その夜、火の神サラディンの神殿に夜の神オルガが訪ねてきていた。テーブルの上に酒は置かれていたが、
二人とも手をつける様子もなく、オルガは何かいいたげにじっとサラディンを見ていたし、サラディンはかなり
気まずそうな顔つきをしていた。
「こら、他の女に手を出せとは言ったが、ガーベラに手を出せとは言ってないぞ」
オルガがようやく口を開いた。
「・・・最初はそういう気はまったくなかったのだが・・・」
やはりその話かとサラディンはため息をついた。
ガーベラはすっかり元気になり、恋人達の元に会いに行っていた。オルガには「サラディンのことが好きに
なっちゃった」と報告までしている。
「知らない間にそうなってしまった。私は恋人の一人になる気は今もないんだがなあ・・・」
ガーベラには保留ね、と言われてしまったが、それって恋人ってことじゃないのか？と思うサラディンだった。
「誰だって独り占めしたいと思っているさ。私だって最初の頃言ったことがある。ガーベラがジンラを好き
になったと言い出したので、私かジンラかどちらかを選べと言った。ガーベラはそんなことはできないと言って
しばらく泣いていた。私だってその頃は女を他の男と共有するなんて嫌だったんだが・・・惚れた弱みってやつ
だ。ガーベラは一人の男だけを愛するという事ができないんだから仕方がない。だが可愛いだろう？ガーベラに
愛されるのは幸せな事だ。そのうちに他に男がいてもいいという気になる」
「・・・・」
サラディンはガーベラの外見の美しさに心惹かれたわけではなかった。実際に知り合うまでは、大勢恋人がいて
適当な女だと思っていたし、それについては今もいいとは思ってはいない。だが可愛いとは思ってしまった。
「それともがんばって他の女を捜すか？」
「もういい。当分女は・・・」
サラディンの渋い表情に、まんざらでもないくせに、と思ったオルガだった。
第56話
「デュレル〜レアティラ〜ルアラ〜♪」
長ーい歌が終わり、パチパチと拍手がこぼれた。歌っていたアナスターシャは最後まで歌い終えた満足感で
一杯、という顔をしている。
「やったー最後まで歌えたー」
アナスターシャがうれしそうに言った。古代叙事詩を最後までぶっ通しで歌い続けていたのだった。ここは
ハザークの部屋。ハザークの侍女が竪琴で伴奏をしてくれた。
「50箇所くらい間違えてたけど」
椅子に座って聴いていたラギが言った。
「いいの。それくらいなら」
「最後まで歌えたってのがすごいよ。よくがんばったね。アナスターシャ」
同じく椅子に座って聴いていたゆりが言った。今のゆりは左目が蛇目に変わっている。膝の上に座っていた
ナナミは口を開けたまま眠っていた。そして長椅子で寝そべっていたハザークも寝ていた。ロイは床の上に
いる大蛇と絡まって遊んでいる。
アナスターシャは口を尖らせてハザークを見た。
「ひどい、ハザーク様ったら結構最初の方で眠っちゃって」
「気持ちいい声だったってことよ」
とゆりがフォローを入れた。
「終わったか？」
ハザークが目を開けてむくりと起き上がった。
「全然聴いちゃいないじゃないですか。最後まで歌えたのにー」
「フレーズが似てるから退屈だ」
「ぶー」
100篇ほどある古代叙事詩だが、フレーズは全て一緒というわけでもなく、途中から多少変えてはいるものの
まあ似たような感じだ。意味がわからないゆりが聴いたら、実際途中から眠くなってくる。
「ザクート王の古代叙事詩はすごかったよねー。あれくらい所々ダイナミックにしてみたら？」
ゆりが言った。
「うーん。ザクート王は詩の解釈も完璧だったからねえ。姉さんは感情の部分がまだまだ・・・」
とラギ。
「しょうがないじゃない。超古代なんて行ったことないし・・・よくわかんないことも多いもん」
「そうね。所で古代叙事詩で古代魔法のヒントみたいなのみつかったの？」
ゆりが聞いた。確かそのような事をザクート王が言っていたらしい。
「ハインリヒが見つけた魔法は知ってたり女王様からいただいた本に載ってるのばっかりだったってさ」
とラギが言った。
「あらそうなの」
ナナミがぱちっと目を開けた。
そして「ねーお上手」と言って両手をたたいた。
「寝てたくせにありがと」
アナスターシャが引きつった顔で言った。
ナナミは自分でゆりの膝から飛び降りて、ロイが遊んでいる蛇の元に行った。ロイはとぐろを巻いている
蛇の間にすっぽり入っている。
「まあすごい魔法を見つけ出してもまだ使えないだろうけどね」
ラギが侍女が入れてくれたお茶を飲んで言った。
「ハインリヒにも無理なの？」
「王族レベルじゃないと無理みたい。この時代は一族の質が低いからね、古代では使えた魔法も使えないかも
って言ってたよ。」
「ふーん。全てうまくはいかないもんね」
ゆりはケーキを食べつつ言った。
「だが一族の質はちょっとはよくなってるぞ。悪くなる一方じゃないからまだましだ」
ハザークが言った。アナスターシャも椅子に座ってケーキを食べだした。パウンドケーキのようなもので
中にナッツが入っている。
「おいしー」
アナスターシャが言うと侍女が微笑んだ。
「でゅられぐえーるるーむーむにゃむにゃ」
ナナミが意味不明なことをごちゃごちゃ言っていた。ゆりがナナミを見たらナナミは首をかしげている。
「違うよう。ちゅられぐれーるるーむみゃるむにゃる。にゃりむりむにゃぐにゃ・・・？？？ん？」
ロイも何やら言って首をかしげだした。
「あの子ら何言ってるの？」
ゆりが笑って聞いた。
「さあ」
ラギとアナスターシャも首をかしげている。
「ちゅられぐるーるるーむみゃるむにゃる。にゃぬむりゃぐにゃりむー・・・」
灰色の大蛇は首をかしげてナナミを見ている。
「あれ？」
「最後はジェラッツリー・リズリムダリルリーだろ？」
とそれを見ていたハザークが言った。
「ちゅられぐるーるるーむみゃるむにゃる。にゃぬむりゃぐにゃりむーじぇらっつりーりずりむだりるりー」
ナナミが再び言うと、首をかしげていた大蛇は、どろんと人の姿に変わった。
「「「え！？」」」
ゆりとラギとアナスターシャはそれを見て目が点になった。大蛇の変わりに黄色と紫色の蛇の目をした少年が
そこに立っていたのだ。灰色の髪で肌には灰色の蛇の模様がびっしりとある。
「ななななな、何これ、どうやったの？」
アナスターシャが驚いて少年に近づいた。アナスターシャより少し背が高いほどの少年だ。
少年は目を瞬いた。
「蛇戦士だ！今の呪文？何で知ってるんだい？」
ラギも近づいて少年をしげしげと眺めつつ、ナナミに聞いた。
「うーん？わかんない」
ナナミは首をかしげた。
「誰かが教えてくれたんだよ」
とロイが言った。
「すごーい。こんな小さいのに魔法使えるなんて・・・」
ゆりが感心していると、少年は再び蛇に姿を変えてしまった。
「まだまだ魔法なんていう代物じゃないぞ」
とハザーク。
「ずるいずるい！私にも教えて！」
アナスターシャがナナミに詰め寄った。
「えーと・・・むにゃりむにゃり・・・？」
「さっきと変わってるよ」
ラギが笑って指摘した。
「ハザーク様教えて！」
アナスターシャがハザークに顔を向けた。するとハザークは
「お前はこんな魔法覚えなくてもいい」
とあっさり言ったのだった。
「えーなんで！ひどい！ぐれてやるー！！」
アナスターシャは部屋を飛び出して行った。
「でも誰かが教えてくれたって、ハザーク様が教えたんですか？」
静かになったところでラギが聞くと、ハザークは「いいや」と言った。
「我はそんな無意味な事はしない」
「じゃあ誰が？」
「あ、もしかしてザクート様かも。前に何かされたような気がする」
ゆりが思い出して言った。
「へー・・・ザクート様が？」
ゆりの脳裏にはザクートの超美形顔が浮かんでいた。
ああ、ザクート様、また来てくださらないかしら〜
この際外見はミカエルでもいいからお会いしたいなあ。
ゆりが思わずザクートのことを思い出してうっとりしていると、
「また天井にひっつけるぞ」
とハザークに冷たく言われてゆりは頬を膨らませたのだった。
その夜、ゆりは夢の中で神の国に行っていた。気づいたら暗い部屋で一人ベッドで寝ていたのだった。
せっかく来たんだから遊びに行こう。
ゆりは暗い部屋を飛び出して行った。神殿の外に出ると、夜空には満点の星がきらめいていた。
「きれいねえ・・・」
夜空を眺めていると星が二つ流れた。
「わ、流れ星！お願いしなきゃ！」
蛇の国が平和でありますように。蛇の国が平和でありますように。蛇の国が・・・
星を眺めつつ祈っていたらその星がこちらに流れてくる。
「あれれ？」
やがて目の前で止まった。それは星ではなくて、二人の子供だった。
「あらら、オルガの子供達」
「やあ、お母さん」
「今日も綺麗だよ」
と双子の男の子達が言った。ゆりが見たのは星ではなく、子供達の額についている飾りだったようだ。黒髪の
子供達はにこりと微笑んだ。子供達はジェイクよりも幼いくらいだ。
ゆりも微笑んだ。
えーと・・・名前なんだっけ・・・・
この子供達はゆりがいた時に産んだ子供ではなかったので、ゆりは一応勉強していたのだが、すっかり忘れていた。
ごめんね。また勉強しておくから。
「今日はオルガは？」
「お父さんなら今日は人間界に降りたよ」
と一人が言った。
「人間界に？」
「眠れない人たちに眠りを与えに。」
「僕らはこれから神の国を回るんだ。じゃあね母さん」
「さようなら」
二人は飛んでいった。
「じゃあねー」
ゆりは手を振って見送った。
へーオルガってそういう仕事してるんだ。素敵ね。
さて、これからどうしましょ。
あれからサラディンとどうなったのかも気になるが、最近サラディンとばかり会っていたので、たまには
違う恋人に会いに行こうと思い、ゆりはハロルドの元に移動してみたのだった。
この時間なら神殿にいるでしょう。そう思ったのだが、ジャボンという水音がして体は水の中に浸かっていた。
な・・・なぜに・・・
「ガーベラ？」
横を見ると裸のハロルドがいた。星と月明かりのせいで真っ暗というわけではないし、ハロルドの体は
神の光が輝いて見えている。ゆりは一瞬見とれてしまった。さすが神様、裸体も石像にしたいくらいのかっこよさだ。
「ここはどこ？」
「神殿の近くの泉だ。」
「なんでこんな時間に泉にいるのよ」
ゆりはぶつくさ言いながら泉からあがった。腰まですっかり水に浸かってしまい、髪半分もびしょぬれだ。
どうも水に縁があるようだ。
「勝手に来ておいて怒ることないだろう。星を見ながら水浴ってのもいいもんだぞ」
ハロルドは泉から上がって布を取り、身体を拭いて服を着た。
ゆりはスカートの布をぎゅっとしぼった。
「来い。神殿に戻ろう」
「うん」
ゆりはハロルドの神殿で服を脱いで布で身体や髪を拭いた。
「ねえ、変わりの服貸して」
「ない。朝になれば乾いてるだろ。それまで裸でいろ」
「えー・・・」
ハロルドは顔を寄せて口付けてきた。
「あの・・・子供達もう寝た？」
「寝ただろう」
「私、キュリアと一緒に寝ようかな」
「私に会いに来たんだろ？」
「そうだけど・・・なんだかその気満々だし・・・」
「いやなのか？」
空色の瞳が細まった。
「ハロルド？」
なんだか変だな、とゆりは感じた。
「お前が誰に抱かれようと咎めはしないが、二人きりでいる時くらいは、もっと愛情を示してくれ。
でないと私は辛い・・」
ハロルドはせつなげに言って横を向いた。
「それとも私が想うほどにはお前は私を想ってはいないのか？」
「そんなことないよ。ハロルド・・・」
ゆりは思わずハロルドに抱きついた。
「ガーベラ・・・」
ぎゅっと抱きしめられていると、ハロルドの感情が伝わってくるような気がした。
「朝まで愛し合おう。ガーベラ」
「え・・・」
ゆりはそのまま抱き上げられて行った。
ど・・・どうしよう・・・逃げられない感じ・・・
逃げたら、傷つけてしまいそう・・・
「どうしてそんな顔するんだ？」
ゆりが戸惑っているとハロルドが鋭く聞いてきた。
「え・・・」
「嫌なら嫌だと言ったらどうだ？」
ゆりの感情を探るようにハロルドはじっと見つめている。
「違うよ。朝までなんて、すごい体力だなーと思って・・・」
ゆりはごまかすように言った。
最近ガーベラに愛されてないのかな？それならかわいそう・・・
ガーベラの愛情を疑ってるようなハロルドに、ゆりは嫌だと言えなかった。
なんといっても弾みとはいえハロルドの子供を二人も産んでいる。
ハロルドもガーベラと愛し合っていないわけではなかったのだが、ガーベラが立ち直って出会った後、
サラディンも恋人にしたという噂を聞き、それで複雑な思いになったのだった。
ハロルドはガーベラの身体をベッドの上に横たわらせた。
「ガーベラ、私の事、愛しているか？」
「愛してるよ」
ゆりはハロルドを見つめて言った。
私はガーベラ、ゆりじゃない。ガーベラ、ガーベラ。
もうそう思うしかない〜！！！
ハロルドは着ている物を脱いでゆりの上に乗ってきた。
「もっと私を愛してくれ。ガーベラ」
ゆりはついにハロルドと一線を越えてしまった。
「ガーベラ、どうしたんだ？今日はやけにおとなしいな」
ハロルドは女神の身体を抱きながら言った。
「・・・・」
ゆりはさすがにおおっぴらにあえぐ事はできない。
上に乗っていたハロルドは身体を離した。
「怒らないで・・・」
「怒ってない」
ハロルドは女神の身体を起こして自分の膝の上に乗せた。そして再びつながり、下から突き上げたのだった。
「あ・・・」
ゆりはたくましい体にしがみついた。
「あ・・・ん・・・」
快楽が体中を駆け巡っていく。
押せていた欲望があふれだす。
「愛してくれ。ガーベラ！」
「あ・・・ハロルド・・・ああ・・・」
「ガーベラ・・・ああ・・・！！」
深くつながった瞬間、ハロルドの精が放たれて、ゆりの中の何かがパチンとはじけた。
あれ？今の何？
ゆりは抱きしめられたままぼんやりしていた。
きらきらと金色の光がゆりの周りを取り巻いていた。
なんだか気持ちいい。幸せな気分。
ハロルドは女神の身体を横たわらせて、うつぶせにさせた。
そしてその上に乗った。
「あの、まだするの？」
「まだまだする」
ハロルドは胸をなでながら言った。
こうしてしばらくハロルドに抱かれたゆりは、先ほどと同じ様な感触を何度か感じた。
そのたびにキラキラした光が身体を取り巻いていく。
「ああ、今日は満足した。幸せな気分だ」
ハロルドはやがて女神の身体を抱きしめて言った。
「私も・・・」
ハロルドはにこりと微笑んで、抱きしめたまま疲れたように眠ってしまった。
ゆりは身体を離してハロルドを見つめた。
普通にした時はなんで子供できないんだろう？
結局今回は子供はできずに、ゆりは目を閉じて、その内に現実の世界へと帰っていった。
ああ。ジンラの次にハロルドとあんなことになってしまった・・・
ゆりはベッドの上でぼんやりしていた。今は自分の部屋にいる。赤い月が終わって一月以上経っていたが
まだ別々の部屋に寝ていた。
たとえ夢とはいえ、私ってほんと浮気者だなあ・・・
抱かれたのはガーベラの身体なので、今の体がどうということはないのだが。
神様同士ってやっぱり独特だなあ。お互いの金色の光がくるくる回って、すごく綺麗だった。
ゆりは頭をかいて起き上がった。そして身支度を整えて食堂へと向った。
「あら？」
ゆりの部屋に入った侍女が、床を見て首をかしげた。
部屋の中に所々花びらが落ちていたからだった。一枚を拾って手にとってみると、それはなくなってしまった。
だが変わりにいい匂いがふんわりと漂った。侍女は首をかしげつつも、ぼんやりとその匂いに包まれていたの
だった。
食堂でご飯を食べていたゆりは、3人の子供達がじーとこちらを見ているのに気づいた。
「何？何かついてる？」
ゆりは不思議そうに聞いた。
「なんだか・・・今日の母さんってきれいだ」
とラギが言った。
「え？どうしたの急に」
「うん。すごく綺麗な気がする」
シスが言い、「いつもよりきらきらしてる」とアナスターシャまで言い出した。
「なあにあなた達、何か悪い事でもしたんじゃないでしょうね」
ゆりが気味悪がって言った。
その時、食堂にいたミラが何かに気づいて椅子の下をのぞいた。
「どうしたの？」
「花びらが落ちてるのが見えて、いつの間にと」
「ん？」
ゆりは椅子をずらしてみた。すると本当に花びらが3枚ほど落ちている。
「テーブルにある花じゃないですね」
テーブルに飾ってある花は紫色の花だったが、花びらはピンク色だった。
「そうね。」
ゆりが花びらを手に取ると、花びらはすっと消えてしまった。
「？？？」
ゆりもミラも首をかしげた。
食堂にぱっとラクシュミが現れた。
「おはようございます。お父様」
子供達がそれぞれラクシュミに挨拶した。
「ああ、今日はもう王の間にこなくていいから・・・」
言いかけたラクシュミはゆりを見た。
「おはよう王様」
顔を向けられたのでゆりは挨拶した。
「・・・・」
ラクシュミはじーとゆりの顔を見ている。
「？？？」
ゆりはきょろきょろと周りを見た。
「あ・・・」
とシスが声をあげた。
ラクシュミの左の顔半分の皮膚が変わってきている。ゆりもそれに気づいた。
「王様？」
「ちょっと来い」
ラクシュミはゆりに触れて一緒に消えた。
「・・・？」
子供達は顔をあわせた。
ラクシュミがゆりを連れてきたのは王の寝室だった。寝室では王の侍女らが掃除中だった。
「お前達出ろ」
侍女らはあわてて出て行った。
「あの・・王様・・・どうしたの？」
ラクシュミの肌半分にうろこの模様が見える。
変化してる？
ラクシュミはゆりを抱きしめて口付けた。
その間にもラクシュミの肌はどんどん変わっていた。
「あの・・」
「目を閉じてろ」
「は、はい」
ゆりは目を閉じた。
ラクシュミはゆりの身体をベッドに乗せて裸にした。
どどど、どうしちゃったの？
なんで変化までしちゃってるの？
しかも朝っぱらから。
ラクシュミは上は服を着たまま激しくゆりを抱きだした。
「ゆり、愛してる。ああ、なんて素晴らしい体だ・・・」
「王様・・・」
なんだか心も赤い月の王様っぽいなあ・・・
ゆりはラクシュミに抱きついた。
「ああ・・・」
中に放たれる感触があった。
「あの・・王様、子供できちゃうよ？」
「できたらできたでいいだろ？」
「いいけど・・・」
ラクシュミがゆりを抱きしめた時、フリットから思念が来た。
ー王？客人がお待ちですが・・・
ーちょっと待たせてろ
ーはい
「ゆり・・・ずっとここにいろ。後でまた来る」
「え？」
目を開けるとラクシュミの手が目元をふさいだ。
「別にしっかり見ちゃってもいいんだけど・・・」
「はあ・・・・いいぞ」
ゆりが目を開けると、ラクシュミは元の姿に戻っていた。
「王様、どうしちゃったの？」
「さあ・・・なんだかお前がすごく愛しく感じる。今日は他の男には見せたくない。だからずっとここにいろ」
「うん。いいよ」
「絶対だぞ？」
「うん」
ラクシュミはゆりから離れて再び王の服を綺麗に身にまとった。
そして名残惜しそうに移動した。
何がなんやら・・・ん？
ゆりはシーツの上に花びらが落ちているのを見た。ピンク色の花びらは指にとるとなくなってしまった。
ゆりは首をかしげた。
もしかして・・・神様だったときの影響かな？ハロルドとしちゃったから？
でもジンラの時は何もなかったけど・・・あの時は一度っきりだったけど・・・
まさかジンラの時よりも燃えてしまったのが原因ってことは・・・
「よくわからん」
ゆりは服を着た。
そういえば子供らが綺麗だとか言ってたなあ。
寝室で一人ぼんやりしているとミラがやってきた。
「今日はずっとこちらにいらっしゃると聞いたんですが・・・」
「そうなの。食べ物こっちに運んでくれる？」
「わかりました」
この日は昼の休憩と夕方の休憩にもラクシュミがやってきた。会いたかったと言ってゆりを抱きしめて
何度もキスして抱いてから去って行った。
愛と欲望が増してる・・・やっぱりガーベラの影響だ。
その夜も熱烈だったものの、次の日の朝になると、ラクシュミは元に戻っていた。
「お前昨日変だったな」
ラクシュミが冷静な顔で言った。
「変だったのは王様だよ」
「そうか？なぜだ・・」
「さあ・・・」
「お前何かしたんじゃないだろうな」
ラクシュミに疑いの眼差しを向けられて、ゆりは「何もしてない」と言い切った。
「本当か？変な薬でももらってきて盛ったんじゃないだろうな」
「そんなことしてません」
「そうか」
ラクシュミはベッドから離れるとさっさと行ってしまった。
「ああ。昨日は幸せだったのに・・・また極端なんだから・・・」
もしかして、向こうで恋人と一杯愛し合うと王様に愛される？
そう思ってゆりは鼻で笑った。
そんな理由で愛し合うなんて邪道だね。
王様のことは最高に愛してるけど、神様達のことも結構好きになっちゃってるし・・・
私ってやっぱり気が多い女ね・・
自分でも呆れつつ、もっとラクシュミに尽くさなきゃ、と思ったゆりだった。
すすむ