夜の闇が薄れていき東の地平線から太陽が昇る頃、西の聖域にある太陽の神アリアスの神殿では、
神官達により一斉に祈りが捧げられていた。
陽は毎日変わらずに昇り、沈んでいく。毎日がその繰り返しなのだが、もし、太陽が昇らなかったとしたら
どうだろう。朝が来ても昼が来ても世界が夜の闇に覆われていたとしたら。
いかに夜の闇は人々に安らぎを与えるとは言っても、闇ばかりでは人々の心は暗く沈んでしまう事だろう。
太陽が世界を照らしているからこそ人々の生活は成り立ち、動植物も育っているのだ。
それが当然だと思ってはいけない。
神々への感謝を忘れてはならない。
今朝も変わらず太陽は昇り、人々の生活が始まる。
第10話
「な・・・・なんじゃこりゃー！！！」
蛇の国の王妃様の寝室では、ゆりが王妃様らしくない悲鳴をあげていた。
いつの間にやら枕元にきていた蛇のルーは、不思議そうにゆりをじっと見ている。
ゆりは体を起こして、シーツに広がる金色の髪を見つめていた。ウエーブがかかった長い髪には見覚えがある。
ガーベラの髪だ。
まだ夢見てんのかも。
ゆりはそう思い、寝転んで目を閉じた。そして10秒数えて目を開けて、自分の髪を見た。やっぱり金髪だ。
異変はそれだけではない。身体も変わっていた。胸はいつもよりももっと大きくなって、足も長くなっている。
手の指もすらりと長い。
なんで？一体なんでこうなったわけ？
今のゆりはガーベラが降りてるわけでもなかった。中身はいつもの自分自身だ。ゆりは寝室から横の部屋に移動して
壁にある鏡を見た。
ガーベラの顔になってる・・・・
そこには女神の美しい顔があった。ただ女神と違うのは、輝いていないということだ。神の世界でも、昨日の
ダーナも、身体の周りはきらきら輝いていたのだが、今はただ姿がガーベラになっているだけのようだった。
「・・・・・・・・」
ゆりはあまりの事にしばし立ち尽くしていた。そしてはっとして部屋の扉の鍵を閉めた。
侍女がやってくるからだ。
どうしよう・・・・なんで変わったんだろう。神の国に行った影響？？？？
いくら考えてもわからない。その時、扉がノックされてあけようとするのが感じられた。
「王妃様？開けてくださいませ」
侍女が外で呼んでいる。
「ご、ごめん。ちょっと今入らないで」
「どうしてです？」
「ちょっと・・・」
気分が悪いと言えば心配させてしまうので、理由が見つからない。
侍女はあきらめて去って行った。だが、もちろんそのままにしておくわけもなく、そのまま朝食を食べていた
ラクシュミの元に行ったのだった。
「ゆりがおかしい？」
「部屋に入れてくださらないのです」
「ちょっと見てこよう」
また誰か来たのかも？そう思いつつ、ラクシュミは移動した。
おなかがすいた・・・とつぶやきながら部屋の中をうろうろしていたゆりは、ぱっと目の前に現れたラクシュミを
見て、「ぎゃあ！」と言って寝室に逃げて、布団の中にもぐった。
ラクシュミは目が点になっている。そして、そろそろと寝室に行ってみた。
すると、ゆりは頭から布団をかぶっていたが、おしりは見えていた。しかも布団の間から金髪が垂れ下がっている。
「・・・ゆり？お前・・・ゆりだよな？」
ラクシュミは恐る恐る聞いた。
すると、ゆりが布団の中から顔を出した。
「どうしたんだ？それ」
「わかんない。起きたら変わっちゃってたの」
金髪はからまってわやくちゃになっていた。ラクシュミはベッドに座り、顔にかかっている髪をどけてやった。
青い瞳がラクシュミを不安げに見つめている。
普段のゆりらしいとラクシュミは感じた。
「綺麗だな。すごく」
ラクシュミは思わず美しい唇に唇を寄せた。
「王様、おなかすいた。何かもってきて」
「別にいいじゃないか。皆に見せれば」
「えー・・」
「服がいるな。仕立て屋にもってきてもらおう。お前の服じゃ全然あいそうにないな」
ラクシュミはゆりの身体を見て言った。寝間着でさえ、全然サイズが会ってない。
「ううう・・・いつ戻るのかなあ・・・」
「まあいいじゃないか。」
「王様戻らない方がいいと思ってるでしょ」
ゆりが睨んで言った。
「そんなことないが・・・夜までそのままだといいなあ・・・」
ラクシュミが意味ありげに言っている。
「やだ。この身体抱いたら私の身体抱けなくなるじゃない」
「そんなことないぞ。私はお前のあの姿に結構愛着あるし・・いいだろ。私は結婚してお前だけ
なんだし。たまにはこういうこともな」
「むー・・・」
ゆりは口を尖らせていた。だが、そういう顔も、なんともかわいらしい。
「部屋開けておくぞ」
ラクシュミはゆりの頬をなでて出て行った。
まあ、確かに・・・浮気しない王様にご褒美くらいあげてもいいかな・・・
いつまでこの姿かわかんないけど・・・
それにしても・・・王様全然物事に動じなくなってるね。最近こんな事ばっかり起きてるからなあ。
多少の事じゃ全然驚いてない。
部屋の方に行くと、3人の侍女が「きゃー！」と悲鳴をあげた。
「め、女神様〜」
「素敵」
「うつくし〜」
「あの・・・食事を持ってきてほしいんだけど・・・・」
「え？女神様って食べ物を食べられるんですか？」
侍女が不思議そうに聞いた。
「今の私は外見こうなだけだから。中身はいつも通りなの」
「そうなのですか。すぐお持ちしますね」
侍女の一人がさっと出て行った。残りの侍女は、ゆりに近づいてきて、じろじろ眺めている。
「髪をときませんと。」
「女神様の髪をとけるなんて幸せ」
「まあ、好きにしてちょーだい」
ゆりは食事を食べながら侍女らに髪をすいてもらった。
侍女らはとにかくうれしそうだ。
その時扉が開いて、子供ら3人が入ってきた。
「わーほんとうだ！」
「本当に変わってる！」
「なんで変わったの？」
3人共口々に聞いた。
「さあ」
「ダーナ様に対抗したの？」
ラギが聞く。
「別にそういうわけじゃないけど・・・・」
「すごーい、きれー・・・」
子供らはゆりの周りをぐるぐる回っていた。シスはゆりが物を食べているのを不思議そうに見ていた。
「シス、ダーナとどっちが綺麗？」
ゆりは微笑んで聞いてみた。
「え・・・どっちも綺麗だけど・・・」
シスはゆりの胸の谷間を見て照れていた。そうこうしてたら、でかい鞄をもった仕立て屋がやってきた。
「早かったねえ」
「お・・・・王妃様・・」
仕立て屋の顔はぽわーんとなっていた。
「ここまで飛ばしてもらいましたから〜とりあえず、女神様が着れそうな服を持ってまいりました」
仕立て屋は鞄をあけた。ゆりは服を受け取って寝室で着てみた。
うーん、胸がセクシーだなあ・・・まあいいか。
薄紫色の生地で、なんとなく神の国の衣装に似ていた。首周りは大きく開いている。腰はきゅっとしぼられて
下に布が垂れ下がっている。胸の下に同じ色の花の飾りがついている。
ゆりは部屋に行き、「どう？」と聞いてみた。
「わーお似合いですー」
「すごーい、きれー」
「美しいー！」
みんな拍手している。
「あ、そうだ！」
アナスターシャが何か気づいたように出て行った。
「それにしても、どうやって変身されたんですか？」
仕立て屋が不思議そうに聞いた。
「さあ、わからない」
「お願いします。今の身体のサイズ測らせてください！服作りたいんです！」
仕立て屋が拝むように言った。
「いいよ。わざわざ作らなくても。どうせすぐ戻るはずだし」
「エーすぐ戻られるのですかー？」
仕立て屋が嫌そうに言った。
「戻るわよ。戻っちゃ悪いの！？」
「怒った顔も素敵です・・・お願いします。王妃様」
「しょうがないわねー・・・」
ゆりはメジャーでサイズを測らせてやった。仕立て屋は涙を流さんばかりに喜んで、服をいろいろ置いて
出て行った。アナスターシャがやってきて、ゆりに「はい」と帯を渡した。
「これ、前にもらったやつね」
「つけてみて」
「いいよ」
西の聖域の使者にもらった帯だった。ゆりは腰に巻いて端を帯の内側に入れて留めた。
「おにあいです〜」
「うっとり・・・」
「素敵〜」
皆また拍手していた。
「父様が準備できたら見せにこいって言ってるよ」
アナスターシャが言った。
「しょうがないなあ・・・」
「王妃様、少し口紅だけ塗りましょう」
侍女らがうきうきしていい、ゆりはちょっと化粧して部屋を出た。
それにしても・・・なんて重い髪なんだろう・・・・
女神の時は真綿ほどにしか感じなかったが、今はすごく重い。なにせ髪の量が半端じゃない。
普通の人間ができる髪型じゃないわねえ。
ゆりはアナスターシャに王の間の外に移動させてもらった。すると、番兵の顔が驚愕に変わった。
「ちょっと変身しちゃって・・・」
ゆりが言うと、番兵達は不思議そうに首をかしげている。頬は赤く染まっていた。
「ねえ、今中に誰がいる？」
「王と、ミカエル様と、ザメハ様、フレイ様がいらっしゃいます」
「じいちゃんらはともかく、ミカエルは余計だなあ・・・」
ゆりはぶつぶつ言った。
「アナスターシャ、もう行ってもいいよ」
ゆりがそういうと、アナスターシャは瞬間移動で消えた。
「ねえ、ミカエルにとっとと出てけって言ってくれない？」
ゆりは番兵に言っている。どうも昨日の恨みがあるようだ。その時、ミルキダスがやってきてゆりを見て
目を見開いた。
「王妃様、只今変身中です」
番兵が説明した。
「え？変身できたんですか！？」
ミルキダスが驚いて聞く。
「いやーたまたまできちゃった。えへ」
「・・・・」
ミルキダスは真っ赤だった。
「まあいいや、ミルキダス、中に移動させて」
「は、はい・・・」
ミルキダスは恐る恐るゆりに触れて、ラクシュミ近くに移動した。
「お美しい！」
「ガーベラ様じゃ！」
フレイとザメハは大喜びだった。ミカエルもぼんやりしている。
「合う服があってよかったな」
ラクシュミがゆりの姿を見て言った。
「王様、ちょっとミルキダス借りてもいい？」
「いいけど何するんだ？」
「庭園デート」
「王妃、私としましょうよー」
ミカエルが抗議するように言った。
「ミカエルはダーナの方が好きって言ったから嫌！」
「そ、そんな・・・」
「さ、いこーミルキダス、今日は天気もよさそうだし」
「え・・・でも・・・いーんですか？」
「いいのいいの。」
「し、失礼します」
ミルキダスはラクシュミに言ってゆりに触れた。
「そんなーひどいーあんまりだー」
ミカエルは悔しそうにぶつぶつ言っている。ラクシュミがそんなミカエルを見てぷっと笑った。
「ひどい、王だってダーナにくらっといってたくせに・・・」
「私はダーナの方がいいとは言ってない」
「ううう〜」
「ああ、連日超美女が見れて目の保養ですなー」
「20歳くらい若返った気分ですな」
老人二人はほほほと笑っていた。
「寒くないですか？」
庭園に出て、ミルキダスがゆりに聞いた。ゆりの服は両腕が出ていたし、胸元が開いていた。陽は照っていたが
暖かいという気温でもないのでで気にしたようだ。
「大丈夫よ」
ゆりは寒くはなかったが、髪が重かったので、気合を入れて立っていた。気を抜くと頭が後ろにぐらりと
いきそうだ。ミルキダスはろくにこっちも見れない様子。そういうところがミカエルらと違ってかわいい
所だ。
「あ、見て見てー王様の花壇、綺麗な花が咲いてるよ」
ゆりが横の花壇の方に移動した。
「本当ですね」
「すごいきれい」
花びらが太陽の光できらきら輝いていた。この前ガーベラが咲かせた花だったが、ゆりはそんなことは知らない。
ミルキダスはゆりの金髪が太陽の光でキラキラ輝いているのを見た。
なんて豪華な金髪なのだろう。こんなすごい髪は見たことがない。
ゆりがミルキダスを見ると、ミルキダスははっと目をそらして花の方を向いた。
「じっくり見ていいんだよ。いつ元に戻るかわからないんだから」
「はあ・・・目をあわすと恥ずかしいです」
「すごい美女だもんね」
「私はいつもの王妃でも、いまだに恥ずかしいですから・・・」
「ま、ミルキダスったら♪」
「金の巻き毛・・・銀の微笑み・・・」
「なあに、それ」
「古代叙事詩の詩にあるんです。
青い澄んだ瞳に見つめられるだけで、心はときめく
金の巻き毛 銀の微笑み
麗しきそなたのためならば
命さえも惜しくはない
歌っておくれ、愛の歌を
微笑んでおくれ 私のために」
「素敵ね。ちょっと古代語で歌ってみて」
「ええー！」
「ちょっとだけ、ね」
ミルキダスは真っ赤な顔で躊躇していたが、やがて小さな声で歌ってくれた。
「ミルキダスの歌って素敵ね」
「恥ずかしいです・・・」
その時人が来る気配がした。横に王の侍女らしき二人がやってきた。二人はゆりを見てぎょっとしたが、
話を聞いていたのかさほど驚かず、会釈をして花を切って去って行った。でもちらちらとこちらを見ていた。
ふふ・・・勝った・・・
初めて王の侍女に勝ったと思ったゆりだったが、考えて見れば、ちと虚しいかもしれない。
その時、シャナーンが飛んでくるのが見えた。
「あれ？・・・・」
「シャナーン」
ゆりが手を振ると、シャナーンがこちらに近づいてきた。
「ガーベラ様・・・じゃなくて王妃ですか？」
「そうだよ。よくわからないけど、変身しちゃって」
「え？」
シャナーンは不思議そうに首をかしげている。
王妃、王妃と後ろからも声が聞こえてきた。
後ろを向くと、ヴィラとジュノー、ハインリヒまで一緒にやってきた。
「あんたら何か用？」
ゆりは3人を睨んで聞いた。
「王妃ってば、まだ昨日の事根に持ってるんですか？」
ヴィラが言った。
「あれはしょうがないですよう。王妃」
とジュノー。
「ガーベラの方が胸でかいですねえ・・」
ハインリヒはゆりの胸を見ていた。
「しっしっしっ」
ゆりは手で追っ払う仕草をした。
「あーひどい、王妃！」
「シャナーンは近くでじっくり見てもいいよ」
ゆりはシャナーンにはにこやかに言った。
「・・・いつ元に戻られるんですか？」
「さあ、良く分からないけど、ずっとこうじゃないでしょ。まさか」
「今の姿も大変美しいですが・・・やはり私は、いつもの王妃の姿の方が好きです」
シャナーンがゆりを見つめて言い、ゆりはガーンと体をそらせた。
この姿を見てもそう言えるとは・・・・
ゆりは感動していた。
「まあ、シャナーンったら・・・かわいい。ちゅーしてあげる」
ゆりはシャナーンの頬にぶちゅっとキスした。シャナーンの頬に口紅の痕がついた。
その時、ジュノーヴィラ、ハインリヒの3人は、「やられた」と思った。
「そ、それでは王妃・・・」
「じゃあねー」
シャナーンは真っ赤な顔で移動した。
「さあ、ミルキダス、部屋に戻ろうか。うるさいのが3人いるから」
「王妃！そんなあ・・・」
「もう許してくださいよう・・・」
ジュノーとヴィラは悲しそうにしている。
「私のは誤解ですよ。別にダーナと何かしたんじゃないんですよ」
とハインリヒが訴えるように言った。
「じゃあ何したの？」
ゆりが聞く。
「何もしてないですよ。そんな・・・女神様に何かできるわけないじゃないですか。私の手の蛇を見て
ああ言っただけですよ」
ハインリヒは必死に言っていた。
「いや、それは怪しいですねえ・・」
言ったのはジュノーだった。
「そうですね。口付けくらいしたんじゃないんですか？」
とヴィラ。
「え・・・いや、私は何も」
ハインリヒはしどろもどろだった。
「・・・・ミルキダス、部屋にもどろ」
ゆりはミルキダスの手を握り締めて、ミルキダスが一緒に移動した。
「なんで邪魔するんだ！」
ハインリヒが二人を見て言った。
「だって・・・せっかくだから道ずれにしようと思って・・・・」
とジュノー。
「絶対何かしたでしょ。口付けとか」
ヴィラが横目で言った。
「う・・・いいじゃないか。私はガーベラにも何もしてもらえなかったんだから・・・」
実はハインリヒはダーナに口付けされて、しばらくそのままメロ〜ンと夢心地になっていたのだった。
「それにしてもシャナーンめ、あんな殺し文句を言うとは・・・」
ジュノーが渋い顔をしていた。
「王妃の中でシャナーンへの想いがぐーんと増してしまったなあ・・・」
ヴィラは頭をかいている。
「ああ、今の王妃を抱きしめたい・・・後でもう一度くどこう・・・」
ハインリヒは口を尖らせて去って行った。
「では王妃、私はこれで・・・」
ゆりを部屋に連れてきて去って行こうとしたミルキダスの腕を、ゆりは握り締めた。
「ねえ、口付けしていいよ」
「え？」
「せっかくだから。」
「でも・・・」
「遠慮しなくていいのよ。ミルキダス、私の恋人じゃない。」
「王妃・・・」
恋人という言葉に、ミルキダスはうれしそうに微笑んだ。
「まだ、私のことそういう風に思ってくれてるんですね」
「うん。ミルキダスがもういいって言うまで、恋人よ」
ミルキダスはゆりの瞳をじっと見つめた。
「本当にいいんですか？」
「うん。一杯キスしていいよ」
ミルキダスは遠慮がちにゆりを抱きしめて、顔を寄せた。
ミルキダスったら、ちょっと震えてる・・・可愛い人。
ミルキダスが軽く口付けして離れようとしたので、ゆりは自分からぎゅっとミルキダスに抱きついて口付けた。
そういえば、ミルキダスとこうするのって久しぶりだなあ・・・
なんだかすごく・・・いい気分になってきちゃった・・・
二人で盛り上がり、口付けは激しいものへと変わって行った。その時扉がノックされて、ゆりは顔を離した。
二人はすぐ扉の横にいたので、ゆりが扉を開けたら、フリットとイシュタールが立っていた。
「本当に変身されたんですねえ」
フリットが目を見開いて言った。
イシュタールは無言で目を真ん丸くしている。
フリットはまっかっかな顔のミルキダスを見た。
「二人で何してたんですか？」
「えへへ、ちょっと久しぶりにいちゃいちゃ」
ゆりはちょっと変な気分になっていたから、正直に言ってしまった。
「いいですねえ。私もいちゃいちゃしたいな」
フリットがゆりを見つめて言った。ゆりがイシュタールを見ると、イシュタールは心底不思議そうに首を
かしげていた。
「イシュタールはいちゃいちゃしたい？」
「え・・・私は・・・」
「こないなら3人で向こう行っちゃうよ」
「え！」
「本当にいいんですか？」
フリットは逆に驚いていた。
「ちょっとそういう気になっちゃった。皆長い恋人だから、この姿に触れたからって普段の私が嫌になったり
しないよね？」
「ならないですよ。王妃の魅力は、外見だけじゃないですからね」
フリットが微笑んで言った。
「じゃあいっちゃお」
「行きましょう」
ゆりはミルキダスとフリットの手を取り、３人とも別室の方に消えてしまった。イシュタールはしばらく
たたずんでいたが、ここで引いたら一生後悔してしまうかも、と思い思い切って移動した。
ゆりはこの姿ではさすがに男達に口付けしたり、抱きしめあったりするくらいだったが、女神姿の美しい
身体をじっくり見て触れることができて、3人の男達にとってはかなり幸せな時間となったのだった。
午後、ゆりが双子の部屋に行くと、部屋で遊んでいたロイとナナミはゆりの顔を見て、目を真ん丸くしていた。
「おいで、ナナミ」
声はゆりなのに身体は違う。ナナミは首をかしげつつもゆりにだっこされた。
「ふふふ、不思議そうにしてる」
「それはそうですわ。本当に美しい姿におなりで・・・」
と侍女。
「お母さんですよ。変身しちゃったんですよ」
ゆりがそういうと、ナナミは理解できないのか、目を真ん丸くしたままだった。
午後はどうしようかな。あんまり出歩くと皆に発見されるし・・・
しばらく双子をだっこした後、ゆりはとりあえず自分の部屋に戻ろうと扉を開けて、すぐ閉めた。
中に男が4人もいたからだ。
ゆりはすたこらさっさと廊下を歩いて行った。
「あ、王妃！」
「行かないでくださいよー！」
中から男達が出てきた。4人の男はジュノー、ヴィラ、ミカエルにハインリヒだった。
「何よ。あなた達、仕事はないの？」
「有給取りました」
とヴィラが言った。
「有給？」
そんなものがあったとは知らなかった・・・
「王妃、お願いですからじっくり見せてくださいよー」
「手を握らせてください」
男達は皆訴えるように見ている。
「もうしょうがないなあ・・・」
ゆりはぶつくさ言って、部屋に戻った。
「王妃、さっきミルキダスが真っ赤な顔でふらふらしてましたよ。何かしました？」
ミカエルが聞いた。
「一杯ちゅーして胸に触らせてあげた」
「えー！私にもちゅーしてください！」
「私も胸に触りたい！」
ミカエルに続き、ハインリヒが言った。
「あっかんべーだ。まあ、しょうがないから手にキスくらいさせてあげようかな」
ゆりが腰に手を当てて言うと、男たちは皆一様に口をへの字に曲げていた。
「ひどい・・・」
「差別だ・・・」
「いじけますよ。王妃・・・」
「もう過去に帰る・・・」
最後に言ったのはハインリヒだった。
「王妃がいじめるから過去に帰ります」
皆真面目にいじけていた。
「・・・そんな泣きそうな顔しなくてもいいじゃない。わかったわよ。唇にぶちゅっとキスしてあげる」
「胸は？胸」
「王妃、あっち行きましょう」
ミカエルが言った。
「え、だめだよ」
ジュノーとヴィラは目を合わせてそのままぱっとゆりに触れて横の部屋に移動した。
部屋使ったのがばれる！そう思ったゆりだったが、ベッドの上は綺麗になっていた。侍女らにはこっちに
来たのがばれてたようだ。やっぱりミカエルとハインリヒもやってきた。
「王妃」
ヴィラが後ろからゆりを抱きしめた。
「愛してますよ。一番」
ジュノーがそういいながら、ゆりに口付けた。
「もう、適当な事ばっかり言って・・・」
「そんなことないですよ。私の心はいつも王妃のものですよ」
とジュノー。
「脱がしていいですか？王妃」
ヴィラが耳元で聞いてきた。
「さっき脱いだばっかりなのにもー・・・」
「恋人達は平等に扱わないと・・・ね」
ヴィラはゆりの腰の帯を外して、肩から布を外して下に降ろした。そして中の下着すら取り、胸をあらわにした。
まん前にいたジュノーがはあ・・と息を吐いた。
「美しい・・・ダーナよりも、ガーベラの方が上ですよ」
「ベッド行きましょう王妃」
「・・・」
ゆりはベッドに乗り、4人の男も来た。
「ちょ、ちょっと待って、4人いっぺんには来ないで」
「じゃあ二人ずつね」
とヴィラ。
「ちょっと、コンビ取り替えて、ミカエルとジュノー、ヴィラとハインリヒにしてよ」
「どうしてですか？」
ハインリヒが聞いた。
「ミカエルとハインリヒはどっちも激しいから」
「じゃあ私達からね」
ジュノーがゆりに抱きついて、ミカエルもゆりの肌に触れた。
「ああ、なんて美しい胸だ・・・」
ハインリヒはしみじみ言いながらゆりの胸を見つめていた。
「ああ、王妃もガーベラも愛してます・・・」
ミカエルがうっとりして言っていた。
「本当に美しい・・・でも、普段の王妃だって美しいですよ」
とジュノー。
「いいよ。別に気遣わなくても・・・」
ゆりは男達と交互に口付けしあった。
結局皆とこうなっちゃうのか・・・まあ儀式みたいに激しくないからまだいいけど・・・
こうしてゆりは朝も昼も興奮させられる羽目になったのだった。
夕食の時間、ゆりは子供たちと食堂でご飯を食べていた。子供らは時々じーっとガーベラ姿のゆりを見ている。
「なあに？」
「なんだか不思議だから・・・知らない人がいるような気もするし・・・」
とシス。
「いつ元に戻るかわからないの？」
アナスターシャが聞いた。
「わからない」
「女神様姿好きだけど、いつもの母様に会えなくなるのはやだな」
「心配しなくても、ずっとこのままじゃないよ。多分」
「さっきハザーク様に会ったら、母さんがこないって言ってたよ。」
ラギの言葉にゆりは飲んでいたスープをぶっと出した。
「お母さん、その姿でやめてよ！」
「もしかして、このことハザーク様知ってるの？」
「私朝侍女さんに会ったから言ったよ」
アナスターシャが言った。
ガーン・・・・
「まあ、明日会いに行くよ。まだこうだったらいいけど・・」
まさか夜ラクシュミとそうなるのに今から会いに行く気にもなれなかった。
部屋に戻ると、ニコニコ顔の侍女らが待ち構えていた。
「さあ、お風呂に入りましょう♪」
ゆりはお風呂に入って、長い髪を侍女らに洗ってもらった。そしてかなりの時間をかけて乾かしてもらった。
重労働だったに関わらず、やっぱり侍女らはうれしそうだった。
ゆりは寝室に行き、今夜は早めにラクシュミがやってきた。
「ゆり・・・」
「王様すごくうれしそうだねえ・・・」
ゆりはちょっと複雑になって言った。
「つっかかるな。」
「分かってるよ。でも、元に戻っても抱いてね」
「ああ。」
ラクシュミはゆりを抱き寄せて口付けた。
「ゆり・・・愛してるぞ・・」
「王様・・・なんでもしてあげる・・」
その夜はお互いにいつも以上に盛り上がり、かなりの熱々な夜になったのだった。
すすむ