浴室に来てもしばらくぐちぐち言っていたゆりだったが、やがて丸い浴槽の中にお湯がたまっていくと、
目の色が変わってきた。じーと水が満ちていくのを見つめている。
半分ほどたまるともう中に入りたくてたまらない。
「もうだめだ。脱ぐ！」
ゆりは服を脱ぎ捨てて浴槽の中に入った。
「そうこなくちゃ」
とジュノー。
ゆりは素っ裸になってお湯の中で横になった。水蛇さんの影響のせいか身体が水の中に浸っているというのが
気持ちいい。水はゆりがいつも入る熱いお風呂ではなく、ちょっとぬるめになっていた。
「気持ちいいですか？王妃」
ミカエルが聞いた。
ゆりはじっとしている。
ヴィラはゆりが脱ぎ捨てた服をたたんで脱衣所に持って行った。
ゆりはお湯の中に顔をうずめたまま目を閉じている。
「そのまま死なないでくださいね。王妃」
ジュノーが言うとゆりはお湯から顔を出して、もう一度横になってしまった。
「ちゃんと皆来ますかね」
ジュノーが言った。
「来るだろう。」
とミカエル。男達はまだ服を着たままで水の中のゆりをじっと見つめていた。
黒い髪がゆらめいている。時折、水面に蛇のうろこのようなものがゆらめいて映っているのが見えた。
肌も水の中できらきら輝いている。
男達にとってはこれも胸が高まるひと時に違いなかった。
第44話
ゆりは顔を出して浴槽の中に座った。すっかり表情は落ち着いている。
「綺麗ですよ。王妃」
ヴィラが目を細めて言った。
「ねえ、シャナーンって本当に参加したいと思ってるのかな？」
ゆりがちょっと首をかしげて聞いた。
「思ってますよ。ここで遠慮するようじゃ王妃の恋人になる資格はないですよ」
とヴィラ。
「資格って・・・」
「遠慮するわけないですよ」
ミカエルが言った。
「純愛路線が・・・」
ゆりはまだぶつぶつ言っている。
「王妃は何か誤解してますよ？我々だって王妃に対しては純粋な愛情を抱いてるんですよ？」
ジュノーが言った。
「そうですよ」
とミカエル。ゆりはミカエルを睨んだ。
「ミカエルに言われても説得力ないよ。」
「欲望を満たすだけなら別に王妃じゃなくてもいいじゃないですか。」
「うー・・・」
ゆりは足を伸ばしてばしゃばしゃっと水を飛ばした。
「我々も入っていいです？」
ジュノーが聞いた。
「うん」
「それでは遠慮なく」
男達は服を脱いで下半身だけタオルで隠してやってきた。そして湯船の中に入った。
ゆりはジュノーの腕を引いて、やっぱり肩に両手を当ててジャボンと水の中に沈めた。
どうも沈めずにはいられないらしい。ジュノーは口からぶくぶく泡を出している。そして限界の所で水面から
顔をあげた。
「ふふふ」
ゆりはおかしそうに笑いながらジュノーの背中に腕を回して口付けしながらそのまま倒れこんだ。
今度はかなり長かった。やがて水面から顔をあげたジュノーは浴槽の縁にもたれてぜいぜい息を吐いた。
「次はミカエル」
ゆりはミカエルに身体を寄せた。ミカエルはゆりを抱きしめて唇を寄せた。
ゆりはミカエルの頭に手をあてて、口付けしたまま水の中に体を沈めた。
「楽しそうですね。混じっていいですか？」
ハインリヒがやってきた。
「どうぞ」
とヴィラ。
ミカエルは水から顔を出してもゆりとキスしていた。
手はちゃっかりゆりの胸に触れている。
「水も滴るいい男♪」
ゆりはミカエルの髪をなでた。
「こうやって見てるとうっとりする」
「もっとうっとりして下さい」
「次ヴィラ」
ゆりはさっさとヴィラの所に行ってしまった。
「つれないなあ・・・」
やがてハインリヒがお湯の中に入ってきて、ゆりがハインリヒと引っ付いていると、フリットとイシュタールが
一緒に服を着たまま浴室にやってきた。
ゆりはフリットを見て瞬いた。
「フリットの髪がない！」
「え？」
皆が一斉にフリットの髪を見た。
「それってかつらだったんですか？」
ジュノーが思わず聞いた。
「いやいやいやいや、これは地毛ですよ」
フリットが軽く自分の髪を引っ張りながら言う。
「ぐすんぐすん・・・ひどいい、私のお気に入りだったのにい・・・フリットはもう私のこと好きじゃないんだ」
ゆりは悲しそうに言っていた。
「すみません。ちょっと事故があったんですよ。私は全然切るつもりなかったんですよ」
フリットがゆりに近づいて申し訳なさそうに言った。
「ぐすん」
「その内また伸びますから」
「いじけた」
ゆりはお湯の中に入り込んでしまった。
「つけ毛したらよかったな。」
ミカエルが言った。
「つけ毛と言ってもほとんど燃やされてしまったし・・・」
その時ミルキダスがやってきた。ミルキダスは男達の微妙な表情を見て首をかしげた。
ゆりが顔を出した所でフリットが聞いた。
「水蛇さんは私の髪だけが気に入ってたんですか？」
「そうだよ」
とゆりがあっさり言ったのでフリットの顔がちょっと引きつった。
「そ・・・そうですか・・・」
フリットはがくりと脱力した。フリットにすれば自分を気に入ってくれてる女蛇がもちろん一番好きだった。
「嘘だよ。いくら髪が長くてもブ男じゃやだもん。フリットの顔も好きだよ。もちろん愛撫も♪今日はイシュタール
も中に入って」
ゆりはイシュタールを見て言った。
「私もですか？」
「うん。遊んでくれなきゃいや」
「わ、わかりました・・」
「それじゃ交代しましょうか」
ジュノーらは浴槽の外に出た。
「私は来たばっかりだからもう少し」
ハインリヒはゆりに引っ付いた。
フリットらが服を脱ぎに脱衣所に行った時、シャナーンが現れたのだった。
ゆりははっとしてシャナーンを見た。
「王妃、私も参加していいですか？」
「う・・・うん・・」
ゆりはうなずいた。
ゆりはちょっと気まずそうで恥ずかしげだった。
「あ、王妃が乙女になってる！」
ハインリヒがゆりの顔を見て言った。
「ひどい王妃、私にもたまには恥ずかしげに接してください」
「やだ」
「ひどい、王妃も誰かさん同様若いのに弱いんだ」
ハインリヒはぶつぶつ言っていた。
「誰かさんって・・・私じゃないよな」
とミカエル。
「いやあなたですよ」
とヴィラが言った。
「シャナーン私のこと嫌いにならないでね。絶対だよ？」
「嫌いになんてなりませんよ。王妃」
シャナーンは優しく言った。外野は無視して二人は見つめあった。
「じゃあ、水の中で遊ぼ」
「はい」
シャナーンは脱衣所に消えた。
ゆりの頬がちょっとピンクになっていたのでハインリヒが睨んだ。
ゆりが視線に気づいてハインリヒを見る。
「なによう」
「私にもたまにははにかんで欲しいなあ」
「べーだ」
ゆりは舌を出してすいすいと浴槽の反対側に移動してしまった。
「ひどい、王妃恋しさのあまり時を越えてきたのに・・・」
「嘘つけ。そんなこと一言も言ってなかったぞ」
ミカエルがつっこんだ。
「戦いばかりじゃ人生は空しいじゃないですか」
ハインリヒは湯船から出てフリット、イシュタール、ミルキダスが浴槽の中に入った。
「フリットまた髪伸ばしてね」
ゆりはフリットに抱きついて言った。
「はい。王子に燃やされなければ伸ばします」
やがてシャナーンもやってきて、ゆりはまた男達にひっついては水の中に沈めて遊んでいた。
それがあまりに長かったので、ミカエルが「そろそろ寝室に移動しましょうよ」と痺れを切らして言った。
「私としてはこれで終わりたいんだけど・・・」
明らかに素のゆりが言った。
「えー！」
ミカエル、ハインリヒ、ジュノーの３人が口を合わせて抗議した。
「何がえーよ。純愛はどこ行ったの？」
ゆりがシャナーンに引っ付いたままジュノーを見る。
シャナーンはゆりの身体を軽く抱きしめていた。
「どこにも行ってないですよ。私の想いは純愛そのものですよ」
ジュノーが微笑んで言った。
「私だってそうですよ」
とミカエル。
「私も純愛ですよ」
ハインリヒが続いて言った。
「私だって王妃に対する想いはいつも純粋ですよ」
ヴィラもついでに言っていた。
「・・・」
どこが？
「これって本当に純粋な感情だと思う？」
ゆりは思わずイシュタールの顔を見て聞いた。
「純粋な欲望だとは思いますが・・・」
イシュタールは素直に言った。
「だよね？」
「欲望と愛情は紙一重ですよ。それはシャナーンだってそうじゃないですか」
とミカエル。
「・・・」
ゆりがシャナーンを見ると、シャナーンはちょっと申し訳なさそうな顔をした。
「すみません・・王妃」
「ううん。シャナーンはいいの。」
「なぜに？」
「私を愛するあまりだから」
「私だって王妃を愛してますよ」
とミカエル。
「私だって愛しまくってます」
とハインリヒ。
「私も」
ジュノーがいい、ヴィラは「右に同じ」と言った。
ゆりがフリットらを見ると、
「愛してます。王妃」
とフリット、イシュタール、ミルキダスの3人が口をそろえて言った。
「まあいいか。それじゃ移動しよう。」
ゆりは開き直って言い、一同は体を拭いて寝室へと移動したのだった。
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