んー全くあの鷲はなんなんだ・・・


ゆりは頭をかきながら目を覚ましてぎょっとした。目の前に金髪の美女が寝転んでる。

「・・・・」

ダーナ連れてきちゃった・・・・

それはどっからどう見てもダーナだった。そしてここは、どう見ても自分の寝室だ。


なんで？どうして一緒にきちゃったの？


はっと横を見るとラクシュミが眠っている。

や・・・やばい・・・ダーナ見られたら・・・


その時ぱっとダーナが目を開けた。

「んー？ここどこ？」

髪をかきあげて身体を起こそうとするダーナに、ゆりは思わずぱっと布団をかけて隠した。

「ちょっと何すんのよ！」

ダーナが布団をめくって体を起こし、ゆりを見た。

「・・・・あれ？なんなの？このちんちくりんは・・・」

「ちんちくりん？」

ダーナは首をかしげている。

「ガーベラっぽい魂ねえ・・・」

「あのー。ガーベラの時に弾みで一緒にこっち連れてきちゃったみたい」

「？？？」

どう説明していいやら困るなあ・・・


「まあいいや、あら、この人ジンラそっくり」

「え？」

ゆりが横を見ると、いつの間にやらラクシュミは体を起こしてダーナを見つめていた。


げげげ


ダーナがにっこり微笑んでいる。


「だめだめこの人はだめ！」

「ここ人間界でしょ。せっかくだから遊んでこようっと」

ダーナはベッドから降りてすっと消えた。

「お、王様？」

ラクシュミは目を見開いたまま固まっていた。

「王様〜？」

ラクシュミの目の前でぱっぱと手を振ってみる。

「う・・・美しい・・・」

ラクシュミはぼんやりしていた。


第９話


ゆりは服を着替えてダーナを探しに行ったのだが、全然見つからなかった。ダーナが出没すれば城の中は

大騒ぎのはずだが、今の所騒ぎもない。


まあいいや、女神様だし、自分でなんとかできるだろう・・・


ゆりはそう思い、とりあえず朝食を食べることにした。

しかし、女神様ってのは、楽天的なのだろうか・・・全然細かいこと気にしてないし・・・

まあ神経細かいと女神なんてやってられないのかもしれないけど・・・


子供らと食事をしていたら、ラクシュミがぱっと食堂に現れた。

「ゆ。ゆり、ダーナどこだ？」

ラクシュミはもうばっちり王の衣装を着ていた。

「さあ、どっか行っちゃった」

「ダーナって？」

ラギが聞いた。

「いやー実は今朝ダーナ来ちゃって」

「ええ？！」

子供ら3人が驚いた。

「ど、どこ？どこどこ？」

「それがどっか行っちゃった」

「ゆりーダーナの竪琴が聴きたい」

ラクシュミが訴えるように言っている。

「そう言われましても・・・まあその内どっかにひょっこり出てくるよ」

「探しに行こう！」

「僕も！」

「私も！」

子供らはどどどと出て行った。

「ゆり、見つけたら王の間に連れてきてくれな。」

ラクシュミはうれしそうに言って消えた。


本当にどこ行っちゃったんだろ。


ゆりも食事をして探しに行った。


その頃、自分のベッドで目覚めたハインリヒは、横に金髪美女が寝転んでいたのでぎょっとした。

一体なんだ・・・夢か幻か・・・


ハインリヒがぼんやりしていると、極上美女はにっこり笑い、顔を近づけてきた。



「お母さん、どこにもダーナいないよ！」

「顔がみたいよう！」

「そう言われてもさあ・・・」

子供らはうろうろあちこち探したようだが、女神様の気配もなかったようだ。


その時、ミカエルとジュノーとヴィラがやってきた。

「王妃！ダーナは？」

「どこです？」

「どこなんです！？」

3人共必死の表情をしている。どうやらラクシュミに聞いたようだ。

「分からない。どっか行った」

「えーどっかってどこです？」

その時3人が「あっ！」と言った。廊下の向こうからきらきら輝くダーナが歩いて来た。

「ダダダダダーナ様・・・」

「うわー・・・」

「美しい・・・」

男達も子供たちもあんぐり口を開けていた。


「どこ行ってたの？」

「ちょっとね。あら、こちら皆いい男ね」

ダーナが3人の男達を見て言った。

「ねえ、ダーナとガーベラどっちが好き？」

ダーナは男達に聞いた。男達は口を開けたままだ。

「な、なんて言ったんですか？」

ミカエルがゆりに聞いてきた。

あれ？ダーナの言葉わかってないのかな？ダーナ私の言葉はわかってるようだけど・・・

「ダーナとガーベラどっちが好きかってさ」

ゆりが言った。

男達3人はちらりとゆりを見て、ダーナを見て、

「ダーナ様です」

と口をそろえて言った。

「ダーナ様だって」

ダーナに言うと、ダーナはにっこり微笑んだ。その微笑に、3人ともメロ〜ンととろけそうな顔をしている。

こいつら・・・覚えてろ！


ゆりは思わず3人を睨んだ。

「ダーナ様、握手してください！」

シスが言った。ゆりがダーナに伝えると、ダーナは「いいわよ」と言って、子供3人と握手して、

男達3人の手を握ってあげて、軽やかに去って行った。皆幸せそうにぼんやりしている。

「この、裏切り者！」

ゆりは鼻の下を伸ばしている男達にいい、ダーナを追いかけた。


「待って、待って、ねえ、一人で神の国に帰れるの？」

「ん？」

ダーナが立ち止まった。

「自分で人間界に降りたんなら簡単なんだけど・・・こっちとあっちじゃ時の流れが違うから、同じ時に帰るのは

少々面倒かもねえ」

ダーナはあんまり困ってなさそうに言った。

「いざとなればなんとかなるだろうけどね」

「一緒に寝ればもしかしたら帰れるかもしれないけど・・・・」

「そうなの？よくわからないけど・・・まあせっかくだからこの時代の信者を増やすわ」

「そう・・」

「じゃあね」

「夜には帰ってきてよ」

「わかった」

ダーナは消えてしまった。


うーん・・・転んでもただでは起きないタイプね。たくましい。だからダーナファンが多いんだ・・・


ゆりは感心していた。


ガーベラももっとあちこち出没して信者増やせばいいのに・・・


「ねえ、お母さん神様の言葉わかるの？」

ラギが側に来て聞いた。

「どうやらそうみたい。神の国に行った影響かもね」

「すごいなあ。ダーナ様ってすごい綺麗だねえ。僕びっくりした」

「よかったね」

ミカエルらのところに戻ると、まだぼんやりしていた。シスもぼんやりしている。

「ダーナ様・・・」

「あんたら今までガーベラ言ってたくせにもう！」

その時、廊下の向こうから男達が押し寄せてきた。

「お、王妃！」

「ダーナ様は！？」

「本当にいらっしゃったんですか？！」

「信者増やすって言ってどっか行っちゃった」

「ええーそんなー！」

「一目顔が見たいですー！」

男達のブーイングが起こった。

「そう言われてもさあ・・・」

「せめてガーベラでもいいから見たい！」

「王妃、ガーベラ出してください！」

「出ないわよ！ガーベラでもって何よ！でもって！ガーベラに失礼でしょ」

ゆりが怒って言うと、男達はしぶしぶ去って行った。

「全く・・・」



ダーナは蛇の国の大きな町を回り、歌を披露して他国に飛んでしまったようだった。

なかなか活発に活動しているようだ。


夕方になっても帰ってこなかった。


「ゆりーゆりー本当にダーナ帰ってくるのか？」

王の間ではラクシュミが子供のように言ってゆりの服を引っ張っていた。

「帰ってくるよ。多分」

王の間にはダーナの姿を待ちわびる人たちが出たり入ったりしている。

「何よ、実物見たとたん、ガーベラからダーナ派になっちゃって！」

ゆりは横のミカエルとジュノーを睨んで言った。シスまでそうなんだから参ってしまう。

「しょうがないですよ。王妃、実物見ちゃったら。」

とミカエル。

「そうですよ。怒らないでくださいよ」

ジュノーがちょっとだけ申し訳なさそうに言った。

「何よ、ガーベラの方が・・・胸でかいんだから」

一同シーンとした。

「ゆり、もっとましないい方があるだろ」

ラクシュミが呆れて言った。

「私はもちろんダーナよりガーベラの方を愛してるんだぞ。ただ竪琴が聴きたいくらいいいじゃないか」

「そうですよ。やっぱりじっくり考えれば、口付けしてくださったガーベラ様の方が好きですよ」

ミカエルが取り繕うように言った。

「もういいよーだ。」

その時、ハザークが王の間にやってきた。

「ダーナ帰ってきたか？」

ハザーク様まで・・・


「外見てきます」

ゆりはふてくされて王の間を出て城から外を出た。


城の外に出ると、夕闇の中、結構な人たちがうろうろしていた。皆ダーナを待ってるようだ。その中にハインリヒ

もいた。

「ねえ、ハインリヒは、ダーナより胸がでかいガーベラの方がいいよね」

ゆりはハインリヒに聞いた。

「え？」

その時きらきらした輝きが現れた。ダーナだ。一同おおーと歓声をあげた。

ダーナはゆりに近づいてきて、横のハインリヒを見た。

「あらダーリン」

「ダーリン？」

ゆりの顔が引きつった。

「ここの男って肌に蛇がいるのねえ。」

ゆりがハインリヒを睨んだ。

「え？なんて言ったんです？」

ハインリヒがぎくりとして聞いた。

「ハインリヒの蛇見たって言ってる。一体ダーナと何したの？」

「え・・・・」

「ダーナ様、歌を歌ってください！」

「お願いします！」

皆が口々に言っている。

「ダーナ様の美しい歌を聴かせてほしいって」

ゆりが言うと、ダーナは「いいわよ」って言って、歌を歌いだした。

澄んだ歌声に皆うっとりしている。歌の内容は淡い恋を歌ったものだった。


「あの、城の中でも歌ってくれる？どうしても皆ダーナ様の素晴らしい竪琴を聴かせて欲しいって」

ゆりが歌が終わって聞いた。

「いいわよ。私の竪琴は、ガーベラ以上だから」

ダーナはゆりについていき、外にいた皆もぞろぞろついてきた。


ダーナって、かなりサービス精神旺盛な女神様だなあ。こういうところも人気の秘密かもねえ。


そうゆりは思った。

王の間に用意された豪華な椅子にダーナは座り、竪琴を受け取って奏でだした。

王の間の扉は開け放たれて、中に入れない者は扉の外の廊下でダーナの竪琴と歌を聴いていた。

自分で自負するだけあってダーナの竪琴の腕は素晴らしく、ラクシュミもハザークもうっとりして聴いていた。


感動して涙を流すというものではなく、ああ、幸せ・・・と誰もが感じるような、そんな歌声だった。

やっぱりすごい女神様だとゆり自身思っていた。ガーベラと縁がなければ、ダーナファンになっていただろう。


女神様の演奏会が終わり、皆幸せな気分で帰って行った。

そして夜、ゆりはダーナと一緒に自分の部屋の寝室で寝転んだ。

「これで帰れるの？」

「とりあえずやってみましょう」

「いいけど・・・結局あなたは何なの？」

ダーナは今頃になって聞いてきた。

「さあ・・・」

「ガーベラと何か関わりあいがあるわけ？」

「まあそのような感じです」

「そう、まあ楽しかったからいいわ」

ダーナは深く追求しなかった。

ゆりはダーナの歌と竪琴を聴いていたので、とってもいい気分で、結構早めに眠る事ができた。


気づいたら神の国で、ガーベラの神殿にいた。

あれ？ダーナは帰れたのかな？


ゆりは神殿の外に出た。すると、クーリーフンが飛んできた。

ークーリーフン、お願い、一緒にダーナ探して！

ーダーナ？いいよ。


クーリーフンが飛んでいこうとしたら、ぱっと目の前にダーナが現れた。

ーダーナ！


ゆりはダーナに近づいた。


よかった。帰れたんだ。


ーなんか変な夢見たような気がするんだけどなあ・・・


ダーナは自分の頬をなでながら首をかしげていた。

ー変なちんちくりんの女の子が・・・

ー夢よ。夢。

ゆりがあわてて言った。

ークーリーフン、ダーナと遊びに行きなさい。

ゆりがすかさず言った。

ーそうね、行きましょ。

とダーナが微笑んで言う。

ーいいよー

二人は手をつないで去って行った。


ーいやー危ない危ない・・・・あんまり覚えてないならよかった。


ゆりはなんだか疲れた気分だったのでその日は神殿の中で寝転んでいたのだった。


一方、ゆりの元にきたガーベラは、なにやら女神の気配を感じて首をかしげつつ、ラクシュミがいる

寝室へ移動した。その日はラクシュミは早めに寝室に来ていた。

「ねえ、王様、だれか女神来た？」

「ああ、今日ダーナが来たぞ」

ラクシュミが答えた。すぐにガーベラだと分かったようだ。

「ダーナが？そうなの？」

「ゆりがこっちに帰って来る時に連れて帰ってしまったらしい」

「えーそんなこともあるの」

ガーベラがラクシュミを見つめると、ラクシュミはちょっと気まずそうに目をそらせたのだった。

「・・・・」

ダーナを見ると人間は淡い恋心を抱いてしまう。ラクシュミもやっぱりそうだったようだ。

「私は、ガーベラの方が好きだぞ」

「ふーん、ありがと」

ガーベラはちょっと口を尖らせていた。


どうせダーナのことだから、あちこちに現れて信者を増やしたに違いない。

ここの男達がダーナ派になるのは面白くなーい。ちょっといたずらしちゃおうかな。



ガーベラはそのままゆりの寝室へと戻ってしまったのだった。


すすむ