蛇の国の南にある広大なぶどう農園で小さな兄妹が走り回っていた。
「待ってーおにいちゃん！」
「早く早くー！」
暦は５の月に入った所だった。ぶどうの木は黄緑の葉をつけたところだ。もうすぐ花が咲き、小さな実をつける。
今は農園で作業している大人もまばらだった。ちょうどお昼の休憩時間に入ったところなのだ。
女の子は必死に兄の姿を追っていたが、足の長さが違いすぎる。兄はさっさと行ってしまい、妹は何かにひっか
かってどてっところんだ。
「わーん・・・」
膝をすりむいてしまい、妹は泣き出した。
「おにいちゃーん」
と呼ぶものの、兄の姿は近くに見えない。
「ぐすん、ぐすん・・・」
泣きじゃくっていると側に誰かがやってきて、女の子は顔をあげた。そしてその人物を見て首をかしげた。
周りがキラキラと輝いて見える。紫色の長い髪をしたきれいな人物だった。瞳も同じ色だ。
女の子が膝の痛みも忘れてぼんやりしていると、その人物はしゃがんで女の子の膝をなでた。
すると、膝は綺麗になっていた。
「どうもありがとう」
女の子は涙をふいて御礼を言った。するとその人物は微笑んで立ち上がった。
たまにみかける戦士の人かな？とも思ったが、こんなすごい色の髪の人は見たことはなかった。
まるでぶどうの色みたい。と女の子は思った。服装もゆったりとした布を身体に巻いているような感じだ。
蛇の模様も見えない。だけど優しそうな人だったので、女の子は行こうとするその人物にたっと近づいて左手を
握り締めた。
その人は女の子を見て何か言っていたが、女の子には理解できなかった。
歩こうとすると女の子も手を握り締めてついてきたので、その人物はちょっと困った顔をして、開いている手を
ぶどうの木にあてた。すると木の葉っぱの間にぶどうの花が咲き、それはすぐに緑色の実になり、やがて紫色の
大きな粒の一房のぶどうになったのだった。
「わっ・・・」
女の子がびっくり仰天してそれを見上げていると、その人はぶどうの柄の部分をちぎって女の子にぶどうを渡した。
それは大きなぶどうだったので、女の子は手を離して両手でぶどうを受け取った。
ぶどうはとてもおいしそうでぴかぴか輝いている。女の子は一つちぎって口に入れてみた。
「わー甘くておいしい！」
ワイン用のぶどうではなく、果物として食べるぶどうのようだったが、あまりのおいしさに女の子はほっぺが
落ちそうだった。周りを見ると、ぶどうをくれた人はもういなかった。
「あれれ？」
「おーい、どうしたんだー！」
その時女の子の兄が走りよってくるのが見えた。
「わっぶどうだ。どこにあったんだ？」
兄は女の子の両手にあるぶどうに目を留めて言った。
「綺麗な人がくれたの。すごくおいしいよ」
「へー」
男の子はぶどうを一つちぎって口に入れた。
「本当だ。おいしい！」
「ね」
「もっとちょうだい」
「半分こだよ」
「わかったよう」
二人は草の上に座ってぶどうを食べた。
「おいしいね」
「うん。おいしいね」
そのぶどうは小さな兄弟には思いもかけないおやつとなったのだった。
第57話
「ね〜パパ〜ん」
ハザークの部屋で猫なで声をあげていたのはアナスターシャだった。
「変な声出すな」
ハザークが眉をひそめて言った。
「蛇戦士の呪文教えてよう。パパ」
「お前にまでパパと呼ばれる筋合いはない」
ハザークが冷たく言うとアナスターシャは頬を膨らませた。あれからどうしても蛇を変身させたくていろいろ研究
したアナスターシャだった。ハインリヒに聞いてみると、蛇戦士の呪文は王族だけの間にしか伝われないものらしく
ラクシュミに聞いたが教えてくれなかった。古代語で蛇に変身してくれと言ってみても、蛇は変身してくれなかった。
「同じ姉妹なのに差別だ」
アナスターシャは横目でハザークを睨んだ。
「そんなことに力を使うよりも結界の補佐でもしてやれ」
「ぶー・・・」
ラクシュミにも同じ様なことを言われたのだ。
「ナナミには教えてあげたくせにー」
「蛇が変わってやりたそうにしてたからだ。あの子はまだまだ一人じゃ魔法なんて使えない。呪文といっても、
古代語で人に変化してくれと言うくらいでもいいんだぞ。」
「私が言っても変わってくれない」
「変わりたくないからだろ？」
そういうとアナスターシャは口をへの字に曲げた。
「私、蛇に嫌われてるの？」
「そういう事じゃない。第一蛇を人に変えてどうするんだ？」
「・・・」
ただ変化させたいだけで、それからどうするとまではアナスターシャも考えていなかった。
「たいてい子守に使うものなんだぞ。お前は子守される年齢じゃないだろう」
「でも、ザクート様は一緒に戦ってたじゃない。蛇戦士だから戦うんじゃないの？」
「強い力を持っている者が変化させると戦士になる。お前が変化させたってなんの力も使えないだろう。」
「なんだ」
「当たり前だろ」
「じゃあ私も一瞬だけでいいから変えたいなあ・・・」
どうにも変えてみないと気がすまないようだ。
「気が乗りそうな大蛇に頼んでみろ」
アナスターシャは長椅子の裏に寝そべっていた青っぽい大蛇を見た。すると大蛇はさっと目をそらせた。
「あ、ひどい。他の蛇に頼んでみようっと。それじゃさようなら」
アナスターシャは消えた。
「やれやれ・・・」
ハザークはため息をついた。
夕方、夕食前に、ゆりは王の間に呼ばれて行ってみた。
「王妃、農園にジンラが現れたようですよ」
と王の間にいたミカエルがゆりに言った。
「ジンラが？本当？」
「出会ったのは子供だったので定かじゃないですが、紫色の長い髪をした綺麗な男だったようです」
「ジンラだ。何しに来たんだろう？」
「さあ、それはわからないですが・・私も会ってみたかったですねえ。本当に王にそっくりなのかどうか」
「そっくりだよ。王様を優しくした感じ」
「私が優しくないみたいじゃないか」
とラクシュミが言った。
「王妃はまだ神の国に行ったりしてるんですか？」
ミカエルがゆりに聞いた。
「うん。たまにね」
「行って何してるんです？綺麗な神様といちゃいちゃしてるんでしょ。どうせ」
「ミカエルじゃあるまいに・・・」
と思ったが、この前ハロルドといちゃいちゃしてしまったのであながち違ってもいない。
「だから最近そっけないんだ。赤い月前に行ってもそっけなかったし。ひどい王妃」
ミカエルがいじけたように言った。
「そ、そんなことないよ・・・」
「恋人達とはそれぞれうまくいってるのか？」
ラクシュミが聞いた。
「うまく・・・まあそれなりに・・・」
「なんなら若いのとちょっと入れ替えても・・・」
「え、な、何言ってるんですか。王！」
ミカエルが仰天して言った。
「いや、ゆりの恋人になりたい男が多くて・・・」
「絶対だめですよ！」
赤い月の時は男といちゃいちゃするなって言ったくせに・・・
やっぱり別人だ。
ゆりはぷんと横を向いて王の間を出て行った。
食堂に行くとアナスターシャがすねた顔でパンをかじっていた。
「どうしたの？プリモがどうかした？」
ゆりが椅子に座りつつ聞いた。侍女が暖かいスープを皿に注いでくれた。
「プリモは元気だけど、私蛇に嫌われてる」
「なんで」
「蛇が変身してくれない」
「変身？」
「ナナミが蛇戦士の呪文知っててさあ、蛇がちょっとだけ変身したんだよ。そしたら姉さんもやってみたくなって」
とラギが説明した。
「へー」
ハザークの部屋にいた時のゆりはこちらのゆりではなかったのでその時の記憶はなかった。
「ナナミすごいじゃない」
「私が頼んでも誰も変身してくれない。シスもためしにやってみてよ」
アナスターシャは静かに食事を食べていたシスに言った。
「変身させてどうするの？」
「別にどうもしないけど・・・」
「それじゃ別にいいじゃない」
とゆり。
「やだ。一度でいいから自分で変身させてみたいのにい。みんな私が言うと目そらすんだよ」
「子供に言われたくないんじゃない？」
ラギが言うと「ナナミだって子供じゃん」とアナスターシャがぶーたれて言った。
「ナナミはまだ小さいから蛇が気を遣ったんだよ。きっと」
「ちぇ・・・」
蛇達は私よりもナナミの方が好きなんだ。ハザーク様が可愛がってるからかな。
自分の部屋に行った後も、アナスターシャはいじけていた。
小さい妹にできて自分にできないというのはショックだった。
長椅子で寝そべっていると部屋の中に茶色い大蛇が入ってきた。そしてアナスターシャがいる長椅子の側まで
やってきた。
蛇は首をもたげて、どうしたの？というような感じでアナスターシャを眺めている。
「お前も私が嫌いなんでしょ。私の言うこと聞くの嫌なんでしょ」
蛇はじっと丸い目をアナスターシャに向けていた。
「蛇がみんな私のことばかにする」
蛇は近づいてアナスターシャの手に自分の頭をすりっと寄せた。
『ちょっとの間だけでいいから人の姿に変わってほしいな』
アナスターシャは古代語で言ってみた。
すると蛇はアナスターシャを見つめた。
「やっぱり嫌？」
蛇はどろんと少女の姿に変わった。どうやらメスだったようだ。
「うわっ！できた！」
アナスターシャは大喜びで立ち上がり、少女の両手を握り締めた。
「わーい。ありがとう。きてきてシスにも見せよう！」
アナスターシャは少女に変わった蛇の手を引いて横の部屋に行った。
「シス、できたよー！すごいでしょ！」
アナスターシャはシスに言いつつラギは思念で呼びつけた。
「へーすごいじゃない。よかったねえ。姉様」
シスは少女を眺めつつ言った。少女はアナスターシャと同じくらいだ。茶色い簡素な服を着ていた。ラギが
ぱっと移動してきた。
「ラギ、できたー！」
アナスターシャは少女と手を握りあっていた。
「本当だ。よかったね」
ラギも微笑みつつ言った。少女は周りをきょろきょろ見ている。
「どうやったの？」
「頼んだら変わってくれたの」
「そう・・・姉さん、少しずつ魔力減ってるよ」
ラギがそれに気づいて言った。
「え？」
「うん。そうか。蛇戦士は変化させてる間も変化させた者の魔力が減っちゃうんだ。」
ラギはそのことに気づいてうなずいた。
「え・・・そうなの？ありがとう。もういいよ」
アナスターシャが少女に言うと少女はきょとんとした目を向けている。
「もう蛇に変わってもいいよ」
少女はアナスターシャの頭をなでなでした。
「もう戻っていいったら」
「古代語で言ってみたら？」
ラギに指摘されて、アナスターシャは古代語で戻ってと言ってみた。少女は部屋を出て行った。
「あ、ちょっと」
「せっかくだから遊びたいんじゃない？」
シスが言った。
「えーそんなー」
「やっぱり魔力減ってる」
とラギ。
「お願いだから元に戻ってー」
アナスターシャは廊下をスキップしていく少女を追いかけた。すると少女はたっと走って逃げて行った。
「なんで逃げるのー！」
「やっぱり遊びたいんだね」
とシス。たまには走り回りたい蛇もいるだろう。そう思ったのだ。
「子供の内は使わない方がいいね。あれは」
ラギとシスは笑っていた。
「あっ！瞬間移動した！私の魔力が減ってる！！」
アナスターシャは少女を追って瞬間移動した。
まだまだ蛇に言うことを聞かせるというのは無理のようだ。
アナスターシャがようやく説き伏せて少女に蛇に戻ってもらったものの、その頃には結構な魔力が減っていて、
これに懲りたアナスターシャはしばらく蛇に人になってと頼むことはなかった。
その夜、神の国に行けたゆりはすぐジンラの元に移動しようとした。だが移動できなかった。
「あれ？なんでだろう？」
ガーベラ姿のゆりは首をかしげた。何度ジンラのことを念じてもちっとも移動しない。
もしかして・・・恋人じゃなくなったとか？そんなあ！
蛇の国に降りたのかどうか聞こうと思ったのに！
ゆりは木々の間に白馬がいるのを見つけて、それに乗せてもらった。
「ジンラの神殿までお願い」
白馬はたったか走って行き、ゆりは落ちないようにしがみついた。やがて草原を抜けて農園が見えてきた。
アマンザの姿が見えたのでゆりは白馬に止まってもらって降りて、アマンザの元まで駆けて行った。
「やあ、母さん」
アマンザはいつもと変わらない笑顔を向けてくれた。
「ジンラはどこ？側に行こうと思っても行けないの」
「ああ、父さんなら人間界に行ってるよ。だからじゃない？」
「え？そうなの？何しに行ったの？」
「ただのお散歩だよ。僕が産まれてからは結構行ってるよ」
「あら、そうなの」
なんだ。まだ行ってるんだ・・・・
ただの散歩で来てただけなのね。
ゆりはガーベラとジンラが別れたわけではなさそうなのでほっとした。
「やっぱり行く時は人間に見えないように姿消していくの？」
前に見かけたクーリーフンは他の人間には見えなかったのでゆりは聞いてみた。
「騒がれたくない時はそうしてるんじゃない？」
「そうなんだ・・」
見かけたのは子供って言ってたもんね。無邪気な子供とかには見えちゃったのかな？
「それならいいんだ。また会いに来るね」
「うん。」
ゆりはアマンザに手を振って農園を離れた。
じゃあどこに行こうかな？そうだ。サラディンのところに行ってみよう。
もし移動できたら恋人になったってことよね。サラディン、サラディン・・・
ためしに念じてみたらぱっと移動した。移動先は神殿の中だった。
やった！サラディン恋人になったんだ。ってことは・・・もうお風呂入り放題？
サラディンってばガーベラにでれでれかな〜？
ゆりは期待を胸に広間の方に行ってみた。にこにこして行ってみると、ゆりを見たサラディンは眉間に皺を寄せた。
あれ？前と変わってないなあ。
てっきり笑顔を向けてくれると思ったのに。
「サラディンどうしたの？何怒ってるの？」
「別に怒ってない」
サラディンはむっとした顔で横を向いた。
「怒ってるじゃん」
「・・・・」
「ねえお風呂入っていい？ねえねえ」
ゆりはサラディンの腕を引っ張って聞いた。
「なんなんだ。お前って女は・・・あれから全然来なかったくせに」
会いに来るね。といいつつ、ガーベラはあれから全然ここには来ていなかった。
「あれから？あれからそんなに経ってないと思うけど？」
ゆりがさらっと言うとサラディンのこめかみの辺りが引きつった。
確かに神々の時間からすれば、そんなに時間は経ってない。だが本当に愛しているのならすぐ会いたくなるもの
だろう。今度ガーベラが来た時はどう対処しようか、と思ったらしばらく来なかったので、ちょっと拍子抜けし、
逆に怒りがこみ上げてきたのだった。もし自分だったなら、二日もおかずに会いに行っていたに違いない。
それほど愛してるわけじゃないんじゃないかと疑いたくもなる。
「サラディンったら、そんなに私に会いたかったの？」
ゆりはにんまりして聞いた。
「別に会いたくなかった」
「またまた。私のこと愛しちゃったくせに」
「帰れ」
サラディンは不機嫌そうだ。
「まあそういわないで。ねえ、一緒にお風呂入ろうよ。ね。それで機嫌直して」
「嫌だ」
「入ろうよ。せっかく熱いお湯が好きなもの同士なんだから」
ゆりは強引にサラディンの腕を引っ張った。
こうして気づくとサラディンはゆりのペースに乗せられて一緒にお風呂に入る羽目になっていた。
「あー気持ちいいー」
ゆりは金髪は岩の上に乗せて首まですっぽりお湯の中に入っていた。
「全くお前って女は・・・」
サラディンはぶつぶつ言っている。
ゆりは内心ふふっと笑った。
会いに来なかったから不機嫌になるなんて・・・サラディンってかわいい。
ゆりは身体を寄せてサラディンにひっついた。
「ねえ私のこと好き？」
「好きじゃない」
「いいよーじゃあ一方的に私があなたの事想ってるから」
ゆりはサラディンの頬にちゅっとキスした。
「お前本当に私のこと好きなのか？」
「好きだよー」
「怪しいもんだ」
ゆりはニコニコ笑っている。
サラディンって顔のわりには人が良くて純情そうな所がいいな。
「サラディンの身体ってあったかくて気持ちいい」
「・・・・」
それは女神の身体も同じだった。お湯のせいでかなりぽかぽかになっている。あったかい身体を引っ付けられて
ちょっとその気になってしまったサラディンだったが、ゆりは体を離した。
「そろそろ出ようっと」
そしてさっさと出て行って身体を拭いて、服を着たのだった。そしてサラディンに身体を拭く布を渡した。
「それじゃ私行くね」
「行くのか？」
「また来るね」
ゆりはサラディンに手を振って笑顔で去って行った。
「・・・なんて気まぐれな女だ」
欲望の炎はそのままあえなく消火されてしまったのだった。
まだ時間あるかな？ひっさびさにラクアに会いに行こう！
ゆりはその後ラクアに会いに行き、しばし歓談して神の国を後にしたのだった。
その夜、自分の神殿で一人安らかに眠っていたガーベラだったが、部屋の中が明るくなるのを感じて目を覚ました。
見ると炎が燃えている。
「え？」
自分の上に火が燃えているのが見えてガーベラはびっくりした。
「か・・・火事？なんで？」
なんで宙に炎が！？
あわてて回りを見ると、ベッドの横にサラディンが立っていた。炎は消えている。
「わ、びっくりしたー。どうしたの？」
「・・・・」
「私に会いに来てくれたの？」
ガーベラは首をかしげて聞いた。
「お前のせいで性欲を感じて眠れない。どうしてくれるんだ」
「え？」
「しばらくこんなことはなかったのに・・・」
サラディンは不機嫌そうにぶつぶつ言っていた。あったかい肌の感触が肌に残って消えてしまわないのだ。
ガーベラはきょとんとしている。
「責任をとってくれ」
「別にいいよ。私あなたのこと愛してるから」
ガーベラがそういうとサラディンは渋い顔をした。
「どうしたの？」
「今は、そういうことは言ってほしくない・・」
「そう・・・まあいいけど・・・」
今は愛よりも欲望の方が先行していたため、愛情を示されると後ろめたい気分になるのだった。
「来て」
ガーベラが手を伸ばした。サラディンがその手を握り締めて、もう片方の手でガーベラの髪をなでた。
だが、ガーベラに見つめられている内になぜか気がそがれて手を離した。
「やはりいい」
「どうして？」
「・・・」
「性欲だけで女を抱くのは気が咎める？」
「まあそうだ」
「あなたって優しいものね。この前の時も、自分を抑えて優しく抱いてくれた。本当はそういう余裕もないくらいに
抱かれたい。」
「ガーベラ、私は・・・」
「ここに来てくれただけでもうれしい」
「そういうしおらしい振りはやめろ」
「本当だもん。本当は私に会いたかったから来てくれたんでしょ？」
「・・・」
「もう何も考えなくていいから来て」
ガーベラはサラディンの手を引いた。
「今は他の人の方を愛していてもかまわないから。」
「ガーベラ・・・」
サラディンはガーベラの身体を抱きしめて肌の匂いをかいだ。
そうしているとなんともいえないいい気持ちになってきた。
「抱いてもいいか？」
「いいよ」
そのまま二人はベッドに倒れこんだ。
やがて二人は抱きしめあったまま眠りについた。
うーん。ほーんとサラディンって面白い人。
ガーベラは目を閉じたまま思った。
自分を抱く時の態度はまるで処女を抱くかのようであくまで優しく傷つけないようにとサラディンはかなりの
気を遣っていた。ただ欲望のまま抱くのは悪いと思っているようだ。それでも一応サラディンは抱いたことに対して
満足しているかのようなのだが、ヒルデリアに変身して抱かれた時は、優しいながらも激しかっただけに、
ガーベラとしては物足りなかった。
かといってこういうサラディンに自分から積極的に上に乗ったりするわけにもいかない。
サラディンって優しくて真面目なのよね。
ヒルデリアに恋しちゃってからは他の女を抱いたりってあんまりしてなかったんじゃないのかな。
そういうところも素敵な所だけど・・・もっと欲望のままに絡み合いたいなあ。
まじで今度媚薬でも盛っちゃおうかしら。
そんなことを考えてしまったガーベラだった。
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