うーん。さっぱり記憶に無い。いつの間に昨日終わったんだろう・・・


ラクシュミにあれこれ聞くのも嫌だったので、ゆりはそのまま寝室を出て横の部屋で服を着替えた。


なんだこりゃ・・・


確かに儀式をやったらしい痕が身体のあちこちについている。

一体男何人いたんだろう・・・

ゆりは食堂で子供らと朝食を食べて、自分の部屋に戻ろうとして侍女に止められた。

「あ、王妃様、横の部屋にどうぞ」

「どうして？」

「まだお酒の匂いがぬけておりませんので」

「酒？」

ってことは、降りてきたのは酒好き女蛇？


廊下を歩いているとハインリヒがやってくるのが見えた。

「王妃、二日酔いにならなかったですか？」

ハインリヒは機嫌がすこぶるよさそうな顔をしていた。

「ちょ、ちょっと来て」

ゆりはハインリヒの手を引っ張り、横の部屋に連れ込んだ。

そして扉をバタンと閉めて聞いた。

「ハインリヒ、昨日参加した？」

「参加しましたよ。覚えてないんですか？」

ハインリヒが目を見開いて聞いた。

「全然覚えてない。いつの間に儀式になったのかもぜーんぜん」

「昨日は楽しかったですよ。とっても」

「・・・男って何人いた？」

ゆりは引きつった顔で聞いた。

「7人ですよ」

「なな？７って・・・１２３４５６の次の７？」

「他に何があるんです？」

ハインリヒがおかしそうに笑って聞いた。


ガーン

「王妃が自分で呼んだんですよ」

・・・なんでそんなに呼んだんだ・・・


「それってシャナーン以外皆ってこと？」

「そうですよ」

「お酒が入ったわりには、元気だね。他のみんなも？」

「お酒はさほど飲んでないですよ。酒に酔ったというか、王妃の愛に酔っ払いました」

なんだそりゃー！！！

ゆりは思いっきりのけぞっていた。

「王妃ってば、昨日はすっごいかわいかったんですよ。もっと愛してくれなきゃいやんとか言って。皆愛して

るっていいまくってましたよ」

思い出すのが怖い。

「・・・記憶がなくてよかったかも」

ゆりはぼそっとつぶやいた。


第30話

その日、神の国のカサンドラの神殿では、カサンドラが大きなはた織り機の前に座り、タペストリーを製作中だ

った。カサンドラは歌や楽器にはさほど興味をもたなかったが、はた織りの技術は素晴らしく、よくこの部屋で

織物をしている。部屋の壁には今までカサンドラが製作したタペストリーが飾られていた。図柄は森の動物達や

自然などだ。空の神殿には神々をモチーフにしたタペストリーが飾られている。どれも細かく見事なできばえ

だった。

「カサンドラ」

声がかけられてカサンドラは織り物の横糸を通した所で振り向いた。扉の所にはハロルドが立っていた。

「ハロルド、何か用か？」

「用があるから来たんだ」

「そうか、まあこっちに来い」

カサンドラはハロルドを広間の方に連れて行った。


「キュリアは大きくなったか？」

「いいや、たいして変わってないな。ヒルデリアのところに預けてきた」

「そうか」

「・・・実は困ったことになってるんだ」

ハロルドは椅子に座って言った。いつもの自信にあふれた姿とは少し違っていた。

「困ってるのはお前だけじゃないぞ」

とカサンドラ。

「・・・私は黄金の腕輪をファティマにやったわけじゃないんだ」

カサンドラが瞬いた。

「ならなんで持ってるんだ。」

「一目見てみたいと言われて見せてやったんだ。そしたら、そのまま腕にはめて消えてしまった」

「・・・」

カサンドラは口をぽかんと開けた。黄金の腕輪は、持ち主が望む場所にどこにでも移動できるという力がある。

「取り返そうとしたんだが、あっという間に私があれをファティマにやったという噂が広まってしまっていたんだ。

おかげでダーナに首を絞められるわガーベラには冷たい目で見られるわ・・・散々だ」

ハロルドは頭をかいてため息交じりに言った。

「間抜けな奴じゃ・・・」

カサンドラはあきれている。

「そのような言い分は通用しないぞ？」

「わかっている。だからどうしたもんかと恥を忍んで相談にきたんじゃないか。ガーベラから離れる気なんぞ全く

なかったのに・・・」

カサンドラはテーブルにひざをついてあごを支え、はあとため息をついた。

その時部屋にサントスが入ってきた。サントスはハロルドの姿を見るなり、眉をつりあげた。

「ひどいじゃないですか！ガーベラの恋人になっておきながらガーベラを侮辱するなんて！！」

あまりにでかい声だったのでハロルドは耳に両手をあてた。

「侮辱しようと思ってしたわけじゃない！私だって被害者だ！」

「サントス、このバカは、黄金の腕輪をまんまとファティマに奪われただけだと言っておるぞ」

カサンドラがいきさつを説明すると、サントスはしろーい目でハロルドを睨んだ。ハロルドに面と向かってバカという

女神はカサンドラぐらいのものだ。

「そんな間抜けな言い分は通用しませんよ。アシュランがファティマの腕を見て、とうとうハロルドが黄金の腕輪

を渡す女神が現れたのか、と言ってましたし。それで一気に噂が広まったんです」

「一体どうすりゃいいんだ」

「かわいそうなガーベラ・・・ハロルドを嫌いなままでいた方がよかったのに・・」

サントスはガーベラを思い、目を潤ませた。

「その前になぜ黄金の腕輪をファティマに見せてやったのじゃ。それには何か下心があったんじゃないのか？」

カサンドラが聞くと、ハロルドはうっと言葉を詰まらせた。

「あったんですね。」

とサントス。

「・・・顔を見てたら、ついふらふらとそういう気になってしまったのは事実だが・・・私だけじゃないだろう。

ラクアだってアリアスだって同じだ」

「それで腕輪だけ奪われて逃げられたのか。ファティマのほうが一枚上手じゃな」

「くそう・・・」

「でも、なぜファティマは黄金の腕輪の事すでに知っていたんでしょうか」

サントスは首をかしげて聞いた。産まれてくる神々の中で、すぐに大人になる神の場合は、アシュランやヒルデリア

が神の国の知識を与えることになっているのだが、黄金の腕輪の知識までそこで得たとは考えにくい。

「知るか。そんなもの。どうすりゃガーベラと元に戻れるんだ」

「無理ですよ。」

「無理じゃな」

二人に同時に言われてハロルドはがっくりうなだれたのだった。



「はあ・・・」

ため息をついて湖にたたずむラクアの前に、翼がある神が飛翔してきた。ラーズだった。

「よお、ラクア」

ラクアはラーズに顔を向けたが、すぐに湖の方に視線を戻してしまった。


「浮かない顔だな。ガーベラを捨てたことを後悔してるのか？」

ラーズがラクアの横に並んで聞いた。

「捨てた・・・事になるのか？まだファティマとはどういう関係でもないんだが・・・」

「そうなのか？」

「口付けはしたが・・・ああー全く・・・なんであんなに簡単にふらふらとなっちゃったんだ。ファティマの顔を

見たとたん、ガーベラの事が頭から消えてしまった」

ラクアはその場にしゃがみこんだ。

「ラーズはファティマに会ったか？」

「会ったぞ。別にどうとも思わなかったが・・・」

「そうなのか？」

「その前にちょうどガーベラに骨抜きにされたせいだったからかもしれないが・・・ラクアは後悔してるのか？」

「わからない。ファティマへの気持ちが。ただの首飾りのせいなのか、本当に愛しいと感じたのか、わからないんだ」

「神器も効きやすい者と効きずらい者がいるからなあ。戻るんならすぐ戻ったらどうだ？」

「ガーベラは怒ってるだろう・・」

「ハロルドには怒っていたが、ラクアのことは別に怒ってなかったぞ。ファティマを抱いたら後悔すると思うぞ。

私はガーベラの外見や面白い所ももちろん好きだが、あの体を抱くのが一番好きだ。性ではガーベラに対抗できる

女はいないぞ」

「・・・」

「戻るなら早い方がいいぞ」

ラーズは飛び立って行った。


ガーベラ・・・


湖の表面にガーベラの笑顔が浮かび、さっと消えて行った。



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