「きゃはは」
「きゃははは」
可愛い女の子達の笑い声が辺りに響いていた。ラクアの神殿の周りの湖では、最近産まれたばかりのラクアの双子
の子供達と、キュリアやネルまで加わって水遊びをしていた。傍らではそれを微笑ましくラクアとサントスが
眺めている。子供達は父親が違えども皆ガーベラの子供、あんまり関係なく仲良くしているようだ。
この中では一番キュリアがお姉さんだ。ネルはキュリアよりも少し幼い。
「さあ、この子どっちだ」
ネルは双子の一人を抱き上げてキュリアに言った。
「うーん。ユリアナの方かな」
「私はイオナの方だと思うなー」
といいつつネルが女の子を見ると、女の子は澄んだ湖のような瞳をネルに向けて「ぶー」と言った。
どうやら外れていたようだ。
「あらら」
ネルが水の中で手を離すとユリアナは水の中でぷっくり浮かんで足をばたばたした。小さくても水の女神様。
泳ぎはお手の物だ。
「本当に二人ともそっくりねーどっか違いはないのかなあ？」
身体も顔も、短い水色の髪も鏡で映したようにそっくりな二人だ。
「あるよ。イオナの方はおしりにほくろがあるんだよ」
とラクアが言った。
「えーそれだけなんですか？」
とネル。
「まあそのうちに違ってくるんじゃないかなあ」
「あ、カカチャマだー」
「カカチャマ」
双子が湖の向こう側に目を向けた。ガーベラが手を振っている。ガーベラは花を渡ってやってきた。
「あら、あなたたちもきてたのね」
ガーベラはキュリアとネルを見て言った。
「遊んでたの」
とキュリア。
「カカチャマもきて」
「きて」
「そうねえ入っちゃおうかな」
ガーベラが双子に微笑んで言うと、サントスが驚愕の表情で「え」と言った。
「お父様また失神しちゃうね」
とネル。
「では私はこれで。後で迎えに来るからー」
と言ってサントスは逃げるように湖の花を渡っていった。
ラクアはぽかんとしている。
「もーサントスったら。普通は皆喜んで見るものなのにねー」
ガーベラはサントスの後姿を見つめつついった。
「カカチャマ〜」
「はいは〜い」
と言ってガーベラは服を脱いで湖の中に入って行ったのだった。
第70話
ラクアの子供が産まれて現実世界に戻ってきたゆりは、その日の夕方休憩中のラクシュミを訪ねた。
ラクシュミはミカエルと一緒にお酒を飲んでいた。
「あ、私も飲む〜」
ゆりは棚から杯を持ってきてラクシュミの横に座り、自分で半分ほど注いでお酒をのんだ。
かなりご機嫌の様子だ。
「何かいいことでもあったんですか？」
とラクシュミの向い側にいたミカエルが聞いた。
「今日はお祝いなの。お昼もケーキ食べてお酒飲んじゃった」
「なんのお祝いです？」
「内緒」
「えー」
「ガーベラが目出度く恋人全員の子供産んだそうだ」
とラクシュミがいった。
ラクシュミはその話を朝起きた時に聞いている。
「へーそうなんですか。王妃はガーベラの恋人皆とそういう仲になったんですか？」
とミカエルが聞いた。
「どういう仲にもなってないよ。神様同士だとなんと口付けしただけでも子供ができちゃうんだよ。それで
あっという間に11人もできたの」
ゆりはさも口付けだけで子供ができたような言い方をした。
「またまた、大人向け神話の本ではかなりそういう場面がありましたよー？」
ミカエルが意味ありげに横目で見ている。神話には大人向けもあるらしい。
「そんなことないもん。」
「口付けだけで子供ができたら、王妃は私の子供100人以上は産んでますね」
「お前の子供が100人もいたらうっとうしいだろうな」
とラクシュミがミカエルを見ていったのだった。
私も来年はがんばるぞ〜
ほろ酔いで部屋を出たゆりはご機嫌で廊下を歩いていたが、左目がぱっと蛇の目に変わった。
ハザーク様のところに遊びにいこうっと。
蛇目のゆりはそのままハザークの塔に行き、「夕飯まで遊びましょ」と言ってそのままハザークと寝室に
行ったのだった。
抱きながら気もちょっともらい、ご機嫌になったゆりはハザークの胸にもたれたまま聞いたのだった。
「ハザーク様って、子供欲しいって思うことある？」
「子供？」
「子供」
ハザークとこういう仲になって結構になる。これだけ抱き合っていて子供が全然できない方が不思議な気がする
ゆりだった。なにせラクシュミの子供も神様の子供も産みまくりだ。
「別に」
ハザークは顔色も変えずに言った。
ハザークは蛇の子供がいるが人間の女に今まで子供ができたことはない。
「王様は怒るかもしれないけど、ハザーク様の子供産んであげたい気がするなあ」
ゆりはぼそりと言った。ハザークとの関係は別に体だけの関係でもなく、お互いに愛情も感じているからそう思って
しまうのだ。といっても赤い月にハザークと会うわけにはいかない。その時のラクシュミだけはかなり嫉妬深く、ゆ
りが他の男と目を合わせるだけでも大変なことになりそうだ。
「我のように長い寿命を持ったらかわいそうだ」
ハザークが言った。
「そうかな」
「我ももうかなり生きた。いつ死んでもおかしくない身だしな」
「そんなこと言わないで」
ゆりはハザークの耳を引っ張った。
「ハザーク様がいなくなったら悲しい」
「我だって、王や王妃の死を看取るのは悲しい」
ハザークは上を向いて言った。
一体どれほどの死を看取ったのか、ハザークにももう思い出せはしない。
「そんなのずっとずっと先よ。私も王様もかなり長生きする予定だからね」
ゆりはハザークに抱きついて言った。
「だからおばあちゃんになっても抱いてね」
「え・・・それはちょっと・・・」
「えー嫌なの？」
「嫌というか・・・ごにょごにょ」
さすがにハザークの顔が引きつり言葉を濁したのだった。
数日後再び神の国へと行けたゆりは、サラディンの神殿に行き、強引にサラディンを誘って一緒に昼間からお風呂
に入っていた。ルティアナも一緒だ。
「親子風呂もいいねえ」
ゆりはのんきに言った。現実の方ではなかなか親子全員でお風呂に一緒に入るってこともない。子供らは仲良く
入っているようだが、シスやラギに裸を見られるのもちょっと恥ずかしいゆりだった。
「私も大きくなったらお母さんみたいなおっぱいになればいいなー」
ルティアナがゆりの胸を眺めながらいった。
「まあルティアナったら。ところで布団焼かないようになった？」
ゆりが聞くと、「まあぼちぼち」とルティアナがちょっと気まずそうに顔の半分までお湯の中に入った。
「ぼちぼち？」
ゆりの横でサラディンが鼻でふふんと笑った。
「ベッドを焼いた話はしないのか？」
「あーその話は秘密だったのにい」
お湯の中から体を上げてルティアナが抗議した。
「あらら、ベッド焼いちゃったの」
「何かを燃やす夢みたら、朝起きたら布団通り越してベッドも黒くなってたの。どうりで下が固いと思った。ははは」
「あんまり笑い事じゃないぞ。」
「サラディンはそういうことないの？」
ゆりが聞いた。
「私は大人で生まれたからな。ないな。」
「それじゃ私出ようっと。後は二人でごゆっくり」
ルティアナはさっさと湯から出て行った。
「ふふふ、かわいい。サラディンは子供できてよかったって思ってる？」
ゆりが笑って聞くと、「まあな」とサラディンは言ってゆりに軽くキスしたのだった。
なんだかんだ言っても、あの二人って結構仲良くやってるじゃん。いい親子ね〜
ゆりは神殿から出て行きながら思いつつ、次へと移動したのだった。
移動先は森の中だった。きょろきょろしていたらドドドと何かが向ってくる音がする。
なんだろうと思っていると、離れた所から巨大な猪が突進して来るのが見えてゆりは悲鳴をあげた。
「きゃー！」
猪はゆりから３メートルほどのところで矢を射られてどてっと横に転んだ。
「ガーベラ！？」
「お母さん！」
横の方からハロルドとジェイクがやってきた。二人とも背中に矢筒を背負い、弓を持っている。
「大丈夫？お母さん」
ジェイクがしりもちをついているゆりに言った。
「びっくりしたーここどこ？」
「西のはずれの森だ。だめじゃないか。一人できちゃ。ここらは結構獰猛な動物もいるんだぞ」
ハロルドが言った。
「ハロルドに会いたくなって移動しただけだもん」
ゆりが言うとハロルドはまんざらでもなさそうな顔をした。
「そうか。気をつけるんだぞ。ところでどうしたんだ？」
ずっと座り込んでいるゆりに聞く。
「腰抜けちゃった」
ハロルドはゆりを抱き上げて、ジェイクは二人分の弓を持って森の中を歩いて行った。
よくよく見れば、周りの様子は神殿の周りの森とはちょっと様子が違うような気がする。
「クエークエー」というちょっと不気味な鳥の声も聞こえてくるし、森の中も薄暗い。
普通の森のように獰猛な動物がいてもおかしくない雰囲気だ。
久しぶりに見ちゃったなあ。猪。
神の国でもこんな場所があるんだーびっくり。そういえば魔物がでるとかっていってたもんな。危険な場所も
あるのね。
「あの猪もっていかないの？」
ゆりが聞いた。
「ああ、ほっておいたら他の動物が食べるだろう」
とハロルド。
「僕も結構弓うまくなったんだよ。お母さん」
ジェイクがハロルドの横に並んで言った。
「そうなんだ。気をつけてね。一人で狩りなんてしないでね」
弓矢についてはネルの事件があったばかりなのでちょっと不安なゆりだった。
「わかってるよ。」
歩いていくと二頭の白馬が木にくくられているのが見えた。
「今日はペガサスじゃないのね」
「ああ、牧場までは馬だ」
ゆりはハロルドと一緒に馬に乗せてもらった。ジェイクは一人で馬に乗っている。
「さすが男の子だねえ。ジェイクは」
ゆりは感心してジェイクを眺めた。
ペガサスの牧場まで移動した3人は、それからペガサスに乗り換えた。ジェイクはペガサスも操っている。
「ねえ、私の神殿で降ろして」
ゆりはハロルドに言った。
「私の所によって行かないのか？」
「ちょっとハロルドの顔見たかっただけだから。またね」
「そうか。またな」
ハロルドはガーベラの神殿の近くでペガサスを地上に降ろして、ゆりに軽くキスして去って行った。
ゆりは神殿の前の花畑で腰を下ろして心を落ち着かせた。ここらは先ほどの森とは違い神々しい空気が漂っている。
聴こえてくる鳥の声も「ピヨピヨ」とかわいいものだ。
あーびっくりしたよ。でか猪には。
時間まで花輪を作って遊ぼうっと。
ゆりは花を摘んで、前にクーリーフンに教えてもらった花輪を作り出した。
「おーブレーネリあな〜たのおうちはどこ〜わた〜しのおう〜ちはスイ〜スランドよ〜♪」
心が落ち着いてきたゆりは歌を歌いだした。
「ヤッホ〜ホ〜トランランラン♪ヤッホホオ〜トランランラン♪」
グレンが聞いたら頼むから歌わないでくださいと再び言われるかもしれない。その時べたっと髪に何かがへばりつい
た。
「ん？」
ゆりは後ろを向いた。
「気のせいかな？」
きょろきょろ周りを見てもだれもいない。
「よしできた。ちょっといびつだけどいいか」
ゆりはできた花輪を頭に乗せた。その時ゆりは前のめりにがくりと倒れた。
どうやら目覚めの時間のようだった。
「あ・・・」
神殿の近くを飛んできていたクーリーフンはあることに気づいて声をあげたが、「まあいいか」と思い、
たいして気にしなかった。
目覚めたゆりの頭には花輪が乗っていた。
「わーい一緒にきたんだ。アナスターシャにあげようっと」
ゆりは花輪を手にとって喜んだ。まあこのくらい持ち帰るくらいならいいだろう。
横を見るとラクシュミはもういなかった。どうやらちょっと寝坊してしまったようだ。
ゆりは花輪を持ってそのまま寝室を出て行った。その時布団がもぞもぞ動いていたのだがゆりは全く気づかなかった。
「はい、アナスターシャにあーげる」
ゆりは食堂でアナスターシャに花輪を渡した。
「わあ綺麗なお花」
「神の国から持ってきちゃった」
「綺麗な花だね」
「本当だね。綺麗な花だね」
子供達は花はほめたが花輪についてはほめてくれなかった。
「どうせなら花束の方がよかったなあ」
アナスターシャはそれを頭に乗せて言った。
「せっかくつくったのにい。」
「お母さんって女神様でも不器用なんだね」
とラギには言われてしまった。
「ひどい・・・」
その頃、ロイとナナミは部屋で朝食を食べていた。横では侍女達が時々お手伝いしている。
そこへ翼が生えた小さい女の子がふわふわ飛んできたのだった。
「あーあれ！何？何？」
ナナミが指をさしていった。
「わー人形？」
とロイ。
侍女達も目を見開いてふわふわ飛んでいる女の子を見ていた。女の子は小さくて金色の髪でとてもかわいらしく、
にこにこ笑っていた。
「さあ、なんでしょうか？」
侍女らも首をかしげている。女の子の足元には幻影のように虹のような物が見えた。
「あー虹だ。虹だ！」
女の子はくるりと部屋の中を見回してまた部屋を出て行ってしまった。扉はすっとすり抜けて。
翼が生えた女の子はサーラだった。ガーベラの髪にくっついたサーラはそのままこっちに来てしまったのだ。
サーラはにこにこしながら城の中をふわふわ飛んでいた。
廊下でサーラを見た侍女や召使達は、皆あれ？と首をかしげいてる。
サーラはある部屋に入って行き、中にいた男の顔をじっと見た。
「ん？」
そこでラクシュミは王の衣装に着替えていた最中だった。
「あらかわいい」
「まあ・・・」
侍女達がサーラを見て声をあげた。
「なんだ？またゆりが連れてきたのかな？」
ラクシュミが首をかしげていると、サーラはラクシュミの腕に寄り添ってきたのでラクシュミが腕にだっこした。
「すごい目をしてるな」
ラクシュミが女の子の目をのぞきこんでいった。
赤、青、紫、様々な色をした瞳だった。こんな目は初めて見る。あんまりかわいかったので、他の者にも見せて
やろうとラクシュミはサーラをそのまま王の間に連れて行った。
「ねえ、マー虹の女の子、買って、買って、買って！」
食堂のゆりの所にやってきたナナミがゆりの顔を見るなり言い出した。
「虹の女の子？」
「とてもかわいらしい女の子がいたんですわ。背中に翼が生えていて」
ナナミの侍女が説明した。
「え？・・」
「マー買ってよう！欲しいよう！」
「・・・え？虹の女の子って、もしかしてサーラじゃないよね。」
ゆりは連れてきた記憶がなかったので首をかしげた。
「この前言ってた女の子？わあ、みたいなあ」
シスがいった。
「欲しいよう！欲しいよう！」
ナナミは駄々をこねるようにいっている。
「欲しいっていってもおもちゃじゃないからあげられないのよ。どこ行ったの？」
「さあ・・・」
と侍女。
「探しに行かなきゃ」
ゆりは部屋を飛び出して行き、面白そうなので子供達もついていった。
「わーかわいいですねえ」
「本当に」
「家に連れて帰りたいなあ」
王の間ではサーラは人気者で皆にだっこされていた。ラクシュミも皆の表情も和らいでいる。
サーラは皆の腕を巡るとふわふわ飛んで行き王の間を出て行ってしまった。
王の間の番兵に話を聞いたゆりは城の外を探しにいった。
「あ、王妃、私はどっちかというと大人の女神様のほうが・・・」
ゆりの顔を見たミカエルがいい、ゆりは舌を出して「どっちにいった？」と聞いた。
「あっちの方にふわふわ行きましたよ」
ゆりと子供達はミカエルが指さした庭園の方を捜しにいった。
「いないねえ。」
「どこいったんだろ。遠くに行かれたら困っちゃうなあ。それよりどうやってきたんだろ？」
子供達がばらけて探しているとシスから思念が来た。庭園のはずれの厩舎の方にいるというのだ。
ゆりがアナスターシャに移動させてもらい行ってみると、サーラは柵の中にいる天馬のプリモをじっと眺めていた。
プリモも中からサーラをじっと見ている。
「アナスターシャ、プリモ出してみたら？」
「うん」
アナスターシャがプリモの柵を外すと、サーラはふわふわ飛んで行き、プリモはとことこついていった。
「もしかしてつられて飛ぶかもねえ」
ラギが期待に満ちた瞳でいった。
「飛んでプリモ」
「がんばれ」
子供達が声援を送っている。
「サーラ、もうちょっと上の方飛んでみて」
ゆりがいうとサーラはふわふわと高い所を飛んで行き、プリモがばさばさと翼を広げだした。
「がんばれ！」
「もうちょっと！」
やがてプリモの体が軽く浮き上がり、一同「わー」と歓声をあげた。
プリモは５秒ほど宙に浮き、地上に降りてきた。
「わープリモが飛べた！」
アナスターシャは大喜びだった。
「練習すればもっと飛べるかもねえ」
とラギ。
「おいで、サーラ」
ゆりが呼ぶとサーラはぱたぱた飛んできてゆりの腕の中におさまったのだった。
「一体どうやってきたの？」
ゆりが聞くとサーラはニコニコ笑っていた。
「かわいいねえ。」
「ほんとだね。」
子供達もにこにこしていた。
サーラは神の国ではない場所に来ていると気づいているのかどうか、人懐っこく皆に愛想を振りまきながら
気まぐれに飛び回っていた。サーラを見た人はみんなにこにこしている。
虹の女神というよりも、笑顔を運ぶ女神様のようだ。
「ナナミ、サーラよ。」
ゆりはサーラを抱いてナナミに紹介してあげた。
「わたしこの子欲しい」
「あげられないのよ。サーラは神様の国に住んでいるからね」
「欲しいなあ」
「今だけだけど仲良くしてあげて」
「うん・・・」
「握手握手」
ナナミが手を伸ばしてサーラと握手を交わした。
サーラは部屋の隅にいた蛇に気づくとそちらに飛んで行き蛇をじっと眺めている。
「母様この子話しないの？」
ナナミが聞いた。
「そうね。あんまりしゃべらないみたい。」
話ができないのか、その内話し出すのか謎だが、サーラ自身はあんまり気にしていないようだ。
午後になるとサーラはナナミの横に並んでお昼寝していた。そのかわいらしい様子には侍女らも微笑まずには
いられなかった。
昼寝から目覚めると、再び探検とばかりにサーラはふわふわ飛んで行き、ゆりは後をついていった。
途中大きな蛇に興味を示したりしながらも王の間の方に向っていると、王の間から角の生えた男がフリットと一緒に
出てきた。緑系統の長い上着にズボンをはいたその男の髪は白くもこもこしていて肩まであり、角はぐるりと後ろ
に丸まっている。羊の一族の男だった。結構年配の男だ。
サーラはその男の側まで飛んで行き、男の角をぐいぐい引っ張った。
「あ・・・」
ゆりは困った顔で近づいていった。
「なんですか？この子は？」
羊の一族の将軍は角を引っ張られつつ自分の肩に乗っている女の子を見た。
「すいません。あの、一応女神様でして・・・」
ゆりが申し訳なさそうにいった。
「とりましょうか？」
とフリットが聞いた。羊の一族は角をかなり大事にしていて他人に触られるのをあんまり歓迎しない。
「いえ、いいですよ。かわいいですね」
将軍が笑って言った。サーラは右の角を引っ張ったり左の角を引っ張ったりして、しまいには将軍にだっこされてい
た。結構気に入ったようだ。将軍も微笑んでいる。
王の間では真剣な話をしていただけに、フリットもうれしそうな将軍の顔に微笑んだのだった。
その夜ゆりはサーラと早めに布団の中に入った。
「みんなうれしそうだったね。ありがとうね。サーラ」
ゆりはサーラの髪をなでなでした。
「早く帰らなきゃ、クーリーフンが探してるかもね。無事帰れますように」
ゆりはサーラを抱いて眠りについた。
すると、神の国に行くことができた。ガーベラの神殿の中だ。
「ああよかった。遅かったら迎えに行かなきゃって思ってた所だったんだよ」
部屋の中にいたクーリーフンがサーラをだっこして言った。
「ごめんね。知らない内に一緒にきちゃったみたい」
「楽しかった？」
クーリーフンが聞くとサーラがうなずいた。
「ラーズのところ戻ろうね。それじゃお母さん」
「うん。いってらっしゃい」
クーリーフンはサーラを連れて行った。
ゆりはその日ラクアの元に行き双子と遊んだり、ジンラに会いに行ったり、眠っているオルガに会いに行ったりして
過ごしたのだった。
蛇の国もこの神の国のようにずっと平和になればいいな・・・
ゆりはそんなことを思いつつ現実世界へと戻ってきた。
一生争いがない世の中なんて無理だろうけれど、皆が傷つく姿は見たくはない。
争いを回避するには一族の力が強くならないと無理なのかな。
子供達が大きくなって皆が強くなったら、王様も安心できるようになるのかな。
龍の国もおいそれと攻められない国になるのかな。
そうなればいいなあ。
子供達が大人になれば、王様との庭園デートも夢じゃないかもね。
横で眠るラクシュミを見つめつつ、ゆりは早くラクシュミがもっと楽になればいいな、と思ったのだった。
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