６の月の中ごろ、ゆりはハザークの部屋で竪琴を奏でていた。長いことやってるのにまだまだベテランの域には
達していないが、それでも、最初の頃とは比べ物にならないほど上達はしている。
曲が終わった後、ハザークは「すごいな」と言った。
「そんなに上手だった？」
ゆりが聞く。
「いや、子供が平気で眠ってるからすごいなと思って・・・」
「・・・」
ナナミはハザークのひざの上ですやすや眠っていた。
「それは竪琴が素晴らしかったから、気持ちよくて寝たんですよ」
「そうかな」
「そうですよ。すっかりパパの側が気に入っちゃって・・・」
「やっぱり男よりも女の子の方がかわいいな」
「ロイは悪さぱっかりしてますからね」
その時ハザークの侍女が部屋に入ってきた。
「雨があがりましたよ。空に虹がかかってましたよ」
「本当？見てみようっと」
ゆりは部屋の窓を開けて顔を出して虹を探した。すると右の方に大きな虹が半分ほどかかっている。
「綺麗」
その時ナナミが目をぱっちりあけたので、「虹が出てるぞ」とハザークが言った。
「にじ？」
ナナミは虹がどんな物か知らなかった。ゆりはナナミをだっこして右の方を見せた。
「ほら、あれが虹よ。いろんな色があってきれーでしょ」
「わー・・・・」
ナナミは目を大きく開けて虹を眺めていた。
第16話
その時見た虹が印象深かったのか、ナナミはしばらく虹虹言っていた。
「あれはね、雨が降った後じゃないと見れないのよ」
ゆりが言うと、ナナミは頬を膨らませて泣きそうな顔をしている。
うーん。虹作る方法ないかな。そうだ、ゴムホースで水をまけばできるかも・・・
そう思ったが、この世界でゴムホースを見た記憶はない。庭師が水やりしているのも桶の水をまいている
だけだった。
「滝ならば小さい虹がかかっているでしょうけど」
と侍女が言った。
「滝かあ。いいかもねえ。アナスターシャに今度連れて行ってもらう？」
ゆりがそういうと、ナナミはうれしそうな顔をした。
「滝？いいよー明日連れて行ってあげるよ」
夕食の時間、アナスターシャが言った。
「虹ってきれいだもんね。僕も好きだよ。空にかかっていたら、ついうれしくなっちゃうよね」
とシス。
「そうよね。虹を嫌いな人いないよね」
ゆりもしみじみ言いながら、派手な髪の神様を思い出していた。
優しそうな神様だったもんなあ・・・大きな虹がかかっている時は、人間界に降りてきてたりしてね。
そんなことを考えていたら、その夜、また神の国に移動したようだった。
目を開けて横を見たら、なんとラーズが寝ていたのでゆりはびっくり仰天した。
ひえええええ、もしかして、昨晩二人でいちゃいちゃしたのかな。
自分の体は裸だった。ラーズは横向きになって寝ている。かなり大きなベッドだった。ふかふかだ。
ゆりはそろそろとラーズの顔を眺めた。
翼がでかいから寝るのも大変だろうな。
ジーと見ていたら、腰に腕が回されてぎょっとした。ラーズが目を開けてこっちを見ている。
ぐいっと身体を引き寄せられてラーズが胸に顔を寄せてきた。
ぎょえ！
胸に舌をはわせながら足の間にも手を入れてきている。
わーだめだめ。
やっとの思いで体を離すと、ラーズは別に不機嫌になることもなく微笑んでいた。
昨晩はかなり大満足したに違いない。
二人は服を着て、ゆりは水を飲ませてもらってラーズと別れた。
神様はあんまりご飯らしき物は食べないようだ。たまに果物を食べたり酒を飲んだりする程度なのだろう。
あー、びっくりした。でもなんだか、変な気分になっちゃったよ。
ゆりは頬をなでながら爽やかな朝の日差しの中、ぶらぶら歩いていた。小さい小川が流れていたので
川を眺めながら歩いた。すると、小さい金色の魚が一杯いるのが見えた。
とても綺麗だったので、ゆりは思わず身をかがめてじっと眺めていた。
するとちょいちょい肩をたたかれた。見上げるとハロルドが立っている。ペガサスもいた。
ー何やってるんだ？
ー魚見ていたの。
ー髪が下についてるぞ。
ーあ
ゆりは立ち上がった。
ーハロルドはどうしたの？
ーちょうど通りがかったらお前が見えたんでな。お前も来るか？ペガサスの子供が昨日産まれたんだ。
ー行く！
ゆりはペガサスに乗せてもらい、ハロルドに抱きついた。
やっぱりこの人ハロルドなんだ。
ためしに呼んでみたら何も反応しなかったので、あってたのだろう。
ーガーベラ・・・さっきまで誰かといただろ。
ーえ？
ーお前すごくいい匂いがするぞ。誰といたんだ？
ー・・・ラーズ・・・
ーそうか・・・
ハロルドの瞳が微妙な色をしていたので、ゆりはちょっとどきりとした。
うーん。まさかあなた私の恋人？と聞くのも変だし・・・そういえば、この前お酒飲んでどうなったんだろ。
ペガサスはこの前の牧場で下りて、ゆりは小屋の中に連れて行かれた。そこに、産まれたばかりの小さな
ペガサスが二頭いて、ゆりは目を輝かせた。
ーきゃーすごくかわいい！
小さくてもちゃんと翼もあり、とことこ歩いている。
ーいやーん。かわいすぎるー！
母親らしきペガサスは、草の上に寝そべっていた。一頭がとことこ近づいてきて、ゆりは身をかがめて
ペガサスにほお擦りした。ハロルドは母親ペガサスの側に行き、よくやったなという感じでペガサスを
なでている。
かわいいなあ。ほんと、ああ、このまま向こうに連れて帰れたらなあ・・・やっぱまずいか。
しばらくして、二人は小屋の外に出た。ゆりはとっても幸せな気分だ。
ーガーベラ、ちょっとこっち来てくれ。
ーん？
ゆりはハロルドに手を引かれて違う建物へと連れて行かれた。小さい神殿のような感じだ。
休憩場のような感じらしい。
ー赤ちゃんかわいいね。ねえ、ハロルドって子供いたっけ？
ーそれは嫌味なのか？
ーえ？
ーまだ一人もいない。
ーそうだっけ・・ごめん・・・
ーお前に子供を産んでほしい。
ーえ？
奥の部屋へと連れて行かれて、部屋のベッドを見てゆりはぎょっとした。
ーあの・・・
ーお前が欲しい。ガーベラ
ハロルドが後ろから抱きしめて言った。
ーえ・・・あの・・今日はちょっと・・・
ーお前の肌に触れるだけでもいいから、お願いだ。ガーベラ。
ーでも・・・やられちゃいそうだからだめ。
ー昔とは違う。強引にはしない。肌に触れるだけだから、な。
懇願するように言われてしまい、ゆりは困ってしまった。
ど・・どうしよう・・・なんだか、逃げたらかわいそうな感じだし。
ー絶対抱かない？約束してくれる？
ーああ、約束する。今は抱かないからな。
ーじゃ・・・じゃあ・・・
ーガーベラ・・・
ハロルドはゆりの身体をベッドに乗せて、上に乗った。そして優しく口付けながら、肌にまとう衣を
脱がして行った。
ー美しい・・・ガーベラ・・・
ハロルドは優しく肌に触れて、キスを落として行った。ゆりはじっとしている。
この人って、見かけによらずすっごく優しい。
ハロルドは太ももにもキスしていた。指がそっと足をなでて、足の付け根に触れた。
ーガーベラ・・・お前はほんといい匂いだな・・・
ハロルドは女神の身体を抱きしめて、胸に優しくキスしながら足の間をまさぐってきた。
ああ・・・変な気持ちになっちゃう・・・
ー気持ちいいか？ガーベラ。
ーうん・・・
ーもっと気持ちよくしてやるな・・・
ハロルドは足を広げさせて、そこに顔をうずめた。
ーあ・・・・
ー愛してる・・・ガーベラ・・・
身体はびくびく反応していた。
ど、どうしよう・・・なんだか、この人が愛しくなってきた。
また変な衝動が・・・我慢しなきゃ・・・でも・・・
ーハ、ハロルド・・・
ーなんだ？
ーか、かわいそうだから・・・手でしてあげる。
ー手？
ーうん・・・服脱いで・・・
ー服を脱いだら、自分を抑える自信がないな・・・
ーじゃあやめる？
ー・・・
ハロルドは服を全部脱ぎ、ゆりの横に寝転がって抱き寄せた。
ゆりはハロルドの胸をなで、そっと下半身へと手を伸ばした。
ーもうすごくなってる・・・
ー仕方ないだろう。それは。
ハロルドはゆりに口付けて、足の間に指をはわせた。お互いの身体に触れあいながら、二人はしばらく
熱い口付けをかわしていた。やがてハロルドが達する感触があり、ゆりのおなかの上に液体が飛び散った。
ー気持ちよかった。ガーベラ。
ー私も・・・
ハロルドはいとおしげにキスして、おなかの上のものを指でぬぐい、ゆりの足の間に指を差し入れた。
ーあ・・・・
ーまあいいだろ。このくらいは・・・
ーう・・・うん・・・まあ・・・いいけど・・・
ハロルドはしばらく女神の身体を抱き寄せてじっとしていた。
うーん、なんか、おなかが変だな・・・
ゆりは自分のおなかに違和感を感じてふれてみた。
え？おなか、ちょっと膨らんでる。
ーハハハハ、ハロルド・・・お・・おなかが・・・
ーん？
ハロルドは身体を離してゆりのおなかを見た。そして目を見開いた。
ーどうしたんだ。それ。
ー私が聞きたいよ！
おなかはどんどん大きくなってきた。
ーえ・・・ええええ！どうなってんの！？
ー妊娠したのか？！
ー妊娠！？うそっ！
おなかはすっかり丸くなってしまい、二人が唖然としていると、何かがおなかから飛び出して、おなかは
元に戻ったのだった。シーツの上には子供が座っていた。
「私の子供だ！」
女の子は金髪のおかっぱ頭で、青い目をしていた。両手で小さな剣をもっている。
「私の子供だ。私の子供だ！」
ハロルドは大喜びで女の子を腕に抱いた。ゆりはただぽかーんとしている。
また子供産んじゃった。今度は交わってないのに・・・
この子もアマンザと同じ位の大きさだった。産まれたてのわりには大きい。
女の子はゆりに顔を向けて口を開けて舌を出した。ゆりがん？と舌を見た。舌の上に何か丸い物が
乗っている。
ーこれなに？
ーさあ、くれるというのならもらっておけ。
ーうん。
ゆりは舌の上の丸い物を取った。それは大きなビー玉のような物で、水晶のように透明だ。
ー空の神殿に行こう。
ハロルドは女の子をだっこしてそのまま出て行こうとした。
ーちょっと、服は？
ーあ、ああ、そうだ、お前も一緒に来い。
その頃、空の神殿では、ヒルデリアはかなりご機嫌斜めで、横の方で侍女らが困った顔をしていた。
そんな時、ハロルドがやってきた。
「ハロルド、アシュランを見なんだか？また神殿を出ていきおって・・・」
ヒルデリアはいらいらしながらハロルドに言った。
「ヒルデリア、ほら」
ハロルドは裸の女の子をヒルデリアの膝に乗せた。
「ん？誰の子じゃ？」
「誰の子って・・・ヒルデリア、しっかりしろ」
「・・・！！！」
ヒルデリアは女の子を見て、ハロルドの顔を見た。
「おお、まさか、まさか・・・」
「そうだ、ようやく子供ができたんだぞ」
「おお、なんとまあかわいらしい。そなたにそっくりではないか！」
ヒルデリアは女の子を腕に抱いてほおずりした。
「この子は癒しの女神。キュリアじゃ、この剣には癒しの効果があるようじゃ」
「キュリア・・・」
「何をしておる、祝いの鐘を鳴らさせよ」
ヒルデリアが横にいた侍女らに言い、侍女らがあわてて出て行った。
「可愛い服を着せてあげようねえ」
ヒルデリアはすっかりご機嫌になり、キュリアを抱いたまま横の部屋に行ってしまった。
実は、ハロルドの子供を一番欲しがっていたのがヒルデリアだった。アシュランが別の女に産ませたアリアス
の子供ができるたびに、苦い思いをし、早くハロルドにも子供が欲しいと思っていたのだ。自分と同じ力を
持った子供には、力を増す効果があるからだ。
それがようやくできたのだから、うれしくてたまらない。
祝いの鐘が盛大に鳴り響いた。
しばらくして、ヒルデリアが戻ってきた。キュリアは可愛い服を着せてもらっている。
「ところでヒルデリア、母親は誰だと思うんだ」
「ん？ダーナか？」
「違う。ガーベラだ」
「ガーベラ？そなたらいつの間にそういう仲になったのじゃ」
「まあ、それはいいとして、私の子供を産んでくれたんだ。ガーベラを元に戻してくれ」
「良いとも。ガーベラをここに連れておいで」
ハロルドは外で待っていたガーベラを中に連れて行った。
ヒルデリアはガーベラの前に立って、すっと手を上にあげた。
「これで元に戻った」
ゆりはヒルデリアの声が理解できた。
「声がでる！」
ゆりがうれしそうに言うと、ヒルデリアは満面の笑みで言った。
「よくやってくれたねえ。ガーベラ。本当に。おほほほほ」
「声が出るわ。」
「よかったな。ガーベラ」
ハロルドの声は低い声だった。
ヒルデリアは本当にうれしそうにキュリアをだっこしていたので、ハロルドはそのままキュリアを残して
ガーベラと神殿を出て行った。
「あの子名前は？」
「癒しの女神、キュリアだ」
「キュリア・・・ねえ。神殿に送って。これなくさない内に持っていきたいから」
「いいぞ」
ゆりはハロルドにペガサスで送ってもらい、ガーベラの神殿に戻ってきた。中にクーリーフンがいた。
「クーリーフン、私子供産んだんだよー」
「え！あれ？声が！」
「元に戻ったのー」
「よかったねー」
クーリーフンもにこにこだ。二人は両手をつないでくるくる回った。
「誰の子供産んだの？」
「ハロルドよ」
「見にいこうっと」
「あ、待って、これ、その子がくれたの。どこかに置いておきたいんだけど、どこがいい？」
ゆりは丸い玉を見せた。
「うーん。ここの引き出しでいいんじゃない？」
クーリーフンは棚の引き出しを開けて、白い小さいふわりとした物を置き、その上に玉を置いた。
「もし私が忘れたら、教えてね」
「うん。じゃあ子供見てくるね」
「ヒルデリアのところよ」
「わかったー」
クーリーフンは飛んで行き、ゆりはそのまま寝室に行き、寝転んだ。
神の国に帰ってきたガーベラは、そのまま眠ってしまい、気づくと夕方になっていた。
寝室を出て行くと、クーリーフンとアマンザがいた。
「お母さん、キュリア見たよ。かわいかった」
「キュリア？」
ガーベラは自分の声にはっとした。
「あれ？私声が・・・」
「戻してもらったんじゃないか。」
「え？なんで？なにがあったっけ？」
「お母さんったら、ハロルドの子供産んだんでヒルデリアが元に戻してくれたんだよ」
「ええー！？」
いつの間にそんな展開に・・・
「これでようやくお母さんの歌が聴けるね」
アマンザが言った。
「声が戻った！声が戻った〜！子供に会ってくる！」
ガーベラはあわてて神殿を出て行った。
「ねえ、お母さんって、時々おかしいよね」
アマンザが言った。
「ん？そうかな？ラーズはお母さんの面白いところが魅力って言ってるけど」
「そういう意味で言ったんじゃないんだけどなあ・・・時々別ーうぷっ」
クーリーフンがアマンザの口を手でふさいだ。
「そーれは言っちゃだめ」
「ふーん。まあいいけど」
アマンザはあまり気にしてないようだ。
「お母さんの子供が増えてうれしいなあ」
「そうだね」
二人はニコニコ微笑んだ。
ガーベラは、恋人となったハロルドの元に移動した。ハロルドは神殿の中でキュリアを寝かせて横に
寝そべっていた。
「ガーベラ・・・」
「うふ。かわいいわね」
ガーベラはすやすや眠っている女の子を眺めた。
「ヒルデリアも大喜びでしょうね」
「ああ、当分は雷は落ちないだろうな」
「・・・・ねえ、違うベッド行かない？」
「ああ、行きたいな」
二人は眠っているキュリアを置いて、違うベッドに行き、仲良く抱き合った。
「ああ、これでようやくお前が抱けた・・・」
ハロルドが快感に打ち震えて言った。
「え？」
ガーベラは、すっかり向こうの時にそういう仲になったと思い込んでいた。
「子供、どうやってできたっけ？」
「交わってないのにできただろ？」
ガーベラは首をかしげたが、まあ、神の子供というものは、二人が交わってできるとも限らないので、
あんまり気にしないことにした。
「もう一度」
ハロルドがガーベラの足を持ち上げた。
「待って、それよりもせっかくだから歌を聴いてよ」
「ああ、いいぞ。抱いてるから歌ってくれ」
「え」
ハロルドは深く交わり、腰を動かした。
「こんなんで歌えないわよ！」
「今はお前のあえぎ声が聞きたい」
「もう・・・」
それからしばらく、ガーベラはうれしさのあまり歌いまくった。ガーベラの声が戻ったので、妖精達も
大喜びだ。
ああ、思いっきり歌うって気持ちいい！あの子には何か御礼しなくっちゃね。
ガーベラはしばらくご機嫌だった。
ハロルドの子供が産まれたおかげで、アシュランはキュリアをヒルデリアの元に連れて行っては出かけるように
なった。ヒルデリアも多少の事で雷を落とすことがなくなり、アシュランにとっても、他の神や妖精にとっても
キュリアはありがたい存在になったのだった。
すすむ