さて、その日神の国では、ガーベラの神殿に多くの女性の妖精が入れ替わり立ち替わりやってきておりました。
皆手には20センチほどの陶器の入れ物を持ち、それぞれ入れ物を一杯にしてはガーベラに御礼を言って去って
行ってます。それはガーベラが手作りの化粧水で、女性の肌を美しくする効果があるので妖精達や女神達も
時々もらいにくるのでした。今よりももっと美しくなりたい。女なら誰でも持ち続ける永遠の願望も
不老の神とてかわらずもっているようです。
西の聖域にあるガーベラの神殿にも美を求める女性信者達が遠くからやってきては魔法の水をもらって
いくのでした。時々その水瓶に美の花を入れるのはクーリーフンの役目で、そのためにクーリーフンは
たまに人間界に降りて行っているというわけです。
それがガーベラの仕事といえるものでした。
第43話
全ての妖精達が満足して神殿から出て行ったところでガーベラは神殿から出て行った。
「どこまでも澄み渡る空〜♪飛んでいるのは一羽の〜・・・あっ！」
気持ちよく歌いだしたら空を誰かが飛んでいるのが見えた。
それはグレンだったのでガーベラは条件反射のように近くの木の所までささっと移動して隠れた。
あーどうか私に用じゃありませんように・・・
ガーベラは祈るように念じつつ、ちらっと横を向いた。すると目の前にグレンがいたのでぎょっと飛びのいた。
「うわ、びっくりした！」
「どうしたんですか？」
「別にどうもしないわよ」
グレンはじっとガーベラを見つめている。いつも通り、ガーベラの美しさにでれっとする様子でもなく、
わずかな微笑みすらもない。ガーベラにすれば面白くもなんともない顔だった。
「何か用？」
「今日はサンダル貸してって言わないんですか？」
「サンダル？」
「・・・・」
ん？話が通じないわね。まさか・・あっちの時にグレンと接触したとか？
ガーベラはちょっとどきどきしながら思った。
「今日は仕事じゃないのならよかった。仕事以外の時くらいにっこり笑ったらどう？」
「・・・・」
「それじゃあ私はこれで」
そう言ってガーベラは逃げるように去って行った。
うーん。なんだかやばい感じね。まさか何かに感づいたわけでもないだろうけど・・・
冗談じゃないわよ〜
ガーベラは近くに寄ってきた白馬に乗り、そのまま移動した。
「お母さ〜ん、戻ってきたよ〜」
近くにクーリーフンが飛んできた。今日は小さい方になっている。
「ご苦労様。ねえクーリーフン、あっちの私になった時にさ、グレンに気をつけるように言ってくれない？」
ガーベラはクーリーフンに言った。白馬はパカパカ歩いたままで、クーリーフンは横に飛んできている。
クーリーフンはガーベラが時々違うのにすっかり気づいている。クーリーフンどころかアマンザも知っている。
「グレン？どうして？」
「さっきなんだかじろって睨まれたんだもん。あっちの時に会ったみたい」
「ふーん」
「アシュランに変な事でも言われたら困っちゃうわ」
「大丈夫じゃない？別に」
「そうなったら困るでしょ。所でグレンの愛する女って誰？」
ガーベラはちょっと顔を寄せて聞いた。
「さあ、僕知らないよ」
「またまた〜」
ガーベラには誰が誰を好きとか感じる能力はなく、自分が愛を振りまいて愛される女神なのだが、
クーリーフンにはそれを感じる力があるのだ。だから聞いたのだった。
「そんなの知ってどうするの？」
クーリーフンが無邪気に首をかしげて聞く。
「決まってるでしょ。いざって時には切り札に」
「だめだよーだ」
「あ」
クーリーフンはそのまま後ろの方に飛んでいってしまった。
つれないわねーまあ確かにそれって反則だけどね・・・
グレンが女にでれでれになった顔が見たい！あの無愛想な顔がどんな風になっちゃうのかね。
待てよ。相手が女とは限らないわけで・・・私にあれだけ無反応ってことは・・・もしかして相手は男
だったりして・・・
アシュランだったら超びっくり。
ガーベラはおかしな妄想に浸りつつも森を抜けて行った。
「そーだ、カサンドラのところにでも遊びに行こうっと」
その場所から近かったので、ガーベラは白馬に乗ったままカサンドラの神殿まで移動して
神殿を訪問したのだった。
カサンドラはタペストリーを製作している最中だった。
「おお、ガーベラ」
「こんにちは。遊びに来ちゃった」
「そうか」
カサンドラは微笑んだ。ガーベラは部屋に飾られているタペストリーを眺めた。どれも森の動物達や自然が
モチーフになっている。
「あちらの部屋に行こう」
「はーい」
ガーベラは付いていき、しばしカサンドラと歓談した。
謎といえばカサンドラの異性関係もガーベラには謎だったが、本人はあまり男という物に興味がないらしい。
それも昔アシュランに口説かれまくれて男が嫌になったとかいう噂だが、真相は謎だ。
自分が子供を産んだりするよりも、気に入った神に目をかけたりするのが好きらしい。
「ちょっと失礼する」
「はーい」
カサンドラは席を立ち、部屋を出て行った。
ガーベラは部屋の中の調度品を眺めていた。棚の上にユニコーンの木像が置かれていた。
前足をあげた躍動感あふれる姿だ。ガーベラは棚に近づいてしげしげと眺めていた。
その時、「ガーベラ」と声がかかり、顔を向けると土の神サントスが立っていた。
「来ていたんですね。ガーベラ」
「サントス、こんにちは」
サントスはガーベラに近づいてきた。ガーベラはおや？と思った。いつもは近づくだけで顔を真っ赤にしている
サントスだが、今日は違う。ただにこやかに近づいてきている。白い歯がきらりと輝いた。
「実はガーベラに聞いて欲しい事があるんです」
「なあに？」
「そこに座って」
サントスが白い長椅子を示したので、ガーベラはそちらに腰を下ろした。するとサントスが真横に座った。
どうしたのかしら、今日はいつになく凛々しいけど・・・
サントスはガーベラの片手をぎゅっと握り締めて、じっと見つめた。
「あなたの、微笑み〜こそが私の生きる〜糧〜♪」
サントスは手を握ったまま歌いだしたのでガーベラはびっくりた。
「どうか私のこの愛を〜♪受け入れて〜ください〜♪」
サントスは切なげに歌っていた。
「実は、私はずっと前からガーベラの事が好きだったんです」
歌っていたと思うとサントスは突然愛の告白をしだした。
「知ってたよ」
ガーベラはあっさり言った。
「本当に？」
「さすがに気づくよ。ふふふ」
「じゃあ、ガーベラは私の事どう思ってます？」
「どうってサントスのこと結構好きよ。触ろうとしたら逃げてたくせに」
「ガーベラ・・・」
サントスが顔を寄せてきた。今日はやけに積極的だなとガーベラが思っていると、
「わっ！」
という声がしてガーベラはそちらを向いた。部屋の入り口には驚いた顔のサントスが立っている。
「あれ？」
ガーベラが目の前のサントスを見ると、こちらのサントスは気まずそうに頭をかいた。
「な、何してるんです！カサンドラ！」
「カサンドラ？」
「もう少しだったのに・・・」
サントスはどろんとカサンドラの姿に変わった。
「私の姿で一体何を！！！」
「うーん。そなたがあまりにはがゆいので、かわりにガーベラをくどこうと」
「はー！？」
サントスは驚きのあまり倒れそうになっていた。
「ガーベラもサントスのことを好きだといってたぞ」
「えー！！！」
サントスの顔がみるみる真っ赤になっていく。
「余計な事しないでください。私は、私はそっと見てるだけで幸せなんですー！！！」
サントスは恥ずかしそうにどっかに走って行ってしまった。
ガーベラはぽかんとして座っている。
「困ったものじゃのう。ガーベラからちと積極的にいってやってくれぬか？」
カサンドラはガーベラを見て言った。そこでガーベラはぷっと笑った。
「まあ愛にもそれぞれだからね。その内にさっきみたいにくどいてくれる日が来るのかな？」
「あの様子では当分無理ぞ」
「まあまあ、あれはあれでサントスらしくていいと思うけど」
「そうかのう・・・はよ引っ付いてほしいのだが・・・」
カサンドラはぐちぐち言っていた。
ガーベラは神殿の外に出て、木の陰に座り込んでいるサントスを発見し、そちらに近づいた。
「サントス」
「ガーベラ！！」
サントスはあわてて立ち上がり真っ赤な顔をした。
「す、すいません。カサンドラが失礼な事をして・・・」
「ようやくサントスが口説いてくれたのかと思ったのに」
「え・・・」
ガーベラがにっこり微笑んだ。
「わ・・・私は・・・私は・・・」
サントスはうなだれてしまった。
「私は、あなたにふさわしくないです。あなたの恋人達のように麗しくないし・・・それに・・・」
「あなただって立派な神じゃない。かわいいし、あなたの想いが私をもっと綺麗にしてくれるのよ。だから
その内に男らしくくどいてね。じゃあねサントス」
ガーベラは手を振り去って行った。サントスもつられて手を振り、ガーベラの後ろ姿を見送った。
ああ・・・美しい上になんて優しいんだ・・・・ガーベラ・・・
そんなあなただからこそ・・・私は・・・
サントスは目頭を熱くして、ガーベラの姿が消えてなくなるまでずっと見つめていたのだった。
人間界、蛇の国では梅雨の時期に入っていた。今年は12の月に入ったとたんに雨が降り出し、それが梅雨の
入りになった。
「雨ザーザー」
「ザーザーだねえ」
窓辺でゆりにダッコされていたナナミが言った。
「トーあのね、ナナミさんさいになったの」
ナナミはゆりの横に立っているジュノーに言った。
「そうですね。３歳になりましたね」
ジュノーが微笑む。
「うれしくて皆に言ってるんだよね」
「パパにも言ったの」
「そうですか。」
「パパとおねんねしてくる」
そう言ってナナミは消えてしまった。
「ふふ・・・パパっ子ですねー」
ジュノーがおかしそうに言った。
「まあ王様は一緒にお昼寝してくれないもんね。」
とゆり。
「あの・・・王妃はまだ御子様作る気はないんですか？」
ジュノーが聞いた。
「別にどっちでもいいんだけど、最近は気ももらったりもらわなかったりだし・・・薄くなってるかな？」
「すごい時に比べればかなり。そろそろ王妃の蛇紋が恋しいんですけどねえ」
「儀式やりたいんでしょージュノーは」
ゆりは舌を出して長椅子の方に移動した。
「王妃が若い恋人にはまって相手してくれないんですもん」
ジュノーがゆりの横に座りながら言った。
「そ、そんなことないよ」
ゆりは思わず頬を赤らめた。
「これじゃあ儀式になってもあんまり相手してくれないかも・・・」
「そんなことないよー」
「本当です？」
「多分」
「いじいじ・・・」
ジュノーはいじけ顔でゆりを見た。
「私も普段ミカエル殿のように王妃に迫った方がいいのかな」
「いえ、ジュノーは今のままでいてね。ずっと」
「王妃のいけず」
ジュノーに手の平を爪ではじかれた。
「いたた。ジュノーってば今日は性欲満々なの？もしかして」
「そういうわけではないんですが、王妃にその内捨てられそうで悲しいんですよ」
「捨てたりしないよ。ジュノーの優しい顔がすごく好きだよ」
「本当です？」
「うん」
「なら口付けを」
ジュノーが顔を寄せてきてちゅっとキスされた。
「恋人が何人になってもいいですけど、たまにはかまってくださいね」
「これ以上は増えないよー」
「わからないですよ。」
何度かキスされていたらなんだか変な気分になってきた。
「やばっ」
ゆりはジュノーから身体を離した。
「どうしたんですか？」
「なんだか変な感じ・・・」
「水蛇さん来そうです？」
ジュノーが期待した顔で聞いてきた。
「もしかして・・・何か狙ってる？」
「いいえ。狙ってるだなんて。水蛇さんが降りてくればいいなーとひそかに願ってただけですよ」
「・・・」
ゆりの目尻がちょっとあがってきた。
「やっぱり降りてきたんですね。うれしいなあ」
ジュノーはゆりの手をなでた。
「うれしくないよ。今儀式して私に何の得もないのに・・・また遊び逃げされるじゃないの」
「水蛇さん、蛇呼ぶ以外に何かできないんですかね」
「うーん・・・」
『遊ぶ変わりに何かして！』
ゆりは心の内で訴えてみた。
『何かって？』
返答があった。
『蛇呼ぶ以外に何かできないの？』
『うーん・・・そうねえ、男一杯呼んでくれたら、面白いことしてあげる』
「男一杯呼んだら何かしてくれるって」
「じゃあ一杯呼びます？」
「うーん・・・」
たいしたことじゃないような気もするなあ・・・この際このままお帰り願いたいんだけど・・・
その時ぱっと部屋にヴィラとミカエルが入ってきてゆりはびっくりした。
「王妃、儀式やるんです？」
ミカエルがうれしそうに聞いた。
「え」
ジュノーを見るとにっこり微笑んでいる。
「最近ちょうどその気だったんですよ。王妃」
ヴィラも微笑んでいた。
「まだやるって言ってないのに！っていうかお仕事は？」
「王妃のお呼び出しの方が優先ですよ」
ミカエルが真顔で言った。
「王妃、せっかくだから男一杯でしましょうよ。ね」
ジュノーが甘えるようにゆりの腕を引いている。
「えー・・・」
「シャナーンも呼んでいいから」
「え！いいよシャナーンは！」
ゆりがあわてて言った。
「どうしてです？」
「どうしてって・・・シャナーンとはまだ純愛路線のつもりなのに・・・・」
ゆりの顔が引きつっている。
「恋人なら呼んであげないとかわいそうですよ。王妃」
ヴィラが言った。
「かわいそうって・・・かわいそうなのは私じゃ！」
「さあさあ、お風呂に行って遊びましょ〜」
「あー！！」
ゆりはジュノーに連れて行かれてしまった。
ヴィラとミカエルは顔をあわせた。
「男は８人でするのか？」
とミカエル。
「男一杯いたら面白いことがあるようですよ」
「面白い事？儀式ができるだけで十分面白いけど・・・王妃ってば、ほんと儀式好きなんだから♪」
ミカエルは消えた。
「まあ確かに・・・嫌いなら用もないのに儀式しないでしょうけど・・・すっかり人の良さにつけこまれ
ちゃって・・・まあそこが王妃のかわいい所だな」
ヴィラも笑いながら消えた。
こうして妊娠中でもないのにまたまた儀式をやる羽目になったゆりだった。
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