「王様、私竪琴習うことになったんだよ」
ゆりは夜、ベッドにやってきたラクシュミに言った。
「竪琴？誰に習うんだ？」
「ハザーク様の侍女さんだよ」
「ハザークの？」
ラクシュミは驚いた。
「頼み込んで教えてもらうことになったの。」
あいつめ・・・なんでそんな余計な事するんだ・・・
ラクシュミは顔をしかめた。
「そのうちうまくなったら王様聞いてね」
「勘弁してくれ。竪琴は唯一の安らぎなんだぞ。下手なのは聞きたくない。」
ラクシュミはつい口を滑らせて言ってしまった。ゆりがラクシュミをじっとみた。
「今・・唯一って言った？」
「・・・そんな事言ったか？」
「言った。唯一の安らぎだって言った」
「・・・音楽では唯一だ。お前とアナスターシャだってもちろん私にとっては安らぎだ」
ラクシュミは言いなおしたものの、ゆりはむくれたままだった。
「ふんだ」
ゆりはラクシュミに背中を向けた。
「・・・そんなに怒らなくてもいいだろう。言葉のあやっていうやつじゃないか」
「・・・・」
ゆりは無言で背中を向けている。
ラクシュミはため息をついた。
「わかった。私が悪かった。お詫びに可愛がってやるからこい」
「・・・体でごまかそうとしてる」
「やなのか？」
「・・・」
「そうか。じゃあまあしょうがないな」
ラクシュミはあっさり引き下がった。ゆりは頬を膨らませてラクシュミを見た。ラクシュミは上を向いて寝ている。
「・・・」
「どうするんだ？」
ゆりはべたっと体を寄せた。
私って単純だな。こんな手に乗るなんて・・・・
「ねえ、王様、今日は朝までひっついてたいな・・・」
「ああ、いいぞ」
ゆりは抱かれた後、ラクシュミにひっついてそのまま眠った。肌を寄せ合っていると、とても安心する。
なんだかこうやってると安らぎを感じるなあ・・・幸せ・・・
ートーペタペタ・・・スキスキ
ん？
ゆりは何か聞いたような気がして首をかしげた。だけどそれっきり声は聞こえなかったので、ゆりはそのまま眠った。
第23話
その日は記念すべき、竪琴の授業一日目だった。午前中にハザークの侍女が一人やってきて、今日は竪琴の持ち方や、弦を
三本使うだけの右手だけで弾ける簡単な曲を教えてもらった。他人が弾いているところを見るととても優雅な物に見えるが、
実際に自分でやってみると、優雅どころではない。竪琴を固定するのがまず大変だった。
ゆりは午後も教えてもらった曲の練習をしていた。
うーんと・・・・どの弦だったかな？
弦が一杯あるので、なかなか覚えられない。弦三本だけの曲でも、大変だ。
アナスターシャがちょっと来ていたのだが、すぐ逃げるように去っていってしまった。
まあいいさ、まだ一回目だし、そのうちうまくなるよね。そのうちに。
ゆりは気楽に考えて弦をつまびいていたが、指がつってしまってそれで練習は終わった。
普段あんまり使わないからなあ・・・
そうこうしているとミカエルがやってきた。
「こんにちは、王妃、私最近戦ってないから、気いっぱいたまってますよ。あげますね」
「そうなの？じゃあもらっとこうかな」
ゆりはミカエルの左頬を見た。傷は前よりも薄くなっている。
ああよかった。目立たなくなって・・・
傷は男の勲章とは言うが、大好きなミカエルの顔にはやっぱり傷は残ってほしくない。
「じゃあそこに」
ゆりが長椅子を指差した。
「あっちは？」
「いいよ。そこで」
「つれないですねえ」
ミカエルは結構簡単に引き下がり、ゆりは長椅子でミカエルにくっついていた。ミカエルはゆりの髪をなでている。
そうか、今日から三日月だから、それでミカエルもそんなにその気ないのか・・・なるほど・・・
ってことは、王様もしばらくその気ないのね・・・
「竪琴ですね。どうしたんですか？」
ミカエルは壁際の机の上にある竪琴に目を留めた。
「今日から習うことにしたの。」
「誰に習うんですか？」
「ハザーク様の侍女だよ」
そういうと、ミカエルはえっ？という顔をした。
「ハザーク様の侍女ってみんな優しくて親切だよね」
「王妃はすごいですね。我々は中々ハザーク様にお目にかかるのも気兼ねしてしまうのですが」
「ハザーク様は口悪いけど、案外親切だと思うけど」
「はあ・・・」
王妃は一族の者ではないから気楽に会いにいけるのかもしれないな、とミカエルは思った。
ハザークに対して、一族の者たちは皆恐れ敬っているのだが、その気持ちが強すぎて、とても気軽に会いにいったりはできない。
同じ金色の輝く瞳を持つラクシュミに対する気持ちとはまた別なのだ。
長い長い時を生きて、一族の隆盛も衰退も、ハザークはその目で見てきた。
皆、ハザークに申し訳ないような気持ちさえ感じていた。
「王様の侍女もハザーク様の侍女みたいだったらいいのに・・・」
ゆりはぶつぶつ言っていた。
「まあ、ハザーク様の侍女は、蛇ですからね。」
「蛇でも人でも関係ないよ。」
「まあまあ」
ートーペタペタ・・
「ん？」
「なんですか？」
ミカエルが首をかしげた。
ートーペタペタ・・・アンシン・・・
「もしかして赤ちゃんが何か言ってる。トーペタペタって」
「トーペタペタ？」
ーペタペタ・・・シテ・・・マー
「え・・・・」
「今度はなんですか？」
「ペタペタしてって要求された」
「じゃあペタペタしましょう」
とミカエル。
「ミカエルはトーじゃないじゃん」
「今は私がトーかもしれないじゃないですか。気あげてるから」
「えー？」
「姫の時も結構間違えてたし、べたべたしましょう」
「べたべたじゃなくて、ぺたぺただよ」
「どっちでも一緒ですよ」
ミカエルはゆりと別室に移動した。
「裸でぺたぺた？」
「服着てていいよ。とりあえず」
ミカエルはゆりをぎゅっと抱きしめた。
ー・・・・アンシン・・・
「なんか、安心して眠ったみたい・・・」
「そうですか」
「・・・私もなんか眠い」
「いいですよ。寝ても、」
「うん・・・」
ゆりは寝転んでミカエルにぎゅっと抱きしめられた。そうこうしていると、本当に眠くなってきた。
はっと気づいたゆりは、白い、ぼんやりした空間にいた。腕に小さな赤ん坊を抱いてたのでぎょっとした。
「え？」
赤ん坊は本当に小さくて、裸だった。ちょっとだけ銀色の髪がついていて、目はきらきらしてる。
股にちょんと男のしるしがあった。
「もしかして、シス？やだー本当に男の子なんだ、かわいい！」
ゆりは赤ん坊にほおずりした。
ーマー・・・きゃはは
赤ん坊はうれしそうに笑っている。声は脳裏に直接響いてくるような感じだった。
「かわいい、かわいい」
ゆりは目頭が熱くなった。
「うれしいなあ。あんた大人になったら王様みたいになるのかなあ」
ーマー・・・マー・・・
「マーですよ。」
ートー・・・
ぱっと目の前にミカエルが現れた。
あら、この子本当にミカエルがトーだと思ってるのかな。
ートー・・・トー・・
すると、ミカエルの横にぱっとラクシュミの姿が現れた。ゆりはそれでほっとしたが、男はどんどん増えていき、
ヴィラやフリット、ジュノー、ミルキダス、イシュタールまで現れてゆりはぎょっとした。
ートーイッパイ・・・
「・・・・」
この子の中ではみんな父様になってる？
ゆりは愕然とした。
「シス、ほら、この人がトーよ。他の人は違うのよ」
ゆりはラクシュミのところまで歩いていき、言った。男たちはみな、人形のように動かなかった。
赤ん坊はラクシュミを見て、ゆりを見た。なんだか不思議そうな目をしている。
ートーイッパイ
「違うの。トーはこの人」
ーナンデ？
「なんでって・・・」
ゆりはその時はっとした。もしラクシュミだけが父親だったら、父親以外とひっついてるのはなぜだ、と赤ん坊が思ってしまう
かもしれない。
その方がまずいかも・・・
「トー一杯。みんなトーだね。トー一杯でよかったね」
ゆりがそういいなおすと、赤ん坊はにっこり笑った。
ーネーネー
赤ん坊がそういうと、目の前にぱっとアナスターシャの幻影が現れた。アナスターシャはにっこり微笑んでいる。
「あら、賢いわね。もうアナスターシャが姉様だって知ってるんだ」
アナスターシャはぱっと消えた。
ーマー・・・マー・・・
赤ん坊はゆりを見ずに言った。
「マーはここいるでしょ？」
ーマー・・・マー・・・
ゆりは目の前に突然自分がぱっと現れて驚いた。顔は自分と同じだが、左の目の眼球が違っていた。黄色で、中に黒い丸がある。
「え？だれ？」
赤ん坊がそっちに手を出したので、そっちの自分は赤ん坊を抱きしめて、赤ん坊の顔に一杯キスした。
赤ん坊はとってもうれしそうに笑っている。
ゆりはじーっとその女を見ていた。左目以外は、全く自分と同じようだ。
そっちの自分はシスをゆりに戻した。そして手を振って「じゃあね」と言って消えた。
「？」
だれなんだろう・・・・誰って、自分だけど・・・
なんだか・・・よく知ってる気もするなあ・・・
ゆりが目を覚ますと、横にミカエルがいた。ミカエルはゆりが動いたので目を開けた。どうやら一緒に眠っていたようだ。
「なんだかいい夢が見れましたよ」
ミカエルが微笑んで言った。
「どんな夢？」
「ふふふ・・・」
なんだか怪しい笑いだったので、ゆりはそれ以上聞かなかった。
ゆりはその夜、ラクシュミに夢の事を話した。
ラクシュミは「ほう」とだけ言った。自分に似た女の事は言ってない。
「この子えらく勘違いしてるけどいいの？」
ゆりが聞くと、
「産まれてしばらくすれば、アナスターシャのように理解するだろ」
とラクシュミは言った。
それって父親としてさびしくないのかなあ、そうゆりは思ったが、どうもラクシュミは今日は機嫌がよくなさそうだったので、
言わなかった。
まあ、父親が一杯いてもそう弊害はないだろう。そう思っていたゆりだったが、
次の日、庭園にいたゆりがフリットに会い、話をしていると、
ートーペタペタ
またもや子供がなにやら言い出してゆりはぎょっとした。
「どうしたんですか？」
フリットが微笑んで聞いた。
ートー・・・ペタペタ、ダッコ
「・・・この子が、フリットにだっこされたいって」
ゆりは自分のおなかをなでて言った。
「え？どうやってだっこするんですか？」
「そりゃあ・・・その・・・私ごとだっこされないとだっこできないかも」
ゆりがちょっと引きつった顔で言う。
「私はいいですよ。部屋に行きましょうか」
「うん」
ゆりは侍女を部屋から出して、フリットに抱き上げられた。そして優しくゆらされた。
うーん・・・私としては、なんか微妙なんだけど・・・
でも子供は喜んでるみたいだけどなあ。
フリットは子守唄まで歌っていた。
「ありがとう、フリット、なんだか子供すごく喜んだ」
「そうですか」
ゆりは下ろしてもらった。
「アナスターシャの時はそんなことなかったんだけど、最近やたら話しかけてくるの。この子」
「そうですか。成長された証拠ですね」
「そうかなあ・・・」
アナスターシャの時はそんなこと言われなかったけどな。子供によって個性があるのかな。
そう思ったもののペタペタ要求は止まらなかった。ユリウスといる時はさすがになかったが、
一人でいる時もトーペタペタといってくる。仕方なく誰かを捕まえて抱きしめてもらったりするのだが、
ゆり自身なんだか困り果ててしまった。
そしてついに「昼間はペタペタできないの！」とゆりが怒ってしまった。すると、子供がわんわん泣き出して、
ゆりはその時城にいたヴィラを呼んで抱きしめてもらったのだった。
年が明けて、朝、竪琴の授業があり、午後、一人で練習をしていたら、また子供がなにやら言い出した。
ーソト、ソト
どうやら外に出たがってるようだ、とゆりは思い、庭園に出た。
ーソト、ソト、
「ここ外よ。外」
ーモットソト
「えーもっとっていわれても・・・」
困ったなあ・・・
そう思っていると、ゆりの左目がぱっと変わった。
ーマー、チャンポ、チャンポ
「はいはい、ちょっと待ってね」
ゆりは王の間まで移動して、ラクシュミの許可をもらって結界の外にでた。
戦士たちとあちこち景色のいいところをめぐっているうちに赤ん坊は眠り、ゆりは結界の中に戻ってきた。
そしゆりはまた王の間に移動した。
「ねえ王様、そろそろあっち使ってもいいかな」
ゆりはラクシュミにそう聞いた。
「・・・・」
ラクシュミは無言だった。こっちのゆりはラクシュミに怒られて以来別室はまだ使っていなかった。
「私は別にいいけど、子供が要求してくるものだからあっちが参ってるよ？」
「あっちが参る？」
「昼間も父様にだっこしてもらいたがってるの。父様の肌に引っ付いてると安心するみたい。愛されてるって感じて。だから
私が父様たちとひっつきたいんだけどなあ」
「父様たちって、儀式の男たちのことか？」
「そうよ。みんな父様だと思ってるみたい。みんなに愛されたいんだって」
「そうか・・・前のようにならないようにしろよ」
「はーい」
それからペタペタ要求はぴたっとなくなった。
あーよかった。一時はどうなる事かと思ったよ・・・
まさかもう一人の自分が男たちとぺたぺたしてるせいだと、露知らず、黒目のゆりはほっと胸をなでおろしていた。
相変わらず、もう一人が出ている時は、こちらの記憶はなく、適当に記憶をつなぎ合わせていたのだが、微妙に
変化が起きていた。
ゆりは夢の中で、時折左目が違う自分とあっていた。別に会話を交わすでもなく、何をするでもなく、
ただ一緒に座っているだけだった。ゆりは別にいやでもなかったので、そうしていた。
こちらがにこりと微笑むと、向こうもにこりと微笑んだ。
しばらくはそんな感じだったのだが、2の月に入ったころ、向こうが話しかけてきた。
「もうすぐ３の月ね」
にこりと笑っていった。
「そうね」
ゆりが答えた。
「楽しみね」
「うん。そうだね」
二人はニコニコ微笑んだ。
その後はほのぼのした空気が漂った。
夢の中で違う自分に出会う。心理学的に何か説明がつくのかもしれないと思ったが、ゆりは誰にも言わず、胸の中にしまっておいた。
どうやら向こうの自分も、一番愛しい人は、あの時の王様らしい。
ゆりはそう感じた。
「あの声がいいよね」
ゆりが言ってみると、向こうはうんとうなずいた。
やっぱり思うことは一緒なんだ。
もうすぐかあ・・・楽しみだな・・・
7回目の逢瀬の時が近づこうとしていたが、2の月の10日ごろ、ヴィラと部屋にいて気をもらっていたゆりは急にもやもやした
気分になってしまった。
「儀式ですか？」
ヴィラがうれしそうに言った。
「ううん。気のせい」
そういいながらもゆりの手はべたべたヴィラの胸に触れていたので、もうごまかせなかった。
「やりましょうよ。儀式」
「３の月が近いのにーやりたくないなあ」
「３の月に入ってするよりいいじゃないですか」
「まあそうだけど・・・ちぇ」
「今日は私から触れさせてくださいよ」
「んー・・・さあね」
「・・・そういうこというといじめますよ？」
ヴィラがむっとして言う。
「みんな忙しいんじゃないかな？」
「大丈夫ですよ。みんなきますよ」
「なんだか・・・みんな楽しみにしてるから腹立つ」
「だって楽しいもん」
ゆりがむっとした。
「さあ、浴室にお運びしましょうか？王妃」
「ちぇ・・・」
ああ、すごい女蛇が降りてこないかなあ・・・それで、男たちをぎゃふんといわせたいもんだ。
ミカエルやヴィラは一度痛い目にあわせてやりたいなあ・・・ミルキダスは可愛いからいいけど。
浴室で体を洗って、そんな事を考えながら部屋に戻ると、やっぱりみんないた。
「みんな急がしいのにご苦労さんだね」
ゆりがいやみっぽく言うと、ミカエルが微笑んで言った。
「こっちの方が重要ですよ。若君のためですから。でももちろん王妃の事は愛してますよ」
「今日は私からですよ。王妃」
ヴィラが言った。
「まあいいけど」
ゆりはベッドの上でヴィラに抱きしめられた。
「みんな向こうむいててくれないかな。完全にだれかおりるまで」
ゆりがそういうと、男たちは違う方をむいた。
やれやれ・・・
「愛してますよ。王妃」
ヴィラがそういってゆりに口付けた。しばらくキスしているとゆりの気が、ピンクに変わってきた。
ヴィラがゆりの服を脱がそうとした時、ゆりは謎の言葉を吐いて、部屋の中に蛇霊神が一匹入ってきた。
男たちがえっとゆりを見た。ヴィラもぎょっとしている。蛇霊神は、ゆりの周りを回って、すっとゆりの中に入った。
「え・・・もう終わり？」
ヴィラがぽかんとして言った。他の男たちもぽかんとしている。
「えらい早く蛇きましたね」
ジュノーが言った。
「まだ何もしてないのに・・・」
とヴィラ。
ゆりはにっと笑ってヴィラの下からどいた。顔つきは、普段のゆりよりもきつめになっている。誰かいるのは間違いなかった。
ゆりはきょろきょろと男達を見た。
「あんまり力ある人いないね」
ゆりが言った。
「すいませんね。今の時代は、これで精一杯なんですよ」
ヴィラが言った。
「ふうん。まあいいや。ねえ、この中で一番お酒の強い人だあれ？」
「さあ・・・だれでしょう・・・」
「私」
ミカエルが言った。
「６人で飲み比べたことはないからなあ・・・」
フリットが言う。
「私ですよ。私」
とミカエル。
「じゃんじゃんお酒運んでもらって。私、お酒に強い男大好きなの」
ゆりはヴィラの首に腕をからめて、ぎらぎらした瞳で言った。
やがて、大量の酒がゆりの部屋に運ばれてきて、男たちはそれを寝室の方へともっていった。一箱12本いりの酒が30箱は
運び込まれた。酒に強い男たちが6人もいれば、それくらいはどうってことはない量だった。ゆりは一本をヴィラに渡した。
「じゃあまず一本飲んで、みんなも自由に飲んでてね」
ヴィラは瓶ごと酒を一本飲んだ。裸になったゆりは自分の体に酒を注いだ。肌に紫色の液体が注がれる。
「じゃあこれも飲んで」
ヴィラはゆりの肌に口をつけて、酒をなめとっていった。男達は酒を飲みながら、それを見ている。
ヴィラはゆりの肌からなんともいえないいいにおいが漂ってくるのを感じた。酒の匂いとゆりの肌の匂いが混じり、官能的で
魅惑的な匂いに変わっている。
二人は口付け、肌を寄せて離れたのだが、離れた時ヴィラは首をかしげた。
そんなに酒は飲んでいないのに、なんだか大量に飲んだ気分になったからだった。
「次はイシュタール来て」
ゆりはイシュタールを呼んで、また自分の肌にお酒を注いだ。
こうして６人と同じことをすると、ゆりは男達に酒を飲ませて、一人一人と互いの体を愛撫しあった。ゆりの肌も、男たちの
肌も紫色に染まり、ゆりの体からはあやしげな淫気が漂っていた。
「まだ飲んで、一杯」
男の体を愛撫しながらも、ゆりは男達にお酒を飲ませている。
「愛して。もっと・・・・」
「愛してますよ。王妃・・・」
「愛してます・・・」
淫気と酒気に当てられた男たちは、皆変化していた。ゆりは男達の肌にも酒を注いだ。
やがてゆりがまた謎の言葉を吐いた。そして3匹の蛇霊神が現れて、ゆりの周りを回り、ゆりの中に入った。
「まだよ。まだまだ」
ゆりはミカエルの腕を引いて口付けた。
シーツの上はすっかり紫色に染まり、部屋中に酒の匂いが充満していた。男たちは変化しながらも目はうつろになっていた。
ゆりはほとんど自分は酒を飲まずに、男たちに飲ませまくっていた。
やがて、ミルキダスがシーツの上にばたりと倒れた。ジュノーにヴィラが続いて倒れて、フリットが倒れた。
ミカエルとイシュタールが残ってがんばっていたが、変化はとけていたものの、体は揺れていた。
「どっちが先かしら？」
ゆりが楽しそうに聞いて二人の腕を引いた。
「王妃・・・」
イシュタールが倒れるようにゆりを抱きしめた。ミカエルはもうそういう元気はなかった。頭がふらふらになっていたのだ。
「ねえ、王様呼んで」
「・・・・」
王の間にいたラクシュミがこの部屋に来た時、あまりの状況にあっけにとられた。床にはおびただしい酒瓶がころがり、
男たちは裸のまま皆ぐでんとなっている。部屋にはものすごい匂いが漂っていた。
「ゆり、大丈夫か？」
ベッドの上に、ゆりは裸のまま座っていた。
「お風呂つれていって。王様」
「ああ」
ラクシュミはゆりを抱き上げて瞬間移動した。ラクシュミは肩にかけてあった王のマントをはずして、ゆりを浴室に入れて
体にお湯をかけてやった。ゆりはへたりこんだままひどくぼんやりしている。
「大丈夫か？ゆり、」
ラクシュミがゆりの体を揺り動かすと、ゆりはラクシュミを見上げた。
「抱いて、王様」
「ゆり・・・」
ゆりはラクシュミに抱きついた。
「ここで抱いて」
「・・・わかった」
ラクシュミは、ゆりをひざに乗せて抱いた。口付けながら抱いていると、ゆりがあえぎ声を出した。
「あ・・・ああ・・・tririrrrrrrrrorspss」
声は途中から不思議な音へと変わって行った。
「rsososooiijijjjisjisss！」
浴室にぬっと蛇霊神が入ってきてラクシュミは驚いた。ゆりはまだラクシュミにしがみついている。蛇霊神は３匹いた。
「dkskkskskkksskssss」
蛇たちは二人の周りを周り、ゆりの肌に顔をこすり付けるようにして、ゆりの中に3匹とも入って行った。
ゆりはがくりと意識をなくした。
ラクシュミは、ゆりを抱きしめたまま、しばらく呆然としていた。
朝、ゆりが目覚めた時には、また髪は伸びていた。
なんだか壮絶だったような気がする・・・
いつもように罪悪感も自己嫌悪の気持ちはなかった。たとえるなら官能的な映画を見た気分に似ていた。
ラクシュミの手がゆりの髪をなでた。
「蛇何匹きたのかな？」
「さあな、男たちは皆意識不明になってるぞ。よっぱらって」
「えーそうなの？」
「一族の男が酒で前後不覚になるなんて、初めて聞いたぞ」
「そうなんだ・・・」
これはヴィラやミカエルも参ったに違いない・・・
ゆりはひそかにそう思った。
一方、6人共城の救護室に運び込まれていた。朝、一番最初に気づいたのはフリットだったが、フリットは頭が痛くて起き上がれ
なかった
「大丈夫ですか？一体どれだけ飲んだんです？」
白い服を着た若い看護婦がやって来て聞いた。
「さあ・・うう・・・」
そんなに飲んだ記憶はなかったのだが、なぜこんなになったのかわからない。
なんだかすごかった・・・
肌からも酒を吸い取った気分だ・・・
「びっくりですよ。一族の男がこんなになるなんて、大珍事ですよ。これどうぞ」
看護婦はフリットにコップに入れた薬湯を渡した。フリットは顔を少し動かしてそれを飲んだ。
「に・・・にがい・・・」
「しょうがないですよ」
「うう・・・」
他のみんなも、目を覚ましだした。
「頭が・・・」
「目が回る・・・」
「うう・・・最後は私だったな？」
頭を押さえながら言ったのはミカエルだった。イシュタールは目を覚ましたものの、無言だった。顔は青くなっている。
「これじゃあ皆さん今日はお仕事無理ですね」
看護婦はそれぞれに薬湯を運んだ。
「無理です。おやすみなさい」
ヴィラは薬湯を飲んで寝た。
「右に同じ」
ジュノーも寝た。
「・・・・すいません。将軍」
ミルキダスはぼそっと言って目を閉じた。フリットとイシュタールは無言で布団をかぶり、
「ああ、これが噂に聞いた二日酔いというやつか・・・初めて経験した・・・素晴らしい」
ミカエルは一人初めての二日酔いに感動していた。
おしまい
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