第27話

ルンルンルーン♪


白馬に乗ったガーベラ姿のゆりは、そのまま森の中の一本道を通り過ぎて行った。白馬はゆっくりぱかぱか歩いている。

「優雅ねー」

やがて森の切れ目が見えた。少し離れた所に果樹園のような物が見えた。並んでいる木々にいろんな果物が

ぶら下がっている。桃にリンゴにミカンの木もある。神の国に季節は関係ないようだ。

「お馬さん、あそこ行って」

白馬は果樹園の方に向かって行った。

「わーおいしそー」

近くに見えたのは桃の木だった。ピンク色のおいしそうな桃が、一杯ぶら下がっている。

木々の間に茶色い肌の男がいるのが見えた。前に見た神サントスだ。

「サントス！」

ゆりは声を出して手を振った。するとサントスは振り向いてすごく驚いた表情をした。

「お馬さん降ろして」

白馬はゆっくりと身体を低くして、ゆりは馬から降りた。

「ありがとう」そういうと馬はそのまま去って行った。

「ガ・・・ガーベラ・・・」

近づいてきたサントスの顔はすでに真っ赤になっている。

「き・・・今日はどうしたんですか？」

「お散歩よ。通りがかったらあなたが見えたから・・・ねえ、この桃って食べてもいい？」

「いいですよ。どうぞどうぞ」

サントスはあわてて木から桃を3個も採り、ゆりに渡してくれた。

「どうもありがとう。」

一個でよかったんだけど・・・


ゆりは草の上に座り、桃の皮をぺろっとむいてそのままかじりついた。

「わーおいしいー甘ーい！！！」

普段食べる桃よりもかなり糖度が高く、とってもおいしかったのでゆりは感動しながら食べていた。


ああ・・・豪快に桃を食べる姿も美しい・・・


少し離れた所からサントスはじっとゆりが桃を食べる様子を見つめていた。


しかもなんておいしそうに食べるんだろう・・・


「サントスがこの桃作ったの？」

ゆりが顔を向けて聞いた。

「ええ、そうですよ。」

「すごいね。とってもおいしいよ」

ゆりは桃を一個ぺろりと食べてしまった。

「うれしいです。あなたがそんなに喜んで食べてくれて」

「だっておいしいもの」

ゆりが残った種をどうしようかと思っていたら、サントスが「もらいますよ」といって

手を出したので、ゆりはそのまま渡した。


この種は大事に植えよう・・・


「ガーベラ、ちょっと待っててください」

「うん」

しばらくすると、サントスは木の弦で編んだかごに一杯桃を乗せてゆりに渡した。

「これどうぞ」

「わあ、ありがとう」

ゆりは笑顔で受け取ったものの、カゴはずっしり重かった。ゆりはその上にさっきの残りの桃も乗せた。

全部で20個はありそうだ。

「神殿で食べてくださいね」

「ありがとう。すごくうれしい」

ゆりは笑顔でサントスと別れたが、桃を抱えて歩くのは大変だった。

そうだ。恋人の所に移動すればいいんだ。ジンラのところにいっちゃおうかな〜

近くに小さな川が流れているのが見えた。ゆりは手を洗いたかったので、そこまで歩いていき、カゴをおろして

水で手を洗った。


「ガーベラ」

声がしたので横を向いた。すると、水瓶を持った水色の髪の男が立っていた。

「ラクア」

前に不思議な水をくれた水の神様だ。会うのは久しぶりだった。

「こんにちは。久しぶりね」

「ん？昨日も会ったよ」

「え？えーと、ほら、恋をしてると会えない時間はとっても長く感じるものだから」

ゆりがそうごまかすとラクアは微笑んでいた。そういえばあの時の御礼、結局言ってなかったなと思い出したゆり

だったが、今更言うのもおかしいなと思い、黙ってることにした。

「どうしたの？この桃」

「さっきもらったの。食べる？」

「これから僕の神殿においで」

「うん。いいよ」

ゆりはラクアと今まであまりり会ったことがなかったので、どんな神様なのか知りたいと思いうなずいた。

「じゃあ行こう。水瓶もってて」

「うん」

ラクアはゆりに水瓶を渡すと、桃のカゴを持ち、ゆりに近づいた。


ゆりは川の水が線を描くように斜めに上昇するのを見た。水は二人を取り囲むように周り、ゆりは気づいたら

ラクアの神殿の外にいたのだった。

わーすごい。


ラクアはかごを下に置いた。

「ここで話をしようか」

「いいよ。ここの水って本当に綺麗ね」

二人は神殿の外の草の上に座った。湖の水はキラキラ輝いている。神殿の中よりもここで話をする方が楽しそうだ。

「水浴してもいいよ」

「えーラクアの前で？恥ずかしいよ」

「ふふ、どうして？君の裸は何度も見たのに」

ラクアは微笑んでいっている。

「それでも恥ずかしいの」

湖の上に何か丸い物体がぼよんと浮かんだ。

「あれ何？」

それは透明なもので、水の中から出てきたようだ。

「ふふ・・・」

それはゆらゆらとゆりの所に近づいてきた。そして形を変えて、それはするっとゆりの胸の谷間から中に入って行った。

「えー！！！」

服と肌の間に、ひんやり冷たくてつるつるとした感触の物が這い回っていた。

「うひゃ、うひゃひゃひゃひゃ！」

あまりにこそばゆかったので、ゆりはおもわず両手をあげて変な声をあげてしまった。するとその塊は

胸元からするりと出て行った。服も肌も濡れてはいない。

「うひゃひゃって・・・・」

ラクアは口に手をあてていた。

「だってこそばゆかったんだもん」

「うひゃひゃって・・・く・・・くくくく・・・」

ラクアは声を忍ばせて笑い出した。

「もーラクアのエッチ」

「面白かったからもう一回」

また水の塊のようなものが上から入ってきた。

「えー・・・うひゃ、うひゃひゃひゃひゃ」

ゆりは身をよじってまた変な声をあげている。

「く・・・くくくくくく・・・・」

ラクアはその声がよっぽど面白かったのか、しばらく笑っていた。

「あー面白い」

目尻に涙がたまっている。

「ラクアって笑い上戸ね」

「だって面白いから。くく・・・」

「もう・・・」

すると背中の方からまた何か入ってきた。

「もーいい加減にして！うきゃ、うひゃひゃひゃひゃ。くすぐったいったら」

「くくくくく」

ラクアは腹をかかえて笑っていた。


なんなんだ。この神様は・・・

結局遊ばれまくり、ゆりはラクアと別れた。桃は5個ほどあげたのでちょっとカゴが軽くなっている。

ゆりはそのままジンラの元に移動した。ついた所は神殿の外だった。

神殿の中に入っていくと、ジンラとアマンザがいて、椅子に座っていた。

「あ、お母さん」

「こんにちは。桃もらったの。いらない？」

「おいしそうだね。もらうよ」

アマンザはにこにこして寄ってきた。あの時からアマンザは変わっていない。

「久しぶりだね。お母さん」

アマンザはゆりを見て言った。

「そうだね」

アマンザは微笑んだ。

「ジンラは桃好き？」

「ああ」

ゆりはジンラの顔を見てぽっとなった。ラクシュミとは別人だと分かっているが、ジンラはジンラで好きだ。包容力

のありそうな所がなんともいえない。

その時、カーンと鐘が鳴る音がした。声は遠くの方から聞こえた。

「あれ、あの音は・・・」

「神様が産まれたんでしょうか」

アマンザはジンラを見て聞いた。空の神殿の鐘の音にしてはやけにそっけなかった。

ジンラはふっと笑って唇の端をあげた。

「大方産まれたのはアシュランが浮気して作った神だろう」

「どうして分かるの？」

ゆりが聞いた。

「鐘が一度しか鳴らなかったからな。産まれたのはきっと女神だろう」

「へー・・・そんなことまで分かるの？」

「女神はヒルデリアが名前を決める決まりだからな。」


そういえばキュリアが産まれた時は盛大に鳴ってたもんなあ・・・

「しばらくヒルデリアの機嫌が悪いかもな」

「ぶどうの木に雷を落とすのだけはやめてほしいな」

とアマンザがぼそっと言った。

ゆりはジンラの神殿に桃を10個ほど置いて行った。ほとんどお酒は葡萄で作られているが、たまに桃で作ったり

することもあるようだ。

ゆりが神殿から出ると、アマンザが追いかけてきた。

「お母さん、これあげるよ」

アマンザはお酒の瓶を一本かごに入れてくれた。

「どうもありがとう」

「また来てね」

「うん」

ゆりはお酒と桃が入ったかごを持って神殿を離れた。

次はどこに行こうかな。キュリアちゃんにも会いたいけど、クーリーフンはどこかなあ。ラーズのところかな。

久しぶりだから皆に会いたいなあ。


どこに行こうかと考えていたら、ゆりは現実の世界に戻ってきてしまった。


目覚めちゃった・・・


目の前にごろんと桃が転がってきた。

「あれま」

布団をはぐるとかごごと来ていた。お酒が一本と桃が5個ある。

「持ってきちゃった・・・故意にやったことじゃないから・・・いいかな・・・」

「何ぶつぶつ言ってるんだ？」

ラクシュミの声が聞こえた。

「王様、お土産」

ゆりはかごごとラクシュミに渡した。ラクシュミは身体を起こしてそのかごの中身を見つめていた。

「どうしたんだ。これ」

「うーんと、夢からもってきちゃったみたい」

「・・・・・」

ラクシュミは酒瓶を手に取り、瓶の蓋をあけて匂いをかいだ。やはり興味は桃よりもお酒のようだ。

「酒だ」

「ジンラのお酒だよ。よかったね」

「いいのか？ばれたら怒られるぞ。神様に」

「でも、もって来ようと思ったわけじゃないんだよ。たまたま持ってたら目覚めちゃったんだし。盗んだんじゃ

ないから・・・」

「ふーん。そうか。じゃあありがたくいただこう」

ラクシュミはうれしそうに微笑んだ。


お酒はラクシュミとハザークの夜の楽しみになり、桃は子供達のデザートになったのだった。


ありがとうございます。神様。


ゆりは神様に感謝した。

「ねえ、この種植えてもいいかなあ」

ラギが桃の種を見て言った。

「うーん。だめだめ。もし桃が育ったのが神様に見つかったら、やばい事になるかもしれないじゃない。」

とゆり。

「そうかなあ。おいしい桃ができるかもしれないのに」

「あんまり欲を出しちゃだめなの。全部処分」

「ちぇ」

ラギは口を尖らせた。



神の国の空の神殿では、アシュランがしきりにヒルデリアをなだめすかしていた。

「ヒルデリア、そう怒るな。他の女を抱いたとしても私が一番愛しているのはお前だけだ」

ヒルデリアはしらけた顔で横を向いている。

「そんな顔は美しいお前には似合わないぞ。な」

「私はもう下がらせていただきます」

ヒルデリアは自分の間から出て行ってしまった。


アシュランはやれやれと両手を広げて自分の間の方に戻った。こんなやり取りはしょっちゅうなので、アシュランも

さほど気に留めてはいない。

ジェラルドがアシュランの間に来ていた。

「お呼びだと伺いましたが」

「ああ、お前に用があったんだ。美しい花の女神が誕生したのだ。私の娘の中でも一番といえるほどの。その娘の

ために飾り物を作ってやってくれ」

「わかりました」

アシュランは微笑んだ。母親は美しい妖精だったのだが、産まれた娘は花の女神だった。しかも、母親以上の

美しさだったのでアシュランはかなり喜んでいた。


やがてこの美しい花の女神が神の世界に波紋をもたらすことになろうとは、アシュランでさえ予想していなかった。



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