第６話
ゆりは部屋で一人ポロンポロンと竪琴を爪弾いていた。今日は１２の月の１０日、本当に久しぶりに、ハザークの侍女が竪琴を教えに来てくれる日だった。ゆりはシスを生む前竪琴をやめてから、一切弾いていなかった。それでも指は覚えているだろう。
そう思ったが、一番簡単な曲が弾けるくらいで、そのほかになると思い出せない。
私って・・・・ほんと記憶力悪いね・・・
これじゃあ王様に聴かすのは一生無理ね。そう思っていると、扉がノックされて開けるとハザークの侍女がいた。ゆりはもう一度、数年前に教えてもらった曲を丁寧に教えてもらった。
それにしても、ハザークの侍女はなんて心優しい女性たちなんだろうとゆりは感心する。自分なら、こんな覚えの悪い生徒に
教えるのはいやだ。何回か弾いてると、昔の感覚がちょっとだけよみがえった。
時間を見計らったように、ゆりの侍女がお茶を運んできてくれた。
「こうしてると、なんだか不思議だな。デジャブみたい」「デジャブ？」
「昔と同じような気がして。子供は３人もできてるけど、私も、侍女さんも変わってないから。」
「そうですね」
「侍女さんは、今まで他の人に竪琴教えたことあるの？私みたいに」
「いいえ。王妃様だけですよ」
「そうなんだ」
「他にそういう要求をする方もおりませんでしたから」
「そうか。私みたいなずうずうしい人はいなかったのね・・・」
竪琴を教えてほしいといったのは、もう７、８年前のこと。そのころから腕前はあまり上達していないのは悲しいところだ。
「ところで王妃様、今日の午後、こちらにいらしてはいかがですか？」侍女は話題を変えた。
「え、今日？今日はちょっと・・・」
「では明日は」「・・・ハザーク様、この前変だったんだよ。私に迫ってきて」
ゆりはこの際侍女に相談する事にした。
「まあ、ほほほ」
と口元に手をあてて侍女は笑った。
「ほほほって、私はびっくりしたよ」
「王妃様はハザーク様のこと、お嫌いですか？」
「好きだよ。だけど」
「お好きならよいではないですか。この国では、王妃様が恋人をもたれても、別段誰も何も言いませんし」
「でも、ハザーク様を恋人にするわけにもいかないし・・・」
「あれほど美しい方は、他にいらっしゃいません」
侍女は大真面目な顔でいった。
「王様だって美しいけど」
「ラクシュミ様よりも、ハザーク様の方が美しいです。２倍は」
「・・・・」
優しい侍女の目が、今日は怖かった。
「そうね。ハザーク様のほうが美しいよね。２倍は」
ゆりは怖かったのでそういった。
「でも、美しいハザーク様には、もっと美しい女性の方が似合うんじゃないかな。私じゃ似合わないよ」
「美しい女性は世の中にたくさんおりますけど、王妃様のような面白いお方は、そうはいらっしゃいません」
「はあ・・・」
私って、面白さが売りなんだ・・・・ゆりは初めてそう気づいた。
「ですから、たびたびお顔を見せてくださいませ」「はあ、わかりました」
・・・・まあ、気をつけてればいいか。基本的にはハザーク様のこと、嫌いじゃないしな・・・
休憩が終わり、もう少し竪琴を教えて、侍女は去って行った。
昼食の時間、食堂に行くと、アナスターシャとシスしかいなかった。「ラギはどうしたの？」
「ミルキダスがつれていったよ。夕方には帰るって」
アナスターシャが言った。
「そう。またバラクやるのね。」
儀式の男たちの中では、一番ミルキダスがラギを可愛がっている。ゆりの顔を見ても「ラギ様は？」と真っ先に言うくらいだ。
ラギがバラクを覚えてから、一緒にやるのが楽しくてしょうがないようだ。
「バラク・・・ラギに教えてもらったけど、よくわかんなかった。」
シスが言った。
力がなくて不憫な子だ、と思っていたが、最近は全然不憫じゃないような気がしてきたゆりだった。
大人になっても結構楽しくやってそうな気がする。
「母様これみてー」ご飯を食べていると、シスが手をテーブルの上に出して手の平を上に向けた。
ゆりが覗き込むが、何もない。
突然手の平にぼっと火が燃えて、ゆりは驚いた。火はぱっと消えた。
「えへへーすごいでしょー」
「これ、シスの力なの？」
「うん。そうみたいー」
ゆりはアナスターシャの顔を見た。アナスターシャは口をへの字に曲げていた。
もしかして・・・アナスターシャにはできないのかな・・・・
そう感じた。「ご馳走様！」
アナスターシャはそう言って食事も全部食べずに食堂を出て行った。
「シス、さっきのアナスターシャできないんじゃない？」
「そうみたい」
「・・・・」
同じ子供でも、力には差があるようだった。ゆりは力のことには疎くて詳しくはわからないが、アナスターシャよりもシスのほうが、結界を作ったりする力は上かもしれないとラクシュミも言っていた。
もしかして・・・・入れた蛇霊神の数に関係あるとか？
確かにアナスターシャよりもシスのほうが、蛇は一杯入った。だが、そんなことが関係してるのかどうかは疑問だ。
「シス、アナスターシャどこにいるかわかる？」「お外にいるよ」
「ちょっと連れて行ってくれる？」
「いいよー」
ゆりはシスに瞬間移動してもらった。アナスターシャは庭園の花壇の間に座り込み、地面にいる蛇を眺めていた。
「アナスターシャ、大丈夫？」ゆりは横にしゃがんで、アナスターシャの髪をなでた。
「私、まだあんなことできないから悔しい」
「でもアナスターシャは他に一杯できることあるじゃない」
「だけど・・・」
「みんなそれぞれよ。得意なことがあれば不得意なこともあるんだから、気にしちゃだめよ」
「うん。・・・そのうちできるようになるもん」
「そうよ。がんばって」
「追いかけっこならシスにはまだ負けないもん」
アナスターシャは立ち上がった。
「じゃあね、母様」
「うん」
アナスターシャはたっと走って言った。
子供らはみんながんばってるんだなあ・・・
ゆりはぶらぶら歩いて部屋に戻った。部屋に入るとイシュタールが長椅子に座っていた。「ごめん。待った？」
今日はイシュタールから気をもらう約束をしていたのだった。
「いいえ。」
「アナスターシャが、手から炎を出せなくてしょげてたから」
ゆりはイシュタールの横に座った。
「そうですか・・・」
「魔力って、アナスターシャよりもシスのほうが高いの？」
「どうでしょうか。魔力によっても様々な質がありますから。一概にどちらが高いとも言えませんが、王はそう感じていらっしゃる
ようですね」
「そうなんだ・・・」
「まだまだお二人とも幼いですから、３０歳くらいにならないと、なんともいえないと思いますよ」
「蛇霊神の数が関係してるのかなって思ったの。アナスターシャよりも、シスのほうが一杯入ったから」
「それはどうかわかりませんが・・・」
「ってことは、あとから産まれるほうが力が強くなる可能性があるのかな。私が一杯蛇入れれば、その分強くなるのかな」
「あの黒髪の若君は相当魔力ありましたからね。そうかもしれません」
イシュタールは黒髪の王子の事を思い出していた。桁外れの魔力の持ち主だった。
「・・・・じゃあやっぱり、みんなには愛され続けないとだめだよね」
「？」
ゆりがぽつりと言ってイシュタールは首をかしげた。
「イシュタールって、愛って普遍だと思う？」
「さあ、わかりません。家族愛は普遍でしょうけど」
「じゃあ私に対する愛は？」
「さあどうでしょうか」
イシュタールはちょっと微笑んでいった。
・・・本当に、蛇の一族の男って、ドライね。誰も一生愛してますとは言わない。
ミカエルなら言うかもしれないが、ミカエルに聞く気もなかった。
「やっぱり、時々迫られないと愛が冷める？」イシュタールは首をかしげて真面目に考え込んでいた。
「わかりません」
「久しぶりにぺたぺたしたいな」
ゆりは頬を染めて言った。
イシュタールが瞬いた。
「よいんですか？」
「うん・・・・」
ゆりはかなり久しぶりにイシュタールにひっついた。
「うれしいですよ。王妃」イシュタールはぎゅっとゆりを抱きしめて言った。たくましい腕がなつかしい。
愛されても私はみんなの子供産んであげられないし、まあいいか、たまのいちゃいちゃくらいは。貞淑な王妃はあきらめよう・・・
それにしても・・・この部屋ちゃんと掃除されてるけど、だれがしてるんだろう・・・私の侍女かな。
侍女に一体どんな風に思われてることやら・・・
それだけは聞けないゆりだった。
夕方、ゆりが部屋で竪琴を弾いていると、ラギが部屋に入ってきた。「お帰りーラギ」
「ただいまー母さん」
ラギはゆりの側によってきた。
「ミルキダスに送ってもらったの？」
「うん」
「何したの？」
「いろんな人とバラクしたの。楽しかった」
「よかったね」
ゆりはラギの頭をなでた。ラギはじーっとゆりを見て、「イシュタール」といった。
「え？」
「イシュタールの気だ」
「わかるの？」
「うん。もっと一杯もらわないとだめだよ。王妃様らしくないから」
「王妃様らしくないって・・・」
ゆりは竪琴をテーブルに乗せてラギの体を自分のひざの上にのせた。
「王妃様はすごい気じゃないとさ」「すごい気ねえ・・・」
「王様はすっごいもの。だから王妃様もすごくないと」
「そうね。所でラギ、明日ハザーク様に会ってみない？」ゆりはラギの顔を見て言ってみた。上の二人は一応顔は見せたが、ラギはまだ見せてない。ラクシュミのように泣くかと
思ったからだ。
「ハザーク様？」
「すごーく長く生きてる蛇様よ。人にも変化できるの。一度ご挨拶しようよ。ね」
「・・・・うん」
ゆりは次の日の午後、ラギとハザークの塔に行った。子供が一緒なら前回のようにはならないという考えもあった。
部屋に入ると、「二度とこないといった割りにはすぐ来たな」
とハザークはいやみのようにゆりにいった。
「ハザーク様が死ぬほど私に会いたがってると思ってきたんですよー」
ゆりは自分の後ろにいたラギの手を引いた。
「ハザーク様、この子ラギよ。ラギ、こちらがハザーク様」
ラギは、長椅子に寝そべっているハザークを見て、ぎょっとしていた。すごく目を見開いていたのでゆりは不安に思った。
「大丈夫？ラギ」
「・・・・こんにちは」
ラギは扉の近くに突っ立ったまま、いった。
「・・・」
ハザークは視線を向けた。
ラギはぽかんと口を開けている。
「ラギ、大丈夫なの？本当に」「うん」
ラギは長椅子に近づいて、ハザークをじっと見た。
大丈夫かな・・・一体この子には何が見えているんだろう・・・
アナスターシャとシスは、どうもハザークが怖いらしく、一緒に行く？ときいても行かないというのだが、ラギはどうだろう。
ラギはずっとハザークを見つめている。「ハザーク様、まだ子供だから、怒らないでね」
あんまりラギがじっと見てるので、ゆりがフォローを入れるようにいった。ハザークは別にむすっともしてないが
ラギとは目を合わせてない。
「ハザーク様って、すごいな」
ラギはふいにそう言って、下のじゅうたんに座った。
「どうすごいの？」
ゆりが聞いた。
「王様より金ぴかだ」
「そうなの。ハザーク様は金色の蛇だからねー」
「ハザーク様って、王族ですか？」
ラギがハザークを見上げて聞いた。
「・・・・」
「え？蛇にも王族ってあるんですか？」
ゆりは思わず聞いた。
「お前はやはりかなり目がいいな」
ハザークはラギに言った。
「ハザーク様って、何歳ですか？」「・・・我のことはあまり聞くんじゃない」
「どうしてですか？」
「言いたくないからだ」
「・・・・母さんハザーク様に気もらえばいいのに」
「え？」
「王様と同じできらきらしてるもの」
「やってもいいぞ。寝室でなら」
ハザークがいい、ゆりはぎょっとした。
「子供の前で何言ってるんですか」
「もらいなよー王妃様らしくなるよー」
「いや、別に王妃様らしくならなくていいから」
ゆりがあせって言う。
「王妃様らしくならなきゃだめだよ。赤ちゃんができないよ」
「え？」
「じゃあ僕行きます。さようなら」
ラギは立ち上がり、ぺこんと頭を下げて出て行った。
「・・・ハザーク様、今のどういうこと？」「さあ」
ゆりは首をひねった。
王妃様らしくならないと赤ちゃんができない？
「ハザーク様、私の気って、そんなに薄くなってます？」「薄い」
「どうして？」
「王から気をもらってないからじゃないのか？」
「でも最初のころも、そんなに頻繁にもらってなかったですよ」
毎晩引っ付いて寝ていたわけでもない。
「ブラスレットから気をもらってたからじゃないのか？」
「ああ、そういえばそうでした。え？今のこれは・・・」
ゆりは左腕のブレスレットをさすった。
「それはもうただのブレスレットだ。気の力は残ってない」
「そうなんだ・・・」
だからもらわないと薄くなっちゃうんだ・・・
もしかして、薄いから子供できなかったとか？
ゆりは首をひねった。
そしてハザークをじーとみた。「ハザーク様気欲しいな」
ゆりはかわいらしく言ってみた。
「向こうでならやってもいいぞ」
「昔額に手あてるだけでくれたじゃないですか！」
「覚えてない。全然」
「・・・・いつからハザーク様そんな性格になったんです？前みたいな方が好きだなー」
「じゃあいいぞ。別に二度とこなくても」
ゆりのこめかみのあたりが引きつった。
だめだこりゃ。他の男のようにはいかない・・・・
「いいですよーだ。王様にもらうから」「月が戻るまでやめといた方がいいぞ」
「え？今日って・・・」
「今日から三日月だぞ」
ガーン・・・
月が細くなると、ラクシュミの力は下降気味になるようだった。そういう時はゆりに気を与えると辛いようだ。「いいですよーだ。他の人からもらいます。ハザーク様にひっついてまた蛇降りてきたら困るし」
ゆりはハザークを横目でにらんでいった。
「蛇が降りてきた？」
「この前儀式でもないのに降りてきたんですから」
「それでどうしたんだ？男と交わったのか？」
「違いますよ！だから言ってるじゃないですか。ただ見詰め合って抱きしめあっただけです」
「なんで隠すんだ」
「別に隠してません」
「今度は相手の男を連れてこい。問いただすから」
「絶対連れてきません！」
ゆりは部屋を出て行った。
誰が連れてくるもんか。男の口から詳しく説明された日にゃ、もう二度とここにはこれないよ！
ゆりはそのまま王の間に行き、ラクシュミにあった。
ラクシュミの目つきは今日は鋭かった。やはり力が下降してるようだ。「王様、だれか気くれる人ほしいんですけど」
「・・・・ミルキダスが近くにいるぞ。呼んでやる」
ゆりは部屋でミルキダスに引っ付いた。「ミルキダス、いつもラギと遊んでくれてありがとうね」
「いえ、私が遊んでもらってますから」
久しぶりに引っ付いたミルキダスは、照れたように言った。
そういえば・・・私ってミルキダスと二人っきりでいちゃついたことないなあ・・・ミルキダスはどう思ってるのかな。そうなりたいと思ってるのかな？
ジーと見ると、ミルキダスは首をかしげた。
まあ、いまさら二人っきりってのも、恥ずかしいな・・・
ゆりはちょっと頬を染めて、ミルキダスも照れたように頬を染めた。
ミルキダスって・・・10年たってもかわいいなあ・・・
その時、ゆりの左目がぱっと黄色と黒の目に変わった。「ミルキダス・・・」
「王妃・・・」
ゆりは顔を寄せてミルキダスにキスした。ミルキダスがゆりの頬に触れた時、
扉が勝手に開かれてラギが入ってきた。
「あれ？母さん・・・・ハザーク様に気もらわなかったの？」
ラギはゆりを見ていった。ラギはゆりが二人いることもちゃんと理解している。
「うん。今ミルキダスにもらってる」
ミルキダスはゆりからはなれたまま、真っ赤な顔をしていた。
「どうしたの？顔真っ赤だよー？」
ラギがミルキダスの顔を眺めて言った。
「え・・・いえ・・・」
「ハザーク様の気のほうがいいのにー金ぴかで」
「そう言っても、ハザーク様私のこと嫌ってるし」
「なんでー？」
「美しすぎていやなんだって」
ゆりがそういうと、ラギは首をかしげてミルキダスを見た。
「今のどういうことー？」
「王妃が美しいということです」
ミルキダスは律儀に言った。ラギは首を傾げ続けていた。
「ラギ、息子にとって、母親は一番美しい存在なの。覚えておきなさい」
ゆりはラギをみつめていった。
「母さんより王様のほうが100倍美しいよ」
ラギははっきりそういった。
「可愛くない息子ね・・・」
「王子・・・そろそろ王様ではなく、お父様と呼んであげてください。王も待ってますよ」
ミルキダスは別の所に注目していた。
「うーん・・・恥ずかしい・・・」ラギはもじもじしている。
他の人にはこんなにならないのに、なんでラクシュミにだけはもじもじするのかゆりは不思議だった。
「そろそろ一人でも会えるようにならなきゃ」
「・・・・そのうち・・・」
「ところで研究所で何したの？」
「王様に湿布作った」
「湿布？」
「うん。いっつも座っててかわいそうだったから・・・」
ラギはうなだれていった。ちょっと恥ずかしそうだ。
あの王様が・・・湿布？
ゆりは笑いを抑えるのに必死だった。
自分で貼ったんだろうか。まさか、侍女に貼らせたんじゃ・・・
「王子は優しいですね」ミルキダスは微笑ましく思った。
「ザメハじいちゃんにもあげたら喜んだよー」
「ザメハにもあげたんだ。大量に作ってどこかの街で売ってみたらどうかな？王様が貼ったって知ったら、みんな買うよ」
「王妃！」
ミルキダスがぎょっとした。
ラギはきょとんとしている。
「売るの？売ったらお金入る？」
「入るよ。将来のために貯金しなさい」
「うん・・・考えてみる」
ラギは考えながら出て行った。
「王妃・・・王子にお金儲けの話など・・・」「いいの。あの子は力がないんだから、将来何があっても生きていけるくらいたくましくならなきゃ。せっかく頭いいんだから」
「ですが・・・まだ４歳ですよ」
「いいのいいの」
「王族ですからお金の心配は・・・」
「王族ってことにあぐらをかいてちゃだめなの」
「はあ・・・」
その後ラギは小さな頭で考えて、研究所の職員に相談した。やがて研究所の職員によって大量に作られた湿布は「王の麗しい腰に貼られた湿布」と命名されて商人を通して南の町で売りに出された。それを見た戦士らは奇妙な顔をしたが、
作ったのがフレイになっていたので、だれも何も言わなかった。湿布は若い女性方にも人気で、本当に腰が痛い肉体労働者や
老人達にも結構好評だったらしい。ラギの元には一割程度のリベートが入ってきた。
初めて何かを考えてお金をもらったということにラギの瞳は輝いた。普段は欲しい物を自分で買う事はない。ラギは初めてお金を
手にしたのだった。
ゆりの目が黄色と黒に変わっている時に、ラギがいった。「母さん、お金儲けって面白いね」
「そうでしょ？また何か作ったら？」
「僕ほれ薬つくってあげるね。ハザーク様が母さんを好きになるように。好きになったら一杯気くれるでしょ？」
「え・・・」
「楽しみにしててねー」
ラギはそういって出て行った。
「・・・・」
ほれ薬・・・・
まさか本当に作れないだろう、そう思っていたゆりだったが、ラギは真面目にその研究をしだし、作らなくてもいいともいえなくなってしまった。たまに研究所に泊り込んでいる。
すすむ
何の情熱があの子を突き動かしているのか、ゆりにもよくわからない。
まあいいか。本当にできたらすごいし。
そう思っていたら、ラギは５歳の誕生日がくるころ、本当にほれ薬らしきものを作り出してしまったのだった。