神の国はすっかり快晴の日々が続き、神々も妖精達もほっとした日々を過ごしていた。やはり神の国には晴れ間が
似合う。雨の日の間はさすがに太陽の神アリアスも黄金の馬車を走らせることはなかったし、月の女神も同様に
夜神殿でおとなしくしていた。今では鳥達も、ペガサスも自由に空を飛び回っている。
カサンドラの神殿の横に生えている一本の桃の木は青々とした葉をつけていた。枝には小鳥が止まり、ピーチク
パーチクと話をしている。土の神に生まれ変わったネルは、桃の木を眺めていた。
妖精として産まれたのに気づけば姿も変わり、土の神へと変わっていた。妖精の時にはなかった金色の輝きが
今のネルの体からは上がっていた。これがあればもう動物と間違えて矢を射られることもなさそうだ。
自分としては、茶色い肌も、べたっとした茶色い髪も、茶色い瞳も、ちょっと不本意なのだが、サントスは喜びま
くっているので、まあしょうがないかな、と思っているネルだった。その代わり服だけは桃色の服を作ってもらっ
てそれを着ている。妖精の時の名残か、桃色の物が大好きなネルだった。
「ネル」
桃の木を眺めていたら声をかけられてネルは顔を向けた。見ると、ちょっとうつむきがちにパティウスが立っていた。
「ごめんね。この前のこと」
「もう気にしてないわよ」
ネルは微笑んで言った。
「はいこれ」
パティウスは後ろ手に持っていた花束をネルに手渡した。
「どうもありがとう」
その花は、ここらあたりじゃあまり見たことはない花だった。どの花も花びらが金色にきらきら輝いている。
「珍しいわね。綺麗」
「僕、本当に悪かったと思ってるんだよ。お詫びに、大きくなったらネルを妻にしてあげるからね」
とパティウスが言った。
「え？妻？」
ネルがきょとんとした顔をした時、「こらー！」というどなり声が聞こえてきた。
サントスが神殿から出てきたのだ。
「パティウス、ネルに近づくんじゃない！」
「僕何もしないよう。ただ、この前のこと謝っていただけだよ。将来ネルをお嫁さんにもらおうと思って」
パティウスの言葉にサントスのこめかみが引きつった。
「誰がお前なんかにやるか！離れろしっしっ！」
まるで犬でも追っ払うように手を振っている。
「もーわかったよう。じゃあまたねーネル」
パティウスはそのまま飛んで行った。
「あー危ない危ない。だめだよ。ネル、一人で外出たら」
「ここ神殿の外よ。別に危なくないし」
「ネルの姿が見えなかったらお父さん心配だよ。」
「大丈夫よう。あんなことめったにないからね」
「でも心配なんだよ・・・」
サントスはこの前のことを思い出してちょっと悲しそうな顔をした。
「父様ったら。ねえ、果樹園に連れて行って」
「うん」
二人は手をつないで歩いて行った。しばらくは、サントスも娘べったりの生活が続きそうだ。
その頃、ヒルデリアは地上にある自分の花壇の花を見て頬を引きつらせていた。めったにない金色の花が植えられて
おり、だれも採ることは許されていないのだが、その一角が無残に切り採られている。
こんな事をする者は一人しか思いつかない。
「誰かパティウスを連れておいで！」
ヒルデリアは後ろにいた侍女達に目を吊り上げて言ったのだった。
第69話
人間界では天気が良い昼下がり、ゆりはルーを首に巻いたまま、庭園をあちこち巡り草むらの間をごそごそ探してい
た。ルーの子供達がいないかなーと思って探していたのだ。蛇は一杯見つかったがルーの子供らしき子蛇はみあたら
なかった。
「あーあ。遠くに行っちゃったのかな？」
蛇達がよくたむろしている場所を探してみたものの、いなかった。
「寂しいねえ。ルーちゃんや」
ゆりはルーの頭をなでた。ルーは寂しいのか寂しくないのかよくわからないが、子供を産む前と同じようにゆりの
部屋で過ごしている。
「しかし・・・いつになったらこの石像は新しくなるんだろう？」
ここは神話の神々の石像が置かれている場所だった。石像を新しくしようと言ってからだいぶ経ってるような
気がする。
王様ってばすっかり忘れてるのかなあ。ちょっと会いに行ってみようっと。
ゆりはルーを首に巻いたまま城の中に入って行き、王の間に行った。番兵の横には見知らぬ女性がいた。
どっしりした体格で頬もぽっちゃりした中年の女性だった。黒い髪にはちょっと白髪が混じり頭の上の方で団子状
にまとめられている。素朴な感じで向こうでいう肝っ玉母さんというイメージだ。
ゆりは久々にこういう女性を見たので驚いた。女性はゆりにぺこりと頭を下げた。
「王妃、こちら、今王に謁見されている方の奥方なんですよ」
と番兵が説明した。
「あんれまあこちらが王妃様ですか。よろしくお願いします」
と女性が言ってまた頭を下げた。ちょっと言葉使いがなまっている。
「こんにちは。一体どういうお客様なの？」
とゆりは番兵に聞いた。
「芸術家の方ですよ」
「芸術家？」
「神の石像を作らせたら右に出る者はいないという方ですよ」
「あ、もしかして庭園の石像彫ってくれるの？」
なんというタイミングのよさだろうとゆりは思った。
「ちょうどどうなったかと思ってた所だったのよ」
「王が以前依頼した方ですよ」
「うちの旦那様は世界一です。」
と女性はうれしそうに言った。
その時ラギがぱっとやってきた。
「ミッケルさんもう来た？」
「おやまあかわいいぼっちゃん」
ラギは体格のいい女性を見てちょっとぎょっとした。
「こちらミッケルさんの奥様ですよ」
と番兵が説明した。
「こんにちは」
「こんにちは。」
「ミッケルさんって、ラギ知ってるの？」
ゆりが聞いた。
「ミッケルさんはすごいんだよ。神の国で修行した人なんだよ」
とラギが興奮した様子で言った。
「え？神の国？」
「その話を詳しく聞こうと思ってさ」
神の国で修行？？？
ゆりが首をかしげていると、王の間の扉が開いて一人の男とフリットが外に出てきたのだった。
男は小柄な初老の男性だった。穏やかな顔立ちで鷲鼻で丸い眼鏡をかけている。おでこは広く灰色の髪は肩まで
あり後ろにたらされていた。背はゆりよりもちょっと低いくらいだ。
この奥方だけに体格のいい夫を想像していたゆりは拍子抜けした。
「ああ〜素晴らしかった。さすがはジェラルド様だ・・・」
男は出てくるなり胸に手をあてて言った。そしてゆりとラギに気づいて頭を下げた。
番兵はミッケルにゆりとラギを紹介した。
「是非神の国での話を聞かせてください」
ラギが目を輝かせて言った。
「よいですとも。今夜は城に泊まることになりましたから。」
「こちらへどうぞ」
ラギが案内して、ミッケルとその奥さんがついていき、ゆりとフリットも付いて行った。
うーん。なんというか・・・久々に見るなあ。こういう夫婦。懐かしいっていうか、心が和むな。
どう見ても奥さんの方が背も高く、重なればミッケルの姿はすっぽり隠れてしまうほどだろう。
こちらでは筋肉質の女性はいるが、横に体格の良い女性というのはあまりいないために、ゆりはとても懐かしく
思ったのだった。
「どうしたんですか？王妃うれしそうですね」
とフリットが聞いた。
「神の国で修行ってどういうこと？」
ゆりはこっそりフリットに聞いた。
「私もよくは知らないんですが、そうらしいですよ。とにかく、石像彫りの名人というのは確かですよ。世界中から
ひっきりなしに依頼がきてるようですよ」
「へー。そんなにすごい人には見えないけど・・・」
客間に入ると人数分のお茶とお菓子が運ばれてきた。奥方はいそいそと夫の分の紅茶に砂糖を入れてかきまぜて
渡している。ルーはゆりのひざの上で丸くなっていた。
「ミッケルさんは庭園の石像彫りに来てくれたの？」
とゆりが聞いた。
「それが、まだこちらの依頼まで時間がかかりそうなんです。ですがどうしてもジェラルド様が彫った木像が
見たくて・・・仕事の合間にやってきてしまったというわけで・・・」
ミッケルが申し訳なさそうに言った。蛇の国にはジェラルドが製作したガーベラ像が３体ある。その一つは王の間
にあり、ミッケルは王に謁見してそれを見てきたのだ。
「旦那様は働きすぎですから、たまには休まねば・・・」
と奥さんが言った。
話によれば、ミッケルの工房は西の聖域にある島にあるらしい。遠くの国で依頼があれば、その国に場所を借りて
石像や木像を彫るようだ。西の聖域にはそういう職人を育てる工房がいくつもあって、ミッケルはその中でも
一番の腕前のようだ。子供の頃から天才だと言われていたらしい。
奥さんが夫の自慢話のようにミッケルのことを語り、ミッケルは時々困ったような顔で妻をたしなめていた。
そして話は神の国の話になったのだった。
「あれはわしが80歳の時でしたか。まだ若く、自分の腕を磨くのに毎日必死で石や木を掘っている頃のことでした。
その頃でも周りからは天才だなんだと囃し立てられてましたが、わし自身はもっと自分の腕を高めたくて仕方な
かった。西の聖域にあるジェラルド様のアシュラン像、あれを見るたびに、わしの腕はまだまだだと思えてならな
かったのです。西の聖域の工房では、あまりに優れた職人が出るとジェラルドが弟子にするという言い伝えがあり
ましてね。それは物語ではなく、実際に神の国に行った者の話が残ってるんですよ。だからわしもできる事ならば
ジェラルド様の教えを請いたかった。そうしたらある日夢枕にジェラルド様が立たれたのですよ。お前の腕をもっ
と高めたいのなら、神の国に来ないかと。わしは考える間もなく「是非修行させてください」と頼み込んだのです
。そして気づいたら神の国にいたというわけで・・一心不乱に修行を続けて、どのくらいの時が経ったのか。
若いまま人間界に降りた時にはすでに知り合いはあらかた老人になってました。そして今に至っているというわけ
ですよ」
ミッケルは懐かしそうに語った。
「神の国に人間っていけるんですねえ」
ゆりが驚いて聞いた。そんな話を聞いたのは初めてだった。
「芸術家はたまにいけるようですよ。全く悪意もなく、向上心が高い人間に限定されているようですが・・・
わしが人間界で神々の芸術品を作ることは神の宣伝にもなりますので、神としては都合が良いということもあるんで
すよ」
「へー・・・」
「神様に一杯会いましたか？」
ラギが聞いた。
「はい。多くの美しい女神様、雄雄しい神様にお会いしましたよ。面と向って話をしたわけではなく、ジェラルド様
に会いにこられた神をこっそり見るくらいのものでしたが・・・今思い出しても本当に素晴らしい経験でしたよ。
こちらのガーベラ像を見て本当に懐かしく思いました。」
ミッケルの目は少年のように輝いていた。
「そしてまだまだわしの腕は師匠に遠く及ばないと思い知らされました。」
ゆりは耳を傾けながら、何気に横の奥さんの方を見た。奥さんもミッケルに顔を向けて話を聞いていたのだが・・
あれ？
ゆりは目をごしごしとこすった。
体格の良い奥さんの姿に重なり、違う女性の姿が重なって見えたのだった。その女性はやせていて美しく、
ストレートの金色の髪をしていた。
幽霊？
「王妃、大丈夫ですか？」
横にいたフリットがこっそり聞いた。
「うん。平気よ」
その美女の姿は消えてしまい、奥さんの姿だけになった。
おかしいな。さっきのあれはなんだったなろう？？？
ただの幻にしてはかなりはっきり見えたんだけど・・・
話を聞いたアナスターシャとシスまでやってきた。アナスターシャが手に木の塊を持っていてミッケルに渡すと、
ミッケルは奥さんが持っていた木彫りの道具でさっさと木を削り、見事な一匹の蛇を彫り上げたのだった。
「わあすごい！」
「さすがだね！」
あまりの早業に一同感嘆とした。
夫婦は今夜は城に泊まり、明日の朝家路につくという。この国の石像は後４．５年先になるようだ。
夕食を食べながらもゆりは先ほどの奥さんに重なった幻の事が気になって仕方なかった。
うーん。気になるなあ・・・なんだったんだろうな。あの人は・・・
人って感じじゃなかったな。妖精か何かのように見えたんだけど・・・・
気になってしょうがなかったゆりは侍女に言って、奥さんを部屋に呼んでもらうことにしたのだった。
「私に何かご用でしょうか？」
部屋にやってきた奥さんは不思議そうに聞いたのだった。
「あ、座って、実は、ちょっと変な話なんだけど・・・」
奥さんが椅子に座ると、ゆりは昼間見た幻の事を話した。奥さんは目をぱちくりさせていた。
「ごめんね。すっごく気になっちゃって・・・何か心当たりない？」
「・・・・」
変な女かと思われたかなあとゆりが思っていると、奥さんは「王妃様はそういうのが見える人なんですね」と
言ったのだった。
「え？そういうのって？」
「妖精とか神の姿ですよ。たまに見える人がいるようです」
「じゃあ・・・さっきのは・・・」
「旦那様にも誰にも言わないと誓っていただけるのならば、話してもいいですよ」
と奥さんがいった。今まではちょっとなまった発音だったのだが、今では普通になっている。
「なにやら王妃様には懐かしい匂いを感じますし・・・」
「うん。誓う」
とゆりは断言した。
「実は私の正体は妖精なんですよ。」
「妖精」
ゆりは目を見開いた。
この女性の姿から想像すらできない言葉だ。
「芸術関係の妖精なのですが、ジェラルド様の工房で毎日毎日修行に明け暮れるあの人をずっと見ている内に
すっかり恋心を抱いてしまいまして・・・姿形は美形とかいうのではないのですけど、何かを製作している時の
あの真剣な眼差しが本当に好きになってしまったのです。といっても相手は人間ですからまさか思いを打ち明けら
れる事もできません。神の国では仲良くなる事はできませんでした。
ある日、修行の日が終わりあの人が人間界に帰ってしまう事を知ると、本当に悲しくなってしまって・・・
思いあまってアシュラン様に相談したのですわ。アシュラン様も困った様子でしたがやがてこうおっしゃいました
『ならば人間としてあの男が生きている間人間界で住んではどうか。
ただし、そのままの美しい姿で、というわけにはいかない。男がお前を愛さなくても、お前は男が死ぬまでは神の
国に戻ることはできないぞ。それでも良いというのならしばしの間人間の姿にしてやろう』と」
「それでその姿に？」
「はい。私はあの人の側にいたいあまりにその条件を受け入れて、しばしの間人間にしてもらいました。そして
強引に世話がしたいと工房に転がり込んだのです。あの人も最初は困った様子でしたが、やがて私のことを見て
くれるようになって・・・」
「そうなんだ・・・」
ゆりは目頭が熱くなるのを感じた。
二人の間にそんなにすごいドラマが隠されていたなんて・・・
「この話、信じますか？」
奥方はゆりを見つめて聞いた。
「信じるよ。」
とても嘘とは思えない。しかも、妖精の姿を見てしまった今では信じざるをえない。
「結局子供は授からなかったんですが・・・それでも今は幸せです」
奥さんはぽっちゃりした頬をピンク色に染めて言った。
人間に恋をしちゃった妖精かあ・・・なんだかじーんときたなあ・・
別れの時は辛いだろうけど、今は本当に幸せなんだね。
次の日の朝、ゆりは子供達と一緒にミッケル夫妻の出発を見送ったのだった。
ゆりはこっそりミッケルに「奥さんの事愛してる？」と聞いてみた。するとミッケルはちょっと照れたような
顔をして、「わしのためによくしてくれますから・・」とぼそっと言ったのだった。
「今度来てくれるのを待ってるからね」
「はい」
夫婦は笑顔で馬車に乗って去って行った。
ああ、いいなあ。愛って素敵。
幸せな気分になったゆりは、その後るんるんで王の間に行き、ラクシュミに、
「王様愛してる」と言ったのだった。
「・・・」
「愛してる。すごく」
ゆりは目を輝かせて言った。するとラクシュミは
「ゆり・・・今晩から三日月だからちょっとその気はないな」
と言ったのだった。
「え、別にその催促に来たわけじゃないんだけど・・・」
「じゃあなんなんだ？」
「ただ愛してるって思ったから言っただけよ。ひどい。」
ゆりは頬を膨らませた。
「わざわざ言う所が怪しい。」
「そんなことないよ。たまに愛してるって言われたらうれしいでしょ？」
「じゃあ夜の催促じゃないんだな？」
「いや、そりゃ、夜もラブラブならそりゃうれしいけど・・・」
ゆりがにっこり笑って言うとラクシュミが横を向いた。その時王の間にミカエルが現れたのだった。
「ひどい王様。王様も愛してるよって言ってくれればそれで丸く収まるのにい・・」
「わかった。愛してる愛してる」
ラクシュミはつれなく言った。
「心がこもってない！」
ゆりはむくれている。
「どうしたんです？王妃、欲求不満なんですか？」
とやり取りを見ていたミカエルが聞いた。
「え、ち、違うよ」
「全くちょっと相手をしてやらないとむくれるんだから。困った女だ」
ラクシュミはぶつぶつ言っている。
「それならそうと言ってくださればいいのに。いつでも解消してあげますよ」
とミカエルが笑顔を向けた。
「違うってば！なんですぐそっちと一緒に考えちゃうわけ？」
「欲求不満なんだろ？」
「欲求不満なんでしょ？」
と二人に言われてゆりは深く傷ついた。
「もういいわよ。ぷん」
ゆりはさっさと歩いていき、
「王妃、午後行きますね〜」というミカエルの声に「来なくていい」と答えて
王の間を後にした。
「王妃ってばほーんとかわいいんだから」
ミカエルはにやにやして言っていた。
「子供5人も産んだのに全然変わらないな。ラギを産んだ時はしばらく落ち着いてたが・・・」
「早くお仕事終わらせよう〜っと」
ミカエルはるんるんでラクシュミに報告をしだした。
「お前も二人子供ができても全然変わらないなあ・・」
ラクシュミはぼそっと言ったのだった。
午後、ゆりは自分の部屋ではなく双子の部屋にいてナナミと遊んでいた。文字のパズルで遊んでいたのだ。
外で遊ぶのが好きなロイはさっさとでかけてしまっている。するとナナミがふああとあくびをしだした。
「おねんねする？」
「うん。今日はパパと一緒に寝るの。じゃあね。マー」
そう言ってナナミは消えてしまった。
「あらら・・」
どちらもいなくなったので仕方なく部屋の外に出るとハインリヒに出くわした。
「ああ、王妃、今から行こうと思ってたんですよ」
とハインリヒが笑顔で言った。
「何か用？」
「王妃の肌が恋しいんでいちゃいちゃしましょう」
「は？」
ゆりは手を握られるとさっと別室に移動させてられてしまった。
「ちょっとお、今日は三日月よ。何欲情してるの」
とゆりが手を離してむくれて言った。せっかくミカエルに会わないようにしようとしていた所だったのに、
これでは何にもならない。
「いいじゃないですか。王妃の胸さえあれば月は関係ないです」
「なんだそりゃ」
ハインリヒはゆりを抱きしめた。
その時、「ひどーい」という声が聞こえてきた。後ろを向くとミカエルが立っていてゆりの顔が引きつった。
なんでここにいるとわかったんだ！
「王妃私と約束してたのにひどい！」
「約束してたんですか？」
ハインリヒが聞くと、「全然してない」とゆりは言い切った。
「ひどいな。今日王妃の欲求不満を解消させるのは私だったはずなのに・・・」
ミカエルはゆりをにらんでぶつぶつ言っていた。
「欲求不満だったんですか？」
ハインリヒがにこやかに聞いてきた。
「違うよ。」
「そうなんですか？じゃあ私の欲求不満を解消してください」
とハインリヒが続けて言った。
「え！」
「じゃあ私も」
とミカエル。
「あのね！！それが王妃様に言うことなわけ！？」
ゆりは二人の顔を見回して言った。
「だって恋人ですもん♪この際3人でもいいです。」
「愛してるんですもん♪まあしょうがないな」
「えー！！！二人のコンビはいやー！」
ゆりの絶叫はまるっきり無視されて、そのままハインリヒにベッドに運ばれてしまった。
ほのぼのとしたいい話の後になんでこうなるの！？
なかなかラクシュミとはドラマティックな展開になれないゆりだった。
すすむ