「皆来て来て〜」
ゆりは食堂にいた子供達を廊下に呼んだ。
「何〜？あ！天馬だ！」
「うわー！」
「どうしたのこれ！」
白・茶ペガサスは勝手にとことこ廊下を歩いている。子供達は３人共歓声をあげながら近づいて行った。
「かわいいでしょ？もらったのー」
ゆりは得意げに言った。
「ヒヒーン」
「かわいいー」
アナスターシャはペガサスの背中をなでた。
「すごいなあ。僕初めてみたよ。もらったって誰から？」
「誰って神様からもらったのよ」
ラギの問いにゆりがずばり言った。
「えー神様がなんでくれたの？これってまさか神の国から来たの？」
「そうよ。」
「神の国にこういうのいるんだ・・・」
ラギが驚いたように言った。ゆりが神様からもらった、という事についてはあんまり驚いていないようだ。
今までが今までなので多少の事には子供達も驚かなくなっている。
「不思議そうな顔してるね。びっくりしてるのかな？」
シスが言った。
「この子はペガサスと普通の馬が交わった子なんだって。だから神の国には置いておけないんだってさ。鳥の国に
落とすって言ったから、もらっちゃった。」
「へー、そうなんだ。確かにこの天馬にガーベラとかが乗ってたら、ちょっとがっかりだよね」
とラギ。
「そんなこと言っちゃかわいそうでしょ。」
アナスターシャが言った。そこにロイとナナミがやってきた。
「うわーあれ何何？」
「馬、馬」
「ペガサスよ。後で遊ぼうね。ねえ、近くに厩舎あったでしょ。連れて行ってくれない？」
「いいよ。世話も頼んでくるよ」
シスがペガサスに触れて移動した。
「人間界のえさで大丈夫かな？」
「普通の馬と一緒でいいって言ってたよ。名前あなた達で考えてね」
「まー触りたい。馬」
ナナミがゆりのスカートを引っ張って言った。
「後でね。ご飯食べてからねー」
「はーい」
「大人になったら乗れるかなあ？」
アナスターシャがわくわくして聞いた。
ペガサスはまだ小さく、翼もそんなにでかくないので今は人が乗るのは無理だろう。子供なら乗れるだろうが。
「さあね。ずっと小屋の中にいたはずだから、まだ飛んだことないよ、きっと。練習すれば飛べるかもね」
「うーん。だけどあれに乗って飛んでもあんまり優雅じゃないね」
やっぱりラギが言ったのだった。
第48話
クーリーフンが部屋に入っていくと、ガーベラは椅子に座って自分の髪を整えていた。
「お母さん」
「あら。クーリーフン」
「お母さんハロルドの子供産んだんだよー」
「え！？」
ガーベラはぎょぎょっとのけぞった。
「いつの間に・・・・」
「男の子だよ。かわいかったよ」
「へー・・・男の子かあ・・・」
ガーベラは微笑んだ。
それにしても恐るべき出産率ね。もしやヒルデリアの加護でもついてるんじゃないのかしら。
「ってことはハロルドともうラブラブになっちゃったのね。ちょっとつまんないかも」
ハロルドをいじめるのが快感になっていたのでその手はもう使えないのか、と思うと、ちょっと残念なガーベラ
だった。
「とにかく見てこようっと♪」
「空の神殿だよ」
「ハロルドもいる？」
「いるよ」
「じゃあすぐ移動しちゃおう」
ガーベラはハロルドの元に移動した。
「相変わらず物事にこだわらない主義だよね。母さんって」
クーリーフンが苦笑交じりに言ったのだった。
プライドの高い女神ならば自分の体を一時でも貸す事なんて絶対にしないだろう。
自分の恋人と仲良くなって子供が産まれても逆に喜んでいる。それだけ時々くる女性に親近感を覚えている
のか、もう一人の自分だと思っているのかはクーリーフンにも良く分からない。
ただガーベラが妙なスリルを感じているのは確かだった。
次は何をしでかしてくれるのかとどきどきらしい。
まああっちもガーベラになりきってるしね。
変なペガサスもらったみたいだけど、ハロルドにもらったのかなあ。
ちょっと探りをいれといた方がいいかな。
クーリーフンは神殿から出てぱたぱた飛んで行った。
「あら、かわいい」
ガーベラはジェイクを見て歓声をあげた。
「かわいーハロルドの子供とは思えなーい」
思わず抱きしめて言うと側にいたヒルデリアに睨まれた。ジェイクはちょうどガーベラの胸の下に顔を押し付け
られていたが、頬は赤くなっている。
「ハロルドって産まれた時このくらいだったっけ？」
ガーベラが聞くとヒルデリアは微笑んだ。どうやらご機嫌らしい。
「ちょうど同じくらいであった。ハロルドはすぐに大きくなってしもうたがジェイクはどうであろうなあ」
神々の成長速度は個人差がある。産まれる時の大きさもばらばらだ。
ちょうど悪さし放題の時ね。とガーベラは思ったが言わなかった。
「ジェイク、お母さんにキスして」
ガーベラがしゃがんで言うと、ジェイクは頬にちゅっとキスしてくれた。
「お母さんっていい匂いだね」
「ありがと」
ガーベラもジェイクの頬にキスした。
「本当にハロルドの小さい頃にそっくりじゃ。懐かしいのう・・・」
ヒルデリアは目を細めている。
ガーベラは部屋の隅っこの方にいるキュリアを発見した。
「あれ、どうしたのキュリア。うれしくないの？」
ガーベラはキュリアの側に寄って行った。
兄弟ができてさぞかし喜んでいると思っていたが、むすっとした顔をして妙に不機嫌だ。
「どうしたの？」
ガーベラがキュリアの頭をなでた。
「妬いてるんじゃないのか？ジェイクばっかりかまうから」
ハロルドが言った。
「おや、キュリアも可愛いことに変わりはないぞ？」
ヒルデリアが言う。
「そうよ。キュリアのことだって愛してるのよ」
とガーベラが言うと、キュリアは涙目になり口をへの字に曲げた。
「わー！！！私ねえたまなのに！これじゃねえたまじゃないよう！」
キュリアはわあわあ泣き出してしまい、ガーベラはびっくりした。
「確かに弟の方がでかくなっちゃったもんねえ」
「やだあ。大きくなりたい！」
キュリアは地団駄を踏んでいる。
「うーん。ヒルデリア、ちょっと大きくしてあげてくれない？」
ガーベラはヒルデリアを見て言った。
「そうじゃのう。」
「あまり早く大きくしたくないんだが・・・」
ハロルドは嫌そうだった。
「ハロルドったら、ジェイクと同じくらいにするだけよう。まだまだ恋人なんてできないから」
ガーベラが笑って言うとハロルドは口を尖らせている。
「ジェイクと同じくらいならいいでしょ？」
ガーベラがキュリアに聞くとキュリアはうなずいた。
「まあ良いであろう。少しくらいなら。おいで、キュリア」
「はい」
キュリアはヒルデリアの前に移動した。ヒルデリアがキュリアの頬を両手で挟み、額をくっつけた。
すると、キュリアの姿は大きくなり、ジェイクと同じくらいの大きさになったのだった。
「わーい。これで私がお姉さん」
「服着替えなくっちゃ、おいで」
ガーベラはキュリアを別室に連れて行った。
「子供が増えてよかったのう。ハロルド」
「ああ」
「お父さん、僕も剣が欲しいな。剣の使い方教えてね」
「ああ、いいとも」
ハロルドが微笑んで言った。
やはり男の子だと女の子とは違う楽しみがあるものだとハロルドは思った。
やがて服を着替えたキュリアがガーベラと一緒に戻ってきた。
「二人ともかわいらしい」
ヒルデリアは満足げだった。
「ねえ、乾杯しましょうよ。」
ガーベラがいい、ヒルデリアの侍女らによって別室に酒宴の準備がなされたのだった。
その場にはアシュランもやってきていた。
「おや、キュリアも大きくなったんだな。」
アシュランがキュリアに気づいて言った。
「ジェイクはハロルドよりはだいぶおとなしそうだな。ハロルドなんてその頃は血気盛んで大変だったがなあ」
「もうその話はいいだろ。大昔の事だ」
ハロルドが渋い顔で言った。
その場には楽の女神達もやってきて楽器の演奏をしてくれた。ガーベラもハロルドの横でご機嫌で歌を歌っている。
その場にクーリーフンがやってきてハロルドを呼び出した。
「なんだ？」
「さっき変なペガサス見たんだけど、ハロルドがくれたの？」
クーリーフンは小声で聞いた。
「ああ、あれか。そうだぞ。ガーベラが欲しいというんでやったんだ。自分で人間界に連れて行くとか言ってたが」
ハロルドも小声でささやいた。
「そうなんだ。わかった。ありがと」
クーリーフンは微笑んだ。
「おや、キュリアも大きくなったんだねえ」
クーリーフンがキュリアに気づいて近づいて行った。
「そうなのよ。にいたま。あっ！」
キュリアはしまったと口に手をあてた。
「ふふふ」
クーリーフンはおかしそうに微笑んだ。
「僕、お母さんが産んだほかの兄弟に会いたいなあ」
ジェイクが言った。
「僕が今度紹介してあげるよ」
「ありがとう」
「ねーハロルロ」
「ん？」
ガーベラがハロルドの腕に腕をからめた。
「なんだ。酔っ払ってるのか？」
「ハロルロ〜キスして〜」
表情はご機嫌だが頬はほんのり赤くなり、目はちょっとうつろになっている。
「ガーベラ・・・」
ハロルドはそんなガーベラの姿にかなりむらむらきてしまった。
「こら、私の前でいちゃつくな」
アシュランが二人を見て言った。
「向こうで酔いを醒まそう」
ハロルドはガーベラを抱き上げて違う部屋に連れて行った。
「キュリア、一緒に踊ろうよ」
「うん」
クーリーフンはキュリアの手を取り、楽器の演奏にあわせて踊りだした。
「ヒルデリア様、僕も、僕も踊ってみたい」
「私とかえ？ほほほ。よいとも」
ヒルデリアはまんざらでもない様子でジェイクに踊りを教えだした。
しばらくはヒルデリアの機嫌もよさそうだ。よかったよかった。
アシュランは二人を見つめつつ、にんまり笑ってうなずいたのだった。
一方、ガーベラを別室の方に連れて行ったハロルドだったが、何かしようかなと思ったときにはガーベラは
ぐーと寝ていたのだった。
まあいいか。さっき結構したし・・・
「むにゃむにゃむにゃ・・・」
ハロルドはガーベラをベッドに寝かせて、しばらく横に寝転んで寝顔を見つめていたのだった。
すすむ