「シャナーン様最近なんだか変ねえ」

「口数も少ないし・・・」

「ふさぎこんでおられるみたい・・・」

シャナーンの様子は、シャナーンの彼女達も心配していた。なにせシャナーンはわかりやすい。

機嫌が良い悪いは彼女らは顔を見ただけですぐわかってしまうのだ。

「最近どうも王妃様にお会いしてないみたいよ」

一人が言った。

「どうして？もしかして来るなって言われたのかしら」

「まさか、あの礼儀正しいシャナーン様がそんなこと言われるはずないじゃない」

と一人が反論した。

「そうよね。ありえないわよね」

「何かして差し上げたいけど・・・出すぎたまねをすると怒られるかしら・・・」

「そうねえ・・・シャナーン様が暗いと私達まで悲しくなっちゃうわ」

4人は一様にため息をついた。


第37話

ゆりはシャナーンからの手紙を受け取って以来、何度も手紙を読み返していた。もしかして読んだ内容は気のせいかも

と思ったが全然気のせいではない。当たり前だが、何度手紙を読んでも内容が変わることはなかった。


ああ、まさかシャナーンがそんな風に思い悩んでいたなんて・・・私は一体どうしたらいいんだろう・・・

かわいそうなシャナーン・・・


ペンを持ち、便箋に何か書こうとしたが、何を書いていいやらわからなかった。


ー愛してます。王妃・・・


思えば、シャナーンはいつも私を一番に思ってくれていたなあ。私ったら軽く聞き流していたけど、

いつも本気で言ってくれていたんだよね。


今までのことを思うと目に涙がにじんでくるゆりだった。


シャナーンも生身の男なんだね。

こんな風に素直に自分の気持ちを言ってくれてるんだから、私も何か言ってあげないと・・

軽蔑してないよって。


でもそう言うだけじゃだめね。私のシャナーンに対する態度もはっきりさせないと。


こうなったら・・・・


私から襲う？じゃなくって迫る？

私だってシャナーンのこと好きだし・・・でも素で迫るのも恥ずかしいなあ。

酒でも飲んで・・・いや、それはまずいな。誰か降りてきたら困るし・・・


しかし私からその気にさせちゃっていいのかな。いくら蛇の国の価値観でもどんなもんなのかなあ・・・

若い男にまで手を出すなってヤジが飛んできたりしないのかな。


ちょっとジュメに相談してみよう・・・



次の日の朝方、ジュメが部屋にやってきた。

「おはようございます。王妃」

「おはよう。ごめんね呼び出したりして」

「いいえ。」

ゆりはジュメと向かい合わせて座り、さっそくシャナーンのことを相談したのだった。

「シャナーン様はとっくに恋人だと思ってましたが、違っていたんですか」

「いや、どっからが恋人かって聞かれると微妙だけど、一度儀式して、それからは何もないよ」

「そうなんですか・・・」

「シャナーンの気持ちを受け入れていいもんかどうか迷ってるの。まだ若いし、シャナーンの彼女らもみんな

若いでしょ？若い子らはどう思ってるのかなあ。」

「確かにシャナーン様の彼女らは皆若いですけど、別にどうも思ってないと思いますよ。第一シャナーン様のほうが

王妃を好きなんですから。それは皆知ってますし。」

「内心は嫌だと思ってるかもよ？」

「たとえそうだとしても、王妃はそんなこと気にしなくていいんですよ。」

「でもお、王妃様ってのは皆の模範にならなきゃいけないし・・・大勢恋人がいるのに、これ以上増やすのかって

思われるのも困るよ。」

「そんな事思う者はいませんよ。一番重要なのは周りの者の考えではなく、王のご意見ですよ。王がいいとおっしゃられ

ているのなら、周りがとやかく言うことではありません」

「いやーそれはそうだけど・・・ジュメはイシュタールと私のこと、本当にむっときてない？」

「むっとなんてしてないですよ。メリッサが産まれたのは王妃のおかげじゃないですか」

ゆりは一瞬上を向いてジュメを見て、「なんで？」と聞いた。

「えっと・・・戦でイシュタール様が命を落とされたかもしれないということですよ」

もう一人のゆりの事を言えないジュメはあわてて言い訳した。

「はあ」

「王妃がシャナーン様を男として受け入れる気持ちがあるのなら、受け入れてあげてほしいです」

「うん・・・そうだね。私の好きにしちゃおうかな」

「好きにしちゃってください」

よし、決めた！


ゆりはジュメと別れてシャナーンに手紙を書いた。すぐに話したい事があるので次の休みに部屋に来てほしいと。

返事は次の日の朝帰ってきた。


今日の3時ごろ伺います。そう書かれていた。


「きょきょきょ、今日？！」

ゆりの素っ頓狂な声に侍女がびっくりして顔を向けた。


今日かあ・・・こりゃいきなりだあ・・ど、どうしよう・・・


いざとなるとどきどきして落ち着かない。


「どうなさったんですか？ゆり様」

ゆりが突然部屋の中をうろうろしだしたので、侍女が不思議そうに聞いた。

「え、あの、今日3時ごろシャナーンが来るから」

「そうですか」

き・・・緊張してきた・・・・

ああどうしよう・・・


ゆりはそわそわ落ち着かず、昼食ものどを通らないほどだった。


とりあえず身体洗っておこうかな。何があるやらわからないし。

って私その気満々じゃん。


ゆりが部屋を出た所で、侍女が早足で近づいてきた。

「お手紙ですよ。王妃様」

「ありがと」

ゆりは廊下を歩きながら封筒を破って中に入っていた便箋を出した。そしてそれに目を通したのだった。

「・・・・」

ゆりは便箋を封筒にしまい、廊下をそのまま歩いて行った。


そして浴室で身体を洗ってから再び部屋に戻ってきた。


ああ、胸がすごくどきどきするなあ・・・

自己暗示をかけよう。

私はガーベラ。美しいガーベラ。


落ち着きなくそわそわしていたら部屋の扉がノックされた。


きたー！！！


扉を開けると、そこにシャナーンが立っていた。

「王妃・・・」

「入ってシャナーン」

ゆりはシャナーンを部屋に入れた。

ゆりも緊張していたが。シャナーンの顔もこわばっていた。

「王妃、すいません。あんな手紙を出して・・・」

「ううん。素直に言ってくれてよかった。私ったら全然そういうの気づかなかったから」

「軽蔑してないですか？」

「うん。ねえ、シャナーン横の部屋いこうよ」

ゆりが右の方を指指した。

「え・・・」

「横に部屋があるの。連れて行って」

「はい」

隣の部屋のほうに移動して、ゆりはシャナーンに抱きついた。

「お、王妃・・・」

「思いの丈をぶつけてちょうだい。どーんと」

シャナーンはきょとんとした顔をしていた。

「シャナーンを軽蔑なんてするわけないよ。私だって、清楚な王妃様じゃないし・・・せめてシャナーンの前だけは

そうありたかったんだ。だけど、シャナーンがそれ以上を望んでいるなら、それでもいいよ。シャナーンのこと好き

だから」

「本当にいいんですか？」

「うん」

「本当に？」

シャナーンが切なげな表情でゆりを見ていた。

「あなたが男だって感じさせて」

「・・・」

シャナーンはゆりの髪をなでて顔を寄せて、唇を合わせた。

ああ、すっごいどきどきばくばくだ。


「愛してます。王妃」

シャナーンはゆりをぎゅっと抱きしめた。


「ベッドに連れて行ってもいいですか？」

「うんっていうか自分で行く」

ゆりはベッドに乗って布団の中に入った。

「来て来て」

ゆりが呼ぶと、シャナーンは微笑んでベッドに上がった。

「シャナーン、もう知ってると思うけど、私7人も恋人がいるんだよ」

「知ってますよ」

「その上ハザーク様もいるし」

「はい」

「それでもいいのね？」

「はい」

シャナーンは再びぎゅっとゆりを抱きしめた。


「脱がしてもいいですか？」

「うん。でもあんまり裸見ないでね」

「どうしてですか？」

「恥ずかしい・・・」

今日はワンピースを着ていた。背中にファスナーがあるタイプで。シャナーンはゆっくりとファスナーを下に降ろして

いった。

「すごく緊張してる」

「私もですよ」

ゆりは自分でワンピースを脱いだ。

「シャナーンも脱いで」

「はい」

ゆりは裸になり、上半身裸になったシャナーンに抱きついた。


「なんだか儀式の時よりもたくましくなったね」

「そうですか？」

「うん・・・」

シャナーンはゆりを横たわらせて、ゆりに口付けながら肌に触れていった。

あ、なんだかシャナーンの目つきが変わった。男の目になってる・・・


見つめられてどきっとしてしまった。


肌に舌が這う感触がする。

胸を優しくなでられて、胸にキスされた。

「綺麗ですよ。とても・・・」

私よりもシャナーンのほうがずっと綺麗・・・


ゆりは目を閉じて優しい愛撫に身を任せていた。


やがて足を広げられて「わっ」と目を開き、足を閉じた。

「だ、だめ、足広げちゃ」

「だめなんですか？ここにも口付けたいんですが」

「いい、シャナーンはそんなことしなくていいから」

ゆりは真っ赤な顔で言っていた。

シャナーンは瞬いている。

「とりあえず今日はだめ」

「わかりました」

シャナーンはゆりを抱きしめて口付けた。

「ねえ、シャナーン、下も脱いでいいよ」

「ですが失礼があっては・・・」

「シャナーンにすっきりしてほしいの」

「すっきり？」

「え・・・あの・・・」

言い方まずかった？


「ちゃんと私に興奮してるかどうか知りたい」

「興奮してますよ」

「本当？」

シャナーンはベルトを外してズボンをぬいだ。そして下着も脱いで裸になった。

ゆりはついまじまじと裸を見てしまい、横を向いた。

確かにシャナーンの身体は興奮状態だった。

「ねえ、抱きしめて」

「はい」

シャナーンは身体を寄せて、ゆりと一緒に寝転んだ。ゆりはそっとシャナーンの胸に手を這わせて、下のほうへ

手をずらした。シャナーンの手がゆりの太ももの間に入ってきた。

「私も触れていいですか？」

「うん」

二人は口付けを交わしながら、互いの体にふれあい、やがて果てたのだった。

シャナーンはそれでも、ゆりに口付けて舌をからめていた。

ああ、なんだかすごく抱かれたくなってきた。やばいやばい。


身体はすごく興奮状態になっている。

今日はこの辺でやめておこう。


「シャナーンもう・・・は、離して・・」

シャナーンは身体の中をまさぐっていた指を離した。

「もっと王妃を気持ちよくさせたいんですが・・」

「今日はもういっぱいいっぱい。」

「はあ・・」

「シャナーンって、なんだかすっごい色気があるんだもん。ちょっとくらっときた」

「くらっときたんですか？」

シャナーンが笑って聞いた。

「うん」


うーん。シャナーンに男の目で見つめられると、かなりくらくらっとくるなあ。びっくりした。


「愛してます。王妃」

「うれしい。」

ゆりはシャナーンの胸に寄り添っておなかに見える薄い紺色の蛇をなでた。

「手の蛇、結構大きくなったね」

「そうですね。かわいいですよ。とても」

シャナーンの右手の紺色の蛇は、今では腕の方まで尻尾がのびていた。最初の時よりかなり大きくなっている。


「一つお願いがあるの」

「なんですか？」

シャナーンがゆりの髪をなでながら聞いた。

「彼女、大事にしてあげてね。」

「彼女」

「じゃないと、私後ろめたくてシャナーンとこんなことできないから。」

「はい、わかりました」

浴室に行く前もらった手紙は、シャナーンの彼女からのものだった。

『王妃様へ、シャナーン様が最近元気がありません。どうか王妃様のお力で元気にしてあげてください。

シャナーン様は、子供の時から、本当に王妃様のことが大好きなんです。どうかよろしくお願いします』

それには名前は何も書いていなかったが、ゆりはぴんときた。きっとシャナーンの彼女がくれたのだろうと。


まあ、後ろめたいことは後ろめたいけど・・・ここで引いてシャナーンを悲しませるのもやだし。

ごめんね。みんな。こんな王妃様で。


「何を考えてらっしゃるんですか？」

シャナーンがゆりを見つめて聞いた。

「ん？なんでもないよ。このまま眠ってもいい？」

「いいですよ」

ゆりはシャナーンに抱きついたまま目を閉じた。

しばらくして、ゆりが目を開けた。左目は蛇の目になっていた。

「王妃・・・すいません・・」

シャナーンは目を細めて言った。

「どうして謝るの？」

「どちらの王妃も望んでしまったからです」

「ふふ・・・シャナーンって本当はとっても貪欲な人でしょ。そういう男の方が好きよ」

ゆりはシャナーンに顔を近づけて、頬にちゅっとキスした。



こうして、とうとうゆりはシャナーンを恋人にしたのだった。


その夜ー

「ねえ王様」

ゆりはベッドに寝そべったラクシュミに話しかけた。

「ん？」

「シャナーン恋人にしちゃった」

「そうか」

予想通りたいした反応は返ってこなかった。まあラクシュミにすれば今更だが。

「恋人が８人になった」

「後２人いればきりがいいな」

「そういう問題じゃないよ・・・」

「お前は人気があるからな。近づきたい男は多いんだぞ。本当に」

「いいよもう・・・」

「シャナーンはずっとお前を熱烈に想っていたようだからな。まあ、男たちは皆平等に扱って

やるんだぞ。けんかしないようにな」

平等にって言われても・・・


「私もお前のような人気のある王妃がいて鼻が高いな」

本気でそう思ってるのかな。どうも怪しいけど・・・


「王様本当に私のこと愛してる？」

「愛してるぞ。それじゃおやすみ」

ラクシュミはあっさり言って目を閉じた。


王様ってば相変わらずつれないんだから・・・


まあいいか。



ゆりも目を閉じて眠りについた。



次の日、シャナーンはどこかすっきりした表情でいた。自分の彼女を見かけると笑顔で挨拶するほどで、

彼女らは「ああよかった」と皆胸をなでおろしたのだった。



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