第10話
王妃がもう御懐妊？！という話を聞き、医師のフレイはすぐにゆりの体を診察した。だが、妊娠してわずか数日で本当に子供ができたかどうかなどわかるわけもなかった。
「まあ、そうかもしれませんし、そうでないかもしれませんし、まだわからないですな」王の間でフレイが白いあごひげをなでながら言った。
「もしできていたとしたら、ゆりの体は大丈夫なのか？」
ラクシュミは心配げに聞いた。
「王妃は案外丈夫そうですから・・・大丈夫ではないですか？」
とフレイ。
「・・・なぜ子供ができたのだろう・・・」
ラクシュミは真顔で不思議がっている。
「それは、王が孕ませたからでは？」
それ以外の理由はないとばかりにフレイは言った。
「それはわかってる。こんなに早くできるとは思いもよらなかった。」
虎の国にいるアヤコも一人できたっきりだ。まだ孕んだという噂もない。
「きっと相性がすごくよろしいのですよ。だからすぐできたのですよ」
「そうなのか？」
「そうですよ」
ラクシュミは釈然としない表情で首をかしげていた。
そのころ、ゆりは自分の部屋でユリウスと会っていた。ゆりがもしかして子供ができたかも、というと、ユリウスはぱっと笑顔を浮かべた。
「本当ですか？王妃」
「まだわからないけどね。」
「すごいですね。王妃は・・・」
「ユリウスは赤い月の間何してたの？」
ゆりが首をかしげて聞いた。
「若者の指導にあたっていました。大人になっていない者は、交わりの月は関係ありませんので」
「そうなんだ」
「王にはちょっと申し訳ないですけどね」
ユリウスは苦笑混じりにいった。
男嫌いのユリウスだったが、王のために、男と過ごしたほうがよかったのかも、と思う気持ちはどこかにある。ユリウスとて、他の一族の者と同じように、ラクシュミのことは愛しているのだ。
「大丈夫だよ。ユリウスの代わりに、私が王様の子供産むからさ、ユリウスは無理しなくていいんだよ」ゆりが優しくいうと、ユリウスは目を細めた。
「王妃は優しいですね」
「うん」
二人はひしっと抱き合っている。
横にいたミラは微妙な気持ちで二人を見ていた。ゆりにすれば、ユリウスから気をもらっているだけだったが、女同士引っ付いてる図を見るのは、なんとも奇妙な感じだ。
扉がノックされたので、ミラが出ると、ジュノーとヴィラがいた。二人は入ってきてゆりを見た。
「赤ちゃん産まれておめでとう」
ゆりが二人を見て言った。
「ありがとうございます。王妃」
「王妃ももしかしたらって話を聞きましたが、本当ですか？」
ヴィラが聞いた。
「まだわからないけどねー名前は決めたの？」
「私の子供がヴィンセントで、ジュノーの子供がクリスですよ」
ヴィラが言った。
「二人ともよく似てるんです。髪の色も同じだし」
ジュノーが言う。
「そうなんだ。きっとヴィラの子供の方が目つき悪いんだろうねー」
ゆりがはははと笑っていった。
「・・・ところで、せっかくだから私とくっつきませんか？何も女同士でくっつかなくても・・・」
ジュノーが抱き合ってる二人を見て言う。
二人は両方の手をお互いの体に回しあっている。
なんだか女同士なのに妙に怪しい気がする。
「今日はユリウスとくっつくからいいの」とゆり。
「でもうれしいですよ。王妃にまた子供ができて・・・」
ヴィラが目を細めてしみじみといい、ジュノーも同意するようにうなずいた。
王妃に子供ができたってことは・・・・またあれが・・
儀式があるんですね。
楽しみだな・・・♪
二人の頭の中は、すでにそれだけだった。
その日の夜中、ラクシュミはハザークの塔を訪れて、一緒に酒を飲んでいた。木でできた丸いテーブルの上には、酒瓶が５本と、それぞれの杯がおいてある。部屋の中はろうそくの灯りでともされていた。
「ゆりがもう次を孕んだかもしれない」ラクシュミがそういうと、ハザークはラクシュミと同じ金色に輝く瞳を向けた。
「随分早いな。」
「まだわからんがな」
「ニエは・・・」
「いらないだろう。」
二人はしばらく無言だった。
やがてハザークが突然、ふふっと笑った。「また王妃に気を遣う日々だな」
「・・・まあそうだが・・・別に普段でも気遣ってるような気も・・・」
「あの王妃を抱き続けるのは大変だな」
ハザークが同情するでもなく言った。
「そうでもないぞ。ゆりはからだの中は、結構いいぞ。それに性格も、まあ可愛いと思うこともたまにある」
「・・・」
「ゆりは一族の男には好かれてるんだぞ」
「王妃を嫌う一族の男はいないだろう」
「それはそうだが・・・ゆりはきれいな肌をしてるんだぞ。柔らかくて」
「そういわれればそうだな」
ハザークが意外にも同意して、ラクシュミは、ん？と上を見た。そしてハザークを見る。
「まるで触ったような口ぶりだな」
「触った」
「どこに触った」
「いろいろだ」
ハザークが表情も変えずに言った。
いろいろってなんだ・・・・
ハザークは表情に乏しいので、ラクシュミがハザークの顔を見てもゆりと何をしたかなんてさっぱりわからない。
「なんで触ったんだ」「泣かせたので仕方なく触ったんだ」
ハザークは酒を飲んで言った。
意味がわからん・・・
「別に触ってもどういう気にもならなかったが」
じゃあなぜ触るんだ・・・
ゆりにすればラクシュミの価値観は独特だが、ラクシュミにしても、このハザークの価値観は良くわからない。今まで何度となく一緒に酒は飲んではきたが、だからといって、ラクシュミはハザークの全てを理解しているわけではなかった。
ハザークの女性関係なども全く知らない。ハザークの力を得るために、交わった王妃が何人もいたということは話に
聞いていたが、それも、王妃とハザークがどういう仲だったのかということまでは知らない。
「王妃は鍛えればいい巫女になるかもしれないな」ハザークはラクシュミを見て言った。
「鍛えるって、どうやって鍛えるんだ」
「いろんな男と交わらせろ」
ハザークが少し笑みを浮かべていった。
「そんなことできるか」
「いい巫女になれる女は少ないんだぞ。もったいないな・・・」
「・・・」
ラクシュミははあと息を吐いた。
「第一ゆりは儀式では男と交わっては・・・」
「今度のぞいてみろ、絶対交わってるはずだ」
のぞけるわけないだろう！
ラクシュミはそう言う代わりにまたため息をついた。どうせいくら言っても話はかみ合わないとわかっている。
それよりも、ゆりにいろいろ触ったってのはどういうことなんだ。
どっちのゆりだ。
そっちも気になったのだが、なにやら怖い答えが返ってきそうな気がしたので、結局聞けなかったのだった。
おしまい