目覚めたらそこは神の国のガーベラの神殿だった。
わーい久しぶりに来ちゃった。遊んじゃおうっと。
ゆりは起き上がって寝室を出て、神殿の外に出た。どうやら夜明け前のようだった。まだ空は薄暗く、しばらく
すると、東の方からじょじょに明るくなってきた。太陽が昇るのだ。
すると、４頭のペガサスにひかれた黄金の馬車が空を駆けて行った。
うわーなんて素敵なんだろう・・・
ゆりはその美しい馬車に思わずみとれてしまっていた。見る見るうちに世界が光に包まれていく様を、
ゆりはしばらくじっと見ていたのだった。
第14話
久しぶりにやってきた神の国はやっぱり素敵だ。お花の一つ一つでさえ輝いている。どこからか女性達が
やってきて、髪をといてくれた。
そういえば、起きてそのままきちゃった。
ゆりは自分の服を見た。普段着てる服と変わらないような気もする。
女神ってのは夜用服とか着ないのかな？このままでも変じゃないよね。
そうだ。アマンザに会いに行ってみよう。前より大きくなってるかな？
えーと、ジンラを思い浮かべてと・・・
ガーベラは恋人達の側に飛ぶ事ができるという特技があるのだ。ゆりはジンラの顔を思い浮かべて、身体は
神殿の近くに移動した。ジンラの神殿のようだ。ちょうど中からジンラとアマンザがそろって外に出てきた。
ーおはよう。お母さん。
アマンザが挨拶してくれた。前とそんなに変わってない。
ーおはよーアマンザ。
ジンラはにっこり笑ってゆりの頬をなでて、頬にちゅっとキスしてくれた。
おはよう。王様そっくりの素敵な神様。
ーどこかいくの？
ーこれから農園をあちこち見に行くんだよ。
ーそうなんだ。行ってらっしゃい。
ー何か用だったの？
ーううん。顔見に来ただけだから。
ーそうなんだ。またね。
二人はこちらを見て去って行った。
ジンラともおしゃべりできたらいいのになあ・・・
ダーナに会いたいけど・・・どこにいるかわからないな。
これからどうしようかな。そうだ。ラクアに会いに行ってみよう。
ラクアラクア・・・
ラクアの顔を思い浮かべて念じてみると、また身体が移動していた。広い神殿の中だった。
どうやら空飛ぶ神殿の中のようだ。離れた所にラクアがいたが、他の男性と話をしていた。
うーん。どうやら忙しそう。邪魔しちゃ悪いなあ・・・
ラーズもいないみたいだし・・・
ゆりは行きかう神々に微笑みながら神殿を出た。神殿の外は白い雲だ。雲といっても固く、すっぽり
身体が落ちることはない。
今日はどうやって下に下りようかな。
外にいたらやっぱり男の人がにこにこしてペガサスを引いてやってきた。これでどうぞと言ってるようだ。
うーん。一人で乗る自信がないなあ・・・
誰か一緒に乗ってくれないかな？
周りを見ていたら一人の男が近づいてきた。
金色の短髪。精悍な顔立ちをした目つきの鋭い男だった。身体の輝きからいって神様だろう。
服装は上半身はゆったりした布をまとっていたが、下半身はズボンのようなものをはき、皮のベルトを
はめて一本の剣を差していた。
あ、この前ペガサスに乗せてくれた人だ。
ゆりは思い出した。ラクアのところに連れて行ってもらった神様だ。
ゆりは男の服を引っ張り、一緒に乗ってほしいとジェスチャーで訴えた。男はじっとこちらを見ている。
男はペガサスに乗り、身体を引っ張って乗せてくれた。ペガサスの翼が舞い上がり、ふわりと飛んだ。
何度乗ってもすごい。それにしても・・・なんて美しい動物なんだろう・・・
真っ白なたてがみ、白い大きな翼。どれをとっても美しい。
ゆりはやっぱり男の身体にしがみついていた。
こっちの神様って露出度高いなあ・・・まあ綺麗だからいいけど。
この神様は結構筋肉がついた体つきをしていた。男が口を開けて何か言っていたが、ゆりには意味はわからない。
ーどこに行きたいんだ？
心に声が聞こえてきてはっとした。
ーあなたもこうやってしゃべれるの？
ー・・・
ー別に行きたい所はないけど、暇だったらどこか楽しい所に連れて行ってくれないかな？
ゆりは微笑んで言ってみた。
男は無言。
ーあの・・・迷惑なら別にいいけど・・・
ーなぜ私に頼む？
ーえ？
ー・・・ちょうど行く所がある。お前も来るか？
ーどこ？
男はそれきり何も答えなかった。やがて、空から広い草原のような物が見えて、ゆりの目がきらきら
輝いた。柵に囲まれた場所に、白い馬やペガサスが一杯いたからだ。
ーわーすごい。かわいい！
ペガサスは下降して、地面に降りた。ゆりは男に下ろしてもらい、柵の中に入って行った。男はそのまま
どこかに行ってしまった。
すごーい。一杯。あ、この子まだ子供だ。
そこには大人になりきってないペガサスなどもいて、ゆりはいろんなペガサスをなでたりほおずりした。
普通の白馬もすごく綺麗だ。
ここって牧場みたいね。でも、柵はペガサスには関係ないと思うけど、飛んでいかないのかな？
それにしてもかわいいなあ。特に小さいペガサスかわゆい！！
ああ、子供らにも見せてあげたいなあ・・・
しばらく馬たちとたわむれていたら男が戻ってきた。ペガサスが男の側に顔を寄せて、男がペガサスの
顔をなでた。一瞬すごく優しそうな顔をしたような気がした。
ー素敵な場所ね。ありがとう。
ゆりはにこにこしてお礼を言った。
ー・・・
その時、側にオレンジっぽい長い髪をした美しい神が近づいてきて、ゆりは目を奪われた。
わーなんて綺麗な人。
ゆりは思わずみとれてしまった。
この人も神様に違いない。
「随分珍しい組み合わせだな」
やってきた神は太陽の神、アリアスだった。アリアスはガーベラ姿のゆりと男を見て言った。
ゆりには言葉は通じてない。
「ガーベラはハロルドのことを嫌ってると思っていたが・・・」
「うるさいな」
ゆりはアリアスの頭の周りに浮いているわっかを眺めていた。
「睨まなくてもいいだろう。」
ーじゃあな。ガーベラ。
アリアスはゆりの心に言葉を送り、去って行った。
ーあ、今話しかけられた。
ー・・・・ガーベラ・・・
ーなあに？
ー・・・いや、なんでもない。
ハロルドは横を向いた。ゆりは首をかしげて、顔を近づけてきたペガサスの頭をなでた。
ーガーベラ、よかったら私の神殿にこないか？
ハロルドが顔を向けて言った。
ーあなたの神殿？いいよ。
ゆりはあっさり言った。ゆりはペガサスが男にえらく懐いているので、すっかりいい人だと思っていた。
ー・・・そうか・・・なら来い。
ーうん。
ゆりは再び男とペガサスに乗り、神殿に連れて行ってもらった。男の神殿の中には、鎧が飾ってあったり、
綺麗な剣が飾ってあったりした。ゆりは珍しそうに部屋の中を眺めている。
ーガーベラ、酒飲むか？
ージンラのお酒？
ーああ
ーちょっとだけ。
ゆりは杯を受け取って椅子に座り、一口お酒を飲んだ。
ああおいしい。ジンラのお酒。
男の視線を感じてゆりは「なあに？」と聞いた。
ーいいや、なんでもない。
ー変な人。
ゆりは結局杯を一杯飲み干してしまった。すると、なんだかすごくいい気分になってきて、まぶたが重くなって
きた。ゆりはそのまま椅子の背もたれにもたれて、目を閉じた。杯が床に落ちた。
「変なのはお前だ。何でのこのこついてきたんだ？ガーベラ・・お前は私のこと嫌っていたはずなのに・・・」
ハロルドは眠ってしまった女神を見つめてつぶやいた。
目を覚ましたガーベラは、横に顔を向けて凍りついた。そこに自分の一番嫌いな男がいたからだ。
なんでハロルドが・・・・
ハロルドは寝そべったまま、じっとガーベラを見ていた。ガーベラはとっさに身体をベッドのはじまで移動
させて自分の肌に触れた。服は着ていた。
まさかあっちの時無理やり連れ込まれたんじゃ・・・
ー別に何もしてやしない。ただ顔を見ていただけだ。
ーハロルド・・・どういうつもり？
ー何がだ？
ーなんでここであなたと並んでるの？
ガーベラの瞳はきついものに変わっていた。
ーそんな顔をしないでくれ。ガーベラ。本当に何もしてない。
ー・・・・
ー眠らせたのは悪かったが・・・肌に触れてはいない。
ガーベラは横を向いた。
ー・・・私、帰る。
ーお前にはずっと謝りたかった。あの時の事。
ー今更？
ーお前は私の顔を見るなり逃げていただろう？話もできなかったじゃないか。
ー・・・
ー本当にずっと謝りたかったんだ。
ーもういいわ。ずっと過去の事だし・・・まあ未遂だったし・・・
それはガーベラが産まれて間もない頃の話だった。間もないとはいっても、ガーベラは大人のまま産まれてきた
のでその時も大人だった。ハロルドはその頃大人になったばかりで、その当時はかなり乱暴な性格だった。
欲しい物は何でも手に入れないと気がすまないような所があり、ガーベラを一目見て気に入ってしまった
ハロルドは、力づくで手に入れようとしたのだった。それは未遂に終わったものの、未遂ならばいいというものでも
なく、それ以来ガーベラはハロルドと口をきこうともしなかった。
ーガーベラ・・・
ハロルドがガーベラの手に触れようとして、ガーベラが手をよけた。
ーだからといって、あなたと親密になろうとは思ってないの。
ーさっきは私の身体にしがみついてきたじゃないか。
え？
ーさ、さっきはさっきよ！
ガーベラはむきになって言った。
ー大体あなたつい最近までダーナとひっついてたくせに。
ーずっとお前が好きだった。お前に愛されたい。
ハロルドはガーベラを見つめて言った。
ーそう言われても。
ーお前が私の恋人になれば、もうヒルデリアに睨まれることはなくなるぞ？お前の声が戻るように頼んでやる。
ガーベラははっとハロルドを見つめた。
ヒルデリアはかなりハロルドのことを可愛がっている。
確かに自分が可愛がっている息子の頼みならば、ヒルデリアも聞くかもしれない。
ハロルドはガーベラの頬に触れて、顔を寄せた。
ー私の恋人になってくれ。な、ガーベラ・・・
ハロルドはガーベラの唇を自らのそれで覆った。それは乱暴なものではなく、優しいものだったのでガーベラも少しはほっとした。
確かに前のような乱暴者ではないようだ。
ーそれで終わり。
ガーベラは唇を離した。
ー抱かれてくれないのか？
ー急にそこまではいけないわよ。とりあえずヒルデリアに頼んでよ。
ーその場合お前と私の仲の良い姿をヒルデリアに見せねばならないぞ。
ーえ？
ーただ恋人だといっても信じるかどうかわからないだろう。確かめにくるぞ。きっと。
ーえー
ーお前が私を愛してる姿を見せなきゃ声は戻してくれないぞ。
冗談じゃないわよ。何で私がそこまで・・・
ガーベラの顔は引きつっている。
ー私も、側でお前に歌を歌ってほしい・・・
ハロルドはガーベラを軽く抱きしめた。
ー少なくとも、私のことはもう嫌いじゃないな？
ーまあ嫌いじゃないけど・・・別に愛してるわけじゃ・・・
ーならこれからじょじょに愛してくれ。強引にはしないから。
あーあ。なんだか変な話になっちゃったなあ・・・あっちの子って、ハロルドみたいな男が好みなのかしら？
ガーベラは複雑な心境でハロルドに抱きしめられていた。
人間の世界では、夕方、休憩中のラクシュミの前に、ミカエルが座っていた。何か言いたそうな顔をしているが、
なかなか言おうとしない。
「なんだ？何かへまでもしたのか？」
「昨晩不思議な事があったんです」
ミカエルがラクシュミを見つめて言った。
「昨晩？」
「王妃がひょっこり寝室に現れたんです。」
「ゆりが？抱いたのか？」
「いえいえ」
ミカエルは横に手を振った。
「歌を聴いてほしいというので、ずっと歌を聴いてたんです。王妃はずっと横で楽しそうに歌を歌ってました」
「ほー」
「でも、さっき王妃に聞いたら、何寝ぼけてるの？って言われたんです」
ラクシュミはくっと笑った。
「本当に王妃だったんですよ。瞬間移動できるからおかしいなと思ったんですが・・・」
「何かが化けたんじゃないのか？」
「ええ！？」
ミカエルは両手で頬を挟んだ。
「まあよかったじゃないか。珍しい歌が聴けて」
「はあ・・・あの王妃はなんだったんでしょう。」
「さあなあ」
しばらく黙っていようと思い、ラクシュミは３人目のことはミカエルには内緒にしたのだった。
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