赤い月の幸せな時は過ぎて、ゆりはアヤコと魔法の鏡で子供の見せ合いをしていた。ラクシュミは今は休憩中で
いない。アヤコもすっかり元気になっていた。腕には金色の髪の女の子をダッコしている。
名前は花子ではなく、「ルル」だった。
「いやーゆりちゃんよく5人も産んだねえ」
アヤコは尊敬するように言っていた。
「あっという間だったよー」
双子はゆりとアナスターシャがだっこしていた。シスとラギもいる。
「でもルルちゃんの方が大きいねえ」
ほぼ同じ時期に産まれたのだが、ゆりの子供は双子だったせいもあり、随分違って見えた。
「虎族の子供は大きいよ。もう産むの大変だったー！」
「ははは」
「あのータロウさん元気ですか？」
ラギが聞いた。
「元気よ。今日は遠くまででかけていっちゃって、でかくなりすぎちゃってあれで子供なんだからびっくりよ」
「ふふふ・・・」
ゆりは笑っていた。
虎の国は相変わらず平和そうだ。
アヤコが幸せそうでゆりもうれしかった。
「そうだ、この前黒髪のお医者さんからもらった蚊取り線香、もう手に入らないのかなあ」
アヤコが突然言い出した。
「蚊取り線香？ああ、そういえば、前にもらったね」
「あれすごい効いたから、また欲しいんだけどね、うち暑くて虫多いから」
「そうだね・・・」
その時ラクシュミが戻ってきたので、二人はさよならをして王の間を出た。
「母さん、カトリなんとかってなに？」
ラギが聞いてきた。
「ああ、ちょっとラギ部屋に来て、赤ちゃん連れて行ってくれる？シス」
「いいよ」
ゆりは赤ちゃんをシスに渡してラギと一緒に部屋に戻った。そして、前にしまいこんだ蚊取り線香のかけらを
探したのだった。ラギは部屋の中でじーと待っている。
「あった、これこれ」
ゆりはようやく見つけ出してテーブルにおいてラギに見せた。
「何？これ」
それは緑色の小さい塊だった。ラギは手にとって匂いをかいだ。
「くさっ！」
「これねえ、蚊取り線香っていうものなの。前に大人になったロイがこっち来た時に、アヤコさんにあげたんだって」
「ふーん？」
「これに火つけて、煙で虫を追っ払ったり殺すの。多分これ作ったのラギじゃないかと思うんだけどねえ」
「僕が？」
ゆりは蚊取り線香について詳しく説明した。ラギは目を輝かせて聞いている。もとより自分の知らない物に対しては
なんでも興味を示さずにはいられない性分だった。
「どうせだからちょっと研究して作ってみたら？」
「うん。作ってみる。これちょうだいね」
「いいよ」
ラギは蚊取り線香のかけらを持って部屋を出て行った。
その内に、蚊取り線香の工場とか作って虎の国で売り出したらいいかも。
結構いい商売になるかもね〜
ああ、アヤコさんの顔を見たらカレー食べたくなってきた。久々につくっちゃおっと♪
ゆりはいそいそと部屋を出て行った。
第２話
ある日、ゆりはベビーベッドで眠るロイとナナミを見つめていた。二人はある程度成長するまでは同じ部屋で過ごす
のだ。部屋には双子の侍女達もいる。
「侍女達も大変だね。この子ら飛び回るから」
ゆりが同情するように言った。
「ですが、それは力がお強い証拠ですから。それを思うとうれしいですよ」
「本当ですね。普通の赤ん坊はこんな小さい時から飛ぶことはできませんものね」
「そうね」
双子をじっくり見下ろしていると、ジュメとユリウスがそろってやってきた。ジュメの腕には緑の髪の
赤ん坊がいる。
「あーメリッサ！」
ゆりが手を出した。
「重いですよ？」
「わ、本当だ。ずっしりくるねえ」
ゆりはメリッサをだっこしてみたが、結構な重さだった。
「かわいいですねえ」
ユリウスとジュメは微笑んで双子を見つめている。メリッサもきょとんとして見ていた。
「寝てる間だけはおとなしいんだけどねー、私の部屋行こうよ」
「はい」
ゆりはメリッサをジュメに返して３人でゆりの部屋に行った。
「わあ、噂通りの大きさですねえ」
部屋にいたミラがメリッサを見て目を真ん丸くした。メリッサはミラの猫耳を不思議そうに見ている。
「でもどことなくイシュタール様の面影がありますねえ」
「そうよねー。でも目元はジュメに似てるよ。将来は背が高い大柄美女になりそうだよね。ふふふ」
ゆりが笑って言った。
「イシュタールもうメリッサにめろめろじゃない？」
「はい、飽きずにずっと眺めてらっしゃるようですよ」
ジュメは長椅子の方に座り膝の上にメリッサを乗せた。ゆりとユリウスはテーブルがある方の椅子に座っている。
「お茶入れてきますね」
ミラは出て行った。
「ジュメはもう仕事に復帰してるんですよ」
ユリウスが言った。
「そうなの？大丈夫？」
「体はすっかり。動きたくてしょうがないんですよ。メリッサはもうイシュタール様に預けちゃってるし」
「無理しちゃだめよ。」
「はい」
「おとなしいねえ。何もしゃべらないんだねえ」
メリッサは不思議そうに部屋の中を見回している。
「ちょっと人見知りしてるようですよ。私だけだとあーあー言ってるんですが」
「そうなんだ。ふふ、さあ所で、ユリウスは赤い月どうだったのかな？」
ゆりが興味津々で聞いた。
「はあ・・・」
「熱々だった？」
「え・・・さあ・・」
ユリウスはぎこちなく首をかしげている。
「白状しなさい。ジュメは聞いたの？」
ゆりはジュメを見て聞いた。
「まだなんですよ。教えてくださらないんです」
「ジェナサイトと過ごしたんでしょ？」
今度はユリウスに顔を寄せて聞く。
「はあ・・・」
ユリウスは頭をかいた。
「過ごしたことは過ごしたんですが・・・なんだかわけがわからなかったんです」
「ん？」
ゆりは首をかしげた。その時ミラがお茶を運んでくれて、メリッサに蛇のおもちゃももってきてくれた。
首の所を振るとガラガラ音がするのだ。メリッサは蛇のおもちゃをふり回してガラガラ鳴らしていた。
ユリウスは赤い月の間の事はちゃんと覚えていたのだが、なぜ、あんなことになってしまったのか今でも
わけがわからない。
赤い月が夜空に浮かんでいた夜、ジェナサイトはユリウスの屋敷にやってきたのだが、いざ、ベッドで二人いると
ユリウスは逃げたくてしょうがなくなってしまったのだった。
えらく緊張してしまったのだ。ジェナサイトに腕をつかまれただけで振り払ってしまったほどだった。
「どうしたんだ？」
ジェナサイトの方もわけがわからない。
「わからん・・・なんだか・・・」
「嫌なのか？」
「嫌ってことはないんだが・・・」
「じゃあ来い」
ジェナサイトは手を出したが、ユリウスは動かなかった。
「ユリウス？」
「す・・・すまない・・・今日はだめだ」
ユリウスは硬直したまま言った。
「そうなのか？」
「わ・・・私違う部屋で寝る」
ユリウスはさっさと逃げるように行ってしまった。
「変な女だな・・・あれだけ練習したのに・・・」
あれはこの日のためじゃなかったのか？
ジェナサイトは首をかしげたが、まあ初日だしいいや、と思ってそのままベッドで寝た。
一方、ユリウスの方はなんだか緊張しまくってそれどころじゃなかった。
自分でも変だ変だと思いつつ、理由はさっぱりわからない。
次の朝、食堂で顔をあわせた時も、恥ずかしくてならなかった。とにかく、恥ずかしくてジェナサイトの顔が
見れない。
食事をした後も、ジェナサイトはどこに行く気配もなくずっといたのでユリウスが聞いた。
「帰らないのか？」
「帰らないぞ。赤い月が終わるまでここにいるって話したじゃないか」
「え？」
ユリウスがあまりに驚いたのでジェナサイトの方がびっくりした。
「帰ってほしいのか？」
「いや、そんなことはないが・・・」
「？」
違う部屋に移動してからもユリウスは変だった。
「どうして避けるんだ？」
「別に避けてないぞ」
「じゃあなんでそんな隅に座ってるんだ？」
「え？」
ジェナサイトは普通にテーブルの方の椅子に座っていたが、ユリウスはなぜか壁際に椅子を持っていって
離れた所で座っていた。
「これがちょうどいい距離だ」
「？」
わけが分からん女だなあ・・・
昼間はずっとそんな調子であまり目をあわそうともせず、夜になったらなったで一応ベッドには来るが
やっぱり無理だといって逃げてしまうのだった。いくらなんでもそう毎晩逃げられたんじゃ、時期が時期だけに
ジェナサイトもたまらない。5日目の夜になり、ジェナサイトはとうとうユリウスを強引に抱き寄せた。
「お前、俺が嫌いなのか？」
「別に嫌いじゃないが・・・」
「なら今夜こそはな・・・」
「う・・・・うう・・・」
ジェナサイトがユリウスの体ごとベッドの方に移動した。
「やっやっぱりやだ！」
「だめだ。もう俺の方がどうにかなりそうだ。あれだけ練習したじゃないか」
「そうだが・・・・」
体がベッドに乗せられて、ジェナサイトが上にのった。
「きゃあ！」
「きゃあ？今きゃあって言ったか？」
聞きなれないユリウスの悲鳴にジェナサイトは驚いた。
「・・・」
「どうしたんだ？真面目に嫌なのか？」
「い・・・いやじゃない・・・が・・・」
「が？なんだ？」
「裸を見られるのが死ぬほど恥ずかしい」
ユリウスは横を向いて言った。
「最近じゃ全く平気で裸になってたじゃないか」
「なぜかそうなんだ！」
「いいぞ別に服着たままで」
「え？」
ユリウスの寝間着はネグリジェのようになっていたので、ジェナサイトは下をたくしあげた。
「あ・・・あわわわわわわ」
「じっとしてろ」
「なんか怖い！」
「怖くない。怖くない」
ジェナサイトはユリウスの下の下着も取ってしまった。すでに瞳は変化して、ジェナサイトはすっかりその気
だったので、もうとめられなかった。
やがて下半身に触れられて、ユリウスは思わず逃げようとした。
「逃げないでくれ、ユリウス・・・」
「う・・・」
ジェナサイトはユリウスの上にしっかり乗り、足の付け根に触れた。
「体は大丈夫そうだぞ？自分でわかるだろ？」
「・・・」
「ほら・・・・な？」
指がすんなりと体の中に入るほど、体は潤っていた。
「は・・・恥ずかしい・・・」
「大丈夫だ」
ジェナサイトはガウンを脱いでもう一度ユリウスの上に乗り、体を挿入したのだった。
「うう・・・」
「平気だろ？」
「平気じゃない」
「じゃあ嫌なのか？」
「嫌じゃない・・・」
「じゃあなんなんだ？」
「わからん・・・もう離せ」
「だめだ。お前気持ちよくないのか？」
「・・・」
「そんなことないよな？ちゃんと目変わってるぞ？」
「え？」
「変化してるぞ」
変化？
気持ちいいっていうか・・・ただ恥ずかしいだけだぞ？
なんで変化してるんだ？
やがて、体が離された。
「もう一回」
「だ！だめだ！」
ユリウスはあわてて服を直して言った。
「なんでだ？」
「もう今日は終わりだ」
「じゃあ明日な？」
「明日！？」
ユリウスはひどく驚いた顔をしていた。
「じゃあ明後日」
「・・・さ・・・最後の晩にならいい」
「え？」
精力剤が必要かも、と心配していたジェナサイトだったが、10日間でたった二度しかユリウスを抱くことができな
かった。しかも最後の晩も服を着たままだ。
「とにかく、恥ずかしくて、恥ずかしくて、死にそうなほど恥ずかしかったんです」
ユリウスは戸惑ったように言っていた。
ゆりもジュメもきょとんとしていたが、ゆりはやがてにんまり笑った。
「それはね、ユリウスがジェナサイトの事、本気で好きになっちゃったからだよ」
「え？」
「愛しちゃったんだね」
「あ・・・愛？」
ユリウスは大きく目を見開いた。
「じゃなきゃ嫌って言いながら一緒にいるわけないでしょ？」
「はあ・・・」
「愛情を感じて急に恥ずかしくなっちゃったんだよ」
「ですが、普段は別に・・・」
「赤い月になるとさ、感情がぐっと高まるもんだから、普段は平気でも、赤い月には平気でいられなくなった
んじゃないのかな？」
「・・・」
「王様だって、赤い月になると全然性格変わるし、ユリウスもそういうタイプなんじゃない？」
ユリウスは大きく右に首をかしげていた。全く分からないといった様子だ。
「自分ではわかんなくてもそうなんだよ。後10回ほど赤い月をジェナサイトと経験すれば分かるよ。だから
ジェナサイトを離しちゃだめだよ？」
「はあ・・・」
腑に落ちない様子のユリウスだったが、ゆりもジュメも微笑んでいた。
うーん。わからない・・・愛情を感じて恥ずかしいというのが・・・
ユリウスは城を出てからも首を傾げっぱなしだった。
確かに、おぞましくて嫌という嫌ではなかった。
好きだから嫌だと思うこともあるのか？？？
ジェナサイトは、もしかして私のこと怒ってるかも・・・
その数日後、ユリウスは話があるといってジェナサイトを夜、屋敷に呼んだのだった。
「なんだ？話って」
「怒ってるか？赤い月の事」
ユリウスはジェナサイトの顔をじっと見て聞いた。今は別に見つめても恥ずかしくはない。
「別に怒ってないぞ。なんだかんだ言っても、交わった事は交わったし・・・」
全然抱けなかったわけでもないので、ジェナサイトはたいして怒ってはいなかった。
「ただ、あの時のお前はおかしかったから不思議に思ったが・・・昼も夜もとかいってたからちょっと
拍子抜けしたぐらいだな」
「じゃあ来年も10日過ごしてくれるか？」
「来年？随分気が早いな」
「・・・」
ユリウスはじーとジェナサイトを見つめている。
よくわからんが・・・一応は俺の事好きなんだろうなあ・・・
「いいぞ」
「そうか」
うれしそうな顔をするかな？と思ったが、全く表情は変わらなかった。。
分かりにくい女だな。全く・・・
「酒を飲もう」
ユリウスは棚から酒を出した。その夜はそれ以上色っぽい話もなく、しみじみと酒を飲んで別れたのだった。
そして別れた後に、ちょっと微笑んだユリウスだった。
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