その朝目覚めたゆりは、すぐさま横に寝ていたラクシュミの身体を揺り動かした。
「王様、起きて王様！」
「んーなんだ？」
ラクシュミが眠そうに言いつつ目を開けた。部屋の中はまだ薄暗い。どうやらまだ起きるには早いようだ。
「すごい事があったんだよ！なんと私の音楽が神様に認められたんだよ！」
「はあ？」
「初めて横笛を吹いたら、それを聞いた神様が素晴らしいって・・・・」
ラクシュミがその言葉の意味を理解するのに10秒ほどかかった。
「ガーベラをほめたんじゃないのか？」
「違うよ。私の笛をほめてくれたんだよ。私がいた世界のお祭りをイメージして吹いたんだよ。そしたらラーメンの神様がすっごい喜んでさ」
ゆりは眠そうなラクシュミの横でとてもうれしそうに言った。
らーめんの神様？らーめん・・・・らーめんってなんだろう？
ラクシュミにはさっぱりわからなかった。そんな神様がいたとは初耳だ。その上なぜ横笛なのかもわからない。
「竪琴長年やってたおかげだね。神様がほめるくらいだから私のセンスもたいしたものだと思わない？」
「よくわからん、所で儀式の事は気にしてないのか？」
ラクシュミはようやく普通に目を開けていた。
「あ、すっかり忘れてた」
神の国の出来事があまりにすごかったため、その事はすっかり忘れていたゆりだった。毎度毎度のことながら、ゆりの髪はすっかりのびまくり、
肌はつるつるになっている。昨日はあんなにも愛のある儀式をしたというのに、次の朝にはすっかりその事は頭にないのだからそれを聞いたら
男達もさすがにショックを受けるかもしれない。
ラクシュミはすっかり目が覚めてしまったので身体を起こした。
「それでどうなったの？クロエ」
「どうもならなかったんだ。儀式にもならなかったし」
「なんで？」
「よくわからんが、女蛇は間違えて降りてきたんじゃないのかな？あの後すぐ出て行ってしまった」
「そうなんだ・・・・人騒がせだったね」
「まったくだな」
間違えただけなんだ・・・・何で間違えたんだろう？
ゆりは内心ちょっとほっとしていた。蛇霊神を呼んでしまったらそれこそ面倒な事になっていただろう。
クロエがあの後男達とどうなったのかについては、ラクシュミは男達から「せっかくなので仲良くしました」という報告を受けていた。
最初から男達には「儀式は巫女によって違うからクロエの思うようにやってくれ」と言っていたのでクロエも了承しての事だろう、
とラクシュミも思っている。
「まあいいよ、私がいるし」
ゆりはようやく、そういえば昨日の儀式熱かったなあ、と思いだしていた。男達の気持ちが熱かったのだ。
それもこれも「皆私のものよ」なんてセリフを言ってしまったからだ。
「巫女って王妃の次ってことらしいから、やっかいそうだからいいよ」
「そうだな。所で、一つお前の口からはっきり聞きたい事があるんだが」
ラクシュミは改めてゆりを見つめた。
「なあに？」
「お前、儀式がすごく好きなんだな？」
ゆりの顔が引きつった。
ゆりはその時どう言って返答していいやらわからなかった。
これだけやっておいて「そんな事ないわよ。嫌いよ」というのも変だし、かといって「実は毎回心待ちにしているほど好き」と言うのも変だ。
自分が複数の男といちゃいちゃするのが好きだと認めるようなものだ。
「他の女にやらせたくないほど好きなんだろ？」
「そりゃあ、だって・・・やだよ、皆が他の女の人と儀式で仲良くするのは」
「私はてっきり、巫女の座を奪われるのが嫌でお前が女蛇を下ろしたのかと思った」
「え・・・違うよ。偶然よ」
「そうなのか」
「そうよ」
「そうか。まあいい、お前が儀式が好きならお前がずっとすればいい。後100年ほど巫女としてもがんばってくれ」
ラクシュミはゆりの肩に手を乗せて言った。
「ひゃ・・・・100年？」
「その頃にはミカエルらはさすがに無理だろうな。ぷっ」
ラクシュミは自分で言って笑っていた。
100年？なんで100年もしなきゃならないんだ・・・・ん？それって・・・・
ゆりはにやりとしてラクシュミを見た。
「そっか。王様はその頃になっても子供作る気なんだ。うふふ」
「え？嫌、私じゃなくて、その頃には子供らに子供ができてるかもしれないじゃないか。孫のために」
「孫？！」
「大丈夫だ。お前なら100年経っても結構若いぞ」
「やあよ、そんな先のことなんて考えたくない」
ゆりは一瞬、100年後の自分が200を超えるミカエルらと儀式をしている所を想像し、それはあまりに怖い世界だ、とぶるっと身体を震わせたの
だった。
第53話
まあいいや、今の私には儀式よりも笛よ。神の国での感触を忘れないように、すぐ笛の練習をしよう。
そう思ったゆりは長い髪を切ってもらった後侍女に笛を調達してもらい、朝から部屋で練習する事にしたのだった。
ゆりはもちろん神の国での話を子供らにもしたのだが、子供らは皆奇妙な顔をしただけだった。
朝食後、王の間に朝の日課である子供らのラクシュミへの朝のご挨拶がされていた。ラクシュミは元気そうな子供達の顔を見回した。
そしてロイを見て、「今日もあんまりいたずらするんじゃないぞ」とそう言ったのだった。
「はい」
ロイは素直に返事をしたが、本当におとなしくしているのかどうかは怪しいものだ。
「父様、母様今日すっごいうれしそうにしてたよ」
アナスターシャが言った。
「横笛が神様に絶賛されたとか言ってた。なんで竪琴じゃなくて笛なの？母様笛なんて吹けるの？」
「聞いた事ないぞ。ゆりの笛なんて」
「神様に披露したって言ってたよ。母様ってすごい度胸だよね」
シスが言った。
「奇跡でも起こったのかな？」
ラギは首をひねっている。もしかしてあの度胸の良さを買われて、ガーベラが身体貸してるのかも？とラギは思った。
「身体はガーベラだからガーベラのように吹けたのかもな。ところでラーメンの神様って何の神様だ？」
ラクシュミはついゆりに聞きそびれていた事を子供達に聞いた。
「ラーメンの神様？」
アナスターシャ、シス、ラギの頭の中に大きな「？」が浮かんだ。
「そういう神様はいませんよ」
とラギ。
「そうなのか？」
ゆりはやっぱり神の国に行ったんじゃなくてそういう夢を見ただけなんだな、ラクシュミはそう思った。
その頃ゆりはすでに横笛をピッピラピッピラ吹いて練習していた。突然笛を吹き出したゆりに侍女らも首をかしげている。
部屋にいたルーはうるさかったのか出て行ってしまったが、ゆりは気づかなかった。
うーん、神の国ではもっとうまくふけたんだけどなあ・・・・・
ゆりはそう思いつつ笛と格闘していた。
きっと笛が違うせいだろう。あっちの笛はもっと上品な音が出たし
しまいには笛のせいにしている。第一、笛といえば音楽の時間に縦笛を吹いたくらいなので、突然横笛を吹いてうまく吹けるわけはない。
神の国ではよく披露したもんだ、と今更思ったゆりだった。
あの必死なハロルドを見てたらつい吹きたくなっちゃったのよねー・・・・
なんといっても外見は美しすぎるガーベラ、変だと言われても「わざとよ」とにっこり笑って言い張れば相手もそう思うだろう、とゆりは内心
思っていたのだった。今のゆりならば、「わざとよ」と言っても信じるのはシャナーンくらいのものだ。
まあいいや、なんと言っても音楽の神様がほめてくれたんだし、笛の達人目指してがんばろう。
ゆりはそう自分を励まし、「ピーヒャラピー」と笛を吹き続けていたのだった。
「今日は平和な日だ・・・・」
王の間でラクシュミがつぶやいた。王妃の部屋のおかしな笛の音は、さすがにここまで届いてはいない。
客もそんなに多くなく、一族の者達が何かの報告で来るくらいだった。たいして問題ごとも起こってはいない。空は曇り空だったが雨が降る気配は
なさそうだった。
午後になり、ラクシュミも今日は休憩室で長めの休憩を取った。部屋では侍女が大きな竪琴を奏でていた。ラクシュミは寝そべって
それを聞いていた。
ーピーピーピーピー
「ん？」
ラクシュミはそれが誰からの思念か分からなかった。
ーピーピーピーピー
ー誰かピーピー言ったか？
ラクシュミは子供らに思念を送ってみた。
ー言ってないよ
ー僕も言ってないですよ
ー僕も違いますよ
アナスターシャ、シス、ラギ、３人とも違っていた。ロイやナナミでもなさそうだ。
ーピーピーピーピー
ーうーん、誰だろう。子供のようなんだが・・・・ピーピー言ってる
ーあっ、もしかしておなかの赤ちゃんじゃない？シスも昔母様に竪琴やめてほしい時ピーピー言ってたよ
アナスターシャが思い出すように言った。
ーあーそういえば・・・お母さんずっと笛吹いてたなあ・・・すっごい変な音だった。だからうるさいのかな
ラギが言った。部屋の外で聞いたのだ。
ー確かに面白い曲だったねえ
とシス。
ー曲になってなかったよ
ーちょっと行ってみよう
ラクシュミは身体を起こしてゆりの部屋の外に移動した。すると、「ピ、ピ、ピ〜ヒャラプヒウィ〜♪」と身体の力が抜けるような笛の音が
部屋から聞こえてきた。
「ピーピーピーヒャラピー♪」
確かに曲になってない・・・・
廊下を見ると一匹の蛇もいなかった。どうやら皆逃げたようだ。
ーピーピーピー
わかったわかった。確かにこれはうるさいな。
ラクシュミは部屋の中に移動した。
「プピ、あ、王様笛聞きに来たの？」
ゆりはラクシュミを見るなりにっこり笑って言った。
「そんなわけないだろう。なんなんだその笛は」
「これ？神様にほめられたから練習してるの」
「それを神様がほめるわけないだろ」
「それがほめられたもん。音楽の神様に」
「音楽の神様？」
「君は素質がある、素晴らしいって」
ゆりは自信満々に言っていたが、さすがのラメーンもそこまでは言ってない。
音楽の神様といえば、ラメーン、なんだ・・・・ラメーンのことか・・・・
ラクシュミはそこでようやく気づいた。
「だからね、王様やハザーク様に聞かせてあげようと思って・・・」
「ゆり・・・・いくらハザークが物好きだといってもだな、お前のその笛を聞いたら驚いて脱皮してしまうかもしれないぞ」
ラクシュミは大真面目に言ってのけた。
「・・・・ぷ・・・ぷぷ・・・やだー王様ったら面白い冗談言って！」
ゆりはけらけら笑っていた。
「いや、冗談じゃなく真面目なんだが・・・・」
「笛聴いたくらいで脱皮するわけないでしょ」
「それほどひどいと言いたかったんだ」
「音楽の神様にはほめられたもん」
「他の神様はいなかったのか？」
「・・・ハロルドには・・・次にやったら蛇に変えるって言われた」
ゆりは口をへの字に曲げていた。
「ほらな、それよりも神様に披露するなんて何考えてるんだ。お前・・・」
話が長くなりそうなのでラクシュミはゆりの向い側にある椅子に腰を下ろした。
「ばれたら大変なんだぞ。ハロルドが許したからっていい気になっちゃだめだぞ。笛吹くくらいならおとなしく風呂につかってろ」
「はーい」
ゆりは低い声で返事をした。風呂とは火の神殿のお風呂の事だ。ありがたい火の神殿も、すっかり銭湯扱いされている。
「ちぇ・・・竪琴よりも早く笛の達人になれるかと思ったのになあ・・・・」
ゆりは笛を握り締めたままつぶやいた。
「竪琴の練習をすればいいだろう」
「してますよーだ」
「じゃあ、笛はもうやめろよ」
ラクシュミは立ち上がった。王の間に帰ろうとした時、「何よ、全然聞いてくれないくせに・・・」とゆりの小さい愚痴が聞こえてきた。
ラクシュミはゆりを見つめた。
「なんだ、聞いてほしいのか？」
「いえ、別に・・・・」
ラクシュミは椅子に座りなおした。
「せっかくだからお前がどの程度の腕前になったのか聞いてやろうじゃないか」
「ええ！？」
ゆりはびっくり仰天して身をそらしていた。
「いいよ、王様忙しいんでしょ？」
「今日は結構平和な日だからな、たまにはこの国の平和に尽力してくれている王妃に時間を割くくらいはいいだろう」
「はあ・・・・」
ゆりは気が抜けた声を出した。こんな展開になるとは思ってもいなかった。
ラクシュミは別にゆりをいじめようと思ったのではなかった。
一体ゆりがどういうレベルなのか、聞いてみる気になったのだ。まさかあの笛ほどひどくはないだろう、と思っている。
「どうしたんだ？聞いてほしいんだろう？」
輝きを放つ瞳がゆりをじっと見つめている。
「え・・・・そりゃそうなんだけど・・・」
いつか王様がうなる竪琴を奏でてみせる！そう思いつつはや20年弱、いまだ竪琴の名人の域には達していない。名人の手前までもいってない。
弾いたところで鼻でふっと笑われそうだ。
「や、やっぱりいいよ」
「なんでだ。笛よりも竪琴の方がましだろ？そういえば前将軍らがほめてたぞ、とっても素晴らしかったって」
「将軍？将軍らには聞いてもらってないけど・・・・」
その時は偶然にもガーベラが将軍らに聞かせたのだった。その事は２人は知らない。
「ほら、早く弾け、侍女らのレベルにまで達していたら、今夜はなんでも言うこと聞いてやるぞ」
ラクシュミが微笑んで言った。
「なんでも？」
「ああ」
「本当になんでも？」
「ああ・・・・」
といいつつ、一体何やらせたいんだ・・・・とラクシュミはちょっと不安に思った。
よし、やってやろうじゃないですか！
ゆりは棚の竪琴をもってきて椅子に座った。そして足の間に竪琴を固定した。
「じゃあ弾くわ」
「ああ。題名は？」
「ええっと・・・翼をください」
「ふうん？」
「私がいた世界の曲よ」
「そうなのか？」
「うん」
せっかくだからと、ゆりは最近向こうの世界での曲をいろいろ竪琴で演奏してみたりもしていた。向こうでの事を何か覚えていたかったからだ。
ハザークにたまに聞かせてもいる。ハザークはその曲は知らないし、間違えても適当にごまかせるのがいいところだ。
弾くわよ、よし！
ゆりは指を動かしたものの、弦に触れる事ができなかった。
せーの！
勢いをつけたものの、なかなか弾き出せない。
なんだか汗かいてきた・・・・
ゆりは今までにないほど緊張していた。手も汗ばんでくるほどに。
なんでー？神の国では神様に平気で笛吹いたくらいなのにどうして王様相手だとこんなに緊張するの？
ラクシュミをちらりと見ると、なんだか面白そうな顔をしていた。少し口元が笑っている。
「王様じっくりみなくていいから、横向いて横」
「しょうがないな」
ラクシュミは横を向いた。
がんばれ私・・・・っていうか、手震えてる！
やっぱりやめようかな・・・・
なんだか弱気になってきた。こんなんじゃ上手く弾けそうにない。
がんばれがんばれ〜！
声が聞こえてゆりはきょろきょろと周りを見た。
今の誰？
もう一人のゆりが思わず送った声援だった。
ーマーあーあー！
赤ちゃんの声が聞こえた！そうか、赤ちゃんも応援してくれてるのね！がんばるわ。私！
予想だにしない声援を受けて、ゆりは意を決して竪琴を弾き始めた。
この〜私の〜ねが〜い事が〜
つい心の中で歌いながら竪琴を奏でていた。最初は指の動きはロボットのようだったが、弾いている内にスムーズになっていた。
そしてサビに入った時、ゆりはつい大きな声で歌っていた。
「この大空の〜自由な空へ〜飛んで〜行きたいわ〜悲しみのない〜自由な空へ〜
翼〜はため〜か〜せ〜ゆきたい〜♪」
ラクシュミはびっくりしてゆりを見ていた。
「ど、ど、どうだった？」
ゆりは竪琴をテーブルに置き、頬を紅潮させて聞いた。
「突然歌いだしたからびっくりした」
「そうじゃなくて竪琴の方」
「竪琴か？ああ・・・・」
ゆりはどきどきしてラクシュミを見ている。
「しいていえば・・・・面白かった」
「面白かった？」
「プロの演奏家では味わえないな。お前の竪琴は妙にどきどきする。いつ弦が切れるかと思って」
「はい？」
「お前の性格そのものだな」
ラクシュミは微笑んで言った。最初のぎこちない演奏では確かに弦が切れそうなほどだった。途中から指の動きが滑らかになった、と
思ったらあの歌だ。安らぐ暇もない。
「侍女らと比べてどうなの？」
「次元が違うから比べようがないな」
「次元・・・・なんでよう」
ゆりは不服げに口を尖らせていた。
「侍女らのが安らぎの竪琴だとすれば、お前のは驚きの竪琴だ。でもまあ面白かったぞ。お前のような竪琴の演奏者がいてもいいかもな。
ハザークもどきどきしたくてお前の竪琴を聞いてるんだな」
ラクシュミは妙に納得していた。
「でもちゃんと弾けてたでしょ？」
「とちったろ？何度か」
ラクシュミは鋭く指摘した。
「ぐ・・・」
異界の曲なのになぜ分かる・・・・
「まあたまになら聞いてもいいかもな」
「本当？」
ゆりの顔が輝いた。ゆりにとっては音楽の神にほめられるよりもうれしい事だった。
「赤い月の時くらいならな」
「・・・・」
「じゃあ私は行くぞ」
ラクシュミは微笑みを残して消えた。
「結局今夜のラブラブはなしってこと？なんだあ・・・」
ゆりは頬を膨らませていた。
だけど王様不快げじゃなかったよね。ってことは、そんなにひどくはなかったってことよね。
昔に比べればかなり進歩したじゃない。
ゆりはそう思うことにした。
竪琴を習いだした頃は、死んでも聞きたいなんていいそうになかった王様が、ちゃんと最後まで聞いてくれたんだもんね。
なんだかうれしいな。
気をよくしたゆりは再び竪琴を手にして演奏しだした。
「今〜わたしの〜ねが〜いごとが〜」
ーあーあー
あら、赤ちゃんが歌ってる
「かな〜うな〜らば〜♪」
ーあーあー
面白い！
ゆりはノリノリで赤ちゃんと一緒に歌っていた。そして最後まで気持ちよく歌いきった時、ゆりの身体は宙に浮いていた。
「え？」
しかもいつの間にやら外だ。雲が見える。下を見ると城の屋根が見えた。
「えええええ！！！！！！！」
ーきゃは、きゃは、きゃははは
ゆりの身体は城の上空をぴゅーんと飛んでいった。
「誰かー助けてー！」
ーきゃっきゃっきゃっ
どうやら歌を聴いた赤ちゃんは、ゆりが飛びたがってると誤解してしまったようだ。
ゆりは竪琴を握り締めたまま空を飛翔していた。もうとっくに結界は過ぎている。町の方まで行ってしまったら、「王妃飛ぶ」とかいう
号外が出てしまうかもしれない。それも嫌だ。
「誰か私に気づいてー！！！」
飛んでいるゆりを見た表門にいた戦士達により、ゆりは城に連れ戻された。
そしてラクシュミにより、「翼をください」の歌は今後赤ちゃんが産まれて大きくなるまで禁止されてしまったのだった。
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