あっちでは楽しい事になってるかな〜


神国ではガーベラが機嫌良く光溢れる森の中の小道を歩いていた。時々森の動物達が通り過ぎたり、ガーベラに
近寄ってきたりしている。小さな鹿がぴょんと飛び跳ねて行った。動物達に歌でも歌ってあげたいところだが、
未だガーベラの声は戻っていない。

ふと、周りの空気が変わったのを感じた。光の帯のようなものがゆらゆらゆれている。


げげっ！


ガーベラは後ろを見た。光の帯はガーベラを中心に円状に取り囲んでいた。


ま・・・まずい・・・これは・・・・・


『ガーベラ・・・』

その時男の声が心に響いてきて、ガーベラはとっさに逃げようとしたが、どこにも移動する事ができなかった。


『本当にすまなかった。ガーベラ・・・私のせいでお前の声が奪われてしまって・・・』
目の前に一人の神が姿を現した。その姿は光り輝いて、姿を見るのさえ困難なほどだった。神々の中で最も
神格が高い神、アシュランだった。アシュランは光り輝く金髪と金の瞳を持った神で、姿形も全ての女神、
妖精を魅了せずにはいられないほど美しい男の姿をしていた。アシュランは妻であるヒルデリアとの間に
多くの神、妖精を産んでいたが、ヒルデリアの目を盗んでは他の女性に手を出して他にも多数の子供を産ませて
いた。

『もう少し我慢しておくれ、ガーベラ・・・』
アシュランはそっとガーベラの手を取り、瞳を見つめて言ったのだった。

ガーベラの顔は引きつり、「寄るな、触るな、近づくなー」と心の内で絶叫していたが、まさかそのままアシュラン
に言うわけにもいかない。アシュランは神々の長であり、ガーベラとしても、アシュランに嫌われるのはいささか
避けたい所だった。何しろ、アシュランだけは唯一神を葬る事もできれば、姿形を変える事もできる。神の交換すら
できてしまうのだ。
かといって、これ以上アシュランと何かあってヒルデリアの怒りを食らうのはたまったものではない。


ガーベラは目元に手をあててしくしく泣き出した。


このまま行っちゃってーっと心の内で願ったが、アシュランはそっとガーベラの体を抱きしめてきた。


うひー！！！


『お前の涙は美しいが見るのはとても辛い』


誰か助けて〜〜〜！


アシュランの腕に力がこもってきた。

その時、
「こんな森の真ん中で何をしているんだ？アシュラン」
光の帯を超えて一人の神が入ってきた。アシュランはその神を見てちょっと顔をしかめて、ガーベラから
手を離した。
「またヒルデリアの嫉妬を受けたらガーベラがかわいそうだろうに・・・」
『ただ謝るつもりだったのだが・・・ガーベラの顔を見てたらついその気になってしまった。ではな、ガーベラ』
アシュランはガーベラの手の平に口付けをして消えた。
同時に光の帯も消えて、ガーベラはほっと息を吐いた。


あー助かった・・・


ーありがとう。アリアス。


ガーベラは目の前の神の心に言葉をおくった。
オレンジがかった長い髪、顔だけを見れば女性的な優しい風貌をしていたが、背は高く、

体つきは見るからに男だった。頭に細い飾りのついたわっかが浮いていて、
首にも太陽をかたどった飾りをつけている。すその長いローブを着ていて片方の肩にオレンジ色の布が
かけられ、ベルトで止められて下に垂れ下がっていた。太陽神アリアスである。


ーそれじゃ。ありがとね〜


そう言って、ガーベラはさっさと去って行こうとした。すると、その腰に腕が回された。アリアスはガーベラの
すぐ後ろに移動していた。


ーガーベラ。それはあまりにつれないんじゃないのか？せめて、御礼代わりに熱い口付けでもしてくれても
いいだろう。


アリアスは腕を回したまま言った。


ーいやーでも、あなたってダーナの恋人だし・・私ダーナともめたくないから・・・・


ガーベラは硬直している。


ーただの御礼くらいいいだろう？私としては、もっと熱い御礼をしてほしいくらいだぞ。

ーうへ。
ー何がうへだ。今度見かけても助けてやらないぞ。

アリアスが横目で睨んで言った。アリアスはダーナという恋人がいながら、結構他の女性にも手を出してる
神だった。ダーナにも他に恋人がいるので、その辺はお互い様なのだが。

ガーベラとしてはアシュランに迫られるよりは、アリアスに迫られる方がだいぶましだ。


ーわかったわよう。でも、こんな所ではちょっと。誰が見てるやらわからないし。


ガーベラはアリアスの腕をよいしょと外した。


ーなら私の神殿に来るか？

ーえっそれはあまりに危険・・・
ーならお前の神殿。
ーどっちも変わんないじゃない！
ーならこっちに来い
アリアスはガーベラの腕を取って、木々の間の方に連れて行った。


二人の間に光の帯が下りてきた。こうすれば他の神や妖精に見られることはない。


ーこれでいいだろ。
ーうう・・・・


アリアスはガーベラの身体を軽く抱きしめて、顔を寄せた。ガーベラが思わず背中をそらせる。アリアスは
そのまま身体を掲げて唇を合わせた。ガーベラはしっかり口を閉じていたので、口の中にまでは入れなかった。

ー冷たいなあ・・・・
アリアスが顔を離して言った。
ーもういいでしょ。これくらいで。
ーしょうがない。お楽しみは次ってことで・・・
アリアスは光の帯を取り除き、そのまま姿を消した。

ー次なんかないわよー。べーだ


思いっきり舌を出した時、少し離れた所に森の妖精がいて目があった。男の妖精は目をぱちくりさせている。


あら、おほほほ。


ガーベラは取り繕うように微笑んで、そのまま去って行った。


第１１話


「うーん・・」
ゆりは朝目を覚まして、目の前に金色の髪があるのを見た。まだ元に戻っていなかったようだ。
「ふわあああ」
ゆりはあくびをしながら横を向いた。昨晩は結構盛り上がってしまった。ラクシュミはまだ目を閉じている。


王様かなり興奮してたなあ。うれしかったのかな。思いが遂げられた気分で。
まあいいか。王様普段仕事ばっかりで真面目だもんね。


ゆりは顔を近づけて、ラクシュミの頬にちゅっとキスした。するとラクシュミが目を開けた。
「おはよー王様」
「・・・まだ戻らなかったんだな・・・」
「うん」
ラクシュミはゆりの唇にキスして身体を起こした。
「ねえ、王様、中身も女神様の方がよかった？」
「ん？別に。お前もガーベラも中身は似たようなもんだろ。きっと」
「全然違うと思うけど・・・」
「私は行くぞ」
ラクシュミはベットを降りて寝室を出て行った。


意外と冷静だなあ。王様って。似たようなもんって・・・女神様の性格がこうだったら、ちょっと
がっかりだけどな・・・


ゆりは身体を洗いたい気分だったので、侍女らに手伝ってもらい、髪を持ち上げてもらって体だけ洗い、
身支度した。髪を整えるのがかなり大変で、侍女らは3人がかりで櫛をもって格闘している。
ゆりはおなかがすいたので、髪は任せて自分の部屋で朝ごはんを食べた。すると、部屋の中にぱっと
シスが入ってきた。
「母様、皆待ってるよ」
「え？どこに？」
「城の外。出てきてほしいって」
「そう、わかった」
どうやら噂が広まったようだ。シスはすぐ出て行った。

「まあせっかくだから、見せてあげようかな。」
「皆さん喜ばれますよ」
と侍女らも気合を入れて髪を整えて、軽く化粧をしてから城の外に出てみた。すると、わんさか人がいて
ゆりはびっくりした。
「わー。女神様〜」
「きれ〜です〜」
「王妃、なでなでしてください！」
言ったのはヴィクターだった。他の将軍らの顔も見える。
「いいよ。そのくらいなら」
ゆりは皆の頬をなでなでしてあげて、なでなでされた人たちからうれしそうに去って行った。だいぶ人が
減ってきて、見るとユリウスとジュメまでいた。
「王妃にはいつもびっくりさせられますねえ」
ジュメが目を見開いている。
「二人もなでなでしてほしい？」
「はい、せっかくですから・・・」
とユリウスがいい、ゆりは二人の頬もなでなでしてあげた。女性でも結構うれしいらしい。
「ジェナサイト、お前もなでてもらえ」
ユリウスはちょっと離れた所に立っていたジェナサイトを見て言った。ジェナサイトの頬は真っ赤になっている。
「おいでおいで」
ゆりが手招きすると、とことこやってきて、ゆりはジェナサイトの頬をなでてあげた。
「お・・・王妃・・・」
「それではこれで」
ユリウスはポワーンとなっているジェナサイトを連れて行き、ジュメも去って行った。


そういえば・・・やっぱりハザーク様のところ、行かなきゃやばいかな・・・・


一通り皆の頬をなで終わった後、ゆりはハザークのことを思った。


やっぱり顔見せてあげなきゃまずいよねー・・・なんかされそうだけど。


「ちょっとハザーク様のところ行ってくるから」
側にいた侍女に言い、ゆりはハザークの塔へと行ったのだった。


女神の顔を見たハザークはやはりとても喜んだ。
「我から行こうかと思ってたんだぞ」
「昨日はちょっと忙しかったもので・・・」
ハザークが身体を起こしたので、ゆりはその横に座った。
「すごい髪ですねえ。触ってもよろしいですか？」
ハザークの侍女が聞いてきた。
「いいよー」
侍女は金髪を取り、しげしげと眺めている。
「竪琴もうまいのか？」
「ううん。中身は完全私だから」
「そうか、じゃあ聴かないでおこう」
ハザークはゆりの頬をなでて腕をなでて、腰をなでた。
「綺麗だな・・・今までいろんな女を見たが、これほど全てが美しい女は見たことがない・・・」
ハザークはもうすでに興奮しているかのような瞳だった。
やっぱり姿を見せるだけで終わりそうにない。
「なんだか朝からその気っぽいですね」
「すっかりその気だ。来い」
ゆりはハザークに寝室に移動させられた。

「昨日は王も興奮したか？」
「うん・・・すごく・・・だからできる事なら日改めたいんですけど」
「だめだ」
ハザークはゆりを抱きしめて口付け、そのままベッドに倒れこんだ。


ああ、昨日夫とあんなに燃えたのに、次の日には別の男に抱かれてる私って一体・・・


ハザークも、いつも以上に興奮している様子だった。
「この前は口付けだけで失神してしまったからな。うれしいぞ・・・」
「あ・・・ああ・・」
ハザークは何度も女神の身体を抱いて、欲望の全てをゆりにぶつけたのだった。
身体が離された後、ゆりはあまりに疲れていたのでそのまま眠ってしまった。


どのくらいの時が経ったのか、しばらくして目覚めたゆりは、記憶があいまいだったのでぼんやりしていた。
横を向くと、人のままのハザークがこちらを見ていた。
「元に戻ってしまったな」
「え？」
ゆりは自分の髪をつかんでみた。長い髪はなく、黒髪に戻っている。
「戻ったんだ・・・」
ゆりは安堵のため息をもらした。
「がっかりしたでしょ」
ハザークが微妙な目で見ていたのでゆりが言った。
「いいや。元々あの姿でこうなったらがっかりだが、逆だからな」
「・・・・」
「すねてるのか？王妃」
ゆりは口を尖らせていたので、ハザークが聞いた。
「別にい」
「今ではお前の短めの足も好きだぞ」


それがほめ言葉になっていないっていうのよ。全く・・・


「本当だぞ。証明してやる」
ハザークがゆりの上に乗ってきたのでゆりはぎょっとした。
「え！もういいよ！」
「よくない。お前の今の姿にその気になるって事を証明してやる」
「いいってばー！！！」
ゆりが身をよじった。
「そうか、後ろからの方がいいのか」
「違ーう！」
結局、元の姿に戻って最初にハザークに抱かれてしまったゆりだった。



ゆりが元に戻り、ゆりの侍女らはちょっとがっかりしていたが、子供達はほっとした様子だった。

夕方、ラクシュミの休憩中に、ゆりは休憩室に行ってみた。
「王様」
「ああ、ゆり、すっかり元に戻ったな」
ラクシュミはちょっと微笑んで言った。
「がっかりしてない？」
ゆりはラクシュミの横に座って聞いた。
「いや、お前がずっとあの姿だとなんだか落ち着かないからな。こっちの方がいい」
ラクシュミはゆりの頭をなでている。
「お前は外見がこのくらいでちょうどいいのかもな・・・」
ラクシュミもほめてるのかけなしてるのかよく分からない言葉を言い、ゆりはちょっと首をかしげたのだった。



元の姿に戻ってから3日後、ゆりは女神姿になったのは夢だったかのような気もしていた。
男たちもゆりの姿を見て、ちょっと微妙な感じだったが、全体的にほっとしていたようだ。やはり極上美女が
ずっといると、皆落ち着かないらしい。一番ショックを受けたのは女神の服を作ろうと意気込んでいた仕立て屋
だった。服はせっかくだから作って店に飾ることにしたようだ。


その日の午後、蛇目のゆりは鼻歌を歌いながら庭でとぐろを巻いている大蛇の身体に乗っていた。

大蛇は抗議することもなくじっとしている。


女神姿もいいけど、やっぱりこっちの姿の方がいいよねー髪軽いし・・・


ぼんやりしていたら「王妃」と声が聞こえてきた。
「あ、シャナーン」
後ろを見るとシャナーンが立っていた。シャナーンはゆりの顔を見て微笑んだ。
すごくうれしそうだったので、ゆりも同じように微笑んだ。
「シャナーン今ちょっと時間ある？」
ゆりは立ち上がって聞いた。
「え。はい」
「じゃあちょっと来て」
ゆりはぱっとシャナーンの手を握り、移動した。移動した先は、ゆりの部屋の横の別室の方だった。
「王妃？」
「ふふ・・・ねえ、シャナーン、私のこと、時々かわいがってほしいな・・・」
ゆりはシャナーンの背中に両腕を回して言った。
シャナーンは目をぱちぱちさせている。
「いや？」
「いえ、ど、どうしたんですか？急に」
シャナーンの頬が赤くなってきた。
「シャナーンの事、前より好きになっちゃったんだもん。いいよね。もう大人になって数年経つし・・・
儀式だってしちゃったんだし・・・」
「王妃・・・肌に触れていいんですか？」
「いいよ。一杯触れていいよ」
「王妃・・・・」
シャナーンはゆりを抱きしめた。

「夢のようです。本当に・・・」



今回の事件では、両方のゆりの中で一途なシャナーンの評価がぐーんとあがり、かなりお気に入りの座に近づいた
シャナーンだった。



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