第24話
酒飲み儀式から５日ほど経過したある日、大蛇とバラクをしていたゆりの元にヴィラがやってきた。
ゆりの前には緑色がくすんだような色の大蛇がいて、ゆりの相手をしていた。
「あー、ヴィラ、元気だった？」
ゆりは笑顔を向けた。
「元気でしたよ。」
ヴィラはテーブルの方のいすに座ってゲーム盤を見た。
「まだ蛇とやってたんですか」
「だって、人相手じゃ勝てないんだもん。はい、これで勝ったー」
相手の王の駒を取り、ゆりはうれしそうに言った。
普通は子供しか大蛇としないんだけどなーとヴィラは思ったのだが、もちろんゆりには言ってない。
「はい、ごほうび」
ゆりはテーブルにおいてあった皿に乗っている肉を差し出した。蛇はばくりとそれを食べて、そのままするすると椅子を降りて、
行った。侍女が扉を開けるとそのまま出て行った。といっても結構でかいので顔が出てもまだ胴体は部屋の中に残ってる。
蛇の胴体が全部なくなると、侍女が出て行った。
「ねえ、ぎゃふんとなった？」
ゆりはヴィラを見て聞いた。最初のころは、儀式の後はみんなに会うのが恥ずかしかったが、こう何度もしてしまうと、もう
開き直っている。といっても誰でもってわけでなく、会うのが恥ずかしい相手もいる。ヴィラはラクシュミの次に触れられた
仲なので、今では結構平気だった。
「ぎゃふん？」
「あの儀式でさ」
「ぎゃふんなんて言うわけないですよ」
ヴィラは冷たく言った。
「でも参ったくせに・・・」
「まあ、参ったことは参ったですよ。」
「誰かもう儀式はいやだって人いるんじゃない？」
「それはいないですよ。結構楽しかったですよ。」
「なんだ。むかつくなー」
ゆりはむっとした顔で言った。参りました。もう勘弁してください。というセリフを誰かに言ってもらいたいものだ。
「でも、どういう女が降りてきても、あなたはやらせないですねー最後まで」
「あっかんべー」
ゆりは舌を出した。
実際降りてくる女蛇は男に抱かれたがってるのだが、ゆりの意識がそれを押さえてるため、そうはなってない。
それでも女蛇も、結構男達に愛撫されて楽しんではいるようだ。だから蛇を呼んでくれるのだろう。
実際問題として・・・あんな６人もの男とやりまくったら・・・体壊れるっての・・・
倫理上の問題だけではなく、体の問題もある。まさかあの状況で一人や二人とだけやるってわけにもいかないだろうし、
いくら次の日は体が元に戻るといっても、一度抱かれるともう元の仲には戻れない。それもいやだ。
だから誰ともやらない方がいいのだ。
「私の体は王様のものだもん」
「まあ、あなたはいろいろしてくださるから、いいですけどね。とっても気持ちいいし。ミカエル殿は、あれも
私が教えたと思ってるみたいですけど」
「やめてよー訂正しておいてよー」
「いやー、訂正するってのも・・・変だし・・・」
ゆりがむくれていると扉がノックされた。出ると、イシュタールがいた。
「どうぞ」
イシュタールは部屋の中を見て、ヴィラに目をとめた。
「ヴィラがいたんですか。じゃあ邪魔かな」
「いいよ。もうヴィラ行くから」
ゆりがあっさり言うと、ヴィラがにらんだ。
「そういうことばっかり言ってると、今度いじめますからね」
ゆりがべーと舌を出した。
「まあいいですよ。イシュタール殿に子供ができるように、たっぷり興奮させてあげてください」
ヴィラはそういって出て行った。
「え・・・・」
「・・・」
二人残された部屋には気まずい雰囲気が漂った。
「王妃は儀式のあと、大丈夫でしたか？」
イシュタールが聞いた。顔を見ると、もう全く普通の表情をしている。さすが大人の男だとゆりは感心した。
「私はそんなに酒飲んでないから、大丈夫だったよ」
「そうですか」
「イシュタールはどうだった？」
「次の日は大変でしたが、夕方には元に戻りました」
「そう・・・」
ゆりは頬をかいた。なにやら儀式の事をいろいろ思い出したら恥ずかしくなってきたのだ。
「向こうでだっこしてもいいですか？」
イシュタールが言った。
「だっこ？」
「若君ごとだっこ」
「うん」
別室の方でイシュタールはベッドに座り、ゆりはひざに乗せられて抱きしめられた。
最近はイシュタールもそう「お気に入り」の言葉を言うこともなく、ミカエルと張り合ってもいないようだ。
ートーナデナデ・・・
久しぶりに子供の声が聞こえてきた。
「なでなでしてほしいって、赤ちゃんが」
「そうですか」
イシュタールはゆりのおなかをなでた。
ーチューシテ
「・・・ちゅーしてって言ってる」
「ちゅー？」
ーチュー・・・チュー・・・
「私とチューしてほしいみたい」
「いいですよ」
イシュタールはゆりに軽くキスした。
ーナカヨシコヨシ・・・グー
「なんか寝ちゃった」
「面白いですね。若君は」
「そうかな・・・」
イシュタールがゆりの頬をなでた。
「もっとぺたぺたしていいです？」
「え？」
あれ？イシュタールにぺたぺたのこといったっけ？
瞳はじーとゆりの目を見ている。ゆりは瞬いた。
「・・・・ぺたぺた？」
「ぺたぺた。じかに」
イシュタールが微笑んでいった。
「じかに？」
「やですか？」
「やじゃないよ」
ゆりは前に強引にその気にさせたせいか、まだイシュタールには弱かった。といっても毎回裸になってもいなかったので、
今日は久しぶりだった。
「それでは」
イシュタールはゆりの体をベッドの上に乗せた。
そのころ、南の街の警備についていたジュノーは、街の見回りをした後、休憩場にいた。一人いたところに、ナザニエル将軍が
やってきた。
「やあジュノー」
「こんにちは。将軍」
ジュノーは姿勢を正して言った。
ナザニエルはヴィクターやロナウドと同期で、年もそう変わらない。ジュノーの父親ほどの年齢だ。戦士たちにとっては頼りになる父親的存在である。
前髪はオールバックで後ろに垂らし、髪は肩にかかる程度の長さだった。薄い紫色のマントには銀色の大きな蛇の刺繍がしてある。
目も髪も薄い紫色だ。目尻は少し下がっていた。
「この前はえらい楽しかったらしいな」
ナザニエルがジュノーに近づいて言った。
「この前といいますと？」
ジュノーはちょっとびくついて聞いた。
「儀式だよ。なんだかえらく楽しそうでいいなあ」
ナザニエルがうらやましそうに言った。目尻が下がっている。
この前の儀式のあと、6人共寝込んで仕事を休んだために、すっかり噂は広まっていた。下級戦士たちもえらくうらやましがって、
ジュノーらはちょっと困っていたのだ。
「何かみんな誤解してるようですが、そんなに楽しくなかったですよ」
ジュノーが笑みを浮かべて言った。だが、ちょっとひきつっている。
「嘘つけ、楽しかったくせに」
「いいえ、誤解ですって」
「私も一度へべれけになってみたいな。」
「酒一杯飲んでなってください」
ジュノーが言うと、ナザニエルははーと息をはいて椅子に座った。
「私らの時はなんというか、儀式といっても悲壮感が漂っていたのに、いいな。お前らは楽しそうで」
「ですから、楽しくなかったですって」
「じゃあ次は変われ。」
「いやあ、そういうわけにも・・・それに何か勘違いされてますよ。我々は、儀式といっても、王妃を抱かないんですからね」
「そうなのか？じゃあ何するんだ？」
ナザニエルは興味深げにジュノーを見た。４人の将軍たちは皆前王妃の儀式に参加していた。その時前王妃と交わっている。
「いっつも、王妃に愛してると言い続けるだけですよ。それぞれが手つなぐだけです。この前は、酒を飲みながら王妃に愛し
てると言い続けました。そんなもんなんですよ。」
6人は口裏を合わせて、儀式というものはこういうもんだ、と聞かれたら言うようにしていた。
「・・・どうもあやしいな・・・」
ナザニエルは横目でジュノーを見た。
「本当ですって」
「でもなんか楽しそうだな。私も王妃の恋人になろうかな・・・」
「勘弁してくださいよ。将軍と張り合うのはいやです」
「だって楽しそうだしな・・・」
「ですからそんなに楽しくは・・・・」
やりとりは延々と続いた。
北の砦の方でも、儀式の話題になろうとしたら、ミルキダスはさっさと逃げていたのだが、ヴィクター将軍にとっ捕まった
ミカエルは、ジュノーとナザニエルのように同じ様な会話を繰り返していたのだった。
「ほとほと参りましたよ。将軍たちには・・・」
王の間で、ミカエルが頭をかいてラクシュミに言った。
ラクシュミは笑っている。
「仕方ないだろう。酒が絡んでたとなると、みんな目の色が変わる」
儀式だけならともかく、儀式に酒がからんだ、しかもみんな酔っ払ったとなると、普段前後不覚になるまで酔っ払わない男達には、
非常に魅力的に見えてしまうのだった。だからみんな経験してみたいのだ。
「そんなにすごい酒の量でもなかったのに、なんで酔ったんだ？」
「はあ・・・王妃の淫気と酒の匂いがまじって、なんだか匂いかいだだけでもくらくらしてきましたよ。」
「・・・まあ他の者にすれば、楽しそうに見えるんだろう。実際楽しいんだろ？」
「楽しいですよ」
ときっぱり。
「また降りてこないかな。酒好き蛇様」
ミカエルはぎゃふんというどころか、かなり気に入っていた。
あきれたラクシュミだったが、実際目の前で蛇霊神を見た時は、自分でもかなり驚いたのだった。しかも蛇霊神は
ゆりの淫気でよっぱらったような顔をして、くるくる回っていた。
ゆりの中には誰かがいたのだろうが、ラクシュミはよくわからなかった。意識はゆり自身のような気もしていた。
といっても、ゆりがあんな呪文のような声を発することができるはずはないので、ラクシュミと抱かれている時のゆりは、
完全に女蛇の意識を押さえ込んでいたのかもしれない。
儀式のたびにすごくなってるのかもしれない・・・
そうラクシュミは感じていた。実はゆりの体にも、あれからちょっとした変化が起こっていたのだった。
２の月の最後の日、ゆりの部屋をミカエルが訪れた。黒い戦士服にマントもつけている。
「元気でしたか？王妃」
「元気だったよ。すごく」
ミカエルは、ゆりと一緒にいたミラに目を向けた。ミラは「私はこれで」とさっさと出て行った。
「気あげましょうか？」
「気？昨日ユリウスからもらったけど、まあもらおうかな」
「竪琴少しはなれました？」
ミカエルは、机の上にある竪琴に目をとめて聞いた。
「あんまり」
ゆりはハザークの侍女に教えてもらい、ちょこちょこ練習していたが、あんまり上達してなかった。どうも不器用らしいと、ゆりは
生まれて初めて思っていた。
「音楽って胎教にいいと思ったけど、下手だから胎教に悪いかも」
「そんなことないですよ。ウルサイって言わないんでしょ？」
「そこまで言われたらショックだよ」
ゆりはむっとして長椅子に座った。
赤ん坊にウルサイとまで言われたら、さすがに立ち直れない。
「王妃、向こうでぺたぺたしましょうよ」
ミカエルは突っ立ったまま言った。
「この前の酒飲み合戦私が勝ったんだから、なんかご褒美ください」
「酒飲み合戦って・・・」
いつの間にそんなんになったんだ・・・とゆりの顔は引きつった。
「二人っきりでしましょう。裸でぺたぺたにべたべた」
「何言ってるのよ。もうすぐ交わりの月だから、精力残しとかないとだめじゃない」
ゆりが真顔で言う。
「大丈夫ですよ。今回は１０日からですから、まだだいぶあるし、王妃に性欲を高めてもらったら、ちょうどよく興奮して
交わりの月を過ごせるんです。」
「知らないわよ。そんなの。なんで私がミカエルのためにそんな・・・」
「なぜって私が王妃の一番のお気に入りで一番好きな男だから」
ミカエルにきっぱり言われてゆりの顔が引きつった。
「イシュタールの方が好きだって言うんですか？」
ミカエルが少し身をかがめジーと見つめた。笑っていたが、目つきがなんだか怖かった。
「・・・別に、私はどっちも好きだよ。同率一位ってくらい・・・」
「イシュタールこの前来たでしょ」
「え？この前って？」
「儀式終わってきたでしょ？」
「来たよ。一緒にバラクした」
「・・・イシュタールはバラク苦手なんですよ」
ミカエルが微笑んで言った。
「でもしたよ」
ゆりの背中を冷や汗が流れていた。
「ぺたぺたしましょう。王妃」
ミカエルはゆりを強引に抱き上げて移動した。
ぎゃあと悲鳴を上げて抵抗するのもばからしいので、ゆりは結局ミカエルのなすがままだった。
誘われるのもまんざら嫌ではない、という気持ちも、どこかにあるのだろう。
ゆりは裸にされてミカエルにキスされながら肌に触れられているだけで、なんだかその気になってしまった。
「前よりも、感度がよくなってますね」
ミカエルが言った。
「え・・・やだ・・・そんなの・・・」
「可愛いからだですよ。今日も可愛い蛇を見せてくださいね」
「うう・・・」
ミカエルにいろいろされてる内に、ゆりの左横腹あたりに、小さい金色の蛇が現れた。
「かわいいですねえ」
ミカエルはその蛇をなでて、ゆりの胸にキスした。
「あ・・・」
ミカエルは少し首をかしげた。ゆりの肌の匂いが変わったからだった。いつもラクシュミと同じ匂いを発してはいたのだが、
急に匂いが変わった。儀式の時の、淫気があふれた時のゆりの匂いに似ていた。この匂いをかぐと、心が騒いでどうしようも
なくなってしまう。
「いい匂いですね。かぐわしい・・・」
「え・・・」
「とてもいいにおいですよ。あなたの肌から・・・前は儀式以外ではこんな匂いにならなかったのに・・・」
「そういえば・・・王様にも言われた。この前イシュタールにも・・」
ゆりは口を滑らせてはっとした。ミカエルの表情はがらりと変わっていた。
「イシュタールにも？」
「え？そんなこと言った？」
「嘘尽き。バラクしただけだって言ったのに」
ミカエルはゆりの上に乗ったままで、顔を寄せて言った。
「違うよ。バラクしてたら、すごくむらむらしたんだよ。それで・・・匂ったって」
「そうなんですか・・・」
「うん」
ゆりはうなずいたものの、我ながら怪しい説明だと思わざるを得なかった。
「ミカエルって、そういう顔も素敵だね」
ゆりはヨイショしてみたが、ミカエルの目つきは冷ややかなままだった。
「ごめんなさい。実は、イシュタールとぺたぺたしました」
ゆりは白状した。
「最初からそういえばいいのに」
「言ったらどうなるの？笑ってそうですかって言うわけ？」
「言わないですよ。イシュタール以上にぺたぺたします」
「えー。それじゃ言っても言わなくても一緒じゃん」
「まあそうですけど、私は素直の王妃が好きなんですよ。嘘なんてつかないでください」
「別に嫌いになってくれても・・」
ゆりがぼそっというと、ミカエルがにらんだ。
「今何か？」
「ミカエルが最高にいいっていった」
「そうでしょう。夕食の時間までかわいがってあげますね」
「・・・うれしいな・・・興奮しすぎて夜眠れないかも・・・」
「なんなら忍んで行っても」
「お願いだからそれだけは勘弁してください」
ゆりは涙目で言った。
ミカエルがゆりから離れた時には、すっかり妖しい匂いがミカエルの肌にもまとわりついていた。
廊下ですれ違った男がみんなじーっと自分を見るので、ミカエルはこれはまずいと屋敷に帰り、早々と風呂に入ったのだった。
その夜、ゆりはラクシュミにぴったりくっついてみたのだが、「来月のあれまで我慢してくれ」と優しく言われて
ゆりは仕方なく、離れて目を閉じたのだが、やっぱりなかなか眠れずに、ミカエルのばかと心の内でいい続けていたのだった。
おしまい
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