「あー久しぶりに王妃の良い匂いがかげました・・・」

ミカエルはゆりを抱きしめたまま言った。

「でも蛇こなかったですね・・・」

「うん。そうだね・・・」

かなり何度も興奮させられて蛇紋は何度かおなかに出たりもしたのだが、ミカエルの肌に移動はしなかった。


そういえば、こっち帰って王様にも行ってないしな・・・


「向こうはやっぱり環境が特殊なんだよ。」

向こうでは金色の蛇もかなり鮮やかだったが、こちらに戻ってからは輝きは薄れていた。

それにそんなにすぐにはでてこない。


もしかして、蛇ちゃん達、恋人たちと会えなくなってしょんぼりしてるのかも。

ハインリヒの蛇も薄くなっちゃったし・・・あれじゃもう動かないかもね・・・


「でも、久しぶりにミカエルに優しくされたら、やっぱりうれしいな」

ゆりが甘えるように言うと、ミカエルはゆりの髪をなでた。

「ハインリヒのことも好きだけど、ミカエルのことも大好きだからね。なんといっても20年も一緒にいたんだから」

「そうですね。もうそんなになりますね・・・実は息子に言われましたよ。お父さん騎士様に負けるなーって」

「え・・・ラリーがそんなことを？」

「なんだか皆私とハインリヒが王妃を奪い合うのを楽しみしてるようですね。」

「・・・相変わらず・・みんな他に楽しみないんだね」

ゆりはあきらめたように言った。


第25話


あくる朝、朝食の時間、子供らが楽しそうにゆりに言った。

「母さん、今日の午後一緒に闘技場行こうよ」

「何かあるの？」

「イシュタールがハインリヒに手合わせしてもらうんだってー」

「へーそうなの。でも王様行ってもいいっていうかな」

「大丈夫だよ。僕と姉様で闘技場に結界はるからね」

シスが言った。

「わーい。本当？おめかししていかなきゃ♪」

子供らが成長してくれたおかげでゆりも外に出ることができて、うれしい限りだ。


「え？そんな楽しい事があるんです？私も行ってもいいです？」

部屋に戻ってミラに言うと、ミラも興味深そうにしていた。

「いいよ。他の侍女らと馬車でおいでよー」

「うれしーです。わー何着て行きましょう」

ミラはるんるんで部屋を出て行った。


そして午後、ゆりは身支度を整えてアナスターシャの部屋に行った。そこにいたのはアナスターシャとラギだけだ。

「シスは？」

「一足先に行ったよ。早めに結界はっとくって」

「そうなんだ」

「じゃあいい？」

「うん」

アナスターシャは二人に触れて、移動した。二回目の瞬間移動で闘技場についた。

「なんかもうすごい声援聞こえるんだけど・・・」

ゆりが驚いて言った。闘技場の中に入り、客席に行くと、結構な人が入っている。

「子供たちの団体がいるねえ」

ゆりは客席を見て言った。

「きっと課外授業だよ。」

とラギが言った。

「ねえせっかくだから子供らの所飛ばしてよ。アナスターシャ」

「いいよー」

ゆりは瞬間移動で連れて行ってもらった。

「わー王妃様！」

「王妃様ー！」

「アナスターシャ様！」

子供らが喜んでよってきてくれた。

「みんなーかわいいー」

ゆりは皆の頭をなでなでした。その中にはミカエルやヴィラたちの子供らも混じっていた。

わーミニミカエルーにミニヴィラ、ミニジュノーになってる！


まだまだ小さいがちゃんと父親の面影があり、ゆりはおかしかった。

ミルキダスやフリットの子供の女の子たちも、どことなく二人の面影があった。


やっぱ子供っていいよねーみんなかわゆいー！！


ゆりは皆と握手してラギの元に戻った。ラギの横にはシスもいた。


「なんか次々と人入ってくるね。市民の皆さんもいるじゃん」

着飾った一族の女性軍団もいれば、市民っぽい人たちもいる。ゆりの侍女たちもやってきていた。

「なんか新聞で出てたらしいよ。過去の騎士様が剣技を披露してくださるって」

ラギが言った。

「そうなの？すっかりお祭りだね」

客席に物売りまで出現している。

「本当に敵入ってこれないの？」

「うん。殺意がある者は入れないから」

「ふーん・・・・シスーお菓子・・・」

ゆりは物売りが売ってるお菓子がどうしてもほしくなった。

「買ってくるよー」

シスは人数分お菓子を買ってきてくれた。紙のカップにポン菓子みたいな白い粒のお菓子が入っていた。

「甘くておいしいー」

「あー王妃ー！」

近くにジュメがやってきた。

「あら、ジュメ！そりゃ当然ジュメも来るよねー」

「ここに座っていいですか？」

「いいよーユリウスは？」

「今日はお仕事です。残念ながら」

「そうなんだ」

ゆりはこっちに帰ってから、一度ジュメやユリウスにもあっていた。二人とも変わりなく、ジュメも順調そうだ。


闘技場内は異様な盛り上がりを見せていたが、一番驚いたのは闘技場にやってきた当の本人ハインリヒだった。

え・・・なんでこんなに人が？


「あの・・・立会いって・・・果し合いってことじゃないですよね？」

ハインリヒは一緒に来たイシュタールに聞いた。

「え？」

「命のやり取りまではしないですよね？」

「まさか、ただの立会いですよ」

「じゃあ何でこんなに人が？」

「ああ、何かあるとすぐ皆かぎつけて集まっちゃうんですよ。まあ気にしないでください」

「・・・」

二人が闘技場内に顔を見せると、女性方から一斉に「騎士様がんばってー」の声援が飛んだ。

「すごーい。ハインリヒって、もうファンクラブできてるんだ」

ゆりは横の方にいるドレスを着た女性らを眺めた。皆大興奮で声援送っている。

「あれ？なんかミカエルらの彼女いない？」

ゆりは女性の顔を見て言った。数人見知った女性がいる。

「しょうがないよ。女って強い男に目がないからさ」

言ったのはラギだった。

「せちがらい世の中だねえ・・・」


まあいいや。私もせっかくだからもりあがろうっと。

「イシュタールがんばれー！！」

「ああ。こんなことならもっといい服着てくるんだったなあ・・」

ハインリヒは普通の地味な服で着たことをかなり後悔していた。

「そろそろ始めましょうか」

イシュタールがうれしそうに言った。

「はい、私一本でも二本でもいけますけど、どっちがいいですか？」

「そうなんですか。じゃあ取り合えず一本でお願いします」

ハインリヒは両腰につけていた剣を一本外した。

変な男だな。大勢の前で負けてもいいのかな？


イシュタールが観客を前にしてもあまりにうれしそうなので、ハインリヒは奇妙に思った。

ハインリヒとしては、一番騎士という肩書きがある以上、立会いで負けるわけにはいかなかった。

「よっぽど自信があるんですか？」

「え？いえ？」

「そう見えますけど。やけにうれしそうなので」

「私にとっては、たとえあなたに負けたとしてもうれしいですよ。目標ができるって素晴らしいじゃないですか」

「はあ・・・」


二人は闘技場の中央に行き、互いに礼をした。



「わーいよいよだねえ。楽しみだなー」

ラギがわくわくして言った。

「どっち勝つかなあ。やっぱりハインリヒ勝つかな？」

「魔力はハインリヒのほうがかなり上っぽいけどねー剣技はどうかなあ」

「まあ、ここで不様に負けたら、女王様にも他の皆にも二度と顔向けできないよね。なにせ一番騎士だし」

ゆりは勝手なことを言っていた。


二人の立会いが始まった。体格や力はイシュタールのほうが上だが、やはり素早さではハインリヒのほうが勝っている

ようだった。


「うーん・・・動きが優雅だねえ」

ラギが感心するように言った。確かにハインリヒのほうが優雅だった。まるで剣の舞か何かを見ているような感じだ。

「さすが騎士様だねえ」

ゆりはハンンリヒが剣を振るう所を見るのは初めてだったので、結構みとれてみてしまった。

他の観客たちも、声援を送るのも忘れてしーんと静まり返って見ている。

「でもイシュタールも結構負けてないよね」

ハインリヒが次々と剣を振るっているが、イシュタールにはヒットしていない。

「僕が見たところ、イシュタールの方が野生の勘がすごそうだよね。」

ラギが言った。

「野生の勘？」

「ハインリヒは力はすごくても平和な時代にいた人だろ？イシュタールは毎日実践で鍛えてるからさ、敵もいろんなのが

いるし、おいそれとは負けないよ」

「なるほどねーところでさ、あんた本当にまだ７歳なの？」

ゆりは思わず聞いた。



しばらく剣の打ち合いをしていた二人が離れた。

「なかなか楽しいですね」

ハインリヒが言った。

「私も楽しいですよ」

とイシュタール。

「いざ」

ハインリヒが地を蹴り、宙を飛んだ。そして激しくイシュタールに切りつけた。イシュタールは剣でそれを防いだ。

「おおっ！」

という声があがった。

「ハインリヒの速さがあがったね」

ラギが言った。先ほどよりも動く早さが増している。

「本気になったんですねえ」

とジュメが言った。

先ほどはお互いに打ち合っていた二人だったが、ハインリヒの動く速さが上がり、イシュタールは受身で精一杯

になっていた。やがて、首元にハインリヒの刃があたり、イシュタールは剣を落とした。

「負けました」

ハインリヒは剣を首から離して自分の腰にしまった。


観客からはぱちぱちと拍手が沸き起こった。


負けてもイシュタールはかなりうれしそうだった。

「あなたを連れてきてくれたことを王妃に感謝しなければ」

ハインリヒは苦笑ぎみに笑った。

「せっかくだから観客の皆さんにサービスしましょうかね」

ハインリヒは両手を胸の前で合わせて小さな声で呪文を唱えだした。


やがて両手を上にふっとあげ、その中から赤い物が３つほど天に上がって行った。それは花火のようにぱっぱっと

鮮やかに広がったのだった。

「わーすごい！」

「きれいー！」

観客は大喜びで今日のイベントは終了したのだった。

「あー面白かったねーイシュタールは負けたけど、絶対喜んでるに違いないね」

ゆりが言うと、ジュメが横で笑った。

「じゃあ帰ろうね」

シスが言って、ゆりは子供たちと城に戻った。

部屋に戻ってしばらくすると、二人の侍女が入ってきた。

「今日は楽しかったですねー」

「やっぱり騎士様素敵でしたー」

「イシュタールも素敵だったよ」

ゆりはあんまり女の子たちがハインリヒに騒いでいるのでイシュタールのフォローをした。

二人ともかなり盛り上がったようで興奮している。

まあ、たまにこういう楽しみがあるってのはいい事だ、とゆりが思っていると部屋の扉がノックされて、

侍女が出るとハインリヒだった。

「今日見てたでしょ？どうです？私に惚れ直したでしょ？」

ハインリヒは楽しそうに聞いた。

「・・まあそりゃちょっとは・・・」

「何なら今夜夜這いに来てくれていいですよ」

ハインリヒはそう言って出て行った。

「・・・夜這いって・・・」

「王妃様・・」

「今夜夜這いにいかれるんです？」

侍女らはなにやら興奮した様子で聞いてきた。

「行きませんよ。行くわけないでしょ」

「いやですわ」

「私達、皆には内緒にしておきますから〜」

「行きませんって！」

ゆりは力を込めて言った。


全く、侍女らまで何考えてるんだか。


その夜は、当然ゆりはラクシュミと一緒に寝た。向こうではもう一人のゆりも夜遊び三昧だったが、こちらに帰ってから

は夜はおとなしくしている。最近はラクシュミも結構頻繁に抱いてくれるので、どちらのゆりも満足な日々だ。

夫婦にとってはたまに離れるというのも刺激になっていいかもしれない。


ある晩、ラクシュミがハザークの部屋を訪れていた。

「ゆりにもらったお酒飲んだか？」

「ああ、懐かしい味がした・・・あれを飲んで少し思い出したことがある。聞きたいか？」

「なんだ？」

「あれは、王妃が過去の世界から去った後のことだ、我の脱皮があけてから、一人の騎士がやってきて巫女の事をいろい

ろ話して行った事を思い出した。」

「そうか・・・」

「顔は全く思い出せないが、金色の蛇がいる男だったな・・・」



「ハザーク様、長い脱皮お疲れ様でした」

男はそう言って挨拶した。

「ああ」

「巫女様の話、聞かれましたか？」

「何やら楽しい事が一杯あったそうだな。すごく良い巫女だったそうじゃないか。一度の儀式であれだけ蛇を入れ

るとはたいしたものだ」

「とてもかわいらしい人でしたよ。実は、女王陛下に言ってないことがあるんです」

「なんだ？」

「我々だけではなく、我々の肌にいる蛇が彼女の蛇に恋をしてしまったんですよ。彼女の肌に移動して、会いに行って

しまったほどですからね」

「・・・」

ハザークはしばしぽかんとしていた。

「肌を移動した？」

「ええ。自分の肌から彼女の肌へと移動して、彼女の肌にいる蛇と交わったんですよ。なんとも不思議な体験をしました」

「そんなことがあるのか。初めて聞いた」

「本当に、我々は皆、彼女の蛇が恋しくてならないんですよ。このこと、陛下には内緒ですよ」

男は最後には笑ってそう言ったのだった。



「肌の蛇同士が交わるなんてことがあるのか？」

ラクシュミが驚いて聞いた。ゆりも、そこまでラクシュミには言ってない。

「男はそう言っていたがな。あの時はどれほど美しい女だったんだろうなと思ったんだが・・・」

「そんな話初めて聞いた」

「まあ、昔は肌の蛇も、すごかったからな。」

「・・・ハインリヒにあったか？」

ラクシュミは少し考えるように間をおいて聞いた。

「ああ、一度挨拶にきたぞ。強い男が増えてよかったな」

「黒い蛇だったろう」

「黒い蛇だったな。真っ黒の蛇は珍しい」

「・・・ちょっと奇妙だと思わなかったか？」

「思った。ちょっと前黒い蛇を見たことがある」

「やっぱり覚えていたのか。どうつながるんだろうとずっと考えていたんだがな」

「たまたまだろう。別につながるとは限らない」

「だがなあ・・・・」

ラクシュミが首をかしげ、ハザークも首をかしげたのだった。


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