人間界では、昼間ハザークと激しくいちゃいちゃしたゆりは、夜自分の部屋のベッドで寝転んでいた。

今宵夜空には星も月も見えなかった。暗い雲が立ち込めている。明日は雨かもしれない。
雨が降るのはいいのだが、今朝方偶然出くわしたミカエルに「そろそろ儀式が恋しいな」などと言われた所だった。
二人で引っ付くのもいいのだが、儀式となると男達にとってはまた別の良さがあるらしい。


普通の王妃様はあんなことはしません。



男達にかしづかれ、「王妃様今日もお美しいですよ」とか言われて「ほほほ」と優雅に微笑んでいる。それがよくある
物語の王妃様ってもんだろう。この世界でもそういう王妃様は多いに違いない。

普段はあんまり性欲がないくせに儀式となると皆目の色が変わってしまうのはどういうわけなのか。



別に男たちのために儀式をしてるわけじゃないんだけどなあ・・・
ミカエルやハインリヒなんて絶対性欲解消の場だと思ってるに違いない。
ハザーク様にはすっかり儀式好きの女だと思われてるし・・王様だってひそかに思ってるよきっと。

かといって、女蛇が来ちゃうとやらずにはいられないのよねえ・・・・
今儀式したってあんまり関係ないのに。

男達にも女蛇にすら強気に出れない私って・・・・



子供ができるまではしばらく儀式無しで過ごしたいものね。



ゆりはそう思いつつ眠りについた。



第63話


まぶしい光を感じてゆりは目を覚ましてあれ？と周りを見た。自分の部屋ではなく、ガーベラの寝室だった。
どうやら続けざまに神の国に来てしまったようだ。
「朝みたい」
寝室にある窓辺の光に目を細めつつ、ゆりはベッドから降りた。


人間界と神の国の時間の流れも謎だなあ・・・



そんなことを思いつつ、神殿から出て朝の光を命一杯浴びながら、大きく伸びをした。
いい朝だ。鳥達のさえずりが聴こえてくる。大きな白い鳥が上空を飛んで行った。少し離れた木々の間には小鹿の姿が
見える。神殿の前で風にゆれているピンク色のお花畑を眺めつつ、ゆりは朝のラジオ体操でもしたい衝動にかられたが

もちろんやめておいた。そんなことをしたらあからさまに怪しすぎるだろう。



なんだかちょっと身体がだるい感じがするなあ・・・



ゆりは首を左右に振った。身体がほてっているようだ。ちょっと熱っぽい。
おでこに手をあててみた。いつもよりは体温が高い気がしないでもない。



神様って風邪引かないよね？まさか。



神の身体の構造はゆりには謎だったが、風邪で寝込んだ神というのは聞いたことがない。第一この世界に病院という
ものがあるのかどうか謎だ。



ちょっとだるいから休もう。



ゆりはお花畑に腰を下ろした。ひらひらと黄色い蝶々が飛んでいる。



昼間産まれた可愛い女神ちゃんにも会いたかったけどなあ・・・



ごろんと横になるとそのまま目を閉じた。


しばらくうたたねしていたゆりだったが、やがて「きゃー！！！」という悲鳴を聞いてぱっと目を覚ました。
「ん？どしたの？」
見ると女の妖精達が驚いた様子で近づいてきた。
「ガーベラ様！一体どうされたんです！？」
「何が？」
「これですよ！」
ゆりは自分の周りを見てぎょっとした。寝ていた周りの花がなくなっている。というよりもあたりが黒くなっていた。
「あれ？どうしたのこれ」
自分の体の下の花は別に普通だ。その周りだけ花がなくなり地面が黒ずんでいる。
「大変、お花を植えなくちゃ」
「種を取ってきましょう」
「そうしましょう」
妖精達はあわてて去って行った。
「・・・・？」
ゆりは黒くなっているあたりに触れてみた。熱い。焼け焦げたような感じだ。



一体何があったんやらわけがわからない。



まあ花を植えてくれるというので何もしない方がいいだろうとゆりはそのまま花畑から出て歩いて行った。



謎だ・・・でも身体がだるいのちょっと治ったみたい・・・



ぶらぶら歩いていたゆりは遠くの方からペガサスが飛んでくるのが見えて大きく手を振った。
するとベガサスが近くに降りてきた。乗っていたのはハロルドだった。
「ねえ、少し空の散歩がしたいなあ。乗せて」
ゆりはベガサスに近づいて言った。
「用があるから少しだけな」
ハロルドが手を出してくれて、ゆりはその手を握り締めた、そのとたんに手がぱっと払われた。
「どうしたの？」
「どうしたのじゃない。お前の手すごく熱いぞ？どうしたんだ？」
ハロルドが驚いた表情で聞いた。
「え？別に普通だけど」
ハロルドは首をかしげてペガサスから降りて、ゆりの腕に触れてまたすぐ手を離した。
「ものすごく熱い。熱くて触れない」
「えー？別に普通だけどなあ」
ゆりは自分で自分の腕や頬に触れてみた。
別になんともない。
ハロルドは奇妙そうに眉をひそめた。
「空の神殿に行ったほうがいいな。アシュランに診てもらおう」
「でも一緒にペガサスに乗れないんじゃどうやって行ったらいいの？」
「あ、さっきラクアが空の神殿にいたな。まだいるかもしれないぞ。移動してみろ」
「わかった」
「私もすぐ行くからな」
「はーい」
ゆりはラクアを思い浮かべて移動した。ハロルドはすぐにペガサスに乗り、上空を飛んで行ったのだった。



ゆりが移動した先は空の神殿にある男の神のサロンだった。ラクアは他の神と歓談中だったのだが、女神の姿を
見て微笑んだ。
「ガーベラ、どうしたの？僕に用？」
「ねえラクア、ちょっと体に触ってみてくれない？」
「ん？」
ゆりはラクアに近づいて右手を出した。ラクアがその手を握ろうとして「あちっ！」と言って手を離した。
「ど、どうしたの？」
「やっぱり熱いんだ？」
ラクアは驚いたままゆりを見つめている。
「私の身体どうしたんだろう？」
ラクアの横にいた神が「どうしたんだ？」とラクアに聞いた。
「ガーベラの身体が熱くなってるんだ」
「どれ」
その神は腕に触れようとしてすぐ手を離した。
「本当だ」
サロンの中がざわざわしてきたので、ゆりは「アシュランに会ってくる」と言って部屋を出て行った。
といっても一人で会いに行くのも気が進まない。


そうだ、神殿の入り口でハロルドが来るのを待っていよう。



ゆりは神殿から出てペガサスがやってくるのを待ち、やがてやってきたハロルドと共にアシュランの元に行ったのだった。
謁見の間にはアシュランの他にアリアスがいた。
「二人そろってどうしたんだ？」
とアシュランが聞いてきた。相変わらずアシュランの身体は金色に輝きまくり顔もはっきりとは見えない。
「ガーベラの身体が変なんだ。ちょっと診てくれ」
「身体が変？」
ゆりはアシュランに恐る恐る近づいて行き、アシュランは椅子から立ち上がり、ゆりを眺めた。
「どこが変なんだ？」
「体温が異常に高い」
アシュランはゆりの頬に触れた。
「別に普通だが」
「ん？」
「なんともないぞ」
何気に女神の腰にアシュランは腕を回している。
「おかしいな。さっき触った時は・・・・アリアス、ちょっとガーベラに触ってみろ」
ハロルドは横にいたアリアスに言った。
「いいぞ」
アリアスが近づいてきて女神の身体を抱きしめた。
「こら、抱きしめろとまでは言ってないだろう」
とハロルド。
「・・・かなり熱いなあ・・・」
アリアスがそう言って手を離した。
熱いなあ、という割りには表情は普通なのでゆりは不思議だった。
「そうか？私は何も感じないぞ」
アシュランが女神の身体を横から抱き寄せた。
「ガーベラ自身はなんともないのか？」
「なんともないです」
「うーん？」
「どれ、もう一度」
と言ってアリアスが再び女神の身体を抱き寄せた。
「・・・お前達・・・」
ハロルドのこめかみが引きつっていた。ゆりは両方に交互にべたべた触られていた。
「かなり燃えてるぞ。おっ更に温度があがっている」
アリアスは涼しい顔で言った。
「アリアス熱いって言ってる割には熱そうじゃないよ」
とゆりが言った。
「私を誰だと思ってるんだ。太陽の神だぞ。」
「なるほど・・・」
太陽の神は熱さに強いらしい。
「お前いつまでガーベラを抱きしめてるんだ。とっとと離せ」
しっかりゆりを抱きしめているアリアスにハロルドがむっとした表情で言った。
「熱い理由を確かめようと思ってるだけだ」
その時女神の身体から青白い炎が一瞬あがり、アシュランが目を見開いた。
「お・・・これは・・・ハロルド、ヒルデリアを呼んでこい」
「わかった」
ハロルドは部屋を出て行った。


「ふーん・・・とうとうやったのか・・・」
アシュランはニヤニヤ笑っている。
「なんのこと？」
ゆりが首をかしげて聞いた。
「まあヒルデリアが来ればすぐわかるだろう」



やがてやってきたヒルデリアはゆりを見つめて微笑んだ。
「おお、子供がいるではないか」
「え？子供？」
ゆりとハロルドの声は同時だった。
「確かにおる」
「誰の子供だ？」
とハロルドが聞いた。
「サラディンだろう」
とアシュラン。
「確かに、中にいるのは火の神のようじゃ。そうか。とうとうサラディンの子供が生まれるのじゃな・・・」
ヒルデリアはどこか感慨深げに言った。
「え、じゃあなぜ出てこないの？いつもすぐぽんって出てくるのに」
ゆりが不思議に思って聞いた。
「さあのう。とりあえず、サラディンを呼んだ方が良いのでは？」
「そうだな。呼んでくる」
ヒルデリアの声にアシュランはすぐ謁見の間を出て行った。


「火の神がいるから熱くなってたのか。だがアシュランが触れた時は普通だったが・・・」
「ばかだな。いくらなんでも神々の長にまでそんなことはできないだろう」
アリアスはハロルドにいい、「ガーベラおめでとう」と言って謁見の間を出て行った。


そしてアシュランとあわてた様子のサラディンがやってきた。
「本当に子供ができたのか？ガーベラ！？」
「さあ、そうみたいだけど・・・」
「しばらく孕んでから出てくるんじゃないのか？」
とアシュラン。
「・・・もうすでに産まれる準備はできているようじゃがのう・・・」
ヒルデリアも首をかしげつつ言った。
「どうして出てこないんだ？早く出て来い。私の息子よ！」
サラディンが女神のおなかを見つめて言ったとき、ぼっとゆりの前に炎が燃え上がり、その炎は一人の燃えるような
髪をした男の子に変わったのだった。
「おおっ！」
男の子は結構でかかった。人間でいえば10歳ほどになるだろうか。ジェイクと同じくらいだ。
逆立った髪のかわいい顔をした男の子だ。
「さあ、来い」
サラディンが喜んで手を出すと、男の子はさっとゆりの後ろに隠れたのだった。
「どうしたのだ？」
「嫌だ」
「ん？」
「僕はお母さんといる」
「は？」
男の子はゆりの腰にしがみついていた。

一同ぽかんとしている。
「おい、アシュラン、とっとと名前を決めろ！」
サラディンはせかすようにアシュランに言った。
「え、あ、そうだったな。えーと・・・何がいいかなあ・・・・」
アシュアンはあごに手をあてて考え出した。
「こっちに来い！これから私の神殿に行くんだぞ」
サラディンはゆりの後ろの男の子に向って言った。
「嫌だ！僕はお母さんの所に行く！」
「何言ってるんだ！お前は火の神なんだぞ！来い」
サラディンは強引に男の子の腕を引いた。
「嫌だ！嫌だあ！おかあさーん！」
男の子は泣き出してしまい、ゆりはかわいそうになってしまい目を細めた。
「ちょっと、やめてよサラディン、かわいそうじゃない！」
ゆりはサラディンの手をひっぺがして男の子を抱きしめた。
「うわーん、うわーん」
「よしよし、泣かないで・・・」
ゆりは男の子の涙をふいてやった。
「ああ、うるさすぎて全然いい名前が浮かばない・・・・」
アシュランは額に手をあてていた。

「僕は・・・僕はお母さんといたい・・・」
「そうよねえ。産まれたばっかりだもんねえ」
ゆりは男の子の頭をなでて言った。
男の子はすごい力でしがみついている。
ヒルデリアは謁見の間を出て行き、布をもってきて男の子の腰に巻いた。


「一体どうなってるんだ。私の息子とは思えない・・・」
あまりの展開にサラディンの眉間に皺がよっている。
「サラディン、そのように言ってはいけない。まだ産まれたばかりではないか。とりあえず、ガーベラも火の神殿に
行ったらよかろう」
ヒルデリアが言った。
「お母さんも一緒に行くからね。行きましょう」
ゆりが男の子の背中をなでると、男の子は涙目でうなずいた。
「おい！名前！」
サラディンがきっとアシュランを睨んで言った。
「いいのが浮かばない・・・今日はだめだ」
「はあ？」
「なるべく早くに決めるから保留にしておいてくれ」
「ふざけるな！今から妖精達にあわせるんだぞ！なんなら私が決めてやる！」
「だめだ！私が決める決まりだ！すぐ考えるから待ってろ！」
「全く、とにかく火の神殿に行こう。ガーベラも来てくれ」
「はいはい」
ゆりはべったりひっついている男の子と一緒にかりかりしているサラディンについて行った。



「・・・珍しい展開になったなあ・・・」
３人が出て行った後ハロルドがぼそりと言った。内心ジェイクがああじゃなくてよかった、とほっとしている。
「ああ、何でいい名前が浮かばないんだ。変なのばっかり浮かんでくる！フンコロガシとかウスラハゲとか」
「・・・それは名前じゃないだろ。そんな名前付けたらサラディンじゃなくても切れるぞ」
ハロルドが呆れて言った。
「とにかく落ち着いてください。落ち着いて考えればその内に良い名前も浮かぶでしょう」
ヒルデリアがなだめるように言い、アシュランは「そうだな」と言って椅子に腰を下ろした。
「いつもはすぐ浮かぶんだがなあ・・・おかしなこともあるもんだ・・・」
アシュランは一人ああでもないこうでもないと火の神の名前を考えていたのあった。




火の神殿では、ようやくサラディンの子供が産まれたので火の妖精達が大喜びでみんな火の神殿にある広間に
集まっていた。２０人ほどはいるだろうか。これほど火の妖精を見たのは初めてだったのでゆりは驚いた。
男の子はというと、赤い服を着せてもらったものの、まだゆりにべったりしている。
妖精達は興味津々で小さい方の火の神を見ていた。
「皆には長い間待たせたが本日めでたく子供が産まれた。」
サラディンは内心とは裏腹ににこやかに言った。
「おめでとうございます。サラディン様」
「おめでとうございます！」
と妖精達からお祝いの言葉が飛んだ。
「それでお名前は？」
と一人の妖精が聞いた。
「それが・・・・まだない。アシュランが良い名前を考え中だ」
妖精達は不思議そうな顔をしていた。いつもは神の名前はすぐ決まっている。なぜだろうと思うのも無理はない。
「まあその内に決まるだろう。皆今日は火の神の誕生を祝ってくれ。それじゃまた後でな」
サラディンはゆりを促して違う部屋に移動した。そして男の子に向っていったのだった。
「お前いつまでガーベラにくっついてるんだ？」
「・・・・」
男の子は女神の腰帯に手をかけてひっついている。
「母親が恋しいにもほどがあるんじゃないのか？」
「サラディン、まだ産まれたばっかりなのよ。人間の子供ならおぎゃあって泣くだけなんだから」
「この子は神だ。赤ん坊で産まれたんならともかくもう立派な少年じゃないか」
「そうだけど、あんまり怒らないで。そんなに目を吊り上げて怒るからこの子が怖がってるんじゃない」
そういうとサラディンは渋い顔をした。
「もっと優しくしてあげて」
「僕・・・もう少しお母さんの中にいたい・・・」
男の子はうなだれて言った。
「何を言ってるんだ。せっかく産まれてきたのに・・・」
「お願いだからもう少しだけ・・・・」
男の子は泣きそうな顔をしている。
「・・・」
サラディンは呆れた顔をしていた。
「お前はもう立派な火の神なんだぞ？」
ゆりは男の子の頭をなでた。
「戻れるんなら戻っていいよ」
「ガーベラ！」
「いいじゃない。もうそんなにあせらなくても。あなたの子供が誕生したことはしたんだから。産まれたばっかりくらい
は大目にみてあげて」
ゆりはサラディンを見て言った。
「だが・・・」
「僕お母さんといてもいい？」
男の子が顔を上げて聞いた。
「いいよ。だけどずっとは無理よ。」
「うん。わかってる」
男の子はぎゅっとゆりに抱きついて、そのまま消えてしまった。どうやら身体の中に戻ってしまったようだ。


「・・・」
サラディンは面白くなさそうな顔をしている。
「サラディン、そんな顔しないで」
「これが私の息子とは先が思いやられる・・・」
「そんな事言わないの。その内産まれたくなったら出てくるから、暖かい目で見てあげて」
「・・・」
「ね」
「・・・わかった・・・」
サラディンは仕方なくといった感じで言った。


「さてと、じゃあ私自分の神殿に戻っていいかな？」
「ずっとここにいたらどうだ？」
「でも、いつ産まれる気になるか分からないし・・・とりあえず戻る」
「そうか。なら送ってやる」
「ありがとう」
ゆりはサラディンにガーベラの神殿へ移動させてもらった。
「何かあったら教えてくれ」
「うん。あんまりかりかりしないのよ」
サラディンはそのまま消えてしまった。


「お母さん？」
奥の部屋からクーリーフンがやってきてゆりの目が輝いた。
「あーよかった。探さなきゃと思ってたんだ」
「何かあったの？」
「あのね」
ゆりは小さい火の神の話をクーリーフンにしたのだった。
「あれ？鐘鳴らなかったけどなあ」
「そうなの？」
あのドサクサで神が産まれた鐘も忘れられていたらしい。
「またおなかに戻っちゃったんだ」
クーリーフンは女神のおなかを眺めた。
「まあそういうこともあるんじゃない？」
「いや、あんまりないけど・・・」


ゆりは椅子に座っておなかをなでていた。火の神は安心して寝ているような気がする。
ゆりはほどなく現実世界に戻り、ガーベラが目を覚ました。
「あ。お母さん、おなかに火の神がいるんだよ」
とクーリーフンはガーベラに説明した。
「え？またあっちの時にできたの？なんだ・・・今回は私が産みたい気分だったのになあ・・・」
ガーベラはちょっと残念そうに言った。
「いや、昨晩できたらしいよ。なんだかお母さんが好きみたいで、一度出たけどまたおなかに戻っちゃったんだよ」
「へー。そうなの。珍しいこともあるのね。」
ガーベラはおなかをなでてみた。子供がいるといわれればそんな気がしないでもない。
「それじゃサラディンはさぞかし・・・ぷ・・・」
ガーベラはサラディンの怒った様子を想像して笑ってしまった。



その頃、空の神殿ではアシュランが落ち着きなく椅子の腕置きの所を指でたたいていた。
「うーん。ほんとに何も浮かばないなあ・・・気分転換が必要だ。ちょっと外へでも行くか」
アシュランは謁見の間から出てすぐ偶然ヒルデリアに出くわしてしまった。
「どちらかに行かれるのではないですよね？」
ヒルデリアは鋭く聞いてきた。
「いやどこにも行かないぞ。気分転換にサロンで神々と歓談でもと思っただけだ」
「そうですか。」
ヒルデリアはなにやら疑いの眼差しを向けていたので、アシュランは外に出るのはあきらめて仕方なくサロンへと
行ったのだった。



目が覚めたゆりは子供達と食事をしてその後ナナミと庭園をぶらついた。今日はロイと遊ぶ気分だったのだが、
ロイはさっさとどっかに行ってしまっていた。昨晩あれだけ暗い雲が垂れ込めていたが、雨は降らなかった。
曇り空だ。



あんな神様が産まれちゃうなんてびっくりだけど、母親としては、ちょっとうれしい気分もあるかもね。



ゆりはそんなことを思っていた。
母親が大好きでしょうがない神様だってそりゃいるだろう。ああいう頼りなさげな子だと守ってあげたくなってしまう。
「ナナミお母さん好き？」
ゆりがしゃがんでナナミに聞いた。
「大好き！」
「そう。お母さんもナナミが好きよ」
ゆりはナナミを抱き上げて大きくなったなあとしみじみと感じていた。

「それにしても朝っぱらからロイはどこ行っちゃったのよね。遊ぼうと思ったらいっつもいないんだから」
ゆりがぶつぶつ言った時、横にぱっと二人の男が現れた。その二人はジュノーとヴィラで、二人とも水浸しで
上半身裸だった。
「ど、どうしたの？」
ゆりが驚いて聞いた。
「ロイ様のせいですよー」
ジュノーの腕の脇には裸のロイがいた。ヴィラは服を持っている。
「ロイ様が勝手に結界抜けて湖に飛び込んじゃったんですよ。しばらく浮いてこないもんだから我々も」
ヴィラがため息交じりに言った。
「あらら、悪い子ね。ロイは」
「えへへ」
ロイはジュノーに抱えられたまま笑っていた。
「えへへじゃないでしょ。おしりぺんぺんしますよ？」
ゆりが言うとロイは笑っていた。すっかりなめられている。
「全くもう・・・それにしても・・・・二人とも、色っぽくて素敵」
ゆりは水浸しの二人を見つめて言った。
「水も滴るいい男haat4.gif」
ジュノーとヴィラはきょとんとした顔をして目を合わせた。
「もしかして・・・だれか降りちゃいました？」
ヴィラが微笑んで聞いた。
「誰って、誰が？なんのこと？」
ゆりは言いながらもじーと二人を見ている。頬はちょっと赤くなっていた。
「こりゃ儀式ですね。」
ジュノーは微笑んでいった。
「え？やだ、まさかあ」
ゆりはあははと笑ったが、二人に引っ付きたくてしょうがなかった。
「こりゃ朝から泳いだかいがあったなあ」
「行きましょう。王妃」
「えー！！！」
ゆりはナナミをダッコしたまま移動させられた。


部屋に入るとロイとナナミはジュノーがさっさと連れて行ってしまった。
「あ・・・あー！」
「王妃私を見て」
ヴィラがゆりの手を握り締めた。
「やだ！」
ゆりは顔を背けた。
「もう、こっち向いて」
「服が濡れるー！！！」
抱きしめられて顔を向かされた。
「・・・ああ。いい男。一杯可愛がって欲しいな」
ゆりはうっとりした顔で言った。
「可愛がってあげますよ」
「・・・あーなんでもうこうなっちゃうの！」
はっと正気に戻ったゆりは絶叫した。
「まあいいじゃないですか」
「よくない！！！」
「口付けして欲しいでしょ？」
「うん。してほしい」


だめだこりゃ。



「今儀式してもなーんもないのにい！」
「まあいいじゃないですか。たまにはね、ちょうどしたかった所なんです」
「どいつもこいつも・・・」
ゆりはヴィラに唇を覆われて、そのままうっとりいい気分になってしまった。
「んーん・・・」
ジュノーがぱっと部屋に入ってきた。
「泳いだ所だからざっと身体洗いたいなあ。」
「そうだなあ。王妃も行きましょう」
「・・・うん」
素直にうなずいてしまったゆりはそのまま浴室へと直行させられた。



「身体洗ってあげますよ。王妃」
「んー・・・」
ゆりは裸のままヴィラとキスしながらジュノーに肌をまさぐられ身体は泡まみれになっていた。
「気持ちいいです？王妃」
ジュノーが後ろからゆりの胸をなでながら耳元で聞いた。
「うん。いい・・・」
「じゃあ私にも口付けしてください」
「うん」
ゆりは身体の向きを変えてジュノーに引っ付いた。
「今日は皆来れるかな？来れるといいですね。王妃」
ヴィラは他の男達に思念を飛ばしていた。口付けに没頭しているゆりには聴こえてない。



こうして朝っぱらから儀式もどきは起こり、男達はやっぱり喜んで集まってきたのだった。



すすむ