その日、天気がよかったので蛇の目のゆりは瞬間移動で移動して見晴らしの良い塔にいた。


体もすっかり元通り、快調、快調！


ゆりはあちこちぐるりと見回してしばし風にあたってから南の方の庭園へと飛んだ。

すると開けた場所でラギとジュノーが離れて立っていた。

「何やってんの？」

ゆりが声をかけると、ラギはぎょっとした顔をむけた。

「母さんのばか！突然現れないでよ！」

「ばかって・・・いきなり何よ。何してたの？」

「別に何もしてないよ」

「何してたの？ジュノー」

ゆりは離れた所にいたジュノーのそばによって聞いた。

「何って・・・あれですよ。王子と遊んでたんですよ」

「何して？」

「しりとりです」

「しりとり？」

「王妃、今日もとってもかわいいですよ」

ジュノーは微笑んでゆりに言った。

「なんかあやしいのー」

ラギがたったと駆け寄ってきた。

「お母さん、広間で新酒の試飲ができるんだよ。さっき運んでた」

「本当？飲みに行こうっと。じゃあね」

ゆりは移動した。


「そろそろ言ってもいいと思いますけどね」

ジュノーがラギに言った。ラギは瞬間移動の練習をしていたのだった。

「うーん。もうちょっと。でもここで練習するのは危険だなー」

「そうですね。訓練所のほうに連れて行ってもらったらいいですよ」

「うん。そうしようかな。僕どこまで飛べるようになるかなあ」

「あせっちゃだめですよ。」

「うん」

ラギはうなずいた。



第29話


ゆりがわくわくしながら広間に行くと、酒樽が10ほどテーブルに横にしておかれていた。違うテーブルにはいろんな

酒瓶に入ったお酒もある。

毎年10から11の月にかけて新しいお酒が出来上がり、一族の者にとっては新酒の試飲は毎年お待ちかねのイベントだった。

広間の中には10人ほどの男性がいてすでにお酒を飲んでいる。床の上には大きな蛇もいて皿にお酒をついでもらっていた。

皆ゆりを見るとこんにちはと挨拶してくれた。

「あら、将軍もきてたのね」

その中にヴィクターもいた。

「いてもたってもいられませんで」

「どれがおすすめ？」

「これいいですよ」

ヴィクターが一つの樽を指指したので、ゆりは杯を持ってきてコルクをひねってお酒を注いで飲んでみた。

「うん。おいしいねー」

「王妃、これ飲んでくださいよ」

一人の戦士がゆりに酒瓶をもってきた。

「ガーベラ？」

ラベルにはガーベラの文字があった。

「ガーベラをイメージして作ったようですよ。」

「へー」

ゆりはそれを杯に注いでもらった。

色はピンクっぽい綺麗な色をしていた。フルーティーな味わいで軽い口当たりだった。

「おいしいねー。この色が綺麗でいいね。ちょっと軽めね」

「一族の女性は皆酒豪ですからあれですが、国外の女性目当てに作ったようですよ」

「そうだね。女の人がちょっと飲むのにいいね。」

蛇の国は酒の産出量では世界一である。龍の国にもひそかに愛好者がいるほどだ。


「王妃のお土産のお酒は大変おいしかったですねー二度と飲めないとはまことに残念ですよ」

ヴィクターが言った。過去のお土産のお酒をラクシュミは４人の将軍らと飲んだといっていた。

キースはもう二度と飲めないからと小さい杯に一杯飲んで、そのままよっぱらったそうだ。

「過去の女王様からの贈り物の本の中に一冊お酒の造り方の本が入ってたっていってたよ。その内、大昔飲んでた

お酒が再現できるかもね」

「本当ですか？それは楽しみですね」

ヴィクターはうれしそうに言った。

ほとんど魔法書の類だったのだが、一冊お酒の本が入っていて、大昔の作り方などが書いてあった。もちろん、古代の

ぶどうの苗などは手に入らないが、お酒の製法も大昔とはかなり違ってきているので、外国の金持ち相手に

昔流のやり方で作ったお酒を高値で販売するのもいいかもしれないと言っていた。


いろいろ可能性は広がっているようだ。


ゆりは部屋に戻り、黒目のゆりと交代した。


夕食の時間、テーブルの上にもお酒が何本か並んでいた。

子供らも平気で「これがいいね」とかいいながお酒を飲んでいる。こちらのゆりもガーベラを飲んでいた。

「おいしいねーこれ。色も綺麗だし」

「私にはちょっと軽すぎるなあ」

とアナスターシャが言った。こちらでは子供も平気で酒を飲むし、飲みすぎない限りだれも注意しない。

妊娠中のゆりは毎日は飲んではいないが、他の一族の女性は妊娠しても平気でお酒もがぶがぶ飲んでいるようだ。

酒が害で病気になったという話も聞かないし、蛇の一族はよっぽど肝臓が丈夫なのかもしれない。

「僕はこれが気に入ったなあ」

「そう？僕はこっちの方がいいな。まろやかで。」

ラギやシスもお酒を少しずつ飲んで味見している。こんなに幼い内からお酒の味が分かるとは。

「まったくこっちの子供はどうなってるのかねー」

と思うゆりだった。


その夜、ゆりはお酒もちょっと入っていたのでラクシュミが来る前に眠ってしまった。


ーあそぼ

ーあそぼあそぼ


ゆりのおなかにいる双子は、勝手におなかの中から抜け出て部屋を出て行ってしまった。


ーねー

ーねーねー


その頃眠っていたアナスターシャは目を開けた。見ると布団の上で白い塊が二つ、ぴょんぴょんはねている。

「え！？」

ーあそぼ

ーあそぼあそぼ

よくみると赤ちゃんだったのでアナスターシャはびっくりした。

「でてきたの？おいでおいで、ねんねねんね」

アナスターシャが布団を広げると

ーやだ


といって二人とも消えてしまった。

「えー！！！」

ーちょっと、ラギ、シス、起きて！赤ちゃんがどっか行った


アナスターシャは思念を送りながら双子を探しまくった。だが、全くどこに行ったか見当もつかない。

「本当にいたのー？」

ラギが目をこすりながら廊下に出てきた。

「夢じゃないの？」

シスまで言っている。

「本当だってば。探して探して」

「勝手におなかに帰ると思うけどなあ」

「帰らなかったらどうするのよ！」

その時、

ーにーにー

ーにーあそぼ


双子が急にシスとラギのおなかにべったりくっついた。

「うわっびっくりしたー！」

「あっ！子蛇ついてる！」

アナスターシャが二人の背中とおしりを見て言った。

「え？本当？」

「うん。こっち黒いの。こっちは金色のがついてる」

「あっ！本当だ！」

シスとラギは赤ん坊の背中をのぞきこんだ。確かにそれらしい物が見える。

ーあそぼ

ーあそぼあそぼ

「遊ぶって何して遊ぶんだい？もう夜だよ。母様のおなかに帰らなきゃ」

シスが言うと

ーやだ

といって、二人とも消えてしまった。

「ありゃりゃ」

「どこ行ったんだろう。」

「もー・・・産まれてもないのになんであんな素早いの！」

アナスターシャは頭をかいた。


「将来楽しみだねえ」

とラギ。

「探さなきゃー」

「ふわー・・」

アナスターシャとシスはあくびをしながら移動した。



ーとー、

ーとーあそぼ



「ん？」

ハインリヒが目を開けると、おなかの上を白い塊が二つ動いていた。

「え？」

よく見ると白っぽいが赤ん坊の形をしている。

「おやおや、とーに会いにきたの？まーは知ってるのかな？」

ハインリヒは急に笑顔になり、赤ん坊を抱き寄せた。


ーあそぼ

ーあそぼ。とー


「もう夜ですよ。まーのところに帰らないとだめですよ」

ーやだ


二人はぱっと消えてしまった。


「わっ！」

ハインリヒは一瞬呆然とし、すぐベッドから降りた。


このままほっておくのはまずいかな？


廊下にぱっと出ると、廊下の向こうにシスらしき姿が見えた。

「シス様」

ハインリヒはシスの側に移動した。

「赤ん坊みなかった？」

「見ましたよ。どっかいきました」

「参ったね」

ーロイ、ナナミ、どこー？


ーこっち

ーこっちこっち


ーこっちってどこだい？


ーきゃははー


赤ん坊たちは城の中のあちこちを飛び回り、アナスターシャとシスにハインリヒまで加わっての追いかけっこに

なってしまった。ラギはまだそこまで飛べないので、歩いてあたりを探している。


産まれる前からたいしたものだなあ。すごいや。


一人感心していた。


その頃、ラクシュミは酒を飲んだ後、寝室に行こうと思っていたところだった。


ー父様、赤ちゃんが逃げ回って捕まらないよー


その時アナスターシャから思念が飛んできた。

「ん？」

ー近づいたら逃げるんだからもー！！！


「またおなかから出たのか」

ーロイ、ナナミ、夜中に遊んでちゃだめだぞ。おなかに戻るんだ。


ーや

ーねむくにゃい

ーあそぶの！


「しょうがないな・・・・まあ。適当に遊んでやれ」

ラクシュミはそう思念を送り、自分はさっさと寝室に行ってしまった。


ーあーずるい父様！

ーしょうがない。僕らで遊んであげよう。いいよ。ハインリヒは寝ても

ーいえ、お二人をおいて寝るわけにもいきませんから。


ーこっち

ーこっちこっち


二人の赤ん坊は上に下に瞬間移動しまくり、ようやく捕まえた時には、朝が近くなっていた。

「あーやれやれ」

アナスターシャとシスは二人を連れて王の寝室に行き、二人はようやくゆりのおなかに戻って行ったのだった。


ーどうなってんの？あの元気さ。シスもあんなに動かなかったよ

ーすごいねえ。産まれる前でああなんて、産まれてからが怖いね

ーその前に産まれるまでも怖いじゃないよ。まだ一年以上はあるんだから

二人は無言でそれぞれの部屋に戻り、布団の中に入って眠ったのだった。



朝、ゆりが食堂に行くと、ラギしかいなかった。

「あれ？二人は？」

「寝てるよ」

「二人とも朝早いのに珍しいねえ」

ラギは昨晩、途中で眠っていたのだった。まさか夜中にそんな騒動があったとはゆりも知る由もない。


しかしその騒動はそれだけでは終わらず、３日をあけずしてまた双子らは外に飛び出しては寝ている姉や兄の元に

行っては遊びをせがんだのだった。

「エー今日も？」

アナスターシャがいやそうに言うと、


ー・・・わーんわーん

ーあーん・・・


とわんわん泣き出す始末。相手はまだ言葉があまり通じない赤ん坊だからたちが悪い。

「わかったよ。遊ぼ遊ぼ」

さすがのアナスターシャも赤ん坊には勝てず、またもや朝までの追いかけっこが始まったのだった。


なんだか、私が修行させられてる気分なんだけど・・・・


もちろん追いかけっこにはシスも加わり、またもや二人は朝方ぐったりと眠りについたのだった。

その夜は双子はハインリヒの元にいかなかったのでハインリヒはぐっすり寝ていた。


騒動が二回目になり、ようやくゆりの耳にも届いたのだった。

「そりゃ大変だったわねえ」

「お願いだから赤ちゃんたち昼間寝させないでよ」

アナスターシャが眠そうな顔で言った。

「そういわれても・・・どうすりゃいいの？」

「起きろーっておこして」

「かわいそうじゃないの。毎晩じゃないんでしょ？まあたまに遊んであげなさい」

「母様は寝てるだけだからいいけどさー私ら大変なんだから、もうすばしっこいのなんの・・・」

「へーすごいじゃない。過去で大量に蛇入れただけはあるわね」

ゆりは逆に喜んでいた。アナスターシャは口を尖らせている。


子供って・・・後から産まれるほうが何かと得なのね。


そう気づいたアナスターシャだった。


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