夕食の時間ゆりはやたら３人の子供たちがうれしそうな顔をして口元をむずむずさせているのを見た。
「何か良いことあったの？」
どうもそんな感じだ。
「ん？別にー」
とラギが言った。
「母様が元気になったからうれしいんだよ」
とシス。
「そう？それにしては何か言いたそうだけどなー」
ゆりは一番言いたそうな顔をしているアナスターシャを見て言った。
ーまだ言ったらだめだからね。
ラギから思念が飛んできた。ラギが瞬間移動できるようになったというのはまだゆりには内緒だった。
もっとうまくなったら言おうと思ってるのだ。
「そうだ、僕綺麗な女王様夢で見ちゃった。あんなにすごい女王様いて、よく皆母さんの事好きになって
くれたねえ。やっぱり母さんはすごいね」
ほめてるのやらけなしてるのやらわからない言葉に、ゆりは微妙な顔をしたのだった。
第28話
ーあいあいあい〜
ーねーねーうたうた
「いいよー歌ってあげるねーおっおきっなへっびさん、どっこいっくの〜♪」
ーきゃは
ーきゃははは
最近夕方になると赤ちゃん達が良くしゃべる。歌を歌えだの本を読めだのと兄や姉にせがんでいた。
ーへーびへーび
ーへーびへーび
元気で良いことだが、しゃべる時は必ず二人一緒にしゃべりだすので、かなりにぎやかだ。
ーとーは？とーは？
ーとーどこ？
「父様今休憩室にいるよ。連れて行ってあげるね」
アナスターシャに移動させられて、ゆりは本当のトーに会いに行った。
休憩室に入るとラクシュミのほかにミカエルとフリットもいた。
３人でお酒を飲んでいたようだ。
「あら、二人もいたのね」
ーとーとー
ーとーだっこ
「はいはい」
ゆりがラクシュミの横に座ると、ラクシュミがゆりのおなかをなでなでした。
「最近良くしゃべるな」
「うん。」
ーうれしうれし
ーあいあいあい〜
ご機嫌のようだ。
「ふふ、かわいいですねえ」
フリットが微笑んだ。思念はフリットとミカエルにも聞こえていた。
「こっちのとーの所にもいらっしゃい」
ミカエルが笑顔で両手を広げた。
「もー余計な事言わないでよ。せっかく王様にまたなついたんだから」
ゆりが言うと、
ーあっちのとーもだっこ
ーとーとーとー
「げっ」
「ほら、私もとーだもんねーだっこしてあげるからおいでー」
「べーだ。こっちのとーに抱っこしてもらおっと」
ゆりはフリットの横に座り、フリットにおなかをなでなでしてもらった。
「もう、恥ずかしがって」
「やっぱりとーは一杯なんだな」
ラクシュミは笑ってのんきに言っていた。
「王様・・・本当の父親として寂しくないわけ？」
「産まれて数年すれば他の子らのように理解するだろ？とーだと思ってくれた方がむしろいいじゃないか。
どうして母親は父親以外の男としょっちゅう引っ付いてるのか疑問に思ったら困るだろう？」
「ぐ・・・」
「だめですよ。私以外のとーとしょっちゅうひっついたら」
とミカエル。
「しょっちゅうしょっちゅうって・・・ひどい。」
「たまにですよね」
フリットがフォローを入れるように言ったが、あんまりフォローにもなってなかった。
その夜、
「ゆり、体はすっかりよくなったか？」
寝室でラクシュミがゆりに聞いた。
「うん。もうすっかり元気になったよ」
「そうか。なら来い」
「わーい」
ゆりはラクシュミに抱きついた。
ああよかった。王様が前と変わらなくて。
肌の蛇が蛇を産んじゃうという珍事にも、ラクシュミはたいして動じてはいなかったのでゆりはほっとしていた。
「うれしい。抱いてくれて」
「お前を抱くのは気持ちがいい」
金色の二匹の蛇は、まだ疲れているのかゆりが興奮を感じても肌にはでてこなかった。
「幸せ」
ラクシュミはゆりの頬をなでて、おなかをなでた。
ーしあわせ
ーしあわせ、ぬくぬく
夜中、ラクシュミが何かに気づいて目を覚ました。布団をめくると、自分のおなかの上に
二人の赤ん坊がべったりのっていた。
「・・・」
といってもあまり重さも感じない。
手前の赤ん坊はうつぶせになっていた。おしりに黒い蛇がついてるのが見えた。
ラクシュミはもう一人の赤ん坊の方を見ようとしたが、体を動かさずに見ることはできなさそうだったので
あきらめた。
前見たときよりもだいぶ大きくなったな・・・
いっぺんに子供が二人増えるんだからすごいな・・・一体どこまで増えるのだろう・・・
そのうち世界記録を作るかも・・・
30年前にはまさか自分がそんなに子沢山パパになるとは夢にも思っていなかったラクシュミは、しばらく
赤ん坊の白い小さいおしりを眺めていたのだった。
元気になったゆりは久しぶりにハザークの部屋を訪れた。
「ハザーク様」
「王妃、すっかり元気そうだな」
「はい、もうすっかり」
ゆりはハザークの横に座った。ハザークは優しくゆりの髪をなでた。部屋の中には二人侍女がいた。
「ありがとうね。お見舞いに来てくれて」
ハザークの侍女らも何度かお見舞いにきてくれたのだった。
「いいえ」
「よかったですわ。すっかり元気になられて」
侍女らはにこにこしていた。
ハザークはあれっきり部屋にはこなかったが、子供らがたまにきてハザークにゆりの様子を報告していたようだ。
侍女らも子供たちの肌にいる子蛇を見せてもらったりして喜んだようだ。元々彼女らは蛇なので、ゆりの蛇紋が
子供を産んだ事に関しては、微笑ましく思ったようだった。
「お茶をお持ちしますね」
そう言って二人とも出て行ってしまった。
「本当に優しいねー。ハザーク様の侍女さんらは」
「そうか？」
ハザークは横からゆりを抱き寄せた。
「もう体すっかり平気か？」
「私自身が子供産んだわけじゃないから平気よ」
「なら抱いてもいいか？」
「え・・・エッチ・・・」
ゆりの頬が赤くなった。
「今日はだめだよー」
「なんでだ？」
「まあ、またそのうちに・・・」
「そのうちって何日後だ？」
「そのうちはそのうちですよ」
「つまらないなあ」
今日はハザークもさほど強引にする気はなさそうだった。
そうこうしていると侍女がお茶とケーキをもってきてくれて、「ごゆっくり」と言ってすぐ出て行ってしまった。
「別に出てかなくてもいいのに・・・ハザーク様も飲みます？」
「いいや、我は今はいい」
「じゃあ私だけもらおうっと」
ゆりは椅子の方に座り、白いポットから紅茶をカップに注いで飲んだ。
んーおいしい！なんかちょっとお酒入ってるみたい。
あんまりおいしかったのでゆりはおかわりまでして飲んでいた。そしてパウンドケーキもむしゃむしゃ
食べている。ハザークは長椅子に寝そべっていた。
「ハザーク様って、蛇でいる時より人でいる時の方が長いんです？」
ゆりはハザークに顔を向けて聞いてみた。
「その日の気分によるな」
「どっちが楽ってことはないの？」
「どっちでもいいが、長い間どっちかでいるとしんどくなる」
「そうなんですか。あーすごくおいしかった！ご馳走様」
「こっちこい」
「はーい」
ゆりは寝そべってるハザークの横に座った。
ハザークと手を軽く握り合っていると、ゆりの胸がどきどき高まってきた。
・・・なんだか・・・その気になってきた・・・かも
急にどうしたんだろう・・・
「王妃、顔真っ赤だぞ？」
ハザークがゆりの顔を見て言った。
「・・・・」
「どうしたんだ？」
「あのー・・・」
ゆりはしきりにハザークの手の平にのの字を書いていた。
「あのー・・・やっぱり抱かれてもいいかな」
「そのうちじゃなかったのか？」
「だから・・・今がそのうち後」
「随分早かったな」
「・・・・」
「まあお前がその気になったのなら遠慮なく」
ハザークはゆりと寝室に移動して、抱き合った。
最初おとなしくしていたゆりだったが、しだいに興奮状態が高まっていき、ハザークの腰に両足を回して
腰を摺り寄せていた。
「ああ・・・ああん・・・ハザーク様・・・」
「随分興奮してるんだな。最初は全然その気なかったのに、お前は本当に面白い女だな」
ハザークはゆりを抱きながら言った。
「はあん・・・」
「気持ちいいか？王妃・・・」
「いいです・・・すごく・・・」
「今日は素直だな・・・」
ハザークが達して体を離すと、ゆりがハザークに抱きついた。
「ハザーク様もっと・・・」
「王妃・・・」
ハザークはゆりを抱きしめて口付けた。
その頃、下の階では侍女らがお茶を飲んでいた。
「今頃熱々になってるかしら」
「ふふふ、きっとなってるわ」
実はハザークも知らないことだったが、紅茶の中にはちょっとそういう気分になる物がいれられていたのだった。
元々そういう関係なので、あおったところで別に害もないだろうと思っている。
ゆりの肌の蛇が子供を産むという事を聞いた侍女らの心に、ある願望が目覚めていたのだった。
それは、ゆりにハザークの子供を産んでほしいというものだった。
これからずっと熱々の関係が続けば、そういうこともありえるかもしれない。
そう思いだしたのだ。
「王妃様は器用ですもの。ですからいずれそういうことも起きるかもしれないわねー」
「そうよねーふふふ。あれだけ御子様がいらっしゃるんですから、一人くらいいいわよね」
「そうよね。王もそんな怒らないわよね」
「がんばって熱々にしましょう」
「そうしましょう」
侍女らはうれしそうだった。
しばらくして後、すっかり興奮の波が去ったゆりは、なぜ自分があんなに興奮したのか不思議に思っていた。
横では蛇になったハザークがいる。
うーん・・・こ・・・腰ががくがくする・・・
あんなに乱れまくっちゃって恥ずかしい・・・
蛇ハザークは、よっぽど疲れたのかもうぐっすり寝ていた。
明らかに疲れさせたのは自分だ。
まあ私が急に興奮するのも、そう珍しいことでもないけど・・・
結局はハザーク様に抱かれるのも好きなんだよね・・・
あんまり夜までひきづらないようにしなきゃ。
まさか侍女らが優しい微笑みの裏側でそういう願望を抱いているとは知る由もないゆりだった。
すすむ