青い澄んだ瞳に見つめられるだけで、心はときめく

金の巻き毛　銀の微笑み

麗しきそなたのためならば

命さえも惜しくはない

歌っておくれ、愛の歌を

微笑んでおくれ　私のために



第42話

気づいたら、空には星と大きな三日月がきらめいていた。


あー久々に来ちゃった神の国。


ゆりは大きく息を吸って吐いた。清らかな空気を吸い込むだけで爽快な気分になる。


ガーベラは小高い丘に座っていたようだった。


座って星を眺めていたのだろうか。それとも、歌でも歌っていたのかな。ゆりはそんなことを思いつつ夜空を眺めていた。

帯のように星が集まって流れて見える。

天の川みたいね。本当に川のよう。ロマンチック〜王様と一緒に眺められたらいいのに・・・


ペガサスに曳かれた淡く光り輝く馬車が夜空を駆け抜けて行った。

こんな素敵な夜空を一人で眺めるのはなんだかもったいない。

ゆりは寝そべって星を眺めていたが、いつの間にやら目を閉じていた。


すっかり寝入ってしまっていたのだが、やがて唇に何かの感触を感じた。

唇に触れられてる？


それは人の肌の感触だった。

ゆりは目を開けたが、周りには誰もいなかった。


気のせい・・・かな？


ぽりぽりと頭をかいた。


そーだ。ジンラのところに行って寝よう。


ゆりはジンラの元に移動して、勝手にジンラの横に入って眠った。


「ガーベラ、朝だぞ。起きろ」

頬を優しくなでられてゆりは目を開けた。

「王様〜愛してる」

ゆりは寝ぼけ眼で目の前の男に抱きついた。

「何寝ぼけてるんだ？」

「ん？あれ」

まだ神の国だったみたい・・・

目の前にいたのはラクシュミではなくジンラだった。

「いつの間に来てたんだ？びっくりした」

「えへへ。せっかくだから抱きついちゃえ」

ゆりはそのままジンラに抱きついた。

「わっ！」


あーお久しぶりのジンラ様。

やっぱり素敵。



ジンラは金髪をなでなでしていた。


ジンラにひっついて寝室を出て行くとアマンザがいた。

「おはよう。あ、母さんいつの間に来てたの？」

「夜中に来たの。アマンザ〜かわいい。愛の抱擁してあげる」

「え」

ゆりは久々だったのでアマンザにぎゅっと抱きついた。

アマンザの頬がピンク色になった。

「照れちゃってもーうふふ」

「母さんったら・・・朝っぱらからからかわないでよ」

アマンザは身体を離して言った。

「アマンザも女にその気になるようになったのか」

ジンラが笑っている。

「違いますよ。もう。」

「アマンザってもっと大きくはならないの？」

ゆりはジンラを見て聞いた。

「さあな、気が向けば大きくなるんじゃないのか？」

「気が向けば？適当だね」

「僕は当分このままでいいですよ」

「そうなの？いい男になりそうなのにもったいないなあ」

ゆりは残念そうに言った。


二人はどうやらお仕事のようだったので、ゆりは神殿を出て行った。


そういえば、ガーベラの仕事ってなんだろう。今まで考えた事なかったなあ・・・

まあいいか。


ゆりはご機嫌でスキップしながらお花畑を通り過ぎて行った。

「おはようございます。ガーベラ様」

「今日もお美しいですよ。ガーベラ様」

行きかう妖精達が挨拶してくれる。

「ありがとう〜」とか「おはよう〜」と手を振りつつ、ゆりは森の中に入って行った。


かわいい動物さん達はいないかな〜？


「あ、リスだ。おいでおいで」

木の上にリスを発見して、ゆりは手招きしてみた。するとリスは木の枝を伝っておりてきて、手の上に乗ってきた。

「かわいい」

リスをなでなでしていたら、何かの楽器の音色が聴こえてきたのでゆりは耳をすましてそちらに行ってみた。

切り株に誰か座って何かを吹いているのが見えた。

笛でもないし・・・オカリナかな？


両手で収まるほどの大きさのものだ。素朴で優しい音色だった。


あれはだれだろう・・・


肩にかかる程度の金髪で額に青いバンダナをしている男だった。足元を見ると白い小さな翼がついたサンダルを履いて

いる。

音色がやんでしまい、男がこちらを見ているのが見えた。

あら、ばれちゃった。


ゆりは男に近づいて行った。


「ガーベラ様・・・」

オカリナを吹いていたのは伝令神グレンだった。

「素敵な音色ね。ねえ、それ見せて」

ゆりが手を出すとグレンがオカリナを渡してくれた。


向こうで見たのと変わらないなあ。懐かしいなあ・・・


手触りは土でできた素焼きで、白く色が塗ってあり、緑の葉の細かい模様がついていた。

ゆりはでかい切り株だったので男の横に強引に座ってオカリナに口をつけた。

「あ・・・」

「プープープー。あ、吹いちゃまずかった？」

「・・・」

男が目をそらしたのでゆりはオカリナの口の所を手で拭いた。

「ごめんね。これくらいで怒らないでよ。はい」

「別に怒っていませんよ」

男はオカリナを受け取ったものの目を合わそうとしない。

どうも気難しいたちらしいとゆりは思った。

「怒りんぼ」

「怒ってませんよ」

「ほんと？じゃあそのサンダルちょっと貸して」

「え？」

グレンがぎょぎょっと眉をひそめた。

「だって履いてみたいんだもん。かわいいし・・ちょっとだけ」

「・・・いいですよ。まあ少しだけなら」

グレンはゆりを見つめていい、サンダルの紐を外して脱いだ。

「わーい、ありがとう」

ゆりは自分のサンダルを脱いで翼があるサンダルを履いてみた。

「わーすごいかわいいねー」

そこらを歩き回っていると身体が浮いてきた。

「うわ、うわうわ。浮いてる！浮いてる！どうやったら下りるの？！」

「念じれば下りますよ」

「うーん」

下に行くように念じると身体が下に下りてきた。

「おもしろーい。いいなあ。私も欲しいなあ・・・」

ゆりはあたりをふわふわ飛びながら言った。向こうでは皆当たり前のように皆ふわふわ飛んでいるがゆりにはそんな

能力がないので楽しくって仕方がない。

「そろそろですよ。ガーベラ様」

グレンが立ち上がって言った。

「はーい」

ゆりは素直に下に下りてサンダルを脱ぎ、男に渡した。

「ありがとう。楽しかった」

「よかったですね」

グレンはサンダルを履いて「それでは私はこれで」と言って去って行った。

「さよなら。また貸してね〜」

ゆりは手を振って男を見送った。


あー楽しかった。



ゆりはそこで目が覚めた。

横を見るとラクシュミはいなかった。寝室には明るい日差しが降り注いでいる。どうやらかなり寝坊してしまった

ようだった。


一人で寂しく食堂で朝食を食べているとラギがやってきた。

「お母さんったら、いつまで寝てるのさ」

「いいじゃない。たまにはさー、久しぶりに夢の中で神の国に行ったんだよ。聞きたい？」

「別に」

「あんたってほんとかわいくないわねー」

ゆりが口を尖らせて言った。

「どうせ神の国でも遊んでたくせに」

「ぐ・・・そりゃそーだけどさー・・・・」

「もっと実のある話なら聞きたいけどー」

「じゃああんたが神の国に行ったら何するの？」

「そうだなあ。ジンラに会って、酒造り講座でもしてもらおうかな。」

ラギが上を見ながら考えるように言った。

「つまんない。」

「べーだ」

ラギは舌を出して出て行った。


全くかわいくないんだから・・・でもまあラギが突然かわいすぎても不気味だけどね。

でも楽しかったなあ。あのサンダル。また遊びたいな。あの人ちょっととっつきにくそうな感じだけど、

また頼んでみよう。


ゆりはのんきに思っていた。




神の国では、一頭の美しいペガサスが身をかがめて澄んだ湖の水を飲んでいた。湖の真ん中にある神殿には、

ハロルドとラクアがいた。ハロルドがラクアの神殿を訪問してきたのだった。

「珍しいね。どうしたの？」

ラクアが聞くと、ハロルドは渋い顔でたずねた。

「ラクアはあれからガーベラ抱いたか？」

「へ？」

「未だにガーベラから嫌がらせをされるんだ」

それでラクアはあれから、の意味を理解した。

「嫌がらせって？」

「抱かせないくせにたまに泊まっていくんだ。」

ラクアはぷっと吹き出した。

「あはははは」

「何もおかしくないぞ」

ハロルドは口を尖らせている。

「そういえばたまに会ってるけどあれから抱いてはいないなあ。いいなあ。僕も嫌がらせされたいな」

ラクアが微笑んで言った。

「一度や二度ならいいが、それが10回を超えると笑えないぞ」

「でもかわいいじゃないか。」

「このままじゃ欲求不満で他の女のところにいってしまいそうだ」

「ふーん。禁欲生活してるんだ。君って結構お盛んだったのに」

ラクアがにやにやしている。ハロルドは結構恋人が多かったので有名だった。本人が神格の高い神のため、女達も

恋人になりたがるというのもあるが、ハロルドの子供欲しさのためにヒルデリアが率先して女神をあてがっていた

というのもあった。キュリアが産まれてからはそういうこともなくなったのだが。

「その内に元に戻るよ。一途に想っていればさ」

「ガーベラは全然一途じゃないけどな」

その言葉にラクアがおかしそうに笑い「確かにね」と言ったのだった。



一方ダーナの方はといえば、アリアスらは未だにダーナに無視されていた。

「やれやれ、困った女だ・・・」

アリアスは自分の神殿でぶつくさ言っていた。

「困ったのはお父さんの方だと思うけど」

「右に同じー」

同じ部屋にはアリアスとダーナの娘達がいた。二人の間には結構娘がいるが息子は一人もいない。

「私恋人にするなら絶対浮気しない人にするわ」

「じゃあアシュラン様の血筋は排除？」

「当然」

「こらこら、だめだぞ。外でそんなこと言っちゃ」

アリアスがたしなめるように言う。

その時召使がやってきてアリアスにぼそぼそつぶやいた。

「やっとできたか」

部屋に入ってきたのはジェラルドの使いだった。使いの物はテーブルの上に大事そうにもっていた物を広げた。

「うわーきれー！！！」

娘達がテーブルの周りによって行った。

それは額にする帯と腰に巻く帯だった。女物で金色の糸が惜しみなく使われているため輝いて見える。

腰帯には花の模様が描かれていた。

さすがジェラルドが作っただけあって豪華すぎもせず、気品がある仕上がりになっている。

「どうだ？これでダーナの機嫌も直るだろう」

「綺麗ねーやっぱり恋人にするなら神格の高い神ね」

と娘の意見は変わっていた。


さすがのジェラルドも誰が頼んだものでもほいほい作ってくれるわけではない。そこは神格の高さがものをいっている

のだ。


「さっそくダーナのところに持っていこう」

アリアスは二つの帯を布に巻いて出て行き、娘達も付いて行った。

ダーナはアリアスから帯を受け取って内側の文字を見た。そこには「一番美しい女神へ」と書かれていたのだった。

お世辞だとしても悪い気はしない。

「つけてみてー」

「早く早く」

娘達にせかされて、ダーナは額の帯と腰の帯をつけかえた。

「わー素敵！」

「とても似合ってるわ！」

「本当？」

「さすが美しい」

とアリアスが言った。

美しい帯にも負けることはない。むしろ、ダーナの美をひきたてるようだった。


ダーナはくるりと回った。

「まあいいでしょ。許してあげましょ」

「本当か？」

「ええ。」

「そうか・・・」

アリアスが微笑み、娘達も微笑んだ。

やはり仲が悪いよりはいい方がいいに決まっている。

アリアスが棚の上に置かれていた竪琴に目を留めた。

「それは？」

「ああこれ？ジュライが今朝もってきたの。あなたと同じ。お詫びのしるし」

優美な曲線を描いた真っ白な竪琴だった。素朴だが品がある品だ。

ジェラエルドの奴・・・こっちを先にするとは・・・・


「聴かせて、お母さん」

「いいわよ」

ダーナは竪琴を取り椅子に座って奏でだした。その美しい旋律に、アリアスも娘達も、しばし耳を傾けたのだった。




一方人間界では、ゆりは午後シャナーンと出会って久々に神の国に行った話をしていた。

ラギと違ってシャナーンは何でも真剣に聞いてくれるところがうれしい所だ。


「それでね、翼があるサンダルを貸してもらってね、ふわふわ飛んだの。あの神様誰かなあ」

「翼があるサンダルといえば、伝令の神ですかね？アシュラン様とヒルデリア様の使いをしてる神ですよ。グレン様と

いいます」

「グレン・・・」

シャナーンを見るとニコニコ微笑んでいた。

「ごめんね。私ばっかりしゃべって」

「いいえ。王妃のお話を聴くのはとても楽しいですから」

ゆりも微笑んだ。

シャナーンってどうでもいい話も真剣に聴いてくれるところがいいなあ。


時々大人の瞳で見つめられるとどきっとする。

「ねえ、シャナーン、あっち行く？」

「いいんですか？」

「シャナーンに一杯口付けされたい」

「うれしいです。とても」

ゆりは移動させてもらい、シャナーンに一杯優しく口付けしてもらった。


「王様がね、一途な私は私らしくないって言うんだよ」

「え・・・」

「王様って変な人だよね。普通愛してる女が一途になってくれたらうれしいはずなのに」

「私としては、王妃に触れられなくなるのは悲しいですが・・・きっと我々の事を思って言ってくださったんじゃ

ないでしょうか」

「そんなことないと思うけどな。」

実はゆりが過去の男達と再会を果たして記憶を戻ったという話を聞き、うれしかった反面、ちょっと切ない気持ちにも

なったシャナーンだった。短い間だったのに、それほどまでに心が結びついていたのかと、思わされたからだ。


それほどまでの女性とわずかばかりの再会を果たしただけの男達の心情はどういうものだったのだろう。

想像するだけで胸が締め付けられるような気がしてくる。

肌の蛇も、たまには王妃の蛇を恋しがって泣くのだろうか。


年々大きくなる子蛇を見つめてそんなことを思うシャナーンだった。


「どうしたの？寂しそうな顔をして」

ゆりがシャナーンを見つめて聴いた。

「いいえ。もうすぐ梅雨に入りますね」

シャナーンは微笑んで言った。

「梅雨はいいけど・・・」

水蛇さん、降りてこなきゃいいけど・・・


ふとそう思ったゆりだった。




負けたくないです・・・想いだけは・・・


シャナーンはしばらくゆりの髪をなでていたのだった。



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