部屋の扉がとんとんとノックされて、竪琴の練習をしていたゆりは、侍女がいなかったので自分で扉を開けて、
そのままばたりと閉めた。
「なんで閉めるんです」
真横にハインリヒが立っていた。
「閉めてもいっつも勝手に入ってくるじゃんよ」
「王妃が最近私を避ける」
ハインリヒは不服そうにゆりを見ている。
「だってー皆顔見るとなんか変な気分になるんだもん」
「いいじゃないですか。別に」
ハインリヒは後ろからゆりを抱きしめた。
「もー男と引っ付きすぎて最近やなの。」
「私は５日前にひっついただけですよ」
５日経っても、10日経っても、ゆりの目はきらきらで肌も輝いていた。それはそれでうれしいが、ラクシュミ以外に
迫られまくるのもあんまりうれしくない。
「今年も子供ができなくて落ち込んでるんです。慰めてください」
「全然落ち込んでるようには見えないよ」
「とにかくあっち行きましょうね。王妃」
ゆりはやっぱり問答無用で別室に連れて行かれたのだった。
第18話
「もー」
ハインリヒは素早くゆりの上半身だけ裸にしていた。
このおっぱい好きめ・・・
「あれ？変わったんですか？」
ゆりの左目は蛇の目に変わっていた。
「引っ込んじゃった。最近皆に迫られるからねー」
蛇の目もきらきらだった。
「私はいいですよ。どっちの王妃でも」
ハインリヒの手はゆりの胸の感触を楽しむかのように動いている。
「私はよくないわよーだ。ハインリヒって絶対口でさせるし」
「いいじゃないですか。」
「しかもあっちの時より激しいし・・・」
「激しいの好きじゃないですか。ね、王妃」
ハインリヒが目を細めて言った。
やだやだ、自分の魅力を分かってる男って・・・
昔は女の言いなりになってたなんて全然想像できない。
「ねえ、女の子達子供できなくてがっかりしてた？」
ゆりはちょっとその気をそらすように言った。
「いいえ、来年もがんばりましょうねって言ってますよ。王妃なら簡単に孕んじゃいそうなのになあ」
べーとゆりは舌を出した。
今年のゆりの恋人達の妊娠状況はというと、ミルキダスがキャシーを妊娠させただけだった。
念願のダブル妊娠は無理だったようだ。皆それぞれがんばってたようだが、やはり妊娠率はそんなに高くはない
のでそう次から次へと子供もできない。ヴィラは子供にやいのやいの言われて参ってるようだ。
ま、生きてさえいれば、その内またそういう事もあるよね。
「王妃、ぼんやりしないでください」
「はーい」
ゆりは低い声で言い、ハインリヒはゆりに口付けた。
６の月の２０日、毎年恒例になったバラク大会が城の広間で開かれていた。ラギは今年で11歳になる。
勉強は大好きだが、やっぱりバラクも大好きなようだ。アナスターシャとシスもバラクをやるようには
なっていたが、ラギには全然かなわないので大蛇とやったり二人でやったりしている。
「いやーラギ様の頭の中はどうなってるんですかねー」
あっさりラギに負けてしまったハインリヒがゆりの元にやってきた。
「とても王妃の血を受けてるとは思えないな。」
「何か言った？」
ぼそっと言った言葉にゆりはすかさず反応した。
「王妃に似てかわいいって言ったんですよ」
ハインリヒが微笑んで言う。
「ねえ、ハインリヒ私とやってよ」
「いいですよ」
アナスターシャがいい、ハインリヒはアナスターシャとバラクをやり始めた。
確かに、ラギの頭の中はどうなってるのかねえ・・・
ゆりはうれしそうに大人達とバラクをしているラギを眺めて思った。
私があの頃って何してたかな？遊びほうけてたような気がするなあ・・・
付き合ってる周りが大人ばっかりだからああなっちゃったのかな。もっと子供に混じって遊ばせて
あげたかったけど。
兄弟がいるからまだましなのかな。
ちょっと瞬間移動ができるようになったラギだったが、そんなにびゅんびゅん飛びまくったりはできないようだ。
それでも城の中の部屋を行ったりきたりくらいはできるようになっていた。最近は結界の外に行くにも
アナスターシャやシスがさっと連れて行ってくれるので、全然不便もしてないようだ。
夕方になると人数も増えて、キース将軍もやってきたりしてバラク大会もかなり盛り上がった。
夕食の時間、ラクシュミがラギに「何人に負けたんだ？」と聞いた。
「３人です」
ラギがうれしそうに答えた。
「そうか、そりゃすごいな」
参加者は30人以上いたのだから３人に負けただけならすごい方だろう。負けた相手はキース将軍と
後二人は研究所の職員、学校の教師だった。
「子供らもどんどん大きくなっていくねえ」
夜、ベッドの上でゆりはしみじみとラクシュミに言った。
「そうだな・・・」
「私の世界ではね、２０歳で大人になっちゃうから、アナスターシャがまだ大人になるまで３０年以上あるっての
が信じられないよ」
「お前はこっち来た時まだ子供だったな」
「あれでも大人だったんだよ」
「だから男に手出されなかったんだな」
「・・・」
まあもう昔の話だからいいけどー
子供らは変わっていくのに自分はあんまり変わらないから変な感じ。子供らもそんなにすごい変化はないけど・・・
１７歳になったアナスターシャだが、未だ胸の膨らみは全然ないし、シスもどっからみても可愛い女の子だ。
ラギも口を開くと可愛くないが見た目はまだまだ幼い。
そういえばアマンザはどうなったかな。あれから大きくなったのかな？
この前産んだキュリアも気になるし・・・
神の国、ちょっとでものぞく事ができればいいのになあ・・・
そんなことを思いながら眠りにつくと、きらきらと光が降り注ぐ森の中にいた。見ると女神姿だ。
やったあ、アマンザに会いに行こうっと。
ゆりはご機嫌で森の中を歩いて行き、ジンラのところまでひとっとぴした。
ジンラは農園の葡萄を眺めていた。
「ジンラ」
ゆりが近づいていくと、
「ガーベラ」
ジンラが微笑んで言ってくれた。
おおー初ジンラの声だー！！
王様よりちょっと低いかな。でもこれはこれで素敵。
「ジンラ、もっとしゃべって」
「ん？何をだ？」
「なんでもいいから」
「？？」
ジンラに首をかしげられてしまった。
「あーえーと、アマンザはどこかしら」
「アマンザならあっちにいるぞ」
ジンラが農園の反対側を指したので、ゆりはそっちに行ってみた。
しかしここの葡萄ってきらきらしてほんと綺麗よねー。宝石みたい。
紫に緑色、ちょっと赤っぽい葡萄まで、いろんな色の葡萄の房が下がっている。
葡萄農園の外で、アマンザは土みたいな物をスコップでこねていた。
「アマンザ」
「あ、お母さん」
「何してるの？」
「肥料作ってるんだよ」
アマンザはスコップを置いた。
「ちょうどよかった。僕お母さんに用があったんだ」
「なあに？」
「ちょっとこっち来て」
「うん」
アマンザはゆりの手を引いていき、神殿よりは小さい建物の中に入って行った。
「そこ座って」
椅子を示されたのでゆりは椅子に腰掛けた。
「ちょっとじっとしててね」
「うん」
ゆりがそのままじっとしてると、アマンザが顔を寄せてきて、唇を合わせてきた。
え・・・私息子に何されてるの？
ゆりはあまりの事だったのでそのまま硬直してしまった。
これって、お母さん大好き、とかいう愛情表現なのかな。
そうだよね。そうじゃなきゃおかしいし・・・
でも・・・なんか舌入れてきてんだけど・・・
アマンザは小さい舌をからめてきたので、ゆりはますます固まっていた。
息子とこんな事していいのかなあ。
神々の近親相姦の概念は一体？？？
ゆりがどうしようかと困惑していると、アマンザはゆりから離れて頭を押さえた。
「え、ど、どうしたの？」
「いたたたたた」
「アマンザ！？」
するとアマンザの姿がみるみる大きくなり、ゆりはびっくり仰天した。
アマンザは頭を振るって自分の手足を見た。
「あ、結構大きくなったかな？」
声質もちょっと変わり、背はかなり高くなり全体的に成長している。
ゆりはぽかんと口を開けたままだった。
「お母さん大丈夫？」
アマンザがゆりの顔を覗き込んで聞いた。
「な、なんで？なんで？」
ゆりはアマンザを指さしている。
「早く大きくなりたかったんでさ、お母さんの力借りたんだよ」
「私の力？」
「うん。クーリーフンに聞いたんだ。お母さんに性欲を感じると成長早める効果あるんだって」
「はあー・・・」
ゆりは立ち上がってアマンザと並んでみた。
今までは見下ろしていたのに、今ではそんなに変わらない。それでも大人までは成長してない。
成人まで数年ある少年といった感じだ。
「びっくりしたー」
「ちょっと服きついから着替えてくるね」
アマンザは部屋を出て行った。
「ほんとびっくりしたー・・・神の世界って摩訶不思議ねえ」
しばらくすると、服を着替えたアマンザが戻ってきた。紫っぽい髪と同じような服を着ている。
ゆりはじろじろアマンザを眺めていた。一気に大きくなっちゃったのが信じられない。
「ねえ、アマンザって、もしかしてその内ジンラみたいになっちゃうの？」
「ならないよ。親と同じ力を持つ神は、親以上にはならないんだよ」
「そうなの」
「常識だよ」
紫の瞳で見つめられて、ゆりは「そうだった。常識よね」とはぐらかした。
「私キュリアに会ってこようっと。アマンザ、キュリア見た？」
「見たよ。かわいいね」
「ハロルドの神殿にいるかな？」
「多分ね。空の神殿かもね。しょっちゅう遊びに行ってるらしいから」
「ふーん・・・ねえ、ハロルドの所瞬間移動するとして、もしハロルドがペガサスで移動中だったら、
私どうなるのかな？」
ゆりは真面目に考えてしまった。
「地上に移動するんじゃない？まさか宙にぱっとは行かないと思うけど」
「本当？」
「多分」
「ちょっと行ってみようかな」
まさか神様が空から落ちて死亡なんてことにはならないだろう。
「いってらっしゃい。またね」
「うん」
ゆりはハロルドの顔を思い浮かべた。
その少し前、ハロルドは空の神殿でキュリアをだっこしてアシュランの所に来ていた。
ヒルデリアの所に遊びに行った帰りだ。アシュランとヒルデリアの謁見の間は別になっている。
「お前もすっかりお父さんの顔になったな」
アシュランは笑って言った。
「ご機嫌だな。女の所に行くたびにキュリアを利用してるそうじゃないか」
ハロルドが横目で言う。
「ん？何の事だ？」
「全く・・・」
その時太陽の神アリアスが部屋に入ってきた。
「おや、その子が噂の子か、かわいいじゃないか、どれ」
アリアスは女の子に目を留めて、ハロルドに近づいて両手を出した。ハロルドはそのままじっとしている。
「こら、抱かせろ」
「嫌だ」
「なんでだ」
「キュリア、大人になっても絶対この男には近づいちゃだめだぞ」
ハロルドはアリアスを睨んで言っていた。キュリアはきょとんとしている。
「子供に何教えてるんだ。失礼な」
「そういう事は今から教えておかないとな」
「私よりもアシュランの方がやばいじゃないか」
「おい、本人を目の前にして何言ってる」
とアシュラン。
「あ、かあたま」
キュリアがかわいい声で言った。
「ん？」
その時ゆりが部屋に移動してきたのだった。
ゆりは部屋の中を見るなりぎょっと後ずさった。中にいた３人の男は皆自分を見ている。
奥に座っている神を見るのは初めてだった。豪華な金色の椅子に座ったその神は、ラギ的に言うと全身
金ぴかで、しかも後光が差していた。思わず拝みたくなるくらいだ。
もしかしてこの方が一番えらい神様かな？
アシュラン？
な・・・なんだかすごいとこきちゃった・・・どうしよう・・・
ゆりはきょろきょろと落ち着きなく３人の顔を見ている。
「どうしたんだ？ガーベラ」
ハロルドが聞いた。
「かあたま」
キュリアが呼んでいたので、ゆりはハロルドに近づいてキュリアをだっこした。
「あの・・・お邪魔してごめんなさい。それじゃ私・・・」
キュリアを返そうとしたら、キュリアは服を握り締めて離れそうになかった。
「ガーベラ、ちょっとこっちに来い」
奥にいた男が呼んだ。逆らっちゃまずいような気がしたので、ゆりはそろそろとアシュランによって行った。
ゆりはアシュランにギリシャ神話のゼウスをイメージしていたのだが、アシュランは想像していたよりも
若々しく見えた。
金色の髪は肩につく程度。とにかく輝きまくっているので良く見えないが、かなりの美男子には違いない。
「ガーベラ、お前少し変だな」
アシュランに見つめて言われてゆりはどきりとした。金色の瞳はどんな嘘も見抜いてしまいそうだ。
ど・・・どうしよう・・・もしかしてばれたのかも・・・
アシュランが立ち上がり近づいてきたのでゆりの緊張は一気に高まった。
手が伸びてくる。
殺されたらどうしよう！
目をぎゅっと閉じていると、アシュランはゆりの前髪をちょいちょいとつついた。
「これでよしと、前髪がちょっと乱れていたぞ。だめじゃないか」
「え？」
「うーん、今日も美しい」
頬をなでられてゆりは唖然とした。
「こら、理由をつけてガーベラに触るんじゃない。いくぞ、ガーベラ」
ハロルドがむっとしていい、ゆりを連れて出て行った。
よかった。かなりびびっちゃったよ。
ゆりはほっと胸をなでおろした。
「かあたま。どしたの？」
キュリアがじっと見上げて聞いた。
「ううん。なんでもないよ」
ゆりは明るく言って、キュリアを抱いたままハロルドにペガサスに乗せてもらい、ハロルドの神殿に
連れて行ってもらった。西の空は赤みがかっていた。もうすぐ日が暮れる。
キュリアは神殿に来るとゆりの腕から下りてとことこ歩いて行った。
「キュリアっておとなしい子ね」
「ん？そうだな」
「じゃあ神殿まで送って」
「ゆっくりしていけばいいだろう。明日の朝まで」
「え」
ハロルドは強引にゆりの腕を引いていった。
ど、どうしよう・・・この前はあれですんだけど、もうあれじゃすまないかも。
ゆりはやばいと思いつつ、なんとか逃げる方法を考えた。
「あ、あのハロルド、今日はだめなの」
「なんでだ？」
「その・・・」
「誰かと約束したのか？」
「実はそう」
「誰だ？」
ハロルドは真面目な瞳でゆりをじっと見ている。目つきが鋭いのでちょっと怖い。
「えーと・・・クーリーフン。今夜はクーリーフンに添い寝してあげる約束した」
ハロルドの目が点になっていた。
「クーリーフンは未だにお前と寝てるのか？」
「別にいいでしょ。私の子供だし、ほら、ちっちゃくなった時に寝てるの」
「・・・・」
ゆりのにこやかな説明に、ハロルドは明らかに怪しんでいる。
「さては、お前新しい男でもできたんじゃないのか？」
「え？違うよ」
「ならいいだろ。今夜は私と過ごしてくれ」
「だめ。また今度ね」
「・・・」
「ハロルド、目怖いよ。その、抱かないならいてもいいけど・・・」
「抱かないなら？なんでだ？」
「いろいろ事情があるの。」
「・・・まあいいぞ。」
「ほんと？」
「ああ。だからもうちょっといろ」
「いいよ」
違う部屋に行くと、キュリアがちょこんと座って侍女っぽい女の人に果物を食べさせてもらっていた。
「かあたまも食べよ」
「うん」
ゆりはキュリアの横に座って一緒に果物を食べた。
この子って目元はガーベラに似てるなあ。よかった。ハロルドに似なくて。ハロルドに似たら絶対
目つき悪くなってたよ。
「おいしいね」というと、キュリアはにこっと笑った。しばらくすると、キュリアは眠りに奥の寝室へと
行ってしまった。
「じゃあ私も寝ようかな」
それで向こうにかえろうっと
「その前にお酒飲まないか？」
「お酒？じゃあちょっとだけ」
ハロルドはにこやかにゆりに酒を注いだ杯を渡し、それを飲んだゆりは再びぐうと寝込んでしまった。
ハロルドはにっと笑ってそのままガーベラの身体を奥の部屋に運んで行った。
ん・・・つ・・・冷たい・・・何かが肌に・・・落ちてる？水？
肌に液体が落ちてくる感触があり、ゆりは目を開けた。
部屋の中は暗いが、自分の肌の輝きで見渡せた。
「え・・・ここ・・・」
「目が覚めたか？ガーベラ」
「ハロルド？」
まだ神の国！
「何やってるの？」
どうやら裸のようだった。しかも、胸の辺りの色が変わってる。
血かと思ってゆりはぎょっと身体を起こした。
「ああ、起きるとこぼれるじゃないか」
「な、何これ」
胸から液体が下に流れている。
「酒だ」
「酒？」
そういわれればお酒の匂いがした。ハロルドは横で酒瓶をもっている。
「酒を飲んでたんだ。こうやって」
そういうと、ハロルドはゆりの腰に手を回して胸をぺろりとなめた。
思わずひゃっとゆりが身体を揺らした。
「だ、だめじゃない。勝手に裸にしたら」
「でも抱いてないぞ。約束したからな」
「抱かなきゃいいってもんじゃ・・・うひゃ！」
肌にお酒が注がれて、そのひんやりした感触にゆりは再び身体を揺らした。
「ほら、酒がもったいないから寝転べ」
「ハロルドって変な趣味あるの？」
そう聞いたものの、自分も儀式では結構こういうことした気がする。
「変じゃないと思うがなあ」
軽く身体を指でつかれて、ゆりはシーツの上に寝転んだ。ハロルドは舌でお酒をなめとっている。
ああ、何か儀式の事思い出しちゃう・・って、それよりも、私そろそろあっちで起きる時間じゃないのかな。
やだよ。このままハロルド向こうに連れて行くのは。絶対やだー！！！考えただけで恐ろしい。
「ハロルド、おねんねしよ」
ゆりは命一杯かわいらしく言った。
「おねんね？」
「ね、ね。ねーお願い」
「・・・しょうがないな」
ハロルドは酒瓶をベッドの横の棚においてゆりを抱きしめた。
「だめだめ私に触れちゃ。ちょっと離れて」
ゆりはハロルドの身体を押しのけていった。
「なんでだ」
「二人の愛には時に距離も必要なの。だからちょっと離れて寝て！」
「お前は時々わけがわからんな」
「じゃあおやすみなさーい」
ゆりはベッドの端ぎりぎりで目を閉じた。
つかみ所の無い女だなあ・・・
仕方なくハロルドは離れて寝たのだった。ハロルドとしては強引にしたい気はあったのだが、以前それで
長い間嫌われていたので、再び嫌われるのも怖くてできなかった。
ゆりは向こうに帰り、眠っていたガーベラが目を覚ました。そして横を見た。
あ。ハロルドといる。あの子ってハロルドが一番好きなのかしら。
眠ってる間何したんだろう。ちょっとどきどき。
ハロルドと激しく抱き合ったのかしら。強引に誘われちゃったのかな。それとも、こっちが誘っちゃった
とか？？？一番好みはジンラかと思ったのになあ・・・
ガーベラは、自分が知らない間何をしてるのか分からないという事に妙なスリルを覚えてしまい、
ゆりと波長が合えば身体を提供することにしたのだった。たまに子供も産んでくれるし、そんなに長い間じゃない
からいいやと思ったのだ。そこはお気楽な性格だ。
なんだかお酒の匂いがするなあ・・・一体何したのかしら・・・
ハロルドに聞いてみたかったが、さすがに聞けずに、ガーベラはもんもんとしたまま寝そべっていたのだった。
一方、ゆりはハロルドを連れてこなかったのでほっと胸をなでおろしていた。横を見るとラクシュミが寝ている。
あーよかった。危ない所だったー。はー・・・・
これから気をつけなくちゃ。
「酒の匂いがする」
ふいにラクシュミの声がしてゆりはどきりとした。
「さ・・・酒？」
ゆりはくんくん匂いをかいだ。ラクシュミが体を寄せてゆりの匂いをかいだ。
「お前からするぞ」
「え？なんで？私お酒なんて昨日飲んでないし・・・」
だがそういわれれば、自分から酒の匂いがしないでもない。
え・・・もしかして・・・お酒の匂いひっついてきたとか？そんなばかな・・・
ラクシュミがじーっとゆりを見つめていた。
「な、なあに？王様」
ゆりの顔は引きつっている。
「なんでいきなり酒の匂いがするんだ？」
「さあ」
「なんでだ？」
「その・・・神の世界でお酒こぼしちゃったから、かな？」
ゆりがかわいらしく言うと、ラクシュミは微笑んだ。
「ゆり・・・だめだぞ。神様に変な事教えたら」
「え・・・・・えええー！？誤解だよ！私何も変な事してないよ」
「そういう事は、ここの男だけにとどめておかないとだめだぞ」
「誤解だよー！！！」
ゆりは心底必死に訴えたが、ラクシュミは誤解したまま寝室を出て行ってしまった。
「ひどいよー私がやらせたみたいじゃん。ぐすん」
でもここはちゃんと言っておかないと。まるで私が神の国で怪しい事ばっかりしてるみたいじゃん。
いや、たまにしてるけど・・・でも神様とやりまくってると思われるのもやだし・・・
「王様〜本当に誤解なんだからねー」
ゆりは王の間に行っても言っていた。
「何が誤解なんですか？」
その時偶然現れたミカエルがゆりに聞いた。
「なんでもないわよ。話に入ってこないで！」
「ゆりが神の国から酒の匂いをぷんぷんさせて帰ってきたんだ。口からじゃなく肌から」
ラクシュミがミカエルに言った。
「え・・・神様とそんなことしたんですか？私もしたいな」
「うるさい！誤解だって言ってるでしょ！」
その日は一日ラクシュミに誤解誤解といい続けたゆりだった。
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