人間界では２の月も半ばに差し掛かっていた。ゆりは例年通りご機嫌で赤い月の前の月を過ごし、子供達と遊んだり
ミカエルに迫られたりしていた。もう一人のゆりも恋人達とひっついたりと適当に過ごしている。時々ナナミと一緒に
寝ているゆりだったが、あれ以来過去には行っていない。偶然もそうしょっちゅうは起こらないようだ。
そんなある日、シャナーンがたずねてきたのでゆりは神の国の話をシャナーンに聞かせていた。もちろん温泉に入った事
もちゃんと報告している。更にゆりは前いた世界で、いかに向こうの国の人々が温泉を好きだったかをシャナーンに
熱く語っていた。シャナーンは興味深そうに聞いている。
「この国にも温泉があったらいいのになあ」
ここ蛇の国では温泉というものはあまりないようだった。
「犬の国には湯治場というのがあると聞いたことがありますよ。湯に浸かって病気を治す温泉が点在しているとか」
「え？犬の国にあるの？」
ゆりの目が大きく見開かれた。
「行こうなんて思わないでくださいね」
「わかってるよ。」
「王妃の夢は本当に面白いですね。王妃は心が神聖だから神の国にしょっちゅう行ってしまうんですね」
シャナーンはまぶしい微笑みを浮かべて言った。
「そんなことないよ。ガーベラに似てるって言われても、ただ恋人が多い所が一緒なだけだし、未だに何で行けてるのか
よくわからない。まあ私も勝手に楽しんじゃってるけど」
「周りの神々が違いに気づかないんですから、きっと王妃は性格もガーベラ様によく似てらっしゃるんですよ」
「あんまり似てないと思うけどなあ・・・所でシャナーン、抱きついちゃってもいい？」
「え？はい」
ゆりはそっと横からシャナーンに引っ付いた。
シャナーンの手がゆりの手の上に重なった。儀式で濃い仲にはなった二人だったが、しょっちゅう別室に行く事もなく
ただ寄り添うだけの日も多い。もう一人のゆりがシャナーンと引っ付いたりもしてるのだが。
もうすぐ赤い月、シャナーンが過ごす女の子達に、ちょっとジェラシー感じちゃうなあ。
その反面仲良くしてね、とも思うし、思いは複雑だわ。
シャナーンはちょっと頬を染めて微笑んでいた。
第54話
2の月に入り、ますますラクシュミは性欲から疎遠だった。この前ゆりがねだってからはさっぱりない。
来月の事があるのでゆりも別に文句を言ったりはしないのだが、その夜は頭をもたげてじーっとラクシュミを見ていた。
「なんだ？」
とラクシュミが聞いた。
「そんなに離れて寝なくてもいいじゃない」
広いベッドの右側にゆりを寝ていたが、左側の端の方にラクシュミは寝転んでいた。二人の間はかなり空いている。
そこまで離れなくてもいいだろうとゆりが思うのも無理はない。
「嫌ならそう言ってくれれば自分の部屋で寝るのに」
「一人になりたいわけじゃない。別にお前がいてもいいんだが、ちょっと離れて寝たい気分なんだ」
「はあ・・・」
「お前の事は愛してる。おやすみ」
ラクシュミは抑揚のない声で言って目を閉じた。
「おやすみなさい」
今更こんな事で驚きはしないけど、王様ってほんと感情の落差が激しい人よね。
いつも甘い関係だったら赤い月のありがたみがないけど。
ゆりは気にせずに目を閉じた。
すると、夢の中でゆりはガーベラに変わっていた。
やったあ。今日はジンラに会いに行こう。
川辺にいたゆりはジンラの元に移動した。ジンラはぶどう農園にいた。今日は葉っぱとつるだけで葡萄は全然見えない。
「ジンラ」
ゆりが寄っていくとジンラがゆりを見て微笑んだ。
「ガーベラ」
ああ、ジンラ今日も素敵。ジンラって苦労してない王様って感じよね・・・
ゆりはジンラの優しい微笑を見つめつつ思った。顔がよく似ているラクシュミとジンラだが、性格までそっくりと
いうわけでもない。ジンラはいつも温和な感じだ。
「私に何か用だったか？」
「ううん。会いたくなって来ただけ」
「そうなのか。悪いがこれから他の神と会う約束をしているんでな。行かねばならないんだ」
ジンラはゆりの頬をなでて言った。
「お、女の神じゃないよね？」
ゆりがおずおずと聞いた。
「女だが、お前が心配するような事はないぞ。じゃあな」
ジンラはゆりの頬に軽くキスをして行ってしまった。ゆりは紫色の長い髪をしばし見つめて見送った。
あーあ、もうちょっとラブラブになりたかったのに・・・熱い口付けをするくらいには・・・
ゆりもジンラと交わろうとまでは思ってはいなかったが、ラブラブになろうと思う時に限ってなかなかなれない
ものだ。ラクシュミがやたらそっけないのでジンラに甘えようと思ったものの、無理だったようだ。
「お母さん」
振り向くとアマンザが近づいてきていた。
「あら、アマンザ」
ゆりはせっかくなのでアマンザに抱きついた。するとアマンザが「わっ」と声をあげた。
「いきなりどうしたの？」
「別に、親子の抱擁をしようと思って」
ゆりがニコニコして言うとアマンザは頬を染めていた。
「ふふ、親子じゃない」
「いくら親子でも胸を押し付けられたら照れるよ。所でさ、火の妖精が母さんを探していたよ」
「火の妖精？」
「うん。火がない所を珍しくうろうろしてたよ」
「へー。なんの用かしら。」
火の妖精というとサラディンの神殿で出会った妖精だろうかとゆりは妖精の姿を思い浮かべた。燃えるような髪と瞳の
妖精だ。
「さあ、用までは言わなかったけど」
「どうやったら会えるの？」
「うーん。火をおこして呼びかけたら来るかもねえ。ちょっと来て」
「うん」
ゆりはアマンザと農園を越えて行き、ジンラの神殿の中に入って行った。アマンザは丸い石を二つとろうそくをもって
きた。
ろうそくをテーブルに置いて二つの石をカチカチとすり合わせると火花が飛び、ろうそくにその火が移った。
「お母さん顔寄せてみて」
「こう？」
ゆりはテーブルのろうそくに顔を寄せた。
「呼んだら来るの？」
ゆりは顔を寄せたままアマンザに聞いた
「むこうがすごく探してたら多分」
「へー。妖精さーん。私に何か用？」
ゆりが話し掛けた時ろうそくの火が異常に大きく燃え上がり、ゆりは驚いて後ろにのけぞった。見るとろうそくの上に
火の妖精が浮いていた。
「ああ、よかった。お会いしたかったんです。ガーベラ様」
それは男の妖精だった。
ゆりは驚いてのけぞったままの姿勢で固まっていた。
「母さん」
「ガーベラ様？」
「はっ！ああ、びっくりした。」
ゆりは胸を押さえつつ言った。
「もう妖精さんったら突然現れるからびっくりしたじゃない。鼻が焼けるかと思ったよ」
「すみません。」
「それでどうしたの？」
「実は、今日はサラディン様が出かけられているんです。湯浴みをされてもいいですよ。この前はだめでしたから」
「え・・・・」
横でアマンザは首をかしげていた。
「湯・・・湯浴み・・・」
温泉にまた入れる！入りたい！と思ったゆりだったがあれから全然恋人達とラブラブにはなっていない。
ああどうしよう。行きたい！でも！まあちょっとくらいならいいか。ぱっとお湯に入ってそれから誰かの所に行けば。
「この前素敵な歌を聴かせていただいたので、その御礼ですよ」
「本当？じゃあ行っちゃおうかな」
ゆりはあっさり温泉の誘惑に負けてしまった。いつ歌を聴かせたかという事までは頭が回っていない。
「ではどうぞ」
妖精が右手を出した。
「あの、ちょっと・・・」
ゆりが手を伸ばそうとした時、アマンザが口を挟み、妖精がアマンザを見た。
「なんですか？」
いくらなんでもそんな用件で火の妖精が母さんを探すってのはおかしいんじゃないのかな？
アマンザはそう思ったが、ゆりはすごくうれしそうだし、妖精も全然悪意はなさそうだ。
まさか火の妖精が母さんに何かをすることもないだろう。
アマンザはそう思い引き止めなかった。
「いえ、別に・・・」
「では行きましょう」
妖精はゆりの手を軽く握り、共に消えてしまった。
それにしてもなんで湯なんかに入りたいのかな？アマンザはゆりが消えた後も首をかしげていた。
「温泉、温泉♪たっのしい温泉♪」
ゆりはるんるんで岩風呂の中に入った。髪をぬらすと大変なのでまとめて岩の上に置かれている。
「あー気持ちいい。最高にいい。この前よりもちょっと温度低めかな？でもいいや」
熱ければすぐに出る気になるのだが、そんなに熱くなかったのでゆりはゆっくり湯に浸かっていた。ご機嫌になると
また変な歌を歌いだしている。その部屋の外では火の妖精が３人ほどいて目を合わせていた。
この前の歌とあまりに違っていたので妖精達は首をかしげている。
もちろん火の妖精がガーベラを湯に誘ったのにはわけがあった。全くの善意でこうしたわけではない。
不器用な主をどうにかしてほしかったからだ。恋に身を焦がすのは結構なことなのだが、相手が相手だけに火の妖精達も
応援するというわけにもいかない。ヒルデリアは非常に貞操観念の強い女神だったし、そういう妻の象徴のような存在
だったからだ。この世界には夫婦以外の者と肉体関係になることを禁じている一族などもいて、そこではヒルデリアは
大変崇拝されていた。ヒルデリアは自分の立場を護るためにも絶対に浮気などしない。
逆にサラディンとどうにかなった方が神の国は大変な事になる。アシュランは自分がいくら浮気しようがヒルデリアが
そうする事はよくは思わない。
自分の妻が寝取られたとあっては黙っていないだろうし、最悪の場合火の神が変えられるという事もありえるのだ。
ヒルデリアを愛していても他の女神を誘ったり遊んだりすればいいのだが、サラディンはそういう性格ではなかった。
どうにも恋に対しては真面目で一旦はまってしまうと他の女とどうこうなどと考えられないらしい。
長い間火の妖精達も仕方なく見守ってきただけだったのだが、ガーベラという女神が今までここに来た女神達と違って
いたので、もしかしたら何度かサラディンと会う内に何かが変わるのかもしれない、いや変わってほしい、と、そう
思うようになったのだった。
ガーベラとサラディンがくっつくまではいかなくても、相手が愛欲の女神だけに他の女性に目を向けるきっかけにでも
なれば・・・湯に誘った背景にはそういう淡い期待が込められていたのだった。
ほどなくサラディンが帰ってきて、ガーベラが来ていると告げられたサラディンは眉をしかめて湯浴み場に移動した。
「ルルン、ルルンル〜ン」
首を軽く揺らしながら湯に入っていたゆりは、「しつこい女だな・・」という声ではっと横を向いた。
そこにはサラディンがしかめっ面で立っていた。
「あら、早かったのね。お帰りなさい・・・」
ゆりは首まで湯に浸かって胸を両手で隠した。
「・・・」
「そんな顔しなくてももう出るから・・」
湯に入るくらいいいじゃない。もしかしてサラディンってすごい潔癖症とか・・・
ゆりは口を尖らせた。こんな美女と同じ湯に入れるなんて、と喜んでほしいものだ。そう勝手に思っている。
ガーベラの裸に全然反応しないなんて・・・サラディンって女嫌いに違いない。
「そんなに入りたいならずっと入ってろ」
「いいの？」
サラディンは身をかがめて湯の中に少し右手を入れた。
「ちょっとぬるいんじゃないのか？熱くしてやろう」
「え」
しばらくすると湯の温度が上がってきた。ちょうどいい温度になったがもっと上がっている。
「・・・・もしかしてこれって嫌がらせ？」
サラディンは意地悪げに微笑んだ。女神の頬は真っ赤になっていた。だが湯から出ようとはしない。
てっきりすぐに出るだろうと思ったサラディンだったのだが。
「おい、ガーベラ・・・」
「・・・熱い・・・」
ゆりはそれだけ言ってがくりとうなだれた。
「ガーベラ！」
サラディンはあわてて女神の身体を湯から引き上げたのだった。女神は茹ったのか、そのまま気を失っていた。
ああ、変だな。おかしいな。足が変な方向に曲げられている。
ゆりが気づくと、自分の体の上に誰か乗っていた。
「え？」
スカートはたくしあげられているし、下に何もつけている様子もない。その上足は開かされていたのでゆりは驚いた。
周りはまだ暗い。
「お・・王様？」
上にいる男の瞳は金色に輝いていた。
え？何がどうなってるの？これは現実？
あまりにいきなりだったので、ゆりはこれも夢かと思っていた。
「全くお前達は不愉快な事をする・・・」
ラクシュミは不機嫌そうに言っていた。
え？私、何かしたっけ？？？お前達って？
ゆりが考えている間にもラクシュミは、身体を押し付けてきた。
「お、王様？」
「早くその気になれ」
「そ、そんなこと言われても・・・」
「仕方ないな・・・」
身体の入り口がなでられた。ひんやりした指の感触にゆりは身を震わせたが、しだいにその気になりラクシュミを
受け入れたのだった。
な・・・何なの一体？？？私何した？
抱かれながらもゆりは疑問に思っていた。
一方ガーベラの身体はベッドに運ばれていた。湯にあたったわけではなく、ゆりが向こうで目覚めたために意識を
失っただけだったのだが、サラディンにそんなことがわかるはずもない。
しばらくガーベラは裸のまま女の妖精達に仰がれて風を送られていた。
うーん・・・なんだかすごく身体が熱い・・
ガーベラは気づいていたのだが、だるかったのでしばらくそのまま目を閉じていた。
ここはどこだろうと思っていると、身体の上に何かがかけられて声が聞こえてきた。
「どうだ？」
「大丈夫だと思います」
「全く・・・」
サラディンはベッドに近づいてガーベラの頬をなでた。身体はまだ熱い。
頬はピンク色に染まり、身体には布団がかけられていた。
しばらく見下ろしているとふいに、違う女の顔が重なった。
「・・・・ヒルデリア・・・」
低くつぶやくと、サラディンは顔を寄せて唇を軽く合わせたのだった。
顔を離すと金色の瞳ではなく、青い瞳がサラディンを見上げていた。サラディンは気まずそうに目をそらして
身体を離した。
「・・・サラディン、あなたの好きな人って、ヒルデリアなの？」
ガーベラはサラディンを見つめて聞いた。
「なんのことだ」
「ヒルデリアって言うのが聞こえた」
サラディンは軽く息を吐いた。
「もうずっと前から？」
「うるさいな。私のことはどうでもいいだろう。」
サラディンは横を向いたまま厭わしげに言った。
「じゃああなたが私に嫌がらせをしたのって・・・」
「・・・そうだ。お前が以前ヒルデリアを煩わせたからだ」
サラディンは仕方なく認めた。
「そうだったの・・・だからアシュランにも嫌がらせのようにディアメラをよこせって言ったんだ」
「起きられるのならもう帰れ」
サラディンはベッドから離れた。
「サラディン・・・」
振り向いたサラディンの瞳が極限まで見開かれた。ベッドの上に座っていた女の顔は、ヒルデリアの顔をしていた。
「ガーベラ、やめろ」
サラディンは引きつった顔で言った。
「本物は一生抱けないわよ。思いをかなえてあげるから来て」
「やめろと言っている」
「サラディン・・・」
ヒルデリアの姿をしたガーベラは一糸纏わぬ姿でベッドから降りてサラディンに近づいた。
抱きしめられるのをサラディンは拒む事ができなかった。
自分がずっと望んでいた女が、目の前にいる。
「・・・ヒルデリア・・・」
そうであったならどんなにかー
「そうよ」
「ヒルデリア・・・」
サラディンは愛しい女を抱きしめた。
熱い口付けを交わした二人はベッドの上で抱きあった。
放たれた想いは激しい愛の炎となってガーベラに降り注いできた。
ああ。なんてすごい愛。こんなに愛しているのに叶わないなんてかわいそうな人・・・
今だけは愛も欲望も全てをぶつけて。
全て受け止めてあげるから。
「サラディン・・・」
「愛してる、ヒルデリア・・・」
サラディンはしばらくヒルデリアの姿をしたガーベラを愛し続けたのだった。
サラディン自身、もう止めることはできなかった。
愛し合える喜びと快楽に身をゆだねていた。
やがて、全てに満足したサラディンは眠ってしまった。ガーベラは複雑な表情でサラディンの寝顔を見つめていた。
新しい恋が見つかればいいわね。
ガーベラはそろそろとサラディンの腕から離れて、側にあった自分の服を着て神殿を出て行った。
神殿の外にはかがり火の炎が燃え上がっていた。もう夜だ。星が瞬いている。
「はあ・・・」
ガーベラはその炎を見つめてため息をついた。
愛している女がヒルデリアだと知ってつい同情してしまったけれど・・・馬鹿なことをしてしまった。
違う女の代わりに抱かれるなんて・・・
完全に同情の横滑りというやつだったが、おかげでガーベラの心に別の感情が芽生えてしまった。
それは愛という感情に他ならない。
この激しい想いが私に向いていたら、とヒルデリアの振りをして愛されながらもつい感じてしまった。
途中から心が痛くなってしまったのだ。ヒルデリア、と呼ばれる度に胸が締め付けられる思いがした。
自分が勝手にしでかした事。サラディンに全く罪はない。サラディンはヒルデリアだと思って抱いていたのだから。
「私ってほんとばかねえ・・・」
ガーベラはもう一度ため息をついて夜空の下を歩いて行ったのだった。
朝になり、ラクシュミが目を覚まして横を見ると、ゆりがじっと自分を見つめていた。
「王様昨日何したか覚えてる？」
ゆりが聞くと、ラクシュミはあっさり「覚えてるぞ」と言った。
「・・・・私、何かしたっけ？」
「いや、別に」
「別にって、なんだか怒ってたじゃない」
あの晩一度抱いた後、ラクシュミはさっさと体を離してそっぽを向いて寝てしまったのだった。ゆりはずっとどうして
ラクシュミが不機嫌だったのかと理由を考えていたのだった。だが何も思いつかない。
「嫌な夢を見ただけだ。」
「夢？」
「ああ、赤い月が終わるとお前は妊娠していた。やがて五つ子が生まれたんだが、５人とも私の子供じゃなかった。
お前はこともあろうに赤い月の間私の目を盗んで他の男と会ってたんだ。だから腹が立った」
「・・・・え・・・」
なんだそりゃー！！！今まで悩んでいた私は一体・・・
ゆりは気が遠くなってきた。
「勝手に変な夢を見て怒らないでほしいんですけど・・・」
「ありえそうだったんでつい・・・」
「あのね・・・」
「しかも５人ともそれぞれ別の男の子供だったんだ。それなのにお前は悪びれない様子で笑っていた。私の子供だと
言い張っていた。どう見ても違うのに」
「知らないわよそんなの。もうばからしい」
ゆりは布団をひっかぶった。
「ちなみに誰の子供か聞きたいか？」
「聞きたくないよ。大体私は赤い月の間トイレ以外はずっと王様にひっついてるじゃん。そんな暇ないよ」
ゆりは顔だけ出して言った。
「つい不愉快になったんだ。しょうがない」
「もー」
ありえそうってひどすぎる。私があの時の王様を裏切るなんてありえないのに。
それにしてもえらく半端で神の国から帰ってきちゃったなあ・・・
それも気になるけどもうどうしようもないし・・・
ゆりは仕方なくそのままふて寝したのだった。
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