ある日の昼食時、ゆりは3人の子供達と一緒に食事を食べていた。

「お母さん、あれから神の国行った？ファティマどうなったの？」

ラギが聞いた。

「ああ、ガーベラ恋人達と元に戻ったよ。」

ゆりがスープを飲んで言うと、ラギが「よかったね」と言った。

「浮気してもすんなり許してあげたんだ。ガーベラ」

「別れたままもかわいそうだし、龍の国が攻めてきたら困るから、私がばっちり落し前つけてあげた」

「落し前って？」

シスが聞いた。

「ハロルドは軽くぶん殴ってきた」

ゆりのあっさりした言葉に子供達3人は目が点になった。軽く、といっても顔が腫れていたのだから全然軽くじゃないだ

ろう。

「ぶ・・・ぶん殴った？女神様がそんなことしちゃだめじゃないか」

ラギが驚いて言う。

「だってえ、ガーベラのプライドが傷ついたわけだし、あれくらいはしないとさあ」

「神の国でのガーベラの性格・・・変わっちゃってないかな・・・」

シスがぼそっと言った。

「まあたまには女もそれくらいしないとね」

アナスターシャが「ふーん」と言ったので、ラギはあわてて「姉さんは見習わないように」と言ったのだった。

第33話

神の国ではガーベラがお花畑で花の女神達と歌を歌っていた。美しい歌声にどこからともなく他の妖精達が集まってきて

きている。ガーベラは歌いながら少し離れた所にファティマがいるのに気づいた。じっとこちらを見ている。一緒に歌

いたいのだろう。花の女神というのは歌うのが大好きなのだ。

歌が途切れた時、ガーベラが言った。

「ファティマを誘ってあげなさい。あそこにいるから」

「ガーベラ様ったら、悔しくないんですか？」

と花の女神が言った。

「私はもう別に。あなた達も仲良くしてあげなさい。同じ花の女神なんだから。大体アシュランなんて娘が産まれるたび

にあーこの娘は今までで一番美しいっていつも言ってるじゃない」

「そーですけどー。」

と花の女神が唇を尖らせた。

「後で私が作った化粧水を一杯あげるから。ね」

「わかりました」

女神の一人がファティマを誘いに行き、ファティマはうれしそうな顔でやってきた。

「一緒に歌いましょう」

ガーベラが微笑んでいい、また大合唱が始まった。


思えば、私が産まれた時も結構いろいろあったなあ・・・

ガーベラはその時のことを思い出していた。ガーベラは森の木々の木漏れ日が集まってできた女神だった。

神の国も当初はこのように偶然産まれる神が多かった。美しい女神の誕生に男神たちは色めきたち、初めてガーベラを

見たヒルデリアの眉間には皺がよっていた。絶対アシュランが手を出すと思ったからだ。当初は自分の力をセーブする

こともよくわからなかったので、多くの男神たちの欲望が刺激されてこぞってガーベラに求愛したものだった。

その時すでにダーナは産まれていて、その中にはダーナの恋人達も入っていた。そこでダーナとガーベラがライバルの

ようになったのだ。

それはかなり昔の話で、今ではガーベラはダーナと仲良くやっている。

ファティマもその内にいろんなことがわかり、皆の輪の中にも入っていけるだろう。

ガーベラはそう思っていた。


歌が終わったあと、ファティマがガーベラに「相談があります」と言ったので、ガーベラは二人で違う場所へと

移動した。丘の上に二人で腰を下ろすと、ファティマが口を開いた。

「どなたを恋人にすればいいのかわからないんです。アシュラン様には早めに決めた方がいいといわれたのですが・・・

私には愛ってまだよくわかりません」

「そうよね。私にも未だによくわからないわ」

「え？ガーベラ様が？」

ファティマが瞬いた。

「愛って形のないものだからね。一番愛してくれる人が誰かなんて見極めるのも難しいし、とりあえず、この人となら

楽しくやれそうかなって人を選んでみたら？」

「楽しくやれそうな人？」

「一緒にいて楽しい人よ。楽しくないとつまんないでしょ？」

「はあ・・・」

「もちろん好みで選んでもいいけどね」

楽しい人・・・


「ガーベラ様は、私のこと、怒ってないんですか？」

「怒ってないわよ。」

ガーベラはカサンドラからパティウスが一枚かんでいたという話を聞いていた。

いたずら小僧がうまいことファティマをそそのかしたに違いないと思っていた。


二人の後ろの方にこっそりとクーリーフンともう一人、風の神がやってきていた。

風の神はウィルではなく、ウィルの息子ケルク、母親はもちろんダーナで青年の神だ。顔立ちはウィルに良く似ていた。

「ほら、ケルク、がんばれ！」

クーリーフンがケルクをこづいた。

「えーでも・・・僕がアリアス様らと張り合うなんて・・無理だよ」

「何言ってるのさ。最初からあきらめちゃだめじゃないか。君の笛で歌ってもらいなよ。花の女神は歌うのが大好き

なんだから。ほら」

クーリーフンは虹色に輝いている花をケルクに渡して背中をばしっとたたいた。


ケルクは思わず前につんのめり、そのまま前に歩いて行った。そして「ファティマ」と話しかけた。

ファティマが顔を向けた。

「あの・・・僕の笛で歌ってくれないかな？」

「あなたの笛？」

ファティマがケルクを見上げて言った。

「ケルクはとても横笛がうまいのよ。花の女神達もよくケルクの笛で歌うのよ」

ガーベラが言うと、ファティマは「そうなの」と言ってにこっと笑った。

そしてケルクが持っていた花を見た。

「綺麗ね」

「あげるよ」

「ありがとう」

ケルクがファティマの耳元に花をさしてあげた。

おやおや、これはいい感じじゃないの・・・


ガーベラは二人を置いてこっそり去って行った。

やがてケルクの笛の音にあわせてファティマが歌いだした。


二人はしばらく楽しそうに丘の上で過ごしたのだった。



ガーベラが神殿に帰るとクーリーフンがいた。

「クーリーフンったら仲を取り持ってあげたのね」

ガーベラがニヤニヤして言うと、クーリーフンが「何の事？」と言って返した。

「ケルクのことよ。愛の花をもっていたじゃないの」

虹色に輝く花はクーリーフンが渡したものだとガーベラは気づいたのだった。あれを異性から受け取ると相手のことが

気になってしまうという効果がある。

「二人は結構お似合いだからさ。花の女神は楽器の演奏がうまい神が好きだし」

「そうね。結構お似合いね。ケルクはいい子だし、あの二人がくっつけば丸く収まるわね」

若い者は若い者同士でいいかも



やがて何度か一緒に歌ったりして過ごした二人は本当にひっついてしまい、それを知ったダーナはびっくり仰天

だった。まさか自分の息子とくっつくとは思わなかったからだ。

そして、魅了の首飾りの効果をなくす腕輪をジェラルドに作ってもらったアリアスとジュライは、さあファティマに

会ってみようと思ったらファティマに「ケルクを恋人にすると決めました」とあっさり言われて目を真ん丸くしていた。


「私達は一体・・・」

「・・・」

「やーいやーい、お、まぬーけ二人組み♪」

後ろで子供の歌声が聞こえてきて、二人はきっと振り向いた。見るとパティウスが宙に浮いて笑っている。

「二人とも振られちゃったんだ。あははは、アリアスも振られることあるんだー」

アリアスの手の平にめらっと炎が浮かんだ。

「うあっ！」

パティウスはあわてて上の方へ逃げた。

「待て！こらっ！檻に閉じ込めてやる！」

「やなこった。あっかんべー！」

パティウスはさっさと逃げて行った。


「・・・ダーナに謝ろう」

アリアスがぼそっと言った。

「ああ、今回はすんなり許してくれそうもないが・・・」

二人はダーナの神殿に行き、許しをこうたのだった。

「ふーん、まあいいわよ。真実の腕輪と森の道しるべをくれるんなら許してあげる」

ダーナは二人に言った。どちらも神器で真実の腕輪はつけていると相手の嘘を見破り、森の道しるべは黄金の木の枝で

会いたい人を思い浮かべると、そこまで導いてくれるという効果がある。

「それが・・・ないんだ」

アリアスがぼそっと言った。

「なんでないのよ」

「人にやってしまった」

「誰に？」

「その・・・・」

アリアスが頭をかいていると、ふわふわ部屋に入ってきたウィルが

「さてはファティマにやってのはそれだなー」と言った。

「ファティマにやった！？」

ダーナの眉がつりあがった。

「いやーあの時は、なぜかそういう気になって・・・・」

「森の道しるべは？」

ダーナがきっとジュライを見ると、ジュライが「すまん」と言った。

「あんたらばっかじゃないの！？そんな大事なものをやるなんて！」

「いやーファティマはつい贈り物をしたくなる顔をしてるんだ」

「そのうちまたジェラルドに何か作らせるから」

「許してくれ、な」

「知らないわよ！」

「ダーナ！」

「お前ほど美しく寛大な女神はいないだろ？」

ダーナはぷんと横を向いてしまい、それっきり耳もふさいでしまった。

ケルクとファティマは森の中を手をつないで歩いていた。

「ねえ、本当に僕を恋人にしてもいいの？」

ケルクが聞いた。

「うん。だって楽しいから、一緒に飛ぶこともできるし、あなたの笛好きだし・・・恋人が大勢いると大変そうだから

一人でいいわ」

「そう」

ケルクがうれしそうに微笑んだ。

「ケルクは？これがなくても私のこと好き？」

ファティマは首の飾りに手を触れた。

「これってね、人を魅了する効果があるんだって、だから、もしかしたらケルクもこれのせいで私のこと好きになったの

かもしれないわよ？」

「僕は関係ないよ。最初に君を見たときは後ろ姿だったし」

「後ろ姿？」

「そうだよ。僕は、お花畑で歌ってる君の声を聴いて、君の事が好きになったんだよ。その時は顔も見てなかったけど、

きっと可愛い子なんだろうなって思った」

「そうなの。よかった。じゃあもうこれいらない」

ファティマは首飾りを外してしまった。

「外しちゃうの？」

「ケルクだけが私を綺麗だと言ってくれたら、それでいいわ」

「うん。君は一番綺麗だよ」

二人はもう一度手をつないで、にこにこしながら歩いて行った。



そしてアシュランの神殿では、アシュランがグレンからファティマがケルクと仲良くやってるという話を聞いていた。

「そうか。中々お似合いの二人じゃないか。爽やかそうでいいんじゃないか？」

アシュランが微笑んで言った。

「相手がアリアスやジュライじゃちょっと心配だからな。二人ならすぐ浮気しそうだし」

「お二人もアシュラン様には言われたくないと思いますが・・・・」

思わずグレンが言った。

「何を言う。私の浮気は、神を増やすためのものだ。いわば神の国のためにやってるんだ」

「はあ」

「恋はいいもんだ。お前もたまには誰かに恋焦がれてみたらどうだ？」

「遠慮します」

「楽しいのになあ。お前は人生の半分を損してるぞ。たまには女の尻でも追いかけろ」

「・・・」

グレンがさすがに無言でいると、アシュランの後ろのカーテンがぱっと開いてヒルデリアが現れた。

「女の尻とか聞こえましたが・・・今度はいづこの女の尻を追いかけるつもりで？」

「何を言ってるんだ。女神の中でも、お前ほど美しいお尻の女はいないじゃないか。」

アシュランが全く動じずに微笑んで言った。

「話しをすりかえて・・・」

「すりかえてなんていないぞ。若い恋人達が誕生した事だし、二人で乾杯でもしようじゃないか。さあ」

アシュランはヒルデリアの腰に腕を回してそのまま違う部屋に連れて行った。

後ろではグレンが苦笑している。


こうして、一部の大人をのぞいて花の女神の件は一応決着がついたのでした。



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