帰る日が決まってからの日々は本当に速かった。昼間黒目のゆりは男たちと過ごし夜になれば蛇の目の

ゆりが男達の家を訪問したりして一緒に過ごした。どちらのゆりにとっても悲しい日々だった。

男達にとっても同様だった。ゆりはそれぞれから結構高価な贈り物をもらっていた。

交流がなかった騎士たちもお金を出し合って買ってくれたようで、自分のお土産もかなりになっていた。


この時代の人達も本当に皆良い人だったなあ・・・


その日はゆりはドルイドと手をつないで庭園を散歩していた。バリカの庭園も、今は花はまばらだった。

二人で歩いていたら少女達の歌声が聞こえてきた。５人ほどで合唱しているようだ。

言葉は分からなかった。きっと古代語か何かだろう。

「綺麗な曲ね、あれなんていう曲なの？」

「古代叙事詩ですよ」

ドルイドは笑顔で答えた。

「古代叙事詩・・・」

その時ゆりの顔がさーと青くなった。


しまった！すっかり忘れてた！ラギに怒られる！


「どうしたんですか？」

ドルイドがゆりの顔をのぞきこんで言った。

「古代叙事詩の発音が分からないとか息子が言ってたんだよね。どーしよう。今から習って私わかるかなあ」

「古代叙事詩ならシス様が勉強されてましたよ」

「え？本当？」

「はい、教本をもらってましたから、発音は分かると思いますが・・・」

「本当？よかったあー」

ゆりはほっと胸をなでおろした。


ああ、シスと一緒でよかったーラギに怒鳴られる所だったよ。


「古代叙事詩は未来ではすっかり廃れてしまったようですね」

「そうみたいね。古代語も一時無視された時代があったといってたよ。今は皆習ってるの？」

「古代叙事詩は学校の授業では皆暗記させられるんですよ。それで暗記テストがあるので、皆必死で覚えます」

「そうなんだ・・」

「やはり古代語と古代叙事詩は一族の力のために必要なものなんですね。我々はそう実感しているわけではない

ですが・・・未来で力が失われて行ったと聞かされると、何か関係があるような気がしますね」

「そうだね。私はよくわからないけど・・・まあ一族の数がめちゃくちゃ少ないのも原因みたいだよ。

未来の王様は数増やすのにやっきだよ」

「そうですか。」

その時ゆりの左目がぱっと変わった。

「ドルイド、今晩遊びに行っていい？」

「はい、もちろんですよ。きっと、夜の噴水を見るたびに、あなたのことを思い出すんでしょうね」

ドルイドはしんみりして言った

「私達のことは心の片隅でいいから、幸せになってね」

「はい・・・」

二人は涙をこらえて、歩き出した。



そして最後の夜、女王はゆりとシスのために盛大なお別れ会を開いてくれた。

ゆりもシスも侍女らに綺麗に着飾ってもらい、ゆりはいろんな騎士らにリードされてダンスを踊り、

シスは女性たちに誘われて踊っていた。シスも結構な贈り物を女騎士たからもらったようだ。


これが最後の夜だと思うと、感慨もひとしおだった。


「とってもきれいですよ。ゆり様」

一緒に踊っていたフークスが言ってくれた。

「ありがとう。フークスもとっても素敵よ」

「そろそろ交替してくださーい」

横にレイアスが近づいてきた。ゆりはレイアスの手をとった。

「ゆり様、向こうで幸せになってくださいね。」

「うん。レイアスもね。」

レイアスは額にしていたサークレットを外してゆりの額にはめた。

「いいの？宝石他にもらったのに」

「いいんですよ。時々僕の事思い出してくださいね」

「ありがとう・・・」

ゆりはサークレットをなでた。

皆どうもありがとう。本当に本当に楽しかったよ。


夜が更けてお別れ会が終わり、ゆりは一人ベッドの上でしょんぼりしてしまった。


部屋の中になんだか気配がして、横を見ると誰か立っていた。

「来ると思った」

「最後ですからね」

やってきたのはやっぱりハインリヒだった。ハインリヒはゆりの横に入って寝転んだ。

「最後となると寂しいですね」

「うん。私、皆のこと本当に好きだったから」

「我々もあなたの事本当に好きでしたよ」

「あ・・・そういればハインリヒは何もくれなかったなあ。皆素敵な宝石とかくれたのに・・・」

ちょっと思い出したゆりは、嫌味のように言った。ハインリヒだけは何もゆりに土産らしいものを

渡していなかった。

「私はあげません。心の一部をあげたから」

「何それ。まあいいけどね」

ゆりはハインリヒに寄り添った。

ハインリヒとはいろいろあったけど、今ではやっぱり好きだ。


寄り添ってるとしんみりしてしまい、涙がでてきた。ハインリヒはゆりを抱きしめて、ゆりは

しばらくハインリヒの胸で泣いてしまった。


朝起きるとハインリヒはもういなかった。

ゆりは着替えて、シスと過去での最後の食事を食べた。

「すごい荷物になったね」

ゆりは部屋の中に置かれている荷物を見た。

「そうだね。お土産一杯もらっちゃったからね」

お土産は大きな箱が二つもあった。

「私あれもてないよ？」

「大丈夫だよ。僕が力で移動させるから」

「たのもしー、シスもすっかり頼もしくなって」

「へへ」

シスが照れたように笑った。

身支度を済ませた後、ゆりの侍女だった女たちが部屋に勢揃いしてくれた。

「ゆり様、我々は、短い間とはいえゆり様にお仕えできて、とても幸せでございました」

侍女らもちょっと涙ぐんでいた。

「ありがとう。みんな。今まで本当にありがとう」

皆優しかったなあ・・・


扉がノックされて、ディランが顔を出した。

「お支度できましたか？」

「うん」

「綺麗ですよ。ゆり様」

ディランはゆりを見つめて言った。

「ありがとう・・・」

ディランも今日は騎士の正装服を着ていた。

「最後ですから、王の間まで一緒に歩いていきましょう」

「うん」

「僕荷物と先に行ってるね」

シスは一足先に消えて、ゆりはディランと腕を組んで廊下を歩いて行った。


「ディラン、最初に私に優しくしてくれてありがとうね」

「礼を言うのはこちらですよ。あなたにあえて、本当によかったです」

二人はすぐに王の間にたどり着いてしまった。ゆりもディランももう少し一緒に歩きたいような

気持ちだった。

ゆりはディランに微笑んで、王の間に入った。中には女王と、周りに騎士らがずらりと並んでいた。

最初に見た光景と一緒だった。女王のわきには大臣らしきちょっと年がいった男たちもいた。


シスがいた辺りに、丸い魔法陣のような模様がくるくる回っていた。


女王が席を立ち、魔方陣のあたりに近づいた。

「とうとうお別れじゃな。今思えば短い間であったのう」

「はい、女王様に出会えて、うれしかったです」

ゆりは微笑んで言った。最初はなんて女王様だと思っていたが、今では大好きだった。

もう二度と美しい女王様に会えないと思うと、とても寂しい。

「ありがとう。ゆり殿、これは私から未来の王への手紙じゃ、未来の王にもよろしく伝えてほしい」

女王はゆりに近づいて手紙を一通手渡した。

「はい・・・あ・・・あの・・・所で女王様、難しい魔法書は・・・」

ゆりは昨日もらえると思っていたらもらえなかったので、帰る間際になって聞いていた。

「あ・・・すっかり忘れておった」

「え・・・」


ガーン・・・そんな・・・こんなことなら・・図書館から何か本くすねておくんだった。


「その代わり、ハインリヒをそなたらと一緒に行かせることにした」

「・・・え？」

ゆりは目を真ん丸くした。ハインリヒはなにやらでかい荷物をかついで中央に近づいてきた。

「というわけで、これからお願いします。ゆり様」

ハインリヒは微笑んで言っていた。

「え・・・ええ？！」

横を見ると、シスは別に驚く様子もなくにこにこしている。

「シス知ってたの？」

「うん。母様を驚かそうと思って黙ってたの」

「えー！？」

「そんなにうれしいです？」

「え・・ちょっと待って。こっち来たらもう二度とここにはこれないよ。愛する女王様にも会えないよ？」

「わかってますよ」

「でも・・・絶対後悔するよ？向こうは貧乏だし、城も古ぼけてるし・・・」

貧乏はひどいだろうとゆりは自分でも思ったが、ここと比べると財力の差はかなり大きい。

「ゆり殿、元々私が言いだしたことなのじゃ。未来の話をシス殿から詳しく聞いてる内にそういう気に

なったのじゃ。この時代にしかない様々な事を未来に伝えるためにも。ハインリヒは一番騎士を名乗るだけあっ

て、優れた男じゃ。必ず向こうの王の役に立つはず。」

「あなたの御子様たちにもいろいろ教えてあげたいですからね、もちろん、おなかの赤ちゃんたちにも」

ハインリヒはウインクしていた。

「ハインリヒはねえ、剣術がものすごいんだよ。ロイの先生にもうってつけなんだよ。」

シスが喜んでいっていた。


・・・でも私の立場は・・・・どうせなら別の人の方が・・・・


ゆりがディランたちを見ると、みんな微笑んでいた。

「ハインリヒ、向こうの男達と仲良くな」

ディランが言った。

「ゆり様を頼む」

とドルイド。

「あんまり我を出さないようにねー」

フークスが言った。


「ではそろそろ別れの時間じゃ。ハインリヒ、向こうの王によくお仕えするように」

「はい、女王陛下、どうかお元気で」

ハインリヒはひざをつき、女王に最後の挨拶をした。

「３人共、元気で・・・」

女王は３人から離れて、呪文を唱えだした。

「ゆり様、お元気で！」

「ゆり様！とても楽しかったですよ！」

ルークとレイアスの声が聞こえてきた。

「シス様ー素敵な王子様になってね！」

「ゆり様！」

「巫女様、お元気で！」

「皆ありがとう！」

ゆりは泣きながらみんなの顔を見回した。やがて大きな光が３人を包み込み、

３人の姿は消えてしまったのだった。



「とうとう行ってしもうたのう・・・」

呪文を唱え終わり、女王が少し寂しげに言った。

「そなたらも本当は行きたかったのではないのか？」

女王がディランらを見て聞いた。ディランやドルイドはちょっと寂しげに微笑んでいた。

「今日からはディランが一番騎士だね」

フークスが言った。

「そうじゃのう、ディラン、よろしく頼む」

「はい、女王陛下」

ディランは女王に礼をした。



一方移動した３人がついた先は、城の外だった。

「ここは・・・」

「お城の裏だね」

「王様！」

「行こう！」

シスはゆりを連れて移動した。


夕方だった。少しあたりは薄暗い。

ハインリヒは周りを見回した。


確かに空気が重苦しく感じる・・・これが7800年もの未来・・・



「王様ー！」

「ゆり！？」

ゆりは王の間でラクシュミを見るなり抱きついて泣きだした。

「わーん、王様ー！」

「ゆり・・・無事帰ってきたんだな・・・シスも・・・」

シスはゆりが抱きついてる横からラクシュミに抱きついた。ラクシュミはゆりを抱きしめたまま、少しかがんで

シスを抱きしめた。


「王妃！シス様！」

王の間の番兵は泣いていた。

すぐにアナスターシャとラギが一緒に現れた。

「母様！」

「アナスターシャ！ラギ！」

ゆりはラクシュミから離れて二人を抱きしめた。

「よかったー母様！」

二人とも泣いていた。

ゆりは二人をしばし抱きしめた後、ラクシュミにべったりくっついた。

「あの・・・母さん、お土産は何かないのかな？」

ラギが涙をふきながら聞いた。

「土産？あ、外置いてきた」

その時、ハインリヒが二人の持ち物と一緒に王の間に現れた。

アナスターシャとラギは、突然現れた雅やかな男にぎょっとのけぞった。

「あ、王様、この人は・・・シスの先生。シスとえらく仲良くなっちゃってこっちにきちゃった」

ゆりはそう説明した。

ハインリヒはラクシュミの前でひざをついた。

「ラクシュミ様、ハインリヒと申します。ヴィラルージュ様より、ラクシュミ様にお仕えするようにと

いいつかってまいりました。ヴィラルージュ様と変わらぬ忠誠をラクシュミ様にお誓いいたします。本日より

よろしくお願いいたします」

「ハインリヒ、よろしく頼む」

ラクシュミが微笑んで言った。

「はい」

「優雅な人だねー」

ラギは感心していた。

「すごーい。なんだか御伽話から抜けてきた人みたいねー」

アナスターシャもぼけーとしている。

その時、王の間にミカエルら、ゆりの恋人たちがなだれこんできた。その中にはシャナーンもいる。

「王妃！」

「王妃！」

「みんな元気だった！？」

ゆりは変わらぬ皆の顔を見てうれしくなった。皆の目は、ゆりとシスに注がれて、次にハインリヒに注がれた。

「あの・・・そちらの派手な方は」

ミカエルが聞いた。

「この人？シスの先生。シスと一番仲良かった人」

皆シーンとしていた。

「ハインリヒと申します。よろしくお願いします」

ハインリヒが男達を見て言った。

げ・・・・なんかミカエル疑ってる・・・


ゆりはミカエルの引きつってる顔を見てそう気づいた。

「ああよかった。王妃が帰ってきて、今日のところは、家族水いらずってことで我々は退散しよう。な、

ミカエル」

フリットはそう言ってミカエルの腕を握った。

「え・・でも・・・」

ミカエルは強引に移動させられた。

「王妃、いずれゆっくりと」

「元気でよかったです」

「本当に・・・」

他の男たちも消えてしまった。

アナスターシャとラギは、二人が持ち帰ったお土産を広げていた。

「母さん・・・本はないの？」

ゆりはぎくりとした。

「ラギ、何言ってるの。ハインリヒが生きた本として一緒にきたんじゃない。いろいろ教えて

もらいなさい。なんか詳しいらしいから」

ゆりがにこやかに言うと、ラギの目が輝いた。

「そうだねえ。本よりも生きた人の方がいいよね」

「ハインリヒは本当に何でもよく知ってるよ。古代語もぺらぺらだし」

シスが言った。

「シスはかなり力が上がったな」

ラクシュミが言った。

「いいなあ。私も、私もいろいろ教えてほしい」

アナスターシャが悔しそうにしている。

「もちろんですよ。」

「あ、そうだ。これ女王様からのお手紙よ」

ゆりはラクシュミに手紙を渡した。

「母様、これこれ」

シスが大きな木箱をゆり渡した。

「そうそう、王様、これ女王様からの贈り物よ」

ゆりは木箱を開けて見せた。その中には輝く宝石が入っていた。

「わーすごいね。」

「本当、つけてみて父様」

ゆりは首飾りをラクシュミの首につけて、耳にも飾りをつけた。

「わーすごい！」

「豪華だねー！」

「王様素敵！」

「ちょっと重いな・・・」

ラクシュミが小声で言っていた。

「でもすごいよ。これだけのものは今作ろうと思っても中々作れないよ」

ラギが宝石を眺めて言った。

「このお城建て替えられる金額かもね」

ラギの言葉にゆりはかなり驚いた。

「姉様にはこれだよー」

シスが宝石箱をアナスターシャに渡した。

「わーかわいい、ピンクの宝石がついてる。ありがとう」

「私、侍女らに会ってくるね」

ゆりは荷物の中から布袋をごそごそ探して王の間を出て行った。

部屋に行くと、ゆりを待ち構えた侍女らが泣きながら待っていた。

「みんな！」

「ゆり様ー！良くご無事で」

「ゆり様ー」

ゆりはしばし侍女らと再会を喜んだ。

「どうでしたか？過去は、辛くなかったですか？」

ミラが泣きながら聞いた。

「うん。あっちのみんなすごく親切にしてくれたから。これお土産だよ」

ゆりは布袋の中身をテーブルに出した。

それはくず宝石を綺麗に加工したアクセサリーで、服につける飾りだった。過去の世界は宝石が豊富なために

庶民は小さい宝石を加工したものをよく買っているようだ。宝石のくずといっても、こちらではそれなりの

値段もするし、デザインもしゃれているので侍女らの土産にと大量にもらってきたのだった。

「わー素敵ですねえ」

「好きなのとっていいよ。シスとアナスターシャの侍女らにも配るから」

もちろん、王の侍女らにはない。嫌がらせではなく、人数が多すぎるからパスしたのだ。

それぞれが選び、ゆりは残りを袋に入れた。

「あれ？ルーは？」

ゆりは部屋の中を見回して聞いた。

「ルーならハザーク様のところですよ。」

「そうなんだ。ハザーク様にあってこようかな。ミラ、これ他の侍女らに配ってあげてくれる？」

「はい、わかりました。」

ゆりはもう一度王の間に戻った。

すると子供たちもハインリヒもいなかった。

代わりにザメハとフレイがいた。

「王妃、良くご無事で！」

「二人とも〜久しぶりー」

ゆりは二人の手を握り締めた。

「そーだ、二人にもお土産があるんだよん」

ゆりはそれぞれにちょっと小ぶりの酒瓶を渡した。

「おー昔の酒ですか、ありがとうございます」

「これはうれしいですねえ」

「ちょっとしかないけど、ごめんね」

「いいえ。大事に飲みますね」

二人はうれしそうだった。

「王様、ハインリヒは？」

「部屋に案内させたぞ。しばらくは城の中で滞在してもらうことにした」

「そうなんだ。ちょっとハザーク様に顔見せてくるね」

ゆりは荷物の中からミニミニ樽を取り出した。樽はラクシュミ用にもう一つ入っている。

これだけ酒を入れてれば重いはずだ。

「王様、ハザーク様のところ送ってくれる？」

「いいぞ」

ゆりはラクシュミにひっつき、ラクシュミはゆりを飛ばした。

ついた所はハザークの部屋の中だった。

「王妃・・」

「ハザーク様・・・」

「王妃様、よくご無事で・・」

部屋の中には侍女らもいた。部屋の中にいたルーがゆりの足元によってきた。

「はいお土産」

ゆりはハザークにミニ樽を渡してルーを抱き上げた。ルーはうれしさのあまりせわしなく動いている。

「ハザーク様ったらひどいよ。ちょうど脱皮中なんだからさ」

ゆりはちょっと恨みがましく言った。

「残念だったな。楽しかったか？」

「うん。楽しかったですよ。すごく」

「だいぶ蛇が入ったな。やっぱり自分の儀式もやってきたんだな」

ハザークがゆりのおなかをみて言った。

「そりゃあ、だって、向こうの蛇霊神すごい綺麗だったから」

「さすが王妃だな・・・」

ハザークは感心するように言っていた。



その頃ハインリヒは、案内された部屋で、騎士の服を脱いで身軽な服に着替えて化粧も落としていた。

しばらくは、この服ともおさらばだな・・・


ハインリヒは脱いだ服を見て思った。

その時扉がノックされて、扉を開けると、３人の子供たちの顔がひょっこりのぞいていた。

「どうぞ、いいですよ」

アナスターシャはハインリヒの顔をじろじろ見ていた。

「化粧落としてもかっこいいね。ハインリヒは」

ラギが言った。

「ありがとうございます」

「こっちに来る時、ハインリヒの両親は泣かなかったの？」

「両親はもういないんです。子供もいなかったし、だからわりと身軽にこられたんですよ」

「そうなの・・・私もお会いしたかったなあ。女王様」

「そうだ、女王様は王子と王女、どちらをお産みになるかご存知ですか？」

「ヴィラルージュ様の次は王様だよ。結構強い王様だったみたいだよ」

ラギが言った。

「そうですか・・・」

きっとお美しい王が誕生したのでしょうね・・・


「ねえ、女王様のお話をして」

アナスターシャがせがんだ。

「いいですよ」

ハインリヒはしばし、美しく強い女王の話を３人に話して聞かせたのだった。



その夜、ゆりは当然かなりの興奮状態になり、ラクシュミと熱々のひと時を過ごした。

「王様ーもっとー！！」

ゆりは興奮しすぎて左の瞳はせわしなく黒目と蛇の目を繰り返していた。

「ゆり、もうだいぶ抱いたような気がするが・・・」

「いやん、もっともっと。４月分抱いて」

「無茶な・・・４月？なんで４月だ？」

「私が向こうに行ってたの、それくらいだから」

「違うぞ、お前たちが消えて、7月ほどになるぞ」

「え？今何月？」

「４の月の６日だな」

「え・・・４の月？交わりの月は？」

「とっくに過ぎたぞ」

ガーン・・・

どうやらちょっとずれちゃったらしい。


まあいいけど・・・10年とかずれられるよりは・・・


「じゃあなおさらもっと！」

ゆりはぴったりラクシュミに抱きついた。

「ゆり、続きは明日でいいじゃないか。ちなみに今日は三日月なんだぞ？」

ラクシュミは優しく言った。

「だってえ・・・向こうではずっと儀式だけで我慢してたし・・・」

「向こうでも抱かれなかったのか？」

「うん。だからごほうび一杯ちょうだい」

「そうかそうか。そりゃごほうびをやらなきゃいけないな。」

ラクシュミはにこやかに言った。

「でしょ？でしょ？」

「といっても、今日はもう無理だ。私のごほうびは明日やるから、今日はハザークにもらってくれ」

「え？」

ラクシュミはゆりをなでてちゅっと唇にキスした。

「今なんて？」

「何か用か」

ベッドの横からハザークの声がしてゆりはぎょっとした。

「向こうでゆりが男を我慢してたご褒美、続きはお前やってくれ」

ラクシュミはあっさりハザークに言った。

「え・・・ええ！帰ったばっかりでそんな！」

「欲求を満たしてやらないと、体がかわいそうだろ？」

ラクシュミは真面目だった。ゆりがそれほど我慢していたと思っていた。

「え・・・でも・・・」

「そうか、じゃあもらってくぞ」

ハザークもあっさり言ってゆりを連れて行った。

「えー！！！」

それにしても・・・向こうの一番を連れ帰るとは・・・さすがゆりだな。

これからミカエルが妬きそうだが・・・


ゆりが無事帰ってきたので、ラクシュミは久々に安心してぐっすり眠った。



その頃ゆりは、しっかりハザークと抱き合って熱々の時を過ごしていた。

なんで帰ったそうそうこんなことにーと思ったが、体はもう抑えられなかった。

「王妃、随分我慢してたんだな。かわいそうにな・・・」

ハザークはそんなゆりに同情して、何度もゆりを快楽に導いたのだった。



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