今年は12月に入りすぐに雨が降り出し、梅雨に入ってしまった。梅雨が来ると、今年も終わりに近づいてくる。
「外に遊びに行きたいなあ」
別室の方で蛇目のゆりは愚痴っていた。今年は戦があったりしたのであまり結界の外には出ていない。梅雨前にちょろっと遊びに行った
くらいだ。
「来年は平和だといいですね」
横で言ったのはジュノーだった。２人で軽くいちゃっとした所だった。２人とも裸で布団くるまっている。
「そうだね」
戦はあったが過去の皆にも会えたし、そう悪い事ばかりではなかった。
皆元気だよね、きっと・・・
過去の男達と美しい女王の姿が脳裏に浮かび上がる。彼らと過ごしたひと時は、今では美しい思い出だ。いずれはアナスターシャが過去に
行き、彼らと会うことになるのだろう。できることなら自分も一緒に行きたい気分だが、まさかそんなに長い間過去に滞在することもできない。
その頃にはドルイドやディランにも子供ができていればいいな
そう思うゆりだった。
「そうだ、私この前決定的瞬間を逃してしまいましたよ」
ゆりが感慨に浸っているとジュノーが思いついたように言った。
「何の事？」
「あなたは私のものよって所ですよ。言ってください。王妃」
ジュノーは目を輝かせて言った。ジュノーは今年９９歳、一族の中では中堅にあたるが、ゆりといる時のジュノーは落ち着いた大人の男
という印象はあまりない。
「言ったのあっちの時よ。私でいいの？」
「いいです。どっちの王妃でも」
「そう。じゃあいいよ。あなたは私のもの！」
ゆりはジュノーの耳元で言った。
「くーいいですねえ・・・」
ジュノーは喜んでいる。
「そんなにうれしいの？」
「はい、普段聞くことないですからね」
「まあそりゃそうだろうけど・・・」
「そういう言葉は物語の中だけだと思ってましたよ」
ジュノーは心底うれしそうだった。
蛇の一族にとっては最も重要な事は子孫を多く残す事である。人口が少なすぎるため、恋愛に興じる余裕というものがないのだ。一生一途に
一人を愛する、という事に一種の憧れのようなものは抱いてはいるが、実際にはなかなかそうはできない。女も男もより強い相手と交わって子供を
作りたいというのが頭にあるからだ。そのため中級の中以上の男には女が数人いることが多い。
そんな儀式の男達にとっては、王妃のゆりという存在は、唯一愛していると言い続けてきた相手だった。他の一族の者が聞いたなら、
それは愛ではないというかもしれない。だが他人がどう思おうがかまいはしないのだ。自分達が愛していると感じていればそれでいいのだ。
ゆりが男達に愛していると言うことはなかったが、儀式だけは譲りたくないと主張したあの言葉は、「愛している」という言葉の代わりにもなっていた。
だからあの言葉がすこぶるうれしかったようだ。あの時「好きにすればいい」と言われていたら、男達は失望を感じてしまったかもしれない。
「あなたは赤い月以外は私のものー」
「王妃〜」
２人はひしっと抱き合った。
ーきゃっきゃっきゃ
「ん？」
２人が同時に反応した。
ーきゃは、きゃは、きゃは
「御子様笑ってます？」
「うん、最近声出すようになったの」
「そうですか。かわいいですね」
ーぺたぺた、きゃははは
ぺたぺた！？もしかしてぺたぺた見てました？
かわいいですね、と言って微笑んだジュノーの顔はそのまま固まっていた。
第54話
雨がしとしと降り続ける午後、寝室にて昼寝から目覚めたゆりは、ベッドから降りて白い棚においてある小さい木のかごをのぞいた。
そこには白い少し長細い卵のようなものがある。普通の卵よりは小さく4センチくらいの大きさのものだ。卵は二つあった。蛇のルーが
生んだ卵なのだ。卵はまだ何の変化もない。ゆりはそれを確かめて寝室を出て行った。蛇のルーは脱皮した後に二つ卵を生んだ。
ちょうど脱皮が始まったのがゆりがピッピラ笛を吹いた日の夜の事だった。ラクシュミからは「ほら見ろ、お前の笛にびっくりしたんじゃないか？」
とまで言われてしまった。そんなばかな、と思ったゆりはハザークにそんな事があるのか聞いてみた。「あるかもな」とハザークにはあっさり
言われてしまった。別に蛇が脱皮するのは珍しいことではない。ルーも気づくとたまに脱皮している。蛇はそうしてどんどん大きくなっていくのだ。
結構重くなったので前のようにおいそれと腕に巻く事もできなくなってしまった。脱皮した後ルーは卵を２個産んだ。今回はゆりのベッドの
上にあったので、前のように見逃す事はなかった。今度こそはルーの子蛇誕生に立ち会いたい、ゆりはそう思っている。
卵はだいたい３ヶ月ほどで孵るらしい。年明けくらいには孵るかもしれない。そのルーはといえば、椅子の上でとぐろを巻いていた。
笛の日といえば、ゆりが子供の力で空高く飛んでしまった日でもあったのだが、その事は号外には載らなかった。
次の朝の普通の新聞に載ってしまった。しかも東西南北４つの新聞の一面を飾ってしまった。
題は「王妃飛ぶ」ではなく、「王妃様が飛んだ！」になっていた。町までは行かなかったのだが、通りがかりの馬車から見ていた人達がいたようだ。
「飛んだだけで記事になるんだからすごいですね」と男達からは言われてしまった。
「それだけ皆王妃の事が好きなんですよ」とフォローもしてくれたが、どうせならもっとましなことで一面を飾りたいものだ。
ーきゃっきゃっきゃ
赤ちゃんの声が聞こえてゆりはおなかをなでた。
「今日も元気ねー」
ーとーぺたぺた
「いっ？ぺたぺた？赤ちゃん、今晩思う存分とーとぺたぺたするからね。今は我慢しようね」
ゆりはにっこり笑って言った。
ーきゃっきゃっ
笑っているから大丈夫だろう
ゆりはほっとした。今はぺたぺたしなくてもいいようだ。しかし、なぜ誰も教えないのにぺたぺたなどという言葉を知っているのだろう。
ゆりには謎だ。最近になり赤ん坊がよく声を発するようになってきた。それはいいがシスの時のようにぺたぺた要求をされるとちょっと困ってしまう。
この前儀式をしたばかりだし、当分男達とのぺたぺたは控えたいものだ。
さー外は雨だし、夕飯まで何しようかなあ・・・・ロイとナナミはいるかな？行って見ようっと
ゆりは部屋から外に出た。すると廊下を水色系の服を着たエルバートが歩いてくるのが見えた。
「あ、王妃」
「エルバート、こんにちは」
ゆりはにっこり笑ったが、なんだかエルバートの身体でお風呂に入ってしまった事を急に思い出してしまい、あわててそれを頭の隅に
追いやった。
「なんだか久しぶりだね、あれ以来・・・かな」
エルバートは相変わらず女性でもいいような綺麗な顔をしている。少女漫画的にいうと、周りにバラの花が咲いていてもおかしくない。
「なかなか王妃に顔を見せづらくて・・・」
エルバートは頭をかいた。
「そりゃそうだよね」
「さっきまでロイ様と一緒だったんです。王妃のお顔が見たくなって・・・」
エルバートは優しく微笑んで言った。
あーよかった。怒ってないよね。この顔は
「そうなの。せっかくだから入って」
ゆりはよかった、と思いつつエルバートを促して部屋に戻った。
「釣竿ありがとうございました。あれから休みのたびに釣りをしてるんです」
「そうなの。釣れた？」
「はい」
「いいなあ。私も釣る所みたいな」
「他人が見ても退屈ですよ。カーライル様にはいつもお前は暗いって言われるんですよ」
「あは、そうなの？釣りは私の世界でも好きな人たくさんいたよ」
「そうなんですか」
「あーよかった、エルバートの優しい顔見れて、怒ってたらどうしようってひやひやしてたから」
「怒ってないですよ。女装していたのも今となればいい思い出です」
「あは・・・はは・・・」
ゆりは引きつった顔で笑った。
「あの・・・失礼なお願いなんですが・・・おなかに触ってもいいでしょうか？」
エルバートは遠慮がちに聞いた。
「おなか？いいよ」
「すいません」
ゆりは椅子をテーブルから少し放して座り、エルバートがしゃがんでゆりのおなかにそっと手をあてた。
なんだかとてもうれしそうだった。
「もしかして赤ちゃんが恋しくなったとか？」
「はい、実はそうなんです」
エルバートは照れたように言った。
「ありがとうございます。王妃」
エルバートは手を離した。
「ううん。このくらいならいつでもいいよ。ねえ、私もエルバートのこと、エルって呼んでもいい？」
そう聞くと、エルバートは「はい」と優しく微笑んだ。
ああ、エルバートってなんだか穢れのない少年って感じでいいなあ・・・・このまんまでいてほしい。できる事なら！
真っ白なままでいてちょうだい！せめてかわいい恋人ができるといいなあ〜
ゆりは若いアイドルを応援する気分になっていた。
「王妃、さては狙ってるな？」
急にエルバートの口調が変わり、ゆりの口元が引きつった。
立ち上がったエルバートの顔は目つきが鋭くなっていた。
「別に狙ってないわよ」
がらりと変わったエルバートの前では、ゆりもがらりと変わっていた。先ほどまでの柔和な笑みはどこへやらだ。
「エルバートのやつ、どうも奥手すぎて女とどうこうなる気配がない。この際王妃が男にしてやってくれないか？」
カーライルの言葉にゆりは口をあんぐりと開けた。
い、今なんとおっしゃった！？
「私としても、かなり不本意だが・・・・王妃は男の扱いに慣れてるだろ？エルバートをその気にさせてやってくれ」
驚くゆりの前では冷静な口調でカーライルが続けていた。
「男の扱いにな、慣れてるって・・・ひどい！純真無垢な王妃様に向かって何てこというのよ！」
ゆりの顔は真っ赤になっていた。
「は？純真無垢？誰が？」
カーライルは眉間にしわを寄せていた。
「私よ。この私！」
「そういう言葉はエルバートにこそ使える言葉だ。そなたにはあてはまらんだろう。どう考えても」
「とにかく無理です」
ゆりはつんと横を向いた。
「あれだけ立て続けに儀式やっておいてよく言えるもんだ・・・・」
カーライルはぼそっと言っていた。ゆりはむっとしたもののさすがに反論できなかった。確かに純真無垢なのは自分よりエルバートの方だろう。
「まあ、王妃じゃエルバートもその気にならないかもしれないが・・・やっぱ無理か」
「あっかんべーだ」
ゆりは思いっきり舌を出した。一瞬「いらっしゃい坊や」とか言いつつベッドの上でセクシーな服を着てエルバートを誘惑する図が浮かんだゆりだった。
シャナーンなら喜んできてくれるだろうがエルバートなら「どうしたんですか？」と真顔で聞かれそうだ。元よりエルバートとそういう関係になる、
と言う事はゆりの頭にはなかった。
ーぶーぶーぶーぶー
「あ」
「む、今攻撃してきたぞ」
「え？」
目の前では何事も起こっていなかったのでゆりはわからなかった。カーライルも別に普通に立っている。
「攻撃した？赤ちゃんが？」
「ああ、今ビリリと衝撃が来たぞ。防いだからよかったが、防がなかったら黒こげになってるぞ」
言葉とは不似合いなほど冷静な口調だった。
「ええ！？赤ちゃん、この人は確かにいけすかない人だけど敵じゃないのよ。そんな事しちゃだめよ！」
ゆりは必死におなかに語りかけた。
「いけすかないは余計だろ？」
「まーは喧嘩してるんじゃないの。だから攻撃しちゃだめ。わかるかなあ？」
ーぶー
「ノンノンノン、ほらぺたぺた、仲いいぞー」
ゆりは人差し指を立てて左右に振り、立ち上がってカーライルの両手を握り締めた。
「ほらー仲良しこよし〜たのしいな〜」
ついでにそのまま両手を左右に振って踊っている。
ーきゃっきゃっきゃ
「ふーどうやら分かったようだわ」
ゆりはほっとした。
「いつまで踊ってるんだ？」
「はっ！？」
ゆりは片手を高くあげたまま止まった。
「王妃よ・・・・そなたダンスも下手だな。一体そりゃどこの国のダンスなんだ？」
「いいでしょ。ただ仲の良いところを見せたかっただけなんだから」
ゆりはぱっと両手を離した。
「これじゃ王妃としてあまりにお粗末すぎる。仕方ない。ダンスの一つも教えてやろうではないか」
「え？いや別に・・・」
カーライルはゆりの腰に右手を添えて左手を握り締めて高くあげた。
「右足、左足、右足の順で動かすんだぞ。いいか」
「いや、別にいいって・・・」
「右、左、右」
「全然聞いてないですね」
どうやら是が非でもカーライルはゆりにダンスを教えたいようだ。予想外の展開だ。
「水蛇様ダンスなんてできるの？」
「当然、昔恋人にせがまれて大会に出たこともある。準優勝だったが」
「へーさすが昔の蛇も優雅ですね」
「行くぞ、右、左、右」
ゆりはまあいいかと思い導かれるまま踊りだした。
ダンスといえば、過去の世界で男達と踊ったっきりだ。この時代にはそんな優雅なものははやってはいない。町のお祭りで一般庶民の
皆さんが踊るくらいだ。
「そら、ターンターンターン」
ゆりは左手を高く上げたままぐるぐる回らされた。
め・・・目が回る・・・・
「そら、右、左、右」
ゆりはカーライルに動かされるまま、部屋の空いた所で右に行ったり左に行ったりしていた。そしてぐるぐる回らされている。
教えてやると言うだけあって、カーライルの動きはさまになっている。ゆりはほとんど引っ張りまわされているだけだ。
「うーん、王妃と踊ってるというときめきがまるでないなあ。まるでどっかの農場の小娘を相手にしているようだ」
カーライルが踊りながら言った。
「誰が農場のー」
言いかけてゆりははっとした。ここで言い争いはまずい。
「やだわーうふふふふ」
ゆりは引きつった顔で笑った。
「楽しいだろ？ダンス」
「楽しい〜」
なんで私の方が気を遣わなきゃならないんだ！
ゆりは内心腑に落ちなかった。だが親切にダンスを教えてくれているんだからと我慢した。
「そら、ターンターンターン」
また回るんかーい！
次第にゆりの足はもつれてきていた。息も切れてきている。ダンスははたから見れば優雅なものだが、踊っている本人は優雅どころじゃない。
立派なスポーツだ、とゆりはたった今気づいた。一体いつまで踊ればいいのかも分からない。
「あの・・・水蛇様、私もう疲れた！」
ゆりは踊らされながら言った。
「もうか？そんな体力じゃ一曲踊れないぞ」
カーライルの方は涼しい表情をしている。
「足がもうだめー」
「しょうがないな。じゃあ最後の決め」
カーライルはゆりの身体を斜めにして支えた。
「片足を上にあげろ」
ゆりは言われるままあげた。
「もっとだ」
「こう？」
「もっともっと上にぴーんと」
ゆりは限界まであげた。もう足がつりそうだ。ぶるぶる震えている。
「あのーこれだけあげたらスカートの中丸見えなんじゃない？」
「かもな。ご苦労様。じゃあ次の授業は来月あたりに」
「もう結構です」
カーライルはにやりと笑った。そして次の瞬間、意識がエルバートに変わった。
「えっ？わっ」
「きゃっ！」
エルバートはゆりを見て驚き、ゆりの身体が下に落ちたのであわてて両手で抱きしめるようにしたが、支えきれずに２人とも
床にずべっと落ちてしまった。
「す、すいません、あのーカーライル様と一体何を？」
エルバートがゆりの身体を起こしながら聞いた。
「ダンスと称して遊ばれたー！」
ゆりはようやくその事に気づき、地団駄を踏んで悔しがったのだった。
「あー面白かった」
その夜、カーライルはハザークの部屋にやってきていた。ハザークを目の前に笑いながら酒を飲んでいる。
「あの王妃は確かに面白いな」
ハザークは無言だった。なんだか面白くなさそうな顔つきだ。
「なんだ？せっかく飲みに来たのに暗いぞ」
「別に、王妃と仲良くダンスを踊りまくったとは・・・さては王妃にほれたな？」
ハザークがそうに違いないとばかりに言った。
「私があの王妃に？心ときめく瞬間はこれっぽっちもなかったぞ」
カーライルは真顔で返した。
「手を握っても身体を密着させてもどきりともしなかった」
「本当か？ああ、振られたんだっけ」
その瞬間カーライルは酒を噴出しそうになった。
「あっちの王妃がお前に言ったのか？」
カーライルは侍女に渡されたタオルで口元を拭いた。
「いや、別で聞いた」
別とは赤い蛇の男、ミルキダスだった。ミルキダスが蛇目のゆりに聞いた事をハザークに行ったのだ。最近のお呼び出しでは肌から出た蛇が
言った言葉まですっかり流れていた。
「私はただ蛇紋が見たかっただけだ」
カーライルは苦い表情で言った。
「やっぱり振られたんじゃないか」
ハザークはちょっと笑っていた。
「お前こそ、私に王妃を取られまいと嘘ついたな」
「嘘・・・・なんかついたかな？」
ハザークは首をかしげた。
「すっとぼけおって・・・別にお前がほれている女を取る気はないが、私自身の姿だったら、絶対王妃もその気になったぞ。そう思うだろ？」
カーライルは酒をもってきた侍女に聞いていた。侍女は「さあ・・・」と愛想笑いを浮かべて首をかしげていた。
「まあいいじゃないか。振られたんだから」
「そこを強調するんじゃない」
「そうか、振られた腹いせにダンスしまくったのか」
「ち・が・う！お前な、そんな事ばかり言うなら、王妃にお前の秘密をばらすからな」
カーライルは意味ありげな視線を向けた。
「我の秘密？」
一瞬驚いたハザークだったが、次に首をかしげた。
「我に秘密なんてあったかな？」
「記憶を手繰れば秘密の一つや二つあるだろう」
「別に・・・」
「意地でも探してやる」
どうやら今はまだ秘密のひの字も見つかってないようだ。
「そんなものない。ムキになって探すな」
「あ、そうだ、お前の最初の女の話とか」
「なんでお前がそんな事知ってるんだ」
ハザークの目は真ん丸くなっていた。
「ふふーん、話してほしくなかったら、侍女を一人くれ」
「は？」
ハザークは口をぽかんと開けた。横にいた侍女は瞬いた。
「何言ってるんだ。だめだ！」
「いいじゃないか一人くらい」
「だ・め・だ！」
「ケチだな。じゃあ話すぞ。最初の女の事を」
ハザークに睨まれてもまったくカーライルは動じていない。さすがは同じ時代を生きた蛇だ。
「何でお前が知ってるんだ。というよりも他人のそんな事まで覚えてるんじゃない」
「私は記憶力がいいんだからしょうがない。あの頃はお前が誰と過ごすのか、皆興味津々でかなりの噂になったもんだ」
「何ー！？」
今になって明かされた驚愕の事実にハザークの顔は引きつっていた。
カーライルはいつの間にか席を立ち何気に侍女の肩をなでていた。
「触るな！」
「まあハザーク様ったら」
カーライルにペースを乱されたハザークがよっぽどおかしかったのか、侍女はほほほと笑っていた。
「もういい加減ハザークの側にいるのは飽きただろ？」
カーライルは今度は侍女の手を握っている。
「だから触るなって言ってるだろう」
「いいじゃないか減るもんでもなし」
「減る！」
「何が減るんだ？」
今夜ばかりはしばらくハザークの塔もにぎやかだった。
その頃王の寝室では、ゆりは昼間ダンスを踊りまくったせいでぐったりしていた。足はよれよれで今夜はいちゃいちゃどころではない。
その事をラクシュミに話すと、ラクシュミは「残念だな」と言ったものの「せっかくだからダンスを本格的に習ったらどうだ？」と付け加え、
その気がないのがバレバレだったためにゆりに睨まれたのだった。
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