第21話

「月日が経つのは早いものですねえ。この前知り合ったばかりだと思ったのに・・・」

ディランがちょっと寂しげに言い、ゆりは「そうだねえ」と同意していた。

今は夜、蛇の目のゆりはディランの寝室にお邪魔していた。二人は服を着たまま、ただ横に並んで寝転んでいた。

向こうに帰る時までもうそんなに時はない。

儀式はすぐには起こらないだろうが黒目のゆりは燃えているし、強引に女蛇でも呼んじゃいそうな気もする。

別れが近いとなると寂しいのは同じだが、こちらのゆりとてラクシュミに抱かれたいのは一緒だ。

寂しい反面早く帰りたいというのも本音でもある。


「ディランは私達に会えてよかったと思う？」

ゆりが聞いた。

「思いますよ。最初はまさかこんな気持ちにさせられるとは思いませんでしたけどね・・・」

儀式に参加する事はあっても、それだけの関係で終わると思っていたのに・・・


気づけば肌の蛇は金色の蛇に恋しちゃってるし、自分自身もこうやって側にいるのがうれしいと感じている。


「あなたは女王陛下以外の特別な存在ですよ」

「ありがとう。うれしいよ」

「あなたが来たのが赤い月の時期じゃなくてよかったですね。その時だったら、絶対抱いてます」

「ふふ・・・」

「他の男達もそうですよ」

６人の男に抱かれまくられ赤い月・・・・なんかむらむらしてきた。

やばいやばい、早いとこ向こう帰らないと、男たちに抱かれたくなりそ・・・


ゆりはしばらくディランに抱きしめられてから自分の部屋に戻った。

そして寝ようと思ってベッドを見てぎょっとした。誰か寝ていたからだ。


ハインリヒ・・・また夜這いに来たのね・・・


布団の中に入っていたのはハインリヒだった。

「どこ行ってたんです？」

ハインリヒがゆりの気配に目を覚まして聞いた。

「マーはね、他のトーと一緒にいたんですよ」

ゆりが言いながら布団の中に入った。ハインリヒは不機嫌そうにむっとしていた。

「他の男もトーなんですか？」

「うん」

「ひどい・・あなたは意地悪だから嫌いだ」

「よしよし」

ゆりはハインリヒの頭をなでた。

「ねえ、あなた向こうの男に強引に抱かれたって事ないんです？」

ハインリヒはちょっと表情を変えて言った。

「ないよ」

ゆりはあっさり言った。

「本当に？」

「ないよ。」

「強引に抱いていい？」

「へ？」

「向こうにはそんなことしたくないから、あなたにしたいな」

「いや、そんな事言われても・・・体一緒だからだめだよ」

「どうしても？」

げ、こいつ目つきが危なくなってきてる。


「変なことしたらまた気一杯奪っちゃうから」

「同じ事二度されるほどばかじゃないです」

「いい子にしないと、マー本気で怒っちゃうよ」

「・・・」

「おやすみ」

ゆりはそのまま横を向いて寝てしまった。


どっちかだけでも抱かれてくれてもいいのに・・・

今まで散々巫女を抱いてきて、もううんざりだと思っていたけど・・・抱きたい女が現れたら抱けないってのは

どういう因果なんだ・・・ひどい・・・


ハインリヒはいじけていた。


次の日の朝、黒目のゆりが目を開けて、横にハインリヒがいるのを見てぎょっとした。


またーいつの間にきたんだ。


「ゆり・・・」

ハインリヒがゆりの腕をつかんで抱き寄せた。

「ちょっとハインリヒ、勝手に入ってこないでよね」

「好きなんです」

「好きでもだめ」

「じゃあ愛してる」

「あなたが愛してるのは女王様でしょ」

「陛下の次に愛してる」

ハインリヒはゆりの服の中に手を突っ込んで胸をまさぐってきた。

「ちょっと・・・」

何朝っぱらから興奮モードに入っとんじゃー！


ハインリヒはすっかりゆりの上に覆いかぶさった。

「私のこと好き？」

「離れなさいって」

「一番好きって言ってくれたら離れる」

「・・・・」


やっぱりミカエルの関係者？


ゆりは一瞬そう思った。

「ゆり・・・」

ハインリヒはしばらくゆりの上に乗っかったままだった。



「おや？どうしたんですが？ご機嫌斜めですね？」

その日の午前中、フークスが部屋にやってきた。フークスはゆりの頬にちゅっとキスしてゆりの横に並んで座った。

「気もらってもいい？」

「いいですよ」

ゆりは横からフークスにくっついた。

「ハインリヒが夜這いに来るんだよね」

「夜這い？」

フークスが瞬いた。

「今日なんて朝気づいたら勝手に横で寝てるし」

フークスはげらげら笑い出した。

「ハインリヒ、よっぽどあなたに参っちゃったんですねえ。あーおかしい」

「おかしいって・・・ここは笑う所じゃないんですけど・・・」

「ふふ・・・あなたが本気にさせちゃうからですよ」

「だってえ・・・体だけの関係なんてやだし」

「今夜来てもいいです？」

「え・・・」

「私もあなたと一緒に朝までいたいな・・・」

あどけない顔で言われてしまった。どうやらやぶ蛇だったようだ。



こうしてたまに刺激的な夜を過ごしながらも時は過ぎて行き、気づけばこちらの暦で10の月の５日、４月もの

時が過ぎてしまっていた。未来では過去に飛ばされた日が10の月だったので、年を越してしまったことになる。

ゆりの双子達も、儀式の男達に会うと「トーダッコ」と言って甘える始末。


このままじゃ赤ちゃん達が王様のこと忘れちゃうかも・・・


さすがにゆりはやばいと思い始めていた。


そんな頃、ゆりはザーという雨音で目を覚ました。

ベッドから降りてカーテンをあけると外はどしゃぶりだった。


チャンス！水蛇さんが来るかもしれない！


ゆりは朝食後身支度をしてディランを呼び出した。

「ディラン、私どうしても今日儀式がしたいの、協力して」

「は・・・はい・・・」

ディランは部屋に来たとたんに言われて驚いた。


ゆりは長椅子でディランにくっついていたが、ディランは儀式が起こればもうすぐにゆりは行ってしまうと思うと、

内心かなり複雑だった。

「ごめんね。ディラン」

ゆりはディランの気持ちを察したように言った。

「いえ、思ったよりも長い間いれましたからね。赤ちゃんに一杯蛇が入るといいですね」

「うん」

ディランはゆりのおなかをなでた。


水蛇さん、お願いきてー！


ディランに引っ付いて一時ほど経った頃、ようやくゆりの願いが届いたのか、水色っぽい大きな蛇がぬっとやってきて

ゆりの中に入った。

「あ・・・」

「来ましたね・・・」

「うん。」

「お風呂の準備頼んできますね」

「うん。せっかくだから、皆でお風呂で遊ぼうね」

ゆりは微笑んで言った。


「ゆり様ーこれが最後なんてやだー」

部屋に来たレイアスは泣きそうな顔でゆりに抱きついた。

「レイアス・・・ごめんね。その代わり、今日は一杯一杯愛してあげるからね」

ゆりもレイアスの背中に腕を回した。ゆりは寂しそうな顔をしたほかの男達も見回した。

「皆もそんな顔しないで。私まで悲しくなっちゃう」

「そうですね。悲しむのは、別れてからにしましょう」

フークスが言った。

「あなたの赤ちゃんに一杯蛇が入るように、祈ってますよ」


一同はお風呂に移動して、ゆりはやっぱりそれぞれを沈めて遊んだ。

そして水の中で抱き合い、口付けをしあったのだった。



「いよいよ儀式が起こるようじゃ、もうすぐお別れじゃのう・・・」

女王は王の間でシスに言った。

「そうですか。とうとうですか・・」

「ゆり殿にもシス殿にも出会えて本当によかった。」

「僕も、女王様や他の皆に出会えてうれしかったです」

シスはちょっと涙目になっていた。女王もしんみりした表情をしていた。同じ王族として、やはりシスには愛着を

感じているようだった。

「シス殿がいる未来でも平和が訪れるように、私はずっと祈っておるからの・・・」

「女王様・・・」

女王は椅子から離れて、シスの両手を軽く握り締めた。



一方ゆりは、儀式の部屋に移動して、一人一人とじっくりひっついていた。これが最後だ、と思うと、思いが増して、

さらに相手の男を愛しく感じていた。互いの愛撫にも熱が入っている。やがて複数の手がゆりの肌をまさぐり、舌が肌を

這い、ゆり自身も男達を快楽に導いて、ゆりの口から不思議な呪文が飛び出して、５匹ほどの蛇霊神が部屋にぬっと入っ

てきて、ゆりの中へと入って行った。


「じゃあ休憩しましょ。後２回くらい儀式したいなあ、皆体もつかな？」

ゆりが明るく言うと一同はシーンとしていた。

「ルーク、お風呂連れて行って、みんなもおいでよー。それからご飯の用意してもらってー」

ゆりはルークに連れられて消えた。

「儀式って、やっぱり男が１０人はいるべきだな・・・」

ハインリヒが言ってドルイドが横でぷっと笑っていた。

「なんでドルイドが笑うんだ」

「別に・・・」

ドルイドは横を向いた。

「一番タフそうなハインリヒが言うからおかしいよね」

とフークス。

「僕もお風呂いこうっと」

レイアスもお風呂に消えて、後の面々も消えた。


お風呂から出たゆりは、昼食を皆で食べた後、それぞれにひっついたり膝に乗ったりしてぶらぶらして過ごした。

そして午後の儀式が始まって、その時は１５匹ほどの綺麗な蛇がゆりの中に入ったのだった。


さすがに二回儀式をすると男達もばて気味だった。

それでも時間をおいて夜の儀式に突入すると、やはり男達の気持ちも燃え上がり、ゆりのいい匂いをかいでいる内に、

自然に変化してしまっていた。

「ゆり様・・・好きです」

「本当に好きですよ・・」

「私も、皆のこと大好きだよ・・・」

互いの気持ちは盛り上がり、男たちの肌の蛇も、最後とばかりにゆりの蛇をもとめて移動して行った。


「ゆり様・・」

「ああ・・・・」

ゆりの口から言葉にならない声が聞こえだして、部屋の中をおびただしい蛇がぬっと入ってきた。

その中には、いろいろな色の鮮やかな蛇が二匹ほど混じっていた。蛇たちは部屋に充満した淫気の中を漂い、ゆりの

言葉と共に、ゆりの中に次々と入って行った。そして最後の蛇が入り、儀式は終わったのだった。

「みんな、ありがとう」

ゆりはそう言って気絶した。

「・・・・」

ドルイドはいとおしげにゆりの髪をなでた。

ディランは涙をこらえていたが、レイアスとルークは泣いていた。


「ハインリヒ、あの話は、本気なんだね？」

フークスがぼんやりしていたハインリヒに聞いた。

「ああ」

「そっか・・・」

フークスは微笑んだ。

「巫女っていうよりも、我らにとっては、女神様だったねえ・・・」

フークスはゆりを見つめて言ったのだった。



朝目覚めた時、ゆりは自分のベッドで寝ていた事に気づいた。髪がすごく伸びていたので儀式をやったことは

夢ではないと気づいた。

着替えて横の部屋に行くと、シスが椅子に座っていた。

「母様、ご苦労様」

「シス・・・」

「僕らが帰るのは６日目の朝だよ」

「６日目の朝・・・とうとうなんだね」

「うん。なんだか皆と離れるのがすごく悲しいよ」

「うん・・・そうだね・・・」

「でも早く向こうの皆に会いたい」

「私もだよ。世話になった人皆にお礼言わなきゃね」

「うん」

ゆりはシスの頭をなでた。


６日目の朝か・・・いざ帰るとなるとなんだか悲しい気もするけど・・・でもようやく王様や子供たちにも会えるんだ・・・

楽しい日々だったなあ・・・


ゆりは感慨深げにこちらに来てからの日々を思い起こしていた。


過去の世界との別れの日が近づこうとしていた。



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