あ〜やっぱりあの時の王様は最高によかった〜
抱かれまくりの愛されまくりのキスされまくり〜
幸せ〜
今回はなんだか王様にくらくらしてる間に終わってしまった感じ・・・
赤い月が過ぎて3日経ってもゆりは幸福感に浸っていた。
ゆりの侍女らも、ゆりの顔を見るだけでご馳走様という感じだ。
長椅子でぼんやりしていたらハインリヒがやってきた。
「あら〜なんだか久しぶり」
「随分幸せだったみたいですねー」
ハインリヒはゆりの顔を見て言った。
「えへへ。ハインリヒはどうしてたの？誰かと過ごした？」
「いいえ、今回は、こっちに来てすぐだったので、女王陛下を偲んだり、王妃を偲んだりしてました」
ハインリヒは言いながらゆりの横に座った。
「偲んだりって、私まだ死んでないよ」
ゆりは口を尖らせて言った。
「匂いがきつくなってますね。すごいですよ」
「そう？」
「幸せをこっちにも分けてほしいなあ」
ゆりはべーと舌を出した。いくらなんでも今は他の男とひっつきたくはない。
「ねえ、やっぱり女王様も、変化したら体が蛇のうろこで覆われたの？」
「そうですよ。きらきら輝いて、とてもきれいでしたねえ」
「そうなんだ・・・王様って皆そうなんだねえ。女王様が恋しいでしょう」
「それはそうですよ。ですが、御子様ができればしばらくは赤い月は男性とは過ごさないでしょうね。あなたは
子供がいてもいなくても変わらないみたいですが」
「だって、あの時の王様ってすっごい性格違うんだもん。優しくって別人だもん」
「普段も優しいでしょう？」
「そうだけど、優しい上に愛情がこもってるの。ゆりって呼ぶ口調すらもう違うし」
「ご馳走様でした」
ゆりの目がうっとりしていたのでハインリヒは早々に部屋を去って行った。
第33話
暦は４の月に入った。まだゆりは自分の部屋で一人で寝ていた。
そんなある朝のこと、目覚めたゆりは、横に男が寝ていたのでぎょっとした。
目をこすってよくみると、黒髪の男だ。ミカエルだった。
「え？どうしたの。こんな朝っぱらから・・・」
「久しぶりだな。王妃」
ミカエルは笑っていた。
久しぶりって昨日あったじゃん・・・
「あれ？」
ミカエルの瞳は金色に輝いていた。
「・・・・ミカエル？」
なんなんだこの、圧倒されるような威厳は・・・
「もしかして、ザクート様？」
もしやと思い言うと、ミカエルはにやりと笑った。
「あたりだ。」
「え？な、なんで？」
「王妃に会いたくなってやってきてしまった」
「え？え？」
ザクートはゆりの頬をなでて顔を寄せてきた。
「王妃は何十年たっても全然変わってないな」
「え・・いえ、あれからいくらも経ってないですが・・・」
「そうなのか？てっきり5.60年は経ったかと思ったが・・・」
金色の瞳に見つめられてると体がぞわぞわしてくる。
「わっや、やばいです！やばいです〜！！」
ゆりは必死に抵抗するように言った。このままだとふらふら行ってしまいそうだ。
「ん？お前はだめか」
ザクートはゆりの左目のあたりをちょいちょい触った。するとゆりの左目がぱっと蛇の目に変わった。
「ザクート様〜！」
ゆりはザクートに抱きついた。
「王妃、元気だったか？」
「はい・・・」
「よしよし」
ゆりはそのままザクートに口付けをされた。
ああ・・・うっとり・・・見かけはミカエルだけど、この際いいや、行く所まで行っちゃえ〜
しばらく熱烈に口付けをし合っていたら、
「こら、お前何やってるんだ」
声が聞こえて二人は顔を離した。
「げっ！」
ベッドの横にハザークが立っていた。見るからに不機嫌そうな顔で。
「やあ、元気だったか？ハザーク」
ザクートは全く悪びれない顔で言った。
「なんか変な気を感じると思えば・・・用もないのに出てくるな」
「いいじゃないか。別になあ。王妃」
ザクートがゆりの髪に触れて言った。
「はい、いつでも出てきちゃってください」
ゆりはぽやんとして言っている。
「王妃・・・お前って女は・・・」
「ハザークが睨むからこの辺でやめておこう」
ザクートは笑ってゆりから離れた。
「じゃあな、王妃」
ザクートは消えて、ハザークはゆりを睨んで消えたのだった。
ハザーク様ったら、あからさまに妬いちゃってかわいい。
それにしても・・・ザクート様って相変わらず魅力的な人ねえ・・・キスだけでくらくら。
ゆりはそのままベッドでため息をついていた。
「・・・そんなに睨むことないだろう」
ハザークの部屋に飛んだザクートは、椅子に座って言った。
「お久しぶりです。ザクート様」
侍女らが挨拶した。
「おお、元気だったか？」
「王妃に手を出すんじゃないぞ」
「ただ朝の挨拶をしただけじゃないか。なあ」
といいながら、ザクートは侍女の手をなでなでしていた。
「それでなんで出てきたんだ」
「もちろん、可愛い息子に会いに来たに決まってる」
とザクートは、侍女の顔を見つめながら言った。侍女らの頬はほんのり赤くなっている。
ハザークははーとため息をついた。
一方、身支度を済ませた黒目のゆりは食堂で子供らにザクートにあったことを告げた。
「えええ？本当？」
「ザクート様が？」
「なんで？」
「さあ・・・わからないけど」
ゆりが気づいたらザクートはいなくなっていた。突然やってきた理由は全く分からない。アナスターシャが
ラクシュミに思念を送り、ラクシュミが食堂にやってきた。
「ザクート様がいらしたのか？」
「うん。ミカエルに入ってたよ」
「そうなのか・・・なんでいらしたんだろうな・・・」
「僕らにもあってくださるかなあ・・・」
ラギがつぶやいた時、食堂にぱっとミカエルが現れた。ミカエルの瞳は金色に輝いている。
「王・・」
ラクシュミがその姿を見て言った。子供ら3人はぽかんとしている。
「王、すまないが、この体今日一日借りてもいいだろうか」
ザクートが言った。
「それはどうぞ・・・ですが今回はなぜ・・・」
「前回迷惑をかけてしまったからなあ。私としては、女性に迷惑をかけたままってのも寝心地が悪くて・・・
王妃、なんぞ役に立ってやるぞ。何がいい？」
ザクートはゆりを見て言った。
「本当ですかあ？じゃあ・・・」
ゆりが子供たちを見て、子供たちの顔が輝いた。
ザクートは食事が終わった子供らにつれられていき、ゆりもついて行った。
去り際ザクートは
「王、今晩私と飲んでくれないか？」
とラクシュミを見て言った。
「はい、いいですが・・・」
「では後で」
珍しいな。私に何か用なのだろうか？
ラクシュミは首をかしげた。
子供らは、いつも自分らが訓練を受けている部屋にザクートを連れて行き、そこにでかい豪華な椅子も運ばれてきて
ザクートがそこに腰を下ろした。
「そうか、古代叙事詩が復活したのか」
子供達はその話をしていた。
「はい、ようやく、今皆で覚えてるんですよ」
「ふーん」
部屋の中にハインリヒとたまたま休みだったイシュタールが入ってきた。
ザクート様がいらしてるからおいで、とシスが呼んだのだ。二人とも恐る恐る伺うように入ってきて、椅子で
ふんぞり返っているミカエルを見てぎょっとした。
「ザクート様、こちら、イシュタールでこっちがハインリヒよ。ハインリヒはヴィラルージュ女王の時代の
騎士で、こっちにやってきたの」
横に座っていたゆりがざっと説明した。二人は床にひざをついた。
「ヴィラルージュ・・・噂は聞いたことはあるが、残念ながら面識はなかったな。ところで、なんで
小さい蛇がくっついてるんだ？この体も、前はなかったろ？」
ザクートは自分の右手を見て言った。そこには小さい黒い蛇がいる。
「話せば長いんですけど・・・私の蛇紋の蛇が子供産んじゃって、皆にあげたんです」
「子供を産んだ？蛇紋の蛇が？そんな話始めて聞いた」
「まあ、いろいろありまして・・・」
「ハインリヒのおかげで古代叙事詩の事もいろいろ分かったんですよー」
ラギが言った。
「そうか、お前ちょっと歌ってみろ」
「え・・・」
ハインリヒがたじろいだ。
「フレーズが一緒ならお前たちも歌ってみろ。発音を添削してやる」
とザクートは子供たちを見て言った。
「本当ですか〜？」
ラギの目が輝き、ハインリヒは「リュートを持ってきます」と言って消えた。
イシュタールの顔は青ざめていた。人前で歌うのがいやなのに、古の偉大な王に披露しなければならないとは、
恥ずかしい事この上ない。
くるんじゃなかった・・・
そう思いだしていた。
「ザクート様、私30章まで覚えたんですよ。」
アナスターシャがニコニコして言った。
「そうか、子供にはちと難しいだろう」
「意味がわからない事が多いです」
「そうだろうなあ・・・」
やがてハインリヒが戻ってきて、リュートに合わせての合唱が始まったのだった。ゆりとザクートは黙ってそれを
聞いていた。イシュタールも真っ赤な顔で歌っている。
やがて歌は終わった。子供らが覚えてるあたりで終わったようだ。
ゆりはぱちぱち拍手した。
「発音はまああってるが、子供らはともかく、お前達の歌は面白くもなんともないな」
ザクートは椅子の手置きに肘を突いたまま言った。
「心に迫る物が何もない。それではただのそこらにある詩と変わらないな」
ハインリヒとイシュタールは無言だった。
「心に迫るもの？」
ゆりが聞いた。
「古代叙事詩とは、初代の王とその時代の人々の心情や情景をつづった詩だが、その訳を知って暗記すればいいと
いうものではない。自分流の解釈というものが必要となってくるのだ。感情や想像力が乏しいと古代叙事詩を理解
する事は難しい。全ての詩に自分流の解釈と思いを込めて詠わないと意味はない。過去の世界にいたお前ですら
その程度なのだから、古代叙事詩が衰退した理由が知れようというものだな。本当に詠える者がいなくなり、詩は
力を失ってしまったのだろう。」
「・・・」
皆無言だった。
「私、ザクート様の古代叙事詩が聞いてみたいな」
とゆりが言った。
「私の詩か？聞いたらもっと私に惚れてしまうぞ？」
ザクートが笑って言った。
「それでもいいから聞いてみたいです」
「いいだろう。夕方にでも歌ってやろうじゃないか。さて、ちょっと恋人達に会いたくなってしまったから会って
こようかな。午後に面白い事をしてやろう。広い場所に、手が空いてる戦士らを集めておけ。ではまた後で」
ザクートはそのまま消えてしまった。
恋人たちって、儀式の時に抱いた10人の女の子のことかな・・・
ゆりが皆を見ると、皆シーンとしていた。
「あらら、大丈夫？ハインリヒ」
ハインリヒが一番青い顔をしている。
「私は・・古代叙事詩の上っ面を見ていただけだったのか・・・」
ザクートにけちょんけちょんに言われたのがよっぽどショックだったらしい。
「夕方聞かせてくれるって言ったから、参考にしたらいいじゃない」
とゆり。
「私も聞いていいんでしょうか？」
「いいじゃない。どうせだから皆呼んであげたら？ザクート王の歌なんて、もう一生聴けないかもしれないし」
「午後何してくれるんだろう。楽しみだなあ・・」
ラギがうれしそうに言った。
「それにしても・・・王妃は怖い者知らずですね。よくあんなに対等に話ができますね」
ハインリヒが感心したように言った。
「え？そうかな。」
「私は見つめられるだけで恐ろしかったですよ」
「そんなことないけど・・・」
「広い場所っていったら闘技場がいいかな？」
シスが皆に聞いた。
「せっかくだから皆に声かけてあげてよ。イシュタール」
「そうですね。そうしましょう」
といってイシュタールは消えた。
午後、ゆりは子供たちと一緒に闘技場に移動した。闘技場の客席には、勉強のため、将来戦士になる子供たちも
大勢座っていた。闘技場の中には、イシュタールやハインリヒ、フリット、その他休みだった戦士らなども
やってきている。中級上級あわせて10人ほどで、下級戦士らは、闘技場の隅にいた。
「一体何がおこるのかしらねえ」
アナスターシャはわくわくだった。
その時、ザクートと、5人の女達が現れた。女達の肌は、緑や青っぽい。5人とも動きやすい簡素な服を着ている。
「あっもしかして蛇戦士！」
とラギが言った。
「ザクート様が蛇を変えたんだねえ」
ゆりも蛇戦士は一度見たことがある。未来からきた息子が蛇を人に変えたのだ。
「アナスターシャ、蛇戦士に遊んでもらったの覚えてる？」
ゆりが聞いてみると、アナスターシャは首をかしげた。
「さて、お前達に戦ってもらうのはこの女たちだ。数人で戦ってもいいし、一対一で相手してもいいぞ。
どういう手を使ってもいいから倒してみろ」
そういってザクートは客席の方に移動して来て、ゆりの横に座った。
「蛇さんたちは武器もたないんですか？」
ゆりはザクートに聞いた。みな剣も何ももってない。
「魔法が使えるから大丈夫だ」
男達が躊躇してる間に、女たちは男達に向っていき、一人が両手の中に現れた火の玉を投げつけた。
「わー」と客席でどよめきが起こった。男達は瞬間移動でそれをよけて、女達に向って行った。
「みんながんばれー」
ゆりと子供たちは気楽に応援している。女達の手には、魔法の力で作り出した剣のようなものが握られていた。
「うわーみんなすごい速いなあ・・・」
ラギは感心するように女達の動きを目で追っていた。女たちは男たちに全然力で負けてもいないし、ハインリヒや
イシュタールも押されぎみになっている。しかも魔法のようなものもばんばん使っている。
「それにすごく強い！」
「ひょえー・・・」
シスやアナスターシャも感心していた。
「どうして蛇があんなに強いんですか？」
アナスターシャが聞いた。
「蛇戦士はな、変化させた者が力を与えることもできるのだ。私が変化させたからあれだけ強いわけだ」
「そうなんですか・・・」
その時、ハインリヒと対峙していた女の足がぴたっと止まった。
「あれ？」
「魔法で動けなくしたんだな」
ザクートが言った。ハインリヒが向って行った時、違う女が何かを口走り、女の足が動き出した。
魔法は違う女によって解除されてしまったようだ。
「まだまだだな。おい、端に座ってるやつらにも戦いに参加させろ」
ザクートが子供たちを見て言った。
「はい、言ってきます」
アナスターシャが消えて行った。一人の女が下級戦士ら相手に氷の蛇を出したりして攻撃し、下級戦士らは
攻撃するというよりはただ逃げ惑っていた。
「いやーこりゃすごいなあ・・・」
あちこちで火の蛇は出現するわ、氷の蛇は出現するわ、雷は落ちるわ、闘技場内は次々と不思議な現象がおきて、
ゆりはもうぽかんとしてみていた。客席はしーんと静まり帰っている。これだけ凄まじい戦いは、普段は絶対
お目にかかれない。
「いいなあ、私もいつかあんなふうに戦いたい」
「僕も・・・」
アナスターシャとシスが言った。
ふいにザクートの手がおなかに触れてきて、ゆりはあれ？と思った。
おなかがなんだか熱くなってきている。
「あの・・・」
「せっかくだからこの子らに魔法を少し教えてやろう」
「ありがとうございます」
とゆりは素直にお礼を言った。
一時ほどが過ぎて、下級戦士らからばてばてにへばってきだした。ハインリヒらもがんばっていたが、女たちは
疲れる様子もなく、どちらが優勢かは明らかだった。
なんという力なんだろう・・・
やはりあの女たちを作ったザクート王の力がそれだけすごいということなんだろうな・・・
ラギはそう感じた。
「そろそろだな」
ザクートは席を立ち、闘技場内に移動して行った。
戦いは終わり、女たちは大きな蛇へと戻ってしまった。
「どうだ、楽しかっただろう」
ザクートはへばった男達を見て言った。
「・・・参りました・・・」
ハインリヒは、これほど強い相手と戦ったことはなかった。
これでも剣技には自信があったのだが・・・上には上がいるものだ・・・
「精進することだな」
ザクートはそういって、子供らとゆりと一緒に城に戻って行った。城に戻ると、ザクートはハザークの所に行くと
言って行ってしまった。
「やっぱりザクート様って、ほんとすごいねえ」
アナスターシャが尊敬するように言った。
「そうだね。死んだ後もあれだけ力使えるんだもんねえ」
とシス。
「ザクート様の古代叙事詩が楽しみだなあ・・・やっぱりすごいのかなあ」
ラギが言った。
「そりゃすごいんじゃない？せっかくだから王様も聞いたらいいね」
とゆり
「そうだね」
夕方、ゆりと子供たちがご飯を食べていると、ザクートが現れた。
「ザクート様ご飯食べました？」
「ああ、ハザークのところで食べてきたぞ」
ザクートはそう言ってゆりの横に座った。
「王妃は何の楽器が好きだ？」
「竪琴が好きです」
「そうか。なら竪琴を奏でてやろうか」
「え？竪琴弾けるんですか？」
「私は天才なんだぞ。楽器ならなんでもお手の物だ」
「はー・・・」
城の中の広間では、部屋の片方に椅子がたくさん並べられて、やがてぞろぞろと人が集まってきた。
これだけは見逃せないと古代語の研究者達も集まってきている。古代叙事詩を習っている戦士らや、ジュメや
ユリウスもやってきた。ユリウスは珍しく青いドレス姿だった。
「あら、素敵ねえ、ユリウス」
ゆりが思わず言った。
「はあ、ジュメに絶対ドレスじゃなきゃだめだと言われまして・・・」
ユリウスは恥ずかしそうに言った。
「ザクート様、このおなかにいる子供どっちかこっそり教えてくれないです？」
ゆりはザクートに聞いてみた。ザクートはジュメのおなかを見てゆりに耳元でこそっと言った。ゆりはにんまりした。
「え？ど、どっちなんです？」
ジュメがどきどきして聞いた。
「内緒」
「えーそんなひどい！王妃！」
ゆりはこっそりユリウスに耳打ちした。ユリウスもにんまりした。
「え、ど、ど、ど、どっちなんですか？」
ジュメがユリウスに聞いた。
「内緒」
「そんなあ・・」
やがてラクシュミもやってきた。
「さあ、それじゃ始めようか。私が人前で歌ってやるなどそうはないからな、心して聴け」
ザクートは竪琴を手に取ると、大きな椅子に腰を下ろした。一同がしんと静まり返る。
ザクートはポロンと竪琴の弦をつまびいた。
しばらく竪琴の音が響き、やがて、歌声がそれに合わさった。
これは・・・すごい・・・
皆の目が見開かれた。声はミカエルの声なのだが、それにしても素晴らしい歌声で、竪琴の腕前も、自分で自慢
するだけはある。それ以上に、歌が心に迫ってくるのを感じた。
フレーズは一定ではなく、時に激しく、時にゆっくりと、時に恋人に語りかけるような口調であり、時に悲しく
もあり・・・
言葉の意味は分からなくても、ゆりの目からも時折涙が流れていた。
これが古代叙事詩・・・・
ハインリヒも、頭を何かで殴られたような衝撃を受けていた。
確かに心に迫る。情景すらも心に浮かんでくる。それ以上に、なにやら激しい思いが心の中に沸き起こってくる。
力があふれてくる気すらする。
歌い手によって、これほどまでに違う物に変化してしまうものだとは・・・
どれほどの時が経ったのか、ザクートの歌は終わった。終わったあとも、みな静まり返っていた。
「すごいです。ザクート様、感動しました」
ゆりの言葉で、皆はっと我に返ったような顔をした。
「本当に素晴らしい。ありがとうございました」
ラクシュミが言った。
「これが本当の古代叙事詩というものだ。ちなみに最後に自分で作った詩を10篇ほど加えていたんだぞ。別に
自分で詩を作って加えたってかまわないんだぞ」
「あの・・・なんかの呪文がぱっと浮かんで消えました」
アナスターシャが言った。
「魔法の呪文だろう。古代叙事詩の語句を作り変えた時に、魔法の呪文もいくつか組み合わされたんだ。どれが
呪文かは全く分からないが、歌っていて気づくこともあるし心に浮かぶこともある。まあ、全ての詩を理解する
事は無理でも、詩の一部でも理解して繰り返し歌うことで何か得ることもある。あんまり暗記にやっきにならないで
一つ一つの詩を深く探っていくことも重要だ」
ザクートの言葉に皆感じ入るように耳を傾けていたのだった。
その後、ラクシュミはザクートと一緒に客間で酒を飲んでいた。
ザクートは酒を飲みながらゆりが蛇紋の子供を産んだ話を詳しく聞いていた。
「そのような事があったとは・・・あの王妃は不思議な女だな・・」
ザクートは微笑んで言った。
「それであの、何か私に話があったのではないのですか？」
ラクシュミが聞いた。ただ一緒に酒を飲みたいだけとも思えなかった。
「実は、ハザークのことなんだがな・・・王妃に結構思い入れているようなので気になっていたのだ」
「はあ・・・」
「実はそれで早めにでてきてしまった。何か変な事を言わなかったか？」
「・・・いえ・・・」
「ならいいんだが・・・」
「もしかして・・・・肉の事ですか？」
ラクシュミが思いついて言うと、ザクートの表情がさっと変わった。
「やっぱり王妃に言ったのか」
「ですが、ゆりはそんなことはできませんので」
「・・・馬鹿な奴だ。」
「ゆりはそれがハザークの究極の愛情表現じゃないかといってましたが」
「ハザークは不老だが、不死ではない。自分でつけた傷の治りはとても遅い。前回は100年もの間治らなかったと
侍女も言っていた。そうしたって、女を完全に自分の物にできるわけでもないのに、と思うと、かわいそうになる。」
「・・・」
「実は、私が儀式だなんだと魂をこの世にとどめておいたのは、別に、未来の世界を憂いたからではないのだ。
ハザークが長い時を生きると、予知で知ったからだ。たまに姿を見せてやりたかったからそうしたのだ」
「そうでしたか・・・」
「巫女が慰めになるかと思い、巫女を作ったのも私だったが、巫女はたいして慰めにもならなかった。途中で巫女も
いなくなってしまい、儀式もしばらくなかったが。」
「あの・・・ハザークの侍女たちは・・・侍女らもハザークにとっては大事な女たちでは？」
「あの白蛇たちは、ハザークの娘だ。昔、ハザークが蛇に産ませたのだ」
「え？娘？」
「といっても、本人らに変化する力はなかった。私が力を与えた。本人らに娘だという自覚もないが。
本当の侍女らの生はとっくに終わっている。ハザークの力でずっと生きながらえているのだ。まあ、今では侍女らは
ハザークの一部のようなものだな。ハザークから離れれば生きてはいけない」
「・・・・」
まさか娘だとは・・・まあ、長い時を生きてるようだから変だと思ったが・・・
娘ならば恋愛対象にならないのも当然だな・・・
「・・・今は、子供たちもハザークになついてますし、前よりはハザークも楽しそうにやってますよ。
子供がもうすぐ二人生まれますし、この際子育てにも参加してもらいます」
「はは、王は面白いな。代々の王は、皆ハザークとは一線をおいていたような感じだったが。王妃の事も、
気にはしてないのか？」
「私は赤い月の間はゆりを独占してますから、まあそのほかは・・・ゆりには女神ガーベラが二度も降りたんです
よ。女神は一人の男が独占しようにもできませんから」
「ガーベラ・・・それはすごいな。だが王はいい男だな。私は男はめったに好きにならないが、王のことは好きにな
ったな」
ザクートは微笑んで言った。
「そうですか・・・それはありがとうございます」
ラクシュミは苦笑ぎみに言った。
「ガーベラが降りるほどの女性の蛇紋になら、肌の蛇も恋をしてしまうのもわかる気はするな・・・」
ザクートは右手の黒い蛇を見てそう言った。
魂をとどめたのはハザークのためか・・・
偉大な王も、子を思うただの父親だったのだな・・・
そう思うと、ラクシュミもザクートに妙な親近感が沸いてきて、その夜、しばらく二人は酒を飲み交わしていた
のだった。
そして次の日の朝、ミカエルは自分の屋敷でうんうんうなっていた。
「お父さんすごいね！ザクート様が何度も降りられるなんて！本当にすごいよ！」
ベッドの横では息子のラリーが興奮したように言っている。
「う・・・うるさいぞ・・・あっちいっててくれ・・」
ミカエルは疲れた顔で言った。
「すごいや。本当にすごいや！」
「・・・」
ああ、また寝込む羽目になるのか・・・
知らない間に女抱いてるんじゃないだろうな。
体使われても、全然うれしくない・・・
ミカエルはしばらく疲労感にさいなまれ、やっぱり10日ほど寝込んだのだった。
すすむ