第１４話
その夜、ゆりは侍女に案内してもらって、王の寝室に行ってみた。
わーすっごーい！
部屋の中にどんとあるベッドはすごく大きかった。大人５人ほどは余裕で寝れそうだ。ベッドの四方の棚に置かれている灯りのおかげで結構部屋の中が見渡せた。
ベッドにのってみると、ふかふかして気持ちよかった。ベッドの周りは半透明の布で覆われている。
さすが王様のベッドって感じ。ここでずっと寝ていたのかなあ・・・
そう思うと恥ずかしくて顔が真っ赤になる。
だけどあの人と愛し合ってるってのが、ちょっと想像しにくいけど・・・
しばらくごろごろしていたら、ラクシュミがやってきた。
ゆりは起きてベッドに座った。そしてベッドの横に立っているラクシュミを見上げて言った。
「お疲れでござんす。愛しいあなた」
「・・・」
ラクシュミは一瞬目が点になったが、ベッドにあがった。
ー何か思い出したか？ラクシュミはゆりに触れて聞いた。
ーなにも・・・
ーそうか。まああせるな
ゆりはラクシュミの体から、むわっと花の匂いをかいだ。それは、まるで女の肌の匂いのようだった。
「・・・」
ゆりの表情が変わり唇がきゅっとへの字に曲げられた。瞳はなんだか恨めしげにラクシュミを見ている。
ーなんだ？ラクシュミが聞く。
「どすけべ」
「は？」
「どすけべ」
ゆりはうなだれてしくしく泣き出してしまった。
どすけべ？
ラクシュミはゆりの感情の変化にまったくついていけなかった。
ーなんなんだ・・・・
ーゆり、なぜ泣いてるんだ。ー浮気者・・・女の人といたんでしょ？
ー女？
ー女の匂いがする・・・
ーそれは私の匂いだ。
ーあなたの？
ゆりはラクシュミを見あげた。
ー香水つけてるの？
ー違う、私はこういう匂いなんだ。
ー・・・・
ー本当だ。かいでみろ
ゆりはおずおずと体を寄せて、胸元に顔を持って行った。そういわれれば、確かに、そういう感じもする。
ラクシュミはゆりの髪をなでた。ゆりはちょっとどきりとした。
ー納得したか？ーはい・・・
ラクシュミの指が、ゆりの頬をなでて涙をふいた。ひんやりした指だった。
「殿方、接吻、所望なり」ゆりの言葉にラクシュミは一瞬ぽかんとした。
ー今なんて言ったんだ？ー口付けしてくださいっていった。
ーゆり・・・頼むから、二人の時はこうやって話してくれないか？
ー話さないと覚えられない。
ーそれはそうだろうが・・・もうちょっと発音がうまくなってからにしてほしいんだが・・・
ーそんなに下手？
ー習いたてなのだから仕方ないが・・・
ラクシュミが顔を近づけると、ゆりは思わず体をそらせた。
ー口付けしてほしいんじゃないのか？ーうん・・・そうだけど・・・王様の顔、きれいで怖いね。目が輝いてるし。なんだか恥ずかしくなった。
ー・・・
ラクシュミは、ゆりの左の頬に唇をつけた。
ーもう寝ろ
ーはい・・・
ゆりは左の頬をなでて寝転んだ。
目を閉じていると、なんだかいいにおいに包まれているような気がして、ゆりはそのまま眠りに落ちた。
それから数日、ゆりは王の寝室で眠ったが、ラクシュミからは全く何もされなかったので、安心して眠りについていた。だが全く何もされない、というのは、かえって物足りない。
抱きしめてキスくらいしてくれてもいいにな。私のこと気遣ってるのかな。
なんだか全然その気がないみたいだけど・・・
今までの夫婦生活がどのようなものであったのかまったく思い出せないので、夜もどうだった、なんて今のゆりにはわからない。ただ、みんなが愛し合っていたというし、子供も産まれているので、それなりにうまくいっていたのかもしれない、とは
思うのだが・・・
お前をたまらなく愛してる！ってな感じは全くないけどなあ・・・突然押し倒されても怖いけど・・・でもそうされてみたい気も・・・あるかも・・・
ゆりはその日の午後、一人で城の中をぶらぶらした。ここでの生活は、手を触れれば話せる人もいるので、そんなに困ってはいない。ゆりの侍女たちは話せないが、なんとかジェスチャーで通じた。
ゆりはお城の一階にある、でかい扉の所に行った。そこにはいつでも扉の所に男が二人立っている。今日はその横に、もう一人男がいた。年齢にすれば５０歳くらいの落ち着いた男だ。その男はゆりを見てにこっと微笑んだ。
「こんにちは。王妃」
「こ、こんにちは」
ゆりは答えた。男は北の砦の将軍ヴィクターだった。
二人の番兵たちは、ゆりがまともに言ったのでちょっとつまんなそうな顔をした。
ちなみに王の間の番兵は常時４人いて、門の外と中で二人づつ、日によったり時間によったりで入れ替えられている。
「お元気そうですね。安心しましたよ」ヴィクターは包容力のありそうな笑みを浮かべていった。
なんだか素敵なおじ様って感じだなあ・・・昔はかなりの美形だったかも
ゆりはヴィクターに対してそう思ったので、ちょっと言ってみた。「ラブリーな殿方ナリね」
ヴィクターはきょとんとして首を少しかしげたが、ゆりがにこにこして見てるので、一応微笑んでおいた。
二人の番兵の口元は、むずむずしている。
やった、今日も王妃の変な言葉が聞けた！
と内心大喜びの番兵たちだった。ゆりは番兵の一人を見て言った。
「えーっと、素敵なあなたは今いずこなり？」
「はい？」
番兵たちは笑いをこらえるのに必死だった。
「違った。だんな様と、濡れたい。今いずこ？」
「ぷ・・・ぷぷぷぷ」
「く・・・くくくくく」
「？」
番兵たちは、もう笑うのをこらえ切れなかった。
ー王妃、今なんておっしゃいました？
ヴィクターがゆりの肩に手をあてて聞いた。ー王様と話がしたいっていったの。ここにいるのって聞いた。
ーそ、そうですか。王は中にいらっしゃいますが、ちょっと今忙しいので、後の方がいいですよ
ーそうなの？わかりました。
ゆりは去って行った。番兵たちは腹をかかえて笑い出した。「お前達、失礼だぞ」
とヴィクター。
「か、かわいい・・・面白すぎますう・・・」
「笑い死ぬ・・・ひー・・」
どうも発音がうまくいえないなあ・・・・
ゆりは唇を尖らせて歩いた。発音だけではなく単語も結構間違えているのだが、似た単語が多いのであまり気づいてない。
ゆりは城の裏側の方から外に出た。行きかう人たちは、皆にこやかに挨拶してくれる。
ここの人たちって、結構フレンドリーなのね。
ゆりはそう思った。
かっこいい人も多いし・・・今の所、ブサイクな男みてないもんねえ・・・
ゆりはぶらぶら庭園の方に歩いていった。数人の女の人たちとすれ違ったが、皆笑顔だった。
女の人はみんなスタイルいいなあ・・・胸でかくて美人だし・・
その時目の前をでかい蛇が通り過ぎたので、ゆりは「うわっ」といって飛びのいた。いまだに蛇に触ることはできない。遠くで見る分には結構平気になったのだが。
ゆりは花壇の方に行き、咲いている花をじっと眺めた。植物の姿形は、元の世界とそう変わりはないようだ。ゆりは花の下にある土に目を留めた。虫がいる。蟻のような虫が列を作って歩いていた。
ゆりはその場にしゃがんで虫を眺めた。蟻に似ているが、蟻よりももっと体が長い。みんな背中に黄色い点がついている。かなり長い列で、３列ほどあった。ゆりはどこに行くんだろうとその行列を眺めていた。その行列は花壇から出て、近くにある
大木の方に続いていた。虫たちは木にある穴から中に入って行った。
この虫の巣ってもしかして木の中にあるのかなあ・・・
ゆりが木に近づいてじっと穴を見ていると、ぼてっと何かが落ちてくる音がした。横を見たら、結構でかい蛇がうねうねしていて、ゆりは「ぎゃあ！」と飛びのいた。するとその後ろにもぼてっという音がした。後ろを見ると小さな
蛇がうねうねしていた。ゆりは上を見上げてみた。大木には大きな枝がいくつもあり、葉も生い茂っていたが、その隙間から
枝に巻きつく蛇らしきものが一杯見えた。
「・・・」
ゆりはそろそろとその場から退散した。
あーびっくりした。さすが蛇の国ね。びっくりー
胸をなでながら歩いていると、一人の金色の髪の女性がゆりに近づいてきた。
肌も白くて、姿形も美しく、耳が小さければミスノルウェーという感じだった。
女はゆりの手をそっと握った。女の右手首には銀色の蛇のブレスレットがしてあった。ミラや他の侍女がしているものと似ているとゆりは気づいた。これは蛇が襲ってこないためにしているものでこれをしている者は蛇の一族の者ではないとゆりは
聞いていた。
ー少し話がしたいのですが、よろしいですか？ーはい
ーでは花を見ながらお話しましょう
女性は背が高い花木がある花壇の間にゆりを移動させた。
ーあなただれ？
ゆりが聞いた。
ー私はこの城につかえる者なのですが、前々から、王妃の悩みをずっと相談されていた者です。
ーへえ・・そうなの・・・
女は少し悲しげな表情をした。
ー王妃があまりにおいたわしくて・・・どうしても告げずにはいられません。この城の者たちは、皆あなたをだましています。あなたはこの城で、幸せではなかった。いつも泣かれていました。とても悲しそうで、見ていられませんでした。
「・・・」
ゆりはぼんやりした顔をしていた。この女のいうことが、よく飲み込めなかったのだ。
ー王は、ただ子供がほしかったから、あなたを自分の物にしたのです。一族の女は王の子供を孕みにくかったために、異界の女であるあなたに目をつけたのです。あなたは王の望み通りに子供を孕み、そして二人目までも。王には何人もの恋人がいましたし、
あなたはただ、子供を産む道具としてしか見られてはいなかった。そのため、あなたは毎日泣かれていたのです。ここから
逃げだそうとしたことも度々。思い余った王は、あなたの記憶を消してしまったのですよ。
ゆりはじっと花を見つめていた。頭の中に聞こえてくる言葉を、理解するのに随分な時間がかかった。
ー城のみんなが異様に優しいのも、そのためですよ。誰も、あなたの記憶を思い出させようとしないのもそのためです。私はあなたの力になりたいとずっと思っていました。ようやく頼まれていたものが手に入ったのですよ。
ー頼まれていた物？
ーそう。これですよ。魔法の薬です。これを口に入れて念じるだけで、あなたは他の国に飛ぶことができます。
女は小さなカプセルのようなものをそっとゆりの手に握らせた。
ーこれを飲めば、あなたはもう自由ですよ
ー・・・
ー翼がある鳥のように、どこにでもいけるのですよ。
ゆりと別れた女は、そ知らぬ顔で庭を抜けて、城の中に入ろうとした。その扉の前に、ぱっと男が現れて、女は足を止めた。「あなた、長々と王妃と何話してました？」
青い鋭い瞳が、じっと女を見た。そこにいたのはヴィラだった。
女は優しく微笑んだ。
「記憶を失った王妃様と、少し話をしただけですわ。私達だって、王妃のことは心配してますのよ」
その女は王の侍女だった。一族の女ならばヴィラも気にも留めないのだが。
「そうですか・・・」
「失礼します」
女がヴィラの横を通り過ぎようとした。その時、ジュノーがゆりの様子がおかしいとヴィラに伝えてきた。
ヴィラは女の腕をつかんだ。
「ちょっと王の間までどうぞ」
「！」
ヴィラはそのまま移動した。
ぼんやりと花を見ていたゆりの横に、ジュノーが現れた。「王妃」
ゆりはジュノーを見て、ぎくりとした表情をした。ジュノーはゆりの腕に触れた。
ーどうしました？なぜそんな顔をしてるんですか？
ーなんのこと？
ゆりの顔は青くなっていた。表情から明るさも消えている。ゆりは嘘がつけないので、ジュノーはすぐに、先ほどの女に何か言われたのだと気づいた。
ーさっきの女があなたに何か言いました？ー別に何も。
ジュノーはゆりが左手だけを握り締めているのを見た。ゆりはジュノーの視線に気づいて、左手を背中に回した。
ー何もってるんですか？ーなんでもない
ー嘘ばかり。何かもらったんですか？
ー何ももらってない！
ゆりは走って逃げた。ジュノーは軽くため息を吐いて、瞬間移動で移動してゆりを強引に部屋に連れて行った。
ミラは、怯えた様子のゆりを見て目を見開いた。「何があったんです？」
ジュノーは、逃げようとするゆりの動きを止めていた。
ジュノーは、ゆりの左手を開かせて、小さいカプセルのようなものを奪った。
「返して！」
「だめですよ。」
ゆりの言葉は理解できなかったが、見当くらいはついた。
「ミラ、念のため王妃を裸にして調べてくれ。他に何かもらってないか」
「え・・・・でも・・・・」
「私が動きを止めているから。早く」
「はい」
ジュノーは背中を向けた。ミラはゆりの服に手をかけたのでゆりがぎょっとした。
「何するの？やめて！」
ミラは辛そうな顔でゆりの服を脱がせて調べた。ゆりは泣いていた。
「何もないようですよ。」「そうか。わかった。」
すいません。王妃・・・
ジュノーは姿を消した。ゆりはわんわん泣き崩れて、もうミラが近づくこともできなかった。
夕方、王の間にはラクシュミのほかに、フレイとジュノーがいた。
「あれは毒でした。猛毒です。」フレイが言った。ゆりがもらった物を調べたのだ。ゆりに接触した女はもうこの世にはいない。すでに絶命していた。
「ゆりはどうしてる？」
ラクシュミが聞いた。
「部屋から出せとわめいてます。」
ジュノーが言った。
「全く・・・あの女は私の侍女を２０年も前からしていたのだぞ」
ラクシュミが疲れたように言った。長年仕えた侍女に裏切られるというのはラクシュミにとってもショックだった。
「何を言われたのやら。頭が痛い」
「王妃は素直な性格ですから、他人の言葉もそのまま信じてしまうんです。」
「夜にあってみる」
「くれぐれも、激しい口調は使わぬようにお願いします」
「わかっている」
その日は、ゆりは出された食事は何も食べなかった。誰とも話そうとせずに、蛇のルーも追い出して、一人、部屋のすみっこに座っていた。外に出ても見張りがいて、城から出ることはできなかった。
部屋の中が薄暗くなり、やがて、暗くなった。それでもゆりは、ぼんやりしていた。
ラクシュミはゆりの部屋に移動して、部屋のすみに座り込んでいるゆりを見た。ゆりはうなだれていて、ラクシュミには気づいてない。ラクシュミは部屋にある灯りを力でつけた。部屋の中が明るくなり、ゆりは顔をあげた。その瞳は、疑心に満ちている。
ラクシュミは無理に近づかずに、部屋にあるいすに座った。
全く近づいてくる気配はないので、ゆりはとうとう自分から近づいた。
ーここから出してください。ゆりはラクシュミの腕に少しだけ触れて念じた。
ーそれはできないな
ラクシュミは答えた。
ーあの女がお前に渡した物は毒だった。お前はあれを飲んだら死んでたぞ
ーえ？
ー敵の仕業だ。気づかずに、お前には悪いことをした。
ー・・・・
ーその女がお前に何を言ったかは知らないが、私がお前に言ったことのほうが正しいぞ。
ゆりはラクシュミの輝く瞳を見つめた。その瞳は少し冷ややかで、冷たい美貌の内側に、自分に対する愛情があるとは、ゆりはとても思えなかった。
ーみんな私に異様に優しすぎる。ーそれはお前が王妃で、みんなお前が好きだから優しいんだ。
ーあなたが私を愛してるとは思えない。
ー私はお前を可愛いと思っているし、お前は私を愛してたぞ。私に抱かれるのがとても好きだったぞ。
ーえ・・・
ーしょっちゅうねだられて困るくらいに
ー・・・嘘よ。私、そんなの好きじゃないもの
ー嘘だと思うのか？
ー嘘よ。
ーそうか・・・まあいい、私は、お前が抱いてくれというまでは何もしないからな
ー・・・
ーその気になったらこい
ラクシュミは、ゆりの頭の上に軽くぽんぽんと手を乗せて、消えた。
「嘘よ。絶対・・・」
おなかがぐーぐー鳴っていた。
ゆりは廊下に出て、そこに座っていた侍女に物を食べる仕草をした。侍女は微笑んで去っていき、しばらくすると、食べ物が運ばれてきた。
心はちょっと落ち着いていた。
どちらが嘘だなんてまだわからないが、少なくとも、ゆりはラクシュミに対して、そう悪い印象は抱いてはいない。
次の日、ゆりはアナスターシャに会いに行った。アナスターシャはゆりを見るとぱっと笑顔になった。「マーマー」
ゆりがアナスターシャをだっこすると、アナスターシャはきゃははと笑った。
とても可愛い笑顔だった。
この子が、愛情に包まれてできた子供だと信じたい。
この子も・・・
ゆりは自分のおなかを見た。
その日の深夜、ラクシュミが寝室に行きベッドを見ると、ゆりが寝ていた。ゆりはラクシュミを見あげて、また「お疲れでござんす」と言った。
ラクシュミはベッドに上がってゆりに触れた。ー抱かれたくなってきたのか？
ー違います。聞き忘れたことあったから
ーなんだ
ー恋人が一杯いるって話・・・本当に嘘ですか？
ー私はずっとお前しか抱いてない。
ーでも・・・男の人は、他に女の人がいてもいるっていわないよね。
ゆりは疑いの眼差しを向けている。
ー私は普段はそう性欲が強い方じゃない。お前の相手だけで精一杯だ。
ー・・・・
ー信じなくてもそうだ
ー・・・私、本当にあなたに抱かれるの好きだった？
ー試すか？
ゆりはぎょっとした顔をした。
ー試してみればいいだろ？
ー怖い・・・
ーそうか。じゃあ寝るぞ
ラクシュミはあっさり言ってゆりから手を離して、ごろんと背中を向けた。ゆりの顔は引きつっている。
・・・この人いっつもあっさりしすぎ・・・もうちょい押してくれてもいいじゃない。
「うーうー」なにやらうめき声がして、ラクシュミが顔を向けると、ゆりは座ったままじっと自分を見ている。
「なんだ？」
「・・・・」
ーなんだ？ラクシュミはゆりに触れて聞いた。
ー・・・もうちょっとさあ・・なんかこう・・・甘い雰囲気にはならないのかなあ・・・
ー・・・
ー本当は私のこと好きじゃないんじゃないの？
ー・・・あのな、私は大変疲れてるんだぞ。抱いてほしいなら裸になってそう言え。
ーえ・・・
ーそうじゃないならもう寝かせてくれ
ー・・・・・
ーどうするんだ？
ゆりはきょとんとした顔で瞬いた。
ああいうものは、甘い雰囲気から自然にそういう流れになるんじゃないのだろうか・・・
ー・・・今までって、ずっとそうだったの？私が抱いてっていってあなたが抱いただけなの？あなたは別に、自分からそういう気にならないの？
ーそんなことはないぞ。一年に１０日ほどは熱烈に求めたぞ。
ー一年に１０日？
ーどうするんだ？やるのかやらないのか
ー・・・抱かれてみたい・・気もする・・・
ーすぱっと決めろ。どっちかに
ー・・・抱かれたい。
ーなら脱げ
ー・・・
ゆりはもそもそと服を脱いだ。下着になって座っていると、ラクシュミがゆりの腕をとって抱き寄せた。
ー王様の体って冷たいね。ーお前がぬくすぎるんだ。
ラクシュミはゆりの髪をなでて口付けた。そして下の下着を脱がせて、下半身に触れた。「・・・」
ーなんか怖い。
ーじゃ、やめるか。
ーやだ・・・
ー・・・
ラクシュミはゆりの足を広げさせて上に乗った。ゆりは足の付け根に、ひんやりした塊が当てられるのを感じて驚いた。
あれ？漫画みたいにすごいことはされないのかな？
まだ胸にも触れてない。
ーあの・・・もうするの？ー大丈夫だろう。もう、だいぶその気になってるだろ？
ーえ？そうなの？
ゆりの気のところどころがピンク色に変わっている。
ラクシュミは軽くゆりにキスして体を挿入した。「う・・・」
無理だと思ったが、案外無理じゃなかった。体はすんなりと受け入れた。
ー痛いか？ー・・・痛くない・・・
ーそうか・・・
なんか気持ちいい・・・
ゆっくりと体が動かされていた。
やがて、体の中にじんわり何かが広がってきた。「あ・・・」
なんだかすごく気持ちがよかったので、ゆりの足がびくりと痙攣した。
ラクシュミが体を離した。そしてゆりの額をなでた。
ゆりはうっとりした表情をしている。
ー気をやったんだ。お前好きだから。気持ちよかったか？ーうん・・・もう一度されたいな
ー・・・・
今夜は三日月だった。ラクシュミとしてはこれでもがんばった方だったのだが。
ーいいだろ。その代わり、もう変な疑いをもつんじゃないぞ？ーうん・・・
ラクシュミはもう一度ゆりを抱いた。先ほどより少し激しく体を動かすと、ゆりの気はピンク一色に変わった。「ああ・・・・ああ・・」
「ゆり・・・思い出せ。体は覚えてるだろ？」
「あ・・・ああ・・・お・・・王様・・・王様！愛してる！」
「そうだ・・・」
「王様・・・・」
ゆりはラクシュミに抱きついた。
次の朝、部屋に現れたゆりに、ミラが挨拶した。すると、「おはよーミラ」
完全な発音でゆりが言って、ミラはぎょっとした。
「ゆり様？言葉が・・・」
「え？」
「言葉思い出したんですか？記憶戻ったんですか？」
ミラが目を見開いて聞く。
「ん？何おかしなこと言ってるの？」
ゆりはきょとんとしていた。
「それよりおなかすいたよー早くご飯ご飯」
「は、はい！」
ミラはあわてて部屋を飛び出た。
「おいで〜ルー」
ゆりがしゃがんで手を出すと、ルーは喜んでゆりの手に巻きついた。
「どうしたの？やけに喜んで」
ルーはうれしそうにぐるぐる回っていた。
ゆりは記憶喪失の間の記憶は、さっぱりなかった。みんなに何を言われても思い出せなかった。
こうしてゆりは元に戻ったのだが、ゆりの変な言葉が聞けなくなった番兵たちは、ちょっとがっかりしたのだった。
おしまい