わらず誰かの後ろに隠れている。他の大人とは普通に接しているようなのに、なぜ自分の時は誰かに隠れなければ会えないのか、ラクシュミには
謎だった。
その日、王の間に来たミカエルはラクシュミに近づいてちょっと首をかしげた。「王、どこかお悪いんですか？」
「いや」
「何か、薬のような匂いがしますが・・・・」
「気のせいだろ」
「いいえ。しますよ。匂い。どこか痛いんじゃないんですか？」
「うるさいな。気のせいだ」
ラクシュミはそう言い張り、ミカエルは不思議そうに首をかしげた。
扉の側にいた二人の番兵は顔を見合わせて少し微笑んだ。
どうやら親子の距離は、少し縮まったようだった。
進む