第36話
６の月に入り、蛇の国ではおめでたい事が続いていた。ミカエルとフリットの二人目の子供が産まれたのだ。
ゆりの所には、フリットの母のロアンナがうれしそうに報告に来てくれた。二人とも子供は男の子だった。
ナザニエル将軍も孫が産まれて大喜びのようだ。
そのころジュメはようやくおなかがちょっと大きくなってきたくらいだった。
その頃からもう病院に入れられて、病院生活を送っている。部屋も結構広い個室で、黙っていても豪華な食事は
出てくるし、いたれりつくせりの生活の日々だった。費用はもちろんタダで本人の意思に関係なく強制的に
入らされている。
「まだいいのになあ・・・」
ジュメはベッドに座ってぶつぶつ言っていた。お見舞いに来ていたユリウスが笑っている。
「外に行こうとしたら誰か絶対ついてくるんですよ」
「もうちょいの辛抱じゃないか。」
「そうですけど・・・なんか落ち着かないんですよ・・・」
あんまり他人に世話をされるというのに慣れてないので、何かと恐縮してしまうジュメだった。
「子供は産まれたらどうするんだ？」
「イシュタール様のところで世話してもらおうかなって思ってるんですよ。向こうもそうしたいようなので」
「そうか。ジュメはそれでいいのか？」
「はい、いつ会いにきてもいいと言ってくださったし、本当は元の体になるまで屋敷の方にいたらどうだと言って
くださったんですが・・・」
「ならそうしたらいいじゃないか」
「なんだか恥ずかしいですよーそれなら病院でお世話になる方がいいですよー」
「遠慮することないのに」
「いやー遠慮します・・・」
ジュメは頭をかいて言った。
向こうの侍女らに様づきで呼ばれて世話されるなんて、考えただけで恥ずかしい・・
この国では一族の者らは夫婦になって一緒に住むという習慣がないため、産まれた子供はたいてい父親と母親の間を
行ったりきたりしている。たとえ両方がいずれ他の異性と仲良くなったとしても、子供にとっては産んでくれた女性が
母であり、相手の男が父というのは終生変わることはないのだ。
親のどちらかが一族の者ならば、、自分らで育てなくても大きな託児所もあり、誰かがちゃんと面倒を見てくれると
いうシステムも備わっていた。一族にとっては人口増加は重大目標であるので、お金がなくて子供が育てられないとい
うような事はなく、母親が育児ノイローゼになることもない。産んでしまえば、後は気楽だった。それまでの道のりが
大変なのだ。
「ところでジェナサイト様とはどうなりました？」
ジュメが突然話題を変えた。ジェナサイトとのいきさつは、一応ジュメも聞いていたのだ。
「ああ。たまに夜一緒に過ごしてるぞ」
ユリウスが表情も変えずに言った。
「え？！」
「一緒に酒飲んだりして」
「ああ。びっくりするじゃないですか・・・」
ジュメは思わず胸のあたりを押さえた。
「王妃も同じように反応してたなあ・・・」
ユリウスが思い出すように言った。
「でもだいぶ仲良くなったんじゃないんですか？」
「さあ・・・よくわからんが・・・安心感はあるな」
「そうですか」
ジュメが微笑んだ。すると
「一緒にいても何もされないと分かってるからな」
とユリウスが続けていい、ジュメの顔が引きつった。
「あの・・・ユリウス様・・・本当にその気になったんですか？」
ジュメは伺うように聞いた。
「そうだと思ったんだが、ジェナサイトが言うには、私のその気は子供が赤い月に憧れるようなものと同レベルらしい」
「はあ・・・」
「だから今交わるのは絶対無理だって言われた」
「はあ・・・ジェナサイト様の言うことは最もだと思います・・・私だって、普段はめったにそういう気になりませんも
ん。無理にそんなことしないほうがいいですよ」
「そうかな・・・確かに私も、その先のことまではあえて考えないようにしていたからなあ。実際にそういう事になる
と、もしかしてジェナサイトを攻撃してしまうかも・・・・」
「・・・」
ジュメはちょっとジェナサイトに同情してしまった。女の方から誘われて抱こうとしたら殺されそうになったんじゃ、
あんまりかわいそうだ。
「でも、ジェナサイト様はなかなかいい男ですね。そうやって付き合ってくれるなんて。ユリウス様にはあってるかも
しれないですよ」
「そうか？」
「ジェナサイト様は結構ユリウス様のことが好きなんじゃないですかねー」
ジュメがにやにやして言った。
「よくわからんが・・・」
これは結構微笑ましい二人になっちゃうかも？と思ったジュメだった。
その夜も、ジェナサイトはユリウスの屋敷にやってきていた。もう何度も来ているので、使用人たちにはすっかり
顔も覚えられているし、なにやら暖かい眼差しを注がれている。
それは、がんばってユリウス様をその気にさせてください、というような感じだった。
ユリウスがその気になれば、もしかしたら子供もできるかもしれないし、この屋敷もにぎやかになってほしいという
ような願望なのだろう。
ジェナサイトとしても、使用人たちの期待には答えたい所だが、中々そう話はうまく進んでない。
今日もジェナサイトはユリウスと酒を飲みながら古代叙事詩の勉強をしたり、古代語の勉強をしていた。
子蛇ちゃん効果か、ジェナサイトの古代語への理解力も前よりはあがり、古代語の勉強も苦ではなくなっている。
二人でこうする事も慣れたが、ユリウスの態度も別段最初とは変わらない。ただ、平気で男と夜一緒にいることを
考えると、男を全体的に拒んでいた時よりはましかな、という気もしないではない。だが、この程度では、世間的には
単なるお友達だ。
「恋愛の詩はよくわからんな・・・」
ユリウスが少し口を尖らせて言った。
「まあそうだろうなあ。俺にもわからない所があるし・・・なあ、ユリウス、今まで赤い月に全くそういう気になった
ことはないのか？」
ジェナサイトは何気に聞いてみた。
「ないな」
「じゃあ変化した事もないのか？」
「それは一度ある。王妃といたら変化した」
ユリウスはさらっと言って酒を飲んだ。
え・・・どういう状況なんだ？それは・・・・
ジェナサイトは首をかしげた。
「お前、実は男より女の方が好きなんじゃないのか？」
「そりゃあ、男より女の方が好きだな」
「・・・・」
ユリウスは女同士でいちゃつきたいと言ったわけではないのだが、ジェナサイトはちょっと誤解した。
大丈夫かな・・・永遠にその気にさせるのは無理のような気がしてきた・・・
しかし乗りかかった船だしなあ・・・
ユリウスに対して今は愛情を感じてるというわけでもなかったが、何度も二人きりになったせいでジェナサイトも少しは
その気になっていた。本当に赤い月を共に過ごしてみたいとも思い出したし、何より、このままほっぽりだすと、
他の男とどんなことになるやら、と思うと怖い。
自分が来て嫌な顔をしていないのは、ほのかなその気も続行中と見てはいいのだろうが、それから先はかなり難関だ。
酒で酔わせてその気に、なんて一般的な手は酔いにくい一族の女には使えない。
「今日は子蛇どこにいると思う？」
ジェナサイトは明るく聞いてみた。
「む？また尻じゃないだろうな」
「違う」
「おなかか？」
「胸だ。胸の辺りにいる。見たいか？」
「ああ」
ジェナサイトは上着のボタンを外してシャツのボタンも外した。左胸の方に赤い蛇がいる。
「本当に綺麗だな。」
ユリウスはしげしげとそれを眺めた。
「触ってみろ」
「え・・・」
「何もしないから触ってみろよ」
「ああ・・・」
ユリウスは手を伸ばして蛇をなでた。
まあちょっとずつやるしかないよな・・・蛇をなでられると、ちょっと変な気になるが・・・
「わっ！」
ユリウスが驚いて手を離した。
「なんだ？」
「動いた！」
「え？」
「蛇が動いた」
「気のせいだろう」
「本当だ。ほら、尻尾が逆に曲がってる」
「・・・最初からこうじゃなかったか？」
「違う、動いたんだ」
ユリウスは興味深げに蛇を見つめていた。
空にはどんよりとした雲が立ち込めていたある日、ハザークの部屋で竪琴を披露していたゆりだったが、いつの間にやら
寝室に移動してハザークと熱々になってしまっていた。
「お前はその時々によって全然違うな。本当に面白いな」
時々なんらかの衝動に突き動かされるようにハザークに抱かれたくなってしまうのは、心の底にある欲望があふれ出して
しまうせいか、それとも巫女としての本能か、ゆり自身よくはわからないが、とにかくどうにも押さえが利かなくなって
しまうのだ。実は今日も侍女にちょっぴり妖しい薬をもられていたせいだとは、ゆりは全く気づいてない。
何度も抱かれた後、ゆりは激しく運動した後のようにぐったりしていた。
「ねえ、ハザーク様・・・」
「ん？」
「もし私がもう一人いたら、ハザーク様だけの女になってあげるのにな・・・」
ゆりはぽつりと言った。
「もう一人？」
「うん・・・」
こういう関係になってしまった以上、ハザークに対してかなりの情もわいているが、ラクシュミ以上にハザークを愛する
事は絶対にできないと思うと、時々ちょっと切ない気持ちになってしまう。
ハザークはもう一人のゆりの事を思い出して言った。
「お前がもう一人いても我だけの女にはならないような気がするぞ」
「え・・・なんで？」
「もう一人のお前も気が多そうだ」
「ひどい・・・」
そういえば、天井に貼り付けて以来あっちは見てないな・・・
ハザークはゆりの左目の辺りをなでた。
「でてこい、王妃」
ゆりの左目が蛇の目に変わった。
ゆりは微妙な顔でハザークを見ていた。
「なんだ？まだ怒ってるのか？」
「別に怒ってないけど・・・なんだか癪に障るなーあっち抱く時のハザーク様、すっごい気持ちよさげで」
「お前を抱いても別に気持ちいいぞ」
「私も一杯せめられたい」
「じゃあお前近い内に来い」
「うん」
ゆりはハザークに抱きついて唇を覆った。
黒目のゆりが部屋に戻ると、部屋の中の椅子にヴィラが座っていた。
「ヴィラ・・・待ってたの？」
「ええ・・・シャナーンに妹ができたんですよ」
「妹？そうかあ、産まれたのねえ」
ゆりはヴィラの向かい側に座った。
「シャナーン、ぞっこんになっちゃうかもね」
ゆりは想像してくすりと笑った。なにせ50以上も年が離れた妹だ。シャナーンの子供でもいいくらいなのだから。
「・・・王妃、妙につやっぽいですねえ、男と引っ付いてたんでしょ」
ヴィラはテーブルに両肘をついて言った。
「え・・・」
「お風呂入ったんでしょ。ちょっと髪が濡れてるし」
「・・・」
ゆりは視線をそらした。
「王妃って本当に分かりやすいですね」
「別に・・・ただお風呂入ってきただけだし・・・」
「誰といたんですか？」
「え・・・えー・・・ハザーク様」
「みたいなあ。王妃の体」
「え・・・」
「見せてください。王妃」
「あの・・・最近皆悪趣味だよ？」
「悪趣味？」
「そうだよ。そういうの悪趣味だ」
「あなたを好きだからそう思うんですよ。別に普通ですよ」
「どこが」
「それとも見せられないほど激しく愛されたんですか？体中痕だらけとか」
「え・・いや・・・そんなことは・・・」
「だめですよ。夜王に抱かれるかもしれないのにそこまでされたら」
「いや・・・別に・・」
「私が確かめてあげますよ」
「え」
ゆりは逃げようとしたが、ヴィラに素早くつかまって横に連れて行かれてしまった。
「もう、ヴィラったら」
「私は別に一番じゃなくてもいいですけど、たまにかまってくれないとぐれちゃいますからね」
ヴィラはゆりを抱きしめて言った。
「ヴィラのことは好きだよ。ずっと」
「言葉だけじゃだめですよ。」
「別の日でいいでしょ。別に今日じゃなくても」
「だめ。だって今すごくいい匂いだし・・・あんまり激しくしないですからね」
「悪趣味」
「いいじゃないですか。あなたのおなかが大きくなってきたら、当分はおあずけですからね」
「うう・・・・」
「いらっしゃ〜い」
「しょうがない人だなあ・・・」
ヴィラに手招きされて、ゆりはベッドにあがった。
これじゃあハザーク様に気が多いって言われても仕方ないね・・・
そう自分でも思うゆりだった。
その夜、ラクシュミが来る頃には、ゆりは昼間の疲れかもうぐっすり眠っていた。
「ん？」
よく見るとゆりの横に白っぽい赤ん坊が二人並んで寝ていた。
この子らはなんでわざわざ外で寝てるんだろう・・・
ラクシュミがまじまじと眺めていると、二人とも目を開けた。
ーとー
ーとー
「今日はもうそのまま寝るんだぞ」
ラクシュミが言うと、二人とも不思議そうな目で見上げていた。今日は二人とも暴れる気はなさそうだ。じっと横に
なっている。
ーまーすきすき
ーとーいっぱい。すきすき
「そうかそうか」
ラクシュミはゆりの横に寝転んで、しばらく二人の子供を見つめていた。
「この子らはいつになったら産まれてくるのかなあ」
アナスターシャは長椅子で寝そべっているゆりのおなかに耳をあてていた。
結構あちこちで子供が産まれているという話を聞くので、自分の兄弟はいつになったら出てくるのだろうと
気になっていた。
「さあねえ、もうちょっとかかるのかな。この子らは産まれたくてしょうがないだろうけどねえ」
今のゆりは蛇の目の方のゆりだった。
「産まれたら産まれたで大変かもよ？」
「でも・・・妹できるのうれしいもん。大きくなったらおそろいの服着るんだー」
「そう」
「言葉も一杯教えてあげるからね」
アナスターシャはゆりのおなかをなでなでしていた。
部屋の扉がノックされたのでアナスターシャがとことこ扉まで行ってあけた。
「あ、ユリウス」
「いらしていたんですか。アナスターシャ様」
「どうぞー、じゃあねー」
と言ってアナスターシャは出て行った。
「よかったんですか？」
ユリウスが中のゆりを見て聞いた。
「いいよいいよ。こっちおいでよー」
ゆりはからだを起こして、ユリウスは横に座った。
「あれからどう？仲良くやってる？」
「はあ・・・よくわからないんですが・・・仲が悪くはないです」
「そう」
「もっとその気になるにはどうしたらいいでしょうか」
ユリウスは真面目な顔で聞いてきた。
「赤い月より前に抱かれたいわけ？」
「なんだか・・・このままだと結局無理のまま終わるような気がするんです・・・」
「うーん・・・」
「一生このままなのもなんだか・・・子供が欲しいという気持ちはあるんです・・・それに無理だったらジェナサイトに
悪いような気も・・・」
ユリウスはちょっと思いつめているような感じだった。口には出さなくても、やはり今まで赤い月を男と過ごしていな
い、ということは、負い目に感じているのだろうか。とゆりは思った。
産めよ増やせよという風潮の中、力がありながら男とそうはなれないというのは、やっぱり辛いって気持ちもあるのかな
・・・そういえば、最初の頃、ミルキダスもかなり負い目に感じていたもんなあ。その事。
ユリウスもできれば女の喜びを手に入れてほしいなあ・・・女にしたの私だし・・・
「ユリウスって、ジェナサイトのことはどう思ってるの？結構一緒にいて、ちょっと情わいた？」
「え・・・よくわからないですけど・・・」
「一緒にいるのは嫌じゃないんでしょ？」
「はい」
「じゃあ、ジェナサイトともし交われたらどうするの？来年の赤い月は一緒に過ごす？」
「そう約束しましたので・・・」
「そっか。まあ、そりゃ、強引にその気になる方法もないではないよ。それらしい匂いを使ってみるとか、赤い月の
練習用にいろいろ売ってるようだし」
「はあ」
「じゃあさ、私が段階的にいろいろ教えてあげるから、それ実行してごらん」
「はい」
ユリウスはゆりにいろいろ聞いて去って行った。
その夜、ユリウスの屋敷にジェナサイトがやってきた。今夜はユリウスが呼んだのだ。
「今日は月が綺麗だぞ」
ジェナサイトはユリウスの顔を見て言った。
「そうか？」
「ああ、ちょっと外に出てみろよ」
二人は屋敷の外に出た。庭から眺める月はまん丸で、大きい。
「本当だ。綺麗だな」
「だろ？」
ユリウスはそろっとジェナサイトの背後に近づき、体に両腕を回した。
ジェナサイトがえっと思った瞬間、腕はすごい力で体を締め付けてきた。
「お、おい！何すんだ！」
ジェナサイトがびっくりしてユリウスから体を離した。
「ん？抱きついた」
「抱きついた？今のは締め上げたっていうんだぞ」
「え？」
「えじゃない。いきなり何すんだ。びっくりするな・・・・」
ユリウスは首をかしげている。
「どうしたんだ。お前・・・」
「抱きついたつもりだったんだがおかしいな・・・」
「力を込めるんじゃない。力を。抱きつくってのは体に腕を回すだけでいいんだ」
「そうなのか？その方が効果あるかと思ったんだが・・・」
何の効果だ・・・・
「なんで突然そういう気になったんだ？」
「ああ。今日王妃に相談したんだ。そしたらいろいろ教えてくれた」
「王妃に・・・？」
ジェナサイトの顔は引きつっていた。
「ちょっと来い」
二人はいつもの酒を飲む部屋へと移動して、ユリウスは灯りをつけた。
「ほら、これだ」
と言ってユリウスはジェナサイトに一枚の紙を見せた。
ジェナサイトはざっと見てぶっと噴出した。
そこにはこう書かれていた。
最初はまず、ジェナサイトに抱きついてみる。（しばらく体を密着）
慣れたらジェナサイトから抱きつかれてみる。ジェナサイトの膝に乗ってみるのもよし。
↓
それに慣れたら、軽く口付けをしてみよう。頬や唇に。
↓
口付けが全く大丈夫になったら、ジェナサイトの体に服の上からさわってみよう。（口付けしながら）
↓
それが大丈夫になったら、逆に触られてみよう。（口付けされながら）
↓
ちょっと濃厚な口付けをしてみよう。
↓
蛇の見せ合いっこをしてみよう。
↓
ここまでできたら一緒にお風呂に入っちゃおう。
この先は相談。
・・・・王妃・・・何を考えてるんですか・・・でも、お風呂に入るってのはいいなあ。ちょっとお風呂に一緒に
入ってみたいな。
ジェナサイトはちょっと妄想してしまった。
「とりあえずそれを実行してみようと思うんだが」
ユリウスは大真面目な顔で言った。
「お前、よっぽどその気になりたいんだな」
ジェナサイトはあきれたように言った。
「今を逃したらもう永遠にその気にならないかもしれないだろう。赤い月を男と過ごせれば、もう王に後ろめたくも
ないし・・・」
「後ろめたい気持ちあったんだな・・・」
「そりゃああった。だから王妃に会いにいっても、王のお顔はあまり見れなかった。」
「そうか、じゃあまあ、心置きなく抱きついてみろ」
ジェナサイトは両手を広げた。
ユリウスはジェナサイトに引っ付いて、両腕を背中に回した。
しかし、しだいにぎゅうっと腕に力が込められてきた。
「お前はなんでそう力を込めるんだ」
ジェナサイトは引きつった声をあげている。
「この方が効果ありそうじゃないか」
「俺の骨が折れたらどうすんだ！」
「やわだな」
ユリウスがぼそっと言った。
「・・・・」
お風呂までの道のりは結構遠いようだ。
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