ある日の夕方、神の国では、酒の神ジンラが自分の神殿で酒を飲んでいる所だった。薄紫色の布がかけられた
四角いテーブルの上には５本ほどの酒の瓶が並び、杯にそれぞれの酒が注がれていた。
ジンラはそれぞれの色や匂いを確かめつつ、酒の味見をしている。
お酒というものはこの世に必ずなくてはならないものではないが、もしこの世に酒がなかったら、神も人々も
楽しみの何分の１かを失ってしまうことになるだろう。その意味ではジンラは楽しみを与える神といえるのかも
しれない。最も過ぎた酒は毒にもなりかねないのだが。
ジンラが酒を飲んでいる所へアマンザが入ってきた。
「お父さん」
「お前はこの中ではどれが一番好きだ？」
ジンラがアマンザに聞いた。
「僕はどれも好きだよ。でも一番これがいいかな」
と右から３番目を指指した。
「色も一番綺麗だし」
「そうだなあ・・・」
「あのね、お父さん、さっき風の妖精達に聞いたんだけど、アリアス様が最近クーリーフンを追いかけてるらしいよ」
アマンザがジンラの向い側に腰を下ろして言った。
「・・・・え？」
ジンラは間を置いて聞いた。考えるまでに時間がかかったようだ。
「アリアスが？あいつ男色の趣味があったのか？」
「それは知らないけど、クーリーフンがもっと大きくなってかなり美しくなっちゃったらしくてさ、僕まだ
会ってないんだけど・・・会ったらどうやって忠告したものかなあ・・・」
アマンザは真面目に悩んでいた。
「・・・」
神々の間で同性愛者というのは、まあいるかもしれないが、ジンラにはそういう趣味がないので、そういう
気持ちは良く分からない。
「まあ、男同士で間違いもないだろう」
「そうですかねえ」
「え。何かあるのか。男同士で・・・」
「さあ、僕にもよくわかりませんよ」
アマンザは頬を赤らめて言った。
その時当の噂の主クーリーフンが部屋に入ってきたのだった。
「ジンラーお酒ちょうだい」
「・・・・」
ジンラもアマンザも口を開けていた。
「どうしたの？」
「随分大人になったな・・・」
「うん。そうみたい」
これは・・・確かにやばいな・・・どうにも美しすぎる・・・一瞬ガーベラが胸はだけて現れたかと
思った・・・
アリアスの気持ちは分からんでもないな、とジンラは思った。
「どうしてもっと大きくなったの？」
アマンザが聞いた。
「なりゆきかなあ。まあ僕はどうでもいいんだけど」
クーリーフンはテーブルに置いてあった杯を一つとってごくごく飲んだ。
「お父さん。さっきの・・・」
アマンザが小声でジンラにささやいた。
「え。私が聞くのか？」
「聞いてくださいよ・・」
「・・・クーリーフン、最近アリアスと仲いいのか？」
ジンラは仕方なく聞いた。
「ん？そうかな？たまに神殿に誘われるけど」
「そ・・そうか。気をつけるんだぞ」
「何を？」
「何をって・・・その・・・あの・・・」
どう言っていいやらわからん。
クーリーフンは見た目は変わっているが、中身は全く同じようだった。
「ジンラ、このお酒ちょうだい」
クーリーフンは空になった杯を見せて言った。
「ああ、アマンザ出してやれ。私はちょっとラーズの所に行ってくる」
こうなったらラーズに忠告させようとジンラは思いたった。
「わかりました。おいで、クーリーフン」
「うん」
二人は部屋を出て行き、ジンラも出て行った。
第21話
ジンラはラーズの神殿を訪れていた。移動手段は瞬間移動と同じ方法だ。神々の能力も様々で、
どこにでも瞬間移動できる者もいれば、ガーベラのように恋人の元にだけ移動できる者、そういう道具を
身につけているもの、様々だ。
「ラーズ」
「おお、ジンラどうしたんだ？」
ラーズは部屋の中にいた。ジンラが酒瓶を二本渡すと、ラーズはうれしそうに「ありがとう」と言った。
二人は共にガーベラの恋人ではあるが、お互いに出会えば笑って話をする程度の仲だ。ガーベラを取り合って
喧嘩したこともない。神々にも嫉妬という感情はあるのだが、女神の性質上かダーナもガーベラも、男に嫉妬
という感情を起こさせないような所があるようだった。
「クーリーフンのことなんだがな、アリアスが狙ってるらしいじゃないか」
ジンラは腰を下ろして言った。
「ああ、噂を聞いたぞ。そうらしいな」
ラーズははははと笑っている。
「笑ってていいのか？クーリーフンは全然分かってないから心配だ」
「大丈夫だろう。そこまでばかじゃない」
ラーズは気に留めていないようだった。
「そうか？ガーベラはなんていってるんだ？」
「笑ってたぞ。しょっちゅうアリアスに言い寄られるからちょっといい気味とか言ってたな」
「・・・ガーベラ・・・」
ジンラは軽く眉間を押さえた。
「まあ大丈夫大丈夫」
「ならいいがな・・・」
「ジンラ、優しいな・・・」
ラーズが目を細めていい、ジンラは「気持ち悪い」と眉をひそめた。
ああ、なんてこと・・・もっと大きくなっても私に全然その気にならないなんて・・・・
その日、ダーナはクーリーフンを誘って見晴らしのいい丘に座っていた。
クーリーフンはにこにこしているが、別にダーナに愛情を感じてにこにこしてるわけでもないようだ。
悔しい。でも、美しいわ。目の保養になるわー
ダーナもにこにこしながらクーリーフンを見つめていた。前よりも美しくなったのはとってもうれしいのだが、
その分他の女達の目の色も変わってしまったのが気になる所だ。まさかダーナもずっとクーリーフンに引っ付いてる
わけにもいかない。
何とかその気にさせて二人で愛の世界に・・・という状況には、なかなかなりそうにない。
でもクーリーフンって他の男と違ってこういう無邪気な所も可愛くて好きなのよね。
一緒にいるだけで癒されるし。
クーリーフンが誰の物にもならないのなら、それはそれでいいかな、と思うダーナだった。
その時、４頭のペガサスにひかれた黄金の馬車が近づいてくるのが見えた。
「アリアスだ」
「えーどっからかぎつけてやってくるのよ。もう！」
ダーナがむくれていると、黄金の馬車は近くに降りてきて中からアリアスが出てきた。
「やあクーリーフン、ちょっと神殿に遊びに来ないか？」
アリアスはにこやかにクーリーフンに言った。
「ちょっと待った。私を無視してクーリーフンに声かけないでよ」
ダーナがすかさず二人の間に割って入った。
「ダーナいたのか？」
「いたわよ！ずっと！二人で仲良くしてるんだから邪魔しないでよ！」
「仲良く？ただ横に座ってただけだろう？」
アリアスににやりと笑って指摘され、ダーナの頬が引きつった。
「ふふふ」
クーリーフンは笑っている。
「二人って本当に仲が良いんだねえ」
クーリーフンは微笑んで言った。
「お母さんが、二人は喧嘩するほど仲が良いって言ってたよ。僕お邪魔だから行くね〜」
クーリーフンはそう言って飛んで行ってしまった。
「あ・・・・もう！あんたが邪魔するから行っちゃったじゃない」
ダーナは飛び立っていくクーリーフンを名残惜しそうに見上げた。
「お前、その様子じゃあ、まだクーリーフンをものにしてないんだな。情けないなあ。慈愛の女神ともあろう
ものが・・・」
「うるさいわね。アリアスこそクーリーフンにただれた感情を抱くのはやめてよ」
「ただれた・・・って・・・私はただ、クーリーフンを側で眺めたいなーと思ってるだけだ。失礼な」
「側で眺めてどうすんの。クーリーフンに何かしたら今度こそ別れるからね」
ダーナは腕を組んで言った。アリアスがにやりと笑った。
「そうか、妬いてるんだな。ならそういえばいいものを」
「は？」
「最近相手をしてやってなかったからな。だから突っかかってきたんだな。しょうがない。今から来い」
「しょうがないって何よ。変な誤解しないでよ！」
ダーナは両手の拳を握り締めていた。
「こないのか？なら通りすがりの女神を連れて行ってしまうぞ〜」
アリアスは馬車に乗りながら言った。
「むー腹立つー！！！！」
「出せ」
アリアスは御者に言い、御者はちらりとダーナを見て手綱をひいた。
「あーちょっと待って！行くわよ！」
ダーナはあわてて言い、馬車に乗り込んだ。アリアスはそれみたことかと笑っている。
ダーナとしては悔しかったが、アリアスとの間に一番子供もいてそれなりの情もあり、他の女を抱かれるのは
ちょっと面白くない。
でも納得行かない展開だわ。
黄金の馬車は空に舞い上がった。
ダーナはむくれて馬車の小窓から外を眺めていた。すると、スカートが上に上げられる感触があった。
「ちょっと何するの」
「今の言い方は可愛げがないな。昔は『あら・・・そんな・・』と恥らってたのに・・・」
「昔の話でしょ」
「そんな言い方ばっかりしてると抱いてやらないぞ。いつからそんなひねたんだ」
「あんたのせいでしょ！何よ。いっつも他の女に声かけて」
「だが最後にはお前の所に戻ってきてるじゃないか。いつも」
アリアスはダーナの身体を自分のひざの上に乗せてスカートをたくしあげた。
「ちょちょ、ちょっと！」
しばらくすると馬車の中から女神のあえぎ声が漏れ始めて、それを聞いた御者が赤面したのは言うまでもない。
結局はクーリーフンのことは二人にはちょっとした刺激になったようだった。
草原をぶらぶらしていたガーベラの元にクーリーフンが飛んできた。
「あら、クーリーフン、今日は何してたの？」
「ダーナといたら、またアリアス様と喧嘩してたよ。」
「あらそう」
ガーベラはくすりと笑った。ちょっと離れた所には女の妖精達がぽっとしてクーリーフンを眺めている。
「やっぱり元の大きさに戻った方がいいかもね。女の子達には目の毒かも」
「ん？」
クーリーフンが首をかしげた。
「クーリーフンはほどほどがちょうどいいわよ。中身とあんまりあってないし」
「そう？じゃあ戻ろうかな」
「そうしなさい」
クーリーフンは元の大きさに変身してしまった。
「アマンザのところに遊びに行ってこようっと」
そしてそのまま翼を広げて飛んでいった。
ダーナは残念がるかもしれないけど・・でもまあいいや・・・
ぶらぶら歩いているとびゅうっと風が巻き起こり、ガーベラは髪を押さえた。横にのんき顔のウィルが浮いていた。
「やあガーベラ」
「あら、ウィル、ごきげんよう」
「なあ、今度いつ外でやるんだ？」
ウィルが顔を寄せて聞いてきて、ガーベラの顔が引きつった。
「真面目な顔で何言ってるの？」
「たまには刺激がほしいんだよー。その美しい体は見せるためにあるんじゃないか」
「ダーナにちくっちゃうから」
「いいじゃないか。見るだけなんだし。胸に触らせろって言ってるわけじゃないのにー」
ウィルは横でぶらぶら浮いている。ガーベラはべーと舌を出した。
「そういう顔もかわいいよん」
「勝手に言ってなさい」
その時ばたばたと翼の音が聞こえて二人は後ろを向いた。見ると一頭のペガサスが低空飛行でこちらに向ってくる。
ウィルはわっと横よけた。ペガサスの上にはハロルドが乗っていた。ハロルドは身を乗り出してガーベラの腰に
腕を回して、ひょいとペガサスの背中に腹ばいのまま乗せて、そのまま飛んでいった。
「な、なんなんだ・・・」
ウィルは呆然と飛び去っていくペガサスを見上げた。
「ちょ・・・・ちょっとお何するの！」
ガーベラは一瞬何がおこったかわからずペガサスの上で足を動かした。
「暴れるな。落ちるじゃないか！」
何なの。突然。
ペガサスはようやく地上に降りて、ガーベラはハロルドにまた腰に腕を回されて神殿の中に担がれて行った。
ハロルドの顔を見るとどこか表情がいつもと違う。
「ど、どうしたの？」
「実はさっき魔物討伐をしてきたんだ」
「そう。ご苦労さ・・・え？ちょっと触らないでよ。穢れるじゃないの！」
ガーベラは驚いてハロルドの腕を離した。
「穢れはとったから大丈夫だ。」
「なんか目つきが怖いわよ？」
「あれをした後は気が高ぶってしょうがない。女が欲しくてしょうがなくなるんだ」
「・・・」
ハロルドに獲物を狙うような目でじっと見つめられてガーベラはそろそろと後ろに下がった。
「それじゃ、恋人とどうぞ」
「だからお前が相手をしてくれ」
「え？ハロルド他に恋人一杯いたでしょ。そっちとしたら」
「なんでそんな事言うんだ。」
声の質が変わってきてガーベラはちょっとびびった。
「お前は私の恋人だろ？違うのか？」
「ち、違わないけど・・・今日のハロルドちょっと怖いんだもの」
「乱暴にはしない。だから、な」
ハロルドは優しく言って手を出した。だが目つきは鋭くて怖い。
なんだか・・・逃げたら大変な事になりそう・・・
最近は油断してたのに・・・
「絶対乱暴にしないでね？」
「ああ」
ガーベラはそろそろと手を伸ばして、ハロルドはその手を握り締めて奥の部屋に連れて行った。
「・・・って・・・十分乱暴じゃないよ！」
ハロルドに抱かれたままガーベラが声をあげた。
「これは激しいって言うんだぞ。別に乱暴にはしてない」
ハロルドはつながったままガーベラの上に乗り激しく腰をうちつけていた。
「ああ。ガーベラ・・・愛してる・・・」
奥で達する感触があった。
「離して・・・」
「まだだめだ」
ハロルドはそのままガーベラに口付けた。そして再び腰を動かしている。
なんなのもー！
「お前を味わったら他の女なんて抱く気がしない」
「どうだか」
「本当だぞ。あれからお前しか抱いてない」
ハロルドは三度ほどガーベラを続けざまに抱き、ようやく体を離した。その時にはすっきりした顔をしていた。
「ガーベラ・・・お前を抱けてうれしい」
ハロルドはそのままガーベラを抱きしめてぐーぐー寝てしまった。
全くもー・・・
ちょっとむっときたガーベラだったが、ハロルドの寝顔をしばらく眺め、まあいいかとそのままじっとしていた
のだった。
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