「本当にこの子ってば幸せそうな顔して寝るよねー」
ゆりがベビーベッドでお昼寝中のナナミを見下ろして言った。ロイはどこかに遊びに行ってしまい、いない。
ナナミはお昼寝が大好きなので毎日眠っているがロイは昼寝が嫌いらしい。双子でも違うものだ。
「本当ですね」
横にいた侍女が言った。
毎日顔を見ていると、ああ、私の子供だ、とじょじょに実感できるようになっていた。
子供らとの生活は結構楽しい。5人ともまだまだ子供なのでこれから成長を見守っていけるのはうれしい限りだ。
どんな大人になるのかな。髪は私と同じ色だけど、他にも似た所があるのかなあ。それとも王様似の美少女かな。
ゆりは想像を膨らませた。
第41話
「ミカエルってばまーだうっとおしい顔してるのー？気が滅入るー」
むっとして言ったのはアナスターシャだった。
「すみませんね。うっとおしい顔で」
とミカエル。
「だめだよ。そんな事言っちゃ。ミカエルは母様を愛してるだけなんだから」
アナスターシャの横にいたシスが言った。
「父様は普通じゃない」
「父様は普通を装ってるだけだよ」
二人はそろって机に向い、ミカエルの歴史の授業を受けていたのだった。魔法の授業の先生は主にハインリヒだが、
他の授業の先生は毎回バラバラだ。蛇の国の歴史だけでも15000年以上あり、歴史の勉強は本当に大変だった。
いちいち覚えてられないとアナスターシャなどはぶつぶつ言っている。
「ミカエルなんてまだましじゃないの。最初の頃出会ってるんだから。私らなんて全然覚えてもらってなかったんだからね」
アナスターシャが口を尖らせて言った。子供らにとっては、自分との今までの時を忘れられているというのはかなり
悲しいことだった。
「そうだよ。元気だしなよ」
とシスにまで慰められるミカエルだった。
「どうもすみません。所でもう一人の王妃の様子はどうですか？」
「あまり出てこないよ。戸惑ってるみたい。僕らにどう接していいのかわからないんじゃないかな」
「そうですか・・・」
「今の母様には全然冗談が通じないからつまんないなあ・・・」
アナスターシャがぽつりと言った。
「その内元に戻るよ」
とシス。
一生王妃があのままだったら、私はもう二度と赤い月を女と過ごす元気がないかも。
ミカエルはチラッと思ったのだった。
「どうですか。王妃、その後の様子は」
その日、フレイがゆりの様子を見に来ていた。
「あまり変わらないよ。時々ポッと思い出すけど、全体的には全然。あ、ラギがおなかにいる時すごく太ってた
夢みたの。」
「そうですか。確かにあの時はかなり太られましたからね。」
「ラギはあんまり力がないんだってね。」
「その代わり、ラギ様はとても賢いですからね。」
「そうだね。なんでも良く知ってるよ。びっくりする。木や草や花の名前全部知ってるんだよ。」
「医学に関する事も結構勉強されてますよ。本当にラギ様は勉強熱心です」
「すごいね。将来は学者か先生がいいね」
「まー」
部屋の中に突然ナナミが現れた。
「あ、ナナミちゃん、来たのねー」
ゆりは近づいてナナミの脇をくすぐった。ナナミがきゃっきゃと笑っている。
「お菓子たべよー」
「お菓子？いいよー」
「ついでに侍女に頼んできますよ」
「ありがとう」
フレイが出て行き、ゆりはナナミの脇の下に両手を入れて上に上げてぐるぐる回った。
「きゃはは。」
「ナナミはもうすぐ３歳になるね」
「あい」
「いい子いい子。ロイはどこ行ったの？」
「わかんない」
ゆりはナナミと一緒に運ばれてきたお菓子を食べた。
「おいしい？」
「おいちい」
「よかったねー」
「あい」
かわいい。
上の3人も可愛いことは可愛いいが、やはりこのくらいの小さい子の方が見ていて面白い。
お菓子を食べた後、ナナミがうとうとしてきだした。
「眠いの？お部屋行こうか」
「まーと一緒にねる」
「じゃあ、まーのベッドで一緒に寝る？」
「うん」
ナナミがうなずいたので、ゆりはまだ午前中だったがナナミと一緒にベッドに行った。
ベッドに横になるとナナミはすぐに目を閉じて寝てしまった。
すごい早業だ。
ゆりは隣に寝転んで、ナナミのおなかをなでていた。
上の3人にもこういう小さい頃があったんだよね。同じように可愛かったんだろうな。
それを思うと、思い出してあげたい気がするな。
男の人達の事だって、別に無理やり何かされたわけじゃないだろうし・・・
忘れたままでいいなんて思って悪かったかな。
記憶が戻っても、私がしっかりしてればいいんだし、やっぱり記憶を取り戻す努力をするべきかな。
ナナミの寝顔を見つめながらそんなことを考えていた。
子供達や王様と思い出話ができないのが寂しいもんねえ。
ゆりは眠くはなかったのだが、ナナミに連れられてその内に眠ってしまった。
気づくとゆりはナナミをだっこしてどこかにいた。
城の中でも庭園でもない。別の場所だった。
太陽の光がまぶしい。
目の前に立派な屋敷が立っていた。
「ここは・・・」
「あ、トーのおうちだ！」
ナナミはぴょんとゆりの腕から飛び降りた。
「ナナミ！」
そして瞬間移動して消えてしまった。ゆりはぼんやりとその屋敷を見上げていた。ヨーロッパ風の屋敷で
屋根の部分は緑色をしていた。とても綺麗な屋敷だ。扉には蛇の彫刻が見える。
見覚えがある。この屋敷・・・どこで？わからない・・・
どこからか楽器の音色が聴こえてくる。
ゆりがいたのは正門の内側だった。横の方から裏手に向けて綺麗な花壇が見える。
ゆりはそちらの方に歩いて行った。
「トー」
ナナミは声を発して庭にいた男に近づいて行った。
「おや、ナナミ様じゃないですか。久しぶりですね」
男は持っていた竪琴を白いテーブルにおいて、ナナミの側により、抱き上げた。
「だいぶ重くなりましたね。」
男は優しげに言っている。
「お母様はお元気ですか？」
「マーも一緒」
「え？」
その時、男の視界にゆりの姿が見えた。
「ゆり様・・・」
「・・・・」
男を見たとたん、ゆりの瞳から涙が流れてきた。男は緑色の長い髪をしていた。背が高く優しげな風貌をしている。
服装も向こうの男には見かけないような優雅な感じだった。白いシャツの胸元にはひらひらしたものがついているし、
ズボンも濃い緑の単色ではなく、細かい模様がついていた。白い靴もぴかぴかだ。
「驚いた。ゆり様じゃないですか。まさか一緒にいらっしゃるなんて！」
男はナナミを抱いたままゆりのすぐ側に移動した。
ゆりはすぐ側で男を見つめた。口元に両手を当てている。涙がとめどなく流れて止まらない。
「ゆり様・・・とてもお会いしたかったですよ・・・」
男の手がゆりの頬に伸びた。男の瞳からも涙が流れていた。
「ごめんなさい・・・あなたが誰なのか、思い出せない・・・」
ゆりが涙ながらに言った。
「え？」
「記憶をなくしてしまったの。」
「そうなんですか？」
「だけど・・・涙が止まらない・・・」
「マー？」
ナナミが不思議そうにゆりを見た。
「私は・・・・」
その時ゆりははっと目覚めてしまった。周りを見ると自分の部屋だ。ナナミは目をぱっちり開けていた。
誰なのあれは。とても懐かしくて・・・胸が痛い・・・
あそこはどこ？
ゆりの瞳からはぽろぽろと涙がこぼれていて、ナナミがつられて泣き出した。
「わーん。マーが泣いたー」
ナナミがわんわん泣き出して、ゆりがナナミを抱きしめた。
「ねえ、あれ、だれなの？」
「トー」
「トーの名前は？」
「えーと・・わかんない」
「分からないの？」
その時シスがやってきた。
「どうしたの？ナナミが泣くのを感じたけれど」
「不思議な夢を見たの。夢の中で、誰かに会ったの」
ゆりはシスを見て言った。
「誰かって？」
「分からない。緑色の長い髪で、あの人も私を知ってた。ゆり様って言ってた」
ゆりが泣きながら言った。
「すごく懐かしかったの・・・派手な服装してた。あ、そうだ、フリットみたいな感じの人」
「もしかして、ディランかな？」
「ディラン？あの人どこにいるの？もう一度会いたい」
「あの人は、過去の人なんだよ。現実に会うことはもうできないよ」
シスが優しく言った。
「どういうこと？」
「最初から全部説明してあげるから。落ち着いて母様。先にナナミを部屋に連れて行くから」
シスはナナミを連れて移動した。
ディラン・・・・ディラン・・・
思い出せない。だけど、懐かしい・・・過去の人ってどういう事なの？もう死んだ人？
やがて、シスと一緒にハインリヒもやってきた。
「ハインリヒ・・・」
「ハインリヒも関係のある人なんだよ。だから来てもらったんだよ」
ゆりは椅子に座り、シスから説明を受けた。
自分がシスと一緒に過去に行ってしまったこと。巫女として呼ばれて、儀式をしなければならなかったこと。
そこで出会った男達のこと。
「僕らがいたのはあのお城だよ」
シスが壁にかかってある城の絵を指指した。
ゆりはその絵を見つめた。大きくて優雅なお城を。
「ハインリヒは僕らが帰ってくる時に、一緒に来てくれた人なんだよ」
「・・・思い出しそうで思い出せない・・・」
ゆりは頭を抱えた。
「そうだ。過去の男達からの手紙や贈り物がありますよ。」
ハインリヒが言った。
「どこにあるの？」
「そこらの引き出しじゃないかな？」
シスがいい、ゆりは引き出しの中をあちこち探してそれらしき物を発見した。
「そこにおいてあるオルゴールもそうですよ」
ハインリヒが棚の上にあるオルゴールを指して言った。
「手紙があった。読んでみる」
ゆりは大事に布にくるまれていた手紙を取り出して読んだ。
『ゆり様、
あなたに出会えて本当によかったと今でも思っています。
女王以外の女性にこのように切なく、愛しい気持ちを感じられることができるとは、思いもしませんでした。
短い間でしたが、あなたとの日々は私の宝物です。一生忘れません。
あなたが常に幸せであるようにと祈っています。
ドルイド』
ドルイド、ルーク、レイアス、フークス、そしてディラン・・・
どの手紙も自分を思いやる心にあふれていた。ゆりは手紙を読みながらも涙が止まらなかった。
「顔が浮かびそうなのに浮かんでこない。皆にもう一度会いたい」
ゆりは手紙を胸に抱きしめた。
「うーん・・」
シスがハインリヒを見た。
「もう一度ナナミ様と一緒に寝たら行けるかもしれませんよ」
「そうかなあ。僕も何度かドルイドにあったことあるけど、でもしょっちゅうは会えなかったし・・・ちょっとラギに
相談してみよう」
シスは姿を消した。
「泣かないでください。王妃、皆も悲しみます」
ハインリヒがゆりの頬に触れて涙をぬぐった。
「だって・・ここにいる人には会えるけど、この皆には会えないのに顔もわからないなんて、申し訳ない」
その時ゆりは猛烈に記憶を取り戻したいと思ったのだった。
会えないまでも、せめて一生覚えていてあげたい。
その時ぱっと映像が浮かんだ。
『この曲だけは、ずっと覚えているからね。』
横でディランが微笑んでいた。どこか寂しげに。
『私も、この曲を奏でるたびにあなたの事を思い出すのでしょうね・・・』
「私、ディランに竪琴教わってた？」
「そのようですよ。ディランとレイアスは竪琴が得意でしたから、二人に教わってましたよ」
「・・・・」
やがて、３人の子供達がやってきた。
「今晩試してみようよ」
といきなりラギが言った。
「試す？」
ハインリヒが聞く。
「姉さんや兄さんも何度か夢の中で過去に行った事あるから、皆で引っ付いて眠ってみれば、もしかしたら過去に
いけるかもしれないじゃない」
ラギの目が輝いていた。ラギはちらっと過去の世界の夢を見た程度だったので、過去の世界に行ってみたかったのだ。
こうなると好奇心が押さえられない。
「でもそんなにうまくいくかなあ」
アナスターシャが言った。
「まあ、何事もやってみないとわからないよ」
「みんなでって、５人でひっついて寝てみるの？」
ゆりが聞いた。
「そうだよ。僕らとナナミと母さんと」
「私も混ぜてください。皆に会いたいです」
ハインリヒが言った。
「じゃあ６人で」
こうして、「皆で引っ付いて夢で過去に行こう」という作戦が立てられた。
ゆりの寝室にはベッドが二つ並べられて、夜、子供達とハインリヒが私服のままやってきた。
ゆりも私服だ。寝間着で向こうに行ったら恥ずかしいからだ。
「なんだかどきどきしてきた。眠れないかもよ」
アナスターシャが言った。
「一応ベッドの脇に眠り香炊いておくから」
とラギ。
こうして、ベッドの上にゆり、ナナミ、アナスターシャ、ラギ、シス、ハインリヒの順で並んでひっついた。
「わーいみんなでねんね」
ナナミは一人喜んでいる。いつも皆広いベッドで一人眠っているので、皆でひっついて眠るというのも微妙な感じ
だった。
ナナミ以外は興奮して眠れなかった一同だったが、その内に香のせいで眠くなり、眠ってしまっていた。
だが、夢でどこかに行くということもなく、普通に朝を迎えてしまった。
「失敗だったね」
シスが言った。
「一度や二度の失敗でくじけちゃいけないよ。」
とラギ。
「あーせまかった」
アナスターシャが文句を言った。
「今度は明日の午後に試してみよう」
ラギはやる気満々だ。なにせ実験が好きなたちだ。
「まだやるの？」
「いやなら姉さんはいなくてもいいよ？」
「やだ。入るわよ。じゃあ明日の午後ね」
アナスターシャは自分の部屋に戻って行った。
「がっかりしないで、母様」
シスがゆりを慰めるように言った。
「うん。大丈夫よ」
こうして何度か日を空けて作戦が実行されたが、過去の世界にはいけなかった。
ああ、どうせなら王妃にくっついて寝たいもんだが・・・
男の子にくっついているとなんだか自分が変人になった気分になってくる・・・
シスにくっついていたハインリヒは内心思っていた。
「ぼくも、ぼくも」
なにやら兄や姉らが楽しい事をしてそうだったので、それを知ったロイも一緒に寝たいと言い出した。人数は7人に
増えていたが、それでもそれぞれ過去とは関係ない夢を見るくらいだった。
「なかなかいけないですねえ」
とハインリヒ。
「いーや！まだまだ！」
ラギはまだあきらめてない。
ゆりもいろんなことを思い出そうと努力してみた。ミカエルやフリットを呼んで過去の話を聞いたり、ユリウスやジェ
ノサイド、ジュメに出会ったりもした。ハインリヒに過去の世界での話をもっと詳しくしてもらったりもしたのだが、
さすがのハインリヒも儀式の事まで細かく言うこともできない。
ゆりは断片的にはいろいろ思い出したのだが、まだまだ欠けている記憶の方が多かった。
そしてその後、８度目の作戦が行われた。その日は午後のお昼寝タイムの時間で、一同は香をたいて引っ付いて
眠った。
そしてようやく光り輝く世界へと、ゆりは再び行けることができたのだった。
「わー！城だ！懐かしい！」
シスが歓声をあげた。
「すごい！なんて綺麗なお城なんだろう・・」
ラギもぼんやり見つめている。どうやら全員ちゃんとこれたようだった。ハインリヒもアナスターシャもいる。
シスがロイをだっこしていた。
「おっきい！」
ロイはお城を見てびっくりしている。
一同が来た所は城の横の庭園のようだった。周りには一般市民のような人たちはいるが見知った顔はいないようだ。
ゆりは絵と同じ城をじっと見つめていた。実際に見ると感動する。
ここに女王様が・・・
「思念が通じるかな？呼んでみましょう」
ハインリヒが皆に思念を送ってみた。
「あ、通じましたよ。皆来ますよ。王妃」
ゆりはどきりとした。アナスターシャがゆりがダッコしていたナナミを受け取った。
やがて、一人二人と男達がやってきた。
「ゆり様！」
「本当にゆり様だ！」
やってきたのはルークとレイアスだった。
「お元気だったですか？ゆり様！」
レイアスが思わずゆりを抱きしめた。
「・・・レイアス・・・ルーク・・・皆、皆会いたかった！」
ゆりの脳裏に怒涛のように記憶が押し寄せてきた。
「ゆり様・・・」
「ドルイド！」
「ゆり様！」
ゆりはぴょんとドルイドに飛びついてドルイドがゆりを受け止めた。ゆりの左目は蛇の目に変わっていた。
「ゆり様、お会いしたかったですよ。本当に」
「私も・・・」
ゆりはドルイドと額をくっつけてキスまでしていた。
子供達はそんなゆりを、涙ぐみ、微笑ましく見つめている。
「久しぶりですねえ。アナスターシャ様」
フークスがアナスターシャを見て言った。
「はい、おかげで古代叙事詩、結構覚えました」
アナスターシャが微笑んだ。
「そうですか。シス様もお元気そうですね。こちらがラギ様」
フークスがラギを見た。
「はい」
「あなたの蛇は私の子供ですよ」
フークスがラギの手を見て言った。
「本当ですか？」
「はい、わかります。そしてあの時おなかにいらしたお二人ですね。皆かわいいですね」
ゆりはディランと抱き合って泣いていた。ドルイドが「元気そうだな」とハインリヒに言った。
「ああ、向こうで元気にやってるよ」
とハインリヒ。ドルイドはシスの手を取り、手の平にいる蛇をなでた。
「子蛇が産まれたことは知っていたんだな」
「ああ、シス様とであったときに教えていただいた。びっくりした。」
「ハインリヒはすっかり地味になったね」
フークスが笑って言った。
「せっかくだから陛下に会っていきなよ」
「そうだな。皆さんも陛下に会いに行きましょう」
ハインリヒが子供達にいい、子供達と一緒に移動した。
ゆりはしょっちゅう左目を変えながら男達と泣きながら抱きあっていた。
過去の全ての事が懐かしく思い出される。
楽しかったことも。
悲しかった最後の儀式の事も。
私、皆のことが本当に好きだった。
「ナナミの蛇はディランの蛇の子供だったのね」
ゆりがディランを見て言った。
「はい。うれしいですよ。あなた方とつながっているようで」
「私もうれしい。皆にちゃんと報告したかった。子供が一杯生まれたよって」
ゆりの涙は止まることはなく、男達もそれぞれ泣いていた。
「ゆり様・・私は今でもゆり様のことが好きですよ」
「ルーク・・・私も、皆のこと今でも好きだよ。ルークの蛇が一番やんちゃなんだよ。しょっちゅう移動して、もらった
人がびっくりするくらい」
「そうなんですか・・・」
「みんな・・・元気でよかった・・・」
うれしい。皆に出会うことができて。
本当にうれしい・・・
男達とそれぞれ抱き合ったり手を握ったりしていると、やがて子供達とハインリヒが帰ってきた。
子供達は興奮してる様子で頬を紅潮させている。
「あ、そうだ」
ゆりはアナスターシャからナナミを受け取り、背中の服をめくって金色の子蛇を見せた。
「かわいいですね」
とディラン。
「お母さんと同じ色なんですね」
フークスも目を細めて言った。
「ロイはね、ハインリヒの子蛇なのよ。見せてあげて」
シスがロイのズボンをぺろっとめくった。おしりに黒い蛇がいる。
「ははは、かわいいですね」
レイアスが笑って言った。
「子蛇をもらった人達は皆力上がったんだよ。皆本当に喜んでるよ」
「我々もうれしいですよ。」
ディランが言った。
「ゆり様と一緒にいたことの証ですものね。」
とフークス。
「あ、そろそろかも」
とシスが言った。
身体が薄れていく気がした。
「それじゃあ皆元気でね、女王様にもよろしく言っておいてね」
「ゆり様も皆様もお元気で、ハインリヒも！」
「お元気で！」
「うれしかったですよ。とても！」
ゆりも皆も手を振りあいながら、ゆり達一行は消えてしまった。
男達の胸には、なんともいえない切ない気持ちだけが残された。
「変わらないですね。どちらのゆり様も・・・本当に可愛いらしくて・・・」
レイアスがぽつんと言った。
「そうだね。」
とフークス。
「ハインリヒ様もお元気そうでよかったです」
ルークが言った。ドルイドは無言で涙をぬぐっていた。
「また来てくださるかなあ・・・」
「お元気ならば・・・それでいいさ」
ディランが言い、男達はそれぞれの場所へと移動して行った。
ゆりが目覚めるとすっかり夕方だった。部屋の中は薄暗くなっている。
「母様、記憶戻ってよかったね」
アナスターシャがうれしそうに言った。
「うん。心配かけてごめんね。」
「女王様に会った時御子様も見せていただいたんだよ。２歳になっていたよ。かわいかった」
シスが言った。
「そうなんだ。私も見たかったなあ。女王様もお元気だった？」
「うん。前と変わらずお元気そうだったよ」
「ピカピカだった」
ナナミが言った。
「ピカピカ」
ロイも言ってる。
「どこもぴかぴかだったでしょ。」
ゆりが微笑んだ。
「どうしたの？ラギぼんやりして」
アナスターシャがぼーっとしているラギに聞いた。
「僕女王様を見ただけで感動して泣いちゃったよ。いやーすごいなーさすが古代の女王様だなーああ、この感動を
日記に書いておこう」
ラギはベッドから降りて走って行った。
「・・・ラギって私の記憶の事よりも、ただ過去に行きたかっただけなんじゃない？」
ゆりが思わず聞いた。
「そんなことないよ。一応母様の事心配してたし」
とシス。
「よかったね。ハインリヒ」
ゆりが言うとラギ同様ぼんやりしていたハインリヒが顔をむけた。
「はい。うれしかったですよ。再びお会いできるとは思ってませんでしたからね」
ハインリヒが微笑んだ。涙目になっている。
「私、王様に会ってくるね！」
ゆりも部屋を飛び出して行った。
「私もあの女王様を目標にがんばるぞー！おー！」
アナスターシャが片手をあげた。
「おー！」
ナナミもまねをしていた。それを見てシスが笑った。
「皆元気そうで本当によかった」
「そうですね・・・」
ハインリヒも宙を見つめて微笑んだのだった。そこには、麗しい女王陛下と王子の笑顔が浮かんでいた。
「王様ー！記憶戻ったよー！」
ゆりは王の間に入るなり声を上げて走って行った。
「本当ですか？本当に戻ったんですか？」
ラクシュミよりも先に一緒に王の間にいたミカエルが反応した。
「私と愛し合っていた事も思い出してくれました？」
「あなただれ？」
ゆりがミカエルを見て聞いた。ミカエルの顔が引きつった。
「ひどい王妃・・・」
「冗談じゃない。ちゃんと皆のことも思い出したよ」
ゆりは立ち上がったラクシュミに抱きつきながら言った。ラクシュミもゆりの背中に腕を回している。
「夢で過去に行けたのか？」
「うん。皆元気そうだった」
「そうか。」
ゆりの左目がぱっと蛇の目に変わり、こちらのゆりもラクシュミにぎゅっと抱きついた。
こうしてゆりは、記憶がない間の事も覚えていたものの、すっかり前と同じゆりに戻ったのだった。
その次の日、ゆりはハザークの塔へ行き、ハザークに会いに行った。
「記憶戻りましたよ。ハザーク様」
「王に聞いたぞ。よかったな」
「はい」
ゆりが棚の上を見ると、まだ蛇クッキーが飾られていたのでゆりはびっくりした。
あれから２月以上は経ってると思うけど・・・
近づいて良く見ると、クッキーの周りがちょっときらきらしている。
「これ、何かしてます？」
「色が変わってきたから魔法かけた」
「え・・・クッキーにわざわざ魔法を？だめですよ。もうポイしないと」
「もったいない」
「また作ってあげますからね」
「そうか」
「というわけでこれは捨てますからね」
ゆりは帰り際蛇クッキーを持って行き、捨ててしまった。
でもずっと飾っておくなんて、ハザーク様って見かけによらず結構可愛い所あるのね。
今度は小さいのだけ作ろう。
そう心に決めたゆりだった。
おしまい
すすむ