儀式が起こって数日が経過して、とうとうゆりが過去にやってきて３月が経過しようとしていた。
ごめんね。王様、もうちょっと待っててね。
ゆりは毎日枕元でラクシュミに祈る日々だ。
なんとしても早めに儀式起こさなきゃ・・・
このまま何ヶ月もここにいるわけにはいかないんだからね。
とにかくもうちょっとだ！がんばろっと
未来の事は気になっていたが、ここは赤ちゃんの力をアップさせるべきだろう。それがラクシュミの力を助けることに
なるはず、とゆりは自分に言い聞かせたのだった。
第20話
「母様、とうとう３月経っちゃったね」
「そうだね」
ゆりとシスは朝食後、一緒の部屋にいた。
「そろそろ皆のお土産考えなきゃなあ、問題は、誰まで土産買うかね・・・」
ゆりは女王様の用事が終わったもんだから頭の中はすっかり帰る準備に入っていた。
しかも観光気分になっている。
「今日僕お休みだよ。一緒に町に行こうよ」
「そうだねえ。そうしよう」
と相談していたら、部屋に客人がきた。ディランだった。
「おはようございます」
「おはよう」
「おはよう。ディラン」
「実は、ご案内したいところがあるのですが、今日、よろしいですか？」
ディランに言われて、ゆりとシスは一緒についていくことにした。
連れてきてくれたところは、北の大きな町にある大きなお店だった。宝石店だ。
「わお・・・」
ゆりは部屋の外からガラスケースに並んでいる宝石を見つめた。いろんな色の珍しい宝石が綺麗に並べられている。
「店の中にどうぞ」
ディランは二人を店に入れて、店の奥の方へと勝手に入って行った。ゆりもシスもきょろきょろしている。
二人はしばし狭い部屋に待たされて、しばらくしてディランともう一人男がやってきた。
「ゆり様、こちらこの店の主人ですよ」
「はじめまして、ミュルズと申します」
品位がありそうな感じの細身の壮齢の男で、眼鏡をかけていた。
「女王陛下からのご依頼で、未来の国王様のための飾り物を製作しておりました。それができましたので、是非ごらん
いただきたいと思いまして」
「えー？」
ミュルズは手に持っていた大きな木のケースを開いてテーブルに乗せた。
「わお・・・」
「わー・・・」
ゆりもシスも目が点だった。それはかなりゴージャスな胸飾りと耳飾りのセットだった。胸飾りは中心部分に大きな
赤い宝石がキラリと輝いていた。その周りにはそれよりも小さめのダイヤモンドのような宝石がちりばめられている。台座は
金だった。耳飾も金の飾りで、こちらも赤い宝石がはめ込まれている。まさに王者がするのにふさわしい物といえる。
一体いくらするんだろう・・・
ついゆりは値段を考えてしまった。
さすが女王様太っ腹。
「すごいなあ。父様にぴったりだねえ」
シスは目を輝かせて喜んだ。
「すごいねえ・・・向こうじゃ買おうにも買えないね」
「喜んでいただけましたか？」
「はい、でも、本当にもらってもいいんですか？」
ゆりは不安げに聞いた。
「もちろんそのつもりでございますよ。」
ミュルズもディランも微笑んでいた。
「すごいね。王様喜ぶね」
「うん」
二人はしばし、金と赤い輝きに目を奪われていた。
しかしあの胸飾り結構重そうだけど・・・大丈夫かな？まあいいか家宝としてもっとけばいいし・・・
「王妃様も飾り物を選ばれたらいかがですか？店内の好きな物を選ばれてよいですよ」
「え、いえ、私は別にいいです。たいして似合わないし・・・」
「ですがもっていて損はないですから」
「あのーその代わり、ずっと安いのでいいですから、他の人のお土産選んでもいいですか？」
ゆりは笑顔で聞いてみた。
「よろしいですよ」
やったあ、金持ち万歳！この際ミカエルらの土産も選んでしまおうっと。
ゆりとシスは店内をいろいろ見せてもらい、男性用の飾り物を物色した。
「向こうの恋人たちにですか？」
ディランが目ざとく聞いてきた。
「うん。」
「姉様には何がいいかなあ・・・このお花のもかわいいねえ」
「ん？そうだねえ。銀のお花かわいいね」
シスはアナスターシャの飾り物を選び、ゆりは男たちに似合いそうな飾り物を次々と選んで行った。
かわいいシャナーンにも選んであげようっと♪
いいのかな、こんなに買っても・・・
「ディラン、女王様後でむっときたりしないかな？」
ゆりはちょっと心配になり聞いてみた。
「え？どうしてですか？」
「だって、こんなにお土産もらっちゃってさあ、王様の土産だけでもすごいのに」
「良いんですよ。未来の一族のかたがたも、女王陛下にとっては、我が国民となんら変わりません。あの蛇霊神は
お金では買えませんからね。遠慮しなくてもいいですよ」
「じゃあもうちょっと選んでもいいかな？」
「どうぞ」
ディランもミュルズも笑っていた。
「姉様にはこれにする」
シスがシルバー製のお花の形をした飾り物を手にとった。
「うん。そうしよう」
ゆりはしばらく宝石をあれこれ選ばせてもらい、店を後にした。
「すごい億万長者になった気分だねえ・・・」
宝石は帰る時に城に運んでもらえることになった。
「ふふ、王妃様じゃないですか」
ディランがおかしそうに言った。
「そうだけど、あんなに宝石みたの初めてだからさ。」
「そろそろ昼食を食べましょうね。」
ディランは町にある高級そうなお店に連れて行ってくれた。
「母様ガーベラの絵がかかってるよ」
シスが壁の絵を指差した。
「本当だねえ」
服を着た女神達の絵があちこちに飾られている。その中にガーベラもいた。
「ですが・・・やはり本物の方が美しいですね」
ディランが絵を見つめて言った。
「そりゃ女神様だもんね」
「あれからガーベラの絵が飛ぶように売れてるようですよ。うちも一枚頼みました」
「そうなの？」
「そういえば、聖地からまた誰かこないのかなあ」
シスが言った。
「そうだねえ。聖地のガーベラの宮殿、ぴかっと輝いたのかな」
「そのうち書面がくるかもしれないですね。世界的に言えば、女神様が降りられるのもたまにはあることのようですよ。」
「そうなんだ」
「ダーナは結構あちこち現れてますよ。人の姿を借りずに、幻の姿で現れるようです。ガーベラよりもダーナのほうが人気が
高いのは、ダーナのほうが現れる頻度が高いせいもあるんですよ」
「なるほど・・・」
「といっても、私はダーナは見たことがありませんし、ガーベラを見てしまったら、やはりガーベラの方を応援してしまい
ますよ。」
「そりゃディランはガーベラ応援しなきゃ、ガーベラはディランのこと恋人だと思ってるかもしれなし」
「え・・・」
「だって口付けしてくれたでしょ。」
ディランはちょっと恥ずかしそうにしていた。
食事をした後、二人はお城まで送ってもらった。
「ディラン、実は、お土産に小難しい本が何冊かほしいんだけど」
「小難しい本ですか？」
「私の息子、頭よくて難しい物が好きでね、」
「魔法の本とかもらえないかなあ」
シスが言った。
「いいですよ。陛下に頼んでおきましょう。それでは」
ディランは出て行った。
その数日後、聖地からの使者が本当にやってきた。未来であったこととほぼ同じで、もらった物もガーベラの石像と花の苗
、ガーベラの腰帯で似たようなものだった。腰帯は、未来でもらったものよりも豪華だった。ガーベラの像や花の苗はその
まま女王様に渡して、ゆりは腰帯だけもらって部屋に戻った。すると部屋の中にハインリヒが座っていた。
「聖地の使者、あなたを見てびっくりしてなかったですか？」
「びっくりしてたよ。ガーベラとそっくりだって」
ゆりが負けずに言うと、ハインリヒはふふっと笑った。
「せっかくいいものあげようと思ったのに、嫌味言うとあげないから」
「なんですか？」
「これ」
ゆりはもらった腰帯をハインリヒの首にかけた。
「・・・」
「これを見ながらガーベラをしのんであげてちょうだい」
「いいんですか？」
「うん。私むこうでももらったから」
「ありがとうございます。うれしいですよ」
ハインリヒは素直に喜んでいた。
儀式の日、嫌いって言ってかなりへこませてしまったので、ゆりとしてはそのお詫びのつもりだった。
「次の儀式はいつごろ起きそうですか？」
ハインリヒが聞いた。
「さあねえ、すぐには起きないと思うけど、そうは待ってもられないし・・・」
「あなたは案外あっさり行っちゃいそうですね」
「そんなことないよ。私だって皆のこと好きだし、別れが辛いのは一緒だよ」
「本当ですか？」
「本当だよ。だけど、帰らなきゃ。向こうは金ぴかなものもそんなにないし、お城も古いけど、でも私にとっては王様は
最高の人だから。」
「・・・あなたと離れるのが寂しいですよ。本当に」
「ハインリヒ・・・」
「というわけで今夜来ていいです？」
「え・・・」
ゆりの表情が変わった。
「あなたの胸に寄り添って寝たいな」
「何言ってるのよ。私はハインリヒのママじゃないんだから」
「いいじゃないですか。ねえ、マー」
「ハインリヒって、やっぱり変な奴」
儀式をしてしまった後では、ゆりもハインリヒにちょっと愛着が湧いていた。
甘えられるとあんまり冷たくもしきれない。
「ねえ、向こうの恋人で一番好きな男ってどんな男？」
「え・・・みんな好きだけど・・・」
「一番いるでしょ？」
「・・・ミカエルは、ハインリヒの３倍はかっこいい人」
「へーそうですか。蛇同士も仲良くしました？」
「向こうの人の蛇は動かないよ」
「じゃあ私のほうが勝ちですね。蛇同士が交わったから」
ハインリヒがうれしそうに言った。
「・・・本当に交わってた？」
「交わってましたよ。蛇がすごい満足してた・・・」
「呼んであげるんじゃなかった・・」
「蛇ちゃんは帰りたくないんじゃないのかな。恋人達にもう会えなくなるから」
「大丈夫だよ。私の蛇ちゃんも王様を一番愛してるから」
「ちぇ・・・」
ハインリヒは口を尖らせていた。
その夜、ハインリヒは本当に寝室にやってきた。
「もー」
「添い寝だけね」
ハインリヒはゆりを抱き寄せてそのまま眠りについた。
まあいいか、だんだんハインリヒが可愛く思えてきたかも・・・
だけど私がこっちで他の男とこんなことしてると知ったら、ミカエル大激怒だろうなあ・・・
ここでの男達のことはシスに口止めしとかなきゃ。
皆私がこっちで何してると思ってるんだろうなあ・・・
その頃ミカエルはといえば、ふてくされた顔でフリットの屋敷におしかけて酒を飲んでいた。
「王妃が帰ってこない・・・」
「・・・ミカエル・・・毎日同じ言葉ばっかり言ってるぞ。お前・・・」
「心配だ」
「大丈夫だろう。そのうち帰ってくるよ」
「向こうで良い男といちゃいちゃしてるんじゃないだろうか・・・どうもそんな気がする」
さすがゆりに関しては鋭いミカエルは、そんなことを考えていた。
「・・・」
フリットは無言だった。
そんなことは無いだろうと思ったが、もう一人のゆりならば、ありえるかもと思ったのだ。
フリットもまさかゆりが儀式までやっちゃってるとは思ってない。
「王妃が帰ってからあんまり根堀葉堀聞くんじゃないぞ」
フリットもヴィラと同じ様な事を言った。
「一体どうして過去に行っちゃったんだろう・・・」
「さあ・・・」
「心配だ。変な男に捕まってなきゃいいけど・・」
「・・・」
帰ったら帰ったで、王妃もしばらく大変だ。
これだけの時があれば、そりゃ、過去の男性と何かあるかもしれないが・・・
なにせ力が強い男がわんさかいた時代。
もう一人の王妃は男の蛇見るの好きだしなあ・・・
まさか、ゆりに恋人が６人もできているとまでは思いもよらないミカエルとフリットだった。
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