眩しい・・・・
アナスターシャは周りを見渡した。辺り一面草むらだった。自分の足ほどの高さの草が生い茂り、その向こうには
森のようなものが見える。
草むらには自分よりも幼い５人の少年達がいた。うつむいて草の間を手でわけながらごそごそ何かを探している。
いつの間にこんな所に来たんだっけ・・・・
そう思いつつ、アナスターシャは一人の少年に近づいた。
「ねえ、何してるの？」
「幸運の蛇を探してるんだよ」
と青い髪の少年は答えた。
「へー幸運の蛇、それどんな蛇？」
「５色に分かれたきれいな蛇のことだよ。見つけたら願いごとがかなうんだよ」
「５色の蛇？」
古代叙事詩にあったやつじゃない・・・・
「ちなみにでかい蛇ほど効き目があるんだよ。よかったらお姉さんも一緒に探そうよ」
別の少年が言った。
「うーん・・・まあいいか。よし、探そう！」
この際蛇探しを体験してみようじゃないですか。そう思い、アナスターシャは少年たちと一緒に蛇を探しだした。
「５色の蛇やーい・・・所で５色って何色？」
「色は何でもいいらしいよ。とにかく５色あればいいんだよ」
「そうなんだ・・・」
願い事かあ・・・・何がいいかな。やっぱり力が強くなりたい！ってのが一番だよねえ・・・これじゃあハインリヒと一緒じゃん。
でも他にかなえてほしいことなんてないし・・・
「ここにはいないなあ。森の中を探そうよ」
「そうしよう」
少年達は草むらの向こうの森の中に走って行った。
「お姉さんも早く！」
一人が振り向いてアナスターシャを呼んだ。
「・・・まあいいか」
アナスターシャもぶらぶら歩きながら少年達について行った。
森の中は木の枝や葉で太陽の光が遮られて少し薄暗かった。
しばらく蛇を探してどれほどの時間が経ったのか。
やっぱりつまらないなあ・・・
アナスターシャは蛇探しに飽きてきた。なかなか５色にきれいに分かれている蛇はいない。
その時、ガサガサガサっと何かが草を踏みしめる音が聞こえてきた。重ねて、ぼきぼきぼきっと枝が折れる音。
右の方から巨大な何かが地面を這って近づいてくる。それはものすごく巨大な蛇だった。首の直径だけで３０センチは
ありそうだ。
「でかっ！」
「あっ！５色の蛇だ！」
「本当だ！」
少年達が歓声をあげた。蛇の頭は青い色をしていて、途中から緑色に変わっていた。
「ええっこれが５色の蛇！？」
その蛇はぐいっと頭をもたげた。するとアナスターシャよりもはるかに高い所に首があがった。
「お姉さん願い事！願い事！」
「ええーっと。強く・・・・つよ・・・・ええー！！！ 」
大蛇はなんとそのままアナスターシャの上にどーんと落ちてきた。
「ぎゃー！！！重いー！！！」
アナスターシャは蛇と共に草の上に倒された。
「早く願いことしなきゃ！」
「早く早く！」
「それどころじゃないよ！重いー！！！どいてー！」
アナスターシャの悲鳴もなんのその。大蛇はしばらくアナスターシャの上に乗っていたのだった。
第２５話
「姉様いないのー？？」
アナスターシャの部屋の扉をノックしても全く応答がなかったのでシスは部屋の扉を開けてみた。すると中では、
長いすで寝そべりうなっているアナスターシャがいた。
「うーん。つぶれるーつぶされるー蛇が、蛇がー・・・・」
「ねーったら遊ぼうよう」
アナスターシャの上には馬乗りになっているロイがいた。
「おやおや。ロイだめじゃないか。上にのっちゃ。」
「だって呼んでも全然起きないんだもん」
「死ぬー・・・・」
アナスターシャはまだうなっている。
「姉様！姉様ってば！」
ロイを上からどけてシスは耳元でアナスターシャを呼んだ。するとようやくアナスターシャははっと目を覚ましたのだった。
「へ・・・蛇が・・・蛇どこ！？」
アナスターシャは起きあがるなり周りをきょろきょろと見回した。
「夢みたんだよ。夢。それよりも今日は２時から王の間で力の練習じゃないか。だめだよ。のんきに昼寝してたら」
「はっ！今何時？」
「１５分ほどすぎてるよ」
部屋にかかっている時計をみてアナスターシャは青くなった。ふつうの授業ならまだしも、相手がラクシュミでは大目玉だ。
「早く行かなきゃ！」
「ねー遊んでよー！！」
とロイ。
「だめだめ！忙しいんだから。誰かに遊んでもらいなさい！」
「夕方にね」
アナスターシャもシスもそのまま移動してしまい、ロイ一人だけが残された。
「ちぇ、つまんなーい」
ロイは両方のほおをふくらませて瞬間移動した。
そのころ南の庭園にはラギがいた。梅雨はすっかり明けていた。今年も結構雨が降ったので水不足の心配はなさそうだ。
ラギは自分の花壇の前で花を眺めていた。花といってもゆりや王の花壇にあるような美しい花ではない。
毒々しい色をした花や一見雑草に見える葉っぱなんかが今ラギの花壇には大量に植えられていた。というよりも勝手にのびている。
「ねー、ラギにー遊んでよ」
その時ラギの横にロイがやってきた。
「今日は誰も遊んでくれなかったの？」
ラギが聞いた。力のないラギの所にくるとは、ロイは今日はよっぽど暇らしい。
「今日は勉強は休みだからね」
「そうか」
「わーなんか気持ち悪い花がある」
ロイはラギの花壇をみて言った。
「ははは、まあね。これなんかおもしろいよ。なんと昆虫を食べちゃうんだよ」
紫に黄色い斑点がある花を指しながらラギが説明した。
「ふーん。あの黄色いのは？」
ロイは大人の背丈ほどの高さにある黄色い大きな花を指さして聞いた。
「ああ、これはすごいんだよ。なんと子供が大人になっちゃうんだ。今年は一つだけ咲いたんだよね。誰にあげようかなーラリーには
またほしいっていわれてたんだけど・・・」
「どうすれば大人になるの？」
「この花の花粉を浴びたらねえ・・・」
「とう！」
なんとロイはその花に向かってジャンプした。
「ええ！」
着地したロイの黒い頭は黄色い花粉でいっぱいになっていた。
「ロ・・・ロイ・・・・！」
「げほっげほっ！」
「ロイ、大丈夫かい？」
ロイは花粉でごほごほむせている。
「わわ！」
びりびりと布のやぶける音がした。ロイの体はみるみるうちに大きくなっている。
「わーすごーい！大きくなった！やっほー！！！」
ロイは喜んでジャンプして、そのまま消えてしまった。
ラギはあっけにとられてしばらく立ちつくしていた。
「そうだったんですか。エルバートと仲良くなったわけではなかったんですね」
ゆりの部屋では、ゆりはシャナーンから気をもらいつつエルバートの話をしていた。シャナーンが遠慮がちに二人の仲を聞いてきたからだ。
「そうよ。ただ単に蛇様とけんかしてただけだから」
「そうだったんですか・・・・」
シャナーンはほっとした顔をしていた。
同時にエルバートにちょっと悪い事しちゃったかな、などと思っていた。
「でも、私ってそんなに楽しそうに喧嘩してたかな？」
「はい」
「そんなことないと思うけどね。喧嘩してたんだし」
「ですが・・・」
シャナーンが言いかけた時、
「まーみてみてー！」と声が聞こえて部屋の中に一人の男がぱっと現れた。その男をみてゆりもシャナーンもぎょっと
目を見開いた。
体は半分以上裸で所々に布をひっつけている黒髪の男だった。それだけならただの不埒ものだが瞳は金色に輝いている。
しかもかなり顔立ちの整った男で、ゆりの記憶にある男の顔をしていた。
「えええ・・ロイ！ロイじゃないいつまた過去に来たの？！」
ゆりはてっきりロイが未来からまたやってきたのかと思った。
「えっ！ロ、ロイ様！？」
シャナーンも驚いている。
「えへへへー大人になったんだよー！どーだ！すごいでしょー！」
ロイは笑いながらいろいろポーズをとっていた。
「ロ・・・ロイ様・・・」
「大人になった？？？」
「じゃまくさいなあ。とっちゃえ」
ロイはびりびりにやぶけたズボンやシャツを両手で取り始めた。みるみるうちに素っ裸になっていくロイを二人は呆然と
眺めていた。
「他の人にも見せようっと！」
完全に裸になったところでロイは消えた。
「えっ！ちょっちょっと！大事な所は隠さなきゃだめじゃない！どこ行ったの？！」
ゆりはシャナーンをみた。あっけにとられていたシャナーンははっと我に帰った。
「ええっと、お城の中に気配を感じますよ」
「よかった。連れて行って。」
「はっはい！」
「あっまった。タオルタオル」
ゆりは大あわてでタオルを取りに行った。
シスとアナスターシャに見せよう、と思っていたロイだったが、その前に侍女らに見せようと思いたち、自分の部屋に
移動したり、城中の廊下を裸のまま走ったりしていた。侍女らは突然目の前に現れた裸の美男子にあっけにとられて、
誰もロイに服を着せるどころじゃなかった。
ロイは体は大人になったといっても頭の中はまだ子供なので裸で恥ずかしいという感覚はない。
「みんな驚いておもしろいなーはははは」
ロイは廊下を歩いていた二人の女性に「やあ」と手をあげた。二人共王の侍女だったが、ロイの裸をみてあんぐりと口を
あけた。
「どう？どう？かっこいい？」
ロイは二人をみてにこにこほほえんでいる。二人の視線はロイの顔から下に下がっていた。
「じゃあね」
ロイはそのまま走って行ってしまい、二人は目を見合わせたのだった。
「ロイー！どこよー！」
ゆりとシャナーンはあちこち移動するロイをまだ探していた。
王の間に裏の方から侍女がやってきた。
「あの・・・王、裸の美男子様 が城の中をうろうろされてるんですが・・・」
侍女は神妙な顔つきで、ラクシュミに告げた。
「裸の美男子様？」
ラクシュミの横にはシスとアナスターシャもいた。
「とっても素敵な方なんですが、裸なんです」
と侍女は告げた。なぜかほんのり頬は赤くなっている。
「？？？」
「それってただの変な人じゃないの？」
アナスターシャが言った。
「城の中に〜？」
とシス。
その時、「とー様！みてみてー！」
といいつつ男がぱっと現れて一同ぎょっとした。
「ロ・・・ロイ！」
とラクシュミが驚き、
「え？これがロイ？」
「ロイー？？？」
アナスターシャとシスが驚きの声をあげた。
「ねえ、かっこいいでしょ。ねえねえ」
ロイはにこにこしながら３人の顔をみている。
「アナスターシャ、見るな！」
ラクシュミがあわてて言った。
「えっもう見ちゃった」
「もしかして変身花使っちゃったの？ロイ」
シスが言いながら上着を脱いでロイの下半身を隠した。
「よくわかんないけど花に突進したら大人になった」
「やっぱりそうか・・・だめだよ。大人になって裸でうろうろしたら」
「なんで？」
「なんでもだよー」
「変身したのか。また未来からロイが来たのかと思った。びっくりするじゃないか・・・」
ラクシュミが胸をなでおろして、シスは服を着せにロイを連れて行ったのだった。
「大丈夫か？アナスターシャ」
ラクシュミがちょっと心配げにアナスターシャに聞いた。
「え？何が？」
アナスターシャはきょとんとしていた。
「突然でびっくりしたろうと思って・・・」
「男のからだって・・・あんなんなんだね」
アナスターシャにしみじみと言われて何も言えなかったラクシュミだった。
「もーロイったらあちこち移動するんだからー」
ロイとナナミの部屋にゆりも来ていた。噂を聞いたゆりやシスらの侍女達も部屋の外から中をのぞいている。
ロイは大人の服を探してもらい侍女に着せてもらっていた。王族用のすその長い服はロイがいやがったので、
ハインリヒのシャツとズボンを借りていた。
「おっぴったりですねえ。」
服を持ってきたハインリヒが言った。背も体格も二人にそんなに大差はないようだ。
「うーん。ロイってやっぱりいい男ね。」
ゆりが言い、侍女らもうなずいていた。ラクシュミの顔立ちとはちょっと違うが、ちょっと茶目っ気がありそうな人なつっこい
顔をした美男子なのは、前に会った時と同じだ。
「僕いい男？かっこいい？」
「うんうん。かっこいいよ」
「えへへー」
ロイはうれしそうに笑っている。
「シスにー僕かっこいい？」
「かっこいいかっこいい」
「ラギにー僕かっこいい？」
「うん。いい男だねー。将来女の子に追いかけられて大変だよ」
「ハインリヒよりかっこいい？」
「かっこいい。かっこいい」
ロイは大人になったのがうれしいのかみんなに聞いていた。
ナナミがたったと走りながら部屋に入ってきた。
「ラギにー私も大人になりたい！」
ナナミはラギに訴えた。
「ロイだけなんてずるい！」
「やめた方がいいよ。戻る時すっごい痛いんだから」
シスが言うと、ロイが「えっ？」と顔を向けた。
「痛い？戻るとき痛いの？」
「痛いよーすごく」
「ええー！！！！聞いてないよ！」
「もーロイったら僕の話ろくに聞かないで花に突進しちゃうんだからさー説明する暇もなかったじゃないか」
「ガーン・・・・」
ロイが大きくのけぞった。
「大人になりたいけど痛いのはやだなあ・・・」
ナナミは口をとがらせた。
「まあ変身しちゃったものはしょうがないよ。明日まで大人生活を楽しんだら？」
「うー・・・まあいっか。じゃあ遊んでこよっと」
「あ・・・」
一同が止める間もなくロイはさっさと瞬間移動で消えてしまった。
「なんだか外見と中身の差がありすぎて奇妙な感じですねえ・・・」
一人の侍女が言った。
「確かに・・・でもひょうきんな所は大人になっても変わらないんだね。所でロイどこ行ったの？」
ゆりが聞くとシスは首をかしげた。
「さあ、まあおなか空いたら帰ってくるんじゃない？」
「それもそうね」
みんなさほど心配してないようだった。
瞬間移動したロイは南の方角にある大きな街の通りを歩いていた。すると女性達がみんな注目してきゃーきゃー
言ってくるので、ロイはみんなににこにこ笑顔を振りまいて歩いていた。
ロイは通りにある店から出てきたヴィラを発見した。
「あーヴィラ〜」
「えっロイ様！？」
ヴィラはロイの顔を見るなり持っていた紙袋を落としてロイを凝視した。
「また未来からいらっしゃったんですか？」
ロイはにこにこしながらヴィラの横に並んだ。
そして近くを通り過ぎた若い女性に聞いたのだった。
「ねえねえ、どっちがいい男？」
女性は頬を真っ赤にして「あなたの方がいい男です」と答えた。するとロイはにっと笑い、
「やった、ヴィラに勝った！」と言って消えた。
「・・・なんなんだ？」
ヴィラはしばらくその場に立ちつくしていた。
ロイは今度は西の方角に飛び、砦の中に出没してみんなを驚かせていた。
「ロイ様！」
「ロイ様だ！」
ロイは砦にいたフリットを見つけて横に並んだ。
「ロイ様！今度はいったいどうして過去に！？」
フリットが驚いて聞くと、ロイはフリットを見てうれしそうに言った。
「やったあ！僕の方が背が高い！」
「は？」
「じゃあねえ〜」
ロイはぱっと消えて残されたフリットはぽかんとしていた。
次にロイは北の砦でミカエルに会っていた。
「ロイ様じゃないですか！いつ未来からいらしたんですか？！」
ミカエルが驚いて聞くとロイはミカエルの横に並び、下を見て
「やったあ僕の方が足が長い！」
と言った。
「は？」
ミカエルがぽかんとしていると、女性戦士達がどっと部屋に入ってきた。
「きゃーロイ様ー」
「ロイ様ー握手してください！」
「抱きついてください！」
「口づけしてください！」
「きゃー！！」
「ばいばーい」
女性達に囲まれる前にロイは移動してしまった。
「待ってえー！ミカエル様どいてください！」
「うわっ」
ミカエルは女性達に押しのけられていた。
ロイは今度は東の砦に出没してイシュタールに出会っていた。
「ロイ様じゃないですか！いつ過去に？！」
ロイは椅子に座ってテーブルに肘をつき、「勝負だ！」と言い出した。
「え？勝負？」
「早く早く！」
「はあ・・・」
わけもわからないままイシュタールはロイの向かいに座り、なぜか腕相撲をさせられたのだった。周りには不思議な顔のギャラリーまで
集まってきている。
だがさすがにイシュタールにはかなわずにロイは負けてしまった。
「あのーロイ様・・・・・」
「ちぇ、負けたー」
「あのー・・・・」
「じゃあね」
そう言ってロイは消えてしまった。
「なんなんだ？」
あちこち出没してみんなを驚かせて、夕方ロイは城に帰ってきた。大人になったから食事も二倍食べられる、とがつがつ
ご飯を食べている。
「ロイ・・・もうちょっとゆっくり食べたら？」
ゆりがそれを眺めつつ言った。侍女はいつもよりもうれしそうに汚れたロイの口元をナプキンで拭いていた。
「ねえ、みんな僕を見て未来とか過去とか言うんだけど何のこと？」
ロイが聞いた。
「ああ、それはまあ、今は知らなくていいの」
とゆりが答えた。
「よくわかんないけど・・・」
ロイが食べ散らかすのでロイのテーブルの周りだけ汚くなっていた。
「なんだかシスの時より見かけとのギャップが激しいね」
アナスターシャが言った。見かけがいくらよくてもこれじゃあどうしようもないだろう。
「僕の時はロイより大きかったからだよ。」
「中身が幼すぎてかなり微妙な感じねー」
とゆり。
「全部食べたーデザート３コ持ってきて」
ロイは周りの意見にはまったく気にもかけず笑顔で侍女に言っていた。
夜、ロイのベッドにそっとゆりが入り込んできた。
「ん？まーどしたの？」
ロイが目をこすりつつ聞いた。
「一緒に寝ましょ」
「ん？いいけど・・・」
ちなみにナナミは同じ寝室の違うベッドで眠っている。
ハンサムな息子と添い寝〜母親の特権〜♪
蛇目のゆりはるんるんでロイの横に寝ころんだ。
ああ、幸せ・・・・
ゆりがハンサムな息子の顔を眺めつつ幸せに浸っていると、「こらっ」と上から声が聞こえてきた。
「げっ王様！」
ベッドの横にラクシュミが立っていた。
「お前はまた。来い！」
「えーん。別に添い寝だけなのに〜！」
前回と同じように問答無用でゆりは連れて行かれてしまったのだった。
次の日起きた時もロイは大人のままだった。
その日、ロイはいつものように湖で裸で泳いでいた。
「ロイ様裸はだめですよ！」
あわててやってきたのはジュノーだった。手にパンツを持っている。
「これはいてくださいよ」
「えーやだよー！」
「ロイ様ってばおしりぺんぺんされたいんですか？」
「やれるもんならやってごらーん。わははは」
「あ。ちょっと！」
ロイはジュノーから逃げ回り裸で泳ぎまくっていた。
「うーいつもよりも腹が立つ！ロイ様ってば！」
「わかったよ。着ればいいんだろ。着れば」
ロイは水に浸かったまま宙に浮いているジュノーからパンツをひったくり、なんとそれを顔にかぶったのだった。
「これでいいだろ〜」
ロイはそのままじゃばじゃば泳いで行った。
ジュノーはあっけにとられてしまった。
「あの顔でそれだけは勘弁してほしい・・・」
ジュノーは頭に手をあてて、はあと大きなため息をついたのだった。
こうして大勢をあっけにとらせたロイの変身だったが、午後にはやはり元に戻ってしまった。その際の痛みでロイは地面に転がって
悲鳴をあげてしまい、それを見たナナミはすっかり変身花を使う気を失せていた。
そのころには城の周りに大人のロイみたさに大勢一族の女性達が集まっていたのだが、子供に戻ったと聞いて残念そうに去って行ったの
だった。
「大人って面倒だねえー裸で泳いじゃいけないし」
子供に戻ったロイはゆりの膝の上にいた。
「子供でもパンツ着て泳がなきゃだめよ。大事な所魚にかまれたらどうするの」
「裸の方が気持ちいいんだもーん」
「全く・・・ロイはまあゆっくり大人になりなさい。」
「うん。さっき湖で水ヒル捕まえてきたんだよ。見る？」
ロイがズボンのポケットの中に手を入れた。
「水ヒル？」
「ほら」
「ぎゃー！！！」
ゆりは思わずロイごとぽーんとほうりなげたのだった。
夕方、読書中のラギの部屋にアナスターシャがやってきた。
「ねえ、たとえばさあ、戦いの時に変身花使って大人になったらさ、今よりもみんなに協力できるかなあ？」
アナスターシャがまじめな顔で聞いた。
「もっと父様の役にたちたいの。大人になればちょっとは力あがるでしょ。ロイもあがってたし」
「うーん。やめた方がいいよ。急に大人になったら力の使う加減がわからないと思うよ。大人になっても中途半端だし、
力使いすぎて死んじゃったら元も子もないよ」
「うーん・・・だめかあ・・・」
アナスターシャはがくっとうなだれた。
「どうしたのさ。シス兄さんならともかく姉さんがそんなこと言うなんて」
ラギが意外そうに聞いた。
「私だってそのくらい考えるわよ。なんといっても長女ですからね」
アナスターシャは顔をあげて腰に両手をあてた。
「そっか。さすが長女だねー」
「そうよ。将来の美しい女王としてはそのくらい考えなきゃ」
「なるほど・・・・授業が自習になると大喜びする普段の姉さんとは別人のようだ」
ラギがちょっと嫌みのように言うと、アナスターシャはべーと舌を出して部屋を出て行った。
姉さんもあれでいろいろ考えてるんだなあ。それにしても・・・将来姉さんが女王になったら、僕こき使われそうだなあ・・・・
将来の僕は大変かもなあ・・・
遠い未来を思い、将来の自分に自分で同情したラギだった。
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