ミカエルの一件が片付いて城の中の面々もほっと胸をなでおろし、ゆりもいろいろ考える事はあったが
取り合えずほっとしていた。あのままミカエルと疎遠になってしまっていたら、もし今後儀式などがあっても
ゆりも皆もちょっと微妙な気持ちになってなってしまっただろう。
元通りになってよかったのかもしれない。
結局、何があってもミカエルのことを嫌いになれるわけはない。
そんなある日、左目が蛇目のゆりは長椅子に寝そべり、侍女に足をマッサージされていた。
「ミカエル様がまた笑顔でいらっしゃるようになってよかったです」
侍女がにこにこして言っていた。
「まあそうだね。またミカエルに何かもらった？」
「え・・・」
「もらったでしょう〜」
「えー・・・そのお・・・」
ゆりがにまにまして聞くと、侍女はちょっと言いずらそうだが、うれしそうな顔をしていた。
ミカエルは結構な贈り物を侍女らにしている。だから侍女らにとってはミカエルは一番いいゆりの恋人なのだ。
「まあいいけどねー。よかったね」
部屋の扉が軽くノックされて、侍女がゆりから離れて外に出た。ゆりはスカートを下ろして体を起こした。
「王妃様」
ゆりが扉の方に顔をむけると、水色っぽい髪の、戦士服を着た品のいい男が立っていた。
「え・・・あれ？シャナーン？」
「はい」
「えー素敵よ。髪型変えたんだねー」
シャナーンはちょっと長めの髪形だったのだが、首の後ろの方だけちょっと長めにしてあとは短くなっていた。
「うん。素敵、素敵」
ゆりはシャナーンの周りをぐるぐる回っている。
「本当ですか？」
「うん。すごく似合ってるよ。ねえ」
「はい、すごくお似合いですよ」
侍女もうなずいている。
ミカエルの件では、シャナーンがミカエルに何かしてあげたんだろうな、とこちらのゆりは予想していた。
それでもシャナーンはゆりに何も言ってない。
「あ、もう一回入ってきて。あっちに変わるからね」
「え、はい」
ゆりは長椅子に座り、シャナーンはもう一度扉の外に出た。そして黒目のゆりに変わった所で侍女が
「お茶をお持ちしますね」と言って外に出た。そして「王妃様、お客様ですよ」とゆりに言った。
ゆりが「ん？」と顔を向けると、シャナーンが中に入ってきた。
「ん？あれ？」
「王妃・・・」
シャナーンはちょっと恥ずかしそうに頭をかいた。
「えー？シャナーンなの？素敵。王子様みたいー！！！！」
ゆりは思わず声を張り上げた。
「お、王子様ですか？」
「うん。素敵ー」
どちらのゆりにも好評だったので、よかった、と微笑んだシャナーンだった。
第26話
夕方、ハインリヒはラギに付き合って町の図書館にやってきていた。ラギは借りていた本を返しにきたのだ。たまた
ま側にいたハインリヒが連れてきたのだった。
「ちょっと本選んでもいいかな？」
「いいですよ。ごゆっくり、私もそこら見てますから」
「ありがとう」
ラギは本棚の方に消えて行った。
城の中は結構瞬間移動できるようになったラギだったが違う町まで飛ぶ事はできない。
ハインリヒもぶらぶら本棚を見て回った。過去の世界にはものすごく巨大な図書館があり、ハインリヒも
子供の頃はよくそこにいたものだ。それが懐かしく思い出される。過去の女王様からもらった重要な本は、
今は古代語の研究所に保管されて、写本されている。多くは魔法書であったがハインリヒにも
使えなかった魔法なども数多く書かれていた。いずれ、王族の中から使えるものが現れればよいのだが。
人はまばらだった。椅子に座って数人本を読んでいる者がいるくらいだ。
ハインリヒを見かけると、皆軽く会釈してくれた。
歴史書のコーナーを眺めていたハインリヒは、横に女の子がやってくるのが見えて顔を向けた。
「何かお探しですか？」
あどけない顔立ちのかわいい女の子だった。胸は十分膨らんでいるが、他の部分はやけに細い。妙に男心をそそる
ような感じの子だった。
「いいえ、ただ見てるだけですよ」
とハインリヒが答えた。
ははーん。この子が噂の子だな。とハインリヒはピンときた。
「ハインリヒ様がいらした時代って、このあたりですよね」
と女の子クロエは本を一冊取り出した。
「そうですね。ちょうどこのあたりですよ」
ハインリヒはその本をぺらぺらめくって答えた。
「一度お話をじっくりお伺いしたいんですけど、いかがでしょうか」
クロエはじっと見つめて聞いてきた。
「残念ながらそう時間が取れないんですよ。いろいろと忙しくて」
「夜もですか？」
おー・・・なかなか積極的な子だなあ・・・
ハインリヒは内心にまにま笑った。普段はさすがにこういうお誘いを受ける事も少ないので、たまにこういう子に
出会うと面白い。
「じゃあお友達５人くらい連れてきてくれます？」
「え？」
「そのくらいじゃないと燃えないんです。私」
ハインリヒはクロエの耳元でささやくように言った。
「もう、からかってますね」
クロエは真っ赤な顔で言った。
「はい、からかってますよ」
ハインリヒは棚に本を戻して言った。
「ひどい・・・」
「もっと胸とおしりがでかい女が好きなもんで」
クロエは思わず自分のおしりを押さえた。胸はあってもおしりは小さめだ。胸も一般的には普通で、でかいって
ほどでもない。
「え・・・でも・・・王妃様もそんなにでかくないですよね？」
「王妃はあれで脱ぐとすごいんです」
「え・・・」
「それではさようなら。かわいいお嬢さん」
ハイリヒはにこやかに言って歩いて去って行った。
そ・・・そうだったのね。王妃様は、すごい身体で王様をとりこにしたのね。
外から見たんじゃ全然わからなかったけど・・・
そういう意外性がみんなに大受けなのかも。
意外性かあ・・・日々勉強になるわ。
大人になりたてのクロエはいつか良い男に愛されてやると日々邁進していた。
一方ハインリヒは、あの子って巫女に向いてるんじゃないのかな。とそう思っていた。
思っただけで口には出さないが。
うーん。なんだかむらっときたなあ。王妃はまだ一人で寝てるだろうし、今夜夜這いしちゃおうかな。
「ハインリヒ〜終わったよー」
ラギの声が聞こえてきて、ハインリヒは近づいて行った。
その夜、眠っていたゆりは突然ぶちゅっとキスされてびっくりして目を覚ました。
「王妃〜」
「えーミカエルまた来たの〜？」
ゆりが眉をひそめて言った。
「そんなに嫌そうな顔しなくてもいいじゃないですか」
「おとついも来たじゃん」
「んー、赤い月の精力が、今頃」
「・・・なら彼女と仲良くしたら？」
「彼女らはすっかりその気なくしてます。でも、私がもう普通に戻ったって言ったらすごく喜んでました」
「あ、そ」
「あ・・・」
ミカエルが横を向いて声をあげたのでゆりも横を向いた。するとベッドの横に誰か立っている。
「え・・・だれ？」
「なんであなたまでいるんです」
ハインリヒはミカエルを見て言った。
「え、ハインリヒ？」
「そっちこそ何しにきたんだ」
ミカエルはゆりの体に腕を回して言った。
「私は王妃との愛を深めにきたんですよ。あなた帰ってください」
ハインリヒはベッドに乗って言った。
「私が先にいたんだ。そっちが帰れ」
とミカエル。
「ちょ、ちょっと、二人とも帰ってほしいんだけど」
ゆりが二人を交互に見て言った。
「「嫌です」」
「あのね・・・」
「今日、あなたが溺れてた女の子に会いましたよ」
ハインリヒがそうだと思い、言った。
「別に溺れてたわけじゃない」
「嘘ばっかり。あの細い体に夢中だったくせに。」
「王妃・・・ハインリヒがいじめる・・・」
ミカエルはゆりの体を抱きしめた。
「どうせなら一生へこんでればよかったのに」
「ねえ、クロエ元気だった？落ち込んでなかった？」
ゆりはちょっと気になったので聞いた。
「元気でしたよ。彼女ならミカエルを踏み台にしてもっといい女になっていきますよ」
「ふ・・・踏み台・・・」
「そう、よかった」
ゆりはちょっとほっとした。
「何もよくないですよ。王妃」
ミカエルの声は引きつっている。ゆりはぷっと笑った。
「王妃もぽいって捨てちゃえばよかったのに、ミカエル」
ハインリヒは微笑んで言っている。
「いやーなんていうか馬鹿な子ほどかわいいっていうか・・・それにミカエルがへこんでると王様も
暗くなっちゃってるし。」
ミカエルがしゅんとしてるのでゆりはミカエルの頭をなでた。
「ま、とにかく、王妃、ひっつきましょう」
ハインリヒがゆりの腰を引き寄せた。
「ハインリヒも赤い月終わったばかりで元気だね」
「なんなら変化もしますが」
「王妃〜」
ミカエルはゆりの手をぐいぐい引っ張っている。
「んーまあしょうがないなあ・・じゃあ一人づつね」
ゆりはそう言ってハインリヒにくっついた。
「じゃあミカエルは、そこでしばらく見ててね」
二人は裸になり、ミカエルの横でからみだした。
「ん・・・ああ・・・あん・・・」
ゆりはハインリヒの愛撫ですっかりその気にさせられてあえぎ声をあげている。
ハインリヒがゆりの耳元でなにやらつぶやいた。「え・・でも・・・」とゆりがいうとまたぼそぼそつぶやいた。
二人は熱い口付けを交わして、やがて寝転んだハインリヒの上にゆりがおずおずと逆向きに乗った。
ハインリヒはゆりのおしりをなでて上体を少し曲げて、ゆりの足の付け根に顔をうずめた。
「あ・・・ああ・・・」
「王妃・・・ほら・・・」
「ん・・・」
ゆりはミカエルをちらりと見て、ハインリヒの下半身に手を伸ばして、それに舌をはわせた。
暗闇の中でもミカエルにはばっちり見えている。
「もしかして見せ付けてるのか？」
ミカエルがむっとした顔で言った。
「もしかしなくても見せ付けてますよ。あなたが他の女に溺れた罰」
「・・・別に溺れてたわけじゃ・・・」
「普段も一杯抱いたくせに」
ゆりがぼそりと言った。
「私は、赤い月以外は王妃のものですからね」
「ハインリヒの方が好き」
「ぐ・・・・」
「何ならそこで一人でやっててください」
「嫌なこった」
ゆりの思わぬ逆襲にあったミカエルだった。
「お邪魔いたします。」
ある日の夕方、ヴィクターの屋敷に若い女の子が４人一緒に訪れていた。
「いらっしゃい」
小さな女の子をだっこしたシャナーンが現れた。女の子はミーシャ、シャナーンの父であるヴィクターの子供だ。
シャナーンがだっこしてるとシャナーンの子供でもいいくらいだった。
「こんばんは。シャナーン様」
４人はニコニコ顔で挨拶した。
「皆さんよく似合ってますよ。」
シャナーンは機嫌がよさそうな笑顔でいい、４人の頬がぽっとなった。
今日はとっても機嫌がよいみたいだわ。
きっと王妃様にお会いしたに違いないわー
髪型をほめてくださったんだわ。
キャイ〜ン。ステキ〜
シャナーンはさっさと部屋の方に行ってしまったが、４人はしばらくぼんやりしていた。この４人はシャナーンの
彼女達である。皆大人になって２０年以内の女の子達だ。といっても皆シャナーンが選んだわけではない。
シャナーンほどになると、大人になる前に親同士である程度相手が決められてしまっていた。４人共そうだ。
シャナーンも別に文句をいうことなく４人と付き合っていた。今日は夕食会で呼ばれたのだ。ヴィクターの屋敷
に来る時はたいてい４人一緒で、時にはヴィクターの相手の女性も一緒の時もある。
４人共子供の頃から親にしっかり教育されていた。
『シャナーンほど将来有望でいい男は他にいないからな。嫌われるような事するんじゃないぞ。優しく女らしく
するんだぞ』と。いくら親同士がお膳立てしたからといっても大人になれば本人らの問題だ。シャナーンが気に
いらなければさよならってこともある。４人共子供の頃からシャナーン一筋できたため、シャナーンのことを
とても好きだった。しかも、年々いい男に成長していくのだから、絶対彼女の座を逃すもんかと思っている。
「ねえ、本当に化粧これで大丈夫？」
一人が他の３人を見て聞いた。
「大丈夫よ。何度も鏡見たじゃない」
「私の髪は？リボンゆがんでない？」
「大丈夫大丈夫」
４人は扉の入り口でああだこうだと言い合っている。
「ああ、でもよかったわー王妃様がほめてくださって」
「本当ね。ちょっとどきどきしてたわ」
「機嫌がよくてうれしいわー」
シャナーンは４人にとってはかなり分かりやすい。普段はちょっと冷たい感じで愛想笑いをする程度なのだが、
出会ったときからにこにこ笑っているのは、たいてい王妃であるゆりに会った後だった。
今日の機嫌のよさからいって、ゆりがシャナーンの髪型をほめてくれたに違いないと思っている。
「王妃様に見ていただいたらどうですか？」と薦めたのは４人だった。
シャナーンは機嫌のよい時はいろいろほめてもくれるし口数もかなり多い。シャナーンがゆりをとても好きで尊敬
してるのは４人はよくわかっていた。だから会話にゆりの事が出た時も「王妃様を尊敬している」ということを
アピールすることも忘れない。４人はまだまだ若かったが、いまどきの風潮にも流されていない。第一あんなにい
い男を独り占めするなんて無理だと思っている。
「いつまでもなーにやってるんだ？」
４人の元に緑の髪の壮年の男が近づいてきた。ロナウド将軍だった。
「あら、お父さんもきてたの？」
女の子の一人が言った。一人はロナウド将軍の娘だった。
「朝言っただろ？」
「シャナーン様に会える喜びで聞いてなかったわ」
「いつも会ってるじゃないか。ほら、部屋に行け行け」
「は〜い」
４人は部屋の方へと移動した。
部屋の方ではヴィクターがもう酒を飲んでいた。
「ヴィクター様こんばんは」
４人がそろって挨拶すると、ヴィクターが笑顔を向けた。
「おお、皆かわいくなったなー。今年はどうだったんだ？４人共満足させられたのかな？」
ヴィクターはミーシャを膝に乗せているシャナーンを見て言った。
「何言ってるんです」
女の子達は笑ったまま長椅子に二人づつ座った。
「それはこの子らの顔をみりゃわかるってもんだ。ははは」
とロナウド。
「今年は王妃様は御子様できなかったようだな。シャナーンはどの程度王妃と仲良くなったんだ？」
ヴィクターが続けて聞いた。
「やめてください。そういう話題は」
「いいじゃないか。王妃は本当に不思議な人だ。年々かわいくなってくるもんな。肌も綺麗だし。
もっと早くに恋人になっておけばよかった・・・」
「おい・・・」
ヴィクターの言葉にロナウドが咎めるように言った。
「だめだぞ油断してちゃ。王妃はかなり人気だからな。他にも狙ってる男がいるんだぞ。ちゃんと恋人の座を
つかんでおかないとうやむやのまま終わってしまうぞ」
「・・・・」
シャナーン様がんばって
がんばって王妃様のお気に入りの座を射止めてくださいね。
そしていつもご機嫌でいてください。
そうなれば私達も幸せ
４人の女の子は口には出さなかったが、心の内で声援を送っていた。
ゆりはハインリヒとミカエルがやってきた次の夜から王の寝室で寝ていた。これ以上夜這いされたんじゃたまった
ものじゃない。寝室を掃除する侍女には絶対ばればれで、口には出さないけれど、内心「あら、昨晩も？」と
思っているに違いない。
その夜、ラクシュミと少し離れて寝ていたゆりは、久しぶりにガーベラ姿になっていた。
わあ、久しぶりだわ。
ゆりはきょろきょろ周りを見た。森の中っぽい。木々に囲まれていて馬車が通れるほどの道を歩いていたようだ。
後ろの方から綺麗な白馬がとことこ近づいてきた。
「あら、乗せてくれる？」
ゆりがそういうと、白馬は腰を下ろした。ゆりはスカートでまたがるわけにもいかないので、横向きに乗ってみた。
すると白馬は起き上がり、とことこと歩いて行った。このくらいだったら振り落とされることもなさそうだ。
なかなかいい感じ♪
白馬はゆりを乗せたまま道を歩いていき、ゆりはご機嫌で馬に乗って移動したのだった。
すすむ